Wirtingerの不等式(周期関数)

同義語:Wirtinger's inequality for periodic functions周期関数のWirtingerの不等式

概要

Wirtingerの不等式(周期関数)(Wirtinger's inequality for periodic functions)とは、周期 $2\pi$ の絶対連続関数 $f$ が平均 $0$ で導関数が 2 乗可積分なら、$\int_{-\pi}^{\pi}|f|^2\le\int_{-\pi}^{\pi}|f'|^2$ が成り立ち、等号は $f=a\cos x+b\sin x$ の形に限るという不等式である。Fourier 係数で見ると、微分が係数を $in$ 倍し、平均 $0$ の関数には振動数 $|n|\ge1$ の成分しかないことを述べている。周期 $T$ では定数が $(T/2\pi)^2$ になり、区間の上の零境界値の形や、有限個の数の差についての離散版も同じ考えで得られる。Hurwitz による平面の等周不等式の証明に使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Fourier級数, Parsevalの等式, 絶対連続関数

周期 $2\pi$ の $C^1$ 級関数(より一般に、絶対連続で導関数が 2 乗可積分な周期関数)$f$ が平均 $0$ なら、
$$ \int_{-\pi}^{\pi}|f(x)|^2\,dx\le\int_{-\pi}^{\pi}|f'(x)|^2\,dx $$
が成り立ち、等号は $f(x)=a\cos x+b\sin x$ の形のときに限る。これが周期関数の Wirtinger の不等式(Wirtinger's inequality)である。関数の大きさを、その導関数の大きさで押さえる不等式のうち最も基本的なものの一つで、定数 $1$ は小さくできない。
不等式の意味は Fourier 係数で見るとはっきりする。$f$ を $e^{inx}$ の重ね合わせに分けると、微分は係数 $\hat f(n)$ を $in$ 倍する。平均 $0$ は $\hat f(0)=0$ のことなので、残る振動数はどれも $|n|\ge1$ であり、微分によって各成分の大きさは $1$ 倍以上になる。等号は振動数 $\pm1$ の成分しかないときに限る。周期 $T$ の関数では、振動数の最小値が $2\pi/T$ になるので、定数は $(T/2\pi)^2$ に変わる。
この記事では、絶対連続な周期関数について主定理を証明し、周期の取り替え、高い振動数だけをもつ関数での改良、一様ノルムでの評価、有限個の数についての離散版を示す。応用として、Hurwitz による平面の等周不等式の証明を述べる。区間の上で境界の値を $0$ にした形や、平均を引いた形との関係も、周期関数への延長で説明する。

記号

関数は複素数値とする。$2\pi$ 周期の関数 $f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{C}$ で $[-\pi,\pi]$ 上 Lebesgue 可積分なものの Fourier 係数を
$$ \hat f(n):=\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)e^{-inx}\,dx\qquad(n\in\mathbb{Z}) $$
と書く(Fourier級数 の定義「Fourier 係数と Fourier 級数」と同じ正規化)。$\hat f(0)$ は $f$ の平均である。
$2\pi$ 周期の関数 $f$ で、実部と虚部が $[-\pi,\pi]$ 上で絶対連続(絶対連続関数 の定義「絶対連続関数」)であり、ほとんど至る所で存在する導関数 $f'$ が $\int_{-\pi}^{\pi}|f'|^2< \infty$ を満たすものの全体を $\mathcal{W}$ とおく。$f\in\mathcal{W}$ は周期的なので $f(-\pi)=f(\pi)$ である。絶対連続関数 の定理「絶対連続関数と不定積分」により、$f'$ は $[-\pi,\pi]$ 上可積分で $f(x)=f(-\pi)+\int_{-\pi}^{x}f'(t)\,dt$ である。
周期的な $C^1$ 級関数は $\mathcal{W}$ に属する。周期的に延ばしたときに連続になる区分的に $C^1$ 級の関数、たとえば三角波 $|x|$($|x|\le\pi$ を周期 $2\pi$ に延ばしたもの)も $\mathcal{W}$ に属する。$\mathcal{W}$ は、導関数の Fourier 係数の計算(下の補題)を絶対連続性で正当化できる範囲としてとってある。

導関数の Fourier 係数

$f\in\mathcal{W}$ なら、すべての $n\in\mathbb{Z}$ について $\widehat{f'}(n)=in\,\hat f(n)$ である。とくに $\widehat{f'}(0)=0$ である。

$e^{-inx}$ の実部と虚部は $C^1$ 級なので絶対連続である。絶対連続関数 の系「導関数が0なら定数・部分積分」の 2 を $f$ の実部・虚部と $e^{-inx}$ の実部・虚部の 4 通りの組に当てて足し合わせると
$$ \int_{-\pi}^{\pi}f'(x)e^{-inx}\,dx=\Bigl[f(x)e^{-inx}\Bigr]_{-\pi}^{\pi}+in\int_{-\pi}^{\pi}f(x)e^{-inx}\,dx $$
である。$f(\pi)=f(-\pi)$ と $e^{-in\pi}=e^{in\pi}$ から境界の項は $0$ である。両辺を $2\pi$ で割ればよい。$\square$

主定理

周期関数の Wirtinger の不等式

$f\in\mathcal{W}$ が $\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\,dx=0$ を満たすとする。このとき
$$ \int_{-\pi}^{\pi}|f(x)|^2\,dx\le\int_{-\pi}^{\pi}|f'(x)|^2\,dx $$
である。等号が成り立つのは、定数 $a,b\in\mathbb{C}$ があって $f(x)=ae^{ix}+be^{-ix}$ となるときに限る。$f$ が実数値なら、等号の条件は実数 $\alpha,\beta$ で $f(x)=\alpha\cos x+\beta\sin x$ と書けることである。

証明では、$f$ には Parseval の等式を、$f'$ には Bessel の不等式だけを使う。$f'$ は 2 乗可積分なだけで、Riemann 積分可能とは限らないからである。

$L^2(-\pi,\pi)$ に内積 $\langle g,h\rangle:=\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}g\bar h$ を入れると内積空間であり(Lp空間 の例「$L^2$ と内積」)、$e_n(x):=e^{inx}$ は正規直交系で、$\langle g,e_n\rangle=\hat g(n)$ である。
1.導関数の側。$N\ge1$ とする。Parsevalの等式 の補題「Bessel の等式」を $f'$ と有限個の $e_n$($|n|\le N$)に当てると、lem-wi-derivative により
$$ \sum_{|n|\le N}n^2|\hat f(n)|^2=\sum_{|n|\le N}|\widehat{f'}(n)|^2\le\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}|f'|^2 $$
である。$N\to\infty$ として、$\sum_{n}n^2|\hat f(n)|^2\le\frac1{2\pi}\int|f'|^2$ を得る。
2.関数の側。$f$ は連続なので Riemann 積分可能であり、Parsevalの等式 の定理「Riemann 積分可能な関数の Parseval の等式」の 2 から $\frac1{2\pi}\int|f|^2=\sum_n|\hat f(n)|^2$ である。仮定から $\hat f(0)=0$ である。
3.比べる。1 と 2 から
$$ \frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}|f'|^2-\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}|f|^2\ge\sum_{n\ne0}(n^2-1)|\hat f(n)|^2=\sum_{|n|\ge2}(n^2-1)|\hat f(n)|^2\ge0 $$
である。
4.等号。等号なら最後の和が $0$ なので、$|n|\ge2$ で $\hat f(n)=0$ である。すると $f$ と $g(x):=\hat f(1)e^{ix}+\hat f(-1)e^{-ix}$ は Fourier 係数がすべて等しい連続関数であり、Parsevalの等式 の系「係数による一意性」から $f=g$ である。逆に $f=ae^{ix}+be^{-ix}$ なら $f'=iae^{ix}-ibe^{-ix}$ で、直交性から両辺はともに $2\pi(|a|^2+|b|^2)$ である。$f$ が実数値なら $\hat f(-1)=\overline{\hat f(1)}$ なので、$a=\hat f(1)=\frac{\alpha-i\beta}2$ とおくと $f=2\operatorname{Re}(ae^{ix})=\alpha\cos x+\beta\sin x$ である。$\square$

$C^1$ 級の場合は Parsevalの等式 の命題「Wirtingerの不等式」にあり、上の証明はそれを絶対連続な関数に広げたものである。平均が $0$ でない $f\in\mathcal{W}$ には、$f-\hat f(0)$ に当てて
$$ \int_{-\pi}^{\pi}|f-\hat f(0)|^2\le\int_{-\pi}^{\pi}|f'|^2 $$
を得る。左辺は $f$ が定数からどれだけ離れているかを測る量で、導関数が小さい周期関数はほとんど定数である、と読める。

等号にならない例

$f(x)=\cos x+\cos2x$ では $\int|f|^2=2\pi$、$f'=-\sin x-2\sin2x$ で $\int|f'|^2=5\pi$ である。証明の 3 の差は $2\pi\cdot(2^2-1)\cdot2\cdot\frac14=3\pi$($\hat f(\pm2)=\frac12$)で、$5\pi-2\pi$ に一致する。三角波 $f(x)=|x|-\frac\pi2$($|x|\le\pi$)では平均が $0$ で、$\int|f|^2=\frac{\pi^3}6\approx5.17$、$|f'|=1$ なので $\int|f'|^2=2\pi\approx6.28$ である。

周期の取り替えと区間の形

周期 $T$ の関数

$T>0$ とし、$f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{C}$ を周期 $T$ の関数で、実部と虚部が $[0,T]$ 上で絶対連続、$\int_0^T|f'|^2< \infty$ を満たすものとする。$m:=\frac1T\int_0^Tf$ とおくと
$$ \int_0^T|f(x)-m|^2\,dx\le\Bigl(\frac T{2\pi}\Bigr)^2\int_0^T|f'(x)|^2\,dx $$
であり、等号は $f(x)=m+ae^{2\pi ix/T}+be^{-2\pi ix/T}$($a,b\in\mathbb{C}$)のときに限る。

周期 $T$ の可積分関数の積分は、長さ $T$ のどの区間でとっても同じである(区間を $T$ の整数倍ずらした 2 つの部分に分けて足し直す)。同じく周期性から、$f$ の実部と虚部は有界閉区間ならどこの上でも絶対連続である(隣り合う 2 つの閉区間の上で絶対連続なら、合わせた区間の上でも絶対連続であることは定義から分かる)。$g(y):=f\bigl(\frac{Ty}{2\pi}\bigr)-m$ とおくと、$g$ は $2\pi$ 周期で、$g\in\mathcal{W}$、$g'(y)=\frac T{2\pi}f'\bigl(\frac{Ty}{2\pi}\bigr)$ である。変数変換 $x=\frac{Ty}{2\pi}$ により
$$ \int_{-\pi}^{\pi}g=\frac{2\pi}T\int_{-T/2}^{T/2}(f-m)=0,\quad\int_{-\pi}^{\pi}|g|^2=\frac{2\pi}T\int_0^T|f-m|^2,\quad\int_{-\pi}^{\pi}|g'|^2=\Bigl(\frac T{2\pi}\Bigr)^2\frac{2\pi}T\int_0^T|f'|^2 $$
である。$g$ に thm-wi-main を当て、$\frac{2\pi}T$ で割ればよい。等号の条件も $g$ の条件を戻したものである。$\square$

区間 $[0,\ell]$ の上の関数を、周期 $2\ell$ の関数に奇関数または偶関数として延ばすと、区間の上の 2 つの形が出る。

区間の上の 2 つの形

$\ell>0$ とし、$u\colon[0,\ell]\to\mathbb{C}$ の実部と虚部が絶対連続で $\int_0^\ell|u'|^2< \infty$ とする。

  1. $u(0)=u(\ell)=0$ なら $\displaystyle\int_0^\ell|u|^2\le\Bigl(\frac\ell\pi\Bigr)^2\int_0^\ell|u'|^2$ であり、等号は $u=c\sin\frac{\pi x}\ell$($c\in\mathbb{C}$)のときに限る。
  2. $\int_0^\ell u=0$ なら同じ不等式が成り立ち、等号は $u=c\cos\frac{\pi x}\ell$ のときに限る。

要点:1 では $u$ を奇関数として、2 では偶関数として $[-\ell,\ell]$ に延ばし、周期 $2\ell$ の関数に cor-wi-period を当てる。

詳しい証明を開く

1:$-\ell\le x\le0$ で $U(x):=-u(-x)$、$0\le x\le\ell$ で $U(x):=u(x)$ とおく。$u(0)=0$ なので $x=0$ で 2 つの式は一致し、$U(-\ell)=-u(\ell)=0=U(\ell)$ なので、$U$ は周期 $2\ell$ の連続関数に延びる。$[-\ell,0]$ と $[0,\ell]$ のそれぞれで $U$ は 絶対連続関数 の定理「絶対連続関数と不定積分」の 2 の形に書け、それが $x=0$ でつながるので、$U$ は $[-\ell,\ell]$ 上で絶対連続である。$U$ は奇関数なので平均は $0$ である。cor-wi-period を $T=2\ell$ で当てると、両辺は $[0,\ell]$ の上の積分のちょうど 2 倍なので、不等式を得る。等号なら $U=ae^{i\pi x/\ell}+be^{-i\pi x/\ell}$ で、$U$ が奇関数であることから $b=-a$、すなわち $U=2ia\sin\frac{\pi x}\ell$ である。

2:偶関数 $U(x):=u(|x|)$ に同じ議論を当てる。$U(-\ell)=u(\ell)=U(\ell)$ で、平均は $\frac1{2\ell}\cdot2\int_0^\ell u=0$ である。等号なら偶関数であることから $b=a$、すなわち $U=2a\cos\frac{\pi x}\ell$ である。$\square$

1 は零境界値の形の Poincaréの不等式 の定理「区間での最良の定数」、2 は Poincaré–Wirtingerの不等式 の定理「区間での最良の定数」と同じ主張である。周期 $\ell$ のまま扱う cor-wi-period の定数 $(\ell/2\pi)^2$ より 4 倍大きいのは、延長で周期が $2\ell$ に伸びるからである。

振動数と定数

高い振動数だけをもつ関数

主定理の定数 $1$ は、残る振動数の最小値 $|n|=1$ の 2 乗である。低い振動数の成分がもともとない関数では、定数が良くなる。

低い振動数を含まない関数

$m\ge1$ を整数とし、$f\in\mathcal{W}$ が $|n|< m$ のすべての $n$ で $\hat f(n)=0$ を満たすとする。このとき
$$ \int_{-\pi}^{\pi}|f|^2\le\frac1{m^2}\int_{-\pi}^{\pi}|f'|^2 $$
であり、等号は $f(x)=ae^{imx}+be^{-imx}$($a,b\in\mathbb{C}$)のときに限る。

prf-thm-wi-main の 1・2 はそのまま使え、3 の代わりに
$$ \frac1{2\pi}\int|f'|^2-\frac{m^2}{2\pi}\int|f|^2\ge\sum_{|n|\ge m}(n^2-m^2)|\hat f(n)|^2\ge0 $$
となる。等号なら $|n|>m$ で $\hat f(n)=0$ であり、残るのは $n=\pm m$ の項だけなので、Parsevalの等式 の系「係数による一意性」から $f=\hat f(m)e^{imx}+\hat f(-m)e^{-imx}$ である。逆はこの形を代入して確かめられる。$\square$

数 $n^2$($n=0,1,2,\dots$)は、周期 $2\pi$ の関数についての固有値問題 $-f''=\lambda f$ の固有値で、$e^{\pm inx}$ が固有関数である。lem-wi-derivative から、$f\in\mathcal{W}$ について $\int|f'|^2/\int|f|^2$ はこの作用素の Rayleigh商 にあたり、主定理は「定数関数と直交する関数の上での Rayleigh 商の最小値は、$0$ の次に小さい固有値 $1$ である」と言い換えられる。prop-wi-higher は、さらに先の固有関数と直交する関数の上で同じことを述べている。

一様ノルムでの評価

導関数の 2 乗積分は、関数の 2 乗積分だけでなく最大値も押さえる。

一様ノルムでの形

$f\in\mathcal{W}$ が $\int_{-\pi}^{\pi}f=0$ を満たすなら、すべての $x$ で
$$ |f(x)|^2\le\frac\pi6\int_{-\pi}^{\pi}|f'(t)|^2\,dt $$
である。定数 $\frac\pi6$ は小さくできない。

不等式。$\sum_{n\ge1}\frac1{n^2}=\frac{\pi^2}6$(Basel問題 の定理「平方数の逆数の和」)と Cauchy–Schwarzの不等式、prf-thm-wi-main の 1 から
$$ \sum_{n\ne0}|\hat f(n)|\le\Bigl(\sum_{n\ne0}\frac1{n^2}\Bigr)^{1/2}\Bigl(\sum_{n\ne0}n^2|\hat f(n)|^2\Bigr)^{1/2}\le\Bigl(\frac{\pi^2}3\Bigr)^{1/2}\Bigl(\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}|f'|^2\Bigr)^{1/2} $$
である。係数の絶対値の和が有限なので、級数 $g(x):=\sum_{n\ne0}\hat f(n)e^{inx}$ はすべての $x$ で一様に絶対収束し、$g$ は連続である。一様収束する級数は項別に積分できるので $\hat g(n)=\hat f(n)$($n\ne0$)、$\hat g(0)=0=\hat f(0)$ であり、Parsevalの等式 の系「係数による一意性」から $f=g$ である。よって $|f(x)|\le\sum_{n\ne0}|\hat f(n)|$ で、2 乗すると主張を得る($\frac{\pi^2}3\cdot\frac1{2\pi}=\frac\pi6$)。
最良であること。$|x|\le\pi$ で $f_0(x):=\frac{\pi^2}3-\pi|x|+\frac{x^2}2$ を周期 $2\pi$ に延ばした関数で、$x=0$ のとき等号になる。

等号の確かめを開く

$|x|\le\pi$ で $f_0(x):=\frac{\pi^2}3-\pi|x|+\frac{x^2}2$ とおき、周期 $2\pi$ に延ばす。$f_0(\pi)=f_0(-\pi)=-\frac{\pi^2}6$ なので延長は連続で、区分的に $C^1$ 級だから $f_0\in\mathcal{W}$ である。$\int_{-\pi}^{\pi}f_0=\frac{2\pi^3}3-\pi^3+\frac{\pi^3}3=0$ である。$x\ne0$ で $|f_0'(x)|=\pi-|x|$ なので $\int|f_0'|^2=2\int_0^\pi(\pi-x)^2dx=\frac{2\pi^3}3$ であり、$\frac\pi6\cdot\frac{2\pi^3}3=\frac{\pi^4}9=f_0(0)^2$ となって、$x=0$ で等号が成り立つ。$\square$

$f_0$ の Fourier 係数は $\hat f_0(n)=\frac1{n^2}$($n\ne0$)であり、Cauchy–Schwarz の不等式の等号の条件($n|\hat f(n)|$ が $\frac1{|n|}$ に比例し、$x=0$ で位相がそろう)をちょうど満たしている。

離散版

有限個の数を円周上に並べたものについても、同じ形の不等式が成り立つ。導関数の代わりに隣どうしの差をとる。

離散 Wirtinger の不等式

$N\ge2$ とし、$x_0,\dots,x_{N-1}\in\mathbb{C}$ が $\sum_{k=0}^{N-1}x_k=0$ を満たすとする。$x_N:=x_0$ とおくと
$$ \sum_{k=0}^{N-1}|x_{k+1}-x_k|^2\ge4\sin^2\frac\pi N\sum_{k=0}^{N-1}|x_k|^2 $$
である。$\zeta:=e^{2\pi i/N}$ とすると、等号は $x_k=a\zeta^k+b\zeta^{-k}$($a,b\in\mathbb{C}$)のときに限る。

離散Fourier変換と反転公式 の定義「離散Fourier変換」の記号で、長さ $N$ の数列 $x=(x_k)$ の変換を $\hat x(t)=\sum_kx_k\zeta^{-tk}$ とし、添字は $N$ を法として考える。$y_k:=x_{k+1}-x_k$ とおく。$\sum_kx_{k+1}\zeta^{-tk}=\zeta^t\sum_kx_{k+1}\zeta^{-t(k+1)}=\zeta^t\hat x(t)$(添字を 1 つずらして足し直す)なので、$\hat y(t)=(\zeta^t-1)\hat x(t)$ であり、
$$ |\zeta^t-1|^2=2-2\cos\frac{2\pi t}N=4\sin^2\frac{\pi t}N $$
である。仮定から $\hat x(0)=0$ である。$1\le t\le N-1$ なら $\frac{\pi t}N$ は $[\frac\pi N,\pi-\frac\pi N]$ にあるので $\sin^2\frac{\pi t}N\ge\sin^2\frac\pi N$ であり、等号は $t=1$ か $t=N-1$ のときに限る($N\ge3$ のとき。$N=2$ では $t=1=N-1$ だけ)。離散Fourier変換と反転公式 の定理「反転公式とParsevalの等式」の 2(Parseval の等式)を $y$ と $x$ に当てると
$$ \sum_k|y_k|^2=\frac1N\sum_{t=1}^{N-1}4\sin^2\frac{\pi t}N\,|\hat x(t)|^2\ge4\sin^2\frac\pi N\cdot\frac1N\sum_{t=1}^{N-1}|\hat x(t)|^2=4\sin^2\frac\pi N\sum_k|x_k|^2 $$
である。等号なら $2\le t\le N-2$ で $\hat x(t)=0$ なので、反転公式(同じ定理の 1)から $x_k=\frac1N\bigl(\hat x(1)\zeta^k+\hat x(N-1)\zeta^{(N-1)k}\bigr)$ で、$\zeta^{(N-1)k}=\zeta^{-k}$ である。逆に $x_k=a\zeta^k+b\zeta^{-k}$ なら、$\sum_k\zeta^{\pm k}=0$ から和は $0$ で、離散Fourier変換と反転公式 の補題「1 の $n$ 乗根の冪の和(復習)」から $\hat x$ は $t=1,N-1$ の外で $0$ なので、上の不等号はすべて等号になる。$\square$

$x_k:=f\bigl(\frac{2\pi k}N\bigr)$ と周期関数の値を並べ、$h:=\frac{2\pi}N$ とおくと、$\frac1h\sum|x_{k+1}-x_k|^2$ と $h\sum|x_k|^2$ は $N\to\infty$ で $\int|f'|^2$ と $\int|f|^2$ の近似になり、定数 $\frac{4}{h^2}\sin^2\frac\pi N$ は $1$ に近づく。離散版は主定理を差分で書いたものである。

応用:等周不等式の Hurwitz の証明

平面の閉曲線の長さ $L$ と囲む面積 $A$ について $L^2\ge4\pi A$ が成り立つ(等周不等式)。Hurwitz は Fourier 級数による証明を与えた。Wirtinger の不等式を使うと、その証明は数行になる。
曲線と面積の定義は 等周不等式(高校数学) にそろえる。閉じた $C^1$ 曲線 $\gamma(t)=(x(t),y(t))$($-\pi\le t\le\pi$、$\gamma(-\pi)=\gamma(\pi)$)の長さを $L(\gamma)=\int_{-\pi}^{\pi}|\gamma'(t)|\,dt$、符号付き面積を $A(\gamma)=\int_{-\pi}^{\pi}x\,y'\,dt$ とし、速さ $|\gamma'|$ がどこでも $0$ でないとき正則という(同記事の定義「閉じた $C^1$ 曲線と正則性」「閉曲線の符号付き面積」)。

Hurwitz の方法による等周不等式

$\gamma$ を正則な閉じた $C^1$ 曲線とし、長さを $L$ とする。このとき $L^2\ge4\pi A(\gamma)$ である。$\gamma$ の速さが一定なら、等号が成り立つのは、点 $p\in\mathbb{C}$、$R>0$、$t_0\in\mathbb{R}$ があって $x(t)+iy(t)=p+Re^{i(t-t_0)}$ となる(円を反時計回りに一定の速さで 1 周する)ときに限る。

$z(t):=x(t)+iy(t)$ と書く。$\operatorname{Im}(\bar zz')=xy'-yx'$ であり、等周不等式(高校数学) の補題「符号付き面積の 2 つの式」から $\int xy'=-\int yx'$ なので、$2A(\gamma)=\operatorname{Im}\int_{-\pi}^{\pi}\bar zz'\,dt$ である。
同記事の補題「速さを一定にする取り替え」と補題「媒介変数を取り替えても長さと面積は変わらない」により、速さが一定 $\frac L{2\pi}$ の曲線に取り替えても $L$ と $A$ は変わらないので、はじめから速さは $\frac L{2\pi}$ としてよい。このとき $\int|z'|^2=\frac{L^2}{2\pi}$ である。
$c:=\hat z(0)$ を $z$ の平均とし、$w:=z-c$ とおく。$z$ は $C^1$ 級で $z(-\pi)=z(\pi)$ なので $w\in\mathcal{W}$ で、$\int w=0$、$w'=z'$ である。$\int\bar c\,z'=\bar c\,(z(\pi)-z(-\pi))=0$ なので $\operatorname{Im}\int\bar zz'=\operatorname{Im}\int\bar ww'$ である。Cauchy–Schwarzの不等式 と thm-wi-main から
$$ 2A(\gamma)=\operatorname{Im}\int\bar ww'\le\int|w|\,|w'|\le\Bigl(\int|w|^2\Bigr)^{1/2}\Bigl(\int|w'|^2\Bigr)^{1/2}\le\int|w'|^2=\frac{L^2}{2\pi} $$
であり、$L^2\ge4\pi A(\gamma)$ を得る。
等号なら最後の不等号も等号なので、thm-wi-main から $w=ae^{it}+be^{-it}$ である。直交性から
$$ \operatorname{Im}\int\bar ww'=\operatorname{Im}\bigl(2\pi i(|a|^2-|b|^2)\bigr)=2\pi(|a|^2-|b|^2),\qquad\int|w'|^2=2\pi(|a|^2+|b|^2) $$
なので、両者が等しいことから $b=0$ である。$L>0$ から $a\ne0$ で、$a=Re^{-it_0}$($R>0$)と書けば $z=c+Re^{i(t-t_0)}$ である。逆にこの形なら $L=2\pi R$、$2A=2\pi R^2$ で等号が成り立つ。$\square$

速さが一定でない曲線での等号の条件(ある円を反時計回りにちょうど 1 周すること)は、等周不等式(高校数学) の定理「閉曲線の等周不等式」にある。そこでは Fourier 係数でエネルギーと面積を直接比べている。$n$ 次元の図形の等周不等式は 等周不等式 で、Brunn–Minkowski の不等式から導かれる。

関連する不等式との比較

導関数の 2 乗積分で関数の 2 乗積分を押さえる 1 次元の不等式 $\int|u|^2\le C\int|u'|^2$ を、条件ごとに並べる。区間の長さは $\ell$ とする。

関数の条件最良の定数 $C$等号になる関数所在
周期 $\ell$、平均 $0$$(\ell/2\pi)^2$$e^{\pm2\pi ix/\ell}$ の 1 次結合cor-wi-period
$u(0)=u(\ell)=0$$(\ell/\pi)^2$$\sin(\pi x/\ell)$ の定数倍cor-wi-interval、Poincaréの不等式
平均 $0$(端の条件なし)$(\ell/\pi)^2$$\cos(\pi x/\ell)$ の定数倍cor-wi-interval、Poincaré–Wirtingerの不等式
$N$ 個の数、巡回、和 $0$$1/(4\sin^2(\pi/N))$$\zeta^{\pm k}$ の 1 次結合thm-wi-discrete

最良の定数の逆数は、それぞれの境界条件での $-u''=\lambda u$ の $0$ でない最小の固有値(周期条件、Dirichlet 条件、Neumann 条件)であり、等号になる関数はその固有関数である。多次元では、平坦トーラス上の同じ形が Rellichの定理 の例「例:トーラス上の Poincaré の不等式」に、有界領域の上の形が Poincaréの不等式 と Poincaré–Wirtingerの不等式 にある。

仮定を外すと成り立たなくなること

外す条件反例成り立たなくなること
平均が $0$定数関数 $f=1$左辺 $2\pi$、右辺 $0$ で不等式
周期性($f(-\pi)=f(\pi)$)$[-\pi,\pi]$ 上の $f(x)=x$平均 $0$ で $C^1$ 級だが、左辺 $\frac{2\pi^3}3$ が右辺 $2\pi$ より大きい
絶対連続性Cantor 関数から作る周期関数(下の例)導関数はほとんど至る所 $0$ で右辺 $0$、左辺は正
定数が $1$ 以上定数 $c<1$ と $f=\cos x$$\int\cos^2x=\pi>c\pi=c\int\sin^2x$
反例:絶対連続でない周期関数

$c\colon[0,1]\to[0,1]$ を Cantor 関数とする(Cantor関数 の定理「Cantor関数の基本性質」の 2・4)。$|x|\le\pi$ で $h(x):=c(|x|/\pi)$ とおくと、$h(-\pi)=h(\pi)=1$ なので周期 $2\pi$ の連続関数に延び、$x=0$ と $|x|/\pi$ が Cantor 集合に入る点(測度 $0$)を除いて微分係数 $0$ をもつ。$f:=h-\hat h(0)$ は平均 $0$、ほとんど至る所 $f'=0$ で $\int|f'|^2=0$ だが、$f$ は定数でない連続関数なので $\int|f|^2>0$ である。満たす性質は周期性・平均 $0$・ほとんど至る所での微分可能性と $f'\in L^2$、満たさない性質は絶対連続性であり、lem-wi-derivative の部分積分が成り立たない($\hat f(n)\ne0$ となる $n\ne0$ があるのに $\widehat{f'}(n)=0$)。

補足

名前と文献

$C^1$ 級の実数値関数の場合の主張と等号の条件は Axl26 の Exercises 11B の 18(p. 362)にある。この記事の証明(絶対連続な関数への拡張、一様ノルムの形、離散版、Hurwitz の証明を Wirtinger の不等式と Cauchy–Schwarz の不等式に分けた形)は、Parsevalの等式 と 離散Fourier変換と反転公式 の定理から組み立てたものである。複素幾何には、Kähler 形式の冪と部分多様体の体積を比べる別の不等式があり、これも Wirtinger の不等式と呼ばれる(Kähler形式 で等号の場合に触れている)。この記事の不等式とは別のものである。

関連項目

参考文献

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