トーリック多様体

同義語:toric varietyトーリック・バラエティ

概要

トーリック多様体(toric variety)とは、代数的トーラス $T_N=\operatorname{Spec}k[M]$ を稠密な開集合として含み、トーラスの積がその上の作用に延びる代数多様体である。格子 $N$ の中の扇 $\Sigma$ に対し、各錐 $\sigma$ の双対錐の格子点がなすモノイドのモノイド環のスペクトル $U_\sigma$ を貼り合わせると、この性質をもつ正規で分離的な多様体 $X_\Sigma$ が得られる。$U_\sigma$ は Gordan の補題により有限型で正規であり、扇の条件から分離性が従う。アフィン空間や射影空間はこの形をしており、固有性や非特異性などの幾何学的な性質が錐の性質に翻訳されるので、代数幾何の具体例と反例を作る場になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: アフィン多様体, スキーム, 凸集合, 多面体, 整閉整域

トーリック多様体は、代数的トーラス $(\mathbb{G}_m)^n$ を稠密な開集合として含み、トーラスの積がその上の作用に延びるような代数多様体である。正規なトーリック多様体は「扇」とよばれる有限個の凸錐の組合せ的なデータから作られ(基礎体が代数閉体ならすべてこの形である。rem-toric-abstract)、アフィン空間・射影空間・それらの積やブローアップなど、代数幾何の基本的な例の多くがこの形をしている。幾何学的な性質(正規性・分離性・固有性・非特異性)が凸錐の性質に翻訳されるので、一般論の具体例や反例を作る場として使われる。
この記事では、格子の中の有理多面錐からアフィントーリック多様体を作り、それが正規で、トーラスを稠密な開集合として含むことを証明する。次に扇から一般のトーリック多様体を貼り合わせ、分離的であることを示す。さらに 1 パラメータ部分群の極限を計算し、固有ならば扇の台が全空間になることを証明する。射影空間がこの構成で得られることも確かめる。

錐と双対錐

以下、$k$ を体、$N\cong\mathbb{Z}^n$ を階数 $n$ の格子、$M:=\operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(N,\mathbb{Z})$ を双対格子とし、自然なペアリングを $\langle m,v\rangle$ と書く。$N_{\mathbb{R}}:=N\otimes\mathbb{R}$、$M_{\mathbb{R}}:=M\otimes\mathbb{R}$ とし、ペアリングを実数係数に延ばす。

有理多面錐と双対錐

有限集合 $\{u_1,\dots,u_r\}\subset N$ に対し
$$ \sigma=\operatorname{cone}(u_1,\dots,u_r):=\Bigl\{\sum_{i=1}^r\lambda_iu_i\Bigm|\lambda_i\ge0\Bigr\}\subset N_{\mathbb{R}} $$
の形の集合を 有理多面錐 という($r=0$ なら $\sigma=\{0\}$)。$\sigma\cap(-\sigma)=\{0\}$ のとき $\sigma$ は 強凸 であるという。$\sigma$ の 双対錐 を
$$ \sigma^\vee:=\{m\in M_{\mathbb{R}}\mid\text{すべての }v\in\sigma\text{ で }\langle m,v\rangle\ge0\} $$
とし、$S_\sigma:=\sigma^\vee\cap M$ とおく。$S_\sigma$ は加法について可換モノイドである。$m\in S_\sigma$ に対し $\sigma\cap m^\perp$($m^\perp:=\{v\mid\langle m,v\rangle=0\}$)の形の部分集合を $\sigma$ の 面 という($m=0$ とすれば $\sigma$ 自身も面である)。

$\sigma^\vee=\{m\mid\langle m,u_i\rangle\ge0\ (i=1,\dots,r)\}$ である。面 $\tau=\sigma\cap m^\perp$ は、$u_i$ のうち $\langle m,u_i\rangle=0$ となるものが生成する有理多面錐である($\sum\lambda_iu_i\in m^\perp$ なら、$\lambda_i>0$ の項はすべて $\langle m,u_i\rangle=0$)。次の補題は、有限個の生成元による記述と有限個の不等式による記述が行き来できることをまとめたものである。

有理多面錐の双対性

$\sigma,\sigma'\subset N_{\mathbb{R}}$ を有理多面錐とする。

  1. 有限個の $m_1,\dots,m_s\in M$ があって $\sigma=\{v\mid\langle m_j,v\rangle\ge0\ (j=1,\dots,s)\}$ である。
  2. $\sigma^\vee=\operatorname{cone}(m_1,\dots,m_s)$ であり、とくに $\sigma^\vee$ は $M_{\mathbb{R}}$ の有理多面錐である。
  3. $(\sigma^\vee)^\vee=\sigma$ である($N_{\mathbb{R}}$ を $M_{\mathbb{R}}$ の双対とみる)。
  4. $(\sigma\cap\sigma')^\vee=\sigma^\vee+\sigma'^\vee$ である。
  5. 有理多面錐 $\operatorname{cone}(w_1,\dots,w_t)$($w_j$ は格子の元)に属する格子の元は、$w_j$ の $0$ 以上の有理数係数の 1 次結合で書ける。
Fourier–Motzkin の消去法と Farkas の補題

要点:1 は「有限生成の錐は多面体」という Fourier–Motzkin の消去法の帰結で、2・3 は Farkas の補題による分離、4 は 3 を 2 回使う。

詳細

1:多面体 の定理「有限個の点の凸包は多面体」($v_1=0$ の場合)により、$\sigma=\{v\mid Av\le b\}$ と有限個の 1 次不等式で書ける。消去法の各段は係数に有理数の演算しか使わないので、$u_i$ が格子の元なら $A,b$ は有理数にとれる(多面体 の定理「Fourier–Motzkin の消去法」)。$\sigma$ は錐なので $0\in\sigma$ から $b\ge0$ であり、$v\in\sigma$ と $t>0$ について $A(tv)\le b$ から $Av\le0$ である。逆に $Av\le0$ なら $Av\le b$ である。よって $\sigma=\{Av\le0\}$ で、$A$ の各行に正の整数を掛けて $-m_j\in M$ とすればよい。

2:$m_j\in\sigma^\vee$ は 1 から明らか。$m\in\sigma^\vee$ が $\operatorname{cone}(m_1,\dots,m_s)$ に属さないとすると、線形計画法 の系「等式と非負条件の形の Farkas の補題」により、$y\in N_{\mathbb{R}}$ で $\langle m_j,y\rangle\ge0$(すべての $j$)かつ $\langle m,y\rangle<0$ となるものがある。1 により $y\in\sigma$ なので $m\notin\sigma^\vee$ となり矛盾する。

3:$\sigma\subset(\sigma^\vee)^\vee$ は定義から明らか。$v\notin\sigma$ なら、同じ Farkas の補題を $\sigma=\operatorname{cone}(u_1,\dots,u_r)$ に当てて、$m\in M_{\mathbb{R}}$ で $\langle m,u_i\rangle\ge0$(すべての $i$)かつ $\langle m,v\rangle<0$ となるものがとれる。$m\in\sigma^\vee$ なので $v\notin(\sigma^\vee)^\vee$ である。

4:$\supset$ は明らか。2 により $\sigma^\vee+\sigma'^\vee$ は有理多面錐で、その双対は $(\sigma^\vee)^\vee\cap(\sigma'^\vee)^\vee=\sigma\cap\sigma'$ である(和の双対は双対の共通部分)。3 を $\sigma^\vee+\sigma'^\vee$ に当てると $\sigma^\vee+\sigma'^\vee=(\sigma\cap\sigma')^\vee$ である。

5:$x=\sum_j\lambda_jw_j$($\lambda_j\ge0$)と、$\lambda_j>0$ となる $j$ の個数が最小になるように書く。その $w_j$ たちが 1 次従属なら、関係 $\sum_j\mu_jw_j=0$(ある $\mu_j>0$)を使って $\lambda_j-c\mu_j$ の最小値が $0$ になるまで $c>0$ を増やすと、個数が減って矛盾する。よって現れる $w_j$ は 1 次独立で、係数 $\lambda_j$ は有理数を係数とする連立 1 次方程式のただ 1 つの解なので有理数である。$\square$

アフィントーリック多様体

可換モノイド $S\subset M$ に対し、$k[S]$ を $\{\chi^m\mid m\in S\}$ を基底とし $\chi^m\chi^{m'}=\chi^{m+m'}$ で積を定めた $k$ 代数とする(モノイド環)。$k[M]=k[\chi^{\pm e_1^*},\dots,\chi^{\pm e_n^*}]$($e_i^*$ は $M$ の基底)は Laurent 多項式環であり、$T_N:=\operatorname{Spec}k[M]\cong\mathbb{G}_m^n$ を 代数的トーラス という。$T_N$ は群スキームで、積は $\chi^m\mapsto\chi^m\otimes\chi^m$ に対応する。$k[S]$ は $k[M]$ の部分環であり、$k[M]$ の元 $\sum a_m\chi^m$ が $k[S]$ に属することは、$a_m\ne0$ となる $m$ がすべて $S$ に属することと同値である。

アフィントーリック多様体

強凸な有理多面錐 $\sigma\subset N_{\mathbb{R}}$ に対し、$U_\sigma:=\operatorname{Spec}k[S_\sigma]$ を $\sigma$ の アフィントーリック多様体 という。

アフィントーリック多様体の基本性質

$\sigma\subset N_{\mathbb{R}}$ を強凸な有理多面錐とする。

  1. (Gordan の補題)モノイド $S_\sigma$ は有限生成であり、$k[S_\sigma]$ は有限生成 $k$ 代数である。
  2. ある $m_0\in S_\sigma$ について $k[S_\sigma]_{\chi^{m_0}}=k[M]$ であり、$T_N$ は $U_\sigma$ の稠密な主開集合である。$U_\sigma$ は次元 $n$ の整なアフィン $k$ スキームである。
  3. $k[S_\sigma]$ は整閉整域であり、$U_\sigma$ は正規スキームである。
  4. $\tau=\sigma\cap m^\perp$($m\in S_\sigma$)を面とすると $S_\tau=S_\sigma+\mathbb{Z}_{\ge0}(-m)$、したがって $k[S_\tau]=k[S_\sigma]_{\chi^m}$ であり、$U_\tau$ は $U_\sigma$ の主開集合 $D(\chi^m)$ に一致する。
  5. $\chi^m\mapsto\chi^m\otimes\chi^m$ は $T_N$ の $U_\sigma$ への作用 $T_N\times U_\sigma\to U_\sigma$ を定め、$T_N\subset U_\sigma$ の上ではトーラスの積に一致する。
双対錐の格子点と単項式の台
  1. lem-toric-duality の 2 により $\sigma^\vee=\operatorname{cone}(m_1,\dots,m_s)$、$m_j\in M$ と書ける。$K:=\{\sum_jt_jm_j\mid0\le t_j\le1\}$ は有界なので $K\cap M$ は有限集合である。$m\in S_\sigma$ を $m=\sum_j\lambda_jm_j$($\lambda_j\ge0$)と書くと、$m=\sum_j\lfloor\lambda_j\rfloor m_j+p$、$p:=\sum_j(\lambda_j-\lfloor\lambda_j\rfloor)m_j$ であり、$p=m-\sum_j\lfloor\lambda_j\rfloor m_j\in M\cap K$ である。よって有限集合 $(K\cap M)\cup\{m_1,\dots,m_s\}$ が $S_\sigma$ を生成し、対応する $\chi^m$ が $k[S_\sigma]$ を生成する。
  2. lem-toric-duality の 1 の $m_j$ について $m_0:=m_1+\dots+m_s\in S_\sigma$ とおく。$u\in\sigma$ で $\langle m_0,u\rangle=0$ なら、すべての $j$ で $\langle m_j,u\rangle=0$、したがって $\langle m_j,-u\rangle\ge0$ で $-u\in\sigma$ となり、強凸性から $u=0$ である。よって $\sigma=\operatorname{cone}(u_1,\dots,u_r)$($u_i\ne0$)について $\langle m_0,u_i\rangle>0$ であり、任意の $m\in M$ に対し十分大きい整数 $p$ で $m+pm_0\in S_\sigma$ となる。ゆえに $\chi^m=\chi^{m+pm_0}/\chi^{pm_0}\in k[S_\sigma]_{\chi^{m_0}}$ であり、$k[S_\sigma]_{\chi^{m_0}}=k[M]$ である。$k[S_\sigma]\subset k[M]$ は整域なので $U_\sigma$ は整で、空でない開集合 $D(\chi^{m_0})=T_N$ は稠密である。次元が $n$ であることは Dan78 3.1 による(関数体 $k(M)$ の $k$ 上の超越次数が $n$)。
  3. $\sigma=\operatorname{cone}(u_1,\dots,u_r)$、$u_i\ne0$ と書き($\sigma=\{0\}$ なら $r=0$ で $k[S_\sigma]=k[M]$)、$H_i:=\{m\in M\mid\langle m,u_i\rangle\ge0\}$ とおくと $S_\sigma=\bigcap_iH_i$ である。単項式の台の言い換えにより $k[S_\sigma]=\bigcap_ik[H_i]$($k[M]$ の中で)である。各 $k[H_i]$ は正規である。
    詳細

    $u_i=d\,u'$($d$ は正の整数、$u'\in N$ は原始的、すなわち $u'=d'w$、$w\in N$ なら $d'=\pm1$)と書く。$N/\mathbb{Z}u'$ は捩れのない有限生成アーベル群なので自由であり、$u'$ は $N$ の基底 $u'=e_1,e_2,\dots,e_n$ に延びる。双対基底 $e_j^*$ を使うと $H_i=\{\sum a_je_j^*\mid a_1\ge0\}$ なので、$k[H_i]=k[x_1,x_2^{\pm1},\dots,x_n^{\pm1}]$($x_j=\chi^{e_j^*}$)である。これは多項式環の局所化で一意分解整域であり、一意分解整域は整閉である($a/b$ が既約分数で整なら、$b$ の素因子 $p$ は $a^{\ell}$ を割り、$p\mid a$ となって矛盾)。

    $k[S_\sigma]$ と各 $k[H_i]$ の商体はどれも $k(M)$ である(2 による)。$z\in k(M)$ が $k[S_\sigma]$ 上整なら、各 $k[H_i]$ 上整なので $z\in k[H_i]$、よって $z\in\bigcap_ik[H_i]=k[S_\sigma]$ である。
  4. $S_\sigma\subset S_\tau$ と $-m\in S_\tau$($\tau\subset m^\perp$)から $\supset$ は明らか。$m'\in S_\tau$ をとる。$\sigma=\operatorname{cone}(u_1,\dots,u_r)$ の生成元のうち、$u_i\in\tau$ なら $\langle m',u_i\rangle\ge0$、$\langle m,u_i\rangle=0$ であり、$u_i\notin\tau$ なら $\langle m,u_i\rangle>0$ である。よって十分大きい整数 $p$ で $\langle m'+pm,u_i\rangle\ge0$(すべての $i$)、すなわち $m'+pm\in S_\sigma$ で、$m'=(m'+pm)+p(-m)$ である。環については $k[S_\sigma+\mathbb{Z}_{\ge0}(-m)]=k[S_\sigma]_{\chi^m}$ による。
  5. $m\in S_\sigma$ なら $\chi^m\otimes\chi^m\in k[M]\otimes_kk[S_\sigma]$ なので、$\chi^m\mapsto\chi^m\otimes\chi^m$ は $k$ 代数の準同型 $k[S_\sigma]\to k[M]\otimes_kk[S_\sigma]$ を定める。結合律と単位元の条件は $\chi^m$ ごとに確かめればよく、$T_N$ の積と同じ式である。$\square$

$S_\sigma$ は シャープモノイド の記事の意味で fine(有限生成で消約的)かつ saturated($\ell m\in S_\sigma$、$\ell\ge1$ なら $m\in S_\sigma$)である。単元群は $\sigma^\vee\cap(-\sigma^\vee)\cap M=\sigma^\perp\cap M$ なので、$S_\sigma$ がシャープであることと $\sigma$ が $N_{\mathbb{R}}$ を張ることは同値である。このとき $U_\sigma$ には $\chi^m$($m\ne0$)がすべて消える点がただ 1 つあり、それは $T_N$ の作用の固定点である。

扇とトーリック多様体

扇とトーリック多様体

$N_{\mathbb{R}}$ の強凸な有理多面錐の有限集合 $\Sigma$ が次の 2 条件をみたすとき、$\Sigma$ を 扇(fan)という。

  1. $\sigma\in\Sigma$ の面はすべて $\Sigma$ に属する。
  2. $\sigma,\sigma'\in\Sigma$ なら、$\sigma\cap\sigma'$ は $\sigma$ の面であり、かつ $\sigma'$ の面である。
    $|\Sigma|:=\bigcup_{\sigma\in\Sigma}\sigma$ を扇の 台 という。$\sigma,\sigma'\in\Sigma$ について、thm-toric-affine の 4 により $U_{\sigma\cap\sigma'}$ は $U_\sigma$ と $U_{\sigma'}$ の両方の開集合なので、$U_\sigma$ たちを $U_{\sigma\cap\sigma'}$ に沿って貼り合わせることができる。得られる $k$ スキームを $X_\Sigma$ と書き、扇 $\Sigma$ の トーリック多様体(toric variety)という。

貼り合わせが矛盾なく定まることは、すべての $U_\sigma$ が $k[M]$ の部分環のスペクトルで、貼り合わせの写像がどれも包含 $k[S_\sigma]\subset k[S_\tau]\subset k[M]$ から来ることによる。3 つの錐については、$\tau_1=\sigma\cap m_1^\perp$、$\tau_2=\sigma\cap m_2^\perp$ なら $\tau_1\cap\tau_2=\sigma\cap(m_1+m_2)^\perp$($\sigma$ の上で $m_1,m_2\ge0$)なので、$U_\sigma$ の中で $U_{\tau_1}\cap U_{\tau_2}=D(\chi^{m_1+m_2})=U_{\tau_1\cap\tau_2}$ となり、貼り合わせの条件がみたされる。$\{0\}$ はすべての $\sigma$ の面なので、$T_N=U_{\{0\}}$ はすべての $U_\sigma$ に共通の稠密な開集合であり、thm-toric-affine の 5 の作用は貼り合わさって $T_N\times X_\Sigma\to X_\Sigma$ を与える。

トーリック多様体の分離性

$\Sigma$ を扇とする。$X_\Sigma$ は $k$ 上有限型で分離的な、次元 $n$ の正規な整スキームであり、$T_N$ を稠密な開集合として含む。

分離の補題

有限型・正規・整・次元・$T_N$ の稠密性は、有限個の $U_\sigma$ で覆われ、それらがすべて $T_N$ を稠密な開集合として含むこと(thm-toric-affine)から従う。分離性を示す。$\sigma,\sigma'\in\Sigma$、$\tau:=\sigma\cap\sigma'$ とすると $U_\sigma\cap U_{\sigma'}=U_\tau$ はアフィンなので、Stacks Tag 01KP により
$$ k[S_\sigma]\otimes_kk[S_{\sigma'}]\to k[S_\tau]\quad\text{が全射}\qquad\Longleftarrow\qquad S_\tau=S_\sigma+S_{\sigma'} $$
を示せばよい。
分離の補題:$m\in S_\sigma$、$-m\in S_{\sigma'}$ で $\tau=\sigma\cap m^\perp=\sigma'\cap m^\perp$ となる $m$ がある。これを認めると、thm-toric-affine の 4 により $S_\tau=S_\sigma+\mathbb{Z}_{\ge0}(-m)\subset S_\sigma+S_{\sigma'}$ で、逆の包含は明らかである。
補題の証明:$\tau$ は $\sigma$ の面なので $\tau=\sigma\cap m_1^\perp$($m_1\in S_\sigma$)、$\sigma'$ の面なので $\tau=\sigma'\cap m_2^\perp$($m_2\in S_{\sigma'}$)と書ける。$-m_1\in\tau^\vee$ なので、lem-toric-duality の 4・5 と 2 により $-m_1=a_1+b_1$($a_1\in\sigma^\vee$、$b_1\in\sigma'^\vee$、ともに有理点)と書け、同様に $-m_2=a_2+b_2$ と書ける。
$$ m:=m_1+a_1+a_2=-(m_2+b_2+b_1) $$
とおくと(両辺が等しいことは $m_1+a_1=-b_1$、$m_2+b_2=-a_2$ から)、$m\in\sigma^\vee$、$-m\in\sigma'^\vee$ である。$v\in\sigma$ で $\langle m,v\rangle=0$ なら、3 つの項はどれも $\ge0$ なので $\langle m_1,v\rangle=0$、すなわち $v\in\tau$ である。逆に $v\in\tau$ なら $\langle m_1,v\rangle=0$ であり、$\langle a_1,v\rangle+\langle b_1,v\rangle=0$ で両項は $\ge0$($v\in\sigma\cap\sigma'$)なので $\langle a_1,v\rangle=0$、同様に $\langle a_2,v\rangle=0$ で、$\langle m,v\rangle=0$ である。よって $\sigma\cap m^\perp=\tau$ であり、$\sigma'$ の側も対称な議論で $\sigma'\cap m^\perp=\tau$ である。$m$ は有理点なので、正の整数倍して $M$ の元にとれる。$\square$

1 パラメータ部分群と固有性

$v\in N$ に対し、$k$ 代数の準同型 $k[M]\to k[t,t^{-1}]$、$\chi^m\mapsto t^{\langle m,v\rangle}$ は群スキームの準同型 $\lambda_v\colon\mathbb{G}_m\to T_N$ を定める。これを $v$ の 1 パラメータ部分群 という。$N$ の基底で $T_N=\mathbb{G}_m^n$ と書けば、$v=(a_1,\dots,a_n)$ について $\lambda_v(t)=(t^{a_1},\dots,t^{a_n})$ である。扇の幾何は「$t\to0$ のとき $\lambda_v(t)$ がどこへ行くか」で読み取れる。

1 パラメータ部分群の極限

$R:=k[t]_{(t)}$、$K:=k(t)$ とし、$\lambda_v$ から得られる $K$ 点 $\operatorname{Spec}K\to T_N$ を $\gamma_v$ と書く。

  1. 強凸な有理多面錐 $\sigma$ について、$\gamma_v$ が $\operatorname{Spec}R\to U_\sigma$ に延びることと $v\in\sigma$ は同値である。
  2. 扇 $\Sigma$ について、$\gamma_v$ が $\operatorname{Spec}R\to X_\Sigma$ に延びることと $v\in|\Sigma|$ は同値である。
  1. 延びることは、$k[S_\sigma]\to K$、$\chi^m\mapsto t^{\langle m,v\rangle}$ の像が $R$ に入ること、すなわち $t^{\langle m,v\rangle}\in R$(すべての $m\in S_\sigma$)と同値である。$t^a\in R$ と $a\ge0$ は同値なので、これは $\langle m,v\rangle\ge0$(すべての $m\in S_\sigma$)である。$\sigma^\vee$ は $S_\sigma$ の元で生成されるので(lem-toric-duality の 2)、これは $v\in(\sigma^\vee)^\vee=\sigma$(同 3)と同値である。
  2. $v\in\sigma\in\Sigma$ なら 1 により延びる。逆に延長 $\operatorname{Spec}R\to X_\Sigma$ があるとき、閉点の像を含む $U_\sigma$ をとる。生成点の像は $T_N\subset U_\sigma$ にあり、$\operatorname{Spec}R$ は 2 点からなるので、延長は $U_\sigma$ を経由する。1 により $v\in\sigma$ である。$\square$
固有なトーリック多様体の扇

扇 $\Sigma$ について、$X_\Sigma$ が $k$ 上固有(固有射)なら $|\Sigma|=N_{\mathbb{R}}$ である。

付値判定法を 1 パラメータ部分群に当てる

$X_\Sigma$ は分離的な有限型の $k$ スキームなので(thm-toric-separated)、固有射 の定理「固有性の付値判定法」を付値環 $R=k[t]_{(t)}$ に使える。固有なら、任意の $v\in N$ について $\gamma_v$ は $\operatorname{Spec}R\to X_\Sigma$ に延び、prop-toric-limit の 2 により $v\in|\Sigma|$ である。$|\Sigma|$ は錐の和なので正の実数倍で閉じ、$N$ を含むから $N\otimes\mathbb{Q}$ を含む。$|\Sigma|$ は有限個の閉集合の和で閉であり、$N\otimes\mathbb{Q}$ は $N_{\mathbb{R}}$ で稠密なので $|\Sigma|=N_{\mathbb{R}}$ である。$\square$

逆に $|\Sigma|=N_{\mathbb{R}}$ なら $X_\Sigma$ は固有である。証明は付値判定法を離散付値環に当てて $T_N$ の点に帰着するもので、この記事では証明しない(Dan78 5.5.6)。$|\Sigma|=N_{\mathbb{R}}$ をみたす扇を 完備 という。

例

アフィン空間とトーラス

$N=\mathbb{Z}^n$、$e_1,\dots,e_n$ を標準基底、$e_1^*,\dots,e_n^*$ を双対基底、$x_i:=\chi^{e_i^*}$ とする。$\sigma=\operatorname{cone}(e_1,\dots,e_n)$ なら $\sigma^\vee=\operatorname{cone}(e_1^*,\dots,e_n^*)$、$S_\sigma=\mathbb{Z}_{\ge0}^n$ で、$U_\sigma=\operatorname{Spec}k[x_1,\dots,x_n]=\mathbb{A}^n_k$ である。$\sigma=\operatorname{cone}(e_1,\dots,e_r)$($r\le n$)なら $U_\sigma=\mathbb{A}^r\times\mathbb{G}_m^{n-r}$、$\sigma=\{0\}$ なら $U_\sigma=T_N$ である。$\mathbb{A}^n$ の扇($\sigma$ とそのすべての面)の台は $\sigma$ で $N_{\mathbb{R}}$ ではなく、thm-toric-complete のとおり $\mathbb{A}^n$ は固有でない。$v=-e_1$ の 1 パラメータ部分群 $(t^{-1},1,\dots,1)$ は $t\to0$ で極限をもたない。

射影空間の扇

$e_0:=-(e_1+\dots+e_n)$ とし、$\{e_0,\dots,e_n\}$ の真部分集合が生成する錐全体を $\Sigma$ とする。$\Sigma$ は完備な扇で、$X_\Sigma\cong\mathbb{P}^n_k$ である。$n=1$ なら $\Sigma=\{\{0\},\mathbb{R}_{\ge0},\mathbb{R}_{\le0}\}$ で、$U_{\mathbb{R}_{\ge0}}=\operatorname{Spec}k[x]$ と $U_{\mathbb{R}_{\le0}}=\operatorname{Spec}k[x^{-1}]$ を $\operatorname{Spec}k[x,x^{-1}]$ に沿って貼った $\mathbb{P}^1$ である。

詳細

扇であること:$e_0,\dots,e_n$ の間の 1 次関係は $\sum_ie_i=0$ の定数倍だけである。真部分集合 $A,B$ について $v\in\operatorname{cone}(A)\cap\operatorname{cone}(B)$ を $v=\sum_A\alpha_ie_i=\sum_B\beta_ie_i$(係数 $\ge0$)と書くと、係数の差は定数 $c$ である。$A$ に属さない $j$ では $-\beta_j=c\le0$、$B$ に属さない $j'$ では $\alpha_{j'}=c\ge0$ なので $c=0$ であり、$v\in\operatorname{cone}(A\cap B)$ である。よって共通部分は両方の面 $\operatorname{cone}(A\cap B)$ である(真部分集合が生成する錐の面は部分集合が生成する錐で、各 $\sigma_i$ は基底で生成される)。

$\mathbb{P}^n=\operatorname{Proj}k[X_0,\dots,X_n]$ の関数体の中で $x_i=X_i/X_0$ と同一視する。$\sigma_i$ を $e_i$ 以外の $n$ 個が生成する錐とする。$\sigma_0=\operatorname{cone}(e_1,\dots,e_n)$ で $k[S_{\sigma_0}]=k[X_1/X_0,\dots,X_n/X_0]$ である。$i\ge1$ なら $\sigma_i^\vee$ は $\langle m,e_j\rangle\ge0$($j\ne0,i$)と $\langle m,e_0\rangle\ge0$ で定まり、$m=\sum a_je_j^*$ について $a_j\ge0$($j\ne i$)かつ $a_i\le-\sum_{j\ne i}a_j$ である。これは $e_j^*-e_i^*$($j\ne0,i$)と $-e_i^*$ が生成するモノイドに等しい($m=\sum_{j\ne i}a_j(e_j^*-e_i^*)+c(-e_i^*)$、$c=-a_i-\sum_{j\ne i}a_j\ge0$)。よって $k[S_{\sigma_i}]=k[X_j/X_i\ (j\ne i)]$ であり、$U_{\sigma_i}$ は $\mathbb{P}^n$ の標準アフィン開集合 $D_+(X_i)$ と同じ $k(x_1,\dots,x_n)$ の部分環のスペクトルである。$\sigma_i\cap\sigma_j$ は $e_i,e_j$ 以外が生成する面で、$\sigma_i\cap(e_j^*-e_i^*)^\perp$($e_0^*:=0$ とおく)に等しく、$U_{\sigma_i\cap\sigma_j}=D(X_j/X_i)=D_+(X_iX_j)$ である。こうして $X_\Sigma$ と $\mathbb{P}^n$ は同じアフィン開集合を同じ貼り合わせで貼ったものであり、同型である。完備性:$v=\sum_{i\ge1}a_ie_i$ について $a_0:=0$ とし、$a_l$ を $a_0,\dots,a_n$ の最小値とすると $v=\sum_{i\ne l}(a_i-a_l)e_i$($e_0=-\sum e_i$ を使う)で、係数は $\ge0$ だから $v\in\sigma_l$ である。

特異点をもつアフィントーリック曲面

$N=\mathbb{Z}^2$、$\sigma=\operatorname{cone}(e_2,\,2e_1-e_2)$ とする。$\sigma^\vee=\{(a,b)\mid b\ge0,\ 2a-b\ge0\}$ で、$S_\sigma$ は $(1,0),(1,1),(1,2)$ で生成される。$u=\chi^{(1,0)}$、$v=\chi^{(1,1)}$、$w=\chi^{(1,2)}$ とおくと $uw=v^2$ であり、$U_\sigma$ は 2 次錐 $\{uw=v^2\}$ である。$U_\sigma$ は原点(固定点)で特異である。

詳細

生成:$(a,b)\in S_\sigma$ で $b\le a$ なら $(a,b)=(a-b)(1,0)+b(1,1)$、$a< b\le2a$ なら $(a,b)=(2a-b)(1,1)+(b-a)(1,2)$。同型:$k[u,v,w]/(uw-v^2)$ は $u^av^\varepsilon w^c$($\varepsilon\in\{0,1\}$)を基底にもち($v^2$ を $uw$ に置き換える)、これは $\chi^{(a+\varepsilon+c,\ \varepsilon+2c)}$ に写る。$(p,q)\in S_\sigma$ から $\varepsilon\equiv q\pmod2$、$c=(q-\varepsilon)/2$、$a=p-\varepsilon-c$ がただ 1 通りに決まるので、基底が基底に全単射で写り、$k[u,v,w]/(uw-v^2)\cong k[S_\sigma]$ である。特異性:固定点の極大イデアル $\mathfrak{m}$ は $\chi^s$($s\in S_\sigma\setminus\{0\}$)で張られ、$\mathfrak{m}^2$ は $\chi^{s+s'}$($s,s'\ne0$)で張られる。$S_\sigma\setminus\{0\}$ の元は第 1 成分が $1$ 以上なので、第 1 成分が $1$ の 3 つの元は 2 つの $0$ でない元の和にならず、第 1 成分が $2$ 以上の元は上の生成の式により和になる。よって $\dim_k\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2=3>2=\dim U_\sigma$ で、この点の局所環は正則でない。

一般に、$\sigma$ が $N$ のある基底の一部で生成されるなら $U_\sigma\cong\mathbb{A}^r\times\mathbb{G}_m^{n-r}$ で非特異である(ex-toric-affine-space と同じ計算)。逆に $U_\sigma$ が非特異なら $\sigma$ は基底の一部で生成される(Dan78 3.3。この記事では証明しない)。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
$\sigma$ の強凸性$N=\mathbb{Z}$、$\sigma=N_{\mathbb{R}}$$S_\sigma=\{0\}$、$U_\sigma=\operatorname{Spec}k$ は 1 点で、$T_N$ を開集合として含まない(thm-toric-affine の 2)
モノイドが $\sigma^\vee\cap M$ の形(飽和性)$S=\{0,2,3,4,\dots\}\subset\mathbb{Z}$$k[S]=k[t^2,t^3]$ は $T_N$ を含むが整閉でない(同 3)
扇の完備性 $\lvert\Sigma\rvert=N_{\mathbb{R}}$$\mathbb{A}^n$ の扇$X_\Sigma=\mathbb{A}^n$ は固有でない(ex-toric-affine-space)
$\sigma$ が基底の一部で生成される$\operatorname{cone}(e_2,2e_1-e_2)$$U_\sigma$ は非特異でない(ex-toric-singular)
詳細

1 行目:$\sigma^\vee=\{0\}$ なので $S_\sigma=\{0\}$、$k[S_\sigma]=k$ であり、$U_\sigma$ は 0 次元で、1 次元の $T_N$ を含みえない。

2 行目:$S$ は $\mathbb{Z}_{\ge0}$ の部分モノイドで $\mathbb{Z}$ を生成し、$k[S]_{t^2}=k[t,t^{-1}]$ なので $T_N=\mathbb{G}_m$ を稠密な開集合として含み、$\mathbb{G}_m$ の作用もある。しかし $t=t^3/t^2$ は $k[S]$ の商体の元で $X^2-t^2=0$ の根だから整だが、$t\notin k[S]$ である。$S$ は saturated でない($2\cdot1\in S$、$1\notin S$)。

補足

抽象的な定義と射影性

正規な分離的 $k$ 多様体 $X$ が $T_N$ を稠密な開集合として含み、$T_N$ の自分自身への積が $X$ への作用に延びるとき、$X$ は($k$ が代数閉体なら)ある扇 $\Sigma$ の $X_\Sigma$ と同型である。この特徴づけはこの記事では証明しない(言明は Dan78 5.7)。$T_N$ の軌道は $\Sigma$ の錐と 1 対 1 に対応し、$\sigma$ に対応する軌道の次元は $n-\dim\sigma$ である(同 5.7)。完備な扇でも $X_\Sigma$ が射影的とは限らず、Dan78 6.9 は射影性を扇の上の区分線形関数の凸性で判定する条件を述べ、完備で射影的でない例が 3 次元にあることを図で示している(この記事では証明しない)。固有射 の記事の反例「射影的でない固有スキーム」が挙げる例の一つである。

関連項目

参考文献

[1]
V. I. Danilov, The geometry of toric varieties, Russian Mathematical Surveys, 1978, 1.3(Gordan の補題、p. 103)、3.1・3.2・3.3(次元・正規性・非特異性、p. 106)、5.3・5.4(射影空間・分離性、p. 113)、5.5.6(固有性の判定、p. 114)、5.7(軌道、p. 115)、6.9(射影性、pp. 118–119)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する