正則関数

同義語:複素解析関数holomorphic function

概要

正則関数(holomorphic function)とは、複素平面の開集合 $U$ 上で定義された複素数値関数 $f$ であって、$U$ の各点 $a$ で複素数の意味の微分係数 $f'(a)=\lim_{h\to0}(f(a+h)-f(a))/h$ が存在するもののことである。実部と虚部が実の意味で全微分可能であるとき、極限が $h$ の近づき方によらないことは Cauchy–Riemann の方程式 $u_x=v_y$、$u_y=-v_x$ と同値であり、実の滑らかな関数よりはるかに強い条件である。収束冪級数は収束円板上で正則であり、逆に正則関数は各点のまわりで冪級数に展開できるので、複素解析関数ともいう。多項式・指数関数が代表例で、$\bar z$ や $|z|^2$ は正則でない。正則関数は何回でも微分でき、一致の定理などの剛性を持つ。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 複素数, 開集合, 連続写像, 偏微分, 冪級数

定義

複素微分可能性

$U\subset\mathbb{C}$ を 複素数 平面の 開集合、$f\colon U\to\mathbb{C}$ を写像、$a\in U$ とする。極限
$$f'(a):=\lim_{h\to0}\frac{f(a+h)-f(a)}{h}\qquad(h\in\mathbb{C}\setminus\{0\},\ a+h\in U)$$
が複素数として存在するとき、$f$ は $a$ で複素微分可能であるといい、$f'(a)$ を $f$ の $a$ における微分係数という。$h$ は複素数の値をとりながら $0$ に近づくのであって、実軸に沿って近づく場合も虚軸に沿って近づく場合も、同じ極限値でなければならない。

平面の開集合上の正則関数

$U\subset\mathbb{C}$ を開集合とする。写像 $f\colon U\to\mathbb{C}$ が $U$ の各点で複素微分可能であるとき、$f$ を $U$ 上の正則関数(holomorphic function)という。このとき $U$ 上の関数 $f'\colon U\to\mathbb{C}$、$a\mapsto f'(a)$ を $f$ の導関数という。$U=\mathbb{C}$ のとき、$\mathbb{C}$ 全体で正則な関数を 整関数 という。$U$ 上の正則関数全体の集合を $\mathcal{O}(U)$ と書く。

正則関数は、各点で局所的に収束する冪級数に展開できる(thm-holomorphic-function-power-series-expansion)ので、複素解析関数とも呼ばれる。

面上の正則関数

$X$ を Riemann面(連結(連結空間)な 1 次元 複素多様体)、$V\subset X$ を開集合とする。写像 $f\colon V\to\mathbb{C}$ が $V$ 上の正則関数であるとは、$V$ の各点 $x$ について、$x$ のまわりの 局所座標 $z\colon W\to z(W)\subset\mathbb{C}$ を 1 つとると、$f\circ z^{-1}$ が $\mathbb{C}$ の開集合 $z(W\cap V)$ 上の正則関数(def-holomorphic-function-plane の意味)になることをいう。座標変換は 双正則写像(正則で、逆写像も正則な全単射)だから、この条件は局所座標の取り方によらない(prop-holomorphic-function-algebra の合成の項による)。$X$ から別の Riemann 面 $Y$ への写像が 正則写像 であるとは、局所座標で表示したものが正則関数になることをいう。

直感

実関数の微分可能性は「グラフが局所的に直線で近似できる」ことであるが、複素微分可能性は見かけ以上に強い条件である。$f=u+iv$ の実部と虚部が実の意味で全微分可能であるとき、極限 $f'(a)$ が $h$ の近づき方によらないことは、その実全微分が「複素数倍」という特別な形の線形写像、すなわち回転と拡大の合成になることと同値である(thm-holomorphic-function-cauchy-riemann)。この同値条件が Cauchy–Riemann の方程式である。偏導関数の存在と方程式だけでは十分でない。ここから、正則関数は自動的に何回でも微分でき、局所的に冪級数で書け、さらに 1 点のまわりの様子が全体を決めてしまう(一致の定理)という、実の $C^\infty$ 級関数にはない剛性が現れる。この剛性の源は Cauchyの積分定理 と Cauchyの積分公式 にある。

例

多項式と有理関数

定数関数と恒等関数 $z\mapsto z$ は $\mathbb{C}$ 上で正則で、導関数はそれぞれ $0$ と $1$ である。実際、$\bigl((a+h)-a\bigr)/h=1$ である。prop-holomorphic-function-algebra により、多項式 $p(z)=\sum_{k=0}^{n}c_kz^k$ は整関数で $p'(z)=\sum_{k=1}^{n}kc_kz^{k-1}$ であり、有理関数 $p(z)/q(z)$ は $q$ の零点を除いた開集合 $\{z\in\mathbb{C}\mid q(z)\neq0\}$ 上で正則である。たとえば $1/z$ は $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ 上で正則で、導関数は $-1/z^2$ である。

指数関数と三角関数の正則性

指数関数 $\exp(z):=\sum_{n\geq0}z^n/n!$ は、冪級数の収束半径が $+\infty$ である($|z|^n/n!$ の比 $|z|/(n+1)$ が $0$ に収束する)から、thm-holomorphic-function-power-series により整関数であり、項別微分により $\exp'(z)=\sum_{n\geq1}z^{n-1}/(n-1)!=\exp(z)$ である。同様に $\cos z:=\sum_{n\geq0}(-1)^nz^{2n}/(2n)!$、$\sin z:=\sum_{n\geq0}(-1)^nz^{2n+1}/(2n+1)!$ は整関数で、$\cos'=-\sin$、$\sin'=\cos$ である(三角関数)。

逆写像として得られる正則関数

$U,V\subset\mathbb{C}$ を開集合、$f\colon U\to V$ を正則な全単射で、逆写像 $g\colon V\to U$ が連続かつ $U$ 上で $f'\neq0$ とする。このとき $g$ は正則で $g'(w)=1/f'(g(w))$ である。実際、$w_0=f(z_0)$、$w=f(z)$ とおくと、$w\to w_0$ のとき $g$ の連続性から $z\to z_0$ であり、$z\neq z_0$($g$ は単射)だから
$$\frac{g(w)-g(w_0)}{w-w_0}=\frac{z-z_0}{f(z)-f(z_0)}\longrightarrow\frac{1}{f'(z_0)}$$
である。たとえば $\mathbb{C}\setminus(-\infty,0]$ 上の対数の主値 $\operatorname{Log}$ は $\exp$ の(帯状領域 $\{|\operatorname{Im}w|<\pi\}$ への)逆写像であり、正則で $\operatorname{Log}'(z)=1/z$ である(主値の連続性を含む完全な証明は Cauchyの積分定理 の記事の命題(対数の主値の正則性)を参照)。

反例:複素共役と絶対値

次の関数は実の意味では滑らか($C^\infty$ 級)であるが正則ではない。破られているのは「極限が $h$ の近づき方によらない」という条件、言い換えれば Cauchy–Riemann の方程式(thm-holomorphic-function-cauchy-riemann)である。

  1. $f(z)=\bar z$ はどの点でも複素微分可能でない。$a$ を固定し、$h$ を実数にとると $(\overline{a+h}-\bar a)/h=1$、$h=it$($t$ は実数)にとると $\overline{it}/(it)=-1$ であり、極限は存在しない。実際 $u=x$、$v=-y$ なので $u_x=1\neq-1=v_y$ である。
  2. $f(z)=|z|^2=x^2+y^2$ は $a=0$ でのみ複素微分可能である。$0$ では $|h|^2/h=\bar h\to0$ なので $f'(0)=0$ であるが、$u_x=2x$、$v_y=0$、$u_y=2y$、$v_x=0$ だから Cauchy–Riemann の方程式は $z=0$ でしか成り立たない。したがって $|z|^2$ はどの開集合上でも正則でない。「1 点で複素微分可能」と「開集合上で正則」は別の概念である。
  3. $f(z)=\operatorname{Re}z$ も正則でない($u_x=1$、$v_y=0$)。一般に、定数でない実数値関数は正則でない(prop-holomorphic-function-real-valued)。

性質

正則関数の四則と合成

$U\subset\mathbb{C}$ を開集合、$f,g$ を $U$ 上の正則関数とする。

  1. $f$ は $U$ 上で連続(連続写像)である。
  2. $f+g$、$fg$、および定数倍 $cf$ は $U$ 上で正則で、$(f+g)'=f'+g'$、$(fg)'=f'g+fg'$、$(cf)'=cf'$ である。$g$ が $U$ 上で零点を持たなければ $f/g$ は正則で $(f/g)'=(f'g-fg')/g^2$ である。
  3. $V\subset\mathbb{C}$ を開集合、$h\colon V\to\mathbb{C}$ を正則関数で $h(V)\subset U$ とすると、合成 $f\circ h$ は $V$ 上で正則で $(f\circ h)'(z)=f'(h(z))h'(z)$ である。
    特に $\mathcal{O}(U)$ は $\mathbb{C}$ 上の可換な 環($\mathbb{C}$ 代数)である。
  1. $f(a+h)-f(a)=\dfrac{f(a+h)-f(a)}{h}\cdot h\to f'(a)\cdot0=0$($h\to0$)である。
  2. 和と定数倍は極限の線形性から従う。積については
    $$\frac{f(a+h)g(a+h)-f(a)g(a)}{h}=\frac{f(a+h)-f(a)}{h}\,g(a+h)+f(a)\,\frac{g(a+h)-g(a)}{h}$$
    であり、$g$ の連続性(1)から右辺は $f'(a)g(a)+f(a)g'(a)$ に収束する。商については、まず $1/g$ を考える。$g(a)\neq0$ で $g$ は連続だから、$h$ が小さいとき $g(a+h)\neq0$ であり、
    $$\frac{1}{h}\Bigl(\frac{1}{g(a+h)}-\frac{1}{g(a)}\Bigr)=-\frac{g(a+h)-g(a)}{h}\cdot\frac{1}{g(a+h)g(a)}\longrightarrow-\frac{g'(a)}{g(a)^2}$$
    である。$f/g=f\cdot(1/g)$ に積の公式を用いれば商の公式を得る。
  3. $b:=h(a)$ とおき、$U$ 上の関数 $\varphi$ を $\varphi(w):=\dfrac{f(w)-f(b)}{w-b}$($w\neq b$)、$\varphi(b):=f'(b)$ で定めると、$f$ が $b$ で複素微分可能であることは $\varphi$ が $b$ で連続であることと同じである。任意の $w\in U$ に対し $f(w)-f(b)=\varphi(w)(w-b)$ が成り立つ($w=b$ でも両辺 $0$)。したがって $k\neq0$ に対し
    $$\frac{f(h(a+k))-f(h(a))}{k}=\varphi\bigl(h(a+k)\bigr)\,\frac{h(a+k)-h(a)}{k}$$
    であり、$k\to0$ のとき $h(a+k)\to b$($h$ の連続性)と $\varphi$ の $b$ での連続性から、右辺は $\varphi(b)h'(a)=f'(b)h'(a)$ に収束する。この書き方は $h(a+k)=b$ となる $k$ があっても正しい。
Cauchy–Riemann の方程式

$U\subset\mathbb{C}$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{C}$ とし、$z=x+iy$ に対し $f(z)=u(x,y)+iv(x,y)$($u,v$ は実数値)と書く。$a=x_0+iy_0\in U$ について次は同値である。

  1. $f$ は $a$ で複素微分可能である。
  2. $u,v$ は $(x_0,y_0)$ で(実の意味で)全微分 可能であり、Cauchy–Riemann の方程式
    $$\frac{\partial u}{\partial x}=\frac{\partial v}{\partial y},\qquad\frac{\partial u}{\partial y}=-\frac{\partial v}{\partial x}$$
    が $(x_0,y_0)$ で成り立つ。
    このとき $f'(a)=u_x(x_0,y_0)+iv_x(x_0,y_0)=v_y(x_0,y_0)-iu_y(x_0,y_0)$ である。特に、$u,v$ が $U$ 上で $C^1$ 級で $U$ の各点で Cauchy–Riemann の方程式を満たせば、$f$ は $U$ 上で正則である。

$f$ を $\mathbb{R}^2$ の開集合上の写像 $(x,y)\mapsto(u,v)$ とみる。$f$ が $a$ で複素微分可能で $f'(a)=\alpha+i\beta$ であるとは、$h=s+it\to0$ のとき
$$f(a+h)-f(a)-f'(a)h=o(|h|)$$
となることである。$f'(a)h=(\alpha s-\beta t)+i(\beta s+\alpha t)$ だから、この式は、写像 $(u,v)$ が $(x_0,y_0)$ で全微分可能であり、その Jacobi 行列が
$$\begin{pmatrix}u_x&u_y\\ v_x&v_y\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\alpha&-\beta\\ \beta&\alpha\end{pmatrix}$$
であることと同値である(全微分の一意性による)。この行列の形は $u_x=v_y=\alpha$、$u_y=-v_x=-\beta$ を意味し、これが Cauchy–Riemann の方程式である。逆に $u,v$ が全微分可能で Cauchy–Riemann の方程式を満たせば、Jacobi 行列は上の形をしており、$\alpha:=u_x$、$\beta:=v_x$ とおくと全微分は $h\mapsto(\alpha+i\beta)h$ という複素数倍になるので、$f$ は $a$ で複素微分可能で $f'(a)=\alpha+i\beta$ である。最後の主張は、偏導関数が近傍で連続なら増分を座標軸に沿う二つの線分へ分け、各成分に一変数の平均値の定理を適用することで、剰余が $o(|h|)$ になることから従う。

冪級数の正則性

冪級数 $\sum_{n\geq0}a_n(z-a)^n$ の 収束半径 を $R>0$($R=+\infty$ を含む)とし、和を $f(z)$($|z-a|< R$)とおく。このとき $f$ は 開円板 $B(a,R):=\{z\in\mathbb{C}\mid|z-a|< R\}$ 上の正則関数であり、その導関数は項別微分した冪級数
$$f'(z)=\sum_{n\geq1}na_n(z-a)^{n-1}$$
で与えられ、この冪級数の収束半径もまた $R$ である。したがって $f$ は $B(a,R)$ 上で何回でも複素微分可能であり、$f^{(k)}(z)=\sum_{n\geq k}n(n-1)\cdots(n-k+1)a_n(z-a)^{n-k}$、特に $a_k=f^{(k)}(a)/k!$ である。

平行移動により $a=0$ としてよい。収束半径の定義と性質(絶対収束と Cauchy–Hadamard の公式 $1/R=\limsup|a_n|^{1/n}$)は Taylor展開(複素解析) の記事の命題(収束半径の性質)による。$\limsup(n|a_n|)^{1/n}=\limsup|a_n|^{1/n}$($n^{1/n}\to1$ による)だから、項別微分した級数 $g(z):=\sum_{n\geq1}na_nz^{n-1}$ の収束半径も $R$ である。
$|z_0|< R$ を固定し、$|z_0|<\rho< R$ をとる。$|z|<\rho$、$z\neq z_0$ に対し
$$\frac{f(z)-f(z_0)}{z-z_0}-g(z_0)=\sum_{n\geq1}a_n\Bigl(\frac{z^n-z_0^n}{z-z_0}-nz_0^{n-1}\Bigr)$$
である(両級数とも絶対収束するので項ごとに引いてよい)。恒等式 $\dfrac{z^n-z_0^n}{z-z_0}=\sum_{j=0}^{n-1}z^jz_0^{n-1-j}$ により
$$\frac{z^n-z_0^n}{z-z_0}-nz_0^{n-1}=\sum_{j=0}^{n-1}z_0^{n-1-j}\bigl(z^j-z_0^j\bigr)=(z-z_0)\sum_{j=1}^{n-1}z_0^{n-1-j}\sum_{k=0}^{j-1}z^kz_0^{j-1-k}$$
であり、右辺の二重和は $|z|,|z_0|<\rho$ のとき絶対値が $\sum_{j=1}^{n-1}j\rho^{n-2}\leq n^2\rho^{n-2}$ 以下である。したがって
$$\Bigl|\frac{f(z)-f(z_0)}{z-z_0}-g(z_0)\Bigr|\leq|z-z_0|\sum_{n\geq2}n^2|a_n|\rho^{n-2}$$
である。右辺の級数は $\limsup(n^2|a_n|)^{1/n}=1/R$ より収束半径 $R$ の冪級数の $\rho< R$ における値なので有限である。ゆえに $z\to z_0$ のとき左辺は $0$ に収束し、$f'(z_0)=g(z_0)$ である。
$g$ もまた収束半径 $R$ の冪級数だから、同じ議論を繰り返して $f$ は何回でも微分可能であり、$k$ 回項別微分した式が得られる。$z=0$ を代入すると $f^{(k)}(0)=k!\,a_k$ である。

正則関数の冪級数展開

$U\subset\mathbb{C}$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{C}$ を正則関数、$a\in U$ とし、$R>0$ を $B(a,R)\subset U$ となる任意の半径とする。このとき $f$ は $B(a,R)$ 上で収束する冪級数
$$f(z)=\sum_{n\geq0}a_n(z-a)^n\qquad(|z-a|< R),\qquad a_n=\frac{f^{(n)}(a)}{n!}$$
で表される。特に、正則関数は何回でも複素微分可能であり、その導関数 $f'$ もまた $U$ 上の正則関数である。

冪級数展開の証明の所在

証明は Taylor展開(複素解析) の記事の定理(正則関数の冪級数展開)に譲る。要点は、Cauchyの積分公式 $f(z)=\dfrac{1}{2\pi i}\displaystyle\oint_{|\zeta-a|=r}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta$ において $\dfrac{1}{\zeta-z}=\sum_{n\geq0}\dfrac{(z-a)^n}{(\zeta-a)^{n+1}}$ と展開し、円周上で一様収束するので項別に積分できることである。係数が $f^{(n)}(a)/n!$ であることは thm-holomorphic-function-power-series による。この定理により、正則関数(各点で複素微分可能)と解析関数(各点で局所的に収束冪級数で表せる)は同じ概念である。導関数が再び正則であることの、冪級数を使わない証明は Cauchyの積分公式 の記事の定理(導関数の積分表示)にある。参考文献として Ahlfors Ahl79 を参照。

導関数が消える正則関数

$U\subset\mathbb{C}$ を連結な開集合(領域)、$f$ を $U$ 上の正則関数で、$U$ 上で $f'=0$ とする。このとき $f$ は $U$ 上で定数である。

まず $U$ に含まれる開円板 $B$ 上で $f$ が定数であることを示す。$a,z\in B$ とし、実変数の関数 $\gamma(t):=f(a+t(z-a))$($0\leq t\leq1$)を考える。線分 $a+t(z-a)$ は $B$ に含まれる(円板は凸である)。$z=a$ なら示すことはないので $z\neq a$ とし、$h:=s(z-a)$($s$ は実数)とおくと、複素微分可能性の定義から
$$\frac{\gamma(t+s)-\gamma(t)}{s}=\frac{f(a+t(z-a)+h)-f(a+t(z-a))}{h}\,(z-a)\longrightarrow f'(a+t(z-a))(z-a)=0\qquad(s\to0)$$
であり、$\gamma$ は微分可能で $\gamma'=0$ である。$\gamma$ の実部と虚部はそれぞれ導関数が $0$ の実関数だから、実変数の 平均値の定理により定数であり、$f(z)=\gamma(1)=\gamma(0)=f(a)$ である。
次に $c\in f(U)$ を 1 つとり、$A:=\{z\in U\mid f(z)=c\}$ とおく。$A$ は連続関数による 1 点の逆像なので $U$ の 閉集合 であり、前段により $A$ の各点のまわりの開円板は $A$ に含まれるので $A$ は開集合でもある。$A\neq\emptyset$ で $U$ は連結だから $A=U$ である。

実数値の正則関数

$U\subset\mathbb{C}$ を領域、$f$ を $U$ 上の正則関数とする。$f$ が実数値であるか、$|f|$ が定数であるか、$\operatorname{Re}f$ が定数であれば、$f$ は定数である。

$f=u+iv$ とおく。$f$ が実数値なら $v=0$ であり、thm-holomorphic-function-cauchy-riemann により $u_x=v_y=0$、$u_y=-v_x=0$ なので $f'=u_x+iv_x=0$ であり、prop-holomorphic-function-zero-derivative により $f$ は定数である。$\operatorname{Re}f=u$ が定数のときも $u_x=u_y=0$ から $v_x=v_y=0$ となり同様である。$|f|$ が定数 $c$ のとき、$c=0$ なら $f=0$ であり、$c\neq0$ なら $f$ は零点を持たず $\bar f=c^2/f$ は正則である(prop-holomorphic-function-algebra)。すると $u=(f+\bar f)/2$ は実数値の正則関数だから定数であり、前段により $f$ は定数である。

補足

正則関数の概念は Riemann面 上、さらに高次元の 複素多様体 上へ局所座標を通じて広がる(def-holomorphic-function-surface)。1 変数の正則関数の理論の中心は、Cauchyの積分定理 と Cauchyの積分公式 から出発して、Taylor展開(複素解析)・零点の位数・一致の定理・Liouvilleの定理(複素解析)・開写像定理(複素解析) という一連の剛性定理を導くことにある。孤立した特異点を許した対象が 有理型関数 であり、その局所的な記述が Laurent展開 である。Cauchy–Riemann の方程式により、正則関数の実部と虚部は 調和関数 であり、$f'\neq0$ の点で正則関数は角を保つ 等角写像 である。標準的な記述は Ahlfors Ahl79 にある。

関連項目

参考文献

[1]
Lars V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1979, 複素微分、Cauchy–Riemann 方程式、冪級数、Taylor 展開

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