Brezis–Liebの補題(Brezis–Lieb lemma)とは、$0<p<\infty$ のとき、$\int|f_n|^p\,d\mu$ が有界でほとんど至る所 $f$ に収束する関数列について、$\int|f_n|^p-\int|f_n-f|^p$ が $\int|f|^p$ に収束するという補題である。Fatou の補題の不等式の差が、残りの部分 $f_n-f$ の $p$ 乗積分でちょうど表されることを意味する。$\varepsilon$ つきの冪の差の評価と優収束定理で示され、系として、ほとんど至る所の収束と $\int|f_n|^p\to\int|f|^p$ から $\int|f_n-f|^p\to0$ が従う。
関数の列 $f_n$ がほとんど至る所 $f$ に収束しても、積分 $\int|f_n|^p$ が $\int|f|^p$ に収束するとは限らない。Fatouの補題 が保証するのは不等式
$$
\int|f|^p\,d\mu\le\liminf_{n\to\infty}\int|f_n|^p\,d\mu
$$
だけで、差は「極限に残らなかった部分」が持ち去っている。Brezis–Liebの補題は、この差をちょうど $\int|f_n-f|^p$ で言い当てる。$(f_n)$ が $L^p$ で有界でほとんど至る所 $f$ に収束するなら
$$
\int|f_n|^p\,d\mu-\int|f_n-f|^p\,d\mu\longrightarrow\int|f|^p\,d\mu
$$
である。$|f_n|^p$ の積分は、極限 $f$ の分と、ほとんど至る所 $0$ に近づく残り $f_n-f$ の分に、漸近的に分かれる。名前は H. Brezis と E. H. Lieb による。
$p=2$ なら、展開 $|f_n|^2=|f_n-f|^2+2\operatorname{Re}\bigl((f_n-f)\bar f\bigr)+|f|^2$ から、交差項の積分が $0$ に近づくことと同じである。$p\ne2$ では展開が使えないが、交差項にあたる部分を数の不等式で抑えて、優収束定理 で処理できる。
主な帰結は「ほとんど至る所の収束とノルムの収束から、ノルムでの収束が従う」という判定法である(cor-bl-norm)。
以下、$(X,\mathcal M,\mu)$ を測度空間とし(σ-有限性は仮定しない)、関数は実数値または複素数値とする。$0< p<\infty$ について $\int|f|^p\,d\mu<\infty$ となる可測関数の空間を $L^p$ と書く($0< p<1$ では $\bigl(\int|f|^p\bigr)^{1/p}$ はノルムでないが、この記事では積分 $\int|f|^p$ だけを扱う)。
$0< p<\infty$ とする。任意の $\varepsilon>0$ に対し定数 $C_\varepsilon$ があって、すべての複素数 $a,b$ について
$$
\bigl||a+b|^p-|a|^p\bigr|\le\varepsilon|a|^p+C_\varepsilon|b|^p
$$
が成り立つ。$0< p\le1$ なら $\varepsilon=0$、$C_0=1$ としてよい。
$0< p\le1$ の場合。$s,t\ge0$、$s+t>0$ なら、$[0,1]$ 上で $x^p\ge x$ なので
$$
\Bigl(\frac s{s+t}\Bigr)^p+\Bigl(\frac t{s+t}\Bigr)^p\ge\frac s{s+t}+\frac t{s+t}=1,
$$
すなわち $(s+t)^p\le s^p+t^p$ である。これと三角不等式から $|a+b|^p\le|a|^p+|b|^p$、$|a|^p\le|a+b|^p+|b|^p$ であり、$\bigl||a+b|^p-|a|^p\bigr|\le|b|^p$ を得る。
$1< p<\infty$ の場合。$s:=|a+b|$、$t:=|a|$ と置くと $|s-t|\le|b|$ である。$u\mapsto u^p$ に平均値の定理を使うと
$$
|s^p-t^p|\le p\max(s,t)^{p-1}|s-t|\le p(|a|+|b|)^{p-1}|b|\le p\,2^{p-1}\bigl(|a|^{p-1}|b|+|b|^p\bigr)
$$
である($(|a|+|b|)^{p-1}\le\bigl(2\max(|a|,|b|)\bigr)^{p-1}\le2^{p-1}(|a|^{p-1}+|b|^{p-1})$)。$p'=p/(p-1)$ とし、$\eta>0$ について 2 つの数の Young の不等式(凸関数 の記事の系「Youngの不等式」)を $\eta|a|^{p-1}$ と $|b|/\eta$ に使うと、$(p-1)p'=p$ から
$$
|a|^{p-1}|b|\le\frac{\eta^{p'}}{p'}|a|^p+\frac1{p\,\eta^p}|b|^p
$$
である。$p\,2^{p-1}\eta^{p'}/p'\le\varepsilon$ となる $\eta$ を選べば、$C_\varepsilon:=p\,2^{p-1}\bigl(1+\frac1{p\eta^p}\bigr)$ で主張が成り立つ。$\square$
$a$ を $f_n-f$、$b$ を $f$ として使うので、右辺の第 1 項は「消えていく部分」$|f_n-f|^p$ に小さい係数 $\varepsilon$ を掛けたものになる。$1< p$ では $\varepsilon=0$ にはできない($b$ を固定して $|a|\to\infty$ とすると左辺は $p|a|^{p-1}|b|$ 程度に増える)。
$0< p<\infty$ とし、可測関数の列 $(f_n)$ と可測関数 $f$ が次を満たすとする。
$f\in L^p$ は Fatouの補題 の記事の命題「$L^p$ ノルムの下半連続性」による($0< p<\infty$ で、$\int|f|^p\le\liminf_n\int|f_n|^p$)。$(s+t)^p\le2^p\max(s,t)^p\le2^p(s^p+t^p)$ から
$$
S:=\sup_n\int|f_n-f|^p\,d\mu\le2^p\Bigl(\sup_n\int|f_n|^p\,d\mu+\int|f|^p\,d\mu\Bigr)<\infty
$$
である。とくに $f_n$、$f$、$f_n-f$ はほとんど至る所有限な値をとる。
$\varepsilon>0$ を固定し、lem-bl-numeric の $C_\varepsilon$ をとる。
$$
\Phi_n:=\Bigl||f_n|^p-|f_n-f|^p-|f|^p\Bigr|
$$
と置く。lem-bl-numeric を $a=f_n-f$、$b=f$ に使うと $\bigl||f_n|^p-|f_n-f|^p\bigr|\le\varepsilon|f_n-f|^p+C_\varepsilon|f|^p$ なので、
$$
\Phi_n\le\varepsilon|f_n-f|^p+(1+C_\varepsilon)|f|^p
$$
である。そこで $W_n:=\bigl(\Phi_n-\varepsilon|f_n-f|^p\bigr)^+$ と置くと
$$
0\le W_n\le(1+C_\varepsilon)|f|^p
$$
であり、右辺は可積分である。ほとんど至る所 $f_n-f\to0$、$|f_n|^p\to|f|^p$ なので $\Phi_n\to0$、したがって $W_n\to0$ がほとんど至る所成り立つ。優収束定理 により $\int W_n\,d\mu\to0$ である。$\Phi_n\le W_n+\varepsilon|f_n-f|^p$ だから
$$
\int\Phi_n\,d\mu\le\int W_n\,d\mu+\varepsilon S
$$
であり、$\limsup_n\int\Phi_n\,d\mu\le\varepsilon S$ を得る。$\varepsilon>0$ は任意なので $\int\Phi_n\,d\mu\to0$ である。後半は $\bigl|\int|f_n|^p-\int|f_n-f|^p-\int|f|^p\bigr|\le\int\Phi_n$ による(3 つの積分はどれも有限)。$\square$
$0< p\le1$ のときは $\varepsilon=0$ にとれるので、$\Phi_n\le2|f|^p$ を優関数として直接 優収束定理 を使える。この場合、$f\in L^p$ を仮定しておけば、1 の有界性を使わずに $\int\Phi_n\,d\mu\to0$ が従う(後半の等式には、各 $n$ で $\int|f_n|^p\,d\mu<\infty$ であることが要る)。$1< p<\infty$ では 1 は外せない(下の反例の表の 1 行目)。
主定理から、
$$
\liminf_{n\to\infty}\int|f_n|^p\,d\mu=\int|f|^p\,d\mu+\liminf_{n\to\infty}\int|f_n-f|^p\,d\mu
$$
($\liminf$ を $\limsup$ に替えても同じ)である。Fatou の補題の不等式が等号になるのは、右辺の第 2 項が $0$ のとき、すなわち $f_n-f$ の $p$ 乗積分が(部分列に沿って)$0$ に近づくときに限る。
$0< p<\infty$、$f_n,f\in L^p$ とし、ほとんど至る所 $f_n\to f$ かつ $\int|f_n|^p\,d\mu\to\int|f|^p\,d\mu$ とする。このとき $\int|f_n-f|^p\,d\mu\to0$ である。
収束する数列は有界なので $\sup_n\int|f_n|^p<\infty$ であり、thm-bl-main が使える。$\int|f_n-f|^p=\int|f_n|^p-\int|f|^p+o(1)$ の右辺は $0$ に近づく。$\square$
$p=1$ の場合は Vitaliの収束定理 の記事の命題「ノルムの収束による判定」でもある。非負の関数で積分が収束する場合は、Fatouの補題 の記事の定理「積分の収束と $L^1$ 収束」(Scheffé の定理)がこれにあたる。
系の仮定 $\int|f_n|^p\to\int|f|^p$ は外せない。$(0,1)$ 上の $f_n=n^{1/p}\mathbf 1_{(0,1/n)}$ はほとんど至る所 $0$ に収束するが、$\int|f_n|^p=1$ は $0$ に近づかず、$\int|f_n-0|^p=1$ のままである。この列では主定理は $1-1\to0$ という当たり前の形になる。
$f_n$ が $f$ に測度収束するとは、任意の $\eta>0$ について $\mu(\{|f_n-f|>\eta\})\to0$ となることをいう(Egorovの定理 の記事の定義「ほとんどいたるところの収束とほとんど一様収束」の 3 と同値)。主定理の仮定 2 は、測度収束に弱めてもよい。
$0< p<\infty$ とし、可測関数の列 $(f_n)$ が $\sup_n\int|f_n|^p\,d\mu<\infty$ を満たし、ほとんど至る所有限な可測関数 $f$ に測度収束するとする。このとき $f\in L^p$ であり、thm-bl-main と同じ結論が成り立つ。
部分列の取り出し。$f$ に測度収束する列 $(h_k)$ は、ほとんど至る所 $f$ に収束する部分列をもつ。実際、$\mu(B_j)<2^{-j}$、$B_j:=\{|h_{k_j}-f|>2^{-j}\}$ となる $k_1< k_2<\cdots$ がとれる。$B:=\bigcap_m\bigcup_{j\ge m}B_j$ は $\mu(B)\le\sum_{j\ge m}2^{-j}=2^{1-m}$ がすべての $m$ で成り立つので零集合であり、$x\notin B$ ならある $m$ 以降 $|h_{k_j}(x)-f(x)|\le2^{-j}$ である。
結論。$(f_n)$ のほとんど至る所 $f$ に収束する部分列に Fatouの補題 の記事の命題「$L^p$ ノルムの下半連続性」を使えば $f\in L^p$ である。$a_n:=\int\Phi_n\,d\mu$($\Phi_n$ は prf-bl-main と同じ)と置く。$(f_n)$ の任意の部分列も $f$ に測度収束するので、上の議論により、さらにほとんど至る所 $f$ に収束する部分列がとれ、それに沿って thm-bl-main から $a_n\to0$ である。実数列 $(a_n)$ のどの部分列も $0$ に収束する部分列をもつので、$a_n\to0$ である(そうでなければ、ある $\eta>0$ と部分列で $a_n\ge\eta$ となり矛盾する)。$\square$
確率空間では、測度収束は確率収束のことである。確率変数の列 $X_n$ が $X$ に確率収束し、$E|X_n|^p$ が有界なら、$E|X_n|^p-E|X_n-X|^p\to E|X|^p$ となる。
$X=\mathbb{R}^N$(Lebesgue 測度)、$0< p<\infty$ とし、$f\in L^p(\mathbb{R}^N)$ と、台がコンパクトな連続関数 $\varphi\ne0$ を固定する。$e\in\mathbb{R}^N$ を単位ベクトルとして
$$
g_n(x):=\varphi(x-ne),\qquad k_n(x):=n^{N/p}\varphi(nx)
$$
と置く。どちらも $\int|g_n|^p=\int|k_n|^p=\int|\varphi|^p$ であり(変数変換)、各 $x$ について $g_n(x)\to0$、$x\ne0$ なら $k_n(x)\to0$ である($\varphi$ の台がコンパクトなので、$n$ が大きければ $x-ne$ も $nx$ も台の外にある)。
$f_n:=f+g_n$ と置くと、$f_n\to f$ がいたるところ成り立ち、$\int|f_n|^p\le2^p\bigl(\int|f|^p+\int|\varphi|^p\bigr)$ は有界である。$f_n-f=g_n$ なので thm-bl-main から
$$
\int|f+g_n|^p\,dx\longrightarrow\int|f|^p\,dx+\int|\varphi|^p\,dx
$$
である。$k_n$ についても、$x\ne0$ で $f_n=f+k_n\to f$ なので同じ極限を得る。どちらの場合も $f_n$ は $f$ に $L^p$ で収束しない。$g_n$ は無限遠へ逃げ、$k_n$ は原点に集まって、$\int|\varphi|^p$ だけの「質量」を持ち去る。
$p=2$ なら、交差項 $\int g_n\bar f$ が $0$ に近づくことから直接わかる(Schwarz の不等式で $|\int g_n\bar f|\le\|\varphi\|_2\bigl(\int_{\operatorname{supp}g_n}|f|^2\bigr)^{1/2}$ と抑え、右辺に優収束定理を使う。$k_n$ でも同じ)。$p\ne2$ では、$f$ と $g_n$ の台が重なる部分の寄与を数の不等式で抑えるところに主定理が効いている。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 1 の有界性($1< p<\infty$) | $(0,1)$ 上の $f=1$、$f_n=1+n^{1/(p-1)}\mathbf 1_{(0,1/n)}$ | $\int\lvert f_n\rvert^p-\int\lvert f_n-f\rvert^p\to\int\lvert f\rvert^p$ |
| 2 のほとんど至る所の収束($L^p$ の弱収束にする、$1< p<\infty$、$p\ne2$) | $(0,1)$ 上の $f=1$、$f_n=1+r_n$($r_n(x)=(-1)^{\lfloor2^nx\rfloor}$) | 同じ等式 |
1 行目:$x>0$ なら $n>1/x$ で $f_n(x)=1$ なので、ほとんど至る所 $f_n\to f$ である。$c_n:=n^{1/(p-1)}$ と置くと $\int|f_n|^p\ge c_n^p/n=n^{1/(p-1)}\to\infty$ で、1 は成り立たない。平均値の定理から $(1+c)^p-c^p\ge pc^{p-1}$ なので
$$
\int|f_n|^p-\int|f_n-f|^p=\frac{(1+c_n)^p-c_n^p}{n}+\Bigl(1-\frac1n\Bigr)\ge p+1-\frac1n
$$
であり、左辺は $\int|f|^p=1$ に近づかない。
2 行目:$|f_n|^p$ は $(0,1)$ の半分で $2^p$、残りで $0$ なので $\int|f_n|^p=2^{p-1}$ であり、$\int|f_n-f|^p=\int|r_n|^p=1$、$\int|f|^p=1$ である。等式 $2^{p-1}-1=1$ は $p=2$ のときに限る。一方 $(f_n)$ は $L^p$ で有界で、$1$ に弱収束する。
$g\in L^{p'}(0,1)\subset L^1(0,1)$ について $\int_0^1r_ng\to0$ を示せばよい。長さ $2^{-m}$ の 2 進区間 $J$ と $n>m$ について、$J$ は長さ $2^{-n}$ の区間 $2^{n-m}$ 個(偶数個)に分かれ、$r_n$ はそこで $1$ と $-1$ を交互にとるので $\int_Jr_n=0$ である。したがって 2 進区間の指示関数の 1 次結合 $s$ について、$n$ が大きければ $\int r_ns=0$ である。連続でコンパクトな台をもつ関数は $L^1(0,1)$ で稠密で(Bre11 Theorem 4.12、p. 97)、一様連続なので 2 進区間の上で定数の関数で一様に近似できるから、そのような $s$ は $L^1(0,1)$ で稠密である。$\|g-s\|_1<\eta$ となる $s$ をとれば、$|r_n|\le1$ から $\limsup_n|\int r_ng|\le\eta$ である。
Bre11 では、$1< p<\infty$ の場合が Exercise 4.17("Brezis–Lieb's lemma"、p. 123)の演習とされ、ヒントは $|a+b|^p-|a|^p-|b|^p$ を $|a|^{p-1}|b|+|a||b|^{p-1}$ で抑え、$L^p$ と $L^{p'}$ の弱収束(同書 Exercise 4.16)を使う道筋である。$p=1$ の場合は同書 Exercise 4.13(p. 121)である。同書の第 4 章は測度空間の σ-有限性を仮定している(p. 89)。この記事では、$\varepsilon$ つきの数の不等式(lem-bl-numeric)と優収束定理によって $0< p<\infty$ と一般の測度空間をまとめて扱った。この方針では弱収束を使わない。
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