四元数群(quaternion group)とは、四元数の単位 $\pm1,\pm i,\pm j,\pm k$ が Hamilton の規則 $i^2=j^2=k^2=ijk=-1$ のもとでなす位数 8 の群 $Q_8$ のことである。位数 8 の非可換群のうち二面体群でない方であり、位数 2 の元を $-1$ ただ 1 つしかもたない。すべての部分群が正規部分群であるのにアーベル群でない群(Hamilton 群)の位数最小の例で、中心と交換子部分群はともに $\{\pm1\}$、剰余群 $Q_8/\{\pm1\}$ は Klein の四元群、自己同型群は 4 次対称群 $S_4$ と同型である。表示 $\langle a,b\mid a^4=1,\ a^2=b^2,\ bab^{-1}=a^{-1}\rangle$ をもち、一般化四元数群へ一般化される。
前提知識: 群, 部分群, 正規部分群, 群の表示, 四元数
8 個の記号 $1,\ -1,\ i,\ -i,\ j,\ -j,\ k,\ -k$ からなる集合 $Q_8$ に、次の規則で積を定める。
規則 1〜3 から定まる乗積表は次のとおりである(行の元を左、列の元を右に掛ける)。
| $\times$ | $1$ | $-1$ | $i$ | $-i$ | $j$ | $-j$ | $k$ | $-k$ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| $1$ | $1$ | $-1$ | $i$ | $-i$ | $j$ | $-j$ | $k$ | $-k$ |
| $-1$ | $-1$ | $1$ | $-i$ | $i$ | $-j$ | $j$ | $-k$ | $k$ |
| $i$ | $i$ | $-i$ | $-1$ | $1$ | $k$ | $-k$ | $-j$ | $j$ |
| $-i$ | $-i$ | $i$ | $1$ | $-1$ | $-k$ | $k$ | $j$ | $-j$ |
| $j$ | $j$ | $-j$ | $-k$ | $k$ | $-1$ | $1$ | $i$ | $-i$ |
| $-j$ | $-j$ | $j$ | $k$ | $-k$ | $1$ | $-1$ | $-i$ | $i$ |
| $k$ | $k$ | $-k$ | $j$ | $-j$ | $-i$ | $i$ | $-1$ | $1$ |
| $-k$ | $-k$ | $k$ | $-j$ | $j$ | $i$ | $-i$ | $1$ | $-1$ |
表から、$Q_8$ はアーベル群でない($ij=k\neq -k=ji$)ことがすぐに読み取れる。
def-quaternion-group の積により $Q_8$ は群である。さらに、複素数を成分とする 2 次正方行列
$$
\mathbf{1}=\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix},\quad
\mathbf{i}=\begin{pmatrix}\sqrt{-1}&0\\0&-\sqrt{-1}\end{pmatrix},\quad
\mathbf{j}=\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix},\quad
\mathbf{k}=\begin{pmatrix}0&\sqrt{-1}\\ \sqrt{-1}&0\end{pmatrix}
$$
に対し、$\pm1\mapsto\pm\mathbf{1}$、$\pm i\mapsto\pm\mathbf{i}$、$\pm j\mapsto\pm\mathbf{j}$、$\pm k\mapsto\pm\mathbf{k}$ は $Q_8$ から一般線形群 $\mathrm{GL}_2(\mathbb{C})$ への単射群準同型である。
行列の積を直接計算すると
$$
\mathbf{i}^2=\mathbf{j}^2=\mathbf{k}^2=-\mathbf{1},\qquad
\mathbf{i}\mathbf{j}=\begin{pmatrix}0&\sqrt{-1}\\ \sqrt{-1}&0\end{pmatrix}=\mathbf{k},\qquad
\mathbf{j}\mathbf{k}=\begin{pmatrix}\sqrt{-1}&0\\0&-\sqrt{-1}\end{pmatrix}=\mathbf{i},\qquad
\mathbf{k}\mathbf{i}=\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix}=\mathbf{j}
$$
であり、同様に直接計算すると
$$
\mathbf{j}\mathbf{i}=\begin{pmatrix}0&-\sqrt{-1}\\ -\sqrt{-1}&0\end{pmatrix}=-\mathbf{k},\qquad
\mathbf{k}\mathbf{j}=-\mathbf{i},\qquad
\mathbf{i}\mathbf{k}=-\mathbf{j}
$$
である。$-\mathbf{1}$ はすべての行列と可換で $(-\mathbf{1})^2=\mathbf{1}$ である。したがって 8 個の行列 $\pm\mathbf{1},\pm\mathbf{i},\pm\mathbf{j},\pm\mathbf{k}$ の間の積は、def-quaternion-group の規則 1〜3 と全く同じ規則に従う。8 個の行列は互いに異なるので、$Q_8$ の積の表は、この 8 個の行列の集合 $M$ の積の表と一致する。
$M$ は $\mathrm{GL}_2(\mathbb{C})$ の部分集合で、上の計算により積について閉じ、$\mathbf{1}$ を含み、各元の逆元($\pm\mathbf{1}$ は自分自身、$\pm\mathbf{i}$ の逆元は $\mp\mathbf{i}$ など)を含むので、$\mathrm{GL}_2(\mathbb{C})$ の部分群である。特に $M$ の積は結合法則を満たす(結合的である)。積の表が一致するので $Q_8$ も群であり、上の対応は群同型 $Q_8\cong M$ を与える。$\square$
$\mathbb{H}$ の積は結合的で($\mathbb{H}$ の結合性はex-quaternion-group-realizationsの行列表現の制限からも従う)、$1$ を単位元とし、$i,j,k$ は Hamilton の規則 $i^2=j^2=k^2=-1$、$ij=k$、$jk=i$、$ki=j$、$ji=-k$、$kj=-i$、$ik=-j$ を満たす(四元数)。実数 $-1$ は $\mathbb{H}$ のすべての元と可換である。よって $\{\pm1,\pm i,\pm j,\pm k\}$ の元どうしの積は def-quaternion-group の規則 1〜3 に従い、この集合は積で閉じ、$1$ と各元の逆元を含む。ゆえに $\mathbb{H}^{\times}$ の部分群であり、積の表が一致するので $Q_8$ と同型である。$\square$
$G:=\langle a,b\mid a^4=1,\ a^2=b^2,\ bab^{-1}=a^{-1}\rangle$ とおく。まず $|G|\le 8$ を示す。関係式 $bab^{-1}=a^{-1}$ から $ba=a^{-1}b=a^3b$ であり、$b^2=a^2$ から $b^{-1}=b^{-2}b=a^{-2}b=a^2b$、また $a^{-1}=a^3$ である。したがって $a^{\pm1},b^{\pm1}$ の任意の語は、$b$ をすべて右端へ移すことにより $a^rb^s$ の形に書き直せ、$a^4=1$ と $b^2=a^2$ により $0\le r\le 3$、$s\in\{0,1\}$ としてよい。よって $G$ の元は高々 8 個である。
次に、$Q_8$ において $i^4=1$、$i^2=-1=j^2$、$jij^{-1}=ji(-j)=-(ji)j=-(-k)j=kj=-i=i^{-1}$ が成り立つので、群の表示の普遍性(von Dyckの定理)により $a\mapsto i$、$b\mapsto j$ を満たす群準同型 $G\to Q_8$ が存在する。$i,j$ は $Q_8$ を生成する($k=ij$、$-1=i^2$ であり、残りは符号を付けたもの)ので、この準同型は全射である。$|G|\le8=|Q_8|$ だから、これは同型である。$\square$
四元数群は、位数 8 のアーベル群でない群のうち、二面体群 $\operatorname{Dih}_4$ でない方の群である。複素数の単位円上に $\pm1,\pm\sqrt{-1}$ が位数 4 の巡回群をなすように、四元数のうち $\pm1,\pm i,\pm j,\pm k$ が位数 8 の群をなす、と考えると分かりやすい。$-1$ を法として見れば $i,j,k$ は互いに可換で、$Q_8/\{\pm1\}$ はKleinの四元群になる。すなわち $Q_8$ は「Klein の四元群に符号 $\pm$ を付けて非可換にしたもの」であり、$-1$ という唯一の位数 2 の元が、$Q_8$ の際立った性質(すべての部分群が正規であること、自明でない部分群がすべて $-1$ を含むこと、$\operatorname{Dih}_4$ と同型でないこと)を支配している。
$Q_8$ の元の位数は、$1$ が 1、$-1$ が 2、$\pm i,\pm j,\pm k$ が 4 である。実際 $(\pm i)^2=i^2=-1\neq1$ かつ $(\pm i)^4=(-1)^2=1$ であり、$\pm j,\pm k$ も同様である。したがって $Q_8$ の位数 2 の元は $-1$ ただ 1 つである。
$Q_8$ の部分群は次の 6 個で、これですべてである。
$$
\{1\},\quad \{1,-1\},\quad \langle i\rangle=\{\pm1,\pm i\},\quad \langle j\rangle=\{\pm1,\pm j\},\quad \langle k\rangle=\{\pm1,\pm k\},\quad Q_8 .
$$
これを示す。Lagrangeの定理により部分群 $H$ の位数は $1,2,4,8$ のいずれかである。位数 2 の部分群は位数 2 の元 $-1$ で生成されるので $\{1,-1\}$ に限る。位数 4 の部分群 $H$ が位数 4 の元を含まなければ、$H$ の単位元以外の 3 個の元はすべて位数 2 となるが、位数 2 の元は 1 個しかないので矛盾する。よって $H$ は位数 4 の元 $x\in\{\pm i,\pm j,\pm k\}$ を含み、$H=\langle x\rangle$ は $\langle i\rangle,\langle j\rangle,\langle k\rangle$ のいずれかである。位数 8 の部分群は $Q_8$ 自身である。
とくに、$Q_8$ の $\{1\}$ 以外の部分群はすべて $-1$ を含む。
prop-quaternion-group-is-group の 8 個の行列は行列式が 1 で、随伴行列(複素共役転置)が逆行列に等しいので、特殊ユニタリ群 $\mathrm{SU}(2)$ の元である。すなわち $Q_8$ は $\mathrm{SU}(2)$ の位数 8 の部分群として実現される。prop-quaternion-group-in-quaternions の実現は、四元数 $a+bi+cj+dk$ を行列 $a\mathbf{1}+b\mathbf{i}+c\mathbf{j}+d\mathbf{k}$ に対応させる $\mathbb{H}$ の行列表現の制限であり、ノルム 1 の四元数のなす群と $\mathrm{SU}(2)$ の同一視(SO(3)とSU(2))のもとで両者は一致する。
$Q_8$ は、次の 2 つの含意が成り立たないことを示す反例である。
$\pm1$ は乗積表よりすべての元と可換である。$x\in\{\pm i,\pm j,\pm k\}$ は中心に属さない。実際 $x=\pm i$ なら $xj=\pm k\neq\mp k=jx$ であり、$x=\pm j$ なら $xk\neq kx$、$x=\pm k$ なら $xi\neq ix$ である。よって $Z(Q_8)=\{1,-1\}$ である。
交換子 $[i,j]=iji^{-1}j^{-1}=ij(-i)(-j)=ijij=k^2=-1$ だから $-1\in[Q_8,Q_8]$ である。一方、剰余群 $\overline{Q}:=Q_8/\{1,-1\}$ の元は $\bar1,\bar i,\bar j,\bar k$ の 4 個で、$i^2=j^2=k^2=-1\in\{1,-1\}$ より単位元以外の元はすべて位数 2 である。すべての元 $x$ が $x^2=e$ を満たす群では $xy=(xy)^{-1}=y^{-1}x^{-1}=yx$ となるので、$\overline{Q}$ はアーベル群である。したがって $[Q_8,Q_8]\subset\{1,-1\}$ であり、等号が成り立つ。$\overline{Q}$ は単位元以外の元がすべて位数 2 である位数 4 の群だから、Klein の四元群 $V_4$ と同型である。$\square$
すべての部分群が正規部分群であるような群を Dedekind 群(Dedekind group)といい、アーベル群でない Dedekind 群を Hamilton 群(Hamiltonian group)という。
$Q_8$ のすべての部分群は正規部分群である。すなわち $Q_8$ は Hamilton 群である。
ex-quaternion-group-subgroups の 6 個の部分群を調べればよい。$\{1\}$ と $Q_8$ は明らかに正規である。$\{1,-1\}$ は中心なので正規である($x(-1)x^{-1}=-1$)。$\langle i\rangle,\langle j\rangle,\langle k\rangle$ は指数(群論) 2 の部分群である。一般に、群 $G$ の指数 2 の部分群 $H$ は正規である。実際、$g\in H$ なら $gH=H=Hg$ であり、$g\notin H$ なら左剰余類は $H$ と $gH=G\setminus H$ の 2 個、右剰余類は $H$ と $Hg=G\setminus H$ の 2 個なので $gH=Hg$ となる。よってすべての部分群が正規であり、$Q_8$ はアーベル群でないので Hamilton 群である。$\square$
位数 8 未満の非可換群は3次の対称群 $S_3$(位数 6)だけであり、位数 8 の非可換群は $Q_8$ と $\operatorname{Dih}_4$ に限る(有限群の分類(位数1から100)、DF04 §5.3)。$S_3$ の位数 2 の部分群 $\{e,(1\,2)\}$($(1\,2)$ は互換である)は正規でなく($(1\,3)(1\,2)(1\,3)=(2\,3)$)、$\operatorname{Dih}_4=\langle r,s\rangle$ の部分群 $\{e,s\}$ も $rsr^{-1}=r^2s\neq s$ より正規でない。したがって $Q_8$ は位数最小の Hamilton 群である。
前半は ex-quaternion-group-subgroups の最後の主張である。$Q_8=NH$、$N\cap H=\{1\}$ となる部分群 $N,H$($N$ は正規)があれば、$N,H$ の一方は $\{1\}$ でなければならず、そのときもう一方は $Q_8$ である。よって自明でない分解はない。$\square$
$Q_8$ と位数 8 の二面体群 $\operatorname{Dih}_4=\langle r,s\mid r^4=s^2=e,\ srs=r^{-1}\rangle$ は同型でない。
同型な群では位数 2 の元の個数が等しい。$Q_8$ の位数 2 の元は $-1$ の 1 個である(ex-quaternion-group-subgroups)。一方 $\operatorname{Dih}_4$ の元は $r^m$、$r^ms$($0\le m\le3$)の 8 個で、これらは互いに異なる(二面体群)。$srs=r^{-1}$ から $sr^m=r^{-m}s$ なので $(r^ms)^2=r^m(sr^m)s=r^mr^{-m}s^2=e$ であり、$r^ms$($m=0,1,2,3$)の 4 個はすべて位数 2 である。さらに $r^2\neq e$、$(r^2)^2=r^4=e$ より $r^2$ も位数 2 である。よって $\operatorname{Dih}_4$ は位数 2 の元を少なくとも 5 個もち、$Q_8$ と同型でない。$\square$
位数 4 の元は $\pm i,\pm j,\pm k$ で、$b\notin\langle a\rangle=\{\pm1,\pm a\}$ は $b\neq\pm a$ を意味する。乗積表より、$x,y\in\{\pm i,\pm j,\pm k\}$、$y\neq\pm x$ ならば $yx=-xy$ である(例えば $ji=-k=-ij$ で、符号は両辺に同じように掛かる)。よって $bab^{-1}=(-ab)b^{-1}=-a=a^{-1}$(位数 4 の元は $a^2=-1$ を満たすので $a^{-1}=-a$)であり、$a^4=1$、$a^2=-1=b^2$ も成り立つ。prop-quaternion-group-presentation の表示と群の表示の普遍性により、$i\mapsto a$、$j\mapsto b$ を満たす準同型 $\varphi\colon Q_8\to Q_8$ が存在する。$\langle a,b\rangle$ は位数 4 の部分群 $\langle a\rangle$ を真に含むので位数 8、すなわち $Q_8$ 全体であり、$\varphi$ は全射、有限集合上の全射なので単射で、自己同型である。$i,j$ が $Q_8$ を生成するので、$\varphi$ は $a,b$ から一意に定まる。
逆に $\varphi$ が自己同型なら、$\varphi(i)$ は位数 4 であり、$\varphi(j)\in\langle\varphi(i)\rangle=\varphi(\langle i\rangle)$ とすると $j\in\langle i\rangle$ となって矛盾する。$a$ の選び方は 6 通り、$b$ は $\pm a$ を除いた 4 通りなので、$|\operatorname{Aut}(Q_8)|=6\cdot4=24$ である。$\square$
$A:=\operatorname{Aut}(Q_8)$ とおく。$A$ の各元は位数 4 の巡回部分群の集合 $\{\langle i\rangle,\langle j\rangle,\langle k\rangle\}$ を置換するので、この 3 元集合上の置換群 $S_3$ への準同型 $\rho\colon A\to S_3$ が得られる。$\ker\rho$ は $\langle i\rangle,\langle j\rangle$ をそれぞれ保つ自己同型、すなわち $i\mapsto\pm i$、$j\mapsto\pm j$ の 4 個からなる(lem-quaternion-group-automorphism)。$x\in Q_8$ による共役 $c_x\colon y\mapsto xyx^{-1}$ は、$c_1=c_{-1}=\mathrm{id}$、$c_{\pm i}$ は $i\mapsto i$、$j\mapsto -j$、$c_{\pm j}$ は $i\mapsto -i$、$j\mapsto j$、$c_{\pm k}$ は $i\mapsto -i$、$j\mapsto -j$ を満たす(prop-quaternion-group-center の証明と同じ計算)。よって $\operatorname{Inn}(Q_8)=\{c_x\mid x\in Q_8\}=\ker\rho$ であり、これは位数 4 で単位元以外の元がすべて位数 2 なので $V_4$ と同型である($\operatorname{Inn}(Q_8)\cong Q_8/Z(Q_8)$ からも分かる)。$|A|=24$ より $|\operatorname{im}\rho|=6$ なので $\rho$ は全射で、$\operatorname{Out}(Q_8)\cong S_3$ である。
$V:=\operatorname{Inn}(Q_8)$ とおく。$A\cong S_4$ を示すため、$A$ の中に $S_3$ と同型な部分群 $H$ で $V\cap H=\{\mathrm{id}\}$ となるものをとる。lem-quaternion-group-automorphism により、$\sigma\colon i\mapsto j,\ j\mapsto k$ と $\tau\colon i\mapsto -j,\ j\mapsto -i$ は自己同型である。$\sigma(k)=\sigma(i)\sigma(j)=jk=i$ なので $\sigma$ は $i\mapsto j\mapsto k\mapsto i$ を引き起こし位数 3、$\tau^2(i)=\tau(-j)=i$、$\tau^2(j)=j$ より $\tau$ は位数 2 である。$\tau(k)=(-j)(-i)=ji=-k$ に注意して $\tau\sigma\tau$ を計算すると、$i\mapsto -j\mapsto -k\mapsto k$、$j\mapsto -i\mapsto -j\mapsto i$ となり、これは $\sigma^{-1}$($i\mapsto k$、$j\mapsto i$)に等しい。$H:=\langle\sigma,\tau\rangle$ とおくと、$\tau\sigma\tau=\sigma^{-1}$ より $H$ の元は $\sigma^m\tau^n$($0\le m\le2$、$n\in\{0,1\}$)と書けるので $|H|\le6$ である。一方 $\rho(\sigma)$ は 3 個の部分群の巡回置換、$\rho(\tau)$ は $\langle i\rangle$ と $\langle j\rangle$ の互換なので $\rho(H)=S_3$ であり、$|H|=6$、$\rho|_H\colon H\to S_3$ は同型、$H\cap V=H\cap\ker\rho=\{\mathrm{id}\}$ である。$|VH|=|V|\,|H|/|V\cap H|=24=|A|$ より $A=VH$ であり、$A$ の各元は $vh$($v\in V$、$h\in H$)の形にただ 1 通りに書ける。
$H$ は $V$ に共役で作用する。$\sigma c_i\sigma^{-1}=c_{\sigma(i)}=c_j\neq c_i$ なので $\sigma$ はこの作用の核に属さず、核は $H\cong S_3$ の正規部分群で $\sigma$ を含まないから $\{\mathrm{id}\}$ である。よって $\alpha\colon H\to\operatorname{Aut}(V)$、$h\mapsto(v\mapsto hvh^{-1})$ は単射であり、$|\operatorname{Aut}(V)|=|\operatorname{Aut}(V_4)|=6$($V_4$ の自己同型は単位元以外の 3 元の置換で定まる)から同型である。
$S_4$ の側で同じ構造を確認する。$V':=\{e,(1\,2)(3\,4),(1\,3)(2\,4),(1\,4)(2\,3)\}$ は $S_4$ の正規部分群で $V_4$ と同型であり、$H':=\{\pi\in S_4\mid\pi(4)=4\}\cong S_3$ は $V'\cap H'=\{e\}$、$|V'H'|=24$ を満たすので、$S_4=V'H'$ で各元は $v'h'$ の形にただ 1 通りに書ける。共役による作用 $\alpha'\colon H'\to\operatorname{Aut}(V')$ の核は $H'$ の正規部分群で、3 次巡回置換 $(1\,2\,3)$ は $(1\,2)(3\,4)$ を $(2\,3)(1\,4)\neq(1\,2)(3\,4)$ に写すので核に属さない。よって $\alpha'$ も同型である。
群の同型 $\psi\colon V\to V'$ を 1 つ固定し、$\phi:=\alpha'^{-1}\circ\gamma\circ\alpha\colon H\to H'$ とおく。ここで $\gamma\colon\operatorname{Aut}(V)\to\operatorname{Aut}(V')$ は $f\mapsto\psi f\psi^{-1}$ で定まる同型である。$\phi$ は同型の合成なので同型で、定義により $\psi(hvh^{-1})=\phi(h)\psi(v)\phi(h)^{-1}$($h\in H$、$v\in V$)を満たす。写像 $\Phi\colon A\to S_4$ を $\Phi(vh):=\psi(v)\phi(h)$ で定めると、
$$
\Phi\bigl((v_1h_1)(v_2h_2)\bigr)=\Phi\bigl(v_1(h_1v_2h_1^{-1})\,h_1h_2\bigr)=\psi(v_1)\,\phi(h_1)\psi(v_2)\phi(h_1)^{-1}\,\phi(h_1)\phi(h_2)=\Phi(v_1h_1)\Phi(v_2h_2)
$$
となるので $\Phi$ は準同型であり、$\psi,\phi$ が全単射で $S_4=V'H'$ の分解が一意なので $\Phi$ は全単射である。ゆえに $\operatorname{Aut}(Q_8)\cong S_4$ である。$\square$
証明は Rob96 5.3.7 に譲る。この定理により、すべての部分群が正規である群は、アーベル群を除けば必ず $Q_8$ を直積因子として含む。この意味で $Q_8$ は Hamilton 群の「原子」である。
$n\ge2$ に対し、表示
$$
Q_{4n}:=\langle a,b\mid a^{2n}=1,\ a^n=b^2,\ bab^{-1}=a^{-1}\rangle
$$
で定まる位数 $4n$ の群を二重巡回群(dicyclic group)といい、$n$ が 2 の冪のとき一般化四元数群(generalized quaternion group)という。$n=2$ のときが prop-quaternion-group-presentation の $Q_8$ である。一般化四元数群は $Q_8$ と同様に位数 2 の元をただ 1 つ($a^n=b^2$)しかもたず、巡回群でない有限p群で位数 $p$ の部分群をただ 1 つしかもたないものは一般化四元数群に限る(Rob96 5.3.6)。ただし $n\ge3$ の $Q_{4n}$ は Hamilton 群でない。実際 $ba=a^{-1}b$ から $aba^{-1}=a^2b$ であり、$n\ge3$ のとき $a^2b\notin\langle b\rangle=\{1,b,a^n,a^nb\}$ なので、部分群 $\langle b\rangle$ は正規でない。
四元数の全体 $\mathbb{H}$ は実数体上 4 次元の非可換な可除環(斜体)であり、$Q_8$ はその乗法群 $\mathbb{H}^{\times}$ の有限部分群として現れる(prop-quaternion-group-in-quaternions)。四元数のスカラー部・ベクトル部による積の公式、実数体上の有限次元可除環が $\mathbb{R},\mathbb{C},\mathbb{H}$ に限るという分類定理、単位四元数による 3 次元回転の記述、$\mathbb{H}$ 上の方程式 $x^2+1=0$ が無限個の解をもつことなどは四元数の主題であり、本記事では扱わない。$Q_8$ の 8 元はいずれも $x^2+1=0$ または $x^2-1=0$ の解であることだけ注意しておく。
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