リッチテンソルはリーマン曲率テンソルを縮約して得られるリーマン多様体の曲率の一種である。
リッチ曲率テンソルはリーマン曲率テンソルを縮約して得られる(リーマン曲率テンソルのトレース部分と見なせる)曲率であり、リーマンテンソルより保有する情報量は少ないがそれでもかなり多くのことが分かり使い勝手もよい。
リーマン曲率テンソルに対して、線形写像
$$
\begin{aligned}
X\mapsto R(X,Y)Z
\end{aligned}
$$
のトレースは2階の共変テンソル場を定める。
リーマン多様体のリッチテンソルとは以下のテンソル場のことである。
\begin{aligned}
{\rm Ric}(Y,Z)\colon={\rm tr}(X\mapsto R(X,Y)Z)
\end{aligned}
チャートに関する成分は ${\rm Ric}_{ij}=R_{ij}$ とよく書かれ
$$
\begin{aligned}
R_{ij}=R^a_{jai}
\end{aligned}
$$
である。
リッチテンソルは対称テンソルである。
すなわち
\begin{aligned} {\rm Ric}(X,Y)&={\rm Ric}(Y,X)\\ R_{ij}&=R_{ji} \end{aligned}
が成り立つ。
$$
\begin{aligned}
R^i_{jkl}+R^i_{klj}+R^i_{ljk}=0
\end{aligned}
$$
で $i,k$ を縮約すると
\begin{aligned}
R_{jl}-R_{lj}=0
\end{aligned}
となるから得られる。
これまでの証明から接続が捻じれ0のとき(第一)ビアンキ恒等式が成り立ち、そのときリッチテンソルが対称となることが分かる。
ベクトル場 $u$ に対して、
${\rm Ric}(u)\colon={\rm Ric}(u,u)$
を $u$ 方向のリッチ曲率という。
リッチ曲率テンソルは $(0,2)$-型テンソル場であるが、これから $(1,1)$-型テンソル場である"リッチ作用素"(Ricci operator)が得られる。
すなわち
$$
\begin{aligned}
g(X,Q(Y))={\rm Ric}(X,Y)
\end{aligned}
$$
を満たす $(1,1)$-型テンソル場 $Q$ が定義される。
チャートに関する成分表示は
$$
\begin{aligned}
Q^i_{\ j}=R^i_{\ j}
\end{aligned}
$$
である。
リッチ作用素はリッチ曲率テンソルと本質的に同じであるが、種々の公式に登場する。
ビアンキ恒等式を縮約することで次の恒等式を得る。
$$
\begin{aligned}
\nabla_aR^a_{ijk}=\nabla_jR_{ki}-\nabla_kR_{ji}.
\end{aligned}
$$