群の表現(group representation)とは、群 $G$ の各元にベクトル空間 $V$ の可逆な線形写像を積を保つように対応させる群準同型 $\rho\colon G\to\mathrm{GL}(V)$ のことである。基底を選べば群の元を可逆行列で表すことになり、行列式・跡・固有値など線形代数の道具で群を調べられる。有限群の複素数体上の有限次元表現は既約表現の直和に分かれ(完全可約性)、既約表現の間の射は $0$ か同型である(Schur の補題)。係数体の標数が群の位数を割る場合や無限群の場合には、完全可約性は成り立たないことがある。
正三角形を自分自身に重ねる 6 つの動きは、平面の線形変換(回転と鏡映)として実現できる。このように、群の元を可逆な線形写像、すなわち可逆な行列で表したものが群の表現である。群そのものは掛け算の表しか持たないが、表現を通すと、行列式・跡・固有値・部分空間といった線形代数の道具が群に使えるようになる。逆に、線形代数の問題に対称性の群が隠れているとき、その群の表現を知ることで、問題の空間を群の作用で保たれる小さな部分に分けられる。有限群の複素数体上の表現では、どの表現もそれ以上分けられない表現(既約表現)の直和に分かれ(完全可約性)、既約表現どうしの間の写像は Schur の補題によって強く制限される。この 2 つが表現論の出発点である。
以下、$G$ は群、$K$ は体とする。$K$ 上のベクトル空間 $V$ の可逆な線形写像全体のなす群を $\mathrm{GL}(V)$ と書く(一般線形群)。$V=K^n$ のとき $\mathrm{GL}(K^n)$ は可逆な $n$ 次正方行列の群 $\mathrm{GL}_n(K)$ と同一視する。
$K$ 上のベクトル空間 $V$ と群準同型
$$
\rho\colon G\to\mathrm{GL}(V)
$$
の組 $(V,\rho)$ を、$G$ の $K$ 上の 表現(representation)または 線形表現(linear representation)という。$V$ を表現空間といい、$V$ が有限次元のとき $\dim V$ を表現の 次数(degree)という。$V=K^n$ のとき、$\rho\colon G\to\mathrm{GL}_n(K)$ を 行列表現 という。
表現空間 $V$ だけで表現を指すことも多い。$\rho(g)(v)$ を $gv$ と略記すると、$\rho$ が準同型であることは、すべての $g,h\in G$、$v,w\in V$、$a,b\in K$ について
$$
g(av+bw)=a\,gv+b\,gw,\qquad (gh)v=g(hv),\qquad 1v=v
$$
が成り立つことと同じである(Web16 §1.1)。すなわち表現とは、$G$ の $V$ への群の作用で、各元が線形写像として作用するものである。準同型なので $\rho(1)=\mathrm{id}_V$(行列表現なら単位行列 $I_n$)、$\rho(g^{-1})=\rho(g)^{-1}$ である。有限次元の表現 $V$ で基底 $v_1,\dots,v_n$ を 1 つ選ぶと、各 $\rho(g)$ の表現行列が行列表現 $G\to\mathrm{GL}_n(K)$ を与える。基底の選び方を変えると、行列表現は正則行列 $P$ による共役 $P^{-1}\rho(g)P$ に変わる。
$(V,\rho)$、$(W,\sigma)$ を $G$ の $K$ 上の表現とする。線形写像 $f\colon V\to W$ が、すべての $g\in G$ について
$$
f\circ\rho(g)=\sigma(g)\circ f
$$
を満たすとき、$f$ を表現の 射($G$ 準同型、絡作用素)という。射の全体を $\operatorname{Hom}_G(V,W)$ と書く。全単射な射を表現の同型といい、同型が存在するとき 2 つの表現は 同値(同型)であるという。
射の条件は、各 $g\in G$ について次の四角形が可換であることである。
$$
\xymatrix{
V \ar[r]^{f} \ar[d]_{\rho(g)} & W \ar[d]^{\sigma(g)} \\
V \ar[r]_{f} & W
}
$$
式で書けば $f(gv)=g\,f(v)$ である。全単射な射 $f$ の逆写像 $f^{-1}$ も射である($f^{-1}\sigma(g)=f^{-1}\sigma(g)ff^{-1}=f^{-1}f\rho(g)f^{-1}=\rho(g)f^{-1}$)。行列表現 $\rho,\sigma\colon G\to\mathrm{GL}_n(K)$ が同値であることは、ある $P\in\mathrm{GL}_n(K)$ で $\sigma(g)=P\rho(g)P^{-1}$ がすべての $g$ で成り立つことである。
$(V,\rho)$ を $G$ の表現とする。
表現 $V,W$ の外部直和 $V\oplus W$ には $g(v,w):=(gv,gw)$ で $G$ が作用し、これを表現の 直和 という(行列表現ではブロック対角行列 $\begin{pmatrix}\rho(g)&O\\O&\sigma(g)\end{pmatrix}$)。$V$ の内部で不変部分空間 $V_1,V_2$ が $V=V_1\oplus V_2$(ベクトル空間の直和)を満たすとき、$V$ は表現として部分表現の直和と同型である。
群環 $K[G]$($G$ の元を基底とし、$G$ の積を線形に延ばした積をもつ環)の左加群は、$G$ の $K$ 上の表現と同じものであり、$K[G]$ 加群の準同型は表現の射と同じものである(群環 の命題「群環上の加群と群の表現」、Web16 Proposition 1.1.5)。これにより、不変部分空間は部分加群、既約表現は単純加群(単純加群)と言い換えられ、加群論の言葉がそのまま使える。また、$G$ を対象が 1 つの圏 $BG$ とみると、表現は関手 $BG\to\mathbf{Vect}_K$ と同じものである。
$BG$ は対象が 1 つで射が $G$ の元、合成が $G$ の積である圏である。表現は関手 $BG\to\mathbf{Vect}_K$ と同じものである(Rie16 Example 1.3.9)。関手は恒等射と合成を保つので、各元が可逆な線形写像に移ることは自動的に従う。2 つの関手の間の自然変換は、ただ 1 つの対象での成分 $f\colon V\to W$ で、すべての射 $g$ について $f\circ\rho(g)=\sigma(g)\circ f$ を満たすものなので、定義により表現の射と同じものである。
体 $K$ の代わりに可換環 $R$ をとり、$R$ 加群 $M$ の自己同型群への準同型 $G\to\operatorname{Aut}_R(M)$ を $R$ 上の表現ということもある(群環、Web16 §1.1)。この記事では主に体上の表現を扱う。
$V=K$ とし、すべての $g$ を $\mathrm{id}_K$ に送る表現を 自明表現 という。一般に、次数 $1$ の表現は $\mathrm{GL}_1(K)=K^\times$ への準同型 $G\to K^\times$ にほかならない。たとえば次のものがある(Web16 Example 1.1.1–1.1.2)。
$G$ が集合 $X$ に作用しているとき、$X$ の元 $x$ を基底 $e_x$ とするベクトル空間 $K^{(X)}$ に $ge_x:=e_{gx}$ で $G$ を作用させたものを 置換表現 という。各 $\rho(g)$ は基底の置換なので、$X$ が有限なら行列で書くと各行・各列に $1$ がちょうど 1 つある置換行列である。$X=G$ に左からの積で作用させたものを 正則表現 という(群環 の例「自明な表現・正則表現・置換表現」)。$X$ が有限集合なら、$s:=\sum_{x\in X}e_x$ は $gs=\sum_xe_{gx}=s$ を満たし、$Ks$ は自明表現と同型な部分表現である。
$S_3$ を $K^3$ に座標の置換として作用させる($\sigma e_i=e_{\sigma(i)}$)。$L:=K(e_1+e_2+e_3)$ と $W:=\{x_1e_1+x_2e_2+x_3e_3\mid x_1+x_2+x_3=0\}$ はどちらも不変部分空間である(置換は座標の和を変えない)。$W$ の基底 $w_1:=e_1-e_2$、$w_2:=e_2-e_3$ に関して
$$
(1\,2)\mapsto\begin{pmatrix}-1&1\\0&1\end{pmatrix},\qquad(1\,2\,3)\mapsto\begin{pmatrix}0&-1\\1&-1\end{pmatrix}
$$
である(たとえば $(1\,2\,3)w_2=e_3-e_1=-w_1-w_2$)。$S_3$ は $(1\,2)$ と $(1\,2\,3)$ で生成されるので、これで行列表現 $\rho\colon S_3\to\mathrm{GL}_2(K)$ が決まる。$K=\mathbb{R}$ なら、$c:=\frac13(e_1+e_2+e_3)$ として $e_1-c,\ e_2-c,\ e_3-c$ を頂点とする正三角形は $W$ に含まれ、$S_3$ はその頂点を置換する対称性として作用する(Web16 Example 1.1.3)。
$K$ の標数が $3$ でなければ $e_1+e_2+e_3\notin W$(座標の和が $3\neq0$)なので $K^3=L\oplus W$ であり、置換表現は自明表現と 2 次元表現 $W$ の直和に分かれる。標数が $3$ なら $L\subset W$ となり、この分解は成り立たない(ex-group-representation-modular と同じ現象で、$3$ は $\lvert S_3\rvert=6$ を割る)。
$K=\mathbb{C}$ のとき $W$ は既約である。$\rho(1\,2)$ と $\rho(1\,2\,3)$ に共通の固有ベクトルがないことを確かめればよい。
$1$ 次元の不変部分空間は $\rho(1\,2)$ と $\rho(1\,2\,3)$ の共通の固有ベクトルで張られるはずだが、$\rho(1\,2\,3)$ の固有多項式は $x^2+x+1$ で、固有値は $1$ の原始 $3$ 乗根 $\omega,\omega^2$($\omega\neq\omega^2$)である。$(1\,2)(1\,2\,3)(1\,2)=(1\,3\,2)=(1\,2\,3)^2$ なので、$\rho(1\,2\,3)v=\omega v$ なら $\rho(1\,2\,3)\rho(1\,2)v=\rho(1\,2)\rho(1\,2\,3)^2v=\omega^2\rho(1\,2)v$ となり、$\rho(1\,2)v$ は別の固有値 $\omega^2$ の固有ベクトルで $\mathbb{C}v$ に属さない。$\omega^2$ から始めても同じなので、共通の固有ベクトルはない。
$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の $\mathbb{R}^2$ 上の表現 $k\bmod n\mapsto\begin{pmatrix}\cos(2\pi k/n)&-\sin(2\pi k/n)\\\sin(2\pi k/n)&\cos(2\pi k/n)\end{pmatrix}$ は、正 $n$ 角形の回転を表す。$n\ge3$ なら生成元の行列は実数の固有値をもたないので、$\mathbb{R}$ 上では既約である。$\mathbb{C}$ 上では固有ベクトル $(1,\mp i)^{\top}$ により、ex-group-representation-one-dimensional の $r=1$ と $r=n-1$ の 1 次元表現の直和に分かれる。
行列の群は、そのまま自分自身の表現をもつ。たとえば 2 次特殊ユニタリ群 $\mathrm{SU}(2)\subset\mathrm{GL}_2(\mathbb{C})$(SO(3)とSU(2) の定義「2 次特殊ユニタリ群」)は包含写像によって $\mathbb{C}^2$ に作用し、回転群 $\mathrm{SO}(3)$ は $\mathbb{R}^3$ に作用する。
既存の表現から新しい表現を作る操作を並べる。
$V,W$ を $G$ の $K$ 上の表現とする。
要点:1 と 3 は、作用の式が線形で、単位元を恒等写像に移し、積を保つことの確認である。1 の式に $g^{-1}$ を入れるのは、$g\cdot(h\cdot f)=(gh)\cdot f$ となるようにするためである。
1:$g\cdot f$ は線形写像の合成 $\rho_W(g)\circ f\circ\rho_V(g^{-1})$ なので線形であり、$f\mapsto g\cdot f$ も線形である。$1\cdot f=f$ であり、$g,h\in G$ と $v\in V$ について $$\bigl(g\cdot(h\cdot f)\bigr)(v)=g\,(h\cdot f)(g^{-1}v)=g\,h\,f(h^{-1}g^{-1}v)=(gh)\,f\bigl((gh)^{-1}v\bigr)=\bigl((gh)\cdot f\bigr)(v)$$ である。よって $g\cdot(h\cdot f)=(gh)\cdot f$ で、各 $f\mapsto g\cdot f$ は逆写像 $f\mapsto g^{-1}\cdot f$ をもつので、$g\mapsto(f\mapsto g\cdot f)$ は群準同型 $G\to\mathrm{GL}(\operatorname{Hom}_K(V,W))$ である。$f(g^{-1}v)$ の $g^{-1}$ を $g$ に替えると、同じ計算で $f$ の引数が $(hg)v$ になり、左からの作用にならない。自明表現 $W=K$ では $g$ は $K$ に恒等的に作用するので、双対表現の式になる。
3:各 $g$ について、$(v,w)\mapsto gv\otimes gw$ は双線形なので、テンソル積 の普遍性により線形写像 $\rho_V(g)\otimes\rho_W(g)\colon V\otimes W\to V\otimes W$ が定まる。純テンソルの上で $(\rho_V(g)\otimes\rho_W(g))(\rho_V(h)\otimes\rho_W(h))(v\otimes w)=ghv\otimes ghw$ であり、純テンソルは $V\otimes W$ を張るので、$g\mapsto\rho_V(g)\otimes\rho_W(g)$ は積を保つ。$1$ は恒等写像に移り、$g^{-1}$ の像が逆写像なので、これは群準同型である。
有限次元で基底を選ぶと、双対表現では $g$ は $\rho(g)$ の逆行列の転置 ${}^t\rho(g)^{-1}$ で作用し、テンソル積では 2 つの行列の Kronecker 積で作用する(Web16 §3.1)。ほかに、$\rho$ を部分群 $H\subset G$ に制限すると $H$ の表現(制限)が得られ、準同型 $\varphi\colon G'\to G$ と合成すると $G'$ の表現 $\rho\circ\varphi$ が得られる。
この節では $K=\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ とし、$V$ 上の内積(内積。複素数の場合は第 1 変数について線形な Hermite 内積)を考える。$V$ の表現 $\rho$ について、内積 $\langle\cdot,\cdot\rangle$ が 不変 であるとは、すべての $g\in G$、$v,w\in V$ について $\langle gv,gw\rangle=\langle v,w\rangle$ が成り立つことをいう。
$G$ を有限群、$K=\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$、$V$ を $G$ の $K$ 上の有限次元表現とする。$V$ には不変な内積が存在する。
$V$ の基底を 1 つ選び、その係数の標準内積として内積 $\langle\cdot,\cdot\rangle_0$ を 1 つとる(内積 の例「数ベクトル空間の標準内積」)。$G$ の元で平均して
$$
\langle v,w\rangle:=\frac{1}{\lvert G\rvert}\sum_{h\in G}\langle hv,hw\rangle_0
$$
とおく。各項 $\langle hv,hw\rangle_0$ は $v$ について線形($h$ が線形なので)、共役対称で、$\langle hv,hv\rangle_0\ge0$ なので、$\langle\cdot,\cdot\rangle$ も第 1 変数について線形、共役対称、$\langle v,v\rangle\ge0$ を満たす。$\langle v,v\rangle=0$ なら、非負の項の和が $0$ なので各項が $0$ で、とくに $h=1$ の項から $\langle v,v\rangle_0=0$、よって $v=0$ である。したがって $\langle\cdot,\cdot\rangle$ は内積である。不変性は、$g\in G$ を固定すると $h\mapsto hg$ が $G$ の全単射であることから
$$
\langle gv,gw\rangle=\frac{1}{\lvert G\rvert}\sum_{h\in G}\langle hgv,hgw\rangle_0=\frac{1}{\lvert G\rvert}\sum_{h'\in G}\langle h'v,h'w\rangle_0=\langle v,w\rangle
$$
となる($h'=hg$ と置き換えた)。$\square$
不変な内積に関する正規直交基底で書くと、各 $\rho(g)$ はユニタリ行列($K=\mathbb{R}$ なら直交行列)になる。この平均の手法が、次の完全可約性の証明の要である。
$G$ を有限群、$K=\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$、$V$ を $G$ の $K$ 上の有限次元表現とする。
1:thm-group-representation-invariant-inner-product の不変な内積をとり、$W':=W^{\perp}=\{v\in V\mid\text{すべての }w\in W\text{ で }\langle v,w\rangle=0\}$ とおく。$v\in W^{\perp}$、$w\in W$、$g\in G$ とすると、不変性と $g^{-1}w\in W$ から
$$
\langle gv,w\rangle=\langle g^{-1}gv,g^{-1}w\rangle=\langle v,g^{-1}w\rangle=0
$$
なので $gv\in W^{\perp}$ であり、$W^{\perp}$ は不変である。$W$ の基底 $w_1,\dots,w_k$ をとると、$W^{\perp}$ は線形写像 $V\to K^k$、$v\mapsto(\langle v,w_1\rangle,\dots,\langle v,w_k\rangle)$ の核なので、次元定理(線形代数学 の記事の定理「次元定理」)により $\dim W^{\perp}\ge\dim V-k$ である。また $v\in W\cap W^{\perp}$ なら $\langle v,v\rangle=0$ で $v=0$ である。よって $\dim(W+W^{\perp})=\dim W+\dim W^{\perp}\ge\dim V$ となり、$V=W\oplus W^{\perp}$ である。
2:$\dim V$ についての帰納法で示す。$V$ が既約ならそれ自身が直和である。既約でなければ $0\neq W\neq V$ となる不変部分空間 $W$ があり、1 により $V=W\oplus W'$ で、$W,W'$ はどちらも $0$ でなく $\dim V$ より次元が小さい不変部分空間である。帰納法の仮定により $W$ と $W'$ はそれぞれ既約な部分表現の直和なので、$V$ もそうである。$\square$
thm-group-representation-complete-reducibility の 1 は、$K$ が標数 $0$ の体、より一般に標数が $\lvert G\rvert$ を割らない体でも成り立つ(Maschke の定理、Web16 Theorem 1.2.1)。そこでは内積の代わりに、$V$ から $W$ へのベクトル空間としての射影 $\pi$ を 1 つとり、$\frac{1}{\lvert G\rvert}\sum_{g}g\,\pi\,g^{-1}$ と平均して表現の射である射影を作る。群環の言葉では、「$K[G]$ が半単純環であることと、$K$ の標数が $\lvert G\rvert$ を割らないことは同値」という形になり、証明は 半単純環 の定理「Maschke の定理」にある(群環 の定理「Maschke の定理」も参照)。標数が $\lvert G\rvert$ を割る場合や $G$ が無限群の場合には、完全可約性は成り立たないことがある(ex-group-representation-modular、ex-group-representation-integers)。
$V,W$ を $G$ の $K$ 上の既約表現とする。
1:$f\neq0$ とする。$\ker f$ は $V$ の不変部分空間であり($f(v)=0$ なら $f(gv)=gf(v)=0$)、$f\neq0$ なので $V$ と異なるから、$V$ の既約性により $\ker f=0$ である。像 $f(V)$ は $W$ の不変部分空間で($gf(v)=f(gv)$)、$0$ でないので、$W$ の既約性により $f(V)=W$ である。よって $f$ は全単射で、表現の同型である。
2:$f\colon V\to V$ を表現の射とする。$V\neq0$ は有限次元で $K$ は代数閉体なので、$f$ の固有多項式は $K$ に根 $\lambda$ をもち、$\lambda$ は $f$ の固有値である。$\lambda\,\mathrm{id}_V$ は表現の射なので、$f-\lambda\,\mathrm{id}_V$ も表現の射であり、固有ベクトルを $0$ に送るので同型でない。1 により $f-\lambda\,\mathrm{id}_V=0$、すなわち $f=\lambda\,\mathrm{id}_V$ である。$\square$
この補題は、群環上の加群の言葉では 単純加群 の定理「Schur の補題」と命題「代数閉体上の Schur の補題」であり、表現の言葉では Web16 Theorem 2.1.1 にある。2 で代数閉体の仮定は外せない(ex-group-representation-real-rotation)。
$G$ を可換群、$K$ を代数閉体とする。$G$ の $K$ 上の有限次元の既約表現は、すべて次数 $1$ である。
$V$ を有限次元の既約表現とし、$h\in G$ を固定する。$G$ は可換なので、すべての $g$ について $\rho(h)\rho(g)=\rho(hg)=\rho(gh)=\rho(g)\rho(h)$ であり、$\rho(h)$ は表現の射である。thm-group-representation-schur の 2 により $\rho(h)=\lambda_h\,\mathrm{id}_V$($\lambda_h\in K$)である。すると $V$ のどの部分空間も、すべての $\rho(h)$ で保たれるので不変部分空間である。$V$ は既約なので、$0$ と $V$ 以外の部分空間をもたず、$\dim V=1$ である。$\square$
有限可換群 $G$ の $\mathbb{C}$ 上の有限次元表現は、thm-group-representation-complete-reducibility とこの系により 1 次元の表現の直和に分かれる。行列で言えば、互いに可換な有限個の行列 $\rho(g)$ が、ある基底で同時に対角行列になる(既約表現が次数 $1$ であることは Web16 Corollary 2.1.7 にもある)。$G=\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の場合、1 次元表現は生成元 $1\bmod n$ の像 $\lambda\in\mathbb{C}^\times$ で決まり、$\lambda^n=1$ なので $\lambda=\zeta^r$($0\le r\le n-1$)と書けるから、ex-group-representation-one-dimensional の $n$ 個に限られる。
$V$ を $G$ の $K$ 上の有限次元表現とする。関数 $\chi_V\colon G\to K$、$\chi_V(g):=\operatorname{tr}\rho(g)$ を $V$ の 指標(character)という。
$V,W$ を $G$ の有限次元表現とする。
1:$\rho(1)=\mathrm{id}_V$ の跡は $\dim V$ 個の $1$ の和である。2:跡は相似で変わらない($\operatorname{tr}(PAP^{-1})=\operatorname{tr}A$)ので、$\operatorname{tr}\rho(hgh^{-1})=\operatorname{tr}\bigl(\rho(h)\rho(g)\rho(h)^{-1}\bigr)=\operatorname{tr}\rho(g)$ である。3:$V\oplus W$ の基底を $V$ の基底と $W$ の基底を並べてとると、$g$ の行列はブロック対角 $\begin{pmatrix}\rho_V(g)&O\\O&\rho_W(g)\end{pmatrix}$ で、その跡は 2 つの跡の和である。4:同型 $f\colon V\to W$ について $\rho_W(g)=f\rho_V(g)f^{-1}$ なので、2 と同じく跡は等しい。$\square$
$S_3$ の $\mathbb{C}$ 上の既約表現は、自明表現・符号表現・ex-group-representation-s3 の 2 次元表現 $W$ の 3 つであり($1^2+1^2+2^2=6=\lvert S_3\rvert$。実数体上の同じ主張は Web16 Example 2.1.6)、その指標は共役類 $\{1\}$、互換、長さ $3$ の巡回置換の上で次の値をとる(Web16 Example 3.1.2)。$W$ の値は ex-group-representation-s3 の行列の跡 $2$、$-1+1=0$、$0+(-1)=-1$ である。
| $1$ | $(1\,2)$ | $(1\,2\,3)$ | |
|---|---|---|---|
| 自明表現 | $1$ | $1$ | $1$ |
| 符号表現 | $1$ | $-1$ | $1$ |
| $W$ | $2$ | $0$ | $-1$ |
$G$ を有限群とする。$\mathbb{C}$ 上の既約表現 $V,W$ の指標について
$$
\frac{1}{\lvert G\rvert}\sum_{g\in G}\chi_V(g)\overline{\chi_W(g)}=\begin{cases}1&(V\text{ と }W\text{ が同値})\\0&(\text{同値でない})\end{cases}
$$
が成り立つ(Web16 Theorem 3.2.3。証明は prop-group-representation-constructions の 2 と thm-group-representation-schur を組み合わせ、$\operatorname{Hom}_G(V,W)$ の次元を平均の射影の跡として計算する)。$G$ が有限アーベル群の場合、既約表現は 1 次元で(cor-group-representation-abelian)指標は準同型 $G\to\mathbb{C}^\times$ そのものなので、これは 巡回群の指標と直交関係 の定理「指標の直交関係」の (1) になる。上の $S_3$ の表でも、たとえば $W$ と符号表現について $\frac16\bigl(2\cdot1+3\cdot0\cdot(-1)+2\cdot(-1)\cdot1\bigr)=0$ である。また、$\mathbb{C}$ 上の既約表現の同値類の個数は $G$ の共役類の個数に等しく、それらの次数を $n_1,\dots,n_r$ とすると $n_1^2+\dots+n_r^2=\lvert G\rvert$ である(群環 の命題「既約表現の個数と共役類の個数」と定理「複素群環の Wedderburn 分解」)。
thm-group-representation-complete-reducibility・rem-group-representation-maschke・thm-group-representation-schur の仮定を外すと、次のように結論が崩れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 標数が $\lvert G\rvert$ を割らない | $\mathbb{F}_p$ 上の $\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$、$k\mapsto\begin{pmatrix}1&k\\0&1\end{pmatrix}$ | 完全可約 |
| 有限群である | $\mathbb{Z}$、$n\mapsto\begin{pmatrix}1&n\\0&1\end{pmatrix}$ | 完全可約 |
| 係数体が代数閉体 | $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ の $\mathbb{R}^2$ 上の $90^\circ$ 回転 | $\operatorname{Hom}_G(V,V)=K\,\mathrm{id}_V$ |
| (次数だけを比べる) | $S_2$ の自明表現と符号表現 | 次数が等しければ同値 |
$p$ を素数とし、$\mathbb{F}_p$ 上で $\rho\colon\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\to\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_p)$ を $\rho(k\bmod p):=\begin{pmatrix}1&k\\0&1\end{pmatrix}$ と定める。これは準同型で、$1$ 次元の不変部分空間は $\mathbb{F}_pe_1$ ただ 1 つである。したがって $\mathbb{F}_pe_1$ には不変な補空間がなく、この表現は既約でも既約表現の直和でもない。この例は「有限群の有限次元表現」を満たすが「係数体の標数が $\lvert G\rvert=p$ を割らない」を満たさず、完全可約性を破る(Web16 Example 1.1.4・1.1.7 は下三角行列で同じ例を与えている)。
$\begin{pmatrix}1&k\\0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&l\\0&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&k+l\\0&1\end{pmatrix}$ であり、成分は $\mathbb{F}_p$ の元なので $k$ を $p$ を法として考えてよく、$\rho$ は準同型である。$\rho(k)=\rho(1)^k$ なので、$1$ 次元の不変部分空間 $\mathbb{F}_pv$ は $\rho(1)=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ の固有ベクトル $v$ で張られる。$\rho(1)$ の固有値は $1$ だけで、$\rho(1)-I_2=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$ の核は $\mathbb{F}_pe_1$ なので、$1$ 次元の不変部分空間は $\mathbb{F}_pe_1$ ただ 1 つである。
任意の体 $K$ 上で $\rho\colon\mathbb{Z}\to\mathrm{GL}_2(K)$、$\rho(n):=\begin{pmatrix}1&n\\0&1\end{pmatrix}$ は準同型である($n$ は $n\cdot1\in K$ と読む)。ex-group-representation-modular と同じく、$1$ 次元の不変部分空間は $\rho(1)$ の固有ベクトルで張られ、$Ke_1$ だけなので、不変な補空間がない。係数体を $\mathbb{C}$ にとってもこの議論は同じなので、この例は「係数体が $\mathbb{C}$」を満たすが「群が有限」を満たさず、完全可約性を破る。$K=\mathbb{C}$ のとき、thm-group-representation-invariant-inner-product の平均が $\mathbb{Z}$ では作れないことが原因である。
$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ の $\mathbb{R}^2$ 上の表現を、生成元を $J=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}$($90^\circ$ 回転、$J^4=I_2$)に送って定める。$J$ は実数の固有値をもたないので $1$ 次元の不変部分空間はなく、この表現は既約である。表現の射は $J$ と可換な実行列であり、それは $aI_2+bJ$($a,b\in\mathbb{R}$)の形の行列全体で、$\mathbb{C}$ と同型な体をなす。
$X=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ について $XJ=\begin{pmatrix}b&-a\\d&-c\end{pmatrix}$、$JX=\begin{pmatrix}-c&-d\\a&b\end{pmatrix}$ なので、$XJ=JX$ は $d=a$、$c=-b$ と同値であり、$X=aI_2-bJ$ の形である。$J^2=-I_2$ なので $aI_2+bJ\mapsto a+bi$ は環の同型を与える(単純加群 の例「反例:Schur の補題の逆と代数閉でない係数体」の 2 と同じ計算)。
$K$ の標数が $2$ でないとし、$S_2=\{1,\tau\}$ の自明表現と符号表現 $\tau\mapsto-1$ を考える。どちらも次数 $1$ である。同型 $f\colon K\to K$ は $0$ でない $c$ による $c$ 倍写像で、射であるためには $c\cdot1=(-1)\cdot c$、すなわち $2c=0$ が要るが、$2\neq0$ なので $c=0$ となり矛盾する。よって 2 つは同値でなく、指標も $\tau$ で $1$ と $-1$ と異なる。この例は「次数が等しい」を満たすが「同値」を満たさない。標数 $2$ では $-1=1$ なので 2 つの表現は一致する。
$G$ が位相群(たとえばLie群)のときは、$\rho\colon G\to\mathrm{GL}(V)$ に連続性を課した表現を考える。コンパクト群では、この記事の有限和による平均の代わりに Haar 測度による積分を使い、有限群に似た離散的な分解が得られる(局所コンパクト群のユニタリ表現 の定理「Peter--Weylの定理」。$\mathrm{SO}(3)$ や $\mathrm{SU}(2)$ はコンパクト群の例である)。局所副有限群の表現では、各ベクトルの安定化群が開部分群であるという条件を課した smooth 表現を考える(局所副有限群の表現 の定義「smooth表現」)。表現の同型類を足し算・掛け算の対象として扱うλ環や、群の作用する多様体上の局所系・旗多様体も、群の表現と深く結びつく。
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