複素数の掛け算は回転と拡大(multiplication of complex numbers as rotation)とは、$w=r(\cos\varphi+i\sin\varphi)$ を掛ける $z\mapsto wz$ が、原点中心の角 $\varphi$ の回転と $r$ 倍の合成になることである。偏角が積で和になることは加法定理と同値で、$e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$ と書けば指数法則 $e^{i\alpha}e^{i\beta}=e^{i(\alpha+\beta)}$ になる。これは $f'=if$、$f(0)=1$ の解とも級数 $\sum_{n\ge0}(i\theta)^n/n!$ とも一致する。$1$ の $n$ 乗根は掛け算で群をなす絶対値 $1$ の複素数の部分群で($n\ge3$ なら)正 $n$ 角形の頂点をなす。
複素数 $z=x+iy$($x,y$ は実数、$i^2=-1$)を座標平面の点 $(x,y)$ と同一視した平面を複素数平面という。$z$ の絶対値 $|z|:=\sqrt{x^2+y^2}$ は原点からの距離であり、$z\ne0$ のとき、$x$ 軸の正の向きから線分 $0z$ まで反時計回りに測った角 $\theta$ を $z$ の偏角という。偏角は $2\pi$ の整数倍の違いを除いて決まる。$r:=|z|$ とおくと $x=r\cos\theta$、$y=r\sin\theta$ なので
$$
z=r(\cos\theta+i\sin\theta)
$$
と書ける。これを $z$ の極形式という。
高校では次の計算を習う。$z=1+i$、$w=\sqrt3+i$ の積を直接展開すると
$$
(1+i)(\sqrt3+i)=\sqrt3+i+\sqrt3\,i+i^2=(\sqrt3-1)+(\sqrt3+1)i
$$
である。一方、極形式では $1+i=\sqrt2\bigl(\cos\frac\pi4+i\sin\frac\pi4\bigr)$、$\sqrt3+i=2\bigl(\cos\frac\pi6+i\sin\frac\pi6\bigr)$ であり、積は「絶対値を掛け、偏角を足す」ことで
$$
(1+i)(\sqrt3+i)=2\sqrt2\Bigl(\cos\frac{5\pi}{12}+i\sin\frac{5\pi}{12}\Bigr)
$$
となる。2 つの結果の実部と虚部を比べると
$$
\cos\frac{5\pi}{12}=\frac{\sqrt3-1}{2\sqrt2}=\frac{\sqrt6-\sqrt2}4,\qquad \sin\frac{5\pi}{12}=\frac{\sqrt3+1}{2\sqrt2}=\frac{\sqrt6+\sqrt2}4
$$
が得られる($\frac{5\pi}{12}$ は $75^\circ$)。さらにド・モアブルの定理 $(\cos\theta+i\sin\theta)^n=\cos n\theta+i\sin n\theta$ を使うと、たとえば $(1+i)^8=(\sqrt2)^8(\cos2\pi+i\sin2\pi)=16$ が 1 行で求まる。
この記事では「絶対値を掛け、偏角を足す」規則を、(1) $w$ を掛けることは平面の回転と拡大という写像である、(2) 偏角の足し算は加法定理そのもので、$e^{i\theta}$ と書くと指数法則になる、(3) 絶対値 $1$ の複素数は群をなし、角に $\cos\theta+i\sin\theta$ を対応させる写像は準同型である、という 3 つの見方で捉え直す。
角は弧度法で測る。$\cos\theta$、$\sin\theta$ は単位円上の点の座標として定義されたもの(高校の定義)とし、加法定理、$\cos^2\theta+\sin^2\theta=1$、導関数 $(\sin\theta)'=\cos\theta$、$(\cos\theta)'=-\sin\theta$ は既知とする。
極形式に現れる $\cos\theta+i\sin\theta$ に名前を付けておく。
実数 $\theta$ について
$$
E(\theta):=\cos\theta+i\sin\theta
$$
とおく。$E(\theta)$ は単位円 $\{z\in\mathbb{C}:|z|=1\}$ 上の点であり、$0$ でない複素数 $z$ は $z=|z|\,E(\theta)$($\theta$ は $z$ の偏角)と書ける。
$E(\theta)$ を $e^{i\theta}$ と書く理由は後の節で説明する。それまでは指数関数と無関係な記号として扱う。
次に、「$w$ を掛ける」という操作そのものを 1 つの写像とみなす。
複素数 $w$ について、写像 $m_w\colon\mathbb{C}\to\mathbb{C}$ を $m_w(z):=wz$ で定める。複素数平面を $\mathbb{R}^2$ と同一視すると、$w=a+bi$、$z=x+iy$ について $wz=(ax-by)+i(bx+ay)$ なので、$m_w$ は行列
$$
M_w:=\begin{pmatrix}a&-b\\ b&a\end{pmatrix}
$$
による 1 次変換 $\begin{pmatrix}x\\ y\end{pmatrix}\mapsto M_w\begin{pmatrix}x\\ y\end{pmatrix}$ である。
最後に、回転の合成を扱うための言葉を用意する。
集合 $G$ と、$G$ の 2 元 $g,h$ に $G$ の元 $gh$ を対応させる演算が次の 3 条件を満たすとき、$G$ を群という。
実数全体 $\mathbb{R}$ は足し算について、$0$ でない複素数全体 $\mathbb{C}^\times$ は掛け算について、可換群である。
同じ回転を行列で表し、鏡映と合わせて分類する話は 回転・鏡映と行列の群 で扱う。
すべての実数 $\alpha,\beta$ について
$$
E(\alpha)E(\beta)=E(\alpha+\beta)
$$
が成り立ち、この等式は $\cos,\sin$ の加法定理
$$
\cos(\alpha+\beta)=\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta,\qquad \sin(\alpha+\beta)=\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta
$$
の 2 つを合わせたものと同値である。したがって、$z=r\,E(\alpha)$、$w=s\,E(\beta)$($r,s\ge0$)ならば
$$
zw=rs\,E(\alpha+\beta)
$$
であり、$|zw|=|z||w|$、$z,w\ne0$ なら $zw$ の偏角は $\alpha+\beta$($2\pi$ の整数倍を除いて)である。
$i^2=-1$ を使って展開すると
$$
E(\alpha)E(\beta)=(\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta)+i(\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta)
$$
である。$E(\alpha+\beta)=\cos(\alpha+\beta)+i\sin(\alpha+\beta)$ と実部・虚部をそれぞれ比べると、等式 $E(\alpha)E(\beta)=E(\alpha+\beta)$ は加法定理の 2 式が両方成り立つことと同値である。加法定理は成り立つので、等式も成り立つ。後半は $zw=rs\,E(\alpha)E(\beta)$ に前半を使えばよい。$|E(\theta)|^2=\cos^2\theta+\sin^2\theta=1$ なので $|zw|=rs=|z||w|$ である。$\square$
thm-cmr-product を写像の言葉で言い直すと、次の定理になる。
$w=r\,E(\varphi)$($r>0$)とする。
1:$z=\rho\,E(\theta)$ とすると、thm-cmr-product により $wz=r\rho\,E(\theta+\varphi)$ である。これは点 $z$ を原点のまわりに角 $\varphi$ 回転した点 $\rho E(\theta+\varphi)$ を $r$ 倍した点である($z=0$ でも $m_w(0)=0$ で正しい)。行列の式は、$a=r\cos\varphi$、$b=r\sin\varphi$ を def-cmr-mult-map の $M_w$ に代入したものである。
2:$m_w(m_{w'}(z))=w(w'z)=(ww')z$ なので $m_w\circ m_{w'}=m_{ww'}$ である。1 次変換の合成の行列は行列の積なので $M_wM_{w'}=M_{ww'}$ である。$ww'=w'w$ から $M_wM_{w'}=M_{w'}M_w$、thm-cmr-product から $M_{E(\alpha)}M_{E(\beta)}=M_{E(\alpha)E(\beta)}=M_{E(\alpha+\beta)}$ である。
3:(a)⇒(b):$w(iz)=i(wz)$。(b)⇒(a):$w:=T(1)$ とおく。$z=x+iy$ について、1 次性と (b) から $T(z)=xT(1)+yT(i)=xw+y\,iT(1)=(x+iy)w=wz$ である。(a)⇔(c):(a) なら def-cmr-mult-map により行列は $M_w$ で (c) の形である。逆に (c) の行列は $M_{p+qi}$ なので $T=m_{p+qi}$ である。$\square$
3 により、複素数 $p+qi$ は行列 $pI+qJ$($J:=M_i$ は $90^\circ$ 回転で $J^2=-I$)と同じ計算規則に従う。掛け算を回転と拡大として見る見方は、Nee97 の第 1 章に図とともに詳しい。
ド・モアブルの定理は thm-cmr-product を繰り返し使ったものである。
すべての実数 $\theta$ と整数 $n$ について
$$
E(\theta)^n=E(n\theta),\qquad\text{すなわち}\quad(\cos\theta+i\sin\theta)^n=\cos n\theta+i\sin n\theta
$$
である。
$n=0$ では両辺とも $1$ である。$n\ge0$ で成り立てば、thm-cmr-product により $E(\theta)^{n+1}=E(n\theta)E(\theta)=E((n+1)\theta)$ である。よって $n\ge0$ で成り立つ。$E(\theta)E(-\theta)=E(0)=1$ なので $E(\theta)^{-1}=E(-\theta)$ であり、$n=-m$($m>0$)について $E(\theta)^{-m}=\bigl(E(\theta)^m\bigr)^{-1}=E(m\theta)^{-1}=E(-m\theta)$ である。$\square$
thm-cmr-product と cor-cmr-de-moivre により
$$
E(\alpha)E(\beta)=E(\alpha+\beta),\qquad E(0)=1,\qquad E(\theta)^n=E(n\theta)
$$
である。これは $e^ae^b=e^{a+b}$、$e^0=1$、$(e^a)^n=e^{na}$ と同じ形なので、$E(\theta)$ を $e^{i\theta}$ と書きたくなる。しかし $e$ の「虚数乗」には高校の範囲では意味がない。意味の与え方には 3 つの立場があり、どれを採るかで Euler の公式の身分が変わる。
| 立場 | $e^{i\theta}$ の定義 | Euler の公式の身分 | この記事での扱い |
|---|---|---|---|
| 1. 記号 | $E(\theta)$ の別名 | 定義そのもの | 採用する(def-cmr-euler) |
| 2. 微分方程式 | $f'=if$、$f(0)=1$ を満たす関数 | 定理 | thm-cmr-euler-ode で証明する |
| 3. 冪級数 | $\displaystyle\sum_{n=0}^\infty\frac{(i\theta)^n}{n!}$ | 定理 | prop-cmr-euler-series で証明する(Taylor の定理を使う) |
実数 $\theta$ について
$$
e^{i\theta}:=E(\theta)=\cos\theta+i\sin\theta
$$
と定める。この等式を Euler の公式という。
この定義のもとで、thm-cmr-product は指数法則 $e^{i\alpha}e^{i\beta}=e^{i(\alpha+\beta)}$ に、cor-cmr-de-moivre は $(e^{i\theta})^n=e^{in\theta}$ になる。$e^{i\pi}=\cos\pi+i\sin\pi=-1$ から、よく知られた等式 $e^{i\pi}+1=0$ が出る。また $e^{2\pi i}=1$、$e^{i\pi/2}=i$ である。
実数の範囲での $y'=ky$ と $y''=-y$ の解の一意性は 微分方程式としての指数関数・三角関数 で扱う。
立場 1 は記号の約束にすぎない。これを「$e$ の虚数乗」と呼んでよい理由は、他の 2 つの立場で定めても同じ関数になること(次の 2 つの結果)である。
実数 $a$ について、$f'=af$、$f(0)=1$ を満たす関数は $e^{ax}$ だけである(既知とする)。$a$ を $i$ にしても同じことが成り立つ。複素数値関数 $f=u+iv$($u,v$ は実数値)の導関数を $f':=u'+iv'$ と定めると、和と積の微分の公式は実部と虚部に分けて計算すれば同じ形で成り立つ。
$E(\theta)$ は $E'=iE$、$E(0)=1$ を満たす。逆に、実部と虚部が微分可能な関数 $f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{C}$ が $f'=if$、$f(0)=1$ を満たすならば、すべての $\theta$ で $f(\theta)=E(\theta)$ である。
$E'(\theta)=-\sin\theta+i\cos\theta=i(\cos\theta+i\sin\theta)=iE(\theta)$、$E(0)=1$ である。同様に $\frac{d}{d\theta}E(-\theta)=\frac{d}{d\theta}(\cos\theta-i\sin\theta)=-\sin\theta-i\cos\theta=-iE(-\theta)$ である。
$f'=if$、$f(0)=1$ とし、$g(\theta):=f(\theta)E(-\theta)$ とおく。積の微分の公式により
$$
g'(\theta)=f'(\theta)E(-\theta)+f(\theta)\cdot\bigl(-iE(-\theta)\bigr)=if(\theta)E(-\theta)-if(\theta)E(-\theta)=0
$$
である。$g$ の実部と虚部はともに導関数が恒等的に $0$ なので、平均値の定理により定数であり、$g(\theta)=g(0)=f(0)E(0)=1$ である。$E(-\theta)E(\theta)=E(0)=1$ なので $f(\theta)=f(\theta)E(-\theta)E(\theta)=g(\theta)E(\theta)=E(\theta)$ である。$\square$
$E'=iE$ は単位円上を速さ $1$ で回る運動を表す。
すべての実数 $\theta$ について、部分和 $S_N(\theta):=\sum_{n=0}^{N-1}\frac{(i\theta)^n}{n!}$ は $N\to\infty$ で $E(\theta)$ に収束する。実部と虚部に分けると
$$
\cos\theta=\sum_{k=0}^\infty\frac{(-1)^k\theta^{2k}}{(2k)!},\qquad \sin\theta=\sum_{k=0}^\infty\frac{(-1)^k\theta^{2k+1}}{(2k+1)!}
$$
である。
ここでは証明せずに Taylorの定理(Lagrange の剰余の形)を使う:$N$ 回微分可能な関数 $h$ と実数 $\theta$ について、$0$ と $\theta$ の間のある $\xi$ があって
$$
h(\theta)=\sum_{n=0}^{N-1}\frac{h^{(n)}(0)}{n!}\theta^n+\frac{h^{(N)}(\xi)}{N!}\theta^N
$$
が成り立つ。$h=\cos$ と $h=\sin$ では、$n$ 回微分したものは $\pm\cos$ か $\pm\sin$ なので $|h^{(N)}(\xi)|\le1$ であり、また
$$
\cos^{(n)}(0)=1,0,-1,0,1,\dots=\operatorname{Re}(i^n),\qquad \sin^{(n)}(0)=0,1,0,-1,0,\dots=\operatorname{Im}(i^n)
$$
である。$S_N(\theta)=\sum_{n< N}i^n\theta^n/n!$ の実部と虚部は、それぞれ $\cos$ と $\sin$ の上の式の和の部分に一致するので
$$
|S_N(\theta)-E(\theta)|\le|\operatorname{Re}S_N(\theta)-\cos\theta|+|\operatorname{Im}S_N(\theta)-\sin\theta|\le\frac{2|\theta|^N}{N!}
$$
である。$K\ge2|\theta|$ となる整数 $K$ を固定すると、$N>K$ では $\frac{|\theta|^N}{N!}=\frac{|\theta|^K}{K!}\prod_{n=K+1}^N\frac{|\theta|}n\le\frac{|\theta|^K}{K!}\bigl(\tfrac12\bigr)^{N-K}\to0$ である。よって $S_N(\theta)\to E(\theta)$ である。$\square$
たとえば $\theta=\pi$ では $S_{20}(\pi)$ の誤差は $3.6\times10^{-9}$ で、評価 $2\pi^{20}/20!=7.2\times10^{-9}$ の範囲にある。
すべての複素数 $z$ について $\exp z:=\sum_{n\ge0}z^n/n!$ が収束し、$\exp(z+w)=\exp z\,\exp w$、したがって $\exp(x+iy)=e^x(\cos y+i\sin y)$ が成り立つ。この指数法則には絶対収束する級数の積(Cauchy 積)の定理が要るので、この記事では証明しない(Leb26 §11.4 は逆に $\exp$ から $\cos,\sin$ を定義する)。また、この記事の証明は、単位円で定義した $\cos,\sin$ の導関数の公式(証明には $\lim_{\theta\to0}\frac{\sin\theta}\theta=1$ を使う)を前提にしている。
1 の $n$ 乗根で多項式の係数を添字の余りごとに振り分ける使い方は 1の冪根で数を振り分ける で扱う。
$U:=\{z\in\mathbb{C}:|z|=1\}$ とおく。
1:$z,w\in U$ なら $|zw|=|z||w|=1$(thm-cmr-product)、$|1/z|=1/|z|=1$ なので、$U$ は掛け算と逆数をとる操作で閉じており、$1\in U$ である。結合法則と交換法則は複素数の掛け算から引き継ぐ。
2:準同型であることは thm-cmr-product そのものである。全射性:$x^2+y^2=1$ を満たす点 $(x,y)$ は単位円上にあるので、$\cos,\sin$ の単位円による定義から、ある $\theta$ で $(x,y)=(\cos\theta,\sin\theta)$ である。核:$e^{i\theta}=1$ は $\cos\theta=1$ かつ $\sin\theta=0$ ということであり、単位円上の点 $(1,0)$ に対応する角は $\theta=2\pi k$($k$ は整数)だけである。
3:$e^{i\alpha}=e^{i\beta}$ は $e^{i(\alpha-\beta)}=e^{i\alpha}\bigl(e^{i\beta}\bigr)^{-1}=1$ と同値であり、2 によりこれは $\alpha-\beta\in2\pi\mathbb{Z}$ と同値である。$\square$
3 は偏角が「$2\pi$ の整数倍を除いて」決まることの正確な言い方であり、$U$ は $2\pi$ の整数倍だけ違う実数を同じとみなした「角」の群である。
$n$ を正の整数とし、$\zeta:=e^{2\pi i/n}$ とおく。
1:$z^n=1$ なら $|z|^n=|z^n|=1$ であり、$t\ge0$ で $t^n$ は狭義増加なので $|z|=1$ である。$z=e^{i\theta}$ と書くと cor-cmr-de-moivre により $e^{in\theta}=1$ なので、thm-cmr-circle-group の 2 から $n\theta=2\pi j$($j$ は整数)であり、$z=e^{2\pi ij/n}=\zeta^j$ である。$j=qn+k$($0\le k< n$)と割ると、$\zeta^n=e^{2\pi i}=1$ から $\zeta^j=(\zeta^n)^q\zeta^k=\zeta^k$ である。逆に $(\zeta^k)^n=e^{2\pi ik}=1$ である。$0\le l< k< n$ で $\zeta^k=\zeta^l$ なら $e^{2\pi i(k-l)/n}=1$ なので $\frac{k-l}n$ は整数となり、$0< k-l< n$ に反する。偏角 $\frac{2\pi k}n$ が等間隔なので、$n\ge3$ ならこれらは正 $n$ 角形の頂点である。
2:$\zeta^k\zeta^l=\zeta^{k+l}$、$(\zeta^k)^{-1}=\zeta^{-k}$ は、1 の議論により再び $1,\zeta,\dots,\zeta^{n-1}$ のどれかである。
3:1 の議論により、$\zeta^{km}=e^{2\pi ikm/n}=1$ は $n\mid km$ と同値である。$d:=\gcd(n,k)$、$n=dn'$、$k=dk'$ とおくと $\gcd(n',k')=1$ であり、$n\mid km\iff n'\mid k'm\iff n'\mid m$ である(最後は、互いに素な $n'$ と $k'$ について $n'\mid k'm$ なら $n'\mid m$ というEuclidの補題による)。よって最小の $m$ は $n'=n/d$ である。これが $n$ に等しいのは $d=1$ のときである。1 により $1$ の $n$ 乗根は $\zeta^k$($k=1,\dots,n$。$\zeta^n=\zeta^0$)と重複なく書けるので、原始 $n$ 乗根の個数は $\varphi(n)$ である。
4:$n\mid m$ なら各項は $1$ で、和は $n$ である。$n\nmid m$ なら $q:=\zeta^m\ne1$ であり、等比数列の和の公式と $q^n=(\zeta^n)^m=1$ から $\sum_{k=0}^{n-1}q^k=\frac{q^n-1}{q-1}=0$ である。$m=1$、$n\ge2$ とすれば後半を得る。$\square$
4 の和が $0$ になることは、$n\ge3$ なら「正 $n$ 角形の頂点の重心は中心にある」ことである。
中心が原点でない回転は、掛け算と足し算を組み合わせて書ける。
$a\in U$、$b\in\mathbb{C}$ について $g_{a,b}(z):=az+b$ とおき、この形の写像全体を $G$ とする。
1:$|az+b-(az'+b)|=|a||z-z'|=|z-z'|$。
2:$g_{a,b}(g_{a',b'}(z))=a(a'z+b')+b=aa'z+(ab'+b)$ であり、$|aa'|=1$ なので合成は $G$ に入る。写像の合成は結合法則を満たし、$g_{1,0}$ は恒等写像で、合成の式から $g_{a,b}\circ g_{a^{-1},-a^{-1}b}=g_{1,0}$(逆順も同様)である。合成の式の第 1 成分 $aa'$ が $\rho$ の準同型性を示し、$\rho(g_{a,0})=a$ から全射、$\rho(g_{a,b})=1\iff a=1$ である。
3:$ac+b=c$ は $c(1-a)=b$ と同値なので、$a\ne1$ なら不動点は $c=\frac b{1-a}$ だけである。このとき $b=c-ac$ なので $g_{a,b}(z)=az+c-ac=c+a(z-c)$ である。$a=1$ の場合は定義どおりである。$\square$
$G$ は可換ではない。たとえば原点のまわりの $90^\circ$ 回転 $r_1(z)=iz$ と、点 $1$ のまわりの $90^\circ$ 回転 $r_2(z)=1+i(z-1)$ では $r_1(r_2(0))=1+i$、$r_2(r_1(0))=1-i$ である。それでも $\rho$ が準同型なので、回転を何回合成しても、合成の回転角は各回転角の和である(中心の位置によらない)。特に回転角の和が $2\pi$ の整数倍なら、合成は平行移動である。
高校で別々に習う次の計算は、どれも上の定理の特別な場合である。
偏角を $-\pi<\theta\le\pi$ の範囲にとったもの(主値)を $\operatorname{Arg}z$ と書く。$z=w=e^{3\pi i/4}=\frac{-1+i}{\sqrt2}$ では $\operatorname{Arg}z+\operatorname{Arg}w=\frac{3\pi}2$ だが、$zw=e^{3\pi i/2}=-i$ なので $\operatorname{Arg}(zw)=-\frac\pi2$ である。偏角を 1 つの実数に固定すると「積の偏角は偏角の和」は成り立たず、$2\pi$ のずれが生じる。偏角の等式は thm-cmr-circle-group の 3 のとおり $2\pi$ の整数倍を除いて考える。
「$(e^{i\theta})^{1/2}=e^{i\theta/2}$」を $z=e^{i\theta}$ の平方根の定義にしようとすると、$z=1$ は $e^{i\cdot0}=e^{2\pi i}$ と 2 通りに書けるので、$e^{i\cdot0/2}=1$ と $e^{2\pi i/2}=-1$ の 2 つの値が出る。$e^{i\alpha}=e^{i\beta}$ ならば $e^{in\alpha}=e^{in\beta}$ という含意は $n$ が整数なら成り立つが($n(\alpha-\beta)\in2\pi\mathbb{Z}$)、$n=\frac12$ では成り立たない。cor-cmr-de-moivre の「$n$ は整数」という条件を外すと、右辺が $z$ だけでは決まらなくなる。
共役をとる写像 $\kappa(z):=\bar z$ は $\mathbb{R}^2$ の 1 次変換で、$|\kappa(z)|=|z|$ を満たす(実軸に関する鏡映)。しかし $\kappa(i\cdot1)=-i$、$i\,\kappa(1)=i$ なので thm-cmr-rotation-scaling の 3 の (b) を満たさず、どの複素数 $w$ についても $\kappa\ne m_w$ である。実際、行列 $\begin{pmatrix}1&0\\ 0&-1\end{pmatrix}$ の行列式は $-1$ だが、$\det M_w=a^2+b^2\ge0$ である。「長さを保つ 1 次変換は回転である」という主張は、向きを反転させる鏡映によって破れる。
次は国際数学オリンピック(1986 年、ワルシャワ)第 2 問である(Oly86。和訳は本記事による)。
平面上に三角形 $A_1A_2A_3$ と点 $P_0$ が与えられている。$s\ge4$ について $A_s:=A_{s-3}$ と定める。点列 $P_0,P_1,P_2,\dots$ を、各 $k=0,1,2,\dots$ について、$P_{k+1}$ が点 $P_k$ を点 $A_{k+1}$ を中心に時計回りに $120^\circ$ 回転した点となるように作る。$P_{1986}=P_0$ ならば、三角形 $A_1A_2A_3$ は正三角形であることを証明せよ。
点 $A_k,P_k$ を複素数 $a_k,p_k$ で表し、$\omega:=e^{-2\pi i/3}$(時計回りの $120^\circ$)とおく。点 $a$ を中心とする回転は $p\mapsto a+\omega(p-a)$ なので
$$
p_{k+1}=\omega p_k+(1-\omega)a_{k+1}
$$
である。3 回続けると、$\omega^3=1$ から
$$
p_3=\omega^3p_0+(1-\omega)(\omega^2a_1+\omega a_2+a_3)=p_0+t,\qquad t:=(1-\omega)(\omega^2a_1+\omega a_2+a_3)
$$
となる。中心は 3 つごとに同じ $A_1,A_2,A_3$ が繰り返されるので、同じ計算で $p_{3j+3}=p_{3j}+t$ であり、$p_{3j}=p_0+jt$ である。$1986=3\cdot662$ なので $p_{1986}=p_0+662t$ である。
$p_{1986}=p_0$ なら $t=0$ であり、$\omega\ne1$ から $\omega^2a_1+\omega a_2+a_3=0$ である。$\omega$ は $1$ でない 1 の 3 乗根なので $1+\omega+\omega^2=0$(thm-cmr-roots の 4)であり、$\omega^2=-1-\omega$ を代入して整理すると
$$
a_3-a_1=-\omega(a_2-a_1)=e^{i\pi/3}(a_2-a_1)
$$
を得る($-\omega=e^{i\pi}e^{-2\pi i/3}=e^{i\pi/3}$)。これは、$A_1A_3$ が $A_1A_2$ を $A_1$ のまわりに $60^\circ$ 回転したものであることを表す。よって $A_1A_2=A_1A_3$ かつ $\angle A_2A_1A_3=60^\circ$ であり、三角形は正三角形である。$\square$
逆に反時計回りの正三角形なら $t=0$ である。時計回りの正三角形 $a_1=0$、$a_2=1$、$a_3=e^{-i\pi/3}$ では $|t|=3$、$|P_{1986}-P_0|=1986$ となる。
各ステップは prop-cmr-motions の群 $G$ の元 $g_k(z)=\omega z+(1-\omega)a_k$ であり、角を取り出す準同型 $\rho$ で $\rho(g_k)=\omega$ である。3 回の合成 $h:=g_3\circ g_2\circ g_1$ は $\rho(h)=\omega^3=1$ を満たすので、計算しなくても $h$ は $\rho$ の核に入り、平行移動である。中心が周期 3 で繰り返されるので $P_{3j}=h^j(P_0)$ であり、平行移動 $h$ の $662$ 回の合成が点 $P_0$ を動かさないのは、$h$ が恒等写像のときに限る。問題は「頂点のまわりの $-120^\circ$ 回転 3 回の合成が恒等写像になる三角形」を求めることになる。
$1986$ については 3 の倍数であることだけが効いている。$N$ が 3 の倍数でなければ $P_0\mapsto P_N$ は角 $\omega^N\ne1$ の回転で(prop-cmr-motions の 3)、その中心を $P_0$ にとれば $P_N=P_0$ となるので、三角形の形は何も決まらない。
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