馬蹄補題(horseshoe lemma)とは、アーベル圏の短完全列 $0\to A'\to A\to A''\to0$ と両端の射影分解 $P'$、$P''$ が与えられたとき、中央 $A$ の射影分解 $P$ を各次数で $P'_n\oplus P''_n$ の形に作り、次数ごとに分裂する複体の短完全列 $0\to P'\to P\to P''\to0$ がもとの列の上に乗るようにできるという定理である。証明は、右端の生成元を射影性で中央へ持ち上げ、蛇の補題で核の短完全列を得る操作を繰り返す。中央の微分の非対角成分はもとの列の拡大を記録し、列が分裂するときに限りすべて $0$ にとれる。入射分解についての双対版とともに、導来関手の長完全列や Cartan–Eilenberg 分解の構成に使われる。
導来関手 は、対象を 射影分解 や 入射分解 で置き換えてから関手を施し、ホモロジーをとって作る。短完全列 $0\to A'\to A\to A''\to0$ から導来関手の長完全列を作るには、3 つの対象の分解を、それ自身が複体の短完全列になるように選ぶ必要がある。馬蹄補題(horseshoe lemma)は、両端 $A'$、$A''$ の射影分解を先に好きに選べば、中央 $A$ の射影分解を各次数で $P'_n\oplus P''_n$ の形に組み立てられ、複体の短完全列 $0\to P'\to P\to P''\to0$ が得られることを保証する。図に描くと、左右の分解が馬蹄の 2 本の脚になり、その間を中央の分解で埋める形になる。
中央の分解は次数ごとには直和だが、複体としては直和とは限らない。微分には $P''$ から $P'$ への成分が現れ、もとの短完全列がどう拡大しているかはこの成分に記録される。入射分解についての双対版は、δ-関手 の長完全列や Cartan–Eilenberg分解 の構成に使われる。
以下、$\mathcal A$ を アーベル圏 とする。対象 $A$ の 射影分解 とは、射影対象 $P_n$($n\ge0$)からなる鎖複体 $P=(P_n,d_n)$ と射 $\varepsilon\colon P_0\to A$(増大射)の組で、
$$
\cdots\to P_2\xrightarrow{d_2}P_1\xrightarrow{d_1}P_0\xrightarrow{\varepsilon}A\to0
$$
が完全列になるものをいう(導来関手 の定義「射影分解・入射分解」)。項が射影的とは限らない場合は、単に 分解 という。
鎖複体の短完全列 $0\to X'\xrightarrow{\iota}X\xrightarrow{\rho}X''\to0$ が 次数ごとに分裂する とは、各 $n$ で $0\to X'_n\to X_n\to X''_n\to0$ が分裂する短完全列であることをいう。このとき $X_n=X'_n\oplus X''_n$、$\iota_n$ を第 1 成分への包含、$\rho_n$ を第 2 成分への射影と書き直せる。$\iota$、$\rho$ が鎖写像であることから、微分は
$$
d_n=\begin{pmatrix}d'_n&\alpha_n\\0&d''_n\end{pmatrix}\colon X'_n\oplus X''_n\to X'_{n-1}\oplus X''_{n-1}
$$
の形になる。$\alpha_n\colon X''_n\to X'_{n-1}$ をこの分裂に関する 非対角成分 という。
$d_{n-1}d_n=0$ の右上の成分を見ると、$d'_{n-1}\alpha_n+\alpha_{n-1}d''_n=0$ である。短完全列が複体として分裂する($\iota$、$\rho$ と両立する同型 $X\cong X'\oplus X''$ がある)のは、各次数の分裂を選び直して非対角成分をすべて $0$ にできるときである。
下の thm-horseshoe-lemma の証明の各段は、次の補題の繰り返しである。
$0\to K'\xrightarrow{j}K\xrightarrow{q}K''\to0$ をアーベル圏の短完全列、$e'\colon Q'\to K'$、$e''\colon Q''\to K''$ をエピ射とし、$Q''$ は射影対象とする。このとき、射 $e\colon Q'\oplus Q''\to K$ で次をみたすものがある。
$Q''$ は射影的で $q$ はエピ射なので、$q\circ\lambda=e''$ となる射 $\lambda\colon Q''\to K$ がある。$e:=(j\circ e',\ \lambda)\colon Q'\oplus Q''\to K$ とおく。第 1 成分は $j\circ e'$ で、$q\circ e=(q\circ j\circ e',\ q\circ\lambda)=(0,\ e'')=e''\circ\mathrm{pr}_2$ なので 1 が成り立つ。
次の図式を考える。上の行は直和の分裂する短完全列、下の行は与えられた短完全列で、縦の射は $e'$、$e$、$e''$ である。
$$
\begin{array}{ccccccccc}
0&\to&Q'&\xrightarrow{\mathrm{in}_1}&Q'\oplus Q''&\xrightarrow{\mathrm{pr}_2}&Q''&\to&0\\
&&\downarrow{\scriptstyle e'}&&\downarrow{\scriptstyle e}&&\downarrow{\scriptstyle e''}&&\\
0&\to&K'&\xrightarrow{j}&K&\xrightarrow{q}&K''&\to&0
\end{array}
$$
1 により 2 つの四角は可換である。蛇の補題 の定理「蛇の補題」から
$$
0\to\ker e'\to\ker e\to\ker e''\to\operatorname{coker}e'\to\operatorname{coker}e\to\operatorname{coker}e''\to0
$$
は完全である。$e'$、$e''$ はエピ射なので $\operatorname{coker}e'=\operatorname{coker}e''=0$ であり、完全性から $\operatorname{coker}e=0$、すなわち $e$ はエピ射である。また $\ker e''\to\operatorname{coker}e'=0$ なので、核の列は短完全列である。$\square$
$\mathcal A$ をアーベル圏とし、短完全列
$$
0\to A'\xrightarrow{i}A\xrightarrow{\pi}A''\to0
$$
と、$A'$、$A''$ の射影分解 $\varepsilon'\colon P'\to A'$、$\varepsilon''\colon P''\to A''$ が与えられているとする。このとき $A$ の射影分解 $\varepsilon\colon P\to A$ で次をみたすものがある。
$K'_{-1}:=A'$、$K_{-1}:=A$、$K''_{-1}:=A''$ とし、$d'_0:=\varepsilon'$、$d''_0:=\varepsilon''$ とおく。$n\ge0$ について、$P'$ と $P''$ の完全性から
$$
d'_n\colon P'_n\to K'_{n-1}:=\ker d'_{n-1},\qquad d''_n\colon P''_n\to K''_{n-1}:=\ker d''_{n-1}
$$
はエピ射である($n=0$ では $\varepsilon'$、$\varepsilon''$ がエピ射であること、$n\ge1$ では $\operatorname{im}d'_n=\ker d'_{n-1}$ による)。
$n$ について帰納的に、エピ射 $e_n\colon P_n=P'_n\oplus P''_n\to K_{n-1}$ と短完全列 $0\to K'_{n}\to K_{n}\to K''_{n}\to0$($K_n:=\ker e_n$)を作る。$n=0$ では、もとの短完全列と $e'=\varepsilon'$、$e''=\varepsilon''$ に lem-horseshoe-step を当てて $e_0=:\varepsilon$ を得る。核の列 $0\to\ker\varepsilon'\to\ker\varepsilon\to\ker\varepsilon''\to0$ は $0\to K'_0\to K_0\to K''_0\to0$ である。$n\ge1$ では、前の段で得た短完全列 $0\to K'_{n-1}\to K_{n-1}\to K''_{n-1}\to0$ と、エピ射 $d'_n$、$d''_n$ に同じ補題を当てる。$P''_n$ は射影的なので補題の仮定はみたされ、$e_n$ と、核の短完全列 $0\to\ker d'_n\to\ker e_n\to\ker d''_n\to0$、すなわち $0\to K'_n\to K_n\to K''_n\to0$ が得られる。
$n\ge1$ について $d_n\colon P_n\xrightarrow{e_n}K_{n-1}\hookrightarrow P_{n-1}$ と定める。
分解であること。$K_{n-1}\hookrightarrow P_{n-1}$ はモノ射なので $\ker d_n=\ker e_n=K_n$ であり、$e_{n+1}$ はエピ射なので $\operatorname{im}d_{n+1}=K_n$ である。よって $\operatorname{im}d_{n+1}=\ker d_n$($n\ge1$)、$\operatorname{im}d_1=K_0=\ker\varepsilon$ であり、$\varepsilon$ はエピ射である。$d_{n-1}d_n=0$ も $\operatorname{im}d_n\subset\ker d_{n-1}$ から従う。$P_n=P'_n\oplus P''_n$ は射影対象の直和なので射影的である。よって $\varepsilon\colon P\to A$ は射影分解である。
$\iota$、$\rho$ が鎖写像であること。核の列の射 $K'_{n-1}\to K_{n-1}\to K''_{n-1}$ は、包含 $\iota_{n-1}$ と射影 $\rho_{n-1}$ を核に制限したものである。補題の 1 から $e_n\circ\iota_n$ は $d'_n\colon P'_n\to K'_{n-1}$ と $K'_{n-1}\to K_{n-1}$ の合成なので、$K_{n-1}\hookrightarrow P_{n-1}$ と合成して $d_n\circ\iota_n=\iota_{n-1}\circ d'_n$ を得る。同様に、補題の 1 の後半を $P''_{n-1}$ への包含と合成すると $\rho_{n-1}\circ d_n=d''_n\circ\rho_n$ である。$n=0$ の段の補題の 1 は、主張の 2 そのものである。$\square$
同じ証明は Wei94 Horseshoe Lemma 2.2.8(pp. 37–38)にある。証明で射影性を使ったのは、各 $P''_n$ から持ち上げる 1 か所だけである。$P'$ が射影的でない分解でも、同じ構成で $A$ の分解 $P$ と次数ごとに分裂する短完全列が得られる(CE56 Chapter V, Proposition 2.2、p. 80 は加群の圏でこの形に述べている)。ただしそのとき $P_n$ は射影的とは限らない(下の反例の表の 2 行目)。
$\mathcal A$ をアーベル圏、$0\to A'\to A\to A''\to0$ を短完全列とし、$A'\to I'$、$A''\to I''$ を入射分解とする。このとき $A$ の入射分解 $A\to I$ で、$I^n=I'^n\oplus I''^n$ であり、包含 $I'\to I$ と射影 $I\to I''$ が鎖写像で、増大射がもとの列と可換になるものがある。とくに $0\to I'\to I\to I''\to0$ は次数ごとに分裂する余鎖複体の短完全列である。
要点:反対圏 で thm-horseshoe-lemma を使う。
反対圏 $\mathcal A^{\mathrm{op}}$ もアーベル圏であり、$\mathcal A$ の入射対象は $\mathcal A^{\mathrm{op}}$ の射影対象である。$\mathcal A$ の短完全列 $0\to A'\to A\to A''\to0$ は $\mathcal A^{\mathrm{op}}$ では短完全列 $0\to A''\to A\to A'\to0$ になり、入射分解 $A'\to I'^0\to I'^1\to\cdots$ は $\mathcal A^{\mathrm{op}}$ での射影分解 $\cdots\to I'^1\to I'^0\to A'$ になる。$\mathcal A^{\mathrm{op}}$ で thm-horseshoe-lemma を、左端を $A''$、右端を $A'$ として当てると、射影分解 $P\to A$ で $P_n=I''^n\oplus I'^n$、$I''\to P\to I'$ が次数ごとに分裂する短完全列になるものが得られる。直和(双積)は反対圏でも直和であり、$\mathcal A^{\mathrm{op}}$ での包含・射影は $\mathcal A$ での射影・包含になる。$\mathcal A$ に戻して $I^n:=P_n$ とおけば主張を得る。$\square$
構成の各段でしていることは同じである。右端の生成元 $P''_n$ を、射影性を使って中央の対象 $K_{n-1}$ へ持ち上げる。左端の生成元 $P'_n$ はもともと中央の部分対象 $K'_{n-1}$ に入っている。2 つを合わせれば中央が覆われ(蛇の補題で余核が消える)、覆いきれなかった関係式、つまり核も、再び左右の核の短完全列に分かれる。こうして「両端を覆えば中央も覆える」という操作を無限に繰り返したものが馬蹄補題である。
持ち上げ $\lambda$ の選び方には自由度があり、その違いが非対角成分 $\alpha_n$ の違いになる。もとの列が分裂していれば持ち上げを分裂に沿って選べて $\alpha_n=0$ にでき(prop-horseshoe-split)、分裂していなければどう選んでも $\alpha$ は消えない。この意味で、非対角成分は $A$ が $A'$ と $A''$ からどう組み立てられているかを分解の段階で表している。
短完全列の射 $(f',f,f'')$ についても同じ構成ができ、両端の分解の間の鎖写像 $F'$、$F''$ を与えると、中央の分解の間の鎖写像 $F$ を、短完全列の射になるように選べる(加群の圏で、2 つの分解の列がどちらも次数ごとに分裂し、出発点の列の右端の分解が射影的で、行き先の列の左端が分解であるとき。CE56 Chapter V, Proposition 2.3、pp. 80–82)。この記事では証明しない。これは導来関手の長完全列の連結射が自然であることの根拠になる。
$\mathbb Z$ 加群の短完全列 $0\to\mathbb Z/2\xrightarrow{i}\mathbb Z/4\xrightarrow{\pi}\mathbb Z/2\to0$($i(1)=2$)をとり、両端に同じ射影分解 $0\to\mathbb Z\xrightarrow{2}\mathbb Z\to\mathbb Z/2\to0$ を選ぶ。証明の手順どおりに組み立てると、$\mathbb Z/4$ の射影分解
$$
0\to\mathbb Z^2\xrightarrow{\ d_1=\begin{pmatrix}2&-1\\0&2\end{pmatrix}\ }\mathbb Z^2\xrightarrow{\ \varepsilon(a,b)=2a+b\ }\mathbb Z/4\to0
$$
が得られる。非対角成分 $-1$ は $0$ にとれない。$0$ なら $\operatorname{coker}d_1\cong\mathbb Z/2\oplus\mathbb Z/2$ となり、$\mathbb Z/4$ と同型でないからである。
$\pi\circ\lambda=\varepsilon''$ をみたす $\lambda\colon\mathbb Z\to\mathbb Z/4$ として $\lambda(1)=1$ をとると、$\varepsilon(a,b)=i(a\bmod 2)+b=2a+b\pmod 4$ である。$K'_0=K''_0=2\mathbb Z$ で、$d'_1$、$d''_1$ は $1\mapsto2$ である。$K_0=\ker\varepsilon=\{(a,b)\mid 2a+b\equiv0\pmod4\}$ への持ち上げは、$K_0\to K''_0$(第 2 成分)で $2$ に写る元を選べばよく、$(-1,2)$ がそうである。よって $d_1(1,0)=(2,0)$、$d_1(0,1)=(-1,2)$ となる。$\det d_1=4\ne0$ なので $d_1$ は単射で、$K_1=0$ である。$\varepsilon$ は全射で $\varepsilon(2,0)=\varepsilon(-1,2)=0$、$\operatorname{coker}d_1$ の位数は $|\det d_1|=4$ なので、$\varepsilon$ は同型 $\operatorname{coker}d_1\cong\mathbb Z/4$ を誘導し、列は完全である。
この例のように、馬蹄補題の分解は最小とは限らない。$\mathbb Z/4$ には長さが同じで階数の小さい分解 $0\to\mathbb Z\xrightarrow{4}\mathbb Z\to\mathbb Z/4\to0$ があるが、こちらは両端の分解との短完全列にはならない。
thm-horseshoe-lemma の設定で、非対角成分がすべて $0$ の $P$(複体として $P=P'\oplus P''$)を選べるための必要十分条件は、もとの短完全列が分裂することである。
要点:分裂すれば各段の核が直和に分かれ、逆に $P=P'\oplus P''$ なら $0$ 次のホモロジーをとって分裂を得る。
分裂するとし、$s\colon A''\to A$ を $\pi s=\mathrm{id}$ となる射とする。$n=0$ の段で $\lambda:=s\circ\varepsilon''$ を選ぶと、$A=i(A')\oplus s(A'')$ と $\varepsilon=(i\varepsilon',s\varepsilon'')$ から $K_0=K'_0\oplus K''_0$ であり、$K_0\to K''_0$ は第 2 成分への射影である。$n\ge1$ の段では、$K''_{n-1}\to K_{n-1}$ を第 2 成分への包含として $\lambda$ を $d''_n$ とその包含の合成に選べる。帰納的に $K_{n}=K'_{n}\oplus K''_{n}$ が続き、$e_n=d'_n\oplus d''_n$ となるので非対角成分は $0$ である。
逆に、複体として $P=P'\oplus P''$ で、$\iota$、$\rho$ が包含と射影であり増大射の条件をみたすとする。$\varepsilon$ は $\operatorname{coker}d_1=\operatorname{coker}d'_1\oplus\operatorname{coker}d''_1$ から $A$ への同型を誘導し、$\operatorname{coker}d'_1\cong A'$、$\operatorname{coker}d''_1\cong A''$ である。$\varepsilon$ を第 2 成分に制限したものが誘導する射 $s\colon A''\to A$ は、条件 $\varepsilon''\rho_0=\pi\varepsilon$ から $\pi s=\mathrm{id}_{A''}$ をみたす。よってもとの列は分裂する。$\square$
馬蹄補題のいちばんの用途は、導来関手 が短完全列から長完全列を作ることの証明である。
$\mathcal A$ は十分な射影対象をもつアーベル圏、$F\colon\mathcal A\to\mathcal B$ は右完全な加法関手とする。短完全列 $0\to A'\to A\to A''\to0$ に対し、完全列
$$
\cdots\to L_nF(A')\to L_nF(A)\to L_nF(A'')\xrightarrow{\ \partial\ }L_{n-1}F(A')\to\cdots\to L_0F(A'')\to0
$$
がある。双対に、$\mathcal A$ が十分な入射対象をもち $F$ が左完全なら、右導来関手 $R^nF$ について次数の上がる長完全列がある。
要点:次数ごとに分裂する短完全列は加法関手で保たれるので、$F$ を施しても複体の短完全列のままである。
$A'$、$A''$ の射影分解を選び、thm-horseshoe-lemma で $A$ の射影分解 $P$ と次数ごとに分裂する短完全列 $0\to P'\to P\to P''\to0$ を作る。加法関手は有限直和と包含・射影の関係式を保つので、$0\to F(P'_n)\to F(P_n)\to F(P''_n)\to0$ は分裂する短完全列であり、$0\to F(P')\to F(P)\to F(P'')\to0$ は鎖複体の短完全列である。δ-関手 の補題「短完全な複体の列から長完全列」からホモロジーの長完全列が得られ、$H_n(F(P'))=L_nF(A')$ などは導来関手の定義そのものである。列の右端は $L_0F=F$(導来関手 の命題「0次の導来関手はもとの関手に一致する」)と $F$ の右完全性による。入射の場合は cor-horseshoe-injective を使って同じ議論をする。連結射が分解の選び方によらず短完全列について自然であることは、δ-関手 の命題「導来関手の $\delta$-関手構造」で扱う。$\square$
分裂しない短完全列に関手を施すと、一般には完全でなくなる。各次数での分裂が、関手を施したあとも短完全列が保たれる理由である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $P''$ の各項が射影的 | $0\to\mathbb Z\xrightarrow{2}\mathbb Z\to\mathbb Z/2\to0$、$P'$ は $\mathbb Z$ を次数 $0$ に置いた射影分解、$P''$ は $\mathbb Z/2$ を次数 $0$ に置いた分解 | $P_0=\mathbb Z\oplus\mathbb Z/2$ で増大射がもとの列と可換になる $\varepsilon$ がなく、主張の分解は存在しない |
| $P'$ の各項が射影的 | $0\to\mathbb Z/2\to\mathbb Z/4\to\mathbb Z/2\to0$、$P'$ は $\mathbb Z/2$ を次数 $0$ に置いた分解、$P''$ は $0\to\mathbb Z\xrightarrow{2}\mathbb Z\to\mathbb Z/2\to0$ | 分解 $P$ は作れるが $P_0=\mathbb Z/2\oplus\mathbb Z$ は射影的でなく、射影分解にならない |
| $A'\to A$ がモノ射(列の左端の完全性) | $\mathbb Z/2\to0\to0\to0$、$P'$ は $0\to\mathbb Z\xrightarrow{2}\mathbb Z\to\mathbb Z/2\to0$、$P''=0$ | $0\to P'\to P\to P''\to0$ となる $A=0$ の分解 $P$ は存在しない |
1 行目:条件 $\varepsilon\circ\iota_0=2\cdot$ と $\varepsilon''\rho_0=\pi\varepsilon$ から、$x:=\varepsilon(0,1)\in\mathbb Z$ は $\mathbb Z/2$ で $1$ に写る、すなわち奇数である。一方 $2x=\varepsilon(0,2)=\varepsilon(0,0)=0$ なので $x=0$ となり矛盾する。
2 行目:射影性を使った箇所は $P''$ からの持ち上げだけなので、証明の構成はそのまま進み、$\varepsilon(a,b)=i(a)+b\bmod4$ などで分解が得られる。しかし主張は $P_0=P'_0\oplus P''_0$ を要求し、$\mathbb Z/2$ を直和因子にもつ $\mathbb Z$ 加群は射影的でない(射影 $\mathbb Z$ 加群は自由で、捩れをもたない)。
3 行目:$P''=0$ なら $P\cong P'$ で $H_0(P)\cong\mathbb Z/2$ だが、$P$ が $0$ の分解なら $H_0(P)=0$ である。一般に、次数ごとに分裂する $0\to P'\to P\to P''\to0$ が分解の列なら、ホモロジーの長完全列から $0\to A'\to A\to A''\to0$ が完全になるので、左端のモノ射の条件は外せない。
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