モノイド

同義語:monoid

概要

モノイド(monoid)とは、結合律を満たす二項演算と両側単位元を備えた集合である。群と異なり逆元は要求せず、自然数の加法、写像の合成、語の連接などを統一する。モノイド準同型は積と単位元を保ち、自由モノイドは集合から生成される普遍的な例である。モノイドは単一対象の小圏と同じデータを与える。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 集合, 二項演算, 写像

定義

単位元をもつ結合的演算

集合 $M$ と二項演算
$$ \cdot\colon M\times M\longrightarrow M, \qquad (a,b)\longmapsto a\cdot b $$
の組 $(M,\cdot)$ がモノイド(monoid)であるとは、次の二つの条件を満たすことをいう。

  1. 結合律:任意の $a,b,c\in M$ に対して $(a\cdot b)\cdot c=a\cdot(b\cdot c)$。
  2. 単位元の存在:ある $1_M\in M$ が存在し、任意の $a\in M$ に対して $1_M\cdot a=a=a\cdot1_M$。
    演算を積のように書くときはしばしば $a\cdot b$ を $ab$ と略記する。加法記法を用いる場合は演算を $+$、単位元を $0$ と書く。基本的な用語は Howie95 §1.1 にもまとめられている。
演算と単位元を保つ写像

モノイド $M,N$ の間のモノイド準同型(monoid homomorphism)とは、写像 $f\colon M\to N$ であって
$$ f(ab)=f(a)f(b),\qquad f(1_M)=1_N $$
を満たすものをいう。積だけでなく単位元も保つことを定義に含める。

演算で閉じた部分集合

モノイド $M$ の部分集合 $S\subset M$ が部分モノイド(submonoid)であるとは、$1_M\in S$ であり、任意の $a,b\in S$ に対して $ab\in S$ となることをいう。このとき $S$ は $M$ の演算と単位元をそのまま制限することでモノイドになる。

直感

モノイドは、「二つの操作を順番に合成でき、何もしない操作がある」という状況の最小の代数的な器である。結合律があるため、$a_1a_2\cdots a_n$ の括弧の付け方を指定する必要がない。一方、群 と違って各元の逆元は要求しない。また、積の順序を入れ替えてよいとは限らない。入れ替えが常に可能な場合が 可換モノイド である。

例と反例

加法モノイド

$(\mathbb{N},+,0)$ はモノイドである。加法は結合的であり、0 が単位元である。この例は可換モノイドであるが、$1$ の加法に関する逆元は $\mathbb{N}$ にないので群ではない。

写像の合成

集合 $X$ から自身への写像全体 $\operatorname{End}(X)$ は、合成を演算、恒等写像 $\operatorname{id}_X$ を単位元とするモノイドである。
$X=\{0,1\}$ とし、$f$ を $0$ への定数写像、$g$ を $0$ と $1$ を入れ替える写像とする。このとき $f\circ g$ は $0$ への定数写像だが、$g\circ f$ は $1$ への定数写像である。したがって $\operatorname{End}(X)$ は一般に非可換である。

語の連接

アルファベット $\Sigma$ の文字からなる有限長の語の集合を $\Sigma^*$ と書く。語の連接は結合的であり、空語 $\varepsilon$ が単位元であるから、$(\Sigma^*,\text{連接},\varepsilon)$ はモノイドである。$\Sigma$ が異なる文字 $x,y$ を含めば、語 $xy$ と $yx$ は異なるので、このモノイドは非可換である。

反例:結合律だけでは足りない

正の整数全体 $\mathbb{Z}_{>0}$ は加法について閉じており、加法は結合律を満たす。しかし加法の単位元 $0$ は $\mathbb{Z}_{>0}$ に属さない。よって $(\mathbb{Z}_{>0},+)$ は 半群 ではあるがモノイドではない。この反例は、「結合的な二項演算をもつならモノイドである」という含意を破る。

性質

単位元の一意性

モノイドの単位元は一意的である。

$e,e'$ がともに単位元であるとする。$e$ が左単位元であることと $e'$ が右単位元であることから
$$ e'=e\cdot e'=e $$
である。よって単位元は一つしかない。$\square$

直積と成分ごとの演算

モノイド $M,N$ に対し、直積集合 $M\times N$ 上に
$$ (a,b)(a',b'):=(aa',bb') $$
と定めると、$M\times N$ は単位元 $(1_M,1_N)$ をもつモノイドになる。

$(a,b),(a',b'),(a'',b'')\in M\times N$ に対し、$M,N$ の結合律から
$$ \bigl((a,b)(a',b')\bigr)(a'',b'')=((aa')a'',(bb')b'')=(a(a'a''),b(b'b''))=(a,b)\bigl((a',b')(a'',b'')\bigr) $$
である。また
$$ (1_M,1_N)(a,b)=(a,b)=(a,b)(1_M,1_N) $$
であるから、$(1_M,1_N)$ は単位元である。$\square$

部分モノイドの共通部分

モノイド $M$ の部分モノイドからなる族 $(S_i)_{i\in I}$ に対し、$\bigcap_{i\in I}S_i$ も $M$ の部分モノイドである。ただし $I=\emptyset$ のときは共通部分を $M$ と定める。

各 $S_i$ は $1_M$ を含むので、$1_M\in\bigcap_{i\in I}S_i$ である。$a,b\in\bigcap_{i\in I}S_i$ ならば、すべての $i\in I$ に対して $a,b\in S_i$ である。各 $S_i$ は積について閉じているから $ab\in S_i$ であり、$ab\in\bigcap_{i\in I}S_i$ となる。$I=\emptyset$ の場合は $M$ 自身が部分モノイドである。$\square$

自由モノイド

語がもつ普遍性

集合 $\Sigma$ とモノイド $M$ をとり、$\iota\colon\Sigma\to\Sigma^*$ を各文字を長さ $1$ の語とみなす写像とする。任意の写像 $u\colon\Sigma\to M$ に対し、
$$ \overline{u}\circ\iota=u $$
を満たすモノイド準同型 $\overline{u}\colon\Sigma^*\to M$ がただ一つ存在する。この性質により $\Sigma^*$ を $\Sigma$ 上の自由モノイド(free monoid)という。

語 $w=a_1a_2\cdots a_n$ に対し
$$ \overline{u}(w):=u(a_1)u(a_2)\cdots u(a_n), \qquad \overline{u}(\varepsilon):=1_M $$
と定める。$\Sigma^*$ の各語は文字の有限列として一意的に書けるので、これは写像を定める。語 $w=a_1\cdots a_m$ と $v=b_1\cdots b_n$ の連接に対して
$$ \overline{u}(wv)=u(a_1)\cdots u(a_m)u(b_1)\cdots u(b_n)=\overline{u}(w)\overline{u}(v) $$
であり、$\overline{u}(\varepsilon)=1_M$ だから $\overline{u}$ はモノイド準同型である。また長さ $1$ の語について $\overline{u}(a)=u(a)$ であるから $\overline{u}\circ\iota=u$ である。
一意性を示す。$v\colon\Sigma^*\to M$ を $v\circ\iota=u$ を満たすモノイド準同型とする。準同型は単位元を保つから $v(\varepsilon)=1_M=\overline{u}(\varepsilon)$ である。任意の非空語 $w=a_1\cdots a_n$ に対し、
$$ v(w)=v(a_1)\cdots v(a_n)=u(a_1)\cdots u(a_n)=\overline{u}(w) $$
である。よって $v=\overline{u}$ である。$\square$

単一対象小圏との対応

モノイドと単一対象小圏

モノイドのデータと、対象を一つだけもつ 小圏 のデータは互いに移し合える。さらに、モノイド準同型は対応する単一対象小圏の間の 関手 と一対一に対応する。ここで小圏とは対象と射が集合をなす 圏 をいう。

まずモノイド $M$ から小圏 $\mathcal{B}M$ を作る。対象は一つ $*$ だけとし、
$$ \operatorname{Hom}_{\mathcal{B}M}(*,*)=M $$
とおく。$f,g\in M$ に対して射の合成を
$$ g\circ f:=gf $$
と定め、恒等射を $1_M$ と定める。$M$ の結合律が射の合成の結合律を与え、単位元の等式 $1_Mf=f=f1_M$ が恒等射の法則を与える。よって $\mathcal{B}M$ は小圏である。
逆に、対象が $*$ 一つだけの小圏 $\mathcal{C}$ からモノイドを作る。底集合を
$$ M_{\mathcal{C}}:=\operatorname{Hom}_{\mathcal{C}}(*,*) $$
とし、$f,g\in M_{\mathcal{C}}$ に対して $gf:=g\circ f$ と定める。圏における合成の結合律によりこの積は結合的であり、$\operatorname{id}_*$ が単位元になる。したがって $M_{\mathcal{C}}$ はモノイドである。
第一の構成の後に第二の構成を施すと、底集合、積、単位元はそれぞれ $M$、もとの積、$1_M$ に戻る。逆順では、唯一の対象、射集合、合成、恒等射がすべてもとのものに戻る。よって二つの構成は互いに逆である。
最後に射の対応を確かめる。モノイド準同型 $h\colon M\to N$ は唯一の対象を唯一の対象へ送り、各射 $f\in M$ を $h(f)\in N$ へ送る。等式
$$ h(g\circ f)=h(gf)=h(g)h(f)=h(g)\circ h(f), \qquad h(1_M)=1_N $$
により、これは関手 $\mathcal{B}M\to\mathcal{B}N$ である。逆にそのような関手は射の合成と恒等射を保つから、射集合上でモノイド準同型を定める。これらの対応も互いに逆である。$\square$

モノイドを単一対象の圏とみなす標準的な観点は Mac98 Chapter I §1 にも記載されている。この対応は、モノイドが単に「圏に似たもの」だという類比ではなく、合成と単位元を同じデータとして見直す精密な対応である。

関連項目

参考文献

[1]
John M. Howie, Fundamentals of Semigroup Theory, London Mathematical Society Monographs, New Series 12, Oxford University Press, 1995, §1.1(半群、モノイド、単位元)

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