Frobenius写像

同義語:Frobenius morphismFrobenius射絶対Frobenius相対Frobeniusフロベニウス写像

概要

Frobenius写像(Frobenius morphism)とは、標数 $p>0$ の環で $a\mapsto a^p$ が環準同型になることから定まる写像で、$\mathbb{F}_p$ 上のスキーム $X$ には点を動かさず関数を $p$ 乗する絶対 Frobenius $F_X\colon X\to X$ が、底 $S$ の上では $S$ 射の相対 Frobenius $F_{X/S}\colon X\to X^{(p)}$ が定まる。$F_X$ は普遍同相写像だが一般に同型でなく微分形式を消し、滑らかな $X/S$ では $F_{X/S}$ は階数 $p^{\dim}$ の有限平坦射である。有限体上では $q$ 乗 Frobenius の不動点が $\mathbb{F}_q$ 有理点であり、ゼータ関数・超特異性・Cartier 作用素・結晶コホモロジーを貫く基本の対称性である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 可換環, 環準同型, 標数, 有限体, スキーム, ファイバー積, Kähler微分, エタール射, 平坦射

定義

Frobenius 写像は、標数 $p>0$ の世界にだけ存在する「$p$ 乗する」写像である。可換環 $A$ で $p\cdot1=0$ が成り立つとき $a\mapsto a^p$ は環準同型になり(prop-frobenius-morphism-ring-hom)、$\mathbb{F}_p$ 上の任意のスキーム $X$ に自己射 $F_X\colon X\to X$(絶対 Frobenius)が定まり、底スキーム $S$ を固定するごとに $S$ 射 $F_{X/S}\colon X\to X^{(p)}$(相対 Frobenius)が定まる。有限体 $\mathbb{F}_q$ 上では $q$ 乗 Frobenius の不動点がちょうど $\mathbb{F}_q$ 有理点であり、この事実が合同ゼータ関数とWeil予想をエタールコホモロジーへ結びつける。以下、$p$ は素数、環はすべて可換で単位元をもつ。

Frobenius 自己準同型

$A$ を $p\cdot 1_A=0$ をみたす可換環(標数 $p$ の環)とする。写像
$$ F_A\colon A\longrightarrow A,\qquad a\longmapsto a^p $$
を $A$ の Frobenius 自己準同型(Frobenius endomorphism)という。$q=p^r$($r\ge1$)に対し $F_A^r\colon a\mapsto a^q$ を $q$ 乗 Frobenius という。標数 $p$ の体 $k$ が完全体であるとは、$F_k$ が全射(したがって同型)であることをいう。$k$ が有限体なら $F_k$ は全単射で、$k$ の Frobenius 自己同型(Frobenius自己同型。有限体の記事の用語)と呼ばれる。$F_A$ の像 $A^p:=\{a^p\mid a\in A\}$ は $A$ の部分環である。

Frobenius 自己準同型の基本性質

$A$, $B$ を標数 $p$ の環とする。

  1. $F_A$ は環準同型である。とくに $F_A$ は $\mathbb{F}_p$ 線型であり、$A$ が $\mathbb{F}_q$ 代数($q=p^r$)ならば $F_A^r$ は $\mathbb{F}_q$ 線型である。
  2. (自然性)任意の環準同型 $\varphi\colon A\to B$ について $\varphi\circ F_A=F_B\circ\varphi$ が成り立つ。
  3. $A$ が被約環($0$ 以外に冪零元をもたない環)ならば $F_A$ は単射である。
  4. $A$ が整域ならば、$F_A$ の不動点全体 $\{a\in A\mid a^p=a\}$ は $A$ の素体 $\mathbb{F}_p$ に一致する。
  1. 乗法性 $(ab)^p=a^pb^p$ と $1^p=1$ は可換性から明らかである。加法性は二項定理
    $$ (a+b)^p=\sum_{i=0}^{p}\binom{p}{i}a^ib^{p-i} $$
    による。$0< i< p$ のとき二項係数 $\binom{p}{i}=\dfrac{p!}{i!\,(p-i)!}$ は整数で、分子 $p!$ は素数 $p$ で割り切れるが分母は $p$ より小さい正整数の積なので割り切れず、$p\mid\binom{p}{i}$ である。$A$ で $p\cdot1=0$ だから $\binom{p}{i}\cdot1_A=0$ となる。残るのは $i=0,p$ の項だけで $(a+b)^p=a^p+b^p$ を得る。$\mathbb{F}_p$ の元 $\lambda$ は $\lambda^p=\lambda$ をみたす(有限体の記事の $x^q=x$ の系)から $F_A(\lambda a)=\lambda^pa^p=\lambda a^p$ であり、同様に $\lambda\in\mathbb{F}_q$ なら $\lambda^q=\lambda$ より $F_A^r(\lambda a)=\lambda F_A^r(a)$ である。
  2. $\varphi(a^p)=\varphi(a)^p$ は $\varphi$ が乗法を保つことそのものである。
  3. $a^p=0$ ならば $a$ は冪零だから、被約性より $a=0$ である。
  4. 1 により不動点全体は部分環であり、$\mathbb{F}_p$ を含む。整域 $A$ において多項式 $T^p-T$ の根は高々 $p$ 個であり(整域上の 1 変数多項式の根の個数は次数以下)、$\mathbb{F}_p$ の $p$ 個の元がすでに根であるから、不動点は $\mathbb{F}_p$ の元に限る。
絶対 Frobenius

$X$ を $\mathbb{F}_p$ 上のスキーム(同じことだが、構造層 $\mathcal{O}_X$ のすべての切断環で $p\cdot1=0$ が成り立つスキーム)とする。$X$ の絶対 Frobenius(absolute Frobenius)$F_X\colon X\to X$ とは、位相空間の上では恒等写像であり、構造層の上では各開集合 $U$ について $\mathcal{O}_X(U)\to\mathcal{O}_X(U)$, $s\mapsto s^p$ で与えられる環付き空間の射をいう。これがスキームの射であること、およびアフィンスキーム $X=\operatorname{Spec}A$ で $F_X=\operatorname{Spec}(F_A)$ であることは prop-frobenius-morphism-absolute で示す。

相対 Frobenius と Frobenius ひねり

$f\colon X\to S$ を $\mathbb{F}_p$ 上のスキームの射とする。$f$ を $F_S$ に沿って底変換したスキーム
$$ X^{(p)}:=X^{(p/S)}:=X\times_{S,F_S}S $$
(ファイバー積。左の因子 $X$ は $f$ で、右の因子 $S$ は $F_S$ で $S$ の上にある)を $X$ の $S$ 上の Frobenius ひねり(Frobenius twist)といい、第 1 射影を $W_{X/S}\colon X^{(p)}\to X$ と書く($F_S$ の底変換である)。自然性 $f\circ F_X=F_S\circ f$(prop-frobenius-morphism-absolute)により、対 $(F_X,f)$ はファイバー積の普遍性から $S$ 射
$$ F_{X/S}\colon X\longrightarrow X^{(p)},\qquad W_{X/S}\circ F_{X/S}=F_X,\quad \mathrm{pr}_2\circ F_{X/S}=f $$
を一意に定める。これを $X$ の $S$ 上の相対 Frobenius(relative Frobenius)という。$S=\operatorname{Spec}k$、$X=\operatorname{Spec}A$($A$ は $k$ 代数)のとき $X^{(p)}=\operatorname{Spec}A^{(p)}$、
$$ A^{(p)}:=A\otimes_{k,F_k}k,\qquad F_{A/k}\colon A^{(p)}\longrightarrow A,\quad a\otimes\lambda\longmapsto\lambda a^p $$
であり、$F_{X/S}=\operatorname{Spec}(F_{A/k})$ である。ここで $A\otimes_{k,F_k}k$ は右因子の $k$ を $F_k$ を通して $k$ 加群とみたテンソル積($\lambda a\otimes\mu=a\otimes\lambda^p\mu$)で、$k$ 代数の構造は右因子 $\lambda\cdot(a\otimes\mu)=a\otimes\lambda\mu$ で入れる。$F_{A/k}$ が矛盾なく定まり $k$ 線型であることは $\mu(\lambda a)^p=\lambda^p\mu a^p$ から分かる。$k=\mathbb{F}_p$ のとき $F_S=\mathrm{id}$ だから $X^{(p)}=X$、$F_{X/S}=F_X$ である。

q 乗 Frobenius・幾何的 Frobenius・算術的 Frobenius

$q=p^r$、$X$ を $\mathbb{F}_q$ 上のスキームとする。$\mathbb{F}_q$ の元 $\lambda$ は $\lambda^q=\lambda$ をみたすので $F_{\operatorname{Spec}\mathbb{F}_q}^r=\mathrm{id}$ であり、自然性から $F_X^r$ は $\mathbb{F}_q$ 上の射である。これを $X$ の $q$ 乗 Frobenius といい $\mathrm{Fr}_X\colon X\to X$ と書く($S=\operatorname{Spec}\mathbb{F}_q$、$F_S^r=\mathrm{id}$ に関する相対 Frobenius とみれば $X^{(q)}=X$ で、それが $\mathrm{Fr}_X$ である)。$\bar{\mathbb{F}}_q$ を $\mathbb{F}_q$ の代数閉包、$\sigma\colon\lambda\mapsto\lambda^q$ をGalois群 $\operatorname{Gal}(\bar{\mathbb{F}}_q/\mathbb{F}_q)$ の位相的生成元、$\bar{X}:=X\times_{\mathbb{F}_q}\bar{\mathbb{F}}_q$ とする。

  • $\bar{X}$ の幾何的 Frobenius(geometric Frobenius)とは、$\bar{\mathbb{F}}_q$ 上の射 $\mathrm{Fr}_X\times\mathrm{id}\colon\bar{X}\to\bar{X}$ をいう。
  • $\bar{X}$ の算術的 Frobenius(arithmetic Frobenius)とは、$\mathrm{id}\times\operatorname{Spec}\sigma\colon\bar{X}\to\bar{X}$ をいう。これは $\bar{\mathbb{F}}_q$ 上の射ではなく $\operatorname{Spec}\sigma$ の上にある。
    両者は可換で、合成 $\mathrm{Fr}_X\times\operatorname{Spec}\sigma$ は $\bar{X}$ の絶対 Frobenius の $r$ 乗 $F_{\bar{X}}^r$ に等しい(絶対 Frobenius はファイバー積の各因子の絶対 Frobenius の積である。prop-frobenius-morphism-absolute の 2)。用語の規約について:合同ゼータ関数の記事は $\mathrm{Fr}_X$ を絶対 Frobenius と呼び、Weil予想の記事は Galois 群の元 $\sigma^{-1}$ を幾何的 Frobenius と呼ぶ。両規約の関係は rem-frobenius-morphism-etale-cohomology に述べる。

直感

標数 $p$ では「$p$ 乗する」ことが足し算を保つため、$p$ 乗写像は代数的な操作をすべて尊重する「自動的に付いてくる対称性」である。絶対 Frobenius $F_X$ は点を 1 つも動かさず関数だけを $p$ 乗するので、位相的には何も起こらないが、関数の側では $p$ 乗できない関数(座標 $t$ など)が像から抜け落ち、微分形式はすべて消える($d(a^p)=pa^{p-1}da=0$)。この「点は動かさないが関数を粗くする」性質が、Frobenius を同相写像でありながら同型でない射にする。
底 $S$ の上では、$S$ の関数まで $p$ 乗する絶対 Frobenius は $S$ 射でないので、$S$ の側の $p$ 乗を Frobenius ひねり $X^{(p)}$ に押しつけ、残りを $S$ 射 $F_{X/S}$ として取り出す。$X$ が $S$ 上の多項式で定義されていれば、$X^{(p)}$ は係数を $p$ 乗した方程式で定義され、$F_{X/S}$ は座標を $p$ 乗する写像である。有限体 $\mathbb{F}_q$ 上では係数の $q$ 乗が恒等なので $q$ 乗 Frobenius は $X$ 自身の $\mathbb{F}_q$ 射になり、その不動点が $\mathbb{F}_q$ 有理点である。有理点を数えることは自己射 $\mathrm{Fr}_X$ の不動点を数えることであり、ここにLefschetz不動点公式の出番がある。

例と反例

アフィン直線とアフィン空間の Frobenius

$k$ を標数 $p$ の体、$A=k[t]$、$X=\mathbb{A}^1_k=\operatorname{Spec}A$ とする。絶対 Frobenius は $F_A\colon\sum a_it^i\mapsto\sum a_i^pt^{ip}$ で、像は $k^p[t^p]$ である。Frobenius ひねりは $A^{(p)}=k[t]\otimes_{k,F_k}k\cong k[u]$($t^i\otimes\lambda\mapsto\lambda u^i$ が $k$ 代数の同型を与える)と同一視でき、この下で相対 Frobenius は $k$ 線型な準同型
$$ F_{A/k}\colon k[u]\longrightarrow k[t],\qquad g(u)\longmapsto g(t^p) $$
である。すなわち $\mathbb{A}^1_k$ の Frobenius ひねりはふたたび $\mathbb{A}^1_k$ で、相対 Frobenius は「座標を $p$ 乗する」$k$ 射 $t\mapsto t^p$ である。任意の多項式は $\sum_{i=0}^{p-1}g_i(t^p)\,t^i$ の形に一意に書ける(次数を $p$ で割った余りで単項式を分類する)から、$k[t]$ は $F_{A/k}$ により $1,t,\dots,t^{p-1}$ を基底とする $k[u]$ 上の自由加群である。$n$ 変数 $A=k[t_1,\dots,t_n]$ でも同様に $A^{(p)}\cong k[u_1,\dots,u_n]$、$F_{A/k}(u_i)=t_i^p$ で、$A$ は $A^{(p)}$ 上、単項式 $t^\alpha=t_1^{\alpha_1}\cdots t_n^{\alpha_n}$($0\le\alpha_i\le p-1$)を基底とする階数 $p^n$ の自由加群である。
有限体 $\mathbb{F}_q$ 上では $q$ 乗 Frobenius $\mathrm{Fr}_{\mathbb{A}^n}$ は $\bar{\mathbb{F}}_q$ 値点の上で $(a_1,\dots,a_n)\mapsto(a_1^q,\dots,a_n^q)$ と作用し(prop-frobenius-morphism-fixed-points)、不動点は $a_i\in\mathbb{F}_q$ をみたす点だから、その個数は $q^n=\#\mathbb{A}^n(\mathbb{F}_q)$ である。射影空間 $\mathbb{P}^n_{\mathbb{F}_q}$ でも同じ計算で不動点は $\mathbb{P}^n(\mathbb{F}_q)$、個数は $1+q+\cdots+q^n$ である。

反例:相対 Frobenius は同型でない

ex-frobenius-morphism-affine-space の $F_{A/k}\colon k[u]\to k[t]$, $u\mapsto t^p$ は単射だが全射でない($t$ は像に入らない)。したがって $F_{\mathbb{A}^1/k}\colon\mathbb{A}^1_k\to\mathbb{A}^1_k$ は、有限射・平坦射(自由加群による)・点の上で全単射($\mathfrak{p}\mapsto F^{-1}(\mathfrak{p})$)・同相写像でありながら、スキームの同型ではない。破れる含意は「有限平坦で全単射な射は同型である」であり、標数 $p$ ではこれが成り立たない。同型でない理由は $\Omega^1$ の上で見える:同型なら $\Omega^1$ の同型を誘導するはずだが、$F^*$ は微分形式を消す(prop-frobenius-morphism-differentials)。絶対 Frobenius $F_X$ も、あるアフィン開集合の座標環で $F_A$ が全単射でなければ($\mathbb{A}^1_k$ では $t$ が $p$ 乗でない)同型でない(prop-frobenius-morphism-absolute の 5)。

反例:標数 0 の環には Frobenius がない

$p$ 乗写像が加法を保つには $p\cdot1=0$ が必要である。実際 $A=\mathbb{Z}$ では $(1+1)^p=2^p\neq2=1^p+1^p$($p\ge2$)であり、$a\mapsto a^p$ は加法的でない。$p$ が冪零なだけでも足りない:$A=\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$、$p=2$ では $(1+1)^2=0\neq2=1^2+1^2$ である。したがって標数 $0$ のスキームや $\mathbb{Z}/p^2\mathbb{Z}$ 上のスキームには絶対 Frobenius は存在しない。$p$ 進的な設定で Frobenius を使うには、$W(k)$ の Frobenius 持上げ $\sigma$(rem-frobenius-morphism-lift)のように、環準同型として別に与える必要がある。

反例:完全でない底の上では Frobenius ひねりはもとのスキームと同型でない

$k=\mathbb{F}_p(s)$($s$ は不定元)は完全体でない($s$ は $p$ 乗根をもたない)。$X=\operatorname{Spec}A$、$A=k[x]/(x^p-s)$ とすると、$x^p-s$ は $k$ 上既約(Eisenstein の判定法)なので $A=k(s^{1/p})$ は体である。一方、
$$ A^{(p)}=A\otimes_{k,F_k}k\cong k[x]/(x^p-s^p)=k[x]/\big((x-s)^p\big) $$
であり(係数を $p$ 乗した方程式で定義される:prop-frobenius-morphism-coordinates。$x^p-s^p=(x-s)^p$ は標数 $p$ の等式)、$A^{(p)}$ は冪零元 $x-s\neq0$ をもつ。よって $X^{(p)}$ は被約でなく、$X$ とは($k$ 上はもちろん)抽象スキームとしても同型でない。相対 Frobenius $F_{A/k}\colon A^{(p)}\to A$ は $x\mapsto x^p=s$ で与えられ、冪零元 $x-s$ を $0$ に送る。破れる含意は「$X^{(p)}\cong X$」および「$X$ が被約(あるいは体のスペクトル)なら $X^{(p)}$ もそうである」であり、これらは底が完全体のときに限って成り立つ(rem-frobenius-morphism-perfect-base)。

二重数環と被約化を経由する Frobenius

$k$ を標数 $p$ の体、$A=k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ とする。$F_A(a+b\varepsilon)=a^p+b^p\varepsilon^p=a^p$ だから、$F_A$ は全射 $A\to A/(\varepsilon)=k$ と $F_k\colon k\to k\subset A$ の合成であり、$F_{\operatorname{Spec}A}$ は被約化 $X_{\mathrm{red}}=\operatorname{Spec}k\hookrightarrow X$ を経由する(一般には prop-frobenius-morphism-absolute の 4)。$F_X$ が同相写像であっても関数の上では単射でないことを示す例である。

楕円曲線の Frobenius と超特異性

$k$ を標数 $p$ の完全体、$E/k$ を楕円曲線とする。Frobenius ひねり $E^{(p)}$ は Weierstrass 方程式の係数を $p$ 乗した楕円曲線であり、相対 Frobenius $F=F_{E/k}\colon E\to E^{(p)}$ は零点を零点に写す次数 $p$ の同種写像で、関数体に純非分離拡大を誘導する(分離次数 $1$、非分離次数 $p$)。任意の同種写像 $\varphi\colon E\to E'$ は、ある $m\ge0$ と分離的な同種写像 $\lambda$ を用いて $\varphi=\lambda\circ F^m$($F^m$ は相対 Frobenius の $m$ 回反復 $E\to E^{(p^m)}$)と一意に分解する。双対同種写像 $\hat{F}\colon E^{(p)}\to E$ は $\hat{F}\circ F=[p]_E$ をみたし、次の 3 条件は同値である:(i) $\hat{F}$ が非分離的、(ii) $[p]_E$ が純非分離的、(iii) $E[p](\bar{k})=0$。これをみたす $E$ が超特異楕円曲線であり、そうでないとき $E[p](\bar{k})\cong\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ である。以上の証明は Sil09 II §2・III §4・V §3 と Har77 IV.2.5 にある。
$E$ が $\mathbb{F}_q$ 上定義されているとき、$q$ 乗 Frobenius $\mathrm{Fr}_E\colon E\to E$ は $E$ の自己準同型で、prop-frobenius-morphism-fixed-points により $E(\mathbb{F}_q)=\ker(1-\mathrm{Fr}_E)$ である。$1-\mathrm{Fr}_E$ は分離的なので $\#E(\mathbb{F}_q)=\deg(1-\mathrm{Fr}_E)=q+1-a_q$($a_q$ は $\mathrm{Fr}_E$ の跡)であり、Hasse の評価 $|a_q|\le2\sqrt{q}$ が成り立つ(Sil09 V §1・§2)。双対同種写像は $\hat{\mathrm{Fr}}_E=[a_q]-\mathrm{Fr}_E$ であり、$E$ が超特異であること($\hat{\mathrm{Fr}}_E$ が非分離的)と $a_q\equiv0\pmod p$ は同値である(Sil09 III §5 の「$[m]+[n]\circ\mathrm{Fr}_E$ が分離的 $\iff p\nmid m$」による。証明は超特異楕円曲線の記事の有限体上の判定に譲る)。例えば $E\colon y^2=x^3-x$ を $\mathbb{F}_3$ 上でみると、$x\in\mathbb{F}_3$ について常に $x^3-x=0$ だから $y=0$ しかなく、$E(\mathbb{F}_3)$ は $3$ 個のアフィン点と無限遠点の計 $4$ 点、$a_3=0$ で、$E$ は超特異である(超特異楕円曲線の記事の例と一致する)。$p\ge5$ で $E$ が $\mathbb{F}_p$ 上定義されていれば、$|a_p|\le2\sqrt{p}< p$ により超特異性は $a_p=0$ と同値になる。

性質

絶対 Frobenius の基本性質

絶対 Frobenius はスキームの射で普遍同相写像である

$X$ を $\mathbb{F}_p$ 上のスキームとする。

  1. $F_X$ はスキームの射であり、アフィン開集合 $\operatorname{Spec}A\subset X$ の上では $\operatorname{Spec}(F_A)$ に一致する。
  2. (自然性)$\mathbb{F}_p$ 上のスキームの任意の射 $f\colon X\to Y$ について $f\circ F_X=F_Y\circ f$ が成り立つ。とくに $F_X$ は $\mathbb{F}_p$ 上の射であり、$S$ 上のファイバー積 $X\times_SY$ の絶対 Frobenius は $F_X\times_{F_S}F_Y$ である。
  3. $F_X$ は位相空間の上で恒等写像であり、整射・全射・普遍的に単射である。したがって $F_X$ は普遍同相写像である。
  4. $X_{\mathrm{red}}\hookrightarrow X$ を被約スキーム化、$\mathcal{N}\subset\mathcal{O}_X$ を冪零根基とする。$\mathcal{N}^{p^n}=0$ をみたす $n$ があれば(例えば $X$ がNoetherスキームのとき)、$F_X^n$ は $X\to X_{\mathrm{red}}\hookrightarrow X$ と分解する。
  5. $F_X$ がスキームの同型であることと、すべてのアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A\subset X$ について $F_A$ が全単射であることは同値である。とくに $X$ が被約なら、$F_X$ が同型であることと各 $A$ が完全($F_A$ が全射)であることは同値である。
  1. 各開集合 $U$ で $s\mapsto s^p$ は環準同型であり(prop-frobenius-morphism-ring-hom)、制限写像と可換である(自然性)から、$F^\#\colon\mathcal{O}_X\to\mathcal{O}_X=(\mathrm{id})_*\mathcal{O}_X$ は環の層の射である。点 $x$ での茎の写像 $\mathcal{O}_{X,x}\to\mathcal{O}_{X,x}$ は $a\mapsto a^p$ であり、極大イデアル $\mathfrak{m}_x$ の逆像は $\{a\mid a^p\in\mathfrak{m}_x\}=\mathfrak{m}_x$($\mathfrak{m}_x$ は素イデアル)だから局所環の局所準同型である。よって $F_X$ は局所環付き空間の射、すなわちスキームの射である。$X=\operatorname{Spec}A$ のとき、$\operatorname{Spec}(F_A)$ の位相空間の上の写像は $\mathfrak{p}\mapsto F_A^{-1}(\mathfrak{p})=\{a\mid a^p\in\mathfrak{p}\}=\mathfrak{p}$ で恒等写像であり、基本開集合 $D(f)$ の上の環の写像は $F_A$ の局所化 $A_f\to A_f$, $a/f^m\mapsto a^p/f^{mp}$ で、これは $A_f$ の Frobenius である。よって $\operatorname{Spec}(F_A)=F_{\operatorname{Spec}A}$ である。
  2. $f\circ F_X$ と $F_Y\circ f$ は位相空間の上ではどちらも $f$ であり、層の上では $\mathcal{O}_Y\to f_*\mathcal{O}_X$ の後または前に $p$ 乗を合成したものである。$f^\#$ は環準同型だから $f^\#(s)^p=f^\#(s^p)$ で両者は一致する。$\mathbb{F}_p$ の上では $F_{\operatorname{Spec}\mathbb{F}_p}=\mathrm{id}$ だから $F_X$ は $\mathbb{F}_p$ 上の射である。ファイバー積 $P=X\times_SY$ については、射影 $\mathrm{pr}_1,\mathrm{pr}_2$ との自然性から $\mathrm{pr}_1\circ F_P=F_X\circ\mathrm{pr}_1$、$\mathrm{pr}_2\circ F_P=F_Y\circ\mathrm{pr}_2$ であり、これは $F_P$ が普遍性で定まる射 $F_X\times_{F_S}F_Y$ に等しいことを意味する。
  3. 恒等写像であることは定義による。整射であること:アフィン開集合の上で $F_A\colon A\to A$ は各 $a\in A$ を $A^p$ 係数のモニック多項式 $T^p-a^p$ の根にするから、$A$ は $F_A$ の像の上で整拡大である。全射は恒等写像だから明らか。普遍的な単射性は、点の上で単射であり、かつ各点 $x$ で剰余体の拡大 $\kappa(F_X(x))\to\kappa(x)$ が純非分離であることと同値である(Stacks、EGA I 3.5.8)。いまこの写像は $F_{\kappa(x)}\colon\kappa(x)\to\kappa(x)$ であり、$\kappa(x)$ の任意の元 $a$ は $a^p$ が像に属するので、拡大 $\kappa(x)/\kappa(x)^p$ は純非分離である。整・全射・普遍的に単射な射は普遍同相写像である(Stacks、EGA IV 18.12.11)。
  4. $s\mapsto s^{p^n}$ は $\mathcal{N}$ を $0$ に送るから、環の層の射 $g^\#\colon\mathcal{O}_{X_{\mathrm{red}}}=\mathcal{O}_X/\mathcal{N}\to\mathcal{O}_X$, $\bar{s}\mapsto s^{p^n}$ が定まる。1 と同じ理由で $g:=(\mathrm{id},g^\#)\colon X\to X_{\mathrm{red}}$ は局所環付き空間の射であり、閉埋め込み $i\colon X_{\mathrm{red}}\hookrightarrow X$ との合成 $i\circ g$ は、位相空間の上で恒等、層の上で $s\mapsto\bar{s}\mapsto s^{p^n}$ だから $F_X^n$ に等しい。$X$ が Noether スキームなら有限個のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A_j$ で覆え、各 Noether環 $A_j$ の冪零根基は有限生成なので冪零であり、その冪指数の最大値から $n$ がとれる。
  5. $F_X$ は位相空間の上で恒等だから、同型であることと $F^\#\colon\mathcal{O}_X\to\mathcal{O}_X$ が層の同型であることは同値で、後者はアフィン開集合ごとに $F_A$ が全単射であることと同値である。被約なら $F_A$ は単射(prop-frobenius-morphism-ring-hom の 3)なので全射だけが問題になる。

相対 Frobenius の基本性質

まず、多項式で書かれたスキームの Frobenius ひねりと相対 Frobenius を座標で記述する。

座標による Frobenius ひねりの記述

$R$ を標数 $p$ の環、$A=R[x_1,\dots,x_n]/(f_1,\dots,f_m)$ とする。多項式 $g=\sum_\alpha c_\alpha x^\alpha\in R[x_1,\dots,x_n]$ に対し、係数を $p$ 乗した多項式を $g^{(p)}:=\sum_\alpha c_\alpha^px^\alpha$ と書く。このとき $R$ 代数の同型
$$ A^{(p)}=A\otimes_{R,F_R}R\;\cong\;R[x_1,\dots,x_n]/\big(f_1^{(p)},\dots,f_m^{(p)}\big) $$
があり、この同一視の下で相対 Frobenius $F_{A/R}\colon A^{(p)}\to A$ は $R$ 線型な環準同型 $g\bmod(f^{(p)})\mapsto g(x_1^p,\dots,x_n^p)\bmod(f)$ で与えられる。

$P=R[x_1,\dots,x_n]$ とおく。写像 $\Phi\colon P\otimes_{R,F_R}R\to P$, $g\otimes\lambda\mapsto\lambda g^{(p)}$ は、$(cg)\otimes\lambda$ と $g\otimes c^p\lambda$ をともに $c^p\lambda g^{(p)}$ に送るので矛盾なく定まり、$g\mapsto g^{(p)}$ が環準同型(係数に $F_R$ を施す)であることから環準同型である。逆に $R$ 代数の準同型 $\Psi\colon P\to P\otimes_{R,F_R}R$ を $x_i\mapsto x_i\otimes1$ で定める($R$ は右因子に作用する)と、$\Psi(\sum c_\alpha x^\alpha)=\sum x^\alpha\otimes c_\alpha$ であり、$\Phi\Psi(g)=\sum c_\alpha x^\alpha=g$、$\Psi\Phi(x^\alpha\otimes\lambda)=\Psi(\lambda x^\alpha)=x^\alpha\otimes\lambda$ となるから $\Phi$ と $\Psi$ は互いに逆である。テンソル積は右完全なので $A\otimes_{R,F_R}R=(P\otimes_{R,F_R}R)/(f_j\otimes1)_j$ であり、$\Phi(f_j\otimes1)=f_j^{(p)}$ だから前半の同型を得る。相対 Frobenius は $F_{A/R}(a\otimes\lambda)=\lambda a^p$ であり、$\Psi(g)=\sum x^\alpha\otimes c_\alpha$ に施すと $\sum c_\alpha x^{p\alpha}=g(x_1^p,\dots,x_n^p)$ となる。

相対 Frobenius は有限な普遍同相写像である

$f\colon X\to S$ を $\mathbb{F}_p$ 上のスキームの射とする。

  1. (底変換との両立)$S'\to S$ を任意の射、$X':=X\times_SS'$ とすると、$S'$ 上の Frobenius ひねりについて $X'^{(p/S')}=X^{(p/S)}\times_SS'$ であり、$F_{X'/S'}=F_{X/S}\times_S\mathrm{id}_{S'}$ である。
  2. $F_{X/S}$ は点の上で全単射、普遍的に単射、整射であり、したがって普遍同相写像である。
  3. $f$ が局所有限型ならば $F_{X/S}$ は有限射である。
  4. $X=\mathbb{A}^n_S$ のとき $F_{X/S}$ は有限な自由射で、$\mathcal{O}_{X}$ は $\mathcal{O}_{X^{(p)}}$ 加群として単項式 $t^\alpha$($0\le\alpha_i\le p-1$)を基底とする階数 $p^n$ の自由加群である。
  1. $S'\to S$ を $g$ と書く。$X'\times_{S',F_{S'}}S'=X\times_{S,\,g\circ F_{S'}}S'$ であり、$X^{(p)}\times_SS'=(X\times_{S,F_S}S)\times_SS'=X\times_{S,\,F_S\circ g}S'$ である。自然性 $g\circ F_{S'}=F_S\circ g$ からこれらは一致する。相対 Frobenius は $(F_{X'},f')$ で定まる射で、$F_{X'}=F_X\times F_{S'}$(prop-frobenius-morphism-absolute の 2)だから $F_{X'/S'}=F_{X/S}\times\mathrm{id}_{S'}$ である。
  2. $W:=W_{X/S}$ は普遍同相写像 $F_S$ の底変換なので普遍同相写像であり、とくに点の上で全単射である。$W\circ F_{X/S}=F_X$ が点の上で恒等だから $F_{X/S}$ は点の上で単射である。全射:$y\in X^{(p)}$ に対し $x:=W(y)$ とおくと $W(F_{X/S}(x))=F_X(x)=x=W(y)$ で、$W$ の単射性から $F_{X/S}(x)=y$。普遍的な単射性:点 $x\in X$、$y:=F_{X/S}(x)$ について $W(y)=x$ であり、剰余体の写像の合成 $\kappa(x)\xrightarrow{W^\#}\kappa(y)\xrightarrow{F_{X/S}^\#}\kappa(x)$ は $F_X$ の誘導する $F_{\kappa(x)}$ である。よって $\kappa(x)$ の任意の元の $p$ 乗は $\kappa(y)$ の像に属し、拡大 $\kappa(x)/\kappa(y)$ は純非分離であるから、prop-frobenius-morphism-absolute の 3 と同じ判定法で $F_{X/S}$ は普遍的に単射である。整射であること:$S$ のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}R$ とその上の $X$ のアフィン開集合 $U=\operatorname{Spec}A$ をとると、$U^{(p)}=\operatorname{Spec}A^{(p)}$ は $X^{(p)}$ の開集合で $F_{X/S}^{-1}(U^{(p)})=F_{X/S}^{-1}(W^{-1}(U))=F_X^{-1}(U)=U$ であり、その上で $F_{X/S}$ は $\operatorname{Spec}(F_{A/R})$ である。$F_{A/R}$ の像は $A^p$ が生成する $R$ 部分代数 $A':=R\cdot A^p$ であり、各 $a\in A$ は $A'$ 係数のモニック多項式 $T^p-a^p$ の根だから $A$ は $A'$ 上整である。よって $F_{X/S}$ はアフィンかつ整である。以上と普遍同相写像の判定法から 2 が従う。
  3. 2 の記号で、$A$ が $R$ 上有限生成なら $A'$ 上でも有限生成であり、有限生成かつ整な代数は有限加群である(AM69 系 5.2)。よって $A$ は $A^{(p)}$ 加群として有限生成で、$F_{X/S}$ は有限射である。
  4. $\mathbb{A}^n_S=\mathbb{A}^n_{\mathbb{F}_p}\times_{\mathbb{F}_p}S$ だから、1 により $F_{\mathbb{A}^n_S/S}$ は $F_{\mathbb{A}^n_{\mathbb{F}_p}/\mathbb{F}_p}=F_{\mathbb{A}^n_{\mathbb{F}_p}}$ の底変換である。後者は $\mathbb{F}_p[t_1,\dots,t_n]\to\mathbb{F}_p[t_1,\dots,t_n]$, $t_i\mapsto t_i^p$ であり、ex-frobenius-morphism-affine-space の計算のとおり $\mathbb{F}_p[t]$ はこの準同型により単項式 $t^\alpha$($0\le\alpha_i\le p-1$)を基底とする階数 $p^n$ の自由加群である。自由加群であることは底変換で保たれる。
滑らかな射の相対 Frobenius は有限局所自由である

$f\colon X\to S$ を $\mathbb{F}_p$ 上のスキームの相対次元 $n$ の滑らかな射とする。このとき相対 Frobenius $F_{X/S}\colon X\to X^{(p)}$ は有限かつ局所自由で、その階数は $p^n$ である。とくに $F_{X/S}$ は有限平坦な射で、$F_{X/S*}\mathcal{O}_X$ は階数 $p^n$ の局所自由 $\mathcal{O}_{X^{(p)}}$ 加群である。
また(Kunz の定理)標数 $p$ のNoether環 $A$ について、$A$ が正則(すべての局所化が正則局所環)であることと $F_A\colon A\to A$ が平坦であることは同値である。

滑らかな場合の証明の筋と出典

前半の証明の筋:滑らかさの定義により $X$ は局所的にエタール射 $g\colon U\to\mathbb{A}^n_S$ をもつ。$g$ がエタール射のとき、相対 Frobenius の作る正方形($U\to U^{(p)}$ と $\mathbb{A}^n_S\to(\mathbb{A}^n_S)^{(p)}$)はカルテシアン、すなわち $(F_{U/S},g)\colon U\to U^{(p)}\times_{(\mathbb{A}^n_S)^{(p)}}\mathbb{A}^n_S$ は同型である。理由:この射は $\mathbb{A}^n_S$ 上エタールな 2 つのスキームの間の射なのでエタールであり、しかも普遍同相写像である(prop-frobenius-morphism-relative-finite の 2 と、第 1 射影が普遍同相写像 $F_{\mathbb{A}^n_S/S}$ の底変換であること)。エタールで普遍的に単射な射は開埋め込みで、全射でもあれば同型である。したがって $F_{U/S}$ は $F_{\mathbb{A}^n_S/S}$ の底変換であり、prop-frobenius-morphism-relative-finite の 4 から有限自由で階数 $p^n$ である。この議論は SGA5 Exposé XV §1 と Ill96 §3 にある。Kunz の定理の証明は Kun69 にある。$X$ が完全体 $k$ 上滑らかなら $F_X=W_{X/k}\circ F_{X/k}$ で $W_{X/k}$ は同型(rem-frobenius-morphism-perfect-base)だから絶対 Frobenius も有限平坦で、これは Kunz の定理の特別な場合である。

完全体の上の Frobenius ひねり

$k$ が完全体のとき $F_k$ は同型なので、その底変換 $W_{X/k}\colon X^{(p)}\to X$ はスキームの同型である($k$ 上の射ではなく $\operatorname{Spec}F_k$ の上にある)。したがって $X^{(p)}$ は $X$ と抽象スキームとして同型で、$F_X=W_{X/k}\circ F_{X/k}$ は絶対 Frobenius を「$k$ 射の部分 $F_{X/k}$」と「係数の $p$ 乗 $W_{X/k}$」に分解する。環の言葉では $A\to A^{(p)}$, $a\mapsto a\otimes1$ が環の同型で、逆写像は $a\otimes\lambda\mapsto\lambda^{1/p}a$ である。$k$ が完全でなければ ex-frobenius-morphism-nonperfect-twist のように $X^{(p)}\not\cong X$ となりうる。楕円曲線 $E/k$ では $E^{(p)}$ は Weierstrass 係数を $p$ 乗した曲線(prop-frobenius-morphism-coordinates)で、$j(E^{(p)})=j(E)^p$ だから、$k$ が完全でも $k$ 上の同型 $E^{(p)}\cong E$ があるとは限らない。

微分形式と Cartier 作用素

Frobenius は微分形式を消す
  1. $X$ を $\mathbb{F}_p$ 上のスキームとする。絶対 Frobenius がKähler微分の層に誘導する引き戻し $F_X^*\colon\Omega^1_{X/\mathbb{F}_p}\to F_{X*}\Omega^1_{X/\mathbb{F}_p}$, $da\mapsto d(a^p)$ は零写像である。したがって $i\ge1$ のすべての $\Omega^i$ の上でも零写像である。
  2. $f\colon X\to S$ を $\mathbb{F}_p$ 上のスキームの射とする。相対 Frobenius の誘導する $F_{X/S}^*\colon\Omega^1_{X^{(p)}/S}\to F_{X/S*}\Omega^1_{X/S}$ は零写像である。その帰結として、相対 de Rham 複体の順像 $F_{X/S*}\Omega^\bullet_{X/S}$ の微分 $d$ は $\mathcal{O}_{X^{(p)}}$ 線型であり、$F_{X/S*}\Omega^\bullet_{X/S}$ は $\mathcal{O}_{X^{(p)}}$ 加群の複体である。
  1. $\Omega^1_{X/\mathbb{F}_p}$ は局所的に $da$($a$ は $\mathcal{O}_X$ の局所切断)で生成され、$F_X^*(da)=d(F_X^\#a)=d(a^p)=pa^{p-1}da=0$ である($p=0$ in $\mathcal{O}_X$)。$\Omega^i=\bigwedge^i\Omega^1$ の上の引き戻しは $da_1\wedge\cdots\wedge da_i\mapsto d(a_1^p)\wedge\cdots\wedge d(a_i^p)=0$ となる。
  2. $\mathcal{O}_{X^{(p)}}$ は局所的に $a\otimes\lambda$($a$ は $\mathcal{O}_X$ の、$\lambda$ は $\mathcal{O}_S$ の局所切断)で生成され、$F_{X/S}^\#(a\otimes\lambda)=\lambda a^p$ である。相対微分 $d=d_{X/S}$ は $f^{-1}\mathcal{O}_S$ 線型だから $d(\lambda a^p)=\lambda\,d(a^p)=\lambda pa^{p-1}da=0$ となり、$F_{X/S}^*(d(a\otimes\lambda))=d(F_{X/S}^\#(a\otimes\lambda))=0$ である。線型性:$b$ を $\mathcal{O}_{X^{(p)}}$ の局所切断、$\omega$ を $\Omega^i_{X/S}$ の局所切断とすると、Leibniz 則から $d\big(F_{X/S}^\#(b)\,\omega\big)=d(F_{X/S}^\#b)\wedge\omega+F_{X/S}^\#(b)\,d\omega=F_{X/S}^\#(b)\,d\omega$ である。

$d$ が $\mathcal{O}_{X^{(p)}}$ 線型であるため、$F_{X/S*}\Omega^\bullet_{X/S}$ のコホモロジー層 $\mathcal{H}^i(F_{X/S*}\Omega^\bullet_{X/S})$ は $\mathcal{O}_{X^{(p)}}$ 加群になる。これを微分形式と結びつけるのが Cartier 同型で、標数 $p$ の de Rham 理論の基礎になる。

Cartier の同型定理

$S$ を $\mathbb{F}_p$ 上のスキーム、$f\colon X\to S$ を滑らかな射とする。各 $i\ge0$ について、$\mathcal{O}_{X^{(p)}}$ 加群の同型
$$ C^{-1}\colon\Omega^i_{X^{(p)}/S}\xrightarrow{\ \sim\ }\mathcal{H}^i\big(F_{X/S*}\Omega^\bullet_{X/S}\big) $$
が一意に存在して、$C^{-1}(1)=1$、$C^{-1}(d(a\otimes1))=[a^{p-1}da]$($a$ は $\mathcal{O}_X$ の局所切断、$[\ ]$ はコホモロジー類)、および $C^{-1}(\omega\wedge\eta)=C^{-1}(\omega)\wedge C^{-1}(\eta)$ をみたす。$C^{-1}$ の逆写像 $C$ を Cartier 作用素(Cartier作用素)という。

Cartier 同型の出典と使いどころ

証明は Kat70 §7 と Ill96 §3 に譲る。筋は、$a^{p-1}da$ が閉形式であること、$a\mapsto[a^{p-1}da]$ が加法的であること(差 $(a+b)^{p-1}d(a+b)-a^{p-1}da-b^{p-1}db$ が完全形式であることを $\frac{1}{p}d\big((a+b)^p-a^p-b^p\big)$ の整数係数化で示す)、$\mathbb{A}^n_S$ での直接計算(prop-frobenius-morphism-relative-finite の 4 の基底で de Rham 複体を分解する)とエタール局所化である。Cartier 同型は、楕円曲線の Hasse不変量($F^*$ の $H^1(E,\mathcal{O}_E)$ への作用と Cartier 作用素の $H^0(E,\Omega^1)$ への作用が Serre 双対で対応する)、Deligne–Illusie による Hodge–de Rham スペクトル系列の退化の標数 $p$ からの証明、$p$ 曲率 $0$ の接続の分類(Kat70)に使われる。

有限体上の Frobenius と有理点

Frobenius の不動点は有理点である

$q=p^r$、$X$ を $\mathbb{F}_q$ 上のスキーム、$\mathrm{Fr}_X=F_X^r$ をその $q$ 乗 Frobenius とする。

  1. 任意の $\mathbb{F}_q$ スキーム $T$ と $x\in X(T)=\operatorname{Hom}_{\mathbb{F}_q}(T,X)$ について $\mathrm{Fr}_X\circ x=x\circ\mathrm{Fr}_T$ である。とくに $\mathrm{Fr}_X$ は $X(T)$ に作用する。
  2. $\Omega$ を $\mathbb{F}_q$ の任意の拡大体とする。$X(\mathbb{F}_q)\to X(\Omega)$ は単射であり、その像は $\mathrm{Fr}_X$ の $X(\Omega)$ における不動点全体に一致する。とくに
    $$ \#X(\mathbb{F}_q)=\#\{x\in X(\bar{\mathbb{F}}_q)\mid\mathrm{Fr}_X(x)=x\} $$
    であり、$\bar{X}=X\times_{\mathbb{F}_q}\bar{\mathbb{F}}_q$ の幾何的 Frobenius $\mathrm{Fr}_X\times\mathrm{id}$ の $\bar{X}(\bar{\mathbb{F}}_q)=X(\bar{\mathbb{F}}_q)$ における不動点の個数に等しい。
  3. 各 $m\ge1$ について、$\mathrm{Fr}_X^m$ の $X(\bar{\mathbb{F}}_q)$ における不動点全体は $X(\mathbb{F}_{q^m})$ である。
  1. 自然性(prop-frobenius-morphism-absolute の 2)を $r$ 回使えば $F_X^r\circ x=x\circ F_T^r$ である。$\mathrm{Fr}_X$ は $\mathbb{F}_q$ 上の射だから $\mathrm{Fr}_X\circ x\in X(T)$ である。
  2. $\Omega$ の中で $\lambda^q=\lambda$ をみたす元の全体は、多項式 $T^q-T$ の根の集合なので高々 $q$ 個で、$\mathbb{F}_q\subset\Omega$ の $q$ 個の元がすべて根だから、ちょうど $\mathbb{F}_q$ である。さて $x\in X(\Omega)$ をとる。$x$ の像は 1 点なので $x$ はあるアフィン開集合 $U=\operatorname{Spec}A\subset X$($A$ は $\mathbb{F}_q$ 代数)を経由し、$\mathbb{F}_q$ 代数の準同型 $x^\#\colon A\to\Omega$ に対応する。1 により $\mathrm{Fr}_X\circ x=x\circ\mathrm{Fr}_{\operatorname{Spec}\Omega}$ であり、これは準同型 $A\to\Omega$, $a\mapsto x^\#(a)^q$ に対応する。よって $\mathrm{Fr}_X(x)=x$ であることと、すべての $a\in A$ について $x^\#(a)^q=x^\#(a)$、すなわち $x^\#(A)\subset\mathbb{F}_q$ であることは同値であり、これは $x^\#$ が $\mathbb{F}_q$ 代数の準同型 $A\to\mathbb{F}_q$ を経由すること、すなわち $x$ が $X(\mathbb{F}_q)$ の元の像であることと同値である。単射性:$y,y'\in X(\mathbb{F}_q)$ の $X(\Omega)$ での像が等しければ、$y$ と $y'$ の像の点は一致し、共通のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ の上で $A\to\mathbb{F}_q\hookrightarrow\Omega$ が等しく、$\mathbb{F}_q\hookrightarrow\Omega$ が単射なので $y^\#=y'^\#$ である。最後の主張は、$\bar{X}(\bar{\mathbb{F}}_q)=X(\bar{\mathbb{F}}_q)$ の同一視(ファイバー積の普遍性)の下で幾何的 Frobenius $\mathrm{Fr}_X\times\mathrm{id}$ の作用が $x\mapsto\mathrm{Fr}_X\circ x$ になることによる。
  3. $X$ を $\mathbb{F}_{q^m}$ 上のスキーム $X\times_{\mathbb{F}_q}\mathbb{F}_{q^m}$ とみなすと、その $q^m$ 乗 Frobenius は $F^{rm}=\mathrm{Fr}_X^m$ の底変換であり、$X(\bar{\mathbb{F}}_q)=(X\times_{\mathbb{F}_q}\mathbb{F}_{q^m})(\bar{\mathbb{F}}_q)$ の上で同じ作用を与える。よって 2 を $\mathbb{F}_{q^m}$ に対して適用すればよい。
エタールコホモロジーとゼータ関数への応用

以下は言明である。$X$ を $\mathbb{F}_q$ 上の分離的な有限型スキーム、$\ell\neq p$ を素数とする。

  • $\bar{X}$ の絶対 Frobenius $F_{\bar{X}}$ はエタールコホモロジー $H^i_c(\bar{X},\mathbb{Q}_\ell)$ に恒等写像として作用する(SGA4h Rapport、Mil80 VI)。したがって幾何的 Frobenius の作用 $F^*:=(\mathrm{Fr}_X\times\mathrm{id})^*$ と算術的 Frobenius の作用 $(\mathrm{id}\times\operatorname{Spec}\sigma)^*$ は互いに逆である。Galois 群は $\bar{X}$ に第 2 因子を通して作用し、その引き戻しによるコホモロジーへの作用で $\sigma^{-1}$(Weil予想の記事の幾何的 Frobenius)に対応するのが $F^*$ である。Del74 以来「Frobenius の固有値」といえば $F^*$ の固有値をいう。
  • Grothendieck の Lefschetz 跡公式:$\#X(\mathbb{F}_{q^m})=\sum_i(-1)^i\operatorname{Tr}\big((F^*)^m\mid H^i_c(\bar{X},\mathbb{Q}_\ell)\big)$。左辺は prop-frobenius-morphism-fixed-points の 3 により $\mathrm{Fr}_X^m$ の不動点の個数で、Lefschetz不動点公式の記事の Weil コホモロジー版がこれを与える。ここから合同ゼータ関数 $Z(X,T)=\exp\big(\sum_m\#X(\mathbb{F}_{q^m})T^m/m\big)$ の有理性 $Z(X,T)=\prod_i\det(1-F^*T\mid H^i_c)^{(-1)^{i+1}}$ が従う(SGA4h、Mil80 VI)。
  • Weil予想(Deligne の定理、Del74):$X$ が滑らかで固有なら、$F^*$ の $H^i(\bar{X},\mathbb{Q}_\ell)$ 上の固有値は、任意の複素埋め込みで絶対値 $q^{i/2}$ をもつ代数的整数である。
  • エタール基本群 $\pi_1(X,\bar{x})$ には、$X$ の各閉点 $y$(剰余体 $\mathbb{F}_{q^d}$)に対し、$\operatorname{Gal}(\bar{\mathbb{F}}_q/\mathbb{F}_{q^d})$ の幾何的 Frobenius の像として Frobenius 元 $\mathrm{Frob}_y\in\pi_1(X,\bar{x})$ が共役を除いて定まる(Mil80 I §5、Del74 §1)。$X=\operatorname{Spec}\mathbb{F}_q$ では $\pi_1=\operatorname{Gal}(\bar{\mathbb{F}}_q/\mathbb{F}_q)\cong\hat{\mathbb{Z}}$ であり、$\ell$ 進表現における Frobenius 元の固有値が Weil予想の主題である。

Frobenius 持上げと $p$ 進コホモロジー

Witt ベクトルの Frobenius と結晶コホモロジーの Frobenius 作用

以下は言明である。標数 $0$ の環に Frobenius はない(ex-frobenius-morphism-char-zero)が、$p$ 進完備な環 $R$ の環準同型 $\phi\colon R\to R$ で $\phi(a)\equiv a^p\pmod{pR}$ をみたすものを Frobenius 持上げ(Frobenius lift)という。完全体 $k$ のWittベクトル環 $W(k)$ は標準的な Frobenius 持上げ $\sigma$ をもち、$\sigma(a_0,a_1,\dots)=(a_0^p,a_1^p,\dots)$、Teichmüller 表現に対して $\sigma([a])=[a^p]$ である。$W(k)$ 上の滑らかなアフィンスキームの $p$ 進完備化は(形式的滑らかさにより)Frobenius 持上げをもつが、大域的にはもたないのが普通である。
$k$ 上の滑らかな固有スキーム $X_0$ の結晶コホモロジー $H^i_{\mathrm{cris}}(X_0/W(k))$ は、絶対 Frobenius $F_{X_0}$($\operatorname{Spec}k$ の上では $\sigma$ の上にある)の関手性から $\sigma$ 半線型な自己準同型 $\varphi$ をもち、$\varphi$ は $H^i_{\mathrm{cris}}\otimes\mathbb{Q}$ の上で全単射である。$X_0$ が $W(k)$ 上に持ち上がれば $H^i_{\mathrm{cris}}(X_0/W)\cong H^i_{\mathrm{dR}}(X/W)$ で、Frobenius 持上げ $\phi$ があれば $\varphi=\phi^*$ である(BO78 第 7 章)。楕円曲線・アーベル多様体では $H^1_{\mathrm{cris}}$ は $F$ と $V$($FV=VF=p$)をもつ Dieudonné 加群(Dieudonné加群とBarsotti–Tate群)と同一視され、超特異性は $\varphi$ の傾き(Newton 多角形)で読める。一般に Newton 多角形は Hodge 多角形の上にある(Mazur の定理、BO78 第 8 章)。標数 $p$ の Frobenius 写像はこうして $p$ 進コホモロジーに「重み」を刻み、Weilコホモロジーとしての結晶コホモロジーと $\ell$ 進の Weil 予想を結ぶ。

関連項目

参考文献

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The Stacks Project Authors, The Stacks Project, The Stacks Project Authors, 閲覧日 2026年9月22日

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