対称式・交代式と差積

同義語:交代式差積alternating polynomials and the difference product

概要

対称式・交代式と差積(alternating polynomials and the difference product)とは、文字 $a,b,c$ のどの 2 つを入れ替えても変わらない多項式(対称式)と、どの 2 つを入れ替えても $-1$ 倍になる多項式(交代式)の関係を、差積 $\Delta=(a-b)(b-c)(c-a)$ でまとめた話題である。交代式は 2 文字が等しいと $0$ になるので、因数定理により $\Delta$ で割り切れ、商は対称式である。$n\ge2$ のとき $a^n(b-c)+b^n(c-a)+c^n(a-b)=-\Delta\,h_{n-2}(a,b,c)$($h_k$ は次数 $k$ の単項式すべての和)が成り立つ。$\Delta^2$ は対称式で、$a,b,c$ を解とする 3 次方程式の判別式に等しい。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 根と係数の関係と対称式, 対称式の基本定理(高校数学), 剰余の定理と因数定理, 展開と因数分解の公式

高校での出発点:入れ替えると符号が変わる式

3 つの文字 $a,b,c$ の式の因数分解では、「1 つの文字について整理する」のが基本の手順である。次の式でやってみる。

$a$ について整理して因数分解する

$f=a^2(b-c)+b^2(c-a)+c^2(a-b)$ を因数分解する。
$a$ について整理する。$b^2(c-a)=b^2c-ab^2$、$c^2(a-b)=ac^2-bc^2$ なので
$$ f=(b-c)a^2-(b^2-c^2)a+(b^2c-bc^2) $$
である。$b^2-c^2=(b-c)(b+c)$、$b^2c-bc^2=bc(b-c)$ だから、共通因数 $b-c$ でくくれて
$$ f=(b-c)\bigl\{a^2-(b+c)a+bc\bigr\}=(b-c)(a-b)(a-c) $$
である。最後に、文字が $a\to b\to c\to a$ と回る形 $(a-b)(b-c)(c-a)$ にそろえる。$a-c=-(c-a)$ なので
$$ f=-(a-b)(b-c)(c-a) $$
である。

答えの形 $(a-b)(b-c)(c-a)$ には理由がある。$f$ で $a$ と $b$ を入れ替えてみる。

入れ替えると符号が変わる

ex-apd-start の $f$ で、$a$ と $b$ を入れ替えると
$$ b^2(a-c)+a^2(c-b)+c^2(b-a)=-\bigl\{a^2(b-c)+b^2(c-a)+c^2(a-b)\bigr\}=-f $$
になる(各項の括弧の中の符号が変わる)。数で見ると、$(a,b,c)=(1,2,3)$ で $f=1\cdot(-1)+4\cdot2+9\cdot(-1)=-2$、入れ替えた $(a,b,c)=(2,1,3)$ で $f=4\cdot(-2)+1\cdot1+9\cdot1=2$ である。
さらに $a=b$ を代入すると、$f=-f$ から $f=0$ になるはずである。実際 $(a,b,c)=(2,2,3)$ で $f=4\cdot(-1)+4\cdot1+9\cdot0=0$ である。$a=b$ で $0$ になるので、因数定理から $f$ は $a-b$ で割り切れる。

「2 つの文字を入れ替えると $-1$ 倍になる」という性質だけから、$f$ が $(a-b)(b-c)(c-a)$ で割り切れることが分かる。これがこの記事の主題である。答える問いは次の 3 つである。

  1. 入れ替えると符号が変わる式は、いつも $(a-b)(b-c)(c-a)$ で割り切れるか。割った残りは何か。→ thm-apd-main
  2. $a^n(b-c)+b^n(c-a)+c^n(a-b)$ は、どんな $n$ でも同じように因数分解できるか。→ thm-apd-power
  3. $(a-b)(b-c)(c-a)$ の 2 乗は何を表すか。→ prop-apd-disc
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    1 つの文字について整理して因数分解交代式は差積で割り切れる交代式 = 差積 × 対称式
    $a=b$ を代入すると $0$交代式の性質置換の符号
    $(\alpha-\beta)^2(\beta-\gamma)^2(\gamma-\alpha)^2$差積の 2 乗3 次方程式の判別式
    3 次の行列式差積Vandermonde の行列式

対称式と交代式

対称式・交代式・差積

文字 $a,b,c$ の多項式 $f(a,b,c)$ を考える。
$f$ が、どの 2 つの文字を入れ替えても変わらないとき、つまり
$$ f(b,a,c)=f(a,b,c),\qquad f(a,c,b)=f(a,b,c),\qquad f(c,b,a)=f(a,b,c) $$
がすべて多項式として成り立つとき、$f$ を 対称式 という。
$f$ が、どの 2 つの文字を入れ替えても $-1$ 倍になるとき、つまり
$$ f(b,a,c)=-f(a,b,c),\qquad f(a,c,b)=-f(a,b,c),\qquad f(c,b,a)=-f(a,b,c) $$
がすべて多項式として成り立つとき、$f$ を 交代式 という。
多項式
$$ \Delta=(a-b)(b-c)(c-a) $$
を $a,b,c$ の 差積 という。

対称式は 根と係数の関係と対称式 と 対称式の基本定理(高校数学) で扱った。交代式はその「符号つき」の仲間である。2 文字 $a,b$ でも同じように定め、そのときの差積は $a-b$ である。

対称式か、交代式か
  1. $a+b+c$、$abc$、$a^2+b^2+c^2$ は対称式である。
  2. ex-apd-start の $f=a^2(b-c)+b^2(c-a)+c^2(a-b)$ は交代式である。$a$ と $b$ の入れ替えは ex-apd-start-swap で確かめた。$b$ と $c$、$c$ と $a$ の入れ替えも、同じく各項の括弧の符号が変わって $-f$ になる。
  3. 2 文字の式 $a-b$ は、$a$ と $b$ を入れ替えると $b-a=-(a-b)$ で、交代式である。しかし 3 文字の式と見ると、$b$ と $c$ を入れ替えて $a-c$ になり、これは $-(a-b)$ ではない。3 文字の式としては交代式でない。
  4. $a^2b$ は対称式でも交代式でもない。$a$ と $b$ を入れ替えると $b^2a$ になり、$a^2b$ とも $-a^2b$ とも違う($(a,b)=(1,2)$ で $2$、$4$、$-2$)。
対称式交代式
2 文字を入れ替えると変わらない$-1$ 倍
$a=b$ を代入すると一般に $0$ でない必ず $0$
例$a+b+c$、$abc$、$\Delta^2$$\Delta$、$a^2(b-c)+b^2(c-a)+c^2(a-b)$
基本の形基本対称式の多項式$\Delta\times$(対称式)(thm-apd-main)
差積は交代式

$\Delta=(a-b)(b-c)(c-a)$ は交代式である。

3 つの因数の符号を数える

$a$ と $b$ を入れ替えると、3 つの因数は
$$ a-b\ \to\ b-a=-(a-b),\qquad b-c\ \to\ a-c=-(c-a),\qquad c-a\ \to\ c-b=-(b-c) $$
になる。3 つの積は、並べかえると $(-1)^3(a-b)(c-a)(b-c)=-\Delta$ である。
$b$ と $c$ を入れ替えると、$a-b\to a-c=-(c-a)$、$b-c\to c-b=-(b-c)$、$c-a\to b-a=-(a-b)$ で、積は同じく $-\Delta$ である。
$c$ と $a$ を入れ替えると、$a-b\to c-b=-(b-c)$、$b-c\to b-a=-(a-b)$、$c-a\to a-c=-(c-a)$ で、積は同じく $-\Delta$ である。$\square$

どの入れ替えでも、3 つの因数それぞれが「別の因数の $-1$ 倍」に移る。符号が 3 回変わるので、全体で $-1$ 倍になる。

積の符号の規則

対称式と交代式の積は交代式である。交代式と交代式の積は対称式である。

入れ替えたときの符号を掛ける

$g$ を対称式、$f$、$f_1$、$f_2$ を交代式とし、どれか 2 つの文字を入れ替える操作を考える。この入れ替えで $g$ は $g$ に、$f$ は $-f$ に移るので、積 $gf$ は $g\cdot(-f)=-gf$ に移る。よって $gf$ は交代式である。$f_1f_2$ は $(-f_1)(-f_2)=f_1f_2$ に移るので、対称式である。どの 2 文字の入れ替えでも同じなので、結論が成り立つ。$\square$

積の規則の例
  1. $\Delta^2=(a-b)^2(b-c)^2(c-a)^2$ は、交代式 $\Delta$ どうしの積なので対称式である。$(a,b,c)=(1,2,3)$ では $\Delta=(-1)(-1)\cdot2=2$、$\Delta^2=4$ で、入れ替えた $(2,1,3)$ では $\Delta=1\cdot(-2)\cdot1=-2$、$\Delta^2=4$ である。
  2. $(a+b+c)\Delta$ は、対称式と交代式の積なので交代式である。

2 文字の交代式が $a-b$ で割り切れることは、Steiner–Lehmusの定理 の節「大学数学で見る:交代式と符号」でも使われている。3 文字では、割り切る式が差積 $\Delta$ になる。

主定理 1:交代式は差積で割り切れる

証明で使う 2 つの道具を先に述べる。

文字を係数に含む因数定理

$f(a,b,c)$ を、$a$ の多項式で係数が $b,c$ の多項式であるものとみる。$a$ に $b$ を代入した $f(b,b,c)$ が多項式として $0$ なら、$f$ は $a-b$ で割り切れる。つまり $f=(a-b)g$ となる $a,b,c$ の多項式 $g$ がある。ほかの 2 文字の組でも同じである。

1 次式 $a-b$ で割る

要点:$a-b$ は $a$ について最高次の係数が $1$ なので、係数に $b,c$ を含んでいても割り算ができ、余りは $f(b,b,c)$ になる。剰余の定理と因数定理 の因数定理と同じ議論である。

詳しい証明を開く

$f$ を $a$ の多項式として $a-b$ で割る。$a-b$ は $a$ について最高次の係数が $1$ の 1 次式なので、筆算の各段で割る数は $1$ で、係数に $b,c$ の多項式が入っていても割り算は最後まで進む。商を $g$、余りを $r$($a$ を含まない $b,c$ の多項式)とすると

$$f(a,b,c)=(a-b)\,g(a,b,c)+r(b,c)$$

である。$a=b$ を代入すると $f(b,b,c)=0\cdot g(b,b,c)+r(b,c)=r(b,c)$ で、仮定からこれは $0$ である。よって $f=(a-b)g$ である。$\square$

もう 1 つは、「$0$ でない多項式どうしの積は $0$ でない」という事実である。1 文字の多項式なら、最高次の項どうしの積が消えずに残るからである。何文字の多項式でも、項に順序(辞書式順序)を決めて「いちばん大きい項」どうしを掛けると同じ議論ができる(対称式の基本定理(高校数学) の補題「積の先頭項」)。この事実から、多項式の等式 $PQ=PR$ で $P\ne0$ なら $Q=R$ である($P(Q-R)=0$ だから)。

交代式は 2 文字が等しいと 0

$f$ が $a,b,c$ の交代式なら、$f(a,a,c)$、$f(a,b,b)$、$f(a,b,a)$ はどれも多項式として $0$ である。

入れ替えた式に同じ値を代入する

交代式なので $f(b,a,c)=-f(a,b,c)$ が多項式として成り立つ。両辺の $b$ に $a$ を代入すると $f(a,a,c)=-f(a,a,c)$、つまり $2f(a,a,c)=0$ で、$f(a,a,c)=0$ である。$b$ と $c$ の入れ替え、$c$ と $a$ の入れ替えでも同じである。$\square$

交代式は差積で割り切れる

$a,b,c$ の多項式 $f$ が交代式ならば、$a,b,c$ の多項式 $q$ で
$$ f=\Delta\cdot q=(a-b)(b-c)(c-a)\cdot q $$
となるものがただ 1 つあり、$q$ は対称式である。

因数を 1 つずつ取り出す

方針:lem-apd-zero で「2 文字が等しいと $0$」を得て、lem-apd-factor で $a-b$、$b-c$、$c-a$ を 1 つずつくくり出す。最後に、入れ替えで商がどう変わるかを見る。
段 1($a-b$ をくくり出す)。lem-apd-zero により $f(a,a,c)=0$ である。$a$ に $b$ を代入した $f(b,b,c)$ も、この式の文字の名前を変えたものなので $0$ である。lem-apd-factor により $f=(a-b)g$ となる多項式 $g$ がある。
段 2($b-c$ をくくり出す)。lem-apd-zero により $f(a,b,b)=0$ である。段 1 の式に $c=b$ を代入すると $f(a,b,b)=(a-b)\,g(a,b,b)$ なので、$(a-b)\,g(a,b,b)=0$ である。$a-b\ne0$ なので、$0$ でない多項式どうしの積は $0$ でないことから $g(a,b,b)=0$ である。$g$ を $b$ の多項式とみて lem-apd-factor を使うと($b$ に $c$ を代入した $g(a,c,c)$ も $0$)、$g=(b-c)h$ となる多項式 $h$ がある。よって $f=(a-b)(b-c)h$ である。
段 3($c-a$ をくくり出す)。lem-apd-zero により $f(a,b,a)=0$ である。段 2 の式に $c=a$ を代入すると $f(a,b,a)=(a-b)(b-a)\,h(a,b,a)=-(a-b)^2h(a,b,a)$ なので、段 2 と同じ理由で $h(a,b,a)=0$ である。$h$ を $c$ の多項式とみて lem-apd-factor を使うと、$h=(c-a)q$ となる多項式 $q$ がある。よって
$$ f=(a-b)(b-c)(c-a)\,q=\Delta q $$
である。
段 4($q$ はただ 1 つ)。$\Delta q=\Delta q'$ なら、$\Delta\ne0$ なので $q=q'$ である。
段 5($q$ は対称式)。$a$ と $b$ を入れ替えた式を $f'$、$\Delta'$、$q'$ と書く。$f=\Delta q$ の両辺で $a$ と $b$ を入れ替えると $f'=\Delta'q'$ である。$f$ は交代式なので $f'=-f$、lem-apd-delta により $\Delta'=-\Delta$ である。よって $-f=-\Delta q'$、つまり $\Delta q=\Delta q'$ で、段 4 と同じく $q'=q$ である。$b$ と $c$、$c$ と $a$ の入れ替えでも同じなので、$q$ は対称式である。$\square$

ex-apd-start は、この定理の $q=-1$ の場合である。$f$ の次数と $q$ の次数の関係から、次のことが分かる。

次数が 3 以下の交代式
  1. 次数が $3$ より小さい交代式は $0$ である。
  2. 次数が $3$ の交代式は、$\Delta$ の定数倍である。
次数を比べる

$f\ne0$ を交代式とすると、thm-apd-main により $f=\Delta q$、$q\ne0$ である。$0$ でない多項式の積の次数は次数の和なので(最高次の項どうしの積が残る)、$f$ の次数は $3+(q\text{ の次数})\ge3$ である。よって次数が $3$ より小さい交代式は $0$ で、(i) が成り立つ。$f$ の次数が $3$ なら $q$ の次数は $0$、つまり $q$ は $0$ でない定数で、(ii) が成り立つ。$\square$

cor-apd-degree (ii) を使うと、次数 3 の交代式は、係数を 1 つ比べるだけで因数分解できる。$\Delta$ を展開すると
$$ \Delta=-a^2b+a^2c+ab^2-ac^2-b^2c+bc^2 $$
で、たとえば $a^2b$ の係数は $-1$、$ab^2$ の係数は $1$ である。

係数を 1 つ比べて因数分解する
  1. $a^2(b-c)+b^2(c-a)+c^2(a-b)$ は次数 3 の交代式なので $k\Delta$ と書ける。左辺の $a^2b$ の係数は $1$、$k\Delta$ の $a^2b$ の係数は $-k$ なので $k=-1$ で、ex-apd-start と同じ $-\Delta$ が、展開も整理もせずに得られる。
  2. $a(b^2-c^2)+b(c^2-a^2)+c(a^2-b^2)$ も、2 文字を入れ替えると各項の括弧の符号が変わるので次数 3 の交代式である。$ab^2$ の係数は左辺で $1$、$k\Delta$ で $k$ なので $k=1$ で、この式は $\Delta=(a-b)(b-c)(c-a)$ である。
  3. $(a-b)^3+(b-c)^3+(c-a)^3$ は次数 3 の交代式である($a$ と $b$ を入れ替えると $(b-a)^3+(a-c)^3+(c-b)^3=-\{(a-b)^3+(c-a)^3+(b-c)^3\}$)。$a^2b$ の係数は、$(a-b)^3=a^3-3a^2b+3ab^2-b^3$ からの $-3$ だけ(他の 2 項は $a^2b$ を含まない)なので、$-k=-3$、$k=3$ で、この式は $3\Delta$ である。展開と因数分解の公式 の例「系を使う計算」では、同じ結果を $a^3+b^3+c^3-3abc$ の因数分解から導いている。
(2) を $(a,b,c)=(1,2,3)$ で検算する

左辺は $1\cdot(4-9)+2\cdot(9-1)+3\cdot(1-4)=-5+16-9=2$、$\Delta=(1-2)(2-3)(3-1)=2$ で一致する。

次数 4 の交代式では、$q$ は次数 1 の対称式になる。

次数 4 の交代式

$f=a^3(b-c)+b^3(c-a)+c^3(a-b)$ を因数分解する。$f$ は交代式(入れ替えで各項の括弧の符号が変わる)で、どの項も次数 $4$ なので、thm-apd-main により $f=\Delta q$ で、$q$ は次数 $1$ の対称式である。
$q=pa+rb+sc+t$ とおく($p,r,s,t$ は定数)。$f$ のどの項も次数がちょうど $4$ で、$\Delta$ のどの項も次数がちょうど $3$ なので、$\Delta\cdot t$ の次数 $3$ の項が残らないためには $t=0$ である。$q$ は $a$ と $b$ の入れ替えで変わらないので $p=r$、$b$ と $c$ の入れ替えで $r=s$ である。よって $q=p(a+b+c)$ である。
$a^3b$ の係数を比べる。$f$ では $1$($a^3(b-c)$ から)である。$\Delta\cdot p(a+b+c)$ で $a^3b$ が出るのは、$\Delta$ の $-a^2b$ に $pa$ を掛けたときだけなので、係数は $-p$ である。よって $p=-1$ で
$$ a^3(b-c)+b^3(c-a)+c^3(a-b)=-(a-b)(b-c)(c-a)(a+b+c) $$
である。$(a,b,c)=(1,2,3)$ では、左辺は $1\cdot(-1)+8\cdot2+27\cdot(-1)=-12$、右辺は $-2\cdot6=-12$ である。

c=0 とした ab 平面で、差積は直線 a=b、a=0、b=0 の上で 0 になり、6 つの部分に分かれて、となり合う部分で正と負が入れかわる c=0 とした ab 平面で、差積は直線 a=b、a=0、b=0 の上で 0 になり、6 つの部分に分かれて、となり合う部分で正と負が入れかわる
図 1 は、$c=0$ とした差積 $\Delta=(a-b)\cdot b\cdot(-a)=-ab(a-b)$ の符号を、$ab$ 平面で色分けしたものである。$\Delta=0$ となるのは $a=b$、$b=c$(つまり $b=0$)、$c=a$(つまり $a=0$)の 3 本の直線の上で、これが lem-apd-zero の「2 文字が等しいと $0$」にあたる。3 本の直線で平面は 6 つの部分に分かれ、それぞれが $a,b,0$ の大小の並び方 $3!=6$ 通りに対応する。1 本の直線を越えると 2 つの文字の大小が入れかわり、lem-apd-delta のとおり符号が変わる。

主定理 2:$a^n(b-c)+b^n(c-a)+c^n(a-b)$ の因数分解

ex-apd-start($n=2$)と ex-apd-deg4($n=3$)の式は、同じ形
$$ f_n=a^n(b-c)+b^n(c-a)+c^n(a-b) $$
の $n=2,3$ の場合である。$f_n$ はどれも交代式なので、thm-apd-main により $\Delta$ で割り切れる。商を具体的に書くために、次の対称式を使う。

完全対称式 $h_k$

$k\ge1$ のとき、$a,b,c$ の次数がちょうど $k$ の単項式 $a^ib^jc^l$($i+j+l=k$、$i,j,l\ge0$)を、係数 $1$ ですべて足したものを $h_k(a,b,c)$ と書く。$h_0=1$ とする。2 文字 $x,y$ についても同じように $h_k(x,y)=x^k+x^{k-1}y+\cdots+y^k$ と定める。

$h_k$ の小さな例
  1. $h_1(a,b,c)=a+b+c$、$h_2(a,b,c)=a^2+b^2+c^2+ab+bc+ca$ である。
  2. $h_3(a,b,c)$ は、$a^3,b^3,c^3$、$a^2b,a^2c,b^2a,b^2c,c^2a,c^2b$、$abc$ の $10$ 項の和である。
  3. 2 文字では $h_2(x,y)=x^2+xy+y^2$ で、$x^3-y^3=(x-y)h_2(x,y)$ である。
    $h_k$ の項の数は、$i+j+l=k$ となる $0$ 以上の整数の組の数で、$h_1$ は $3$、$h_2$ は $6$、$h_3$ は $10$ である。どの文字を入れ替えても単項式の集まりは変わらないので、$h_k$ は対称式である。

次数 2 と次数 3 の単項式を、a、b、c の指数に応じて三角形に並べると、それぞれ 6 個と 10 個になる 次数 2 と次数 3 の単項式を、a、b、c の指数に応じて三角形に並べると、それぞれ 6 個と 10 個になる
図 2 は、$h_2$ と $h_3$ の単項式を三角形に並べたものである。三角形の頂点が $a^k,b^k,c^k$ で、辺にそって 1 つの文字の指数が 1 ずつ減り、別の文字の指数が 1 ずつ増える。
$h_k$ は次の 2 つの性質で主定理 2 に使う。

差の因数分解と $h_k$
  1. $n\ge1$ のとき、$x^n-y^n=(x-y)\,h_{n-1}(x,y)$ である。
  2. $k\ge0$ のとき、$h_k(a,b,c)=\displaystyle\sum_{j=0}^{k}h_j(a,b)\,c^{k-j}$ である。
展開して打ち消し合う項を数える

(i):$h_{n-1}(x,y)=x^{n-1}+x^{n-2}y+\cdots+xy^{n-2}+y^{n-1}$ に $x$ を掛けると $x^n+x^{n-1}y+\cdots+xy^{n-1}$、$y$ を掛けると $x^{n-1}y+\cdots+xy^{n-1}+y^n$ である。差をとると、共通の $x^{n-1}y,\ldots,xy^{n-1}$ が消えて $x^n-y^n$ が残る。
(ii):$h_k(a,b,c)$ の単項式 $a^ib^jc^l$ を、$c$ の指数 $l$ で分ける。$l=k-j$ のとき、残りの $a^ib^{j'}$($i+j'=j$)は、$a,b$ の次数 $j$ の単項式をちょうど 1 回ずつ動く。その和は $h_j(a,b)$ なので、$c^{k-j}$ の項をまとめると $h_j(a,b)c^{k-j}$ である。$j=0,1,\ldots,k$ について足すと (ii) になる。$\square$

$f_n$ の因数分解

$n\ge2$ のとき
$$ a^n(b-c)+b^n(c-a)+c^n(a-b)=-(a-b)(b-c)(c-a)\,h_{n-2}(a,b,c) $$
である。

2 つの差の形に組みかえる

方針:$f_n$ を $a^n-c^n$ と $b^n-c^n$ を使って書き直し、lem-apd-h (i) で $a-c$、$b-c$ をくくり出す。残りの差からさらに $a-b$ が出る。
段 1(組みかえ)。
$$ (b-c)(a^n-c^n)-(a-c)(b^n-c^n) $$
を展開すると $a^n(b-c)-c^n(b-c)-b^n(a-c)+c^n(a-c)$ で、$c^n$ の項をまとめると $c^n\{-(b-c)+(a-c)\}=c^n(a-b)$、$b^n$ の項は $-b^n(a-c)=b^n(c-a)$ である。よって
$$ f_n=(b-c)(a^n-c^n)-(a-c)(b^n-c^n) $$
である。
段 2($a-c$ と $b-c$ をくくり出す)。lem-apd-h (i) により $a^n-c^n=(a-c)h_{n-1}(a,c)$、$b^n-c^n=(b-c)h_{n-1}(b,c)$ である。代入すると
$$ f_n=(b-c)(a-c)h_{n-1}(a,c)-(a-c)(b-c)h_{n-1}(b,c)=(a-c)(b-c)\bigl\{h_{n-1}(a,c)-h_{n-1}(b,c)\bigr\} $$
である。
段 3(残りの差から $a-b$ を出す)。$h_{n-1}(a,c)=\displaystyle\sum_{i=0}^{n-1}a^ic^{n-1-i}$、$h_{n-1}(b,c)=\displaystyle\sum_{i=0}^{n-1}b^ic^{n-1-i}$ なので、$c$ の指数が同じ項どうしの差をとると
$$ h_{n-1}(a,c)-h_{n-1}(b,c)=\sum_{i=1}^{n-1}(a^i-b^i)\,c^{n-1-i} $$
である($i=0$ の項は $1-1=0$)。lem-apd-h (i) により $a^i-b^i=(a-b)h_{i-1}(a,b)$ なので、$j=i-1$ とおくと
$$ h_{n-1}(a,c)-h_{n-1}(b,c)=(a-b)\sum_{j=0}^{n-2}h_j(a,b)\,c^{n-2-j}=(a-b)\,h_{n-2}(a,b,c) $$
である(最後の等号は lem-apd-h (ii) で $k=n-2$ としたもの)。
段 4(まとめる)。段 2 と段 3 から
$$ f_n=(a-c)(b-c)(a-b)\,h_{n-2}(a,b,c) $$
である。$(a-c)(b-c)(a-b)=\{-(c-a)\}(b-c)(a-b)=-\Delta$ なので、$f_n=-\Delta\,h_{n-2}(a,b,c)$ である。$\square$

$n$$f_n$ の因数分解商 $h_{n-2}$ の項の数
$2$$-\Delta$$1$
$3$$-\Delta\,(a+b+c)$$3$
$4$$-\Delta\,(a^2+b^2+c^2+ab+bc+ca)$$6$
$5$$-\Delta\,h_3(a,b,c)$$10$

$n=2$ は ex-apd-start、$n=3$ は ex-apd-deg4 と一致する。

$n=4$ を数で確かめる

$(a,b,c)=(0,1,3)$ とする。$f_4=0\cdot(1-3)+1\cdot(3-0)+81\cdot(0-1)=3-81=-78$ である。右辺は $\Delta=(0-1)(1-3)(3-0)=6$、$h_2=0+1+9+0+3+0=13$ で、$-6\cdot13=-78$ となり一致する。

thm-apd-power の証明は、thm-apd-main を使わずに直接計算した。thm-apd-main から分かるのは「商は次数 $n-2$ の対称式」までで、それが $h_{n-2}$ であることは、この計算で初めて分かる。

差積の 2 乗と判別式

ex-apd-product で見たように、$\Delta^2$ は対称式である。対称式の基本定理(高校数学) により、$\Delta^2$ は基本対称式
$$ s_1=a+b+c,\qquad s_2=ab+bc+ca,\qquad s_3=abc $$
の多項式で書ける。具体的な式は次のとおりである。

差積の 2 乗を基本対称式で書く

$$ \Delta^2=s_1^2s_2^2-4s_2^3-4s_1^3s_3+18s_1s_2s_3-27s_3^2 $$
である。$a,b,c$ が 3 次方程式 $x^3+Bx^2+Cx+D=0$ の 3 つの解なら、$\Delta^2$ はこの方程式の判別式 $B^2C^2-4C^3-4B^3D-27D^2+18BCD$ に等しい。

判別式の公式に根と係数の関係を入れる

$a,b,c$ を解とする 3 次式は $(x-a)(x-b)(x-c)=x^3-s_1x^2+s_2x-s_3$ である(展開すると係数が基本対称式になる。根と係数の関係と対称式)。3次方程式と多項式の判別式 の定義により、最高次の係数が $1$ の 3 次式 $(x-a)(x-b)(x-c)$ の判別式は $(a-b)^2(a-c)^2(b-c)^2=\Delta^2$ であり、同じ記事の公式「一般の 3 次式の判別式」により、係数 $B,C,D$ を使って $B^2C^2-4C^3-4B^3D-27D^2+18BCD$ と書ける。$B=-s_1$、$C=s_2$、$D=-s_3$ を代入すると
$$ B^2C^2=s_1^2s_2^2,\quad -4C^3=-4s_2^3,\quad -4B^3D=-4(-s_1)^3(-s_3)=-4s_1^3s_3,\quad -27D^2=-27s_3^2,\quad 18BCD=18s_1s_2s_3 $$
で、足すと命題の式になる。$\square$

解が $1,2,3$ の場合

$(a,b,c)=(1,2,3)$ では $\Delta=2$、$\Delta^2=4$ である。$s_1=6$、$s_2=11$、$s_3=6$ で
$$ s_1^2s_2^2-4s_2^3-4s_1^3s_3+18s_1s_2s_3-27s_3^2=4356-5324-5184+7128-972=4 $$
となり一致する。これは $x^3-6x^2+11x-6$ の判別式である。

$\Delta^2=0$ となるのは、$a,b,c$ のうち 2 つが等しいとき、かつそのときに限る。3 次方程式が重解をもつかどうかを係数だけで判定できるのは、このためである。判別式の符号と実数解の個数の関係は 3次方程式と多項式の判別式 で扱う。

例と反例

thm-apd-main の仮定を外したり、結論を強めたりすると何が崩れるかを並べる。

外す条件・強めた主張反例成り立たなくなること
どの 2 文字の入れ替えでも $-1$ 倍$(a-b)c$($a$ と $b$ の入れ替えだけで $-1$ 倍)$\Delta$ で割り切れる
(逆)2 文字が等しいと $0$ なら交代式$\Delta^2$交代式である
(強めた主張)$\Delta$ でちょうど 1 回割り切れる$\Delta^3$商 $\Delta^2$ が $\Delta$ で割り切れない
反例:入れ替え 1 つだけでは足りない

$g=(a-b)c$ は、$a$ と $b$ を入れ替えると $(b-a)c=-g$ になる。しかし $b$ と $c$ を入れ替えると $(a-c)b$ で、$(a,b,c)=(0,1,2)$ では $g=-2$、$(a-c)b=-2\cdot1=-2$ となり $-g=2$ と違う。$g$ は交代式ではない。
$g$ は $0$ でなく次数が $2$ である。cor-apd-degree の証明と同じく、$\Delta$ で割り切れる $0$ でない多項式の次数は $3$ 以上なので、$g$ は $\Delta$ で割り切れない。

反例:2 文字が等しいと 0 でも交代式とは限らない

$\Delta^2$ は、$a=b$、$b=c$、$c=a$ のどれでも $0$ になる。しかし ex-apd-product のとおり対称式で、入れ替えても $-1$ 倍にならない($(1,2,3)$ でも $(2,1,3)$ でも値は $4$)。lem-apd-zero の逆は成り立たない。$0$ でない式が対称式かつ交代式になることはない($f=-f$ から $f=0$)ので、$\Delta^2$ は交代式でない。

反例:何回割り切れるかは決まらない

$\Delta^3$ は、入れ替えで $(-\Delta)^3=-\Delta^3$ になるので交代式である。thm-apd-main の商は $q=\Delta^2$ で、たしかに対称式だが、$q$ 自身がさらに $\Delta$ で割り切れる。thm-apd-main が言うのは「少なくとも 1 回割り切れ、商は対称式」までである。

5 乗の和の因数分解

$(a-b)^5+(b-c)^5+(c-a)^5$ を因数分解せよ。

解答を開く

$a$ と $b$ を入れ替えると $(b-a)^5+(a-c)^5+(c-b)^5=-\{(a-b)^5+(c-a)^5+(b-c)^5\}$ なので交代式である(ほかの入れ替えも同じ)。どの項も次数 $5$ なので、thm-apd-main により $\Delta q$ と書け、$q$ は次数 $2$ の対称式で、ex-apd-deg4 と同じ理由で定数項と 1 次の項はない。次数 2 の対称式は $q=p(a^2+b^2+c^2)+r(ab+bc+ca)$ の形である($a^2,b^2,c^2$ の係数は入れ替えで移り合うので等しく、$ab,bc,ca$ の係数も等しい)。

$a^4b$ の係数:左辺では $(a-b)^5$ からの $-5$ だけである。$\Delta q$ では $\Delta$ の $-a^2b$ と $q$ の $pa^2$ の積だけから出て $-p$ である。よって $p=5$ である。

$a^3b^2$ の係数:左辺では $(a-b)^5$ からの $10$ である。$\Delta q$ では、$\Delta$ の $ab^2$ と $pa^2$ の積から $p$、$\Delta$ の $-a^2b$ と $rab$ の積から $-r$ が出て、合わせて $p-r$ である。よって $5-r=10$、$r=-5$ である。

$$(a-b)^5+(b-c)^5+(c-a)^5=5(a-b)(b-c)(c-a)(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca)$$

検算:$(a,b,c)=(1,2,3)$ で左辺は $-1-1+32=30$、右辺は $5\cdot2\cdot(14-11)=30$ である。

大学数学で見る:Vandermonde の行列式と置換の符号

差積は行列式で書ける。3 次の正方行列の行列式を使うと
$$ \det\begin{pmatrix}1&1&1\\ a&b&c\\ a^2&b^2&c^2\end{pmatrix}=(b-a)(c-a)(c-b)=\Delta $$
である(最後の等号は、$(b-a)(c-b)=(a-b)(b-c)$ による)。これは Vandermonde の行列式 の 3 次の場合である。一般の $n$ 次では、$\beta_1,\ldots,\beta_n$ を並べた Vandermonde 行列の行列式が $\displaystyle\prod_{1\le j< k\le n}(\beta_k-\beta_j)$ になる(Axl24 の 9.67)。

行列式と主定理 2、$n$ 文字の交代式を開く

3 行目を $a^n,b^n,c^n$ に替えた行列式を 1 行目で展開すると $\det\begin{pmatrix}1&1&1\\ a&b&c\\ a^n&b^n&c^n\end{pmatrix}=(bc^n-cb^n)-(ac^n-ca^n)+(ab^n-ba^n)=a^n(c-b)+b^n(a-c)+c^n(b-a)=-f_n$ である。行列式は 2 つの列を入れ替えると $-1$ 倍になるので、この行列式は交代式であり、thm-apd-power は「この行列式を Vandermonde の行列式で割ると $h_{n-2}$」と言いかえられる。行列式の比で対称式を作るこの形は、Schur多項式 の定義(双交代式の比)の最も簡単な場合にあたる。

$n$ 文字 $x_1,\ldots,x_n$ でも、差積 $\displaystyle\prod_{1\le i< j\le n}(x_i-x_j)$ は交代式であり、thm-apd-main と同じ議論(2 文字が等しいと $0$ になることから、因数 $x_i-x_j$ を 1 つずつくくり出す)で、$n$ 文字の交代式は差積と対称式の積になる。文字の並べ替え(置換)$\sigma$ で差積は $+1$ 倍か $-1$ 倍になり、その符号を $\sigma$ の符号という(置換の符号)。$\Delta^2$ が判別式になることは $n$ 次方程式でも同じである(3次方程式と多項式の判別式 の節「一般の $n$ 次式と終結式」)。

さらに先へ

  • 対称式は「どの入れ替えでも変わらない」式、交代式は「どの入れ替えでも $-1$ 倍になる」式である。文字の並べ替えで式がどう変わるかを調べる考え方は、大学の群論(置換のなす群)につながる(対称式、置換の符号)。
  • 係数の対称性を使う式の整理は、次の 相反方程式 でも使う。そこでは文字の入れ替えではなく、$x$ を $\dfrac1x$ に替える操作で変わらない多項式を扱う。

関連項目

参考文献

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