含意(implication)とは、論理式 $\varphi,\psi$ から「$\varphi$ ならば $\psi$」を表す論理式 $\varphi\to\psi$ を作る論理結合子で、$\varphi$ が真で $\psi$ が偽のときだけ偽とするもの(実質含意)である。真理値に $\mathrm{F}<\mathrm{T}$ の順序を入れると、$\varphi\to\psi$ が真であることは真理値が下がらないことと同じである。前提の集合に $\varphi$ を加えて $\psi$ が帰結することと、もとの前提から $\varphi\to\psi$ が帰結することは同値であり(意味論的な演繹定理)、16 個の 2 変数の真理関数のうちこれを満たすのは実質含意だけである。$\to$ と恒偽の定数だけで任意の真理関数を表せるが、$\to$ だけでは否定を表せない。
数学の定理のほとんどは「$p$ ならば $q$」という形をしている。「$n$ が $4$ の倍数ならば $n$ は偶数である」「$f$ が微分可能ならば $f$ は連続である」。この「ならば」を、2 つの命題から新しい命題を作る論理結合子として定めたものが 含意 である。数学で使う含意は、$p$ と $q$ の内容のつながりを問わず、両者の真偽だけで全体の真偽を決める。偽になるのは「$p$ が真なのに $q$ が偽」という場合だけで、それ以外の 3 通りはすべて真とする。この取り決めを 実質含意 という。
この取り決めは、前件が偽なら何を結論しても真になる(空虚な真)ので、はじめは奇妙に見える。しかし実質含意は、「$p$ を仮定に加えると $q$ が言える」ことと「$p\to q$ が言える」ことを一致させる唯一の真理関数であり(thm-impl-characterization)、「$p$ を仮定して $q$ を導けば $p\to q$ が示せる」という証明の基本の形(thm-impl-deduction)を支えている。本記事では含意の定義と、真理値の順序による見方、意味論的な演繹定理、2 変数の真理関数 16 個の中での特徴付け、ほかの結合子との関係を証明する。
論理式・付値・恒真式・論理的帰結 $\Sigma\vDash\varphi$ の定め方は 命題論理 の記事の定義「論理式」「付値と真理値」「恒真式・充足可能性・論理的帰結」にそろえる。真理値は $\mathrm{T}$(真)と $\mathrm{F}$(偽)で書く。
論理式 $\varphi,\psi$ から作られる論理式 $\varphi\to\psi$ を $\varphi$ と $\psi$ の 含意(implication)といい、「$\varphi$ ならば $\psi$」と読む。付値 $v$ のもとでの真理値は次の表で定める。
| $v(\varphi)$ | $v(\psi)$ | $v(\varphi\to\psi)$ |
|---|---|---|
| $\mathrm{T}$ | $\mathrm{T}$ | $\mathrm{T}$ |
| $\mathrm{T}$ | $\mathrm{F}$ | $\mathrm{F}$ |
| $\mathrm{F}$ | $\mathrm{T}$ | $\mathrm{T}$ |
| $\mathrm{F}$ | $\mathrm{F}$ | $\mathrm{T}$ |
すなわち $v(\varphi\to\psi)=\mathrm{F}$ となるのは $v(\varphi)=\mathrm{T}$ かつ $v(\psi)=\mathrm{F}$ のときに限る。$\varphi$ を 前件、$\psi$ を 後件 という。この表で定まる真理関数 $\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}^2\to\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}$ を 実質含意(material implication)とよび、$a\to b$($a,b\in\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}$)とも書く。
この表は MBTZ25 第 9 章(pp. 70–71)、Gal15 Definition 3.3.2(p. 38)と同じである。記号は $\to$ のほかに $\Rightarrow$、$\supset$ も使われる。空虚な真 の記事や 論理と命題 の記事は $\Rightarrow$ を使っているが、意味は同じである。本記事では、論理式の中の結合子を $\to$、論理式についての主張(「〜ならば〜」というメタの主張)を「$\Longrightarrow$」や言葉で書いて区別する。結合の強さは $\lnot$、$\land$・$\lor$、$\to$ の順に弱くし、$\to$ が続くときは右から結ぶ:$\varphi\to\psi\to\chi$ は $\varphi\to(\psi\to\chi)$ のことである。
$\varphi\to\psi$ に対し、$\psi\to\varphi$ を 逆、$\lnot\varphi\to\lnot\psi$ を 裏、$\lnot\psi\to\lnot\varphi$ を 対偶 という。$\varphi\to\psi$ と対偶はどの付値でも同じ真理値をとる(論理と命題 の記事の命題「基本的な恒真式」の 2、集合と論理:必要条件・十分条件 の記事の定理「対偶の原理」)が、逆と裏はそうではない(ex-impl-converse)。$\varphi\to\psi$ が真であることを「$\varphi$ は $\psi$ であるための十分条件」「$\psi$ は $\varphi$ であるための必要条件」とも言う。
含意 $\varphi\to\psi$ は、「$\varphi$ が成り立っているのに $\psi$ が成り立たない」という事態だけを禁じる約束である。前件が偽なら約束は破られようがないので真とする。真理値に $\mathrm{F}<\mathrm{T}$ という順序を入れると、$\varphi\to\psi$ が真であることは $v(\varphi)\le v(\psi)$、つまり「真理値が下がらない」ことと同じである(prop-impl-order)。集合で言えば、$\varphi,\psi$ を真にする対象の集まりを $A,B$ とするとき、「すべての対象について $\varphi\to\psi$」は包含 $A\subset B$ にあたる(集合と論理:必要条件・十分条件 の記事の定理「含意と包含」)。
整数 $n$ についての主張「$n$ が $4$ の倍数ならば $n$ は偶数である」は、各 $n$ について含意「$n$ が $4$ の倍数 $\to$ $n$ は偶数」が真であるという全称の主張である。$n=8$ では前件も後件も真、$n=6$ では前件が偽で後件が真、$n=3$ では前件も後件も偽であり、どれも含意は真である。前件が真で後件が偽になる $n$(反例)は存在しないので、全称の主張は真である。
「$4$ より大きい素数はすべて奇数である」も「$p$ が $4$ より大きい素数 $\to$ $p$ は奇数」の全称である。表面に「ならば」がなくても、定理の多くは含意の全称になっている。
$\varphi\to\psi$ の逆 $\psi\to\varphi$ は $\varphi\to\psi$ と論理的に同値でない。$v(\varphi)=\mathrm{F}$、$v(\psi)=\mathrm{T}$ となる付値では $\varphi\to\psi$ は真、$\psi\to\varphi$ は偽である。整数の例では「$n$ が $4$ の倍数ならば偶数」は真だが、逆「$n$ が偶数ならば $4$ の倍数」は $n=6$ で前件が真、後件が偽になり成り立たない。裏 $\lnot\varphi\to\lnot\psi$ は逆の対偶なので、逆と同じ付値で偽になる。満たす性質:$\varphi\to\psi$ が真。満たさない性質:$\psi\to\varphi$ が真。破る含意は「$\varphi\to\psi$ が真 $\Longrightarrow$ その逆も真」である。
真理値の集合 $\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}$ に順序 $\mathrm{F}<\mathrm{T}$ を入れ、$a\land b$ を $a,b$ の小さいほう(ともに $\mathrm{T}$ のときだけ $\mathrm{T}$)とみる。
$a,b,c\in\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}$ とする。
1:$a\to b=\mathrm{F}$ となるのは $(a,b)=(\mathrm{T},\mathrm{F})$ のときだけであり、$a\le b$ が成り立たないのもこのときだけである。
2:$c=\mathrm{F}$ なら $c\land a=\mathrm{F}\le b$ も $c\le(a\to b)$ も成り立つ。$c=\mathrm{T}$ なら $c\land a=a$ なので左辺は $a\le b$、右辺は $a\to b=\mathrm{T}$ であり、1 により同値である。
3:$c=\mathrm{T}$ とおくと、仮定は「$a\le b\iff f(a,b)=\mathrm{T}$」となる。1 により右辺は「$a\to b=\mathrm{T}$」とも同値なので、すべての $a,b$ で $f(a,b)=a\to b$ である。
4:付値 $v$ をとり、$a=v(\varphi)$、$b=v(\psi)$、$c=v(\chi)$ とおく。1 により左辺が真であることは $a\land b\le c$ と同値であり、2($c$ の役を $a$、$a$ の役を $b$、$b$ の役を $c$ とする)によりこれは $a\le(b\to c)$、さらに 1 により $a\to(b\to c)=\mathrm{T}$ と同値である。真理値は 2 つしかないので、両辺の真理値は一致する。$\square$
2 の性質は、「$a$ を付け加えた条件で $b$ が言えること」と「$a\to b$ が言えること」が同じであることを真理値の言葉で述べている。3 により、この性質だけで実質含意は決まる。直観主義論理では真理値を $\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}$ から Heyting 代数に広げ、2 の性質で含意を定める(直観主義論理 の記事の定義「Heyting 代数での値」)。4 は、仮定を 2 つ並べた $\varphi\land\psi\to\chi$ と、仮定を 1 つずつ取る $\varphi\to\psi\to\chi$ が同じであることを表す。
一方、含意は交換律も結合律も満たさない。$\varphi\to\psi$ と $\psi\to\varphi$ の違いは ex-impl-converse で見た。$v(p)=v(r)=\mathrm{F}$ とすると、$(p\to q)\to r$ は $\mathrm{T}\to\mathrm{F}=\mathrm{F}$、$p\to(q\to r)$ は前件が偽なので $\mathrm{T}$ である。右から結ぶ約束はこのためにある。
数学で「$p$ ならば $q$」を示すときは、ふつう「$p$ を仮定して $q$ を導く」。この証明の形が正しいことの、真理値の側での根拠が次の定理である。
$\Sigma$ を論理式の集合、$\varphi,\psi$ を論理式とする。
$$
\Sigma\cup\{\varphi\}\vDash\psi\quad\Longleftrightarrow\quad\Sigma\vDash\varphi\to\psi .
$$
とくに $\Sigma=\emptyset$ とすると、$\{\varphi\}\vDash\psi$ であることと $\varphi\to\psi$ が 恒真式 であることは同値である。
$\Longrightarrow$:$\Sigma\cup\{\varphi\}\vDash\psi$ と仮定し、$\Sigma$ のすべての元を真にする付値 $v$ をとる。$v(\varphi)=\mathrm{F}$ なら、def-impl-implication の表により $v(\varphi\to\psi)=\mathrm{T}$ である。$v(\varphi)=\mathrm{T}$ なら、$v$ は $\Sigma\cup\{\varphi\}$ のすべての元を真にするので、仮定により $v(\psi)=\mathrm{T}$ であり、やはり $v(\varphi\to\psi)=\mathrm{T}$ である。よって $\Sigma\vDash\varphi\to\psi$ である。
$\Longleftarrow$:$\Sigma\vDash\varphi\to\psi$ と仮定し、$\Sigma\cup\{\varphi\}$ のすべての元を真にする付値 $v$ をとる。$v$ は $\Sigma$ のすべての元を真にするので $v(\varphi\to\psi)=\mathrm{T}$ である。$v(\varphi)=\mathrm{T}$ でもあるから、もし $v(\psi)=\mathrm{F}$ なら $v(\varphi\to\psi)=\mathrm{F}$ となって矛盾する。よって $v(\psi)=\mathrm{T}$ であり、$\Sigma\cup\{\varphi\}\vDash\psi$ である。
後半は $\emptyset\vDash\chi$ が「$\chi$ が恒真式」と同じであること(命題論理 の記事の定義「恒真式・充足可能性・論理的帰結」の 3)から従う。$\square$
$\Longleftarrow$ の向きを $\Sigma=\{\varphi,\varphi\to\psi\}$ の形で使うと、$\{\varphi,\varphi\to\psi\}\vDash\psi$、すなわち「$\varphi$ と $\varphi\to\psi$ から $\psi$ が出る」ことになる。これを 前件肯定式(modus ponens)という。逆に、$\{\varphi\to\psi,\psi\}\vDash\varphi$ は成り立たない(「後件肯定の誤り」。命題論理 の記事の例「反例:恒真式でない式と正しくない推論」の 2)。
後半の同値は、論理式の中の結合子 $\to$ と、論理式どうしの関係 $\vDash$ を結ぶ。両者は別物で、$\varphi\to\psi$ は 1 つの論理式、$\varphi\vDash\psi$ は 2 つの論理式についての主張である(MBTZ25 §12.6、pp. 89–90)。英語の implies が両方の意味で使われることがあるので、混同しないよう注意する。証明の体系の側で同じ形をした定理は 演繹定理 とよばれ、証明の規則から示す(直観主義論理 の記事の命題「演繹定理」)。
2 変数の真理関数 $f\colon\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}^2\to\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}$ は $2^4=16$ 個ある。命題論理の言語に 2 項の結合子 $\ast$ を加え、$v(\varphi\ast\psi):=f(v(\varphi),v(\psi))$ で真理値を定める。$\ast$ が「ならば」の役を果たすために最低限求めたい性質を 3 つ挙げる。
2 項の結合子 $\ast$ とその真理関数 $f$ について、次は同値である。
1 $\Longrightarrow$ 3:thm-impl-deduction の証明は $\to$ の真理値表だけを使っているので、$\ast$ を含む論理式についてもそのまま通る。
3 $\Longrightarrow$ 2:(C1) $\Sigma=\emptyset$、$\varphi=\psi=p$ とする。$\{p\}\vDash p$ は明らかなので、3 により $\vDash p\ast p$ である。
(C2) $\Sigma=\{p\ast q\}$、$\varphi=p$、$\psi=q$ とする。$\Sigma\vDash p\ast q$ は明らかなので、3 の $\Longleftarrow$ により $\{p\ast q,\ p\}\vDash q$ である。
(C3) $\Sigma=\{q\}$、$\varphi=p$、$\psi=q$ とする。$\{q,p\}\vDash q$ は明らかなので、3 の $\Longrightarrow$ により $\{q\}\vDash p\ast q$ である。
2 $\Longrightarrow$ 1:(C1) と (C3) から $f(\mathrm{T},\mathrm{T})=f(\mathrm{F},\mathrm{F})=f(\mathrm{F},\mathrm{T})=\mathrm{T}$、(C2) から $f(\mathrm{T},\mathrm{F})=\mathrm{F}$ である。これは def-impl-implication の表と一致する。$\square$
16 個の真理関数のうち、3 つの条件をすべて満たすのは実質含意ただ 1 つである。前件が偽の 2 行の値 $\mathrm{T}$ は、(C1) と (C3) によって強制されている。「偽の仮定からは何でも言える」という約束は、恣意的な取り決めではなく、「$p$ から $p$ が言える」「すでに言えることは仮定を足しても言える」という 2 つの要請の帰結である。MBTZ25 第 10 章(pp. 75–76)は、反例のない全称の主張の各事例を真とみなすという考えから同じ表を導いている。
3 つの条件はどれも外せない。1 つだけを破る真理関数が次のようにある。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| (C1) | 後件を返す関数 $f(a,b)=b$ | (C2)・(C3) を満たすが $f(\mathrm{F},\mathrm{F})=\mathrm{F}$ で、実質含意に一致しない |
| (C2) | つねに $\mathrm{T}$ を返す関数 | (C1)・(C3) を満たすが $f(\mathrm{T},\mathrm{F})=\mathrm{T}$ で、前件肯定式が成り立たない |
| (C3) | 双条件 $\leftrightarrow$($a=b$ のときだけ $\mathrm{T}$) | (C1)・(C2) を満たすが $f(\mathrm{F},\mathrm{T})=\mathrm{F}$ で、実質含意に一致しない |
各行の確認:$f(a,b)=b$ では $f(\mathrm{T},\mathrm{F})=\mathrm{F}$ で (C2)、$f(a,\mathrm{T})=\mathrm{T}$ で (C3) が成り立つ。つねに $\mathrm{T}$ の関数は (C1)・(C3) を満たす。双条件では $f(\mathrm{T},\mathrm{T})=f(\mathrm{F},\mathrm{F})=\mathrm{T}$ で (C1)、$f(\mathrm{T},\mathrm{F})=\mathrm{F}$ で (C2) が成り立つ。どれも thm-impl-characterization により演繹定理を満たさない。たとえば双条件では $\{q,p\}\vDash q$ なのに $\{q\}\vDash p\leftrightarrow q$ は成り立たない($v(p)=\mathrm{F}$、$v(q)=\mathrm{T}$)。
真理値が恒等的に $\mathrm{F}$ になる定数 $\bot$(矛盾)を論理式の言語に加えることがある。$v(\bot)=\mathrm{F}$ とする。
論理式 $\varphi,\psi$ について、次の各組はどの付値でも同じ真理値をとる。
$a=v(\varphi)$、$b=v(\psi)$ とおく。
1:$\lnot a\lor b=\mathrm{F}$ となるのは $\lnot a=\mathrm{F}$ かつ $b=\mathrm{F}$、すなわち $(a,b)=(\mathrm{T},\mathrm{F})$ のときだけで、$a\to b=\mathrm{F}$ となる場合と一致する。
2:$a\to\mathrm{F}=\mathrm{F}$ となるのは $a=\mathrm{T}$ のときだけで、$\lnot a=\mathrm{F}$ となる場合と一致する。
3:2 により $(\varphi\to\bot)\to\psi$ の真理値は $\lnot a\to b$ であり、1 によりこれは $\lnot\lnot a\lor b=a\lor b$ に等しい。
4:2 により右辺の真理値は $\lnot(a\to\lnot b)$ である。$a\to\lnot b=\mathrm{F}$ となるのは $a=\mathrm{T}$ かつ $\lnot b=\mathrm{F}$、すなわち $a=b=\mathrm{T}$ のときだけなので、$\lnot(a\to\lnot b)=\mathrm{T}$ となるのは $a=b=\mathrm{T}$ のときだけであり、$a\land b$ と一致する。
5:$b=\mathrm{T}$ なら両辺とも $\mathrm{T}$ である。$b=\mathrm{F}$ なら左辺は $a$、右辺は $(a\to\mathrm{F})\to\mathrm{F}=\lnot\lnot a=a$ である。$\square$
1 は「$\varphi$ ならば $\psi$」が「$\varphi$ でないか、または $\psi$」と同じであることを言う。これを否定すると、De Morgan の法則により $\lnot(\varphi\to\psi)$ は $\varphi\land\lnot\psi$ と同じ真理値をとる。「$p$ ならば $q$」の否定は「$p$ であって $q$ でない」であり、「$p$ ならば $q$ でない」ではない(集合と論理:必要条件・十分条件 の記事の命題「背理法の正しさと含意の否定」)。
2〜4 と 命題論理 の記事の定理「選言標準形による関数的完全性」を合わせると、$\lnot,\land,\lor$ で書ける論理式は、組み立てに沿って 2〜4 の右辺に置き換えていけば $\to$ と $\bot$ だけで書き直せるので、$\to$ と $\bot$ だけで任意の真理関数が表せる(Gal15 Lemma 3.3.4 と Theorem 3.3.1 の後の段落、pp. 45–46)。1 を使えば $\to$ と $\lnot$ でも足りる(MBTZ25 第 46 章、pp. 376–377)。では $\to$ だけではどうか。5 により $\lor$ は $\to$ だけで書けるが、否定と連言は書けない。否定が書けないことは、命題論理 の記事の例「反例:否定のない結合子だけでは足りない」が $\land,\lor,\to$ をあわせた場合について示している。次の命題は、連言も書けないことまで含めて、別の方法で示す。
命題変数と $\to$ だけから作った論理式 $\varphi$ に対し、その 最右の変数 $r(\varphi)$ を、$r(p):=p$、$r(\psi\to\chi):=r(\chi)$ で定める。このとき、$v(r(\varphi))=\mathrm{T}$ となる付値 $v$ では必ず $v(\varphi)=\mathrm{T}$ である。したがって、命題変数と $\to$ だけから作ったどの論理式も $\lnot p$ と同じ真理関数をもたず、$p,q$ と $\to$ だけから作ったどの論理式も $p\land q$ と同じ真理関数をもたない。
前半は論理式の組み立てに沿った帰納法による。$\varphi=p$ なら明らかである。$\varphi=\psi\to\chi$ で $v(r(\varphi))=v(r(\chi))=\mathrm{T}$ なら、帰納法の仮定により $v(\chi)=\mathrm{T}$ であり、後件が真なので $v(\varphi)=\mathrm{T}$ である。
後半:命題変数 $p$ だけを含み $\to$ だけで作った論理式 $\varphi$ では $r(\varphi)=p$ なので、$v(p)=\mathrm{T}$ の付値で $v(\varphi)=\mathrm{T}$ だが $v(\lnot p)=\mathrm{F}$ である。$p,q$ だけを含む論理式 $\varphi$ では $r(\varphi)$ は $p$ か $q$ である。$r(\varphi)=p$ なら $v(p)=\mathrm{T}$、$v(q)=\mathrm{F}$ の付値をとると $v(\varphi)=\mathrm{T}$、$v(p\land q)=\mathrm{F}$ である。$r(\varphi)=q$ なら $p,q$ の役を入れ替えればよい。$\square$
本記事の含意は、各命題が真か偽のちょうど一方をとるという 古典論理 の立場のものである。直観主義論理 では、$\varphi\to\psi$ を「$\varphi$ の証明を $\psi$ の証明に変える方法」と読み、真理値表では定めない。そこでは $\lnot\varphi\lor\psi$ から $\varphi\to\psi$ は導けるが、逆向きは一般には導けない。$\varphi\to\psi$ からその対偶 $\lnot\psi\to\lnot\varphi$ は導けるが、対偶から元の含意へは一般には戻れない。具体的な反例は 直観主義論理 の記事の例「反例:3 元の鎖と排中律」の型の Heyting 代数で作れる。prop-impl-order の 2 の性質で含意を定めるという点は、古典論理と直観主義論理に共通している。
thm-impl-deduction により、$\Sigma\vDash\varphi\to\psi$ を示すには $\Sigma$ に $\varphi$ を加えて $\psi$ を導けばよい。これが「$p$ と仮定する。…よって $q$ である」という直接証明の形である。対偶 $\lnot\psi\to\lnot\varphi$ が $\varphi\to\psi$ と同じ真理値をとることから、「$q$ でないと仮定して $p$ でないことを導く」対偶による証明も正しい。$\varphi\land\lnot\psi$ から矛盾を導いて $\varphi\to\psi$ を結論するのが 背理法 である。また prop-impl-order の 4 により、「$p$ かつ $q$ ならば $r$」を示すことと「$p$ ならば、$q$ ならば $r$」を示すことは同じであり、仮定を 1 つずつ置いてよい。
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