平行線公準(高校数学)

同義語:parallel postulate (high school mathematics)

概要

平行線公準(parallel postulate)とは、Euclid の第 5 公準「横断線の一方の側の同側内角の和が $180^\circ$ より小さい 2 直線はその側で交わる」である。平行線公準を使わない中立幾何でも、外角は隣り合わないどちらの内角よりも大きいこと、錯角が等しい 2 直線は平行であることが示せ、平行線が少なくとも 1 本あることが分かる。そのうえで、第 5 公準、Playfair の公理(直線外の 1 点を通る平行線はただ 1 本)、どの三角形でも内角の和が $180^\circ$ であることの 3 つが同値であることを証明する。Poincaré 円板では平行線が無数にあり、内角の和が約 $151.93^\circ$ の三角形がある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 三角形の内角の和, 三角形の合同条件, 背理法

高校での出発点:平行線はなぜ 1 本しかないのか

中学校では「直線 $\ell$ の上にない点 $P$ を通り、$\ell$ に平行な直線はちょうど 1 本ある」ことを当たり前のこととして使い、そこから「平行線の錯角は等しい」「三角形の内角の和は $180^\circ$」を導いた(三角形の内角の和)。しかし、「ちょうど 1 本」は本当に証明できることなのだろうか。
古代ギリシャの Euclid『原論』は、証明なしに認める 5 つの 公準(今の言葉で公理)から平面幾何を組み立てた。その 5 番目が 平行線公準 で、ほかの 4 つよりずっと長く複雑である。2000 年以上にわたって多くの人が「平行線公準はほかの公準から証明できるのではないか」と考えて失敗し、19 世紀になって、平行線公準が成り立たない幾何(非Euclid幾何学)も矛盾なく作れることが分かった(Hit18 §1.2、pp. 3–6)。
この記事では、平行線公準が何を言っているかを確かめ、それと同じ内容の言い換え(Playfair の公理、三角形の内角の和が $180^\circ$)を証明する。まず、平行線公準の内容を数値で見ておく。

同じ側の内角の和が 180° より小さい 2 直線

座標平面で、横断線 $t$ を $y$ 軸とし、$P=(0,0)$、$Q=(0,2)$ とする(図1)。$P$ を通る直線 $\ell$ を、$P$ から右上へ $x$ 軸と $10^\circ$ をなす向きに引く($\ell\colon y=x\tan10^\circ$)。$Q$ を通る直線 $m$ を水平に引く($m\colon y=2$)。
$t$ の右側で、$P$ における内角(半直線 $PQ$ と、$\ell$ の右へ向かう部分のなす角)は $90^\circ-10^\circ=80^\circ$、$Q$ における内角(半直線 $QP$ と、$m$ の右へ向かう部分のなす角)は $90^\circ$ で、和は $170^\circ$ である。$180^\circ$ より $10^\circ$ 小さい。
$\ell$ と $m$ の交点は $x\tan10^\circ=2$ から $x=\dfrac2{\tan10^\circ}\approx\dfrac{2}{0.1763}\approx11.34$ で、交点 $(11.34\ldots,\ 2)$ は $t$ の右側、つまり和が $180^\circ$ より小さい側にある。$\ell$ を $x$ 軸と $5^\circ$ をなす向きにすると(内角の和は $175^\circ$)、交点は $x=\dfrac2{\tan5^\circ}\approx22.86$ まで遠ざかる。和が $180^\circ$ に近いほど交点は遠くなるが、$180^\circ$ より小さい限り必ず交わる、というのが平行線公準の主張である。

横断線 t の右側で、P の内角 80° と Q の内角 90° の和は 170°。2 直線 ℓ と m は右側の約 11.34 の所で交わる 横断線 t の右側で、P の内角 80° と Q の内角 90° の和は 170°。2 直線 ℓ と m は右側の約 11.34 の所で交わる

同じ側の内角の和が 180° の 2 直線

ex-ppl-start-meet と同じ $P,Q$ で、$\ell$ も水平にする($\ell\colon y=0$)。右側の内角は $90^\circ$ と $90^\circ$ で和は $180^\circ$、左側でも $90^\circ+90^\circ=180^\circ$ である。$\ell\colon y=0$ と $m\colon y=2$ は交わらない。
$\ell$ を $y=x\tan20^\circ$ にすると、右側の内角は $70^\circ$ と $90^\circ$(和 $160^\circ$)、左側の内角は $110^\circ$ と $90^\circ$(和 $200^\circ$)になる。交点は $x=\dfrac2{\tan20^\circ}\approx5.49$ で、和が $180^\circ$ より小さい右側にある。左右の内角の和は、合わせるといつも $360^\circ$ なので、一方が $180^\circ$ より小さければ他方は大きい。

この記事で答える問いは次の 4 つである。

  1. 平行線公準を使わずに、どこまで証明できるか。→ thm-ppl-exterior、thm-ppl-alternate
  2. 平行線公準と「平行線はただ 1 本」は同じことか。→ thm-ppl-playfair
  3. 平行線公準と「内角の和は $180^\circ$」は同じことか。→ thm-ppl-angle-sum
  4. 平行線公準が成り立たない平面はあるか。→ ex-ppl-poincare、ex-ppl-hyperbolic-triangle
    高校(中学)で習うことこの記事の言葉大学の言葉
    平行線は 1 本だけ引けるPlayfair の公理(axm-ppl-playfair)平行線公準の同値な言い換え
    錯角が等しければ平行中立幾何の定理(thm-ppl-alternate)平行線公準なしで成り立つ
    平行なら錯角が等しい平行線公準を使う cor-ppl-parallel-alternate平行線公準と同値
    三角形の内角の和は $180^\circ$thm-ppl-angle-sum曲率 $0$、Euclid幾何学
    (教科書にはない)平行線が何本も引ける平面双曲幾何学、Poincaré 円板

Euclid の公準と平行線公準

Euclid が認めた 5 つの公準を、今の言葉に直して書く(Hea56 pp. 154–155 の英訳による)。

  1. どの点からどの点へも直線を引ける。
  2. 線分はまっすぐどこまでも延ばせる。
  3. どの点を中心に、どの長さを半径にしても円をかける。
  4. 直角はどれも互いに等しい。
  5. (平行線公準)次の axm-ppl-euclid。
    2 直線 $\ell$、$m$ に横断線 $t$ が $P$($\ell$ 上)と $Q$($m$ 上)で交わるとする($P\ne Q$)。$\ell$ 上の点 $X$ と $m$ 上の点 $Y$ が $t$ について同じ側にあるとき、$\angle XPQ$ と $\angle PQY$ を、その側の 同側内角 という。$t$ の反対側の同側内角は $180^\circ-\angle XPQ$ と $180^\circ-\angle PQY$ なので、左右の同側内角の和を合わせると $360^\circ$ である。錯角については 三角形の内角の和 の定義と同じで、$Y$ の反対側の点を $Y''$ とすると $\angle PQY''=180^\circ-\angle PQY$ なので、
  • 錯角が等しい ⇔ どちらの側でも同側内角の和が $180^\circ$
    である。
Euclid の第 5 公準

2 直線 $\ell$、$m$ に横断線 $t$ が交わり、$t$ の一方の側の同側内角の和が $180^\circ$ より小さいならば、$\ell$ と $m$ はその側で交わる。

Playfair の公理

直線 $\ell$ と、$\ell$ の上にない点 $P$ があるとき、$P$ を通り $\ell$ と交わらない直線は、ただ 1 本しかない。

axm-ppl-playfair は スコットランドの数学者 Playfair(1748–1819)の名で呼ばれるが、同じ内容は古代の Proclus の注釈にすでに見られる(Hea56 p. 220、Hit18 p. 4)。高校までの教科書が「平行線はただ 1 本」として使っているのはこちらの形である。

中立幾何

平行線公準を使わずに、ほかの公準(と、Euclid が暗に使っていた図形の基本的な性質)だけで示せる平面幾何を 中立幾何 という。この記事では、中立幾何の中で次の事実を証明なしに使う。どれも中学校で習う事実で、平行線公準を使わずに示せる(厳密な公理系は Hilbert が整えた。Hilbertの公理系)。

中立幾何で使う事実

(N1) 2 点を通る直線はただ 1 本ある。線分は延ばせ、半直線の上に与えた長さの点をとれる。線分には中点がある。
(N2) 三角形の合同条件(2 辺とその間の角、1 辺とその両端の角、3 辺)。二等辺三角形の底角は等しい(三角形の合同条件)。
(N3) 向かい合う角(対頂角)は等しい。一直線をなす 2 つの角の和は $180^\circ$ である。角を半直線で 2 つに分けると、2 つの角の和はもとの角に等しい。与えられた半直線に、与えられた大きさの角を、与えられた側に写せる。
(N4) 平面の分離:直線 $\ell$ 上にない 2 点を結ぶ線分が $\ell$ と交わらなければ 2 点は $\ell$ の同じ側に、交われば反対側にある。
(N5) 三角形 $ABC$ の頂点 $A$ から角 $\angle BAC$ の内側へ出る半直線は、辺 $BC$ と交わる。
(N6) 直線外の点から直線へ垂線を下ろせる。

平行線公準を使わずに示せること

外角の定理(弱い形)

三角形の内角の和 では「外角は隣り合わない 2 つの内角の和に等しい」を示したが、これは平行線公準を使う。平行線公準を使わなくても、次の弱い形は示せる。

外角の定理(中立幾何の形)

三角形 $ABC$ の辺 $BC$ を $C$ の先へ延ばし、延長上に点 $D$ をとる。外角 $\angle ACD$ は、隣り合わない内角 $\angle BAC$ よりも、$\angle ABC$ よりも大きい。

Euclid による証明

方針:辺 $AC$ の中点を使って、$\angle BAC$ と等しい角を外角 $\angle ACD$ の内側に作る(図2。Euclid『原論』第 I 巻 命題 16、Hea56 p. 279)。
段 1(点 $F$ を作る)。辺 $AC$ の中点を $E$ とする。半直線 $BE$ を $E$ の先へ延ばし、$EF=BE$ となる点 $F$ をとる(N1)。
段 2(合同)。三角形 $ABE$ と $CFE$ で、$AE=CE$($E$ は中点)、$BE=FE$(段 1)、$\angle AEB=\angle CEF$(対頂角、N3)である。2 辺とその間の角が等しいので合同で(N2)、対応する角について $\angle BAE=\angle FCE$ である。$E$ は線分 $AC$ 上にあるので $\angle BAE=\angle BAC$、$\angle FCE=\angle ACF$ である。よって $\angle ACF=\angle BAC$ である。
段 3($F$ は外角の内側にある)。線分 $BF$ は $E$ で直線 $AC$ と交わるので、$B$ と $F$ は直線 $AC$ の反対側にある(N4)。線分 $BD$ は $C$ で直線 $AC$ と交わるので、$B$ と $D$ も直線 $AC$ の反対側にある。したがって $F$ と $D$ は直線 $AC$ について同じ側にある。また、$E$ は線分 $AC$ の途中の点なので直線 $BC$ について $A$ と同じ側にあり、$F$ は半直線 $BE$ の上で $E$ より先にあるので、線分 $EF$ は直線 $BC$ と交わらず、$F$ も $A$ と同じ側にある(N4)。よって半直線 $CF$ は角 $\angle ACD$ の内側にあり、
$$ \angle ACD=\angle ACF+\angle FCD>\angle ACF $$
である(N3)。
段 4($\angle BAC$ について)。段 2 と段 3 から $\angle ACD>\angle ACF=\angle BAC$ である。
段 5($\angle ABC$ について)。辺 $AC$ を $C$ の先へ延ばし、延長上に点 $G$ をとる。$\angle BCG$ と $\angle ACD$ は対頂角なので等しい。段 1〜4 を、辺 $BC$ の中点を使って同じように行うと $\angle BCG>\angle ABC$ が得られる。よって $\angle ACD>\angle ABC$ である。

E は AC の中点、F は BE を E の先へ同じ長さだけ延ばした点。三角形 ABE と CFE は合同で、∠ECF = α は外角 ∠ACD の一部 E は AC の中点、F は BE を E の先へ同じ長さだけ延ばした点。三角形 ABE と CFE は合同で、∠ECF = α は外角 ∠ACD の一部

三角形の 2 つの角の和

三角形のどの 2 つの内角の和も $180^\circ$ より小さい。

外角から示す

三角形 $ABC$ の $\angle B$ と $\angle C$ について示す(ほかの組も同じ)。辺 $BC$ を $C$ の先へ延ばした点を $D$ とすると、$\angle ACD=180^\circ-\angle ACB$ である(N3)。thm-ppl-exterior から $\angle ACD>\angle ABC$ なので、$180^\circ-\angle ACB>\angle ABC$、つまり $\angle ABC+\angle ACB<180^\circ$ である(Euclid『原論』第 I 巻 命題 17、Hea56 p. 281)。

中立幾何の定理の使い方
  1. 三角形の内角の和 の例の三角形 $A=(0,0)$、$B=(4,0)$、$C=(1,3)$ では、内角は約 $71.565^\circ$、$45^\circ$、約 $63.435^\circ$ である。$B$ の外角は $180^\circ-45^\circ=135^\circ$ で、$71.565^\circ$ よりも $63.435^\circ$ よりも大きい。座標平面では平行線公準も成り立つので、$135^\circ$ はちょうど和 $71.565^\circ+63.435^\circ$ に等しい。thm-ppl-exterior はその「大きい」の部分だけを主張している。
  2. 2 つの角が $100^\circ$ と $85^\circ$ の三角形はない(和が $185^\circ$ で cor-ppl-two-angles に反する)。
  3. 直線 $\ell$ 上にない点 $P$ から $\ell$ へ引く垂線は 1 本しかない。もし 2 本の垂線 $PQ_1$、$PQ_2$($Q_1\ne Q_2$ は $\ell$ 上)があれば、三角形 $PQ_1Q_2$ の 2 つの角が $90^\circ$ で、和が $180^\circ$ になり cor-ppl-two-angles に反する。これも平行線公準を使わない。

錯角が等しければ平行

錯角が等しい 2 直線は交わらない

2 直線 $\ell$、$m$ に横断線 $t$ が $P$($\ell$ 上)と $Q$($m$ 上)で交わり、錯角が等しいならば、$\ell$ と $m$ は平行である。

外角の定理から示す

方針:交わると仮定して三角形を作り、thm-ppl-exterior に反することを示す(背理法。Euclid『原論』第 I 巻 命題 27、Hea56 p. 307)。
段 1(記号)。$\ell$ 上の点 $X$ と $m$ 上の点 $Y$ が $t$ について反対側にあり、$\angle XPQ=\angle PQY$ であるとする。
段 2(交点の位置)。$\ell$ と $m$ が点 $R$ で交わったとする。$R$ は $t$ の上にはない($t$ と $\ell$ の交点は $P$ だけ、$t$ と $m$ の交点は $Q$ だけで、$P\ne Q$ だから)。$R$ が $t$ について $Y$ と同じ側にある場合を考える($X$ と同じ側の場合は、$X$ と $Y$、$P$ と $Q$ の役割を入れ替えれば同じである)。
段 3(外角を見つける)。$R$ は $m$ 上で $Y$ と同じ側にあるので、半直線 $QR$ は半直線 $QY$ と同じで、$\angle PQR=\angle PQY$ である。一方、$R$ は $\ell$ 上で $X$ と反対側にあるので、$P$ は $X$ と $R$ の間にある。よって $\angle XPQ$ は三角形 $PQR$ の頂点 $P$ における外角である。
段 4(矛盾)。thm-ppl-exterior により、外角 $\angle XPQ$ は隣り合わない内角 $\angle PQR$ より大きい。しかし段 1 と段 3 から $\angle XPQ=\angle PQY=\angle PQR$ で、矛盾する。よって $\ell$ と $m$ は交わらない。

平行線の存在

直線 $\ell$ と、$\ell$ 上にない点 $P$ があるとき、$P$ を通り $\ell$ に平行な直線が少なくとも 1 本ある。

錯角を写して作る

$\ell$ 上に点 $Q$ をとり、$\ell$ 上の $Q$ 以外の点 $Y$ をとる。半直線 $PQ$ を一辺とし、直線 $PQ$ について $Y$ と反対側に、大きさ $\angle PQY$ の角 $\angle XPQ$ を作る(N3)。直線 $PX$ と $\ell$ は、横断線 $PQ$ について錯角が等しいので、thm-ppl-alternate により平行である(Euclid『原論』第 I 巻 命題 31、Hea56 p. 315)。

cor-ppl-exists で、平行線が「少なくとも 1 本」あることまでは平行線公準なしで分かった。問題は「ただ 1 本か」である。

主定理 1:第 5 公準と Playfair の公理は同じこと

第 5 公準と Playfair の公理の同値

中立幾何の事実(rem-ppl-neutral-facts)のもとで、Euclid の第 5 公準 axm-ppl-euclid と Playfair の公理(axm-ppl-playfair)は同値である。

2 つの向きに分けて示す

方針:どちらの向きでも、thm-ppl-alternate で作った平行線と比べる。第 5 公準から Playfair を出すには「それ以外の直線は交わる」ことを、Playfair から第 5 公準を出すには「交わる側」を cor-ppl-two-angles で決める。
段 1(第 5 公準 ⇒ Playfair)。直線 $\ell$ と $\ell$ 上にない点 $P$ をとる。cor-ppl-exists により、$P$ を通り $\ell$ に平行な直線 $m$ がある。$m$ 以外の $P$ を通る直線 $m'$ が $\ell$ と交わることを示せばよい。$\ell$ 上に点 $Q$ をとり、$t$ を直線 $PQ$ とする。$m'$ が $t$ そのものなら、$m'$ は $Q$ で $\ell$ と交わる。以下 $m'\ne t$ とする。$t$ の一方の側を「側 1」、他方を「側 2」とよぶ。側 1 で、$\ell$ が $Q$ でなす内角を $\varphi$、$m$ が $P$ でなす内角を $\theta$、$m'$ が $P$ でなす内角を $\theta'$ とする。

  • $m$ は $\ell$ と交わらないので、第 5 公準の対偶から、側 1 でも側 2 でも同側内角の和は $180^\circ$ 以上である。側 1 の和は $\theta+\varphi$、側 2 の和は $(180^\circ-\theta)+(180^\circ-\varphi)=360^\circ-(\theta+\varphi)$ で、どちらも $180^\circ$ 以上なので $\theta+\varphi=180^\circ$ である。
  • $m'\ne m$ なので $\theta'\ne\theta$ である(同じ側に同じ角を作る半直線は 1 本なので)。$\theta'<\theta$ なら、側 1 の和は $\theta'+\varphi<\theta+\varphi=180^\circ$ で、第 5 公準から $m'$ と $\ell$ は側 1 で交わる。$\theta'>\theta$ なら、側 2 の和は $360^\circ-(\theta'+\varphi)<360^\circ-(\theta+\varphi)=180^\circ$ で、$m'$ と $\ell$ は側 2 で交わる。
    どちらにしても $m'$ は $\ell$ と交わる。よって $P$ を通る平行線は $m$ だけである。
    段 2(Playfair ⇒ 第 5 公準)。2 直線 $\ell$、$m$ に横断線 $t$ が $P$($\ell$ 上)、$Q$($m$ 上)で交わり、側 1 の同側内角 $\theta$($P$ で)と $\varphi$($Q$ で)について $\theta+\varphi<180^\circ$ とする。
  • $P$ を通り、側 1 で半直線 $PQ$ と角 $180^\circ-\varphi$ をなす直線 $n$ を作る(N3)。$n$ と $m$ の側 1 の同側内角の和は $180^\circ$ なので錯角が等しく、thm-ppl-alternate により $n$ は $m$ に平行である。
  • $\theta<180^\circ-\varphi$ なので $\ell\ne n$ である。Playfair の公理から、$P$ を通る $m$ の平行線は $n$ だけなので、$\ell$ は $m$ と交わる。交点を $R$ とする。
  • $R$ が側 2 にあったとすると、三角形 $PQR$ の $P$ と $Q$ における内角は側 2 の同側内角 $180^\circ-\theta$ と $180^\circ-\varphi$ で、その和は $360^\circ-(\theta+\varphi)>180^\circ$ となり、cor-ppl-two-angles に反する。よって $R$ は側 1 にある。
    これは第 5 公準の結論そのものである。
平行線の錯角は等しい

Playfair の公理(したがって第 5 公準)を仮定すると、平行な 2 直線 $\ell$、$m$ と横断線 $t$ について、錯角は等しい。

ただ 1 本であることを使う

方針:錯角が等しくなるように直線を作り直し、それが $\ell$ と一致することを示す(Euclid『原論』第 I 巻 命題 29、Hea56 p. 311)。
$t$ と $\ell$、$m$ の交点を $P$、$Q$ とする。$m$ 上の $Q$ 以外の点 $Y$ をとり、$P$ を通って、直線 $t$ について $Y$ と反対側に $\angle XPQ=\angle PQY$ となる直線 $n=PX$ を作る。thm-ppl-alternate から $n\parallel m$ である。$\ell$ も $n$ も $P$ を通る $m$ の平行線なので、Playfair の公理から $\ell=n$ である。よって $\ell$ の錯角は $\angle XPQ=\angle PQY$ で、錯角は等しい。

三角形の内角の和 の定理「平行線の錯角の性質」の 1 は thm-ppl-alternate、2 は cor-ppl-parallel-alternate である。これで、三角形の内角の和が $180^\circ$ であることの証明が、Playfair の公理から完全につながった。

第 5 公準の側を確かめる

ex-ppl-start-parallel の後半の $\ell\colon y=x\tan20^\circ$、$m\colon y=2$ では、右側の同側内角の和は $160^\circ$、左側は $200^\circ$ である。prf-ppl-playfair の段 2 で作る直線 $n$ は、$P$ を通り右側で半直線 $PQ$ と $180^\circ-90^\circ=90^\circ$ をなす直線、つまり $x$ 軸で、$m$ に平行である。$\ell$ は $n$ と違うので $m$ と交わり、交点 $\left(\dfrac2{\tan20^\circ},2\right)\approx(5.49,\ 2)$ は右側にある。もし左側で交わったとすると、その三角形の $P,Q$ での角は $110^\circ$ と $90^\circ$ で和が $200^\circ$ になり、cor-ppl-two-angles に反する。

主定理 2:内角の和が 180° であることと同じこと

Legendre は、内角の和が $180^\circ$ であることから平行線がただ 1 本であることを導いた(Hea56 pp. 218–219)。準備として、内角の和が $180^\circ$ なら、直線に対していくらでも「寝た」直線が引けることを示す。

角を半分ずつにする

どの三角形でも内角の和が $180^\circ$ であると仮定する。直線 $r$ と $r$ 上にない点 $P$、$P$ から $r$ へ下ろした垂線の足 $Q$ をとる。どんな正の角 $\varepsilon$ に対しても、$r$ 上の $Q$ の右側に点 $R$ があって $\angle PRQ<\varepsilon$ となる。

二等辺三角形を並べる

方針:$r$ の上に、次々に二等辺三角形を継ぎ足す。内角の和が $180^\circ$ なので、外角の定理(外角は隣り合わない 2 つの内角の和、三角形の内角の和)が使え、角が半分ずつになる(図3)。
段 1(最初の三角形)。$r$ 上の $Q$ の右側に $QR_1=PQ$ となる点 $R_1$ をとる。三角形 $PQR_1$ は $\angle Q=90^\circ$ の二等辺三角形なので底角は等しく(N2)、内角の和が $180^\circ$ なので $\angle PR_1Q=\dfrac{180^\circ-90^\circ}2=45^\circ$ である。
段 2(継ぎ足す)。$R_n$ まで作ったとき、$r$ 上の $R_n$ の右側に $R_nR_{n+1}=PR_n$ となる点 $R_{n+1}$ をとる。三角形 $PR_nR_{n+1}$ は $PR_n=R_nR_{n+1}$ の二等辺三角形なので、$\angle R_nPR_{n+1}=\angle R_nR_{n+1}P$ である。この角を $x$ とする。$\angle PR_nQ$ は三角形 $PR_nR_{n+1}$ の頂点 $R_n$ における外角($Q$ は $R_{n+1}$ の反対側にある)なので、内角の和が $180^\circ$ であることから $\angle PR_nQ=x+x=2x$ である。また $R_n$ は $Q$ と $R_{n+1}$ の間にあるので $\angle PR_{n+1}Q=\angle PR_{n+1}R_n=x$ である。よって
$$ \angle PR_{n+1}Q=\frac12\angle PR_nQ $$
である。
段 3(小さくする)。段 1 と段 2 から $\angle PR_nQ=\dfrac{45^\circ}{2^{n-1}}$ である。$2^{n-1}$ は $n$ を大きくするといくらでも大きくなるので、$\dfrac{45^\circ}{2^{n-1}}<\varepsilon$ となる $n$ がある。$R=R_n$ とすればよい。

Legendre の作図。PQ = 1 から始めて二等辺三角形を継ぎ足すと、角 PRₙQ は 45°、22.5°、11.25°、5.625° と半分ずつになる。破線 s は P を通り PQ に垂直な直線 Legendre の作図。PQ = 1 から始めて二等辺三角形を継ぎ足すと、角 PRₙQ は 45°、22.5°、11.25°、5.625° と半分ずつになる。破線 s は P を通り PQ に垂直な直線

座標で角が半分になるのを見る

$Q=(0,0)$、$P=(0,1)$、$r$ を $x$ 軸とする。$R_n=(q_n,0)$ とすると $\angle PR_nQ$ の正接は $\dfrac1{q_n}$ である。

  • $q_1=1$:$\tan\angle PR_1Q=1$、角は $45^\circ$。$PR_1=\sqrt2$。
  • $q_2=1+\sqrt2\approx2.414$:$\tan\angle PR_2Q=\dfrac1{1+\sqrt2}=\sqrt2-1$ で、これは $\tan22.5^\circ$ に等しい(半角の公式 $\tan\dfrac\theta2=\dfrac{1-\cos\theta}{\sin\theta}$ に $\theta=45^\circ$ を入れると $\dfrac{1-1/\sqrt2}{1/\sqrt2}=\sqrt2-1$)。$PR_2=\sqrt{1+(1+\sqrt2)^2}=\sqrt{4+2\sqrt2}\approx2.613$。
  • $q_3=q_2+PR_2\approx5.027$:角は $11.25^\circ$。$q_4\approx10.153$:角は $5.625^\circ$。$q_5\approx20.355$:角は $2.8125^\circ$。
    一般に $q_n=\cot\dfrac{45^\circ}{2^{n-1}}$ で、どれも数値で一致する。座標平面は平行線公準を満たすので、lem-ppl-halving の仮定(内角の和が $180^\circ$)が成り立ち、角は確かに半分ずつになる。
平行線公準と内角の和の同値

中立幾何の事実(rem-ppl-neutral-facts)のもとで、次の 2 つは同値である。

  1. Playfair の axm-ppl-playfair(したがって第 5 公準)。
  2. どの三角形でも、内角の和は $180^\circ$ である。
主定理 2 の証明

方針:$P$ を通り $PQ$ に垂直な直線 $s$ が平行線であることは中立幾何で分かる。$s$ 以外の直線はどれも、lem-ppl-halving の $R_n$ を使って $r$ と交わることを示す。
段 0(1 ⇒ 2)。これは 三角形の内角の和 の証明そのものである。そこで使った平行線の錯角の性質は、thm-ppl-alternate と cor-ppl-parallel-alternate で示した。以下、2 ⇒ 1 を示す。
段 1($s$ は平行線)。直線 $r$ と $r$ 上にない点 $P$、$P$ から $r$ への垂線の足 $Q$ をとる(N6)。$P$ を通り $PQ$ に垂直な直線を $s$ とする。横断線 $PQ$ について、$s$ と $r$ の錯角はどちらも $90^\circ$ で等しいので、thm-ppl-alternate により $s\parallel r$ である。
段 2($s$ 以外の直線)。$P$ を通る直線 $u\ne s$ をとる。$u$ が直線 $PQ$ そのものなら、$u$ は $Q$ で $r$ と交わる。以下 $u\ne PQ$ とする。$u$ と半直線 $PQ$ のなす 2 つの角は $\theta$ と $180^\circ-\theta$ で、$\theta\ne90^\circ$ なので一方は $90^\circ$ より小さい。必要なら左右を入れ替えて、直線 $PQ$ の右側で $u$ が半直線 $PQ$ と角 $\theta<90^\circ$ をなすとし、その側の $u$ の半直線を $u^+$ とする。
段 3($R_n$ を選ぶ)。lem-ppl-halving で $\varepsilon=90^\circ-\theta$ として、右側に $\angle PR_nQ<90^\circ-\theta$ となる $R_n$ をとる。直角三角形 $PQR_n$ の内角の和は $180^\circ$ なので
$$ \angle QPR_n=180^\circ-90^\circ-\angle PR_nQ>90^\circ-(90^\circ-\theta)=\theta $$
である。
段 4(交わる)。半直線 $u^+$ と $PR_n$ はどちらも直線 $PQ$ の右側にあり、半直線 $PQ$ となす角は $\theta<\angle QPR_n$ なので、$u^+$ は角 $\angle QPR_n$ の内側にある。(N5) により $u^+$ は線分 $QR_n$ と交わり、$u$ は $r$ と交わる。
段 5(まとめ)。$P$ を通る直線のうち $r$ と交わらないのは $s$ だけである。$r$ と $P$ は任意だったので、Playfair の公理が成り立つ。

prf-ppl-halving の段 3 で「$2^{n-1}$ はいくらでも大きくなる」ことを使った。これは実数の性質(Archimedes の性質)で、角を実数で測るという約束の中に入っている。また、Legendre は「内角の和が $180^\circ$ の三角形が 1 つでもあれば、すべての三角形で $180^\circ$ になる」ことも示している(Hea56 p. 218)。この記事では証明しない。

平行線公準と同値なほかの命題

中立幾何の事実のもとで、平行線公準と同値であることが知られている命題はたくさんある。Heath は次のようなものを挙げている(Hea56 p. 220。この記事では証明しない)。

  • 互いに合同でない、相似な三角形がある(Saccheri。Wallis が挙げた「どんな図形にも、それと相似で任意の大きさの図形がある」という形を、Saccheri がここまで弱めてよいと指摘した)。
  • 一直線上にない 3 点を通る円が必ずある(Legendre、W. Bolyai)。高校では、3 辺の垂直二等分線が 1 点(外心)で交わることとして習う(三角形の外心)。
  • 3 つの角が直角の四角形では、4 つ目の角も直角である(Clairaut)。
  • 至るところ等しい距離を保つ 2 直線がある(Posidonius)。
    また、三平方の定理 も平行線公準に依存する定理で、平行線公準が成り立たない幾何ではほかの関係式に置き換わる(Hit18 p. 5)。

例と反例:平行線公準が成り立たない平面

平行線公準は中立幾何の事実から証明できない。そのことは、中立幾何の事実をすべて満たすのに平行線公準を満たさない「平面」を 1 つ作れば示せる。ここでは、その平面の中で実際に平行線を何本も作り、内角の和が $180^\circ$ より小さい三角形を作る。あわせて、球面が中立幾何の外にあることも見る。

外した仮定崩れる主張ボックス
平行線公準(中立幾何の事実は保つ)平行線はただ 1 本、内角の和は $180^\circ$ex-ppl-poincare、ex-ppl-hyperbolic-triangle
中立幾何の事実 (N1)(2 点を通る直線はただ 1 本)外角の定理(弱い形)、平行線があるex-ppl-sphere

2 つの円が交点で 直交する とは、交点での 2 つの接線が垂直であることをいう。接線は半径に垂直なので、これは交点での 2 本の半径が垂直であることと同じである。原点中心の単位円と、中心 $C$・半径 $\rho$ の円が点 $T$ で直交するとき、三角形 $OTC$ は $T$ で直角なので $|OC|^2=1+\rho^2$ である。逆に $|OC|^2=1+\rho^2$ なら、2 円は交わり、三平方の定理 の逆から交点で直交する。

Poincaré 円板の中の平行線

単位円の内部 $D=\{(x,y)\mid x^2+y^2<1\}$ を「平面」とし、$D$ の中にある次の図形を「直線」とする(Poincaré 円板。Hit18 定義 5.2.1、p. 87)。

  • 原点を通る直径(両端を除く)
  • 単位円と直交する円の、$D$ の中にある部分
    角は、交点での接線どうしのなす普通の角で測る(Hit18 §5.3、p. 91)。この「平面」でも $D$ の相異なる 2 点を通る「直線」はただ 1 本ある(Hit18 定理 5.2.3、p. 87)。
    $\ell$ を $x$ 軸の上の直径とし、$\ell$ の上にない点 $P=\left(0,\dfrac12\right)$ を通る「直線」を調べる(図4)。
    段 1(縦の直径)。$P$ を通る直径は $y$ 軸の部分で、原点で $\ell$ と交わる。
    段 2(円の方程式)。$P$ を通り単位円と直交する円の中心を $(h,k)$、半径を $\rho$ とすると
    $$ h^2+\left(\frac12-k\right)^2=\rho^2,\qquad h^2+k^2=1+\rho^2 $$
    である。2 つ目から 1 つ目を引くと $k^2-\left(\dfrac12-k\right)^2=1$、つまり $k-\dfrac14=1$ で $k=\dfrac54$ である。すると $\rho^2=h^2+\dfrac{25}{16}-1=h^2+\dfrac9{16}$ となる。$h$ は自由に選べるので、$P$ を通る「直線」は $h$ ごとに 1 本ずつある。
    段 3($\ell$ との交点)。円 $(x-h)^2+\left(y-\dfrac54\right)^2=h^2+\dfrac9{16}$ に $y=0$ を代入すると
    $$ x^2-2hx+1=0 $$
    となる。判別式を 4 で割ると $h^2-1$ である。
  • $|h|<1$ のとき、実数解がないので、この円は $x$ 軸と交わらない。$P$ を通るこの「直線」は $\ell$ と交わらない。
  • $|h|=1$ のとき、解は $x=h=\pm1$ だけで、これは単位円の上の点なので $D$ には入らない。この「直線」も $\ell$ と $D$ の中では交わらない($D$ の縁で出会う)。
  • $|h|>1$ のとき、2 つの解の積は $1$、和は $2h$ なので、2 つの解は同符号で、一方は絶対値が $1$ より小さく、他方は $1$ より大きい。$D$ の中で $\ell$ とちょうど 1 点で交わる。たとえば $h=\dfrac54$ なら解は $x=\dfrac12$ と $x=2$ で、$\left(\dfrac12,0\right)$ で交わる。
    $h=0$ の円 $x^2+\left(y-\dfrac54\right)^2=\dfrac9{16}$ は、最も低い点が $P$ で、そこで水平な接線をもつ。$-1\le h\le1$ のすべての $h$ で $\ell$ と交わらないので、$P$ を通って $\ell$ と交わらない「直線」は無数にある。Playfair の公理(axm-ppl-playfair)は成り立たない。

Poincaré 円板。P = (0, 1/2) を通る「直線」のうち、青(h = −0.6, 0, 0.6)は ℓ と交わらず、緑の破線(h = ±1)は円板の縁で出会い、赤(h = 5/4 と縦の直径)は ℓ と交わる Poincaré 円板。P = (0, 1/2) を通る「直線」のうち、青(h = −0.6, 0, 0.6)は ℓ と交わらず、緑の破線(h = ±1)は円板の縁で出会い、赤(h = 5/4 と縦の直径)は ℓ と交わる
ex-ppl-poincare で、Hitchman は $|h|=1$ の 2 本(縁で出会うもの)だけを「平行」とよび、$|h|<1$ のものを区別している(Hit18 定義 5.2.1、定理 5.2.6、pp. 87–88)。この記事では「交わらない」を平行の定義にしているので、どちらも平行線である。

内角の和が 180° より小さい三角形

Poincaré 円板の 3 点 $O=(0,0)$、$A=\left(\dfrac12,0\right)$、$B=\left(0,\dfrac12\right)$ を頂点とする三角形を考える(図5)。辺 $OA$、$OB$ は直径の上にあり、$O$ での角は $90^\circ$ である。
段 1(辺 $AB$)。$A$ と $B$ を通り単位円と直交する円は、直線 $y=x$ について対称なので中心を $(c,c)$ とおける。$\left(\dfrac12-c\right)^2+c^2=\rho^2$ と $2c^2=1+\rho^2$ から $\dfrac14-c+2c^2=2c^2-1$、よって $c=\dfrac54$、$\rho^2=\dfrac{17}8$ である。
段 2($A$ での角)。中心から $A$ へのベクトルは $\left(\dfrac12-\dfrac54,\ 0-\dfrac54\right)=\left(-\dfrac34,-\dfrac54\right)$ で、$A$ での接線はこれに垂直な $(-5,3)$ の向き($B$ の方へ向かう向き)である(内積 $\dfrac{15}4-\dfrac{15}4=0$)。辺 $AO$ の向きは $(-1,0)$ なので
$$ \cos\angle OAB=\frac{(-1)(-5)+0\cdot3}{1\cdot\sqrt{34}}=\frac5{\sqrt{34}} $$
で、$\angle OAB$ は正接が $\dfrac35$ の角、約 $30.964^\circ$ である。対称性から $B$ での角も同じである。
段 3(和)。内角の和は約 $90^\circ+30.964^\circ+30.964^\circ=151.93^\circ$ で、$180^\circ$ より約 $28.07^\circ$ 小さい。同じ 3 点を普通の線分で結んだ三角形の角は $90^\circ,45^\circ,45^\circ$ である。thm-ppl-angle-sum により、Playfair の公理が成り立たない平面には内角の和が $180^\circ$ でない三角形が必ずあるが、ここではそれを具体的に見た。Poincaré 円板では、三角形の面積(円板に合わせて決めた面積)は $180^\circ$ からの不足 $\pi-(\alpha+\beta+\gamma)$ に等しいことが知られている(Hit18 定理 5.4.9、p. 103。この記事では証明しない)。

Poincaré 円板の三角形 O = 0、A = 1/2、B = i/2。辺 AB は単位円と直交する円の弧。角は 90°、約 30.96°、約 30.96° で、和は約 151.93°(破線は普通の線分 AB) Poincaré 円板の三角形 O = 0、A = 1/2、B = i/2。辺 AB は単位円と直交する円の弧。角は 90°、約 30.96°、約 30.96° で、和は約 151.93°(破線は普通の線分 AB)

反例:球面は中立幾何ではない

半径 $1$ の球面で、大円を「直線」とする(三角形の内角の和 の球面の例)。球面では、どの 2 つの大円も交わるので、平行線は 1 本もない。これは cor-ppl-exists(平行線が少なくとも 1 本ある)に反する。cor-ppl-exists は中立幾何で証明したのだから、球面は中立幾何の事実のどれかを満たしていないはずである。
実際、北極 $(0,0,1)$ と南極 $(0,0,-1)$ を通る大円(経線)は無数にあり、「2 点を通る直線はただ 1 本」(N1) が成り立たない。外角の定理(弱い形)thm-ppl-exterior も成り立たない。3 点 $X=(1,0,0)$、$Y=(0,1,0)$、$Z=(0,0,1)$ の三角形では、3 つの角がどれも $90^\circ$ である。赤道の弧 $YX$ を $X$ の先へ延ばすと、$X$ における外角は $180^\circ-90^\circ=90^\circ$ で、隣り合わない内角 $90^\circ$ と等しく、大きくない。prf-ppl-exterior の段 1 で $BE$ を 2 倍に延ばすと、球面では半周を越えて向こう側へ回り込むことがあり、段 3 の「同じ側」の議論が崩れる。
球面の向かい合う 2 点(対蹠点)を同じ点とみなすと、2 点を通る直線がただ 1 本になり、平行線が 1 本もない幾何(楕円幾何)が得られる(Hit18 pp. 5、142–143)。この幾何では外角の定理(弱い形)はやはり成り立たず、中立幾何とは別の出発点に立っている。

大学数学で見ると

平行線公準の独立性

Bolyai(1802–1860)と Lobachevsky(1792–1856)は、平行線公準を「平行線が少なくとも 2 本ある」に取り替えても矛盾なく幾何が作れることを独立に見いだした。Gauss も同じ幾何に気づいていたが発表しなかった。1868 年に Beltrami は、この新しい幾何を Euclid 幾何の中に作れること、したがって Euclid 幾何が矛盾しない限りこの幾何も矛盾しないことを示した(Hit18 pp. 4–6、Hea56 p. 219)。
ex-ppl-poincare は、このような「Euclid 幾何の中に作ったモデル」の 1 つである。中立幾何の事実をすべて満たし(この記事では確かめない)、平行線公準だけを満たさないモデルがあるので、平行線公準は中立幾何の事実から証明できない。公理が互いに独立であることを、モデルを作って示すこの考え方は、大学の数学基礎論や代数学でくり返し使われる。

3 つの幾何と曲率

平行線の本数で幾何を分けると、次の 3 つになる(Hit18 pp. 4–5)。

平行線の本数幾何三角形の内角の和曲率
ただ 1 本Euclid幾何学$=180^\circ$$0$
無数双曲幾何学(Poincaré 円板など)$<180^\circ$負
0 本楕円幾何(球面)$>180^\circ$正

曲率が $k$ の幾何では、三角形の面積 $S$ と内角 $\alpha,\beta,\gamma$(ラジアン)の間に $kS=\alpha+\beta+\gamma-\pi$ が成り立つ(Hit18 定理 7.4.3、p. 160。この記事では証明しない)。$k>0$ の場合の証明は 球面三角形の面積 で行う。小さい三角形では $S$ が小さいので、どの幾何でも内角の和は $180^\circ$ に近い。私たちのまわりの平面が Euclid 幾何でよく近似できるのはこのためである。

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関連項目

参考文献

[1]
Euclid, translated with introduction and commentary by Thomas L. Heath, The Thirteen Books of Euclid's Elements, translated with introduction and commentary by T. L. Heath, Vol. I (Introduction and Books I–II), Dover Publications, 1956, Vol. I:『原論』第 I 巻 公準(pp. 154–155)、命題 16(p. 279)、命題 17(p. 281)、命題 27(p. 307)、命題 29(p. 311)、命題 31(p. 315)、第 5 公準についての注(Legendre の定理 pp. 218–219、Beltrami p. 219、同値な命題の一覧 p. 220)

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