エタール射(étale morphism)とは、スキームの射 $f\colon X\to S$ で、局所有限表示・平坦かつ不分岐(各点で $\mathfrak{m}_s\mathcal{O}_{X,x}=\mathfrak{m}_x$ で剰余体の拡大が有限分離)なものをいう。相対次元 $0$ の滑らかな射、局所有限表示の平坦射で $\Omega^1_{X/S}=0$ なものと同値で、局所的には標準エタール射 $\operatorname{Spec}A[t]_g/(f)\to\operatorname{Spec}A$($f$ はモニック、$f'$ は可逆)の形をとる。複素多様体の局所双正則写像の代数版で、代数閉体上の閉点では完備局所環の同型を誘導する。体の有限分離拡大や開埋め込みが例、Frobenius 射や分岐被覆は例でない。エタール位相・エタールコホモロジー・エタール基本群の基礎となる。
前提知識: スキーム, スキームの射, 平坦射, 滑らかな射, Kähler微分, 局所環, 分離拡大
エタール射は、スキームの射のうち「平坦で、しかもファイバーの方向に太さをもたない」ものであり、複素多様体の間の局所双正則写像(逆関数定理が使える写像)の代数幾何における代役である。定義は「平坦射かつ不分岐射かつ局所有限表示」として与えるが、滑らかな射や形式的な持上げの言葉による同値な言い換えがあり、場面に応じて使い分ける。以下、環はすべて可換で単位元をもち、スキームの射 $f\colon X\to S$ に対し $x\in X$ の像を $s=f(x)$、局所環を $\mathcal{O}_{X,x}$、その極大イデアルを $\mathfrak{m}_x$、剰余体を $\kappa(x)$ と書く。
スキームの射 $f\colon X\to S$ が点 $x\in X$ で不分岐(unramified)であるとは、$f$ が $x$ の近傍で局所有限型であり、$s=f(x)$ について次の 2 条件がみたされることをいう。
スキームの射 $f\colon X\to S$ が点 $x\in X$ でエタール(étale)であるとは、$f$ が $x$ の近傍で局所有限表示であり、$x$ で平坦(平坦射。局所準同型 $\mathcal{O}_{S,s}\to\mathcal{O}_{X,x}$ が $\mathcal{O}_{X,x}$ を平坦 $\mathcal{O}_{S,s}$ 加群にする)かつ不分岐であることをいう。すべての点でエタールな射をエタール射(étale morphism)という。$S$ スキーム $X$ が $S$ 上エタールであるとは構造射 $X\to S$ がエタール射であることをいい、環準同型 $A\to B$ がエタールであるとは $\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$ がエタール射であることをいう。
$S$ が局所Noetherスキームなら局所有限表示と局所有限型は同じなので、エタール射とは「局所有限型・平坦・不分岐」な射である。エタール射は定義から準有限(準有限射。ファイバーが離散)であり、局所有限表示なので、あとで述べるように開写像である。
形式的な言い換えのために、次の持上げの性質を用意する。
スキームの射 $f\colon X\to S$ が形式的エタール(formally étale)であるとは、任意のアフィンスキーム $T'$ と $S$ 射 $T'\to S$、および $T'$ の閉部分スキーム $T\subset T'$ でそのイデアル層 $\mathcal{I}$ が $\mathcal{I}^2=0$ をみたすものについて、写像
$$
\operatorname{Hom}_S(T',X)\longrightarrow\operatorname{Hom}_S(T,X),\qquad g\longmapsto g|_T
$$
が全単射であることをいう。全射だけを要求すれば形式的滑らか、単射だけを要求すれば形式的不分岐である。環の言葉では、$A\to B$ が形式的エタールであるとは、任意の $A$ 代数 $C'$ とイデアル $N\subset C'$、$N^2=0$ について、$A$ 代数の準同型 $B\to C'/N$ がちょうど 1 つの $A$ 代数の準同型 $B\to C'$ に持ち上がることである。
スキームの射 $f\colon X\to S$ について次は同値である。
1 と 3 の同値は Grothendieck EGA4 17.6.2、1 と 2 の同値は同 17.6.1 による。1 と 4 の同値は、不分岐と $\Omega^1_{X/S}=0$ の同値(prop-etale-morphism-omega)から従う。Milne Mil80 I.3 は「平坦かつ不分岐」を定義に採り、Stacks Tag 02GU(Morphisms of Schemes, Étale morphisms の節の補題)は局所有限表示の射について 1・2・4 を含む 10 個の条件の同値を示す。Hartshorne Har77 は III 10 の演習と III.10.4 で「滑らかで相対次元 $0$」の形を扱う。本記事では 4 の形の言い換えだけを証明し、それ以外は上の文献に譲る。
$f\colon X\to S$ を局所有限表示な射、$x\in X$、$s=f(x)$ とする。$f$ が $x$ でエタールならば、$x$ のアフィン開近傍 $U=\operatorname{Spec}B$ と $s$ のアフィン開近傍 $V=\operatorname{Spec}A$ で $f(U)\subset V$ となるものがあって、$A\to B$ は標準エタール $A$ 代数である。逆に標準エタール射はエタール射である(prop-etale-morphism-standard-etale)。したがってエタール射とは局所的に標準エタール射のことである。
複素多様体の間の正則写像 $f\colon X\to Y$ が点 $x$ で局所双正則であることは、逆関数定理により、微分 $df_x$ が同型であることと同値である。代数幾何ではこの「微分が同型」を、相対微分形式の層 $\Omega^1_{X/S}$ が $0$ であること(接方向に余分な方向がない=不分岐)と、平坦であること(ファイバーの次元が飛ばず、底の方向に「潰れていない」)とに分けて要求する。標準エタール射 $\operatorname{Spec}A[t]_g/(f)\to\operatorname{Spec}A$ は「$f(t)=0$ を $t$ について解く」写像であり、$f'(t)$ が可逆という条件は陰関数定理の仮定そのものである。ただし Zariski位相は粗すぎるので、エタール射は同相を局所的に与えるわけではない。たとえば $\mathbb{C}$ 上の $\mathbb{G}_m\to\mathbb{G}_m$、$z\mapsto z^2$ は解析的には各点の近傍で 2 枚に分かれた被覆だが、どんな Zariski 開集合上でも切断をもたない。エタール射を「開集合」とみなして位相を作り直したものがエタール位相であり、それによって初めてエタールコホモロジーとエタール基本群が定義される。位相幾何の被覆空間に対応するのは、有限エタール射である。
環の準同型は $\varphi\colon A=k[u,u^{-1}]\to B=k[u,u^{-1}]$、$u\mapsto u^n$ であり、$B$ を $A$ 代数として書くと $B=A[t]/(t^n-u)$($t$ が $B$ の $u$)である。$f(t)=t^n-u$ はモニックなので $B$ は $A$ 上 $1,t,\dots,t^{n-1}$ を基底とする自由加群、特に平坦で有限表示である。導関数は $f'(t)=nt^{n-1}$ で、$n$ は $k$ で可逆、$t$ は $B$ で可逆($t\cdot t^{n-1}u^{-1}=1$)なので $f'(t)$ は $B$ の単元である。したがって $B$ は標準エタール $A$ 代数($g=1$)であり、prop-etale-morphism-standard-etale によりエタールである。
$L$ は $K$ ベクトル空間なので平坦であり、有限次なので有限表示である。よってエタールであることは不分岐であること、すなわち $\Omega^1_{L/K}=0$(prop-etale-morphism-omega)と同値である。$L/K$ が分離的なら原始元定理により $L=K[t]/(h)$、$h$ は分離多項式で $h'(\alpha)\neq0$($\alpha$ は $t$ の像)である。Kähler微分の計算 $\Omega^1_{L/K}=L\,dt/(h'(\alpha)\,dt)$ と $h'(\alpha)\in L^\times$ から $\Omega^1_{L/K}=0$ を得る。逆に $L/K$ が分離的でなければ $\Omega^1_{L/K}\neq0$ であり、したがって $\operatorname{Spec}L\to\operatorname{Spec}K$ はエタールでない。この逆向きは Kähler微分 の記事の命題(分離拡大の微分加群)で証明されているので筋だけ述べる:$K$ の標数は $p>0$ であり、$M$ を $L$ における $K$ の分離閉包とすると $M\neq L$ で $L/M$ は純非分離拡大なので、$L=M'(\beta)$、$\beta\notin M'$、$\beta^p=b\in M'$ となる中間体 $M'$ がとれる。すると $L=M'[t]/(t^p-b)$ から $\Omega^1_{L/M'}=L\,dt/(pt^{p-1}dt)=L\,dt\neq0$ であり、第 1 基本完全列により $\Omega^1_{L/K}\to\Omega^1_{L/M'}$ は全射なので $\Omega^1_{L/K}\neq0$ である。
$k$ を標数 $p>0$ の体とし、$\mathbb{A}^1_k=\operatorname{Spec}k[u]$ の上の $B=k[u][t]/(t^p-t-u)$ を考える。$\operatorname{Spec}B\to\mathbb{A}^1_k$ はエタール射である。実際 $f(t)=t^p-t-u$ はモニックで $f'(t)=pt^{p-1}-1=-1$ は単元なので、$B$ は標準エタール $k[u]$ 代数である。この射は次数 $p$ の有限エタール射で、$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ が $t\mapsto t+1$ で作用する Galois 被覆になる(Artin–Schreier理論)。標数 $p$ では $\mathbb{A}^1$ が単連結(単連結空間)でないことを示す例である。
$k$ を標数 $p>0$ の体とし、$F\colon\mathbb{A}^1_k\to\mathbb{A}^1_k$ を $u\mapsto u^p$ で定める($k$ 上の相対 Frobenius射)。$F$ は有限・平坦($k[u]$ は $k[u^p]$ 上 $1,u,\dots,u^{p-1}$ を基底とする自由加群)で全単射だが、どの点でも不分岐でなく、したがってエタールでない。実際 $B=k[u]$ を $A=k[u^p]=k[v]$ 上の代数 $A[t]/(t^p-v)$ と見ると、$\Omega^1_{B/A}=B\,dt/(pt^{p-1}dt)=B\,dt\neq0$ であり、これはどの点の茎でも $0$ でない。破られるのは不分岐性($\Omega^1=0$)であり、平坦性は保たれている。閉点 $v=a$ のファイバーは $\operatorname{Spec}k[t]/(t^p-a)$ で、$a\in k^p$ なら $\operatorname{Spec}k[t]/((t-a^{1/p})^p)$ という長さ $p$ の太い点になる。
$k$ を体とし、$X=\operatorname{Spec}k[t]/(t^2)\to\operatorname{Spec}k$ を考える。$k[t]/(t^2)$ は $k$ 上 $1,t$ を基底とする自由加群なので平坦かつ有限表示だが、極大イデアル $(t)$ は $0=\mathfrak{m}_k\cdot k[t]/(t^2)$ に一致せず、不分岐でない。$\Omega^1$ で言えば $\Omega^1_{X/k}=(k[t]/(t^2))\,dt/(2t\,dt)$ において $dt$ の像は $0$ でない(標数 $\neq2$ では $k\,dt$、標数 $2$ では $(k[t]/(t^2))\,dt$ と同型)。破られているのは不分岐性で、幾何学的ファイバーが被約(被約スキーム)でないため、thm-etale-morphism-equivalent の条件 2 も破られる。
$k$ を標数 $\neq2$ の体とし、$\pi\colon\mathbb{A}^1_k\to\mathbb{A}^1_k$、$u\mapsto u^2$ を考える。$B=k[u]$ は $A=k[v]$($v=u^2$)上 $A[t]/(t^2-v)$ と書け、$\Omega^1_{B/A}=B\,dt/(2t\,dt)=B/(t)\cong k$ である。したがって $\Omega^1_{B/A}$ の茎が $0$ でないのは $t=0$ の点、すなわち原点だけであり、$\pi$ は原点でエタールでなく(分岐点)、原点を除いた $\mathbb{G}_m\to\mathbb{G}_m$ の部分ではエタール(ex-etale-morphism-mult-group の $n=2$)である。原点のファイバーは $\operatorname{Spec}k[t]/(t^2)$ で太い点である。$\pi$ は平坦($B$ は $A$ 上自由)なので、破られているのは不分岐性だけである。
閉埋め込み $i\colon\operatorname{Spec}k\to\mathbb{A}^1_k=\operatorname{Spec}k[t]$(原点)は不分岐である。実際 $\mathfrak{m}_0=(t)$ の生成するイデアルは $k$ の極大イデアル $0$ に一致し、剰余体の拡大は自明である。しかし $k=k[t]/(t)$ は $k[t]$ 上平坦でない($t$ を掛ける単射 $k[t]\to k[t]$ に $\otimes_{k[t]}k$ を施すと $0$ 写像になる)。したがってエタールでない。この例は、def-etale-morphism で平坦性を落とせないことを示す。一般に、閉埋め込みがエタールになるのは開埋め込みでもあるときに限る。
$A$ を環、$f\in A[t]$ をモニック多項式、$g\in A[t]$ とし、$B=A[t]_g/(f)$ で $f'(t)$ が $B$ の単元であるとする。このとき $A\to B$ はエタールである。
$C=A[t]/(f)$ とおく。$f$ がモニックで次数 $n$ なので、多項式の割り算により $C$ は $1,t,\dots,t^{n-1}$ を基底とする自由 $A$ 加群であり、特に平坦かつ有限表示である。$B=C_g$ は $C$ の局所化なので $C$ 上平坦、よって $B$ は $A$ 上平坦である(平坦性は合成で閉じる。平坦射 の記事の命題(合成と底変換))。また $B=A[t,w]/(f,\,gw-1)$ なので $B$ は $A$ 上有限表示である。残るのは不分岐性、すなわち prop-etale-morphism-omega により $\Omega^1_{B/A}=0$ を示すことである。Kähler微分の基本性質から $\Omega^1_{A[t]/A}=A[t]\,dt$ であり、商 $A[t]\to C$ に対する第 2 基本完全列 $(f)/(f)^2\to\Omega^1_{A[t]/A}\otimes_{A[t]}C\to\Omega^1_{C/A}\to0$ で $(f)/(f)^2$ の生成元 $f$ の像は $df=f'(t)\,dt$ なので $\Omega^1_{C/A}=C\,dt/(f'(t)\,dt)$、さらに局所化と可換なこと $\Omega^1_{C_g/A}=(\Omega^1_{C/A})_g$ から
$$
\Omega^1_{B/A}=B\,dt\big/\bigl(f'(t)\,dt\bigr)
$$
である。$f'(t)$ は $B$ の単元なので $\Omega^1_{B/A}=0$ である。
$f\colon X\to S$ を局所有限型の射、$x\in X$ とする。$f$ が $x$ で不分岐であることと、$\Omega^1_{X/S}$ の $x$ での茎 $(\Omega^1_{X/S})_x$ が $0$ であることは同値である。したがって局所有限型の射 $f$ が不分岐射であることと $\Omega^1_{X/S}=0$ とは同値であり、局所有限表示の平坦射 $f$ がエタール射であることと $\Omega^1_{X/S}=0$ とは同値である。
問題は局所的なので、$s=f(x)$ のアフィン開近傍 $\operatorname{Spec}A$ と $x$ のアフィン開近傍 $\operatorname{Spec}B$ で $A\to B$ が有限型となるものをとり、$x$ に対応する $B$ の素イデアルを $\mathfrak{q}$、$\mathfrak{p}=\mathfrak{q}\cap A$ とする。$\Omega^1_{X/S}|_{\operatorname{Spec}B}$ は $\Omega^1_{B/A}$ に付随する準連接層なので $(\Omega^1_{X/S})_x=(\Omega^1_{B/A})_{\mathfrak{q}}$ である。$B$ は $A$ 上有限型なので $\Omega^1_{B/A}$ は有限生成 $B$ 加群(有限生成加群)であり、Nakayamaの補題により $(\Omega^1_{B/A})_{\mathfrak{q}}=0$ は $\Omega^1_{B/A}\otimes_B\kappa(\mathfrak{q})=0$ と同値である。
次にファイバーへ移る。$k=\kappa(\mathfrak{p})$、$B'=B\otimes_Ak$ とおき、$\mathfrak{q}$ に対応する $B'$ の素イデアルを $\mathfrak{q}'$ とすると、Kähler 微分の底変換 $\Omega^1_{B'/k}=\Omega^1_{B/A}\otimes_BB'$ と $\kappa(\mathfrak{q}')=\kappa(\mathfrak{q})$ により $\Omega^1_{B/A}\otimes_B\kappa(\mathfrak{q})=\Omega^1_{B'/k}\otimes_{B'}\kappa(\mathfrak{q}')$ である。局所環 $R=B'_{\mathfrak{q}'}=\mathcal{O}_{X,x}/\mathfrak{m}_s\mathcal{O}_{X,x}$ の極大イデアルを $\mathfrak{n}$、剰余体を $K=\kappa(x)$ とおくと、$\Omega^1_{R/k}=(\Omega^1_{B'/k})_{\mathfrak{q}'}$ なので上の加群は $\Omega^1_{R/k}\otimes_RK$ に等しい。一方 def-etale-morphism-unramified の条件は「$\mathfrak{n}=0$ かつ $K/k$ が有限分離拡大」である。$R$ は有限型 $k$ 代数 $B'$ の局所化なので Noether環であり、$K$ は有限生成 $k$ 整域 $B'/\mathfrak{q}'$ の分数体、すなわち $k$ 上有限生成な体である。したがって示すべきことは次である:有限型 $k$ 代数の局所化である局所環 $(R,\mathfrak{n},K)$ について、$\Omega^1_{R/k}\otimes_RK=0$ と「$\mathfrak{n}=0$ かつ $K/k$ が有限分離拡大」は同値である。
「$\Leftarrow$」:$R=K$ が $k$ の有限分離拡大なら、ex-etale-morphism-separable-extension の証明の前半により $\Omega^1_{K/k}=0$ である。
「$\Rightarrow$」:$\Omega^1_{R/k}\otimes_RK=0$ とする。$\Omega^1_{R/k}$ は有限生成 $R$ 加群なので Nakayama の補題により $\Omega^1_{R/k}=0$ である。第 1 基本完全列 $\Omega^1_{R/k}\otimes_RK\to\Omega^1_{K/k}\to\Omega^1_{K/R}=0$ から $\Omega^1_{K/k}=0$ を得る。$K$ は $k$ 上有限生成な体なので、Har77 II 8.6A($\dim_K\Omega^1_{K/k}\ge\operatorname{tr.deg}_kK$ で、等号は $K/k$ が分離生成のとき)により $K/k$ は超越次数 $0$ の分離生成拡大、すなわち有限分離拡大である。残るのは $\mathfrak{n}=0$ である。$R'=R/\mathfrak{n}^2$、$\mathfrak{n}'=\mathfrak{n}/\mathfrak{n}^2$ とおくと $\mathfrak{n}'^2=0$ であり、$\Omega^1_{R'/k}$ は $\Omega^1_{R/k}\otimes_RR'=0$ の商なので $\Omega^1_{R'/k}=0$ である。$K/k$ は有限分離なので原始元定理により $K=k[u]/(h)$、$h$ は分離多項式で、$u$ の像 $\bar{u}$ について $h'(\bar{u})\neq0$ である。$\bar{u}$ の $R'$ への任意の持上げ $u_1$ をとると $h(u_1)\in\mathfrak{n}'$ で $h'(u_1)$ は $R'$ の単元(像が $h'(\bar{u})\neq0$)である。$u_2=u_1-h(u_1)/h'(u_1)$ とおくと、Taylor展開と $\mathfrak{n}'^2=0$ により $h(u_2)=h(u_1)-h'(u_1)\cdot h(u_1)/h'(u_1)=0$ である。よって $u\mapsto u_2$ は $k$ 代数の準同型 $\sigma\colon K\to R'$ を定め、$R'\to K$ との合成は恒等写像である。したがって $R'=\sigma(K)\oplus\mathfrak{n}'$ であり、$D\colon R'\to\mathfrak{n}'$ を $D(\sigma(a)+v)=v$ で定めると、$\mathfrak{n}'^2=0$ により
$$
D\bigl((\sigma(a)+v)(\sigma(b)+w)\bigr)=\sigma(a)w+\sigma(b)v=(\sigma(a)+v)D(\sigma(b)+w)+(\sigma(b)+w)D(\sigma(a)+v)
$$
となるので $D$ は $R'$ 加群 $\mathfrak{n}'$ に値をもつ $k$ 導分である($\sigma(K)$ 上で $0$)。Kähler 微分の普遍性により $D$ は $\Omega^1_{R'/k}=0$ を経由するので $D=0$、すなわち $\mathfrak{n}'=0$、$\mathfrak{n}=\mathfrak{n}^2$ である。$R$ は Noether 環なので $\mathfrak{n}$ は有限生成であり、Nakayama の補題により $\mathfrak{n}=0$ である。
局所有限表示が合成と底変換で保たれることは、有限表示代数の合成とテンソル積がふたたび有限表示であることから従う($A\to B\to C$ で $B=A[t_1,\dots,t_m]/I$、$C=B[u_1,\dots,u_n]/J$、$I,J$ が有限生成なら $C=A[t,u]/(I,J)$ であり、$B\otimes_AA'=A'[t]/IA'[t]$ である)。平坦射が合成と底変換で保たれることは 平坦射 の記事の命題(合成と底変換)で証明されている(要点は、$A\to B\to C$ が平坦なら $M\otimes_AC=(M\otimes_AB)\otimes_BC$ が完全関手の合成として完全であること、および $N\otimes_{A'}(B\otimes_AA')=N\otimes_AB$ である)。
不分岐性は prop-etale-morphism-omega により $\Omega^1=0$ の条件に置き換えられる(合成と底変換は局所有限型を保つので同命題が使える)。底変換については Kähler 微分の底変換 $\Omega^1_{X\times_SS'/S'}=\mathrm{pr}_1^*\Omega^1_{X/S}$ から $\Omega^1_{X'/S'}=0$ である。合成については、第 1 基本完全列
$$
f^*\Omega^1_{Y/Z}\longrightarrow\Omega^1_{X/Z}\longrightarrow\Omega^1_{X/Y}\longrightarrow0
$$
において両端が $0$ なので $\Omega^1_{X/Z}=0$ である。以上により合成と底変換はエタールである。
逆向きの性質も成り立つ:$f\colon X\to Y$、$g\colon Y\to Z$ について、$g\circ f$ がエタールで $g$ が不分岐なら $f$ はエタールである(EGA4 17.3.4、Mil80 I 3.6)。特に $Z$ 上エタールな 2 つのスキームの間の $Z$ 射はつねにエタールである。これはエタール射の全体が「$Z$ の開集合の圏」と同じように振る舞うことを保証し、エタール位相(Grothendieck位相の一種)を定義するときの基礎になる。
エタール射 $f\colon X\to S$ は開写像であり、準有限(各ファイバーが離散)である。したがってエタール射の像は $S$ の開集合であり、$f$ は像の上への全射エタール射とみなせる。
証明の筋を述べる。$A=\mathcal{O}_{Y,y}$、$B=\mathcal{O}_{X,x}$ とおく。これらは Noether 局所環であり、$k$ が代数閉で $x,y$ が閉点なので $\kappa(x)=\kappa(y)=k$ である。したがって不分岐性は $\mathfrak{m}_AB=\mathfrak{m}_B$ に他ならない。
「$\Rightarrow$」:$f$ が $x$ でエタールとする。$\mathfrak{m}_AB=\mathfrak{m}_B$ から $\mathfrak{m}_A^nB=\mathfrak{m}_B^n$ なので、$B$ の $\mathfrak{m}_B$ 進完備化 $\widehat{B}$ は $\mathfrak{m}_A$ 進完備化でもあり、$\widehat{A}\to\widehat{B}$ は局所準同型で $\mathfrak{m}_{\widehat{A}}\widehat{B}=\mathfrak{m}_{\widehat{B}}$、剰余体はともに $k$ である。$\widehat{A}$ は完備で $\widehat{B}$ は $\mathfrak{m}_{\widehat{A}}$ 進位相で分離的なので、完備局所環に対する Nakayama の補題(Mat89 8.4)により、$\widehat{B}/\mathfrak{m}_{\widehat{A}}\widehat{B}=k$ の生成元 $1$ の持上げ $1$ が $\widehat{B}$ を $\widehat{A}$ 加群として生成する。すなわち $\widehat{A}\to\widehat{B}$ は全射で、$\widehat{B}$ は有限生成 $\widehat{A}$ 加群である。次に $\widehat{B}$ が $\widehat{A}$ 上平坦であることを見る。$A\to B$ は平坦、$B\to\widehat{B}$ は平坦(Mat89 8.8)なので $\widehat{B}$ は $A$ 上平坦である。$A\to\widehat{A}$ も平坦なので、$\widehat{A}$ 加群 $M$ と $A$ 加群 $N$ について $\operatorname{Tor}^{\widehat{A}}_i(\widehat{A}\otimes_AN,M)=\operatorname{Tor}^A_i(N,M)$(Tor関手の平坦底変換)が成り立ち、$N=k=A/\mathfrak{m}_A$ について $\widehat{A}\otimes_Ak=k$ なので $\operatorname{Tor}^{\widehat{A}}_1(k,\widehat{B})=\operatorname{Tor}^A_1(k,\widehat{B})=0$ である。平坦性の局所判定(Mat89 22.3)により有限生成 $\widehat{A}$ 加群 $\widehat{B}$ は自由であり、$\widehat{B}\otimes_{\widehat{A}}k=k$ から階数 $1$、生成元 $1$ をもつので $\widehat{A}\to\widehat{B}$ は同型である。
「$\Leftarrow$」:$\widehat{A}\to\widehat{B}$ が同型とする。$B\to\widehat{B}$ は忠実平坦(忠実平坦射、Mat89 8.14)で $\widehat{B}=\widehat{A}$ は $A$ 上平坦なので、忠実平坦な準同型に沿った平坦性の降下(Mat89 §7)により $A\to B$ は平坦である。また $\mathfrak{m}_A\widehat{B}=\mathfrak{m}_{\widehat{A}}\widehat{B}=\mathfrak{m}_{\widehat{B}}=\mathfrak{m}_B\widehat{B}$ であり、忠実平坦な $B\to\widehat{B}$ について任意のイデアル $I\subset B$ は $I\widehat{B}\cap B=I$ をみたすので $\mathfrak{m}_AB=\mathfrak{m}_B$ である。よって $f$ は $x$ で平坦かつ不分岐、すなわちエタールである。
prop-etale-morphism-complete-local-ring は「エタール射は形式的には同型である」と言っており、逆関数定理の代数版である。同じことが Hensel 化の水準でも成り立つ:$x$ のエタール近傍(エタール射 $U\to X$ と $x$ の持上げ $u\in U$ で $\kappa(u)=\kappa(x)$ なるもの)の局所環 $\mathcal{O}_{U,u}$ の帰納極限が $\mathcal{O}_{X,x}$ の Hensel化 $\mathcal{O}_{X,x}^{h}$(Hensel局所環)であり、$\kappa(u)$ を $\kappa(x)$ の分離閉包の中の有限拡大まで許したものの帰納極限が狭義 Hensel 化 $\mathcal{O}_{X,x}^{sh}$(狭義Hensel局所環)である(Mil80 I 4、Stacks「Étale neighbourhoods」の節)。エタール位相の茎が $\mathcal{O}_{X,x}^{sh}$ になるのはこのためであり、エタール射が「解析的な局所同相」の代わりになる正確な意味がここにある。
エタール射を「開集合」、像が全体を覆うエタール射の族を「開被覆」とみなして得られる景(site)が $X$ のエタール景 $X_{\text{ét}}$ であり、その上の層のコホモロジーがエタールコホモロジーである。定数層 $\mathbb{Z}/\ell^n\mathbb{Z}$ の係数をとり $n$ について射影極限をとったものがℓ進コホモロジーで、Weil予想の証明に用いられた。一方、有限エタール射 $Y\to X$ の全体は位相幾何の有限被覆空間に相当し、幾何学的点を固定して得られるGalois圏の基本群がエタール基本群 $\pi_1^{\text{ét}}(X,\bar{x})$ である(SGA1 V)。体 $K$ については $\pi_1^{\text{ét}}(\operatorname{Spec}K)$ が絶対Galois群 $\operatorname{Gal}(K^{\mathrm{sep}}/K)$ に一致し(ex-etale-morphism-separable-extension)、Galoisコホモロジーはエタールコホモロジーの特別な場合になる。エタール射のもう 1 つの基本的な用法は忠実平坦降下である:全射エタール射(エタール被覆)に沿って準連接層や Azumaya代数、トーサーが降下し、Brauer群や Picard群のエタールコホモロジーによる記述が得られる。
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