有理関数の積分

同義語:部分分数分解による積分integration of rational functions

概要

有理関数の積分(integration of rational functions)とは、多項式の商 $\frac{P(x)}{Q(x)}$ の原始関数を求める計算であり、分母の根を含まない区間の上で答えは有理関数・$\log$・$\arctan$ で必ず書ける。手順は、割り算で多項式の部分を除く、分母を 1 次式と判別式が負の 2 次式の冪に分ける、部分分数の形を置く、係数を代入・微分・係数比較で決める、各項を積分する、の 5 段である。分子の次数が分母より低い有理関数の部分分数分解は、代数学の基本定理から存在し、しかも一通りに決まるので、どの方法で係数を求めても同じ結果になる。2 次式の冪は部分積分の漸化式で有理関数と $\arctan$ に帰着する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 有理関数, 多項式の割り算, 置換積分, 部分積分, 対数関数, 逆正接関数

動機

多項式の商 $\frac{P(x)}{Q(x)}$($P,Q$ は実数係数の多項式、$Q\ne0$)を有理関数という。有理関数の積分には、ほかの関数にない強い保証がある。
有理関数の原始関数は、分母の根を含まない区間の上で、有理関数・$\log$・$\arctan$ の組合せで必ず書ける(thm-irf-antiderivative)。
したがって、分母の因数分解が求まれば、迷うのは「書けるかどうか」ではなく「どういう順で手を動かすか」である。標準の手順は次の 5 段である。

  1. 割り算:分子の次数が分母の次数以上なら、割って多項式の部分を取り出す。
  2. 分母の因数分解:実数の範囲で、1 次式と、実数の根をもたない 2 次式の積に分ける。
  3. 分解の形を決める:因数ごとに、置くべき項の形を決める(部分分数分解)。
  4. 係数を決める:代入・係数比較・微分のどれかで未知数を決める。
  5. 各項を積分する:$\log$ と $\arctan$ と有理関数が出る。
    以下では、第 2 段の因数分解が存在し、それが求まれば残りの段が必ず実行でき、部分分数分解が一通りに決まることを証明し、そのあと 7 つの例を易しい順に解く。各例では、次数、分母の因数、分子と分母の導関数の関係のどこに目をつけるか、考えられる手は何か、うまくいかない手はどこで・なぜ詰まるか、それをどう直すか、なぜ効いたかの順に考え、最後に判断の目安を表にまとめる。

定理と証明

以下、$\log$ は自然対数とし、微分積分学の基本定理を次の形で使う:$G$ が $[a,b]$ で微分可能で $G'$ が連続なら $\int_a^bG'(x)\,dx=G(b)-G(a)$ である。
5 段の手順では「部分分数分解のあとの項は 3 つの基本形の積分に帰着する」「分母は 1 次式と 2 次式に分かれる」「置いた形で必ず等式にできる」「係数は一通りに決まる」ことを使う。以下でこれらを示す。

3 つの基本形

部分分数分解のあとに現れる項は、次の 3 種類の積分に帰着する。$\arctan$ は $\tan$ を $\bigl(-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr)$ に制限した関数の逆関数であり、$\arctan$ が微分可能であること(逆関数の微分法)を前提とし、$\theta=\arctan x$ とおくと $x=\tan\theta$ の両辺を $x$ で微分して $1=\frac{\theta'}{\cos^2\theta}$、すなわち $(\arctan x)'=\cos^2\theta=\frac1{1+\tan^2\theta}=\frac1{1+x^2}$ である。

基本の原始関数

$a,p$ を実数、$q>0$、$k\ge2$ を整数とする。
(1) 分母が $0$ にならない区間で、$\displaystyle\int\frac{dx}{x-a}=\log|x-a|$、$\displaystyle\int\frac{dx}{(x-a)^k}=-\frac{1}{(k-1)(x-a)^{k-1}}$。
(2) 実数全体で、$\displaystyle\int\frac{2(x-p)}{(x-p)^2+q^2}\,dx=\log\bigl((x-p)^2+q^2\bigr)$。
(3) 実数全体で、$\displaystyle\int\frac{dx}{(x-p)^2+q^2}=\frac1q\arctan\frac{x-p}q$。
(積分定数は省略した。)

右辺を微分する
  1. $x>a$ では $(\log(x-a))'=\frac1{x-a}$、$x< a$ では $(\log(a-x))'=\frac{-1}{a-x}=\frac1{x-a}$ である。$k\ge2$ では $\bigl((x-a)^{-(k-1)}\bigr)'=-(k-1)(x-a)^{-k}$ である。(2) $(x-p)^2+q^2>0$ なので $\log$ が定義でき、連鎖律(高校数学)により右辺の導関数は被積分関数である。(3) 連鎖律により $\bigl(\frac1q\arctan\frac{x-p}q\bigr)'=\frac1q\cdot\frac1q\cdot\frac{1}{1+\bigl(\frac{x-p}{q}\bigr)^2}=\frac{1}{q^2+(x-p)^2}$ である。$\square$
  1. の $\log|x-a|$ は、$a$ を含まない区間ごとの原始関数である。$a$ をまたぐ区間で原始関数の差をとってはいけない(ex-irf-across-root)。

分母の因数分解

既約因数という言葉を、次の 2 種類の多項式の意味で使う:1 次式 $x-a$($a$ は実数)と、判別式が負の 2 次式 $x^2+bx+c$($b^2-4c<0$)。

実数係数の多項式の分解

1 次以上の実数係数の多項式 $Q$ は、$0$ でない定数 $c$、相異なる既約因数 $q_1,\dots,q_r$、正の整数 $m_1,\dots,m_r$ により
$$ Q=c\,q_1^{m_1}\cdots q_r^{m_r} $$
と書ける。また、相異なる既約因数どうしは、複素数の範囲で共通の根をもたない。

代数学の基本定理から導く

代数学の基本定理(1 次以上の複素数係数の多項式は複素数の根をもつ)を証明せずに引用する(Axl24 4.12)。これを繰り返し使うと、$Q$ は複素数の範囲で 1 次式の積 $c\prod(x-z_l)$ に分かれる。$Q$ の係数は実数なので、$Q(z)=0$ なら両辺の複素共役をとって $Q(\bar z)=0$ である。実数でない根 $z$ があれば $(x-z)(x-\bar z)=x^2-2(\operatorname{Re}z)x+|z|^2$ は実数係数で、判別式は $-4(\operatorname{Im}z)^2<0$ である。$Q$ をこの 2 次式で割った商も実数係数(実数係数の多項式どうしの割り算の商は実数係数)なので、同じ議論を繰り返せば、$Q$ は実数の根に対応する 1 次式と、実数でない根の共役な組に対応する 2 次式の積になる(Axl24 4.16 も同じ結論を述べる)。
後半:既約因数の根は、1 次式 $x-a$ なら実数 $a$ だけ、2 次式なら共役な実数でない 2 数 $z,\bar z$ である。1 次式と 2 次式は根の実・非実が違うので共通の根をもたない。2 つの 2 次式が共通の根 $z$ をもてば $\bar z$ も共通なので、ともに $(x-z)(x-\bar z)$ に等しく、相異なることに反する。$\square$

この分解の根拠である代数学の基本定理は 複素数と方程式:代数学の基本定理 で扱う。

部分分数分解の存在と一意性

部分分数分解

$P,Q$ を実数係数の多項式、$\deg P<\deg Q$ とし、$Q=c\,q_1^{m_1}\cdots q_r^{m_r}$ を thm-irf-factorization の分解とする。このとき、各 $i$ と $1\le k\le m_i$ について $\deg R_{i,k}<\deg q_i$ を満たす実数係数の多項式 $R_{i,k}$ がただ一通りあって
$$ \frac PQ=\sum_{i=1}^r\sum_{k=1}^{m_i}\frac{R_{i,k}}{q_i^k} $$
となる。$R_{i,k}$ は、$q_i$ が 1 次式なら定数、2 次式なら $Bx+C$ の形である。

共通の根をもたない因子に分け、各因子の冪を展開する

存在。 (1) 実数係数の多項式 $Q_1,Q_2$ が複素数の範囲で共通の根をもたなければ、$UQ_1+VQ_2=1$ となる実数係数の多項式 $U,V$ がある。実際、$UQ_1+VQ_2$ の形の $0$ でない多項式のうち次数が最小のもの $D$ をとる。$Q_1$ を $D$ で割った余りは $Q_1-(\text{商})\cdot D$ なのでやはりこの形で、次数は $D$ より小さいから $0$ である。よって $D$ は $Q_1$ を割り切り、同様に $Q_2$ も割り切る。$\deg D\ge1$ なら $D$ の複素数の根が $Q_1,Q_2$ の共通の根になるので、$D$ は $0$ でない定数であり、$D$ で割れば $1$ を得る。
(2) $Q=Q_1Q_2$ で $Q_1,Q_2$ が共通の根をもたないとする。(1) の $U,V$ により $\frac PQ=\frac{P(UQ_1+VQ_2)}{Q_1Q_2}=\frac{PV}{Q_1}+\frac{PU}{Q_2}$ である。$PV$ を $Q_1$ で、$PU$ を $Q_2$ で割った余りを $P_1,P_2$ とすると、$\frac PQ-\frac{P_1}{Q_1}-\frac{P_2}{Q_2}$ は多項式である。一方、この 3 つの分数はどれも分子の次数が分母より小さいので $x\to\infty$ で $0$ に近づく。$0$ に近づく多項式は $0$ なので、$\frac PQ=\frac{P_1}{Q_1}+\frac{P_2}{Q_2}$ である。thm-irf-factorization の後半により $c\,q_1^{m_1}$ と $q_2^{m_2}\cdots q_r^{m_r}$ は共通の根をもたないので、これを繰り返すと、$\frac PQ$ は $\frac{P_i}{q_i^{m_i}}$($\deg P_i< m_i\deg q_i$)の和になる。
(3) $d:=\deg q_i$ とする。$P_i$ を $q_i$ で割り、その商をまた $q_i$ で割る、と繰り返すと、$P_i=R_{i,1}q_i^{m_i-1}+R_{i,2}q_i^{m_i-2}+\cdots+R_{i,m_i}$(各 $R_{i,k}$ は $d$ 次未満)と書ける($\deg P_i< m_id$ なので、$m_i-1$ 回割ったところで商の次数が $d$ 未満になり、それが $R_{i,1}$ である)。$q_i^{m_i}$ で割れば $\frac{P_i}{q_i^{m_i}}=\sum_{k=1}^{m_i}\frac{R_{i,k}}{q_i^k}$ である。
一意性。 2 通りの表し方の差をとると、$\sum_{i,k}\frac{S_{i,k}}{q_i^k}=0$($\deg S_{i,k}<\deg q_i$)を得る。$S_{i,k}$ がすべて $0$ であることを示せばよい。そうでないとして、$S_{i,k}\ne0$ となる $i$ を 1 つ固定し、そのような $k$ の最大値を $m$ とする。$E:=\prod_{l\ne i}q_l^{m_l}$ とおき、等式に $q_i^mE$ を掛けると、$S_{i,m}E$ 以外の項はすべて多項式で $q_i$ で割り切れる($k< m$ の項は $q_i^{m-k}$ を、$l\ne i$ の項は $q_i^m$ を因子にもつ)。よって $S_{i,m}E=q_iW$ となる多項式 $W$ がある。$q_i$ の複素数の根 $z$ を代入すると $S_{i,m}(z)E(z)=0$ で、thm-irf-factorization の後半により $E(z)\ne0$ なので $S_{i,m}(z)=0$ である。$q_i$ が 1 次式なら $S_{i,m}$ は根をもつ定数なので $0$ である。$q_i$ が 2 次式なら $z$ は実数でなく、$S_{i,m}=\beta x+\gamma$($\beta,\gamma$ は実数)について $\beta z+\gamma=0$ の虚部から $\beta\operatorname{Im}z=0$、よって $\beta=0$、$\gamma=0$ である。いずれも $S_{i,m}\ne0$ に反する。$\square$

部分分数分解で数列の一般項を求める使い方は Fibonacci数の母関数 で扱う。
一意性から、「どの方法で係数を求めても同じ答えになる」ことと、「式の対称性から係数の関係が分かる」こと(例 7)が従う。また未知数の個数は $\sum_im_i\deg q_i=\deg Q$ であり、例 5 の (b) のように個数が合わない形は最初から誤りである。

係数の求め方

代入と微分による係数の決定

thm-irf-partial-fractions の状況で考える。
(1) 実数 $a$ が $Q$ の $m$ 重の根で、$Q=(x-a)^mQ_1$($Q_1(a)\ne0$)とし、分解の中の $\frac{A_k}{(x-a)^k}$($1\le k\le m$)の係数を $A_k$ とする。$g:=\frac P{Q_1}$ とおくと、$0\le j\le m-1$ について
$$ A_{m-j}=\frac{g^{(j)}(a)}{j!} $$
である。特に $m=1$ なら $A_1=\frac{P(a)}{Q_1(a)}$(隠す方法)。
(2) 2 次の既約因数 $q$ が $Q$ にちょうど 1 回現れ、$Q=qQ_2$ とし、分解の中の $\frac{Bx+C}{q}$ の係数を $B,C$ とする。$q$ の複素数の根 $z$ について $Bz+C=\frac{P(z)}{Q_2(z)}$ であり、この両辺の実部と虚部を比べると $B,C$ が決まる。

掛けてから代入する
  1. 分解の両辺に $(x-a)^m$ を掛けると、$a$ の近くで
    $$ g(x)=\sum_{k=1}^mA_k(x-a)^{m-k}+(x-a)^mh(x) $$
    となる。ここで $h$ は分解の残りの項の和で、分母は $x=a$ で $0$ にならないので、$h$ は $a$ の近くで何回でも微分できる。$(x-a)^mh(x)$ を $j$ 回($j< m$)微分すると、Leibnizの公式(積の高階導関数)により各項に $(x-a)^{m-i}$($0\le i\le j$、$m-i\ge1$)が因子として残るので、$x=a$ で $0$ である。また $\sum_kA_k(x-a)^{m-k}$ を $j$ 回微分して $x=a$ とおくと、$(x-a)^j$ の項 $A_{m-j}(x-a)^j$ だけが $j!\,A_{m-j}$ を残す。よって $g^{(j)}(a)=j!\,A_{m-j}$ である。
  2. 分解の両辺に $Q$ を掛けると、残りの項の分母はすべて $Q_2$ を割り切るので、$P=(Bx+C)Q_2+qW$($W$ は多項式)という多項式の恒等式を得る。多項式の恒等式は複素数を代入しても成り立つので、$x=z$ とおくと $q(z)=0$ から $P(z)=(Bz+C)Q_2(z)$ である。thm-irf-factorization の後半により $Q_2(z)\ne0$ なので主張を得る。$z$ は実数でないので、$Bz+C$ の虚部 $B\operatorname{Im}z$ から $B$ が、次に実部から $C$ が決まる。$\square$

係数比較法と数値代入法が正しい理由は 恒等式と未定係数法 で扱う。
2 次因数が 2 回以上現れる場合にも、同じく「掛けてから代入する」ことで一番高い冪の係数は決まるが、残りは係数比較で求めるのが簡単である。

原始関数の形

有理関数の原始関数

有理関数 $\frac PQ$ の原始関数は、$Q$ の実数の根を含まない各区間の上で、多項式、有理関数、定数倍した $\log|x-a|$、$\log(x^2+bx+c)$、$\arctan(\alpha x+\beta)$ の有限和として書ける。

部分分数の各項を積分する

割り算で多項式の部分を除き、thm-irf-partial-fractions の各項を積分する。$\frac{A}{(x-a)^k}$ は prop-irf-basic の (1) による。$\frac{Bx+C}{(x^2+bx+c)^k}$ では $t:=x+\frac b2$、$\delta:=\sqrt{c-b^2/4}>0$ とおくと、分母は $(t^2+\delta^2)^k$、分子は $Bt+C'$($C':=C-\frac{Bb}2$)となる。$\frac{t}{(t^2+\delta^2)^k}$ の原始関数は $\frac12\log(t^2+\delta^2)$($k=1$)または $-\frac1{2(k-1)(t^2+\delta^2)^{k-1}}$($k\ge2$)である。
$\frac1{(t^2+\delta^2)^k}$ の原始関数を $J_k$ と書く。$J_1=\frac1\delta\arctan\frac t\delta$ である(prop-irf-basic の (3))。$k\ge2$ のとき、
$$ \frac{d}{dt}\frac{t}{(t^2+\delta^2)^{k-1}}=\frac1{(t^2+\delta^2)^{k-1}}-\frac{2(k-1)t^2}{(t^2+\delta^2)^k}=-\frac{2k-3}{(t^2+\delta^2)^{k-1}}+\frac{2(k-1)\delta^2}{(t^2+\delta^2)^k} $$
(2 つ目の等号では $t^2=(t^2+\delta^2)-\delta^2$ を使った)なので、これを整理して積分すると
$$ J_k=\frac{t}{2(k-1)\delta^2(t^2+\delta^2)^{k-1}}+\frac{2k-3}{2(k-1)\delta^2}J_{k-1} $$
を得る。$k$ についての帰納法により、$J_k$ は有理関数と $\arctan\frac t\delta$ の定数倍の和である。$\square$

$k=2$、$\delta=1$ とすると $J_2=\frac{t}{2(t^2+1)}+\frac12\arctan t$ であり、例 6 の結果に一致する。この定理は存在を保証するだけでなく、5 段の手順そのものが証明になっている。

例

例 1(異なる 1 次式の積に分かれる分母)

$$ \int_2^3\frac{x+5}{x^2+x-2}\,dx $$
を求める。
分子は 1 次、分母は 2 次で、分子の次数のほうが低い。分母は $x^2+x-2=(x-1)(x+2)$ と、異なる 1 次式の積に分かれる。積分区間 $[2,3]$ は分母の根 $1,-2$ を含まない。
候補となる手は次のとおりである。(a) 分母を $u$ とおく置換($\frac{f'}{f}$ の形を作る)。(b) 部分分数分解。
(a) 分母の導関数は $2x+1$ である。分子をこれに合わせると $x+5=\frac12(2x+1)+\frac92$ なので
$$ \int\frac{x+5}{x^2+x-2}\,dx=\frac12\log|x^2+x-2|+\frac92\int\frac{dx}{x^2+x-2} $$
となる。第 1 項は片づいたが、第 2 項は分子に $x$ がなく、同じ置換はもう使えない。分子を分母の導関数に合わせる手は「$2x+1$ の定数倍」の部分しか処理できず、残った定数の分子が本当の問題として残る。
(b) 分母が 2 つの異なる 1 次式の積なので
$$ \frac{x+5}{(x-1)(x+2)}=\frac{A}{x-1}+\frac{B}{x+2} $$
とおく。両辺に $(x-1)(x+2)$ を掛けた $x+5=A(x+2)+B(x-1)$ は多項式としての恒等式である。$x=1$ を代入すると $6=3A$、$x=-2$ を代入すると $3=-3B$ なので、$A=2$、$B=-1$ である。よって
$$ \int_2^3\frac{x+5}{x^2+x-2}\,dx=\Bigl[2\log|x-1|-\log|x+2|\Bigr]_2^3=(2\log2-\log5)-(0-\log4)=\log\frac{16}5 $$
である($=1.1631\ldots$)。
$x=1$ の代入は、元の式に $x-1$ を掛けてから $x=1$ とおくのと同じで、$A=\frac{x+5}{x+2}\Big|_{x=1}$ と一行で書ける。分母の因数 $x-1$ を指で隠して、残りに $x=1$ を入れる計算なので、隠す方法と呼ばれることがある。分母が異なる 1 次式の積 $(x-a_1)\cdots(x-a_n)$ で分子の次数が $n$ 未満なら、分子が何であっても $\sum_i\frac{A_i}{x-a_i}$ の形になり、各 $A_i$ は代入 1 回で決まる(prop-irf-coefficients)。(a) の置換だけで終わるのは、分子がちょうど分母の導関数の定数倍のときである。

例 2(分子の次数が分母以上)

$$ \int_2^3\frac{x^3}{x^2-1}\,dx $$
を求める。
分子は 3 次、分母は 2 次で、分子の次数のほうが高い。分母は $(x-1)(x+1)$ である。
候補となる手は次のとおりである。(a) 例 1 と同じく $\frac{A}{x-1}+\frac{B}{x+1}$ とおく。(b) 先に割り算をする。(c) $u=x^2-1$ とおく。
(a) 隠す方法をそのまま使うと、$A=\frac{x^3}{x+1}\Big|_{x=1}=\frac12$、$B=\frac{x^3}{x-1}\Big|_{x=-1}=\frac12$ となり、
$$ \frac{x^3}{x^2-1}\overset{?}{=}\frac{1/2}{x-1}+\frac{1/2}{x+1}=\frac{x}{x^2-1} $$
が得られる。しかし $x=2$ で左辺は $\frac83$、右辺は $\frac23$ であり、等しくない。原因は $x\to\infty$ での振る舞いにある。左辺は $x$ と同じくらいの速さで大きくなるが、$\frac{A}{x-1}+\frac{B}{x+1}$ はどんな $A,B$ でも $0$ に近づく。置いた形そのものが間違っているので、係数をどう選んでも等式にならない。
(b) $x^3=x(x^2-1)+x$ なので
$$ \frac{x^3}{x^2-1}=x+\frac{x}{x^2-1} $$
である。(a) で得た $\frac{x}{x^2-1}$ は、ちょうど割り算の余りの部分であった。隠す方法の計算自体は正しく、商 $x$ を落としていたのである。余りの部分は分子が分母の導関数の $\frac12$ なので
$$ \int_2^3\frac{x^3}{x^2-1}\,dx=\Bigl[\frac{x^2}2+\frac12\log(x^2-1)\Bigr]_2^3=\frac52+\frac12\log\frac83 $$
である($=2.9904\ldots$)。
(c) の置換もこの例では効く。$u=x^2-1$ とおくと $x^3\,dx=x^2\cdot x\,dx=\frac{u+1}2\,du$ なので、$\int_3^8\frac{u+1}{2u}\,du=\frac52+\frac12\log\frac83$ となり、同じ値が出る。
部分分数分解の定理(thm-irf-partial-fractions)は「分子の次数 $<$ 分母の次数」を仮定している。この仮定を満たさないときは、最初に割り算をする。(c) が効いたのは、被積分関数が「$x^2$ の関数 $\times x$」の形(奇関数)だったからで、$\frac{x^3+1}{x^2-1}$ のように形が崩れると (c) は使えないが、(b) はいつでも使える。

例 3(重複する 1 次因数)

$$ \int_2^3\frac{x^2+1}{x(x-1)^2}\,dx $$
を求める。
分子は 2 次、分母は 3 次で、割り算は要らない。分母には $x-1$ が 2 回現れる。
候補となる手は次のとおりである。(a) 因数ごとに 1 項:$\frac Ax+\frac{B}{x-1}$。(b) 重複の分だけ項を増やす:$\frac Ax+\frac{B}{x-1}+\frac{C}{(x-1)^2}$。(c) $\frac Ax+\frac{Bx+C}{(x-1)^2}$。
(a) 両辺に $x(x-1)^2$ を掛けると $x^2+1=A(x-1)^2+Bx(x-1)$ となる。$x=1$ を代入すると左辺は $2$、右辺は $0$ で矛盾する。$\frac Ax+\frac B{x-1}$ を通分すると分母は高々 $x(x-1)$ であり、$x=1$ の近くで $\frac{2}{(x-1)^2}$ のように大きくなる左辺を表せない。(a) も置いた形が足りない。
(c) は正しい等式にできるが、$\frac{Bx+C}{(x-1)^2}=\frac{B}{x-1}+\frac{B+C}{(x-1)^2}$ と分けないと積分できないので、結局 (b) と同じになる。
(b) 両辺に $x(x-1)^2$ を掛けると
$$ x^2+1=A(x-1)^2+Bx(x-1)+Cx $$
である。$x=0$ を代入して $A=1$、$x=1$ を代入して $C=2$。残る $B$ は代入 1 回では出ないので、$x^2$ の係数を比べて $A+B=1$、すなわち $B=0$ である。よって
$$ \int_2^3\frac{x^2+1}{x(x-1)^2}\,dx=\Bigl[\log x-\frac{2}{x-1}\Bigr]_2^3=(\log3-1)-(\log2-2)=\log\frac32+1 $$
である($=1.4054\ldots$)。
因数 $(x-a)^m$ には $\frac{A_1}{x-a}+\cdots+\frac{A_m}{(x-a)^m}$ の $m$ 項を置く。一番高い冪の係数 $A_m$ は隠す方法で出る。残りは係数比較でもよいが、微分でも出る。いまの例では $g(x):=\frac{x^2+1}{x}$(元の式に $(x-1)^2$ を掛けたもの)とおくと、$g(x)=C+B(x-1)+(x-1)^2\cdot\frac Ax$ なので、$x=1$ で微分して $B=g'(1)=\bigl(1-\frac1{x^2}\bigr)\Big|_{x=1}=0$ である(一般形は prop-irf-coefficients)。この例のように係数が $0$ になることもあるが、それは計算の結果であり、最初から項を省いてはいけない。

例 4(実数で因数分解できない 2 次式)

$$ \int_{-1}^1\frac{3x+1}{x^2+2x+5}\,dx $$
を求める。
分母の判別式は $2^2-4\cdot5=-16<0$ なので、分母は実数の根をもたず、実数の範囲では 1 次式に分けられない。平方完成すると $x^2+2x+5=(x+1)^2+4$ である。
候補となる手は次のとおりである。(a) 複素数の範囲で因数分解して部分分数にする。(b) 分子を「分母の導関数の定数倍 $+$ 定数」に分ける。
(a) 分母の根は $-1\pm2i$ である。隠す方法を複素数で使うと
$$ \frac{3x+1}{x^2+2x+5}=\frac{\alpha}{x-(-1+2i)}+\frac{\bar\alpha}{x-(-1-2i)},\qquad\alpha=\frac{3(-1+2i)+1}{4i}=\frac{3+i}2 $$
となり、分解そのものはできる。しかし次に $\int\frac{dx}{x-(-1+2i)}$ を「$\log(x+1-2i)$」とするには複素数の対数を定義しなければならず、実数の範囲の道具では先へ進めない。共役な 2 項を足し戻せば実数の式に戻るが、それは結局 (b) の計算である。
(b) 分母の導関数は $2x+2$ である。$3x+1=\frac32(2x+2)-2$ なので、prop-irf-basic の (2)・(3)($p=-1$、$q=2$)により
$$ \int\frac{3x+1}{x^2+2x+5}\,dx=\frac32\log(x^2+2x+5)-2\cdot\frac12\arctan\frac{x+1}2 $$
である。よって
$$ \int_{-1}^1\frac{3x+1}{x^2+2x+5}\,dx=\frac32(\log8-\log4)-\Bigl(\arctan1-\arctan0\Bigr)=\frac32\log2-\frac\pi4 $$
である($=0.2543\ldots$)。
実数の根をもたない 2 次式 $x^2+bx+c$ が分母のときは、分子を $\beta(2x+b)+\gamma$ と分け、前半は $\log$、後半は平方完成して $\arctan$ にする。$\log$ の部分は分母の導関数を、$\arctan$ の部分は $\frac1{1+t^2}$ を作っているのである。複素数で考える (a) は間違いではなく、$\log$ と $\arctan$ が「複素数の対数の実部と虚部」として一つにまとまることを示しているが、高校の範囲では (b) のほうが速い。

例 5(1 次式と 2 次式が混ざった分母)

$$ \int_0^1\frac{3x^2+2x+3}{(x+1)(x^2+1)}\,dx $$
を求める。
分子は 2 次、分母は 3 次。分母は 1 次式 $x+1$ と、実数の根をもたない 2 次式 $x^2+1$ の積である。分母を展開すると $x^3+x^2+x+1$ で、その導関数は $3x^2+2x+1$ であり、分子とよく似ている。
候補となる手は次のとおりである。(a) 分子を分母の導関数に合わせる($\frac{f'}f$ 型)。(b) $\frac{A}{x+1}+\frac{B}{x^2+1}$ とおく。(c) $\frac{A}{x+1}+\frac{Bx+C}{x^2+1}$ とおく。
(a) 分子 $=(3x^2+2x+1)+2$ なので
$$ \int\frac{3x^2+2x+3}{(x+1)(x^2+1)}\,dx=\log(x^3+x^2+x+1)+2\int\frac{dx}{(x+1)(x^2+1)} $$
となる($[0,1]$ では $x^3+x^2+x+1>0$)。例 1 と同じく、定数の分子をもつ部分が残り、それには部分分数分解が必要である。
(b) 両辺に分母を掛けると $3x^2+2x+3=A(x^2+1)+B(x+1)$ である。$x^2$ の係数から $A=3$、$x$ の係数から $B=2$、定数項から $A+B=3$ となり、$5=3$ で矛盾する。未知数は 2 個、比べる係数は 3 個あり、式が足りない。2 次式の上には定数ではなく 1 次式の分子を置かなければならない。
(c) 両辺に分母を掛けると
$$ 3x^2+2x+3=A(x^2+1)+(Bx+C)(x+1) $$
である。$x=-1$ を代入して $4=2A$、$A=2$。$x^2+1$ の根 $x=i$ を代入すると(恒等式は複素数を代入しても成り立つ)、左辺は $3i^2+2i+3=2i$、右辺は $(Bi+C)(i+1)$ なので、$Bi+C=\frac{2i}{1+i}=\frac{2i(1-i)}2=1+i$、すなわち $B=1$、$C=1$ である(係数比較でも、$x^2$ の係数 $A+B=3$、定数項 $A+C=3$ から同じ値が出る)。よって
$$ \frac{3x^2+2x+3}{(x+1)(x^2+1)}=\frac{2}{x+1}+\frac{x}{x^2+1}+\frac{1}{x^2+1} $$
であり、
$$ \int_0^1\frac{3x^2+2x+3}{(x+1)(x^2+1)}\,dx=2\log2+\frac12\log2+\frac\pi4=\frac52\log2+\frac\pi4 $$
である($=2.5182\ldots$)。(a) の続きを部分分数で計算しても、$\log4+2\bigl(\frac14\log2+\frac\pi8\bigr)$ となって同じ値である。
置く項の未知数の個数は、分母の次数に一致させる(1 次因数 1 つにつき 1 個、2 次因数 1 つにつき 2 個)。(b) はこの数え方で未知数が 1 個足りなかった。係数を決めるときは、実数の根を代入し、2 次因数の分は複素数の根を代入するか、残った係数を比べる。分解が一通りに決まる(thm-irf-partial-fractions)ので、どの方法で求めても同じ答えになる。

例 6(2 次式の 2 乗)

$$ \int_0^1\frac{dx}{(x^2+1)^2} $$
を求める。
分母は実数の根をもたない 2 次式 $x^2+1$ の 2 乗である。分子は定数で、例 4 のような $\log$ の部分はない。
候補となる手は次のとおりである。(a) $u=x^2+1$ とおく。(b) $\frac{1}{x^2+1}$ との差をとって部分積分する。(c) $x=\tan\theta$ とおく。
(a) $du=2x\,dx$ であるが、分子に $x$ がないので $dx=\frac{du}{2x}=\frac{du}{2\sqrt{u-1}}$ となり、$\int\frac{du}{2u^2\sqrt{u-1}}$ という、根号を含むもっと難しい積分に変わってしまう。分子に $x$ があれば($\int\frac{x\,dx}{(x^2+1)^2}=-\frac1{2(x^2+1)}$)この置換で終わるが、定数の分子には効かない。
なお、部分分数分解はこの式には何も新しいことを与えない。$(x^2+1)^2$ に対して置くべき形は $\frac{Bx+C}{x^2+1}+\frac{Dx+E}{(x^2+1)^2}$ で、答えは $B=C=D=0$、$E=1$ という元の式そのものである。問題は分解ではなく、$\frac{1}{(x^2+1)^2}$ の形の項をどう積分するかにある。
(b) 分子に $1=(x^2+1)-x^2$ を入れると
$$ \frac1{(x^2+1)^2}=\frac1{x^2+1}-x\cdot\frac{x}{(x^2+1)^2} $$
である。第 2 項の $\frac{x}{(x^2+1)^2}$ は (a) で積分できた形なので、$F=x$、$G=-\frac1{2(x^2+1)}$ として部分積分すると
$$ \int x\cdot\frac{x}{(x^2+1)^2}\,dx=-\frac{x}{2(x^2+1)}+\frac12\int\frac{dx}{x^2+1} $$
となる。まとめると
$$ \int\frac{dx}{(x^2+1)^2}=\frac{x}{2(x^2+1)}+\frac12\arctan x,\qquad\int_0^1\frac{dx}{(x^2+1)^2}=\frac14+\frac\pi8 $$
である($=0.6426\ldots$)。
(c) の $x=\tan\theta$ でも解ける。$dx=\frac{d\theta}{\cos^2\theta}$、$\frac1{(x^2+1)^2}=\cos^4\theta$ なので $\int_0^{\pi/4}\cos^2\theta\,d\theta=\frac\pi8+\frac14$ となる。この置換の考え方は根号を含む関数の積分で詳しく扱う。
(b) は、冪を 1 つ下げる漸化式を 1 回使ったものである。一般に $\frac1{(t^2+\delta^2)^k}$ の原始関数は、同じ部分積分で $\frac1{(t^2+\delta^2)^{k-1}}$ の原始関数に帰着し、最後は $\arctan$ になる(thm-irf-antiderivative の証明の漸化式)。2 次因数の冪が高い分母では、分解はすぐ終わっても、この漸化式の段で計算量が増える。

例 7(因数分解が見えにくい分母)

$$ \int_0^1\frac{dx}{x^4+1} $$
を求める。
分母 $x^4+1$ はいつも正で、実数の根をもたない。
候補となる手は次のとおりである。(a) 「実数の根がないので因数分解できない」と考え、$u=x^2$ とおいて $\frac1{u^2+1}$ の形を作る。(b) 実数係数の 2 次式 2 つの積に分解する。
(a) $u=x^2$ とおくと $dx=\frac{du}{2\sqrt u}$ なので、$\int_0^1\frac{du}{2\sqrt u\,(u^2+1)}$ となり、根号が入って有理関数でなくなる。分子に $x$ がないので、$u=x^2$ の置換はここでも効かない。そもそも出発点の考えが誤りである。「実数の根がない」から言えるのは「1 次の因数がない」ことだけで、4 次式が実数係数の 2 次式の積に分かれることは妨げない。実際、実数係数の多項式は必ず 1 次式と 2 次式の積に分かれる(thm-irf-factorization)。
(b) 平方の差を作る:
$$ x^4+1=(x^2+1)^2-2x^2=(x^2+\sqrt2\,x+1)(x^2-\sqrt2\,x+1) $$
である。どちらの因数も判別式は $2-4<0$ である。そこで
$$ \frac1{x^4+1}=\frac{Ax+B}{x^2+\sqrt2\,x+1}+\frac{Cx+D}{x^2-\sqrt2\,x+1} $$
とおく。左辺は $x$ を $-x$ に替えても変わらず、そのとき右辺の 2 つの因数は入れ替わるので、分解が一通りであること(thm-irf-partial-fractions)から $C=-A$、$D=B$ である。分母を払うと $1=2(B-\sqrt2A)x^2+2B$ となり($x^3$ と $x$ の項は打ち消す)、$B=\frac12$、$A=\frac1{2\sqrt2}$ を得る。よって
$$ \frac1{x^4+1}=\frac1{2\sqrt2}\Bigl(\frac{x+\sqrt2}{x^2+\sqrt2\,x+1}-\frac{x-\sqrt2}{x^2-\sqrt2\,x+1}\Bigr) $$
である。各項を例 4 と同じく「導関数の倍 $+$ 定数」に分けると、$x^2\pm\sqrt2\,x+1=\bigl(x\pm\frac1{\sqrt2}\bigr)^2+\frac12$ なので
$$ \int\frac{dx}{x^4+1}=\frac1{2\sqrt2}\Bigl(\frac12\log\frac{x^2+\sqrt2\,x+1}{x^2-\sqrt2\,x+1}+\arctan(\sqrt2\,x+1)+\arctan(\sqrt2\,x-1)\Bigr) $$
となる。$x=0$ では括弧の中は $0+\frac\pi4-\frac\pi4=0$ である。$x=1$ では、$\frac{2+\sqrt2}{2-\sqrt2}=(1+\sqrt2)^2$ と、$\tan\frac\pi8=\frac{1-\cos(\pi/4)}{\sin(\pi/4)}=\sqrt2-1$、$\tan\frac{3\pi}8=\frac1{\tan(\pi/8)}=\sqrt2+1$ から、括弧の中は $\log(1+\sqrt2)+\frac{3\pi}8+\frac\pi8$ である。よって
$$ \int_0^1\frac{dx}{x^4+1}=\frac{\pi+2\log(1+\sqrt2)}{4\sqrt2} $$
である($=0.8669\ldots$)。$x\to\infty$ では括弧の中は $0+\frac\pi2+\frac\pi2$ に近づくので、広義積分 $\int_0^\infty\frac{dx}{x^4+1}=\frac{\pi}{2\sqrt2}$ も分かる。
手順の第 2 段(因数分解)について定理が保証するのは、1 次式と 2 次式への分解が存在することである。見た目で因数が見えなくても、存在すると分かっているので探す価値がある。ただし分母の根を式で書けるとは限らない(5 次以上では四則と冪根で書けない場合がある。ここでは証明しない)。$x^4+ax^2+b$($x^2$ の 2 次式)に実数の根がなければ $b>0$ で、$a^2<4b$ なら $2\sqrt b-a>0$ なので $(x^2+\sqrt b)^2-(2\sqrt b-a)x^2$ と実数係数の平方の差にできる。$x^4+1$、$x^4+x^2+1=(x^2+1)^2-x^2$ はこの形である。$x^4+x+1$ のような一般の 4 次式では、この手は使えない。係数を決める段では、式の対称性(ここでは $x\mapsto-x$)と分解の一意性を組み合わせると未知数が減る。

反例・注意

反例:分母の根をまたいで原始関数の差をとる

$\frac1{x^2-1}=\frac12\Bigl(\frac1{x-1}-\frac1{x+1}\Bigr)$ から、原始関数 $F(x)=\frac12\log\Bigl|\frac{x-1}{x+1}\Bigr|$ が得られる。これを使って $\int_0^2\frac{dx}{x^2-1}=F(2)-F(0)=\frac12\log\frac13$ とするのは誤りである。被積分関数は $x=1$ で定義されず、$0<\varepsilon<1$ について $\int_0^{1-\varepsilon}\frac{dx}{x^2-1}=F(1-\varepsilon)-F(0)=\frac12\log\frac{\varepsilon}{2-\varepsilon}$ は $\varepsilon\to+0$ で $-\infty$ に発散するので、この積分は広義積分としても存在しない。$F$ は $x=1$ で定義されず、微分積分学の基本定理の「区間全体で微分可能」という仮定を満たさない。この反例は「部分分数分解で原始関数が求まれば、どの区間の定積分もその差で求まる」という含意を破る。積分区間に分母の根が入っていないかは、計算の前に確かめる。

補足

判断の目安

例 1〜7 で確かめた範囲で、判断の目安を形ごとにまとめる。どの行でも、積分区間が分母の根を含まないことを最初に確かめる(ex-irf-across-root)。

形最初に試す手駄目なら次の手
分子が分母の導関数の定数倍$u=$ 分母とおく($\log$)—
分子の次数 $\ge$ 分母の次数割り算で多項式を取り出す(例 2)余りの部分を下の行へ
「$x^2$ の式 $\times\,x$」の形$u=x^2$ とおく(例 2 の (c))割り算と部分分数
分母が異なる 1 次式の積隠す方法(例 1)係数比較
$(x-a)^m$ を含む$m$ 項を置き、最高次は隠す方法(例 3)残りは微分か係数比較
判別式が負の 2 次式分子を「導関数の倍 $+$ 定数」に分け、$\log$ と $\arctan$(例 4)—
1 次と 2 次の因数が混在2 次因数には $\frac{Bx+C}{q}$ を置き、未知数の数 $=$ 分母の次数を確認(例 5)複素数の根を代入、または係数比較
2 次因数の冪 $(x^2+bx+c)^k$部分積分で冪を下げる(例 6、$J_k$ の漸化式)$x=\tan\theta$ の置換
$x^4+ax^2+b$ で実数の根がない$(x^2+\sqrt b)^2-(2\sqrt b-a)x^2$ と平方の差にする(例 7)$a^2\ge4b$ なら $x^2$ の 2 次式として $(x^2+\alpha)(x^2+\beta)$ に分ける

迷ったら、thm-irf-antiderivative の証明どおりに 5 段の手順を順に実行すればよい。分母の因数分解が求まれば、残りの段は必ず終わる。速い近道($u=$ 分母、$u=x^2$ など)は、分子と分母の形がうまく合っているときにだけ使える。

関連項目

参考文献

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