Bretschneiderの公式(Bretschneider's formula)とは、一般の四角形の面積を辺と対角線などで表す公式である。自己交差しない四角形 $ABCD$ の辺を $a=AB$、$b=BC$、$c=CD$、$d=DA$、対角線を $p=AC$、$q=BD$、面積を $K$ とするとき、凸でもへこんでいても $16K^2=4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2$ が成り立ち、ベクトルの行列式と内積から導ける。系として、対角線が直交することと $a^2+c^2=b^2+d^2$ は同値で、そのとき $K=\frac12pq$ である。4 辺と向かい合う角の和を使う形は、円に内接すれば Brahmagupta の公式に戻る。辺が交差する四角形では、式は囲まれた部分の面積を表さない。
前提知識: ベクトルの内積(高校数学), 靴ひも公式, Brahmaguptaの公式, Brahmaguptaの定理(直交対角線)
三角形の面積は 3 辺の長さで決まり、Heronの公式 で計算できる。円に内接する四角形の面積も 4 辺の長さで決まり、Brahmaguptaの公式 で計算できる。しかし一般の四角形では、4 辺の長さを決めても面積は決まらない。四角形は、4 辺の長さを保ったまま「つぶす」ことができるからである。
1 辺が $1$ の正方形の面積は $1$ である。1 辺が $1$ で 1 つの角が $60^\circ$ のひし形の面積は、底辺 $1$、高さ $\sin60^\circ=\dfrac{\sqrt3}2$ の平行四辺形として $\dfrac{\sqrt3}2\fallingdotseq0.866$ である。4 辺の長さはどちらも $1,1,1,1$ なので、4 辺だけでは面積は決まらない(Heronの公式 の反例と同じ例)。
違いは対角線に現れる。正方形の対角線は 2 本とも $\sqrt2$ である。ひし形の対角線は、$60^\circ$ の角をはさむ 2 辺と短い対角線が正三角形をつくるので短い方が $1$、長い方は 2 つの正三角形の高さの和で $2\cdot\dfrac{\sqrt3}2=\sqrt3$ である。
そこで、4 辺に 2 本の対角線の長さを加えて、面積を表すことを考える。
$A(0,0)$、$B(4,0)$、$C(5,3)$、$D(1,4)$ を頂点とする四角形 $ABCD$ を考える(図 1)。
(1) 面積を直接求める。対角線 $AC$ で 2 つの三角形に分ける。$\overrightarrow{AB}=(4,0)$、$\overrightarrow{AC}=(5,3)$、$\overrightarrow{AD}=(1,4)$ で、三角形の面積の公式 $\dfrac12\lvert x_1y_2-x_2y_1\rvert$(ベクトルの内積(高校数学))より
$$
\triangle ABC=\frac12\lvert4\cdot3-0\cdot5\rvert=6,\qquad\triangle ACD=\frac12\lvert5\cdot4-3\cdot1\rvert=\frac{17}2
$$
なので、面積は $K=6+\dfrac{17}2=\dfrac{29}2$ である。
(2) 辺と対角線の長さの 2 乗を求める。辺は
$$
a^2=AB^2=16,\quad b^2=BC^2=1+9=10,\quad c^2=CD^2=16+1=17,\quad d^2=DA^2=1+16=17
$$
で、対角線は $p^2=AC^2=25+9=34$、$q^2=BD^2=9+16=25$ である。
(3) 次の式に代入してみる。
$$
4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2=4\cdot34\cdot25-(10+17-16-17)^2=3400-36=3364=58^2
$$
一方、$16K^2=16\cdot\dfrac{841}4=3364$ で、2 つは一致する。つまり $4K=58$、$K=\dfrac{29}2$ が、辺と対角線の長さだけから求まった。
凸四角形 ABCD の辺 a, b, c, d、対角線 p, q と、対角線のなす角 φ。対角線は四角形を 4 つの三角形に分ける
ex-bre-start の (3) の式が、この記事の主題である。次の問いに答える。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 三角形の面積 $\dfrac12\lvert x_1y_2-x_2y_1\rvert$ | 対角線のベクトルの行列式 | 外積の大きさ |
| 長さの 2 乗の展開 | 対角線の内積を辺で表す | 内積の極化 |
| $\sin^2\varphi+\cos^2\varphi=1$ | 面積と内積を合わせる | Lagrange の恒等式 |
行列式を使うと、三角形の面積の公式は $\triangle OPQ=\dfrac12\left\lvert\det\left(\overrightarrow{OP},\overrightarrow{OQ}\right)\right\rvert$ と書ける(ベクトルの内積(高校数学) の命題「三角形の面積と内積」)。行列式の符号は向きを表す。$\det(\vec u,\vec v)>0$ なら $\vec v$ は $\vec u$ の左側(反時計回りの側)を向き、$\det(\vec u,\vec v)<0$ なら右側を向く(靴ひも公式)。行列式は $\det(\vec u,\vec v+\vec w)=\det(\vec u,\vec v)+\det(\vec u,\vec w)$、$\det(\vec u,k\vec v)=k\det(\vec u,\vec v)$、$\det(\vec v,\vec u)=-\det(\vec u,\vec v)$ を満たす(成分で書けば分かる)。
この記事では、次の事実を認めて使う。
へこんだ四角形 ABCD。対角線 AC は内部を通って面積 2 ずつの 2 つの三角形に分け、対角線 BD(破線)は外を通る
$\vec u=\overrightarrow{AC}=(5,3)$、$\vec v=\overrightarrow{AB}=(4,0)$、$\vec w=\overrightarrow{AD}=(1,4)$(ex-bre-start の四角形)とする。$\det(\vec u,\vec v)$ と $\det(\vec u,\vec w)$ の符号は反対になる。
$\det(\vec u,\vec v)=5\cdot0-3\cdot4=-12$、$\det(\vec u,\vec w)=5\cdot4-3\cdot1=17$ で、符号が反対である。$B$ は直線 $AC$ の右側、$D$ は左側にあり、2 つの三角形 $ABC$、$ACD$ は対角線 $AC$ の両側にある。面積は $\dfrac12\cdot12=6$ と $\dfrac12\cdot17=\dfrac{17}2$ で、ex-bre-start の (1) と一致する。
面積を、2 本の対角線のベクトル $\overrightarrow{AC}$、$\overrightarrow{BD}$ で表すことから始める。
自己交差しない四角形 $ABCD$ の面積 $K$ は
$$
2K=\left\lvert\det\left(\overrightarrow{AC},\overrightarrow{BD}\right)\right\rvert
$$
を満たす。
段 1(名前の付け替え)。頂点の名前を 1 つずらし、もとの $B$、$C$、$D$、$A$ をそれぞれ新しい $A$、$B$、$C$、$D$ と呼ぶと、新しい $\overrightarrow{AC}$ はもとの $\overrightarrow{BD}$ に、新しい $\overrightarrow{BD}$ はもとの $\overrightarrow{CA}=-\overrightarrow{AC}$ になる。行列式の性質より
$$
\det\left(\overrightarrow{BD},-\overrightarrow{AC}\right)=-\det\left(\overrightarrow{BD},\overrightarrow{AC}\right)=\det\left(\overrightarrow{AC},\overrightarrow{BD}\right)
$$
なので、付け替えても右辺の値は変わらない。面積 $K$ も変わらない。したがって、内部を通る対角線を $AC$ としてよい。
段 2(2 つの三角形)。$\vec u=\overrightarrow{AC}$ とおく。$AC$ は四角形を三角形 $ABC$ と $ACD$ に分け、$B$ と $D$ は直線 $AC$ の両側にある。よって $\det\left(\vec u,\overrightarrow{AB}\right)$ と $\det\left(\vec u,\overrightarrow{AD}\right)$ は 0 でなく、符号が反対である。符号が反対の 2 数 $x$、$y$ では $\lvert x\rvert+\lvert y\rvert=\lvert x-y\rvert$ なので
$$
K=\frac12\left\lvert\det\left(\vec u,\overrightarrow{AB}\right)\right\rvert+\frac12\left\lvert\det\left(\vec u,\overrightarrow{AD}\right)\right\rvert=\frac12\left\lvert\det\left(\vec u,\overrightarrow{AB}\right)-\det\left(\vec u,\overrightarrow{AD}\right)\right\rvert
$$
である。
段 3(まとめる)。行列式の性質より $\det\left(\vec u,\overrightarrow{AB}\right)-\det\left(\vec u,\overrightarrow{AD}\right)=\det\left(\vec u,\overrightarrow{AB}-\overrightarrow{AD}\right)=\det\left(\vec u,\overrightarrow{DB}\right)=-\det\left(\vec u,\overrightarrow{BD}\right)$ なので、$2K=\left\lvert\det\left(\overrightarrow{AC},\overrightarrow{BD}\right)\right\rvert$ である。
ex-bre-start では $\det\left(\overrightarrow{AC},\overrightarrow{BD}\right)=\det\bigl((5,3),(-3,4)\bigr)=5\cdot4-3\cdot(-3)=29$ で、$2K=29$ と一致する。図 4(後の節)は、2 本の対角線のベクトルを同じ点から描いてつくった平行四辺形で、その面積が $2K$ である。
次に、2 本の対角線の内積を辺の長さで表す。
平面の任意の 4 点 $A$、$B$、$C$、$D$ について
$$
2\,\overrightarrow{AC}\cdot\overrightarrow{BD}=b^2+d^2-a^2-c^2
$$
である。
原点を 1 つ決め、$A$、$B$、$C$、$D$ の位置ベクトルを $\vec a$、$\vec b$、$\vec c$、$\vec d$ とする。長さの 2 乗の展開 $\lvert\vec x-\vec y\rvert^2=\lvert\vec x\rvert^2-2\vec x\cdot\vec y+\lvert\vec y\rvert^2$ より
$$
b^2=\lvert\vec c\rvert^2-2\vec b\cdot\vec c+\lvert\vec b\rvert^2,\qquad d^2=\lvert\vec a\rvert^2-2\vec a\cdot\vec d+\lvert\vec d\rvert^2
$$
$$
a^2=\lvert\vec b\rvert^2-2\vec a\cdot\vec b+\lvert\vec a\rvert^2,\qquad c^2=\lvert\vec d\rvert^2-2\vec c\cdot\vec d+\lvert\vec c\rvert^2
$$
である。$b^2+d^2$ から $a^2+c^2$ を引くと、$\lvert\vec a\rvert^2$、$\lvert\vec b\rvert^2$、$\lvert\vec c\rvert^2$、$\lvert\vec d\rvert^2$ はどれも 1 回ずつ足されて 1 回ずつ引かれるので消え、
$$
b^2+d^2-a^2-c^2=2\left(\vec a\cdot\vec b+\vec c\cdot\vec d-\vec b\cdot\vec c-\vec a\cdot\vec d\right)
$$
が残る。一方、
$$
\overrightarrow{AC}\cdot\overrightarrow{BD}=(\vec c-\vec a)\cdot(\vec d-\vec b)=\vec c\cdot\vec d-\vec c\cdot\vec b-\vec a\cdot\vec d+\vec a\cdot\vec b
$$
で、これは上の括弧の中と同じである。よって $b^2+d^2-a^2-c^2=2\,\overrightarrow{AC}\cdot\overrightarrow{BD}$ である。
ex-bre-start では $\overrightarrow{AC}\cdot\overrightarrow{BD}=(5,3)\cdot(-3,4)=-15+12=-3$ で、$2\cdot(-3)=-6=b^2+d^2-a^2-c^2$ と一致する。この補題は四角形が自己交差しないことを使わない。長さの 2 乗を内積で展開して差をとる考え方は、中線定理(高校数学) や Eulerの四辺形定理 でも使う。
最後に、行列式と内積を結ぶ恒等式を用意する。
平面のベクトル $\vec u$、$\vec v$ について
$$
\det(\vec u,\vec v)^2+(\vec u\cdot\vec v)^2=\lvert\vec u\rvert^2\lvert\vec v\rvert^2
$$
である。
$\vec u=(u_1,u_2)$、$\vec v=(v_1,v_2)$ とすると
$$
(u_1v_2-u_2v_1)^2+(u_1v_1+u_2v_2)^2=u_1^2v_2^2+u_2^2v_1^2+u_1^2v_1^2+u_2^2v_2^2
$$
である(交差項 $-2u_1u_2v_1v_2$ と $+2u_1u_2v_1v_2$ が打ち消し合う)。右辺は $(u_1^2+u_2^2)(v_1^2+v_2^2)=\lvert\vec u\rvert^2\lvert\vec v\rvert^2$ に等しい。
$\vec u$ と $\vec v$ のなす角を $\varphi$ とすると、$\vec u\cdot\vec v=\lvert\vec u\rvert\lvert\vec v\rvert\cos\varphi$、$\lvert\det(\vec u,\vec v)\rvert=\lvert\vec u\rvert\lvert\vec v\rvert\sin\varphi$ で、lem-bre-lagrange は $\sin^2\varphi+\cos^2\varphi=1$ と同じことである。
3 つの補題を組み合わせると、主定理が得られる。
自己交差しない四角形 $ABCD$ の辺の長さを $a=AB$、$b=BC$、$c=CD$、$d=DA$、対角線の長さを $p=AC$、$q=BD$、面積を $K$ とすると
$$
16K^2=4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2
$$
である。
$\vec u=\overrightarrow{AC}$、$\vec v=\overrightarrow{BD}$ とおくと、$\lvert\vec u\rvert=p$、$\lvert\vec v\rvert=q$ である。lem-bre-lagrange より
$$
\det(\vec u,\vec v)^2+(\vec u\cdot\vec v)^2=p^2q^2
$$
である。lem-bre-area より $\det(\vec u,\vec v)^2=(2K)^2=4K^2$、lem-bre-dot より $\vec u\cdot\vec v=\dfrac{b^2+d^2-a^2-c^2}2$ なので
$$
4K^2+\frac{(b^2+d^2-a^2-c^2)^2}4=p^2q^2
$$
である。両辺を $4$ 倍して移項すると
$$
16K^2=4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2
$$
を得る。
$K$ そのものは $K=\dfrac14\sqrt{4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2}$ である。対角線のなす角を $\varphi$ とすると、証明の中の 2 つの量は $\lvert\det(\vec u,\vec v)\rvert=pq\sin\varphi$、$\vec u\cdot\vec v=pq\cos\varphi$ なので、lem-bre-area は
$$
K=\frac12pq\sin\varphi
$$
とも書ける。凸四角形では、図 1 の 4 つの三角形の面積 $\dfrac12\,EA\cdot EB\sin\varphi$ などを足しても同じ式が出る。
図 2 の四角形 $A(0,0)$、$B(4,0)$、$C(1,1)$、$D(0,4)$ で確かめる。
(1) 面積。内部を通る対角線 $AC$ で分けると、$\triangle ABC=\dfrac12\lvert\det((4,0),(1,1))\rvert=\dfrac12\lvert4\rvert=2$、$\triangle ACD=\dfrac12\lvert\det((1,1),(0,4))\rvert=\dfrac12\lvert4\rvert=2$ で、$K=4$ である。
(2) 公式。$a^2=16$、$b^2=(1-4)^2+1^2=10$、$c^2=1^2+3^2=10$、$d^2=16$、$p^2=2$、$q^2=16+16=32$ なので
$$
4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2=4\cdot2\cdot32-(10+16-16-10)^2=256
$$
で、$16K^2=16\cdot16=256$ と一致する。対角線 $BD$ は四角形の外を通るが、公式は成り立つ。
$A(0,0)$、$B(7,0)$、$C(8,5)$、$D(-3,2)$ の四角形は凸で、$\overrightarrow{AB}\cdot\overrightarrow{AD}=7\cdot(-3)<0$ なので角 $A$ は鈍角である。$a^2=49$、$b^2=1+25=26$、$c^2=121+9=130$、$d^2=9+4=13$、$p^2=64+25=89$、$q^2=100+4=104$ で、$4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2=4\cdot89\cdot104-(-140)^2=37024-19600=17424=132^2$ なので $4K=132$、$K=33$ である。対角線のベクトルの行列式は $\det((8,5),(-10,2))=16+50=66=2K$ で一致する。
lem-bre-dot から、対角線が直交するかどうかが辺の長さだけで分かる。
円に内接し対角線が直交する四角形では、Brahmaguptaの定理(直交対角線) の系により $a^2+c^2=b^2+d^2=4R^2$ で、この値は外接円の直径の 2 乗である。
$D$ を $A$ に重ねると、四角形は三角形 $ABC$ になる。このとき式がどうなるかを見る。
$D=A$ とおくと、$d=0$、$q=BA=a$、$c=CA=p$ である。lem-bre-dot と lem-bre-lagrange は 4 点が重なっていても成り立ち、$\left\lvert\det\left(\overrightarrow{AC},\overrightarrow{BA}\right)\right\rvert=\left\lvert\det\left(\overrightarrow{AB},\overrightarrow{AC}\right)\right\rvert$ は三角形 $ABC$ の面積 $S$ の $2$ 倍である。したがって prf-bre-main と同じ計算で
$$
16S^2=4p^2a^2-(b^2-a^2-p^2)^2=4a^2p^2-(a^2+p^2-b^2)^2
$$
を得る。これは 3 辺 $a$、$b$、$p$ の三角形の面積の式で、Heronの公式とCayley–Menger行列式 の定理「面積の 2 乗の 2 次の行列式による表示」と同じ形である。3 辺 $3$、$5$、$4$($a=3$、$b=5$、$p=4$)なら $16S^2=4\cdot9\cdot16-(9+16-25)^2=576$、$S=6$ で、直角三角形の面積 $\dfrac12\cdot3\cdot4=6$ と一致する。
4 辺と、向かい合う 2 つの角の和を使う形もある。
凸四角形 $ABCD$ の角 $B$、$D$ の大きさを $\beta$、$\delta$、$s=\dfrac{a+b+c+d}2$ とすると
$$
K^2=(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)-abcd\cos^2\frac{\beta+\delta}2
$$
が成り立つ。証明は用語解説 Heronの公式 の定理「凸四角形の面積」にある(対角線 $AC$ で 2 つの三角形に分け、2 つの余弦定理を使う)。円に内接する四角形では $\beta+\delta=180^\circ$、$\cos90^\circ=0$ なので、Brahmaguptaの公式 $K^2=(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)$ に戻る。
Wei26 は、この記事の対角線の形 $K=\dfrac14\sqrt{4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2}$ を「Bretschneider の公式」の項目の最初の式として載せ、角を使う形と並べている。ただし同じ頁は、Bretschneider と Strehlke が 1842 年に証明したのは角を使う形であり、対角線の形をこの名で呼ぶのは名前の付け方として正確でないらしい、とも述べている。この記事では、辺と対角線だけで書ける対角線の形を主定理とした。
ex-bre-start の四角形では、角 $B$ は約 $108.4^\circ$、角 $D$ は $90^\circ$($\overrightarrow{DC}\cdot\overrightarrow{DA}=(4,-1)\cdot(-1,-4)=0$)で、角を使う形でも $K^2=210.25$、$K=14.5$ となる(数値計算で確かめた)。
| 公式 | 与える量 | 成り立つ図形 | 式 |
|---|---|---|---|
| Heron の公式 | 3 辺 | 三角形 | $S^2=s(s-a)(s-b)(s-c)$ |
| Brahmagupta の公式 | 4 辺 | 円に内接する四角形 | $K^2=(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)$ |
| 角を使う形 | 4 辺と $\beta+\delta$ | 凸四角形 | $K^2=(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)-abcd\cos^2\dfrac{\beta+\delta}2$ |
| 対角線の形(主定理) | 4 辺と 2 本の対角線 | 自己交差しない四角形 | $16K^2=4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2$ |
| 対角線とその角 | 2 本の対角線と $\varphi$ | 自己交差しない四角形 | $K=\dfrac12pq\sin\varphi$ |
thm-bre-main の量や仮定を減らすと、次のように崩れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 対角線の長さを与える | 1 辺 $1$ の正方形と、1 辺 $1$ で角 $60^\circ$ のひし形 | 4 辺が同じでも面積は $1$ と $\dfrac{\sqrt3}2$ で、4 辺からは決まらない |
| 辺の長さを与える | 1 辺 $1$ の正方形と、$\dfrac75\times\dfrac15$ の長方形 | 対角線がどちらも $\sqrt2$ でも面積は $1$ と $\dfrac7{25}$ で、対角線からは決まらない |
| 自己交差しない | $A(0,0)$、$B(2,2)$、$C(2,0)$、$D(0,2)$ の交差する四角形 | 式の値は $0$ だが、囲まれた部分の面積は $2$ |
辺が交差する四角形 ABCD。周をたどると左の三角形は反時計回り、右の三角形は時計回りになる
$A(0,0)$、$B(2,2)$、$C(2,0)$、$D(0,2)$ を順に結ぶと、辺 $AB$ と $CD$ が点 $(1,1)$ で交わる(図 3)。囲まれた部分は、面積 $1$ の三角形 2 つで、合わせて $2$ である。
一方、$a^2=8$、$b^2=4$、$c^2=8$、$d^2=4$、$p^2=AC^2=4$、$q^2=BD^2=4$ なので
$$
4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2=4\cdot4\cdot4-(4+4-8-8)^2=64-64=0
$$
で、式の値は $0$ である。$\det\left(\overrightarrow{AC},\overrightarrow{BD}\right)=\det\bigl((2,0),(-2,0)\bigr)=0$ でもある。
lem-bre-area の証明の段 2 で使った「内部を通る対角線で 2 つの三角形に分ける」ができないのが原因である。この場合、$\det\left(\overrightarrow{AC},\overrightarrow{BD}\right)$ は靴ひもの和の 2 倍(周をたどる向きで符号をつけた面積の和)に等しく、左の三角形 $+1$ と右の三角形 $-1$ が打ち消し合って $0$ になる(靴ひも公式 の反例「辺が交差すると輪ごとに符号がつく」)。
lem-bre-area と lem-bre-lagrange は、空間ベクトルの 外積 で書くと見通しがよい。平面のベクトル $\vec u=(u_1,u_2)$、$\vec v=(v_1,v_2)$ を空間の $(u_1,u_2,0)$、$(v_1,v_2,0)$ とみると、外積は $\vec u\times\vec v=(0,0,\det(\vec u,\vec v))$ で、lem-bre-area は
$$
K=\frac12\left\lvert\overrightarrow{AC}\times\overrightarrow{BD}\right\rvert
$$
と書ける。図 4 は、2 本の対角線のベクトルを同じ点から描いた平行四辺形で、その面積 $\left\lvert\overrightarrow{AC}\times\overrightarrow{BD}\right\rvert$ が四角形の面積の $2$ 倍になる。lem-bre-lagrange は空間のベクトルでも $\lvert\vec u\times\vec v\rvert^2+(\vec u\cdot\vec v)^2=\lvert\vec u\rvert^2\lvert\vec v\rvert^2$ の形で成り立ち、Lagrange の恒等式 と呼ばれる。
冒頭の凸四角形の対角線のベクトル AC と BD を同じ点から描いた平行四辺形。面積 29 は四角形の面積 29/2 の 2 倍
主定理は、平面の 4 点 $A$、$B$、$C$、$D$ の間の 6 本の距離 $a$、$b$、$c$、$d$、$p$、$q$ から四角形の面積を求める式である。平面の 4 点の 6 本の距離は勝手な値をとれず、1 つの関係式を満たす。その関係式は Cayley–Menger 行列式で書ける。三角形の面積や四面体の体積を距離で表す Cayley–Menger 行列式は Heronの公式とCayley–Menger行列式 で扱う。
Wei26 は、主定理と同じ量で書いた別の形 $K^2=(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)-\dfrac14(ac+bd+pq)(ac+bd-pq)$ も載せている(この記事では証明しない。ex-bre-start の四角形で数値的に $K^2=210.25$ となることは確かめた)。凸四角形では Ptolemy の不等式 $pq\le ac+bd$ が成り立つ(Ptolemyの定理)ので、この形から $K^2\le(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)$ が読み取れ、等号は $pq=ac+bd$、つまり円に内接するときである。これは rem-bre-angle の角を使う形から分かることと同じである。
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