線織曲面

同義語:ruled surface幾何的線織曲面geometrically ruled surface

概要

線織曲面(ruled surface)とは、曲線 $C$ への全射 $\pi\colon X\to C$ をもつ滑らかな射影曲面で、すべてのファイバーが射影直線と同型であり、$\pi$ が切断をもつものである。$C$ 上の階数 $2$ のベクトル束 $\mathcal{E}$ の射影束として表され、正規化した $\mathcal{E}$ の次数から整数 $e$ が決まる。$C$ の種数を $g$ とすると、標準因子は数値的に $-2C_0+(2g-2-e)f$($C_0$ は自己交点数 $-e$ の切断、$f$ はファイバー)で $K^2=8(1-g)$ であり、不正則数は $g$、多重種数はすべて $0$ で、小平次元は $-\infty$ である。射影直線上の線織曲面は Hirzebruch 曲面に限られ、小平次元 $-\infty$ の曲面の分類の基本の対象である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 代数曲面, 射影束, 曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理, Riemann–Rochの定理

線織曲面 とは、曲線 $C$ の各点に射影直線 $\mathbb{P}^1$ が 1 本ずつ乗り、それらが代数的につながってできる曲面である。2次曲面 $\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ や $C\times\mathbb{P}^1$ が最も簡単な例である。線織曲面は $C$ 上の階数 $2$ のベクトル束の射影束として表され、交点形式・標準因子・コホモロジーがすべて底の曲線の種数 $g$ と 1 つの整数 $e$ で計算できる。小平次元が $-\infty$ の曲面は、まさに有理曲面と線織曲面の双有理類であり、線織曲面は曲面の分類の最初の柱である。
文献により「線織曲面」は 2 つの意味で使われる。この記事の主な対象は、すべてのファイバーが $\mathbb{P}^1$ で切断をもつ曲面(幾何的線織曲面)である。分類理論では、$C\times\mathbb{P}^1$ と双有理同値な曲面全体を線織曲面と呼ぶことも多い(代数曲面 の節「分類の地図」はこの意味)。微分幾何で $\mathbb{R}^3$ の中の直線の 1 径数族が掃く曲面を「線織面」と呼ぶのは別の話題で、この記事では扱わない。

定義

この記事では $k$ を代数閉体とし、曲面は $k$ 上の滑らかで連結な射影曲面、曲線は $k$ 上の滑らかで連結な射影曲線とする。$C$ はつねに種数 $g$ の曲線である。

線織曲面

曲面 $X$ と全射 $\pi\colon X\to C$ の組で、すべての閉点 $c\in C$ のファイバー $X_c=\pi^{-1}(c)$ が $\mathbb{P}^1$ と同型であり、$\pi$ が切断 $\sigma\colon C\to X$($\pi\circ\sigma=\mathrm{id}_C$)をもつものを、$C$ 上の線織曲面(ruled surface)または幾何的線織曲面(geometrically ruled surface)という。

双有理線織曲面と有理曲面

ある曲線 $C$ について $C\times\mathbb{P}^1$ と双有理同値な曲面を双有理線織曲面という。$\mathbb{P}^2$ と双有理同値な曲面を有理曲面という(有理多様体 の 2 次元の場合)。$\mathbb{P}^2$ と $\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ は双有理同値なので、有理曲面は $C=\mathbb{P}^1$ の双有理線織曲面である。

切断の存在は、ほかの条件から従う。生成ファイバーは $C$ の関数体 $k(C)$ 上の種数 $0$ の曲線で、$k(C)$ は Tsenの定理 の $C_1$ 体なので有理点をもつからである(Har77 V §2 の定義のあとの注、p. 369。この記事では証明しない)。

射影束による表示

$\pi\colon X\to C$ を線織曲面とすると、$C$ 上の階数 $2$ の局所自由層 $\mathcal{E}$ があって、$C$ 上 $X\cong\mathbb{P}(\mathcal{E})$ である。逆に階数 $2$ の局所自由層 $\mathcal{E}$ の射影束 $\mathbb{P}(\mathcal{E})\to C$ は線織曲面である。$\mathbb{P}(\mathcal{E})\cong\mathbb{P}(\mathcal{E}')$($C$ 上)であることは、可逆層 $\mathcal{L}$ で $\mathcal{E}'\cong\mathcal{E}\otimes\mathcal{L}$ となるものがあることと同値である。

射影束による表示の出典

最初の 2 つの主張は Har77 V, Proposition 2.2(p. 370)にあり、この記事では証明しない(ファイバーのコホモロジーの次元が一定であることから $X\cong\mathbb{P}(\pi_*\mathcal{O}_X(\sigma(C)))$ を示す)。最後の主張は 射影束のPicard群 の定理「射影束の同型と可逆層によるひねり」である。射影束は 射影束 と同じ商の規約で、$\mathcal{O}_X(1)$ は標準可逆層である。

例

積と Hirzebruch 曲面

$C\times\mathbb{P}^1$ と第 1 射影は線織曲面で、$\mathcal{E}=\mathcal{O}_C\oplus\mathcal{O}_C$ に当たる。$C=\mathbb{P}^1$、$\mathcal{E}=\mathcal{O}\oplus\mathcal{O}(-n)$($n\ge0$)の射影束が Hirzebruch 曲面 $\mathbb{F}_n$ で、$\mathbb{F}_0=\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$、$\mathbb{F}_1$ は $\mathbb{P}^2$ の 1 点の爆発である(射影束 の例「Hirzebruch 曲面の例」)。$\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ は 2 つの射影のどちらでも線織曲面になる。

錐の頂点の爆発

次数 $d$ の曲線 $C\subset\mathbb{P}^n$ の上の錐 $Y\subset\mathbb{P}^{n+1}$ の頂点を爆発すると、$C$ 上の線織曲面 $\mathbb{P}(\mathcal{O}_C\oplus\mathcal{O}_C(-1))$ が得られ、頂点の逆像は自己交点数 $-d$ の切断になる(Har77 V, Example 2.11.4、p. 374。この記事では証明しない)。$C$ が平面 2 次曲線なら $d=2$ で、2 次錐の頂点の爆発は $\mathbb{F}_2$ である。

正規化と不変量 $e$

thm-rs-projective-bundle の $\mathcal{E}$ は可逆層によるひねりの分だけ自由度がある。それを次のように固定する。

正規化された局所自由層

線織曲面 $X\to C$ は、次の条件を満たす $\mathcal{E}$ により $X\cong\mathbb{P}(\mathcal{E})$ と書ける:$H^0(C,\mathcal{E})\ne0$ であり、次数が負のすべての可逆層 $\mathcal{M}$ について $H^0(C,\mathcal{E}\otimes\mathcal{M})=0$。このような $\mathcal{E}$ を正規化された局所自由層といい、
$$ e:=-\deg\mathcal{E}\qquad(\deg\mathcal{E}:=\deg\textstyle\bigwedge^2\mathcal{E}) $$
は $X$ だけで決まる整数である。さらに $0$ でない $s\in H^0(\mathcal{E})$ は完全列 $0\to\mathcal{O}_C\xrightarrow{s}\mathcal{E}\to\mathcal{L}\to0$($\mathcal{L}$ は可逆層で $\mathcal{L}\cong\bigwedge^2\mathcal{E}$)を与え、全射 $\mathcal{E}\to\mathcal{L}$ に対応する切断の像 $C_0$ は $\mathcal{O}_X(C_0)\cong\mathcal{O}_X(1)$ を満たす。

正規化の出典

これは Har77 V, Proposition 2.8 とその証明(p. 372)であり、この記事では証明しない。$\mathcal{E}\otimes\mathcal{M}$ が大域切断をもつ最小の次数の $\mathcal{M}$ でひねるのが要点である。正規化された $\mathcal{E}$ は一意とは限らないが、その次数は $X$ で決まる。

以下、$\mathcal{E}$ は正規化されているとし、$C_0$ をこの切断、$f$ をファイバーの類とする。$C$ 上の因子 $b$ について、$\pi^*b$ を $bf$ と書くことがある。

交点形式と標準因子

線織曲面の交点形式と標準因子

$\pi\colon X\to C$ を線織曲面とし、記号を上のとおりとする。

  1. $\operatorname{Pic}X=\mathbb{Z}[C_0]\oplus\pi^*\operatorname{Pic}C$ である。数値的同値の類で、$X$ のすべての因子 $D$ は $D\equiv aC_0+bf$($a=D\cdot f$、$b\in\mathbb{Z}$)と一意に書ける。
  2. $C_0\cdot f=1$、$f^2=0$、$C_0^2=-e$ である。
  3. 標準因子 $K_X$ について $K_X\equiv-2C_0+(2g-2-e)f$ であり、$K_X^2=8(1-g)$ である。

交点数は 曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の定義「交点数」の意味で、同記事の補題「滑らかな曲線との交点数は次数」により、滑らかな曲線 $Y$ と因子 $D$ について $Y\cdot D=\deg(\mathcal{O}_X(D)|_Y)$ である。
1:射影束のPicard群 の定理「射影束の Picard 群」の 1 と $\mathcal{O}_X(1)\cong\mathcal{O}_X(C_0)$(prop-rs-normalized)から、$\operatorname{Pic}C\times\mathbb{Z}\to\operatorname{Pic}X$、$(\mathcal{N},a)\mapsto\pi^*\mathcal{N}\otimes\mathcal{O}_X(aC_0)$ は同型である。ファイバー $X_c$ への制限で、$\pi^*\mathcal{N}$ は自明、$\mathcal{O}_X(1)$ は $\mathcal{O}_{\mathbb{P}^1}(1)$ になるので、$(\pi^*\mathcal{N}\otimes\mathcal{O}_X(aC_0))\cdot X_c=a$ は $c$ によらない。点 $c$ の因子の引き戻しはファイバー $X_c$ そのものなので($\pi$ は滑らかな射でファイバーは被約)、$\deg\mathcal{N}=b$ なら $\pi^*\mathcal{N}$ は $b$ 本のファイバーの和と差に線形同値であり、各ファイバーとの交点数は同じだから $\pi^*\mathcal{N}\equiv bf$ である。数値的に $aC_0+bf\equiv0$ なら、$f$ との交点数から $a=0$、$C_0$ との交点数(2 による)から $b=0$ なので、表し方は一意である。
2:$C_0$ と $f$ はどちらも $\mathbb{P}^1$ または $C$ に同型な滑らかな曲線である。$f\cdot C_0=\deg(\mathcal{O}_X(1)|_{X_c})=1$。相異なるファイバーは交わらないので $f^2=X_c\cdot X_{c'}=\deg(\mathcal{O}_X(X_c)|_{X_{c'}})=0$。$C_0$ に対応する切断を $\sigma_0$ とすると、射影束 の命題「切断と可逆商」の 1 により $\sigma_0^*\mathcal{O}_X(1)\cong\mathcal{L}$ なので、$C_0^2=\deg(\mathcal{O}_X(C_0)|_{C_0})=\deg\mathcal{L}=\deg\mathcal{E}=-e$ である($\mathcal{L}\cong\bigwedge^2\mathcal{E}$)。
3:1 により $K_X\equiv aC_0+bf$ と書ける。ファイバー $X_c\cong\mathbb{P}^1$ に随伴公式(曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の系「随伴公式」)を使うと $-2=f^2+K_X\cdot f=a$。$C_0\cong C$ に使うと
$$ 2g-2=C_0^2+K_X\cdot C_0=-e+(-2C_0^2+b)=-e+2e+b, $$
よって $b=2g-2-e$ である。最後に $K_X^2=4C_0^2-4b\,C_0\cdot f+b^2f^2=-4e-4(2g-2-e)=8(1-g)$ である。$\square$

線形同値の類としては、$C$ の標準因子 $K_C$ と $\bigwedge^2\mathcal{E}\cong\mathcal{O}_C(\mathfrak{d})$ となる因子 $\mathfrak{d}$ を使って $K_X\sim-2C_0+\pi^*(K_C+\mathfrak{d})$ となる(Har77 V, Lemma 2.10、p. 373。この記事では証明しない)。$\deg\mathfrak{d}=-e$ なので、3 はこれと合う。

コホモロジーと小平次元

$q(X):=h^1(X,\mathcal{O}_X)$ を不正則数、$p_g(X):=h^2(X,\mathcal{O}_X)$ を幾何種数、$P_n(X):=h^0(X,\mathcal{O}_X(nK_X))$ を 多重種数 という。

線織曲面の不変量

種数 $g$ の曲線 $C$ 上の線織曲面 $X$ について、$h^0(\mathcal{O}_X)=1$、$q(X)=g$、$p_g(X)=0$、$\chi(\mathcal{O}_X)=1-g$ であり、すべての $n\ge1$ で $P_n(X)=0$ である。とくに $X$ の小平次元は $-\infty$ である。

射影束 の命題「標準可逆層の順像と対称冪」により $\pi_*\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_C$ であり、同記事の命題「標準可逆層のひねりの高次順像」(階数 $r=2$、$n=0>-2$)により $R^i\pi_*\mathcal{O}_X=0$($i>0$)である。Lerayスペクトル系列 の系「高次順像が消える場合」から $H^i(X,\mathcal{O}_X)\cong H^i(C,\mathcal{O}_C)$ がすべての $i$ で成り立つ。右辺は $i=0,1,2$ で $1,g,0$ 次元($C$ は 1 次元)なので、最初の 4 つの主張を得る。
$n\ge1$ とし、$|nK_X|$ に有効因子 $D$ があったとする。$D$ の既約成分は有限個なので、それに含まれないファイバー $X_c$ がある。$D$ を定める切断を $X_c$ に制限したものは $0$ でないので、$\mathcal{O}_X(D)|_{X_c}$ は $0$ でない大域切断をもち、$D\cdot X_c=\deg(\mathcal{O}_X(D)|_{X_c})\ge0$ である。一方 thm-rs-intersection の 3 により $nK_X\cdot f=-2n<0$ であり、矛盾する。よって $P_n(X)=0$ である。$\square$

$k=\mathbb{C}$ なら、Noetherの公式 の定理「Noether の公式」$12\chi(\mathcal{O}_X)=K_X^2+e(X)$ から、位相的な Euler 数は $e(X)=12(1-g)-8(1-g)=4(1-g)$ である。これは $X$ が $C$ 上の 2 次元球面の束であることから期待される値 $e(\mathbb{P}^1)\,e(C)=2(2-2g)$ と一致する。

不変量 $e$ のとりうる値

$\mathcal{E}$ が 2 つの可逆層の直和と同型なとき可分解といい、そうでないとき直既約という。

不変量 $e$ の範囲

$X=\mathbb{P}(\mathcal{E})$ を種数 $g$ の曲線 $C$ 上の線織曲面とし、$\mathcal{E}$ は正規化されているとする。

  1. $\mathcal{E}$ が可分解なら、$\mathcal{E}\cong\mathcal{O}_C\oplus\mathcal{M}$($\deg\mathcal{M}\le0$)であり、$e=-\deg\mathcal{M}\ge0$ である。逆に $e\ge0$ を任意にとると、$\deg\mathcal{M}=-e$ の $\mathcal{O}_C\oplus\mathcal{M}$ は正規化されている。
  2. $\mathcal{E}$ が直既約なら、$-2g\le e\le2g-2$ である。

可逆層の次数と大域切断について、次を使う(Riemann–Rochの定理 の補題「$\ell(D)$ の基本性質」の 3・4):次数が負の可逆層は $0$ でない大域切断をもたず、次数 $0$ の可逆層が $0$ でない大域切断をもつのは自明なときに限る。
1:$\mathcal{E}\cong\mathcal{L}_1\oplus\mathcal{L}_2$ とする。$\deg\mathcal{L}_1>0$ なら $\mathcal{M}:=\mathcal{L}_1^{-1}$ は次数が負で $H^0(\mathcal{E}\otimes\mathcal{M})\supset H^0(\mathcal{O}_C)\ne0$ となり、正規化に反する。よって $\deg\mathcal{L}_i\le0$ である。$H^0(\mathcal{E})\ne0$ なので一方、たとえば $\mathcal{L}_1$ が $0$ でない切断をもち、上の事実から $\mathcal{L}_1\cong\mathcal{O}_C$ である。$\mathcal{M}:=\mathcal{L}_2$ とおけば $e=-\deg\mathcal{E}=-\deg\mathcal{M}\ge0$。逆に $\deg\mathcal{M}=-e\le0$ なら $H^0(\mathcal{O}_C\oplus\mathcal{M})\ni(1,0)$ は $0$ でなく、次数が負の $\mathcal{N}$ について $H^0(\mathcal{N})=H^0(\mathcal{M}\otimes\mathcal{N})=0$ である。$\mathcal{M}=\mathcal{O}_C(-eP)$($P\in C$)とすれば、すべての $e\ge0$ が現れる。
2:prop-rs-normalized の完全列 $0\to\mathcal{O}_C\to\mathcal{E}\to\mathcal{L}\to0$ をとる。$\deg\mathcal{L}=\deg\mathcal{E}=-e$ である。
上界:$H^1(C,\mathcal{L}^{-1})=0$ なら、$\mathcal{L}^{-1}$ をテンソルした列 $0\to\mathcal{L}^{-1}\to\mathcal{E}\otimes\mathcal{L}^{-1}\to\mathcal{O}_C\to0$ の長完全列で $H^0(\mathcal{E}\otimes\mathcal{L}^{-1})\to H^0(\mathcal{O}_C)$ が全射になり、$1$ の持ち上げが $\mathcal{O}_C\to\mathcal{E}\otimes\mathcal{L}^{-1}$ の分裂、すなわち $\mathcal{L}\to\mathcal{E}$ の分裂を与えて、$\mathcal{E}\cong\mathcal{O}_C\oplus\mathcal{L}$ が可分解になる。よって $H^1(C,\mathcal{L}^{-1})\ne0$ である。曲線の Serre 双対性(Riemann–Rochの定理 の定理「Serre双対性(曲線の場合)」)により $h^1(\mathcal{L}^{-1})=h^0(\omega_C\otimes\mathcal{L})$ なので $\deg(\omega_C\otimes\mathcal{L})\ge0$、すなわち $-e=\deg\mathcal{L}\ge2-2g$ である。
下界:次数 $-1$ の可逆層 $\mathcal{M}$ をとり、$\mathcal{M}$ をテンソルした列 $0\to\mathcal{M}\to\mathcal{E}\otimes\mathcal{M}\to\mathcal{L}\otimes\mathcal{M}\to0$ を考える。正規化から $H^0(\mathcal{E}\otimes\mathcal{M})=0$ なので、長完全列から $H^0(\mathcal{L}\otimes\mathcal{M})\hookrightarrow H^1(\mathcal{M})$ である。$h^0(\mathcal{M})=0$ と Riemann–Roch の定理から $h^1(\mathcal{M})=-(\deg\mathcal{M}+1-g)=g$、また Riemann の不等式(Riemann–Rochの定理 の系「Riemann の不等式」)から $h^0(\mathcal{L}\otimes\mathcal{M})\ge\deg\mathcal{L}-1+1-g$ である。よって $\deg\mathcal{L}-g\le g$、すなわち $e=-\deg\mathcal{L}\ge-2g$ である。$\square$

これは Har77 V, Theorem 2.12(p. 376)と同じ主張である。実際にはより強く $e\ge-g$ が成り立つ(Har77 V, Exercise 2.5 の注、p. 384。この記事では証明しない)。$g=1$ では、直既約な $\mathcal{E}$ をもつ線織曲面は $e=0$ と $e=-1$ のものがそれぞれちょうど 1 つずつある(同 Theorem 2.15、p. 377。この記事では証明しない)。

射影直線上の線織曲面

$C=\mathbb{P}^1$ 上の線織曲面は、ある $e\ge0$ について Hirzebruch 曲面 $\mathbb{F}_e$ と同型であり、$e$ は曲面から決まる。とくに $\mathbb{P}^1$ 上の階数 $2$ の局所自由層は 2 つの可逆層の直和と同型である。

$g=0$ では thm-rs-e-range の 2 の範囲 $0\le e\le-2$ が空なので、正規化された $\mathcal{E}$ は可分解で、1 により $\mathcal{E}\cong\mathcal{O}\oplus\mathcal{M}$、$\deg\mathcal{M}=-e$ である。$\mathbb{P}^1$ の可逆層は次数で決まる($\operatorname{Pic}\mathbb{P}^1\cong\mathbb{Z}$)ので $\mathcal{M}\cong\mathcal{O}(-e)$、$X\cong\mathbb{F}_e$ である。任意の階数 $2$ の局所自由層 $\mathcal{E}'$ は、prop-rs-normalized によりひねると正規化され、上により $\mathcal{E}'\otimes\mathcal{N}\cong\mathcal{O}\oplus\mathcal{O}(-e)$ となるから、$\mathcal{E}'\cong\mathcal{N}^{-1}\oplus\mathcal{N}^{-1}(-e)$ である。$\square$

負の曲線と極小性

負の曲線と極小性

$\pi\colon X\to C$ を線織曲面とする。

  1. $C_0$ ともファイバーとも異なる既約曲線 $Y$ は $Y\equiv aC_0+bf$、$a\ge1$、$b\ge ae$ を満たし、$e\ge0$ なら $Y^2\ge ea^2\ge0$ である。とくに $e>0$ なら、自己交点数が負の既約曲線は $C_0$ だけであり、自己交点数が $-e$ の切断は $C_0$ ただ 1 つである。
  2. $X$ が極小曲面($(-1)$ 曲線をもたない)でないのは、$g=0$ かつ $e=1$($X\cong\mathbb{F}_1$)のときに限る。

1:$Y$ はファイバーでないので $\pi(Y)=C$ であり、$a=Y\cdot f\ge1$ である($Y$ と $X_c$ は共通成分をもたないので、thm-rs-invariants の証明と同じく交点数は $0$ 以上で、$Y\cap X_c\ne\emptyset$ なので正)。同様に $Y\cdot C_0=-ae+b\ge0$ である。$e\ge0$ なら $Y^2=-ea^2+2ab\ge-ea^2+2a^2e=ea^2\ge0$。$f^2=0$ なので、$e>0$ のとき負の既約曲線は $C_0$($C_0^2=-e$)だけである。切断はファイバーでない既約曲線なので、$C_0$ 以外の切断の自己交点数は $0$ 以上で、$-e$ にならない。
2:$(-1)$ 曲線 $E$($\mathbb{P}^1$ と同型で $E^2=-1$)があったとする。$E$ はファイバーでない($f^2=0$)ので $\pi|_E\colon E\to C$ は全射である。$g\ge1$ なら、$\mathbb{P}^1$ から種数正の曲線への定数でない射はないので(Lüroth の定理、Har77 IV, Example 2.5.5、p. 303)矛盾する。$g=0$ なら cor-rs-rational により $e\ge0$ で、1 により $E=C_0$、$-1=C_0^2=-e$ なので $e=1$ である。逆に $\mathbb{F}_1$ の $C_0$ は $\mathbb{P}^1$ と同型で $C_0^2=-1$ なので $(-1)$ 曲線である。$\square$

$e\ge0$ のときの 1 の不等式は、$X$ の曲線の錐が $C_0$ と $f$ で張られることも示す(錐定理 の定理「$e\ge0$ の線織曲面の錐」)。

曲面の分類の中での位置

ここでは主張だけを述べ、この記事では証明しない。$k$ を代数閉体とする。

  • 曲面 $X$ の小平次元が $-\infty$ であること、すなわち $|12K_X|=\emptyset$ であることは、$X$ が有理曲面か双有理線織曲面であることと同値である(Har77 V, Theorem 6.1、p. 422)。
  • 複素数体上では、すべてのコンパクト複素曲面は 10 の類のどれかに属する極小モデルをもち(Enriques–小平の分類。Federigo Enriques と小平邦彦(Kunihiko Kodaira)の名を冠する)、小平次元 $-\infty$ の代数曲面の極小モデルは、極小有理曲面($\mathbb{P}^2$ と $\mathbb{F}_e$、$e\ne1$)か、種数 $g\ge1$ の曲線上の線織曲面である(BHPV04 VI, Theorem 1.1 と Table 10、pp. 243–244)。後者の極小モデルは一意でなく、同じ双有理類に $\mathcal{E}$ の異なる線織曲面が現れる。
    prop-rs-minimal の 2 は、この一覧のうち線織曲面の極小性を確かめたものである。極小モデルの存在は 双有理幾何学 の定理「曲面の極小モデルの存在」にある。

反例:条件を外すと

外す条件反例成り立たなくなること
def-rs-main の「すべてのファイバーが $\mathbb{P}^1$」$\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ の 1 点の爆発と $\mathbb{P}^1$ への射thm-rs-intersection の $K_X^2=8(1-g)$
prop-rs-minimal の 1 の $e>0$$C\times\mathbb{P}^1$($e=0$)自己交点数が $-e$ の切断が $C_0$ ただ 1 つであること
prop-rs-minimal の 2 の $g\ge1$$\mathbb{F}_1$線織曲面が極小であること
thm-rs-e-range の 1 の可分解性楕円曲線上の $e=-1$ の線織曲面$e\ge0$
反例の確かめ

1 行目.$Z:=\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ を点 $p$ で爆発した $\tilde Z$ と、第 1 射影の合成 $\tilde Z\to\mathbb{P}^1$ を考える。$p$ を通るファイバーの逆像は、例外曲線とファイバーの固有変換の 2 本の $\mathbb{P}^1$ の和で、$\mathbb{P}^1$ と同型でない。爆発で $K^2$ は $1$ 減る(曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の定理「爆発と交点形式」)ので $K_{\tilde Z}^2=8-1=7\ne8(1-0)$ である。
2 行目.$C\times\mathbb{P}^1$ では $\mathcal{E}=\mathcal{O}_C\oplus\mathcal{O}_C$ が正規化され $e=0$ であり、各 $p\in\mathbb{P}^1$ について $C\times\{p\}$ は自己交点数 $0=-e$ の切断である(相異なる 2 本は交わらない)。自己交点数が $-e$ の切断は無限に多い。
3 行目は prop-rs-minimal の 2 の証明の最後にある。4 行目.楕円曲線 $C$ 上で、点 $P$ による $\mathcal{O}_C(P)$ の $\mathcal{O}_C$ による自明でない拡大 $\mathcal{E}$ は正規化されていて直既約であり、$e=-\deg\mathcal{E}=-1$ である(Har77 V, Example 2.11.6、p. 375。この記事では証明しない)。thm-rs-e-range の 1 により、可分解なら $e\ge0$ だった。

関連項目

参考文献

[1]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, 1977, IV, Example 2.5.5(p. 303、Lüroth の定理)、V §2:定義のあとの注(p. 369)、Proposition 2.2(p. 370)、Proposition 2.8(p. 372)、Lemma 2.10(p. 373)、Example 2.11.4(p. 374)、Example 2.11.6(p. 375)、Theorem 2.12(p. 376)、Theorem 2.15(p. 377)、Exercise 2.5 の Note(p. 384)、V, Theorem 6.1(p. 422)
[2]
Wolf P. Barth, Klaus Hulek, Chris A. M. Peters, Antonius Van de Ven, Compact Complex Surfaces, Springer, 2004, VI, Theorem 1.1 と Table 10(pp. 243–244、Enriques–小平の分類)

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