Lambert W関数(Lambert W function)とは、方程式 $we^w=z$ の解 $w$ を $z$ の関数とみたもので、$we^w$ の逆関数である。実数では $x\ge-1/e$ で定義され $W_0(x)\ge-1$ となる主枝 $W_0$ と、$-1/e\le x<0$ で $W_{-1}(x)\le-1$ となる枝 $W_{-1}$ があり、$-1/e<x<0$ では実数解が 2 つある。主枝は原点で Taylor 級数 $\sum_{n\ge1}(-n)^{n-1}x^n/n!$(収束半径 $1/e$)をもち、$x\to\infty$ で $\log x-\log\log x$ との差が $0$ に近づく。$e^x=ax$ や $x^x=y$ の解、遅れのある微分方程式の特性根、ラベル付きの根付き木の母関数を表すのに使われる。
方程式 $e^x=3x$ は 2 つの実数解をもつ。$x$ が指数の中と外の両方にあるので、対数をとっても $x$ について解いた形にはならない。そこで、関数 $w\mapsto we^w$ の逆関数に名前を付け、解をその値として書く。これが Lambert W 関数である。$e^x=ax$ の形の方程式、$x^x=y$、遅れのある微分方程式 $y'(t)=ay(t-1)$ の特性方程式、ラベル付きの根付き木の数え上げなど、指数関数と 1 次式が混ざった多くの問題がこの関数で書ける。高校の 定数分離と方程式の実数解の個数 で調べた「$e^x=ax$ の解の個数」は、この関数の定義域と枝の話として読み直せる。
$we^w$ は単射でないので、逆関数は「枝」を選んで定める。以下では実数の 2 つの枝を定義してその性質を証明し、原点での Taylor 級数(係数 $(-n)^{n-1}/n!$)と、大きな $x$ での振る舞いを証明する。
複素数 $z$ について、方程式
$$
we^w=z
$$
の解 $w$ を $z$ における Lambert W 関数 の値という。実数 $x$ については次の 2 つの実数値関数を定める。
この定義がうまくいく(解がちょうど 1 つずつある)ことを次の定理で示す。$g(w):=we^w$ とおく。
1:$g'(w)=(1+w)e^w$ で $e^w>0$ だから、$g'<0$($w<-1$)、$g'>0$($w>-1$)であり、単調性が従う。$g(-1)=-e^{-1}$ である。$w\to\infty$ で $g(w)\to\infty$、$w\to-\infty$ で $g(w)=w/e^{-w}\to0$(指数関数 の命題「指数関数はどの冪よりも速く増える」)であり、$w<0$ では $g(w)<0$ である。$g$ は連続なので、中間値の定理により $g([-1,\infty))=[-1/e,\infty)$、$g((-\infty,-1])=[-1/e,0)$ である(後者で $0$ は値にならない)。狭義単調なのでどちらも単射である。
2:1 から、解は各区間に高々 1 つで、$x$ がその区間の像に入るときだけ存在する。$x=-1/e$ では 2 つの区間の共通点 $w=-1$ だけが解である。
3:狭義単調な関数の逆関数は連続である(単調関数 の系「狭義単調関数の逆関数の連続性」)。$x>-1/e$ なら $W_0(x)>-1$ なので $g'(W_0(x))\neq0$ であり、逆関数の微分法から $W_0'(x)=1/g'(W_0(x))$ である。$x\neq0$ では $W_0(x)\neq0$ で、$W_0(x)e^{W_0(x)}=x$ から $e^{W_0(x)}=x/W_0(x)$ を代入すると 2 つ目の式になる。$W_0(0)=0$ なので $W_0'(0)=1/g'(0)=1$ である。$W_{-1}$ も同様である。$\square$
| $x$ | $-1/e$ | $-0.2$ | $0$ | $1/e$ | $1$ | $e$ | $10$ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| $W_0(x)$ | $-1$ | $\approx-0.259171$ | $0$ | $\approx0.278465$ | $\approx0.567143$ | $1$ | $\approx1.745528$ |
| $W_{-1}(x)$ | $-1$ | $\approx-2.542641$ | — | — | — | — | — |
定義から直ちに、$x>0$ で $e^{W_0(x)}=x/W_0(x)$、$\log W_0(x)=\log x-W_0(x)$ が成り立つ。また $x\ge1/e$ なら $w=\log x\ge-1$ は $we^w=x\log x$ を満たすので、$W_0(x\log x)=\log x$ である。$0< x<1/e$ では $\log x<-1$ なので、同じ式は $W_{-1}$ について成り立つ。
$W_0$ は $x=-1/e$ で微分可能でない。$x\to-1/e+0$ で $W_0(x)\to-1$ なので、3 の式の分母 $(1+W_0)e^{W_0}$ が $0$ に近づき、$W_0'(x)\to+\infty$ となる。平均値の定理により差分商 $(W_0(x)+1)/(x+1/e)$ も $+\infty$ に発散し、グラフは $(-1/e,-1)$ で縦の接線をもつ。
$\lvert x\rvert<1/e$ を満たす複素数 $x$ について、方程式 $we^w=x$ は円板 $\lvert w\rvert<1$ の中にちょうど 1 つの解 $\omega(x)$ をもち、
$$
\omega(x)=\sum_{n=1}^\infty\frac{(-n)^{n-1}}{n!}x^n=x-x^2+\frac32x^3-\frac83x^4+\frac{125}{24}x^5-\cdots
$$
である。右辺の冪級数の収束半径はちょうど $1/e$ である。$x$ が $(-1/e,1/e)$ の実数なら $\omega(x)=W_0(x)$ である。
段 1(解がちょうど 1 つ).$\lvert w\rvert=1$ では $\lvert g(w)\rvert=\lvert w\rvert e^{\operatorname{Re}w}\ge e^{-1}$ である。$\lvert x\rvert<1/e$ なら円周上で $\lvert(g(w)-x)-g(w)\rvert=\lvert x\rvert<\lvert g(w)\rvert$ なので、Rouchéの定理 の定理「Rouché の定理」により、$g-x$ と $g$ は円板 $\lvert w\rvert<1$ の中に重複を込めて同じ個数の零点をもつ。$g$ の零点は $w=0$ だけで、$g'(0)=1$ より 1 位なので、$g-x$ も円板の中にちょうど 1 つの 1 位の零点 $\omega(x)$ をもつ。
段 2(解を積分で書く).関数 $wg'(w)/(g(w)-x)$ は、円板 $\lvert w\rvert<1$ の中では $\omega(x)$ だけに 1 位の極をもち、$g'(\omega(x))\neq0$ なので留数は $\omega(x)g'(\omega(x))/g'(\omega(x))=\omega(x)$ である(留数定理 の命題「極における留数の公式」の 2)。$g-x$ の零点は有界な集合の中に有限個しかなく、円周上にはないので、留数定理 の系「円周に沿う留数定理」から
$$
\omega(x)=\frac1{2\pi i}\oint_{\lvert w\rvert=1}\frac{wg'(w)}{g(w)-x}\,dw
$$
である。
段 3(等比級数に展開する).円周上で $\lvert x/g(w)\rvert\le e\lvert x\rvert<1$ なので
$$
\frac1{g(w)-x}=\sum_{k=0}^\infty\frac{x^k}{g(w)^{k+1}}
$$
は円周上で一様に収束し、項別に積分できる。よって $\omega(x)=\sum_{k\ge0}c_kx^k$、$c_k:=\frac1{2\pi i}\oint_{\lvert w\rvert=1}\frac{wg'(w)}{g(w)^{k+1}}\,dw$ である。
段 4(係数を計算する).$k=0$ では $wg'(w)/g(w)=1+w$ は正則なので $c_0=0$ である。$k\ge1$ では $\frac{d}{dw}g(w)^{-k}=-kg'(w)g(w)^{-k-1}$ と積の微分から
$$
\frac{wg'(w)}{g(w)^{k+1}}=-\frac1k\,w\frac{d}{dw}g(w)^{-k}=-\frac1k\frac{d}{dw}\bigl(wg(w)^{-k}\bigr)+\frac1kg(w)^{-k}
$$
である。円周の近くで正則な関数の導関数の閉曲線に沿う積分は $0$ なので、
$$
c_k=\frac1k\cdot\frac1{2\pi i}\oint_{\lvert w\rvert=1}\frac{e^{-kw}}{w^k}\,dw=\frac1k\cdot\frac{(-k)^{k-1}}{(k-1)!}=\frac{(-k)^{k-1}}{k!}
$$
である。真ん中の等号は、被積分関数の $w=0$ での留数が $e^{-kw}=\sum_j(-k)^jw^j/j!$ の $w^{k-1}$ の係数であることによる。
段 5(収束半径と実数の場合).$a_n:=(-n)^{n-1}/n!$ とおくと $\lvert a_{n+1}/a_n\rvert=(n+1)^{n-1}/n^{n-1}=(1+1/n)^{n-1}\to e$ なので、収束半径は $1/e$ である。$x$ が実数なら、$\overline{\omega(x)}$ も $we^w=x$ の円板内の解なので、一意性から $\omega(x)$ は実数である。$-1/e< x<1/e$ の実数解のうち $W_{-1}(x)$ は $-1$ 以下で円板の外にあり、$W_0(x)$ は $-1< W_0(x)< W_0(1/e)<1$ を満たす($g(1)=e>1/e$ と単調性)。よって $\omega(x)=W_0(x)$ である。$\square$
この証明は、逆関数の Taylor 係数を留数で求める一般的な方法を、$g(w)=we^w$ の場合に直接実行したものである。段 4 の部分積分で $1/g^{k+1}$ を $1/g^k$ に下げたことで、係数が $e^{-kw}$ の展開の 1 つの係数に帰着した。級数は $x=1$ では収束しない(係数の大きさ $n^{n-1}/n!$ は増大する)が、$W_0(1)\approx0.567143$ は存在する。$\lvert x\rvert\ge1/e$ の値を求めるには、Newton法 などで $we^w=x$ を数値的に解けばよい。
$x\ge e$ について
$$
\log x-\log\log x\le W_0(x)\le\log x
$$
であり、$x\to\infty$ で $W_0(x)-(\log x-\log\log x)\to0$ である。
$w:=W_0(x)$ とおく。$W_0(e)=1$ と単調性から $x\ge e$ で $w\ge1$ である。$we^w=x$ の対数をとって $w+\log w=\log x$ である。$\log w\ge0$ なので $w\le\log x$ であり、すると $\log w\le\log\log x$ なので $w=\log x-\log w\ge\log x-\log\log x$ である。さらに
$$
w-(\log x-\log\log x)=\log\log x-\log w=\log\frac{\log x}{w}=\log\Bigl(1+\frac{\log w}{w}\Bigr)
$$
であり、$x\to\infty$ で $w\to\infty$($W_0$ は狭義増加で上に有界でない)なので $\log w/w\to0$、右辺は $0$ に近づく。$\square$
差は $\log(1+\log w/w)$ なのでゆっくりとしか $0$ に近づかない。$x=10^{16}$ でも $W_0(x)\approx33.3348$ に対し $\log x-\log\log x\approx33.2347$ で、差は約 $0.100$ である。より詳しい漸近展開は DLMF26 の式 4.13.10 にある(この記事では証明しない)。
実数 $a\neq0$ について、$e^x=ax$ の実数解は、$-1/a$ で定義されている枝 $k\in\{0,-1\}$ についての $x=-W_k(-1/a)$ の全体である。とくに実数解の個数は、$a<0$ で $1$、$0< a< e$ で $0$、$a=e$ で $1$($x=1$)、$a>e$ で $2$ である。
$e^x\neq0$、$a\neq0$ なので、$e^x=ax$ は $xe^{-x}=1/a$、すなわち $(-x)e^{-x}=-1/a$ と同値である。よって $w=-x$ が $we^w=-1/a$ の実数解であることと同値であり、thm-lw-real の 2 から解は $W_0(-1/a)$ と($-1/e<-1/a<0$ のとき)$W_{-1}(-1/a)$ である。$a<0$ なら $-1/a>0$ で解は 1 つ、$0< a< e$ なら $-1/a<-1/e$ で解はなく、$a=e$ なら $-1/a=-1/e$ で $w=-1$ だけ、$a>e$ なら $-1/e<-1/a<0$ で 2 つである。$\square$
$x^x=y$($x>0$)も同じように解ける。$u=\log x$ とおくと $ue^u=\log y$ なので、$y\ge1$ なら $x=e^{W_0(\log y)}$ である。$y>1$ では $e^{W_0(\log y)}=\log y/W_0(\log y)$ とも書ける。
複素数 $z$ について $we^w=z$ の解は無限個あり、それらを $W_k(z)$($k\in\mathbb{Z}$)で表す。主枝 $W_0$ は $\mathbb{C}\setminus(-\infty,-1/e]$ で正則、ほかの枝 $W_k$ は $\mathbb{C}\setminus(-\infty,0]$ で正則であり、$-1/e$ は平方根型、$0$($k\neq0$ の枝)は対数型の分岐点である(DLMF26 §4.13。この記事では証明しない)。微分の公式 $W'=W/(z(1+W))$ はどの枝でも成り立つ(同 式 4.13.4)。
prop-lw-equation で $a=3>e$ なので解は 2 つで、$-1/3\in(-1/e,0)$ から
$$
x=-W_0(-1/3)\approx0.619061,\qquad x=-W_{-1}(-1/3)\approx1.512135
$$
である。$a=-1$ なら解は $x=-W_0(1)\approx-0.567143$ の 1 つ、$a=1$ なら解はない。これは 定数分離と方程式の実数解の個数 で $e^x/x=a$ の解の個数として求めた結果($a=-1,1,3$ でそれぞれ 1 個、0 個、2 個)と一致する。
$u=\log x$ とおくと $ue^u=\log2\approx0.693147$ なので $u=W_0(\log2)\approx0.444436$、$x=e^u=\log2/W_0(\log2)\approx1.559610$ である。
$y'(t)=ay(t-1)$($a$ は実数)が $y=e^{st}$ の形の解をもつ条件は $se^{st}=ae^{s(t-1)}$、すなわち $se^s=a$ である。よって $s$ は Lambert W 関数の値である。$a=1$ なら実数の $s=W_0(1)\approx0.567143$ があり、解 $e^{0.567143\,t}$ は増大する。$a=-1<-1/e$ なら実数の $s$ はなく(thm-lw-real の 2)、複素数の解 $s\approx-0.318132\pm1.337236i$(数値計算による値)が減衰振動 $e^{-0.318132\,t}\cos(1.337236\,t)$ などを与える。
$T(x):=-W_0(-x)$($\lvert x\rvert<1/e$)とおくと、thm-lw-series から
$$
T(x)=\sum_{n=1}^\infty\frac{n^{n-1}}{n!}x^n=x+x^2+\frac32x^3+\frac83x^4+\cdots
$$
である。係数の $n^{n-1}$ は、$\{1,\ldots,n\}$ 上のラベル付き木と根の組の個数に等しい(Cayleyの公式 の系「完全グラフの全域木と根付き木」)。$W_0(-x)e^{W_0(-x)}=-x$ を書き直すと、$T$ は $T(x)=xe^{T(x)}$ を満たす。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $x\ge-1/e$ | $x=-1/2$ | $we^w=x$ の実数解が存在しない($we^w\ge-1/e$) |
| 枝の指定 $w\ge-1$ | $x=-0.2$ | 実数解が 2 つ($\approx-0.259171$ と $\approx-2.542641$)あり、値が 1 つに決まらない |
| $\lvert x\rvert<1/e$ | $x=1$ | thm-lw-series の級数は発散するが、$W_0(1)\approx0.567143$ は存在する |
| $x>-1/e$ | $x=-1/e$ | $W_0$ は微分可能でない(右側の差分商が $+\infty$ に発散) |
| $x\ge1/e$ | $x=e^{-2}$ | $W_0(x\log x)=W_0(-2/e^2)\approx-0.406376$ で、$\log x=-2$ と違う |
1 行目:thm-lw-real の 1 から $g$ の最小値は $g(-1)=-1/e$ である。2 行目:$-1/e\approx-0.367879<-0.2<0$ で thm-lw-real の 2。3 行目:$x=1$ では項の大きさ $n^{n-1}/n!$ が $n=10$ で約 $275.6$、$n=20$ で約 $2.2\times10^6$ と増え、$0$ に近づかない。4 行目:thm-lw-real の後の注意。5 行目:$-2/e^2\approx-0.270671\in(-1/e,0)$ で、$w=-2$ は $we^w=-2/e^2$ を満たすが $w\le-1$ なので $W_{-1}(-2/e^2)=-2$ であり、$W_0(-2/e^2)$ は $-1$ より大きいもう一方の解である。
| 誤り | 正しくは | なぜ |
|---|---|---|
| $W(xe^x)=x$ がすべての実数 $x$ で成り立つ | $x\ge-1$ なら $W_0$、$x\le-1$ なら $W_{-1}$ | 枝の値域(def-lw-def) |
| $-1/e< x<0$ でも解は 1 つ | 2 つ($W_0$ と $W_{-1}$) | thm-lw-real の 2 |
| 原点の級数で $W_0(1)$ を計算する | 収束半径は $1/e$。Newton 法などを使う | thm-lw-series |
| $W_0(x)\approx\log x$ で十分 | 差は $\log\log x$ 程度残る | thm-lw-asymptotic |
| $e^x=ax$ はいつも解ける | $0< a< e$ では実数解がない | prop-lw-equation |
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