はさみうちの原理(squeeze theorem)とは、数列や関数の値 $f(x)$ を $g(x)\le f(x)\le h(x)$ と上下から挟み、$g$ と $h$ が同じ値 $c$ に近づくならば、$f$ も $c$ に近づくという定理である。挟まれた量が収束することを前もって仮定せずに、収束することと極限の値を同時に結論できるので、直接計算できない極限を上下の評価から求めるのに使われる。数列の極限、関数の極限、片側極限、無限遠での極限のすべてで同じ形に成り立ち、実数の連続性を使わない。誤差を $0$ に近づく量で押さえる形、比を挟む形、上極限・下極限を使って $\varepsilon$ ごとに挟む形などの変形がある。
求めたい量を、同じ値に近づく 2 つの量で上と下から挟めば、挟まれた量もその値に近づく。これが はさみうちの原理 である。高校数学では数列の極限を求める技法として学び(はさみうちと評価の技法 の記事を参照)、積分を和で評価する問題、Wallis の公式や Stirling の公式、曲線の長さや面積を表す関数の微分など、多くの場面で「最後のひと押し」として使われる。
この原理の強みは、挟まれた量が収束することを前もって仮定せずに、収束することとその極限の値を同時に結論できる点にある。極限を直接計算できない量でも、計算しやすい上下の評価さえ見つかれば極限が分かる。
この記事では、数列・関数の極限($x\to a$、片側極限、$x\to\pm\infty$)を一つの形にまとめたはさみうちの原理(thm-sqzth-main)を述べて証明し、片側だけの評価、$\varepsilon$ ごとに挟む形(thm-sqzth-epsilon)、比の形を扱う。最後に、仮定を外すと結論が崩れる例を表にまとめる。
数列の極限、$x\to a$ の極限、片側極限、$x\to\infty$ の極限は、どれも「定義域 $D$ の点 $x$ が、$D$ の中を通って $a$ に近づく」形にまとめられる。
$D\subset\mathbb{R}$ とする。
$D$ と $a$ の選び方で、よく使う極限がすべてこの形になる。
| $D$ | $a$ | 表す極限 |
|---|---|---|
| $\mathbb{N}$ | $+\infty$ | 数列の極限 $\lim_{n\to\infty}x_n$ |
| $I\setminus\{a\}$($I$ は $a$ を内部に含む区間) | 実数 $a$ | 関数の極限 $\lim_{x\to a}f(x)$ |
| $I\cap(a,\infty)$ | 実数 $a$ | 右側極限 $\lim_{x\to a+0}f(x)$ |
| $(R,\infty)$ | $+\infty$ | $\lim_{x\to\infty}f(x)$ |
集積点を考えるのは、$D\cap V$ が空でないことを保証するためである。これにより極限はあればただ 1 つになる。実際、$c,c'$ がともに極限なら、どの $\varepsilon>0$ についても $D\cap V$ の点 $x$ で $\lvert c-c'\rvert\le\lvert c-f(x)\rvert+\lvert f(x)-c'\rvert<2\varepsilon$ となるので、$c=c'$ である(2 つの穴あき近傍の共通部分はまた穴あき近傍であり、半径の小さいほう、または $R$ の大きいほうをとればよい)。
$D\subset\mathbb{R}$、$a$ を $D$ の集積点($a=\pm\infty$ も許す)、$f,g,h\colon D\to\mathbb{R}$ とする。$a$ のある穴あき近傍 $V_0$ があって
$$
g(x)\le f(x)\le h(x)\qquad(x\in D\cap V_0)
$$
が成り立ち、$\displaystyle\lim_{x\to a,\,x\in D}g(x)=\lim_{x\to a,\,x\in D}h(x)=c$($c\in\mathbb{R}$)ならば、$\displaystyle\lim_{x\to a,\,x\in D}f(x)=c$ である。
$\varepsilon>0$ をとる。極限の定義により、$a$ の穴あき近傍 $V_1,V_2$ があって、$x\in D\cap V_1$ なら $\lvert g(x)-c\rvert<\varepsilon$、$x\in D\cap V_2$ なら $\lvert h(x)-c\rvert<\varepsilon$ となる。$V:=V_0\cap V_1\cap V_2$ はまた $a$ の穴あき近傍である。$x\in D\cap V$ ならば
$$
c-\varepsilon< g(x)\le f(x)\le h(x)< c+\varepsilon
$$
なので $\lvert f(x)-c\rvert<\varepsilon$ である。よって $f$ の極限は $c$ である。$\square$
$D=\mathbb{N}$、$a=+\infty$ の場合が 数列の極限 の記事の定理「はさみうちの原理」であり、$D=I\setminus\{a\}$ の場合が関数の極限のはさみうちである(Leb26 Lemma 2.2.1、p. 61 と Corollary 3.1.11、p. 118)。不等式は $a$ の近く(数列なら十分先の番号)だけで成り立てばよく、$x=a$ での値は関係しない。
$D$、$a$、$V_0$ は thm-sqzth-main と同じとする。
1:$c-h(x)\le f(x)\le c+h(x)$ であり、両側の極限はともに $c$ なので、thm-sqzth-main による。2:$M$ を任意にとる。$a$ の穴あき近傍 $V_1$ があって $x\in D\cap V_1$ なら $g(x)>M$ となる。$x\in D\cap V_0\cap V_1$ では $f(x)\ge g(x)>M$ である。$-\infty$ の場合は $-f$ に当てはめればよい。$\square$
2 では上から押さえる量は要らない。$+\infty$ に発散させるには、下から押さえる量が発散すれば十分だからである。1 は「誤差の大きさを $0$ に近づく量で押さえる」形で、実際の証明ではこの形で使うことが多い。値が実数でなく距離空間 $Y$ にある写像 $f\colon D\to Y$ でも、$d(f(x),c)\le h(x)$、$h(x)\to0$ ならば $f(x)\to c$ が同じ証明で成り立つ。たとえば $\mathbb{R}^m$ の点列 $(p_n)$ について $\|p_n-q\|\le\varepsilon_n\to0$ ならば $p_n\to q$ である。
$g$ と $h$ が $c$ に近づくと、両者のあいだの幅 $h(x)-g(x)$ は $0$ に近づき、その狭い帯は $c$ のまわりに集まる。$f$ のグラフはこの帯の中に閉じ込められているので、どれほど激しく振動していても、帯と一緒に $c$ に吸い寄せられる。$x\sin\frac1x$(ex-sqzth-xsin)はその典型で、$\sin\frac1x$ は $x\to0$ で極限をもたないのに、振幅 $\lvert x\rvert$ の帯に閉じ込められるために $0$ に収束する。
thm-sqzth-main の証明は、不等式と三角不等式しか使っていない。上限の存在のような実数の連続性は使わないので、有理数の範囲でもそのまま成り立つ。極限の値 $c$ が、$g$ と $h$ の極限として先に分かっているからである。これに対して、単調収束定理 のように極限の値を知らずに収束を結論する定理は、実数の連続性なしには成り立たない。はさみうちの原理は「極限の候補が分かっているときに、それが本当に極限であることを示す道具」であり、極限の候補を見つける道具ではない。
$x\ne0$ で $\lvert\sin\frac1x\rvert\le1$ なので、$\bigl\lvert x\sin\frac1x\bigr\rvert\le\lvert x\rvert$ である。$\lvert x\rvert\to0$($x\to0$)なので、cor-sqzth-one-side の 1 により $\displaystyle\lim_{x\to0}x\sin\frac1x=0$ である。一方 $\sin\frac1x$ 自身は $x\to0$ で極限をもたない($x=\frac1{n\pi+\pi/2}$ に沿うと値が $(-1)^n$ になる)。
$0<\lvert x\rvert<\frac\pi2$ で $\cos x<\frac{\sin x}x<1$ が成り立つ(扇形と三角形の面積の比較による。sin x/xの極限 の記事を参照)。$\cos$ は連続で $\cos0=1$ なので、thm-sqzth-main により $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin x}x=1$ である。ここでは $D=\mathbb{R}\setminus\{0\}$、$V_0=V_{\pi/2}(0)$ としている。
$n\ge2$ で $h_n:=\sqrt[n]n-1\ge0$ とおく。二項定理により
$$
n=(1+h_n)^n\ge1+nh_n+\frac{n(n-1)}2h_n^2\ge\frac{n(n-1)}2h_n^2
$$
なので $0\le h_n\le\sqrt{\frac2{n-1}}$ である。右辺は $0$ に収束するので、はさみうちの原理により $h_n\to0$、すなわち $\sqrt[n]n\to1$ である。
$I_n:=\int_0^{\pi/2}\sin^nx\,dx$($n\ge0$)とおく。$0\le\sin x\le1$ なので $I_{n+1}\le I_n$ であり、$I_n>0$ である。部分積分により、$n\ge1$ で
$$
I_{n+1}=\int_0^{\pi/2}\sin^nx\,\sin x\,dx=\Bigl[-\sin^nx\cos x\Bigr]_0^{\pi/2}+n\int_0^{\pi/2}\sin^{n-1}x\cos^2x\,dx=n(I_{n-1}-I_{n+1})
$$
となり、$I_{n+1}=\frac n{n+1}I_{n-1}$ を得る。$I_{n+1}\le I_n\le I_{n-1}$ を $I_{n+1}$ で割ると
$$
1\le\frac{I_n}{I_{n+1}}\le\frac{I_{n-1}}{I_{n+1}}=\frac{n+1}n
$$
であり、右端は $1$ に収束するので $\frac{I_n}{I_{n+1}}\to1$ である。この比の極限が Wallis の公式と Stirlingの公式 の定数を決める決め手になる。
$f$ を区間 $I$ で連続な関数、$a\in I$ とし、$F(x):=\int_a^xf(t)\,dt$ とおく。$x\in I$ と $h>0$($x+h\in I$)に対し、$[x,x+h]$ での $f$ の最小値 $m(h)$ と最大値 $M(h)$ をとる(最大値・最小値の定理)。$m(h)\le f(t)\le M(h)$ を $x$ から $x+h$ まで積分して $h$ で割ると
$$
m(h)\le\frac{F(x+h)-F(x)}h\le M(h)
$$
である。$m(h)=f(c_h)$、$M(h)=f(d_h)$ となる $c_h,d_h\in[x,x+h]$ は $h\to+0$ で $x$ に近づくので、$f$ の連続性から $m(h),M(h)\to f(x)$ であり、はさみうちの原理により右側の微分係数は $f(x)$ になる。$h<0$ も同様である。これは 微分積分学の基本定理 の定理「積分の上端についての微分」の証明の骨格であり、確率密度関数や極座標の面積の議論でも同じ形が現れる。
$x\ge0$ では $e^x=\sum_{k=0}^\infty\frac{x^k}{k!}$ の各項が $0$ 以上なので $e^x\ge\frac{x^2}2$ であり、$x>0$ で $\frac{e^x}x\ge\frac x2$ となる。$\frac x2\to+\infty$ なので、cor-sqzth-one-side の 2 により $\frac{e^x}x\to+\infty$($x\to\infty$)である。
挟む量が 1 組では足りず、許す誤差 $\varepsilon$ ごとに挟み方を変えたいことがある。上極限・下極限(上極限と下極限)を使うと、この形も一つの定理になる。
$(x_n)$ を実数列、$c\in\mathbb{R}$ とする。どの $\varepsilon>0$ に対しても、実数列 $(a^\varepsilon_n)$、$(b^\varepsilon_n)$ と番号 $N_\varepsilon$ があって、$n\ge N_\varepsilon$ で $a^\varepsilon_n\le x_n\le b^\varepsilon_n$ が成り立ち、
$$
\liminf_{n\to\infty}a^\varepsilon_n\ge c-\varepsilon,\qquad\limsup_{n\to\infty}b^\varepsilon_n\le c+\varepsilon
$$
であるとする。このとき $x_n\to c$ である。
上極限と下極限 の記事の命題「順序保存性と有限個の変更」により、$\limsup x_n\le\limsup b^\varepsilon_n\le c+\varepsilon$、$\liminf x_n\ge\liminf a^\varepsilon_n\ge c-\varepsilon$ である。$\varepsilon>0$ は任意なので $\limsup x_n\le c\le\liminf x_n$ となる。一方、各 $N$ で $\inf_{n\ge N}x_n\le\sup_{n\ge N}x_n$ なので $\liminf x_n\le\limsup x_n$ である。よって $\liminf x_n=\limsup x_n=c$ であり、同じ記事の定理「上極限・下極限による収束判定」により $x_n\to c$ である。$\square$
$a^\varepsilon_n,b^\varepsilon_n$ が $\varepsilon$ によらず、ともに $c$ に収束する場合が、数列の場合の thm-sqzth-main である。次の例のように、挟む量の極限が $c$ そのものではなく $c\pm\varepsilon$ でしかないときに、この形が役に立つ。
$a_n\to c$ ならば、平均 $\sigma_n:=\frac{a_1+\dots+a_n}n$ も $c$ に収束する。$\varepsilon>0$ をとり、$k>N$ で $\lvert a_k-c\rvert<\varepsilon$ となる $N$ を選んで $A:=\sum_{k=1}^N\lvert a_k-c\rvert$ とおく。$n>N$ なら
$$
\lvert\sigma_n-c\rvert\le\frac1n\sum_{k=1}^N\lvert a_k-c\rvert+\frac1n\sum_{k=N+1}^n\lvert a_k-c\rvert\le\frac An+\varepsilon
$$
なので、$a^\varepsilon_n:=c-\varepsilon-\frac An$、$b^\varepsilon_n:=c+\varepsilon+\frac An$ で挟める。これらの極限は $c\mp\varepsilon$ なので、thm-sqzth-epsilon により $\sigma_n\to c$ である。ここでは $N$ と $A$ が $\varepsilon$ に依存するので、この評価から $\varepsilon$ によらない 1 組の挟む数列が直接に得られるわけではない。
漸近的な大きさを比べるときは、比を挟む。正の数列 $(x_n)$、$(y_n)$ について、十分先の $n$ で $\alpha_n\le\frac{x_n}{y_n}\le\beta_n$、$\alpha_n\to1$、$\beta_n\to1$ ならば、thm-sqzth-main により $\frac{x_n}{y_n}\to1$、すなわち $x_n$ と $y_n$ は漸近的に等しい($x_n\sim y_n$)。ex-sqzth-wallis はこの形で、Stirling の公式の証明(Stirlingの公式)や階乗の大きさの見積もりも、最後は比を $e^{\pm1/(12n)}$ のような $1$ に近づく量で挟んで結論する。差 $x_n-y_n$ ではなく比を挟むのは、$x_n$ と $y_n$ がともに大きくなるとき、差は $0$ に近づかなくても比は $1$ に近づきうるからである。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 上下の極限が等しい | $a_n=0$、$b_n=1$、$x_n=\frac{1+(-1)^n}2$ | $(x_n)$ が収束すること |
| 不等式が $a$ の近くのすべての点で成り立つ | $\mathbb{Q}$ 上でだけ $0\le f\le0$ となる $f=\mathbf{1}_{\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}}$ | $\lim_{x\to0}f(x)$ が存在すること |
| 上からも押さえる | $x_n=n\ge0$ で下の量 $0$ は $0$ に収束 | $x_n\to0$ |
もう一つ、狭い意味の不等号は極限で保たれないことにも注意する。$a_n< x_n< b_n$ から結論できるのは $\lim a_n\le\lim x_n\le\lim b_n$ までで、$x_n=\frac1n>0$ の極限は $0$ である(数列の極限 の記事の命題「極限は大小関係を保つ」の後の注意)。
英語では squeeze theorem、squeeze lemma(Leb26 Lemma 2.2.1、p. 61)、sandwich theorem などと呼ばれる。thm-sqzth-main の証明は、「穴あき近傍 2 つの共通部分がまた穴あき近傍である」ことしか使っていない。したがって、有向集合で添字づけられたネットの極限や、一般の位相空間の点に近づくときの極限でも、値が実数であれば同じ証明で成り立つ(上極限と下極限 の記事の注意「有向集合で添字づけられたネット」も参照)。
数列の収束を示す方法は大きく 2 つに分かれる。極限の候補 $c$ が分かっているときは、$\lvert x_n-c\rvert$ を $0$ に近づく量で押さえる(cor-sqzth-one-side の 1)。候補が分からないときは、単調収束定理 や Cauchy列 の判定法のように、実数の連続性に基づく定理で存在だけを示す。両者を組み合わせ、まず存在を示してから極限の満たす式で値を決め、最後にはさみうちで誤差を評価する、という流れは解析学でよく現れる。
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