円周角の定理(inscribed angle theorem)とは、円周上の相異なる 3 点 $A,B,P$ について、$P$ から弦 $AB$ を見込む角 $\angle APB$(円周角)が、$P$ を含まない方の弧 $AB$ の中心角の半分に等しい、という平面幾何の定理である。したがって同じ弧の上の点から見た円周角はどれも等しく、半円に対する円周角は直角であり、円に内接する四角形の向かい合う角の和は $180^\circ$ である。Euclid『原論』第 III 巻 命題 20・21 にあたる。逆に、直線 $AB$ の同じ側にある点 $P$ と $C$ について $\angle APB=\angle ACB$ なら、$P$ は $A,B,C$ を通る円の上にある。円周上にない点から見た角は、円の内部では円周角より大きく、外部では小さい。
前提知識: 円, 二等辺三角形, 三角形の内角の和
時計の文字盤を円とみなし、12 時の位置を $A$、4 時の位置を $B$ とする。8 時の位置 $P$ から $A$ と $B$ を見込む角 $\angle APB$ を測ると $60^\circ$ である。$P$ を 5 時、6 時、7 時、9 時、10 時、11 時の位置に動かしても、角はどれも $60^\circ$ のまま変わらない。一方、中心 $O$ から見た角 $\angle AOB$ は、12 時から 4 時までが文字盤の $\frac4{12}$ なので $360^\circ\times\frac4{12}=120^\circ$ で、ちょうど $60^\circ$ の 2 倍である。$P$ を 1 時、2 時、3 時の位置($A$ と $B$ の間の短い方の弧の上)に置くと、角は $120^\circ$ に変わり、これは長い方の弧の中心角 $240^\circ$ の半分である。
もう 1 つの例として、直径 $AB=10$ の円の周上に点 $C$ をとると、$C$ がどこにあっても $\angle ACB=90^\circ$ である。したがって $AC=6$ なら、三平方の定理により $BC=\sqrt{10^2-6^2}=8$ である。
このように、円周上の点から弦を見込む角(円周角)は、同じ弧の上ではどこから見ても等しく、その弧の中心角の半分である。これが 円周角の定理 である。Euclid『原論』第 III 巻の命題 20(中心角は円周角の 2 倍)と命題 21(同じ弧の上の円周角は等しい)にあたり、半円の上の円周角が直角であること(命題 31)、円に内接する四角形の向かい合う角の和が $180^\circ$ であること(命題 22)、接線と弦のつくる角の定理(命題 32)が同じ考え方で得られる(Hea08)。本記事では、弧の中心角を正確に定めて定理を述べ、中心が角の内部・辺上・外部にある場合を分けて完全に証明し、逆(4 点が同じ円周上にある条件)と帰結を証明する。
本記事では平行線公準を満たす通常の平面幾何(Euclid幾何学)で考え、角は度で測る。2 本の半直線のなす角 $\angle XPY$ は $0^\circ$ 以上 $180^\circ$ 以下とする。三角形については、内角の和が $180^\circ$ であること、したがって三角形の外角はそれと隣り合わない 2 つの内角の和に等しいこと(外角の定理)、二等辺三角形の底角が等しいことを使う。
$\Gamma$ を中心 $O$、半径 $r>0$ の円とする。中心 $O$ を通る 1 本の半直線を基準にとり、$\Gamma$ の点 $X$ を、半直線 $OX$ が基準の半直線から反時計回りになす角 $\xi$ で表す($\xi$ は $360^\circ$ の差を除いて定まる)。
$A,B$ を $\Gamma$ の相異なる 2 点とする。$\Gamma$ から $A,B$ を除くと 2 つの部分に分かれ、それぞれを(端点 $A,B$ を含めずに)$A$ と $B$ を結ぶ 弧 という。$A,B$ を表す角を $\alpha<\beta<\alpha+360^\circ$ ととると、2 つの弧は、表す角が $\alpha$ と $\beta$ の間にある点の全体と、$\beta$ と $\alpha+360^\circ$ の間にある点の全体である。前者の弧の 中心角 を $\beta-\alpha$、後者の中心角を $360^\circ-(\beta-\alpha)$ と定める。
基準の半直線を取り替えると、各点を表す角はすべて同じ量だけずれるので、中心角は基準の選び方によらない。2 つの弧の中心角の和は $360^\circ$ である。中心角が $180^\circ$ より小さい弧では、中心角は通常の角 $\angle AOB$ に等しく、$180^\circ$ より大きい弧では $360^\circ-\angle AOB$ に等しい。$A,B$ が直径の両端なら、2 つの弧はどちらも中心角 $180^\circ$ の 半円 である。また、弧の上の点 $C$ でその弧を 2 つに分けると、中心角は加法的である($A$ と $C$ を結ぶ弧と $C$ と $B$ を結ぶ弧の中心角の和が、もとの弧の中心角に等しい)。
$A,B,P$ を $\Gamma$ の相異なる 3 点とする。$\angle APB$ を、$P$ を含まない方の弧 $AB$ に対する 円周角 という。この弧の中心角を、円周角 $\angle APB$ に対する中心角という。
$A,B,P$ を円 $\Gamma$ の相異なる 3 点とし、$P$ を含まない方の弧 $AB$ の中心角を $\theta$ とする。このとき
$$
\angle APB=\frac{\theta}{2}
$$
である。とくに、$\theta<180^\circ$ なら $\angle APB=\frac12\angle AOB$、$\theta>180^\circ$ なら $\angle APB=180^\circ-\frac12\angle AOB$ である。
$P$ を通る直径 $PQ$ を引き、$Q$ が弧のどこにあるか(中心 $O$ が角 $\angle APB$ の辺の上・内部・外部のどれにあるか)で場合を分ける。どの場合も、直径を一辺とする円周角についての lem-inscribed-angle-diameter に帰着する。証明は次の節で与える。
$P$ を $\Gamma$ の点とし、$P$ と中心 $O$ を通る直径のもう一方の端を $Q$ とする。基準の半直線を $OQ$ にとり、$\Gamma$ の点を表す角を $-180^\circ<\xi\le180^\circ$ の範囲で選ぶ。すると $Q$ は $\xi=0^\circ$、$P$ は $\xi=180^\circ$ で表され、$P$ 以外の点は $-180^\circ<\xi<180^\circ$ でただ 1 通りに表される。$\xi>0$ の点と $\xi<0$ の点は直線 $PQ$ の反対側にある。
上の記号で、$X$ を $\Gamma$ の点で $P,Q$ と異なるものとし、$X$ を表す角を $\xi$($0<|\xi|<180^\circ$)とする。このとき
$$
\angle XOQ=|\xi|,\qquad\angle XPQ=\frac{|\xi|}{2}
$$
である。
$\angle XOQ=|\xi|$ は角 $\xi$ の定め方そのものである。$OP=OX=r$ なので三角形 $OPX$ は二等辺三角形であり、底角 $\angle OPX$ と $\angle OXP$ は等しい。その値を $a$ とおく。$O$ は線分 $PQ$ の上にあるので、$\angle XOQ$ は三角形 $OPX$ の頂点 $O$ における外角であり、外角の定理により $\angle XOQ=a+a=2a$ である。また半直線 $PO$ と半直線 $PQ$ は一致するので $\angle XPQ=\angle XPO=a$ である。よって $\angle XPQ=\frac12\angle XOQ=\frac{|\xi|}2$ である。$\square$
$A,B$ を表す角を $\alpha,\beta$ とし、必要なら $A$ と $B$ の名前を入れ替えて $-180^\circ<\alpha<\beta<180^\circ$ とする。$P$($\xi=180^\circ$)を含まない方の弧は、表す角が $\alpha$ と $\beta$ の間にある点の全体なので、def-inscribed-angle-arc によりその中心角は $\theta=\beta-\alpha$ である。直径 $PQ$ の端点 $Q$($\xi=0$)の位置で次の 3 つの場合に分ける。
(1)$Q$ が $A$ または $B$ に一致する場合(中心 $O$ が角の辺の上にある場合)。$Q=A$ なら $\alpha=0<\beta$ であり、lem-inscribed-angle-diameter により $\angle APB=\angle QPB=\frac\beta2=\frac{\beta-\alpha}2$ である。$Q=B$ の場合も同様に $\angle APB=\angle APQ=\frac{|\alpha|}2=\frac{0-\alpha}2=\frac{\beta-\alpha}2$ である。
(2)$Q$ が $P$ を含まない方の弧の上にある場合(中心 $O$ が角の内部にある場合)。このとき $\alpha<0<\beta$ であり、$A$ と $B$ は直線 $PQ$ の反対側にある。lem-inscribed-angle-diameter により、半直線 $PA$ と $PB$ は半直線 $PQ$ とそれぞれ角 $\frac{|\alpha|}2$、$\frac\beta2$ をなし、その和 $\frac{\beta-\alpha}2$ は $180^\circ$ より小さい。反対側にある 2 本の半直線のなす角は、それらが共通の半直線 $PQ$ となす角の和なので
$$
\angle APB=\angle APQ+\angle QPB=\frac{-\alpha}{2}+\frac{\beta}{2}=\frac{\beta-\alpha}{2}
$$
である。
(3)$Q$ が $P$ を含む方の弧の上にある場合(中心 $O$ が角の外部にある場合)。このとき $\alpha,\beta$ は同じ符号である。$0<\alpha<\beta$ のとき、$A$ と $B$ は直線 $PQ$ の同じ側にあり、lem-inscribed-angle-diameter により $\angle APQ=\frac\alpha2<\frac\beta2=\angle BPQ$ である。同じ側にある 2 本の半直線のうち半直線 $PQ$ となす角が小さい $PA$ は角 $\angle BPQ$ の内部にあるので
$$
\angle APB=\angle BPQ-\angle APQ=\frac{\beta}{2}-\frac{\alpha}{2}
$$
である。$\alpha<\beta<0$ のときも同様に $\angle APB=\angle APQ-\angle BPQ=\frac{|\alpha|}2-\frac{|\beta|}2=\frac{\beta-\alpha}2$ である。
$Q\ne P$ なので、どの場合も $\angle APB=\frac{\beta-\alpha}2=\frac\theta2$ が成り立つ。最後の主張は、$\theta<180^\circ$ なら $\theta=\angle AOB$、$\theta>180^\circ$ なら $\theta=360^\circ-\angle AOB$ であることから従う。$\square$
場合 (1)〜(3) は、中心 $O$ が角 $\angle APB$ の辺の上、内部、外部にある場合にあたる。(3) の場合の円周角は鋭角であり($\theta<180^\circ$ なので)、弧の中心角が $180^\circ$ を超える(円周角が鈍角になる)のは (2) の場合だけである。
$A,B$ を $\Gamma$ の相異なる 2 点とし、$P,P'$ を $A,B$ を結ぶ同じ弧の上の点とする。このとき $\angle APB=\angle AP'B$ である。
$P$ と $P'$ は同じ弧の上にあるので、$P$ を含まない方の弧と $P'$ を含まない方の弧は同じ弧 $AB$ である。その中心角を $\theta$ とすると、thm-inscribed-angle-main により $\angle APB=\frac\theta2=\angle AP'B$ である。$\square$
$AB$ を円 $\Gamma$ の直径とし、$P$ を $\Gamma$ の $A,B$ と異なる点とする。このとき $\angle APB=90^\circ$ である。
$A,B$ は直径の両端なので、$P$ を含まない方の弧は半円で、その中心角は $180^\circ$ である。thm-inscribed-angle-main により $\angle APB=90^\circ$ である。$\square$
この系は Thalesの定理 ともよばれ、Euclid『原論』第 III 巻 命題 31 にあたる。冒頭の $AB=10$、$AC=6$、$BC=8$ の例はこの系と 三平方の定理 による。
$A,B,C,D$ が円 $\Gamma$ の上にこの順に並ぶ($B$ と $D$ が $A,C$ を結ぶ別々の弧の上にある)とする。このとき四角形 $ABCD$ の向かい合う角について
$$
\angle ABC+\angle CDA=180^\circ
$$
が成り立つ。
$A,C$ を結ぶ 2 つの弧の中心角を $\theta_1,\theta_2$ とし、$B$ は中心角 $\theta_2$ の弧の上、$D$ は中心角 $\theta_1$ の弧の上にあるとする。$B$ を含まない方の弧の中心角は $\theta_1$、$D$ を含まない方の弧の中心角は $\theta_2$ なので、thm-inscribed-angle-main により
$$
\angle ABC+\angle CDA=\frac{\theta_1}2+\frac{\theta_2}2=\frac{360^\circ}{2}=180^\circ
$$
である。$\square$
円周角の定理の逆は、円周上にない点から見込む角が円周角と異なることから得られる。そのために次の補題(Euclid『原論』第 I 巻 命題 21 の一部)を使う。
三角形 $ABP$ の内部(周を除く)の点 $X$ について、$\angle AXB>\angle APB$ である。
$X$ は三角形の内部にあるので、半直線 $AX$ は辺 $PB$ と、その端点でない点 $Y$ で交わり、$X$ は線分 $AY$ の内部にある。$\angle AXB$ は三角形 $XYB$ の頂点 $X$ における外角なので、外角の定理により $\angle AXB=\angle XYB+\angle XBY>\angle XYB=\angle AYB$ である。また $\angle AYB$ は三角形 $AYP$ の頂点 $Y$ における外角なので $\angle AYB=\angle YAP+\angle APY>\angle APY=\angle APB$ である($Y$ は線分 $PB$ の上にあるので半直線 $PY$ と $PB$ は一致する)。よって $\angle AXB>\angle APB$ である。$\square$
$A,B,C$ を一直線上にない 3 点とし、$\Gamma$ を $A,B,C$ を通る円とする。点 $P$ が直線 $AB$ について $C$ と同じ側にあるとき、
直線 $AB$ で分けられる 2 つの側のうち $C$ のある側を $H$ とする。$\Gamma$ の点で $H$ にあるもの全体は $A,B$ を結ぶ 1 つの弧であり、$C$ はその上にある。したがって cor-inscribed-angle-same-arc により、この弧の上のどの点 $X$ でも $\angle AXB=\angle ACB$ である。これで 2 が示された。
線分 $AB$ の中点を $M$ とする。$M$ は弦の内部の点なので $\Gamma$ の内部にある。
1 の場合、$M$ から $P$ を通る半直線をとる。$M$ と $P$ は $\Gamma$ の内部にあるので、この半直線は $P$ の先でちょうど 1 点 $X$ で $\Gamma$ と交わり、$P$ は線分 $MX$ の内部にある。$X$ は $M$ から $H$ の側へ延びる半直線の上にあるので $H$ にあり、$\angle AXB=\angle ACB$ である。$M$ は三角形 $ABX$ の辺 $AB$ の内部の点で、$P$ は頂点 $X$ と $M$ を結ぶ線分の内部にあるので、三角形 $ABX$ の内部にある。lem-inscribed-angle-interior-point により $\angle APB>\angle AXB=\angle ACB$ である。
3 の場合、線分 $MP$ の上の点の中心 $O$ からの距離は $M$ で半径より小さく、$P$ で半径より大きく、連続に変わるので、中間値の定理により、$M$ と $P$ の間に距離がちょうど半径になる点 $X$ がある。$X$ は $\Gamma$ の上にあり、$M$ から $H$ の側へ延びる線分の上にあるので $H$ にあり、$\angle AXB=\angle ACB$ である。$X$ は三角形 $ABP$ の頂点 $P$ と辺 $AB$ の内部の点 $M$ を結ぶ線分の内部にあるので、三角形 $ABP$ の内部にある。lem-inscribed-angle-interior-point により $\angle ACB=\angle AXB>\angle APB$ である。
$P$ は $\Gamma$ の内部・周上・外部のどれか 1 つにあるので、最後の主張は 1〜3 から従う。$\square$
凸四角形 $ABCD$ が $\angle ABC+\angle CDA=180^\circ$ を満たすならば、4 つの頂点は同じ円周上にある。
$\Gamma$ を $A,B,C$ を通る円とする(3 点は一直線上にない)。凸四角形なので、$B$ と $D$ は対角線を含む直線 $AC$ の反対側にある。$\Gamma$ の点で直線 $AC$ について $B$ と反対側にあるものは $A,C$ を結ぶ弧をなすので、その上に点 $D'$ をとる。$A,B,C,D'$ はこの順に $\Gamma$ の上に並ぶので、cor-inscribed-angle-cyclic-quadrilateral により $\angle AD'C=180^\circ-\angle ABC=\angle ADC$ である。$D$ と $D'$ は直線 $AC$ の同じ側にあるので、thm-inscribed-angle-converse($A,C,D'$ を通る円 $\Gamma$ について)により $D$ は $\Gamma$ の上にある。$\square$
円 $\Gamma$ の点 $B$ を通り、半径 $OB$ に垂直な直線 $\ell$ を $B$ における 接線 という。$\ell$ の点 $X\ne B$ では $OX^2=OB^2+BX^2>r^2$(三平方の定理)なので、$\ell$ と $\Gamma$ の共通点は $B$ だけである。
$\ell$ を $\Gamma$ の点 $B$ における接線、$T\ne B$ を $\ell$ の点、$D$ を $\Gamma$ の $B$ と異なる点とする。$B$ から出発し、$\ell$ に沿って $T$ の側へ向かう向きに $\Gamma$ をたどって $D$ に至る弧の中心角を $\theta$ とすると、
$$
\angle TBD=\frac{\theta}{2}
$$
である。したがって、この弧の上にない $\Gamma$ の点 $E$($E\ne B,D$)について $\angle TBD=\angle BED$ である。
半径を $1$ とし、$O$ を原点、$B=(0,-1)$、$\ell$ を直線 $y=-1$、$T=(t,-1)$($t>0$)となるように座標をとる(必要なら左右を反転する)。このとき $B$ から $T$ の側へ向かう向きは反時計回りである。$D$ を $(\cos\varphi,\sin\varphi)$($-90^\circ<\varphi<270^\circ$)と表し、$\psi:=\varphi+90^\circ$ とおくと、$0<\psi<360^\circ$ で、$B$ から反時計回りに $D$ に至る弧の中心角は $\theta=\psi$ である。$\cos\varphi=\sin\psi$、$\sin\varphi=-\cos\psi$ と倍角の公式から
$$
D-B=(\sin\psi,\ 1-\cos\psi)=2\sin\frac\psi2\Bigl(\cos\frac\psi2,\ \sin\frac\psi2\Bigr)
$$
であり、$0<\frac\psi2<180^\circ$ なので $\sin\frac\psi2>0$ である。よって半直線 $BD$ は、半直線 $BT$ の向き $(1,0)$ から反時計回りに角 $\frac\psi2$ だけ回した向きをもち、$\angle TBD=\frac\psi2=\frac\theta2$ である。$E$ がこの弧の上になければ、$E$ を含まない方の弧 $BD$ はこの弧なので、thm-inscribed-angle-main により $\angle BED=\frac\theta2=\angle TBD$ である。$\square$
これは Euclid『原論』第 III 巻 命題 32 にあたり、「接線と弦のつくる角は、その角の内側にある弧に対する円周角に等しい」と述べられることが多い($E$ はその弧の反対側の弧、すなわち「交互の弓形」の上にとる)。
冒頭の例を確かめる。文字盤の中心を $O$、12 時、4 時の位置を $A,B$ とする。12 時から時計回りに 4 時までの弧(1 時、2 時、3 時の位置を含む)の中心角は $120^\circ$、もう一方の弧(5 時から 11 時の位置を含む)の中心角は $240^\circ$ である。$P$ が 5 時から 11 時のどの位置にあっても、$P$ を含まない方の弧は中心角 $120^\circ$ の弧なので $\angle APB=60^\circ$ である。$P$ が 1 時、2 時、3 時の位置にあれば、$P$ を含まない方の弧は中心角 $240^\circ$ の弧なので $\angle APB=120^\circ$ である。$60^\circ+120^\circ=180^\circ$ であり、たとえば $A$(12 時)、2 時、$B$(4 時)、8 時の位置の 4 点を頂点とする四角形は cor-inscribed-angle-cyclic-quadrilateral の例になっている。
ex-inscribed-angle-clock で、8 時の位置から見た $\angle APB=60^\circ$ と 2 時の位置から見た $\angle APB=120^\circ$ は等しくない。弦 $AB$ を見込む角が等しくなるのは、見る点が弦 $AB$ について同じ側(同じ弧の上)にあるときであり(cor-inscribed-angle-same-arc)、反対側の弧から見た角とは和が $180^\circ$ になる。「同じ弦を見込む円周上の角はつねに等しい」という主張は、弧を区別しないと成り立たない。
単位円 $x^2+y^2=1$ と直径の両端 $A=(-1,0)$、$B=(1,0)$ をとる。円周上の $P=(0,1)$ では $\angle APB=90^\circ$ であるが、円の内部の $P=(0,\frac12)$ では $\angle APB=2\arctan2=126.87\cdots^\circ$、円の外部の $P=(0,2)$ では $\angle APB=2\arctan\frac12=53.13\cdots^\circ$ である。どちらも直線 $AB$ について $(0,1)$ と同じ側にあるが、円周上にないので $90^\circ$ にならない。これは thm-inscribed-angle-converse の 1 と 3 の具体例であり、円周角の定理の「$P$ が円周上にある」という仮定が外せないことを示す。
thm-inscribed-angle-main は Euclid『原論』第 III 巻 命題 20(中心角は同じ弧に立つ円周角の 2 倍)、cor-inscribed-angle-same-arc は命題 21、cor-inscribed-angle-cyclic-quadrilateral は命題 22、cor-inscribed-angle-thales は命題 31、prop-inscribed-angle-tangent-chord は命題 32 にあたる(Heath 訳 Vol. II pp. 46–66 Hea08)。Euclid の命題 20 の証明は、中心が角の内部にある場合と外部にある場合の 2 つの図で行われ、中心角は $180^\circ$ より小さい角として扱われている。Heath の注(pp. 47–49)は、弓形が半円より小さい場合(中心の角が $180^\circ$ より大きくなる場合)への拡張を後の編者たちが補ったこと、Heron がそれに先立っていたことを述べている。また命題 21 の Euclid の証明は半円より大きい弓形の場合にしか当てはまらず、残りの場合は別に扱う必要があることも Heath が注意している(p. 49)。本記事の def-inscribed-angle-arc のように弧の中心角を $0^\circ$ から $360^\circ$ の間の量として定めると、これらの場合が 1 つの主張にまとまる。命題 21 の逆(同じ底辺の同じ側で等しい角をなす頂点は同じ円周上にある)は Heath の注(p. 50)で背理法により証明されており、本記事の thm-inscribed-angle-converse はそれを内部・外部の場合に分けて比べる形にしたものである。
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