Bretschneiderの公式

同義語:ブレットシュナイダーの公式Bretschneider's formula

概要

Bretschneiderの公式(Bretschneider's formula)とは、一般の四角形の面積を辺と対角線などで表す公式である。自己交差しない四角形 $ABCD$ の辺を $a=AB$、$b=BC$、$c=CD$、$d=DA$、対角線を $p=AC$、$q=BD$、面積を $K$ とするとき、凸でもへこんでいても $16K^2=4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2$ が成り立ち、ベクトルの行列式と内積から導ける。系として、対角線が直交することと $a^2+c^2=b^2+d^2$ は同値で、そのとき $K=\frac12pq$ である。4 辺と向かい合う角の和を使う形は、円に内接すれば Brahmagupta の公式に戻る。辺が交差する四角形では、式は囲まれた部分の面積を表さない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ベクトルの内積(高校数学), 靴ひも公式, Brahmaguptaの公式, Brahmaguptaの定理(直交対角線)

高校での出発点:4 辺だけでは四角形の面積は決まらない

三角形の面積は 3 辺の長さで決まり、Heronの公式 で計算できる。円に内接する四角形の面積も 4 辺の長さで決まり、Brahmaguptaの公式 で計算できる。しかし一般の四角形では、4 辺の長さを決めても面積は決まらない。四角形は、4 辺の長さを保ったまま「つぶす」ことができるからである。

4 辺が同じで面積が違う四角形

1 辺が $1$ の正方形の面積は $1$ である。1 辺が $1$ で 1 つの角が $60^\circ$ のひし形の面積は、底辺 $1$、高さ $\sin60^\circ=\dfrac{\sqrt3}2$ の平行四辺形として $\dfrac{\sqrt3}2\fallingdotseq0.866$ である。4 辺の長さはどちらも $1,1,1,1$ なので、4 辺だけでは面積は決まらない(Heronの公式 の反例と同じ例)。
違いは対角線に現れる。正方形の対角線は 2 本とも $\sqrt2$ である。ひし形の対角線は、$60^\circ$ の角をはさむ 2 辺と短い対角線が正三角形をつくるので短い方が $1$、長い方は 2 つの正三角形の高さの和で $2\cdot\dfrac{\sqrt3}2=\sqrt3$ である。

そこで、4 辺に 2 本の対角線の長さを加えて、面積を表すことを考える。

辺と対角線から面積を求める

$A(0,0)$、$B(4,0)$、$C(5,3)$、$D(1,4)$ を頂点とする四角形 $ABCD$ を考える(図 1)。
(1) 面積を直接求める。対角線 $AC$ で 2 つの三角形に分ける。$\overrightarrow{AB}=(4,0)$、$\overrightarrow{AC}=(5,3)$、$\overrightarrow{AD}=(1,4)$ で、三角形の面積の公式 $\dfrac12\lvert x_1y_2-x_2y_1\rvert$(ベクトルの内積(高校数学))より
$$ \triangle ABC=\frac12\lvert4\cdot3-0\cdot5\rvert=6,\qquad\triangle ACD=\frac12\lvert5\cdot4-3\cdot1\rvert=\frac{17}2 $$
なので、面積は $K=6+\dfrac{17}2=\dfrac{29}2$ である。
(2) 辺と対角線の長さの 2 乗を求める。辺は
$$ a^2=AB^2=16,\quad b^2=BC^2=1+9=10,\quad c^2=CD^2=16+1=17,\quad d^2=DA^2=1+16=17 $$
で、対角線は $p^2=AC^2=25+9=34$、$q^2=BD^2=9+16=25$ である。
(3) 次の式に代入してみる。
$$ 4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2=4\cdot34\cdot25-(10+17-16-17)^2=3400-36=3364=58^2 $$
一方、$16K^2=16\cdot\dfrac{841}4=3364$ で、2 つは一致する。つまり $4K=58$、$K=\dfrac{29}2$ が、辺と対角線の長さだけから求まった。

凸四角形 ABCD の辺 a, b, c, d、対角線 p, q と、対角線のなす角 φ。対角線は四角形を 4 つの三角形に分ける 凸四角形 ABCD の辺 a, b, c, d、対角線 p, q と、対角線のなす角 φ。対角線は四角形を 4 つの三角形に分ける
ex-bre-start の (3) の式が、この記事の主題である。次の問いに答える。

  1. $16K^2=4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2$ は、どんな四角形で成り立つか。→ thm-bre-main
  2. 式の中の $b^2+d^2-a^2-c^2$ と $p^2q^2$ は、何を表しているか。→ lem-bre-area、lem-bre-dot
  3. 対角線が直交する四角形では、式はどうなるか。→ cor-bre-orth
  4. 4 辺と角を使う形や、Heron・Brahmagupta の公式とはどう関係するか。→ rem-bre-angle、ex-bre-heron
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    三角形の面積 $\dfrac12\lvert x_1y_2-x_2y_1\rvert$対角線のベクトルの行列式外積の大きさ
    長さの 2 乗の展開対角線の内積を辺で表す内積の極化
    $\sin^2\varphi+\cos^2\varphi=1$面積と内積を合わせるLagrange の恒等式

言葉の準備

四角形の辺・対角線と 2 次の行列式
  1. 平面の 4 点 $A$、$B$、$C$、$D$ を順に線分で結んだ図形を四角形 $ABCD$ という。隣り合わない 2 辺($AB$ と $CD$、$BC$ と $DA$)が共有点をもたないとき、四角形は 自己交差しない という。自己交差しない四角形は、凸でもへこんでいてもよい。
  2. 四角形 $ABCD$ の辺の長さを $a=AB$、$b=BC$、$c=CD$、$d=DA$、対角線の長さを $p=AC$、$q=BD$ とし、自己交差しない四角形の面積を $K$ で表す。
  3. 平面のベクトル $\vec u=(u_1,u_2)$、$\vec v=(v_1,v_2)$ に対して
    $$ \det(\vec u,\vec v)=u_1v_2-u_2v_1 $$
    と書き、2 次の 行列式 という。

行列式を使うと、三角形の面積の公式は $\triangle OPQ=\dfrac12\left\lvert\det\left(\overrightarrow{OP},\overrightarrow{OQ}\right)\right\rvert$ と書ける(ベクトルの内積(高校数学) の命題「三角形の面積と内積」)。行列式の符号は向きを表す。$\det(\vec u,\vec v)>0$ なら $\vec v$ は $\vec u$ の左側(反時計回りの側)を向き、$\det(\vec u,\vec v)<0$ なら右側を向く(靴ひも公式)。行列式は $\det(\vec u,\vec v+\vec w)=\det(\vec u,\vec v)+\det(\vec u,\vec w)$、$\det(\vec u,k\vec v)=k\det(\vec u,\vec v)$、$\det(\vec v,\vec u)=-\det(\vec u,\vec v)$ を満たす(成分で書けば分かる)。
この記事では、次の事実を認めて使う。

  • 自己交差しない四角形には、四角形の内部を通る対角線が少なくとも 1 本あり、その対角線で四角形は 2 つの三角形に分かれる。2 つの三角形は、その対角線の両側にある(靴ひも公式 の補題「対角線の存在」と、定理「靴ひも公式(単純多角形)」の証明で対角線で切る段)。
    凸四角形なら、どちらの対角線でもよい。図 2 のへこんだ四角形 $A(0,0)$、$B(4,0)$、$C(1,1)$、$D(0,4)$ では、$AC$ は内部を通るが、$BD$(破線)は四角形の外を通る。
    へこんだ四角形 ABCD。対角線 AC は内部を通って面積 2 ずつの 2 つの三角形に分け、対角線 BD(破線)は外を通る へこんだ四角形 ABCD。対角線 AC は内部を通って面積 2 ずつの 2 つの三角形に分け、対角線 BD(破線)は外を通る
行列式で三角形の面積と向きを求める

$\vec u=\overrightarrow{AC}=(5,3)$、$\vec v=\overrightarrow{AB}=(4,0)$、$\vec w=\overrightarrow{AD}=(1,4)$(ex-bre-start の四角形)とする。$\det(\vec u,\vec v)$ と $\det(\vec u,\vec w)$ の符号は反対になる。

計算を開く

$\det(\vec u,\vec v)=5\cdot0-3\cdot4=-12$、$\det(\vec u,\vec w)=5\cdot4-3\cdot1=17$ で、符号が反対である。$B$ は直線 $AC$ の右側、$D$ は左側にあり、2 つの三角形 $ABC$、$ACD$ は対角線 $AC$ の両側にある。面積は $\dfrac12\cdot12=6$ と $\dfrac12\cdot17=\dfrac{17}2$ で、ex-bre-start の (1) と一致する。

主定理:辺と対角線による面積の公式

面積を、2 本の対角線のベクトル $\overrightarrow{AC}$、$\overrightarrow{BD}$ で表すことから始める。

面積は対角線のベクトルの行列式

自己交差しない四角形 $ABCD$ の面積 $K$ は
$$ 2K=\left\lvert\det\left(\overrightarrow{AC},\overrightarrow{BD}\right)\right\rvert $$
を満たす。

内部を通る対角線で 2 つの三角形に分ける

段 1(名前の付け替え)。頂点の名前を 1 つずらし、もとの $B$、$C$、$D$、$A$ をそれぞれ新しい $A$、$B$、$C$、$D$ と呼ぶと、新しい $\overrightarrow{AC}$ はもとの $\overrightarrow{BD}$ に、新しい $\overrightarrow{BD}$ はもとの $\overrightarrow{CA}=-\overrightarrow{AC}$ になる。行列式の性質より
$$ \det\left(\overrightarrow{BD},-\overrightarrow{AC}\right)=-\det\left(\overrightarrow{BD},\overrightarrow{AC}\right)=\det\left(\overrightarrow{AC},\overrightarrow{BD}\right) $$
なので、付け替えても右辺の値は変わらない。面積 $K$ も変わらない。したがって、内部を通る対角線を $AC$ としてよい。
段 2(2 つの三角形)。$\vec u=\overrightarrow{AC}$ とおく。$AC$ は四角形を三角形 $ABC$ と $ACD$ に分け、$B$ と $D$ は直線 $AC$ の両側にある。よって $\det\left(\vec u,\overrightarrow{AB}\right)$ と $\det\left(\vec u,\overrightarrow{AD}\right)$ は 0 でなく、符号が反対である。符号が反対の 2 数 $x$、$y$ では $\lvert x\rvert+\lvert y\rvert=\lvert x-y\rvert$ なので
$$ K=\frac12\left\lvert\det\left(\vec u,\overrightarrow{AB}\right)\right\rvert+\frac12\left\lvert\det\left(\vec u,\overrightarrow{AD}\right)\right\rvert=\frac12\left\lvert\det\left(\vec u,\overrightarrow{AB}\right)-\det\left(\vec u,\overrightarrow{AD}\right)\right\rvert $$
である。
段 3(まとめる)。行列式の性質より $\det\left(\vec u,\overrightarrow{AB}\right)-\det\left(\vec u,\overrightarrow{AD}\right)=\det\left(\vec u,\overrightarrow{AB}-\overrightarrow{AD}\right)=\det\left(\vec u,\overrightarrow{DB}\right)=-\det\left(\vec u,\overrightarrow{BD}\right)$ なので、$2K=\left\lvert\det\left(\overrightarrow{AC},\overrightarrow{BD}\right)\right\rvert$ である。

ex-bre-start では $\det\left(\overrightarrow{AC},\overrightarrow{BD}\right)=\det\bigl((5,3),(-3,4)\bigr)=5\cdot4-3\cdot(-3)=29$ で、$2K=29$ と一致する。図 4(後の節)は、2 本の対角線のベクトルを同じ点から描いてつくった平行四辺形で、その面積が $2K$ である。
次に、2 本の対角線の内積を辺の長さで表す。

対角線の内積は辺の長さで決まる

平面の任意の 4 点 $A$、$B$、$C$、$D$ について
$$ 2\,\overrightarrow{AC}\cdot\overrightarrow{BD}=b^2+d^2-a^2-c^2 $$
である。

4 つの辺の長さの 2 乗を展開する

原点を 1 つ決め、$A$、$B$、$C$、$D$ の位置ベクトルを $\vec a$、$\vec b$、$\vec c$、$\vec d$ とする。長さの 2 乗の展開 $\lvert\vec x-\vec y\rvert^2=\lvert\vec x\rvert^2-2\vec x\cdot\vec y+\lvert\vec y\rvert^2$ より
$$ b^2=\lvert\vec c\rvert^2-2\vec b\cdot\vec c+\lvert\vec b\rvert^2,\qquad d^2=\lvert\vec a\rvert^2-2\vec a\cdot\vec d+\lvert\vec d\rvert^2 $$
$$ a^2=\lvert\vec b\rvert^2-2\vec a\cdot\vec b+\lvert\vec a\rvert^2,\qquad c^2=\lvert\vec d\rvert^2-2\vec c\cdot\vec d+\lvert\vec c\rvert^2 $$
である。$b^2+d^2$ から $a^2+c^2$ を引くと、$\lvert\vec a\rvert^2$、$\lvert\vec b\rvert^2$、$\lvert\vec c\rvert^2$、$\lvert\vec d\rvert^2$ はどれも 1 回ずつ足されて 1 回ずつ引かれるので消え、
$$ b^2+d^2-a^2-c^2=2\left(\vec a\cdot\vec b+\vec c\cdot\vec d-\vec b\cdot\vec c-\vec a\cdot\vec d\right) $$
が残る。一方、
$$ \overrightarrow{AC}\cdot\overrightarrow{BD}=(\vec c-\vec a)\cdot(\vec d-\vec b)=\vec c\cdot\vec d-\vec c\cdot\vec b-\vec a\cdot\vec d+\vec a\cdot\vec b $$
で、これは上の括弧の中と同じである。よって $b^2+d^2-a^2-c^2=2\,\overrightarrow{AC}\cdot\overrightarrow{BD}$ である。

ex-bre-start では $\overrightarrow{AC}\cdot\overrightarrow{BD}=(5,3)\cdot(-3,4)=-15+12=-3$ で、$2\cdot(-3)=-6=b^2+d^2-a^2-c^2$ と一致する。この補題は四角形が自己交差しないことを使わない。長さの 2 乗を内積で展開して差をとる考え方は、中線定理(高校数学) や Eulerの四辺形定理 でも使う。
最後に、行列式と内積を結ぶ恒等式を用意する。

行列式と内積の 2 乗の和

平面のベクトル $\vec u$、$\vec v$ について
$$ \det(\vec u,\vec v)^2+(\vec u\cdot\vec v)^2=\lvert\vec u\rvert^2\lvert\vec v\rvert^2 $$
である。

成分で展開する

$\vec u=(u_1,u_2)$、$\vec v=(v_1,v_2)$ とすると
$$ (u_1v_2-u_2v_1)^2+(u_1v_1+u_2v_2)^2=u_1^2v_2^2+u_2^2v_1^2+u_1^2v_1^2+u_2^2v_2^2 $$
である(交差項 $-2u_1u_2v_1v_2$ と $+2u_1u_2v_1v_2$ が打ち消し合う)。右辺は $(u_1^2+u_2^2)(v_1^2+v_2^2)=\lvert\vec u\rvert^2\lvert\vec v\rvert^2$ に等しい。

$\vec u$ と $\vec v$ のなす角を $\varphi$ とすると、$\vec u\cdot\vec v=\lvert\vec u\rvert\lvert\vec v\rvert\cos\varphi$、$\lvert\det(\vec u,\vec v)\rvert=\lvert\vec u\rvert\lvert\vec v\rvert\sin\varphi$ で、lem-bre-lagrange は $\sin^2\varphi+\cos^2\varphi=1$ と同じことである。
3 つの補題を組み合わせると、主定理が得られる。

Bretschneider の公式(対角線の形)

自己交差しない四角形 $ABCD$ の辺の長さを $a=AB$、$b=BC$、$c=CD$、$d=DA$、対角線の長さを $p=AC$、$q=BD$、面積を $K$ とすると
$$ 16K^2=4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2 $$
である。

3 つの補題を代入する

$\vec u=\overrightarrow{AC}$、$\vec v=\overrightarrow{BD}$ とおくと、$\lvert\vec u\rvert=p$、$\lvert\vec v\rvert=q$ である。lem-bre-lagrange より
$$ \det(\vec u,\vec v)^2+(\vec u\cdot\vec v)^2=p^2q^2 $$
である。lem-bre-area より $\det(\vec u,\vec v)^2=(2K)^2=4K^2$、lem-bre-dot より $\vec u\cdot\vec v=\dfrac{b^2+d^2-a^2-c^2}2$ なので
$$ 4K^2+\frac{(b^2+d^2-a^2-c^2)^2}4=p^2q^2 $$
である。両辺を $4$ 倍して移項すると
$$ 16K^2=4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2 $$
を得る。

$K$ そのものは $K=\dfrac14\sqrt{4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2}$ である。対角線のなす角を $\varphi$ とすると、証明の中の 2 つの量は $\lvert\det(\vec u,\vec v)\rvert=pq\sin\varphi$、$\vec u\cdot\vec v=pq\cos\varphi$ なので、lem-bre-area は
$$ K=\frac12pq\sin\varphi $$
とも書ける。凸四角形では、図 1 の 4 つの三角形の面積 $\dfrac12\,EA\cdot EB\sin\varphi$ などを足しても同じ式が出る。

へこんだ四角形で確かめる

図 2 の四角形 $A(0,0)$、$B(4,0)$、$C(1,1)$、$D(0,4)$ で確かめる。
(1) 面積。内部を通る対角線 $AC$ で分けると、$\triangle ABC=\dfrac12\lvert\det((4,0),(1,1))\rvert=\dfrac12\lvert4\rvert=2$、$\triangle ACD=\dfrac12\lvert\det((1,1),(0,4))\rvert=\dfrac12\lvert4\rvert=2$ で、$K=4$ である。
(2) 公式。$a^2=16$、$b^2=(1-4)^2+1^2=10$、$c^2=1^2+3^2=10$、$d^2=16$、$p^2=2$、$q^2=16+16=32$ なので
$$ 4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2=4\cdot2\cdot32-(10+16-16-10)^2=256 $$
で、$16K^2=16\cdot16=256$ と一致する。対角線 $BD$ は四角形の外を通るが、公式は成り立つ。

もう 1 つの例(鈍角をもつ凸四角形)を開く

$A(0,0)$、$B(7,0)$、$C(8,5)$、$D(-3,2)$ の四角形は凸で、$\overrightarrow{AB}\cdot\overrightarrow{AD}=7\cdot(-3)<0$ なので角 $A$ は鈍角である。$a^2=49$、$b^2=1+25=26$、$c^2=121+9=130$、$d^2=9+4=13$、$p^2=64+25=89$、$q^2=100+4=104$ で、$4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2=4\cdot89\cdot104-(-140)^2=37024-19600=17424=132^2$ なので $4K=132$、$K=33$ である。対角線のベクトルの行列式は $\det((8,5),(-10,2))=16+50=66=2K$ で一致する。

系:対角線が直交する四角形

lem-bre-dot から、対角線が直交するかどうかが辺の長さだけで分かる。

対角線が直交する条件
  1. 平面の任意の 4 点 $A$、$B$、$C$、$D$($A\ne C$、$B\ne D$)について、直線 $AC$ と $BD$ が直交することと
    $$ a^2+c^2=b^2+d^2 $$
    は同値である。
  2. 自己交差しない四角形 $ABCD$ の対角線が直交するとき、面積は $K=\dfrac12pq$ である。
内積が 0 になる条件
  1. 直線 $AC$ と $BD$ が直交することは、$\overrightarrow{AC}\cdot\overrightarrow{BD}=0$ と同値である(ベクトルの内積(高校数学))。lem-bre-dot より、これは $b^2+d^2-a^2-c^2=0$ と同値である。
    1. より $b^2+d^2-a^2-c^2=0$ なので、thm-bre-main は $16K^2=4p^2q^2$ となる。$K>0$、$pq>0$ なので $4K=2pq$、$K=\dfrac12pq$ である。
対角線が直交する四角形の例
  1. 図 2 の四角形では $a^2+c^2=16+10=26$、$b^2+d^2=10+16=26$ で等しいので、対角線は直交する(実際 $\overrightarrow{AC}\cdot\overrightarrow{BD}=(1,1)\cdot(-4,4)=0$)。面積は $\dfrac12pq=\dfrac12\sqrt2\cdot4\sqrt2=4$ で、ex-bre-concave と一致する。
  2. Brahmaguptaの定理(直交対角線) の半径 $25$ の例 $A(-24,7)$、$B(15,20)$、$C(24,7)$、$D(15,-20)$ では、$a^2+c^2=1690+810=2500$、$b^2+d^2=250+2250=2500$ である。対角線は $p=48$、$q=40$ で、面積は $\dfrac12\cdot48\cdot40=960$ である。靴ひも公式でも $\dfrac12\lvert-585-375-585-375\rvert=960$ となる。

円に内接し対角線が直交する四角形では、Brahmaguptaの定理(直交対角線) の系により $a^2+c^2=b^2+d^2=4R^2$ で、この値は外接円の直径の 2 乗である。

三角形の場合と、角を使う形

$D$ を $A$ に重ねると、四角形は三角形 $ABC$ になる。このとき式がどうなるかを見る。

三角形の場合:Heron の公式の形

$D=A$ とおくと、$d=0$、$q=BA=a$、$c=CA=p$ である。lem-bre-dot と lem-bre-lagrange は 4 点が重なっていても成り立ち、$\left\lvert\det\left(\overrightarrow{AC},\overrightarrow{BA}\right)\right\rvert=\left\lvert\det\left(\overrightarrow{AB},\overrightarrow{AC}\right)\right\rvert$ は三角形 $ABC$ の面積 $S$ の $2$ 倍である。したがって prf-bre-main と同じ計算で
$$ 16S^2=4p^2a^2-(b^2-a^2-p^2)^2=4a^2p^2-(a^2+p^2-b^2)^2 $$
を得る。これは 3 辺 $a$、$b$、$p$ の三角形の面積の式で、Heronの公式とCayley–Menger行列式 の定理「面積の 2 乗の 2 次の行列式による表示」と同じ形である。3 辺 $3$、$5$、$4$($a=3$、$b=5$、$p=4$)なら $16S^2=4\cdot9\cdot16-(9+16-25)^2=576$、$S=6$ で、直角三角形の面積 $\dfrac12\cdot3\cdot4=6$ と一致する。

4 辺と、向かい合う 2 つの角の和を使う形もある。

角を使う形と Brahmagupta の公式

凸四角形 $ABCD$ の角 $B$、$D$ の大きさを $\beta$、$\delta$、$s=\dfrac{a+b+c+d}2$ とすると
$$ K^2=(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)-abcd\cos^2\frac{\beta+\delta}2 $$
が成り立つ。証明は用語解説 Heronの公式 の定理「凸四角形の面積」にある(対角線 $AC$ で 2 つの三角形に分け、2 つの余弦定理を使う)。円に内接する四角形では $\beta+\delta=180^\circ$、$\cos90^\circ=0$ なので、Brahmaguptaの公式 $K^2=(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)$ に戻る。
Wei26 は、この記事の対角線の形 $K=\dfrac14\sqrt{4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2}$ を「Bretschneider の公式」の項目の最初の式として載せ、角を使う形と並べている。ただし同じ頁は、Bretschneider と Strehlke が 1842 年に証明したのは角を使う形であり、対角線の形をこの名で呼ぶのは名前の付け方として正確でないらしい、とも述べている。この記事では、辺と対角線だけで書ける対角線の形を主定理とした。

ex-bre-start の四角形では、角 $B$ は約 $108.4^\circ$、角 $D$ は $90^\circ$($\overrightarrow{DC}\cdot\overrightarrow{DA}=(4,-1)\cdot(-1,-4)=0$)で、角を使う形でも $K^2=210.25$、$K=14.5$ となる(数値計算で確かめた)。

公式与える量成り立つ図形式
Heron の公式3 辺三角形$S^2=s(s-a)(s-b)(s-c)$
Brahmagupta の公式4 辺円に内接する四角形$K^2=(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)$
角を使う形4 辺と $\beta+\delta$凸四角形$K^2=(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)-abcd\cos^2\dfrac{\beta+\delta}2$
対角線の形(主定理)4 辺と 2 本の対角線自己交差しない四角形$16K^2=4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2$
対角線とその角2 本の対角線と $\varphi$自己交差しない四角形$K=\dfrac12pq\sin\varphi$

例と反例

thm-bre-main の量や仮定を減らすと、次のように崩れる。

外す条件反例成り立たなくなること
対角線の長さを与える1 辺 $1$ の正方形と、1 辺 $1$ で角 $60^\circ$ のひし形4 辺が同じでも面積は $1$ と $\dfrac{\sqrt3}2$ で、4 辺からは決まらない
辺の長さを与える1 辺 $1$ の正方形と、$\dfrac75\times\dfrac15$ の長方形対角線がどちらも $\sqrt2$ でも面積は $1$ と $\dfrac7{25}$ で、対角線からは決まらない
自己交差しない$A(0,0)$、$B(2,2)$、$C(2,0)$、$D(0,2)$ の交差する四角形式の値は $0$ だが、囲まれた部分の面積は $2$
反例:4 辺だけ、対角線だけでは決まらない
  1. 4 辺だけ。ex-bre-start-rhombus の正方形とひし形は、4 辺がどちらも $1,1,1,1$ だが、対角線は $\sqrt2,\sqrt2$ と $\sqrt3,1$ で違う。thm-bre-main に代入すると、どちらも $b^2+d^2-a^2-c^2=0$ で、正方形は $16K^2=4\cdot2\cdot2=16$、$K=1$、ひし形は $16K^2=4\cdot3\cdot1=12$、$K=\dfrac{\sqrt3}2$ である。面積の違いは、対角線の長さの違いから来ている。
  2. 対角線だけ。1 辺 $1$ の正方形と、辺が $\dfrac75$、$\dfrac15$ の長方形は、対角線がどちらも $\sqrt{\dfrac{49}{25}+\dfrac1{25}}=\sqrt2$ である。長方形の面積は $\dfrac75\cdot\dfrac15=\dfrac7{25}$ で、正方形の $1$ と違う。thm-bre-main では、長方形は $a=c=\dfrac75$、$b=d=\dfrac15$ で
    $$ 16K^2=4\cdot2\cdot2-\left(\frac2{25}-\frac{98}{25}\right)^2=16-\frac{9216}{625}=\frac{784}{625} $$
    となり、$4K=\dfrac{28}{25}$、$K=\dfrac7{25}$ である。辺の長さの項 $(b^2+d^2-a^2-c^2)^2$ が、対角線のなす角の情報($\cos\varphi$)を運んでいる。

辺が交差する四角形 ABCD。周をたどると左の三角形は反時計回り、右の三角形は時計回りになる 辺が交差する四角形 ABCD。周をたどると左の三角形は反時計回り、右の三角形は時計回りになる

反例:辺が交差する四角形

$A(0,0)$、$B(2,2)$、$C(2,0)$、$D(0,2)$ を順に結ぶと、辺 $AB$ と $CD$ が点 $(1,1)$ で交わる(図 3)。囲まれた部分は、面積 $1$ の三角形 2 つで、合わせて $2$ である。
一方、$a^2=8$、$b^2=4$、$c^2=8$、$d^2=4$、$p^2=AC^2=4$、$q^2=BD^2=4$ なので
$$ 4p^2q^2-(b^2+d^2-a^2-c^2)^2=4\cdot4\cdot4-(4+4-8-8)^2=64-64=0 $$
で、式の値は $0$ である。$\det\left(\overrightarrow{AC},\overrightarrow{BD}\right)=\det\bigl((2,0),(-2,0)\bigr)=0$ でもある。
lem-bre-area の証明の段 2 で使った「内部を通る対角線で 2 つの三角形に分ける」ができないのが原因である。この場合、$\det\left(\overrightarrow{AC},\overrightarrow{BD}\right)$ は靴ひもの和の 2 倍(周をたどる向きで符号をつけた面積の和)に等しく、左の三角形 $+1$ と右の三角形 $-1$ が打ち消し合って $0$ になる(靴ひも公式 の反例「辺が交差すると輪ごとに符号がつく」)。

大学数学で見る:外積と 6 本の距離

lem-bre-area と lem-bre-lagrange は、空間ベクトルの 外積 で書くと見通しがよい。平面のベクトル $\vec u=(u_1,u_2)$、$\vec v=(v_1,v_2)$ を空間の $(u_1,u_2,0)$、$(v_1,v_2,0)$ とみると、外積は $\vec u\times\vec v=(0,0,\det(\vec u,\vec v))$ で、lem-bre-area は
$$ K=\frac12\left\lvert\overrightarrow{AC}\times\overrightarrow{BD}\right\rvert $$
と書ける。図 4 は、2 本の対角線のベクトルを同じ点から描いた平行四辺形で、その面積 $\left\lvert\overrightarrow{AC}\times\overrightarrow{BD}\right\rvert$ が四角形の面積の $2$ 倍になる。lem-bre-lagrange は空間のベクトルでも $\lvert\vec u\times\vec v\rvert^2+(\vec u\cdot\vec v)^2=\lvert\vec u\rvert^2\lvert\vec v\rvert^2$ の形で成り立ち、Lagrange の恒等式 と呼ばれる。
冒頭の凸四角形の対角線のベクトル AC と BD を同じ点から描いた平行四辺形。面積 29 は四角形の面積 29/2 の 2 倍 冒頭の凸四角形の対角線のベクトル AC と BD を同じ点から描いた平行四辺形。面積 29 は四角形の面積 29/2 の 2 倍

6 本の距離と、Ptolemy の不等式との関係を開く

主定理は、平面の 4 点 $A$、$B$、$C$、$D$ の間の 6 本の距離 $a$、$b$、$c$、$d$、$p$、$q$ から四角形の面積を求める式である。平面の 4 点の 6 本の距離は勝手な値をとれず、1 つの関係式を満たす。その関係式は Cayley–Menger 行列式で書ける。三角形の面積や四面体の体積を距離で表す Cayley–Menger 行列式は Heronの公式とCayley–Menger行列式 で扱う。

Wei26 は、主定理と同じ量で書いた別の形 $K^2=(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)-\dfrac14(ac+bd+pq)(ac+bd-pq)$ も載せている(この記事では証明しない。ex-bre-start の四角形で数値的に $K^2=210.25$ となることは確かめた)。凸四角形では Ptolemy の不等式 $pq\le ac+bd$ が成り立つ(Ptolemyの定理)ので、この形から $K^2\le(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)$ が読み取れ、等号は $pq=ac+bd$、つまり円に内接するときである。これは rem-bre-angle の角を使う形から分かることと同じである。

さらに先へ

  • cor-bre-orth の $a^2+c^2=b^2+d^2$ は、Brahmaguptaの定理(直交対角線) の系「向かい合う辺の 2 乗の和」の逆向きにあたる。
  • 4 辺の長さの 2 乗の和と対角線の関係 $a^2+b^2+c^2+d^2=p^2+q^2+4MN^2$($M$、$N$ は対角線の中点)は Eulerの四辺形定理 で扱う。主定理の $b^2+d^2-a^2-c^2$ は「差」、Euler の定理は「和」である。
  • 面積を座標から直接求めるには 靴ひも公式、辺と角から求めるには Heronの公式 の凸四角形の定理を使う。

関連項目

参考文献

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