Fredholm作用素(Fredholm operator)とは、Banach 空間の間の有界線形作用素で、核と余核(値域の空間を像で割った商)がともに有限次元であるものをいう(このとき像は自動的に閉じている)。核の次元から余核の次元を引いた整数を指数といい、有限次元では空間の次元の差で決まるが、無限次元ではシフト作用素のようにあらゆる整数が現れる。指数は作用素を小さく動かしても、コンパクト作用素を足しても変わらず、合成については和になる。コンパクト多様体上の楕円型作用素は Fredholm 作用素であり、その指数を位相的に計算するのが指数理論である。
Fredholm作用素(Fredholm operator)は、核と余核(値域の空間を像で割った商)がともに有限次元で、像が閉じている有界線形作用素である。核の次元から余核の次元を引いた整数を指数(index)という。
有限次元の線形写像 $T\colon\mathbb C^p\to\mathbb C^q$ では、核の次元と余核の次元はそれぞれ $T$ によって変わるが、その差は次元定理により $p-q$ で、$T$ によらない。Fredholm 作用素は、この「差だけは変わらない」という現象を無限次元に持ち込む枠組みである。無限次元では差が $T$ によって変わりうるが、それでも作用素を少し動かしても、コンパクト作用素を足しても、指数は変わらない。この安定性のおかげで、微分作用素の方程式 $Pu=f$ の解の個数と解けるための条件の個数の差を、作用素を変形して計算できる。コンパクト多様体上の楕円型作用素は Fredholm 作用素であり、その指数を位相的な量で表すのが 指数理論 である。Hodgeの定理 でコホモロジーが有限次元になることも、Laplace 作用素の Fredholm 性の言い換えである。
この記事では、Fredholm 作用素の定義、指数の安定性(小さな摂動・コンパクトな摂動)、パラメトリックスによる特徴づけを証明し、楕円型作用素への応用の形を述べる。
以下、$V,W,X$ は実数体または複素数体の上の Banach 空間、$B(V,W)$ は $V$ から $W$ への有界線形作用素全体(作用素ノルムで Banach 空間になる。Banach空間 の記事の定理「有界線形写像の空間の完備性」)とする。$T\in B(V,W)$ について $\ker T$ を核、$\operatorname{ran}T:=T(V)$ を像、$\operatorname{coker}T:=W/\operatorname{ran}T$ を余核(線形空間としての商)とよぶ。
$T\in B(V,W)$ が次の 3 条件を満たすとき、$T$ を Fredholm 作用素という。
条件 2 は条件 3 から出るので、定義から省いてもよい。
$T\in B(V,W)$ の像が $W$ の中で有限の余次元をもつ($\dim W/\operatorname{ran}T<\infty$)なら、$\operatorname{ran}T$ は閉じている。
$U:=\ker T$ は閉部分空間で、商 $V/U$ は Banach 空間である(開写像定理 の記事の命題「商空間の完備性と商写像」)。$\operatorname{ran}T$ の代数的な補空間 $F$($W=\operatorname{ran}T\oplus F$、$\dim F=r<\infty$)をとり、基底 $f_1,\dots,f_r$ を固定して、
$$
\Phi\colon V/U\oplus\mathbb K^r\to W,\qquad \Phi(x+U,a):=Tx+\sum_{i=1}^ra_if_i
$$
とおく($\mathbb K$ は係数体、左辺にはノルム $\|x+U\|+|a|$ を入れる)。$\Phi$ は代表元によらず、有界で、$\operatorname{ran}T+F=W$ から全射、$\operatorname{ran}T\cap F=0$ と $f_i$ の一次独立性と $\ker T=U$ から単射である。Banach 空間の間の有界な全単射なので、有界逆写像定理 により $\Phi^{-1}$ も有界である。$\operatorname{ran}T=\Phi(V/U\oplus0)$ は、閉部分空間 $V/U\oplus0$ の同相写像 $\Phi$ による像なので閉じている。$\square$
Hilbert 空間 $H_1,H_2$ の間の作用素では、像が閉じていれば $H_2=\operatorname{ran}T\oplus(\operatorname{ran}T)^\perp$ と直交分解でき、$(\operatorname{ran}T)^\perp=\ker T^*$($T^*$ は随伴作用素。Rieszの表現定理 の記事の系「随伴作用素の存在」)なので、余核は $\ker T^*$ と同一視できる:
$$
\operatorname{ind}T=\dim\ker T-\dim\ker T^* .
$$
「解の自由度」から「解けるための条件の個数」を引いたものが指数である:方程式 $Tu=f$ は、$\ker T^*$ に直交する $f$ についてだけ解をもち、解は $\ker T$ の元の分だけ不定である。
$V,W$ が有限次元なら、すべての線形写像 $T\colon V\to W$ は Fredholm 作用素で、次元定理 $\dim V=\dim\ker T+\dim\operatorname{ran}T$ により
$$
\operatorname{ind}T=\dim\ker T-(\dim W-\dim\operatorname{ran}T)=\dim V-\dim W
$$
である。指数は $T$ によらず、空間の次元だけで決まる。たとえば $T=0$ でも $T$ が階数最大でも、$2\times3$ 行列の指数は $3-2=1$ である。
$\ell^2=\ell^2(\mathbb Z_{\ge1})$ 上の右シフト $S$ と左シフト $S^*$ を
$$
S(x_1,x_2,\dots):=(0,x_1,x_2,\dots),\qquad S^*(x_1,x_2,\dots):=(x_2,x_3,\dots)
$$
で定める($S^*$ は $S$ の随伴である)。$S$ は等長で単射、像は $\{x\mid x_1=0\}$ で閉じていて余次元 $1$ なので $\operatorname{ind}S=-1$ である。$S^*$ は全射で、核は第 1 成分の方向 $\mathbb Ke_1$ なので $\operatorname{ind}S^*=1$ である。$S^k$ は単射で像の余次元が $k$ なので $\operatorname{ind}S^k=-k$、$(S^*)^k$ の指数は $k$ であり、無限次元ではすべての整数が指数として現れる。恒等写像 $I$ の指数は $0$ で、$S$ と $I$ は同じ空間の間の作用素なのに指数が違う。
$\mathbb T=\mathbb R/2\pi\mathbb Z$ 上の Sobolev 空間 $H^1(\mathbb T)$(Rellichの定理 の記事の定義「トーラス上のSobolev空間」)から $L^2(\mathbb T)$ への作用素 $D:=d/d\theta$ を考える。同記事の命題「整数階の場合:弱微分による特徴づけ」により、Fourier 係数では $\widehat{Du}(k)=ik\,\hat u(k)$ である。
$D$ を $L^2(\mathbb T)$ の中の、定義域 $H^1(\mathbb T)$ をもつ非有界作用素とみても同じことである。$D$ は閉作用素で、グラフノルム $\|u\|_{L^2}+\|Du\|_{L^2}$ は $H^1$ ノルムと同値なので、閉グラフ定理 の記事の命題「グラフノルムの完備性」により、定義域にグラフノルムを入れれば $D$ は Banach 空間の間の有界作用素になる。微分作用素の Fredholm 性は、このように定義域に適切な Sobolev ノルムを入れて有界作用素として論じる。
$V$ をノルム空間とする。
1:$y\in V\setminus U$ をとる。$U$ は閉なので $d:=\operatorname{dist}(y,U)>0$ である。$d/\theta>d$ だから $\|y-u_0\|< d/\theta$ となる $u_0\in U$ がある。$x:=(y-u_0)/\|y-u_0\|$ とおくと、$u\in U$ について $u_0+\|y-u_0\|u\in U$ なので
$$
\|x-u\|=\frac{\|y-(u_0+\|y-u_0\|u)\|}{\|y-u_0\|}\ge\frac{d}{\|y-u_0\|}>\theta .
$$
2:$V$ が無限次元なら、一次独立な列 $y_1,y_2,\dots$ があり、$V_j:=\operatorname{span}(y_1,\dots,y_j)$ は有限次元なので閉じている(有限次元のノルム空間は完備。Banach空間 の記事の例「有限次元のノルム空間」と命題「閉部分空間と完備性」)。$V_{j-1}\subsetneq V_j$ に 1 を $\theta=1/2$ で当てて、$x_j\in V_j$、$\|x_j\|=1$、$\operatorname{dist}(x_j,V_{j-1})\ge1/2$ をとる。$i< j$ なら $x_i\in V_{j-1}$ なので $\|x_j-x_i\|\ge1/2$ であり、有界列 $(x_j)$ は収束する部分列をもたない。$\square$
2 は、楕円型作用素の核が有限次元であることを示すときに使われる形である(Dem12 第 VI 章 (2.4) の証明(p. 290)では「Riesz の定理」として引かれている)。
$K\in B(V,W)$ がコンパクト作用素であるとは、$V$ の任意の有界列 $(x_j)$ について $(Kx_j)$ が $W$ で収束する部分列をもつことをいう。
像が有限次元の有界作用素(有限階作用素)はコンパクトである(有限次元空間の有界列は収束部分列をもつ)。コンパクト作用素と有界作用素の合成はコンパクトであり、コンパクト作用素の和・スカラー倍もコンパクトである(部分列を 2 回とればよい)。Sobolev 空間の包含が代表例である(Rellichの定理 の記事の定理「Rellichの定理(トーラス上)」)。
$H_1,H_2$ を Hilbert 空間とし、$K\in B(H_1,H_2)$ がコンパクトなら、随伴 $K^*$ もコンパクトである。
要点:$KK^*$ はコンパクトなので、有界列 $(y_j)$ について $(KK^*y_j)$ が収束する部分列をとると、$\|K^*y\|^2=\langle KK^*y,y\rangle$ から $(K^*y_j)$ も Cauchy 列になる。
$\|y_j\|\le M$ とし、$KK^*$(有界作用素 $K^*$ とコンパクト作用素 $K$ の合成)がコンパクトなので、部分列をとって $(KK^*y_j)$ が収束するとしてよい。$z:=y_i-y_j$ とおくと $$\|K^*z\|^2=\langle K^*z,K^*z\rangle=\langle KK^*z,z\rangle\le\|KK^*y_i-KK^*y_j\|\cdot2M$$ であり、右辺は $i,j\to\infty$ で $0$ に近づく。よって $(K^*y_j)$ は Cauchy 列で、$H_1$ の完備性から収束する。$\square$
要点:1 は $E$ の基底の座標関数を Hahn–Banach の延長定理で $V$ 全体の連続線形汎関数に延ばし、その共通の核を $V_1$ とする。2 は、有限次元の $F$ は閉じているので、閉部分空間への直和分解の射影の有界性に帰着する。
1:$E$ の基底 $e_1,\dots,e_d$ と、$x=\sum_ia_ie_i$ に $a_i$ を対応させる座標関数 $\varphi_i\colon E\to\mathbb K$ をとる。有限次元のノルム空間上の線形汎関数は有界なので、Hahn–Banach の延長定理(Tay18b 付録 A の命題 4.3、p. 18)により、$\varphi_i$ は $V$ 上の有界線形汎関数 $\Phi_i$ に延長される。$V_1:=\bigcap_i\ker\Phi_i$ は閉部分空間で、$x\in V$ に対し $x-\sum_i\Phi_i(x)e_i\in V_1$ なので $V=V_1+E$、$x\in V_1\cap E$ なら $x=\sum_i\Phi_i(x)e_i=0$ である。
2:$W/R$ は有限次元なので、その基底の代表元の張る空間 $F$ をとれば $W=R\oplus F$(代数的な直和)である。$F$ は有限次元なので閉じている。$R,F$ はともに閉なので、開写像定理 の記事の系「閉部分空間への直和分解の射影」により射影は有界である。$\square$
次が Fredholm 作用素の理論の中心である。
$T\in\operatorname{Fred}(V,W)$ とする。ある $\varepsilon>0$ があって、$\|S-T\|<\varepsilon$ となるすべての $S\in B(V,W)$ について、$S$ は Fredholm 作用素で
$$
\dim\ker S\le\dim\ker T,\qquad \dim\operatorname{coker}S\le\dim\operatorname{coker}T,\qquad \operatorname{ind}S=\operatorname{ind}T
$$
が成り立つ。特に $\operatorname{Fred}(V,W)$ は $B(V,W)$ の開集合で、$\operatorname{ind}\colon\operatorname{Fred}(V,W)\to\mathbb Z$ は局所定数である。
分解.lem-fred-complement により、閉部分空間 $V_1$ と有限次元部分空間 $W_0$ で
$$
V=V_1\oplus\ker T,\qquad W=\operatorname{ran}T\oplus W_0
$$
となるものをとる。$d:=\dim\ker T$、$e:=\dim W_0=\dim\operatorname{coker}T$ とおく。$V_1\oplus W_0$ にノルム $\|v\|+\|w\|$ を入れた Banach 空間から $W$ への有界作用素
$$
\tau_S\colon V_1\oplus W_0\to W,\qquad \tau_S(v,w):=Sv+w
$$
を考える。
$\tau_T$ は同型.$Tv+w=0$ なら $Tv=-w\in\operatorname{ran}T\cap W_0=0$ なので $w=0$、$v\in\ker T\cap V_1=0$。よって単射。$W=T(V)+W_0=T(V_1)+W_0$ なので全射。有界逆写像定理 により $\tau_T^{-1}$ は有界である。
$\tau_S$ も同型.$\|\tau_S-\tau_T\|\le\|S-T\|$ なので、$\varepsilon:=\|\tau_T^{-1}\|^{-1}$ とすれば、$\|S-T\|<\varepsilon$ のとき 有界逆写像定理 の記事の命題「可逆性を保つ摂動」により $\tau_S$ も有界な全単射である。以下この $S$ を考える。
$S$ の像.$S(V_1)=\tau_S(V_1\oplus0)$ は閉じていて、$W=S(V_1)\oplus\tau_S(0\oplus W_0)=S(V_1)\oplus W_0$ だから $S(V_1)$ の余次元は $e$ である。また $\tau_S$ の単射性から $\ker S\cap V_1=0$ である。
$S$ の核.商写像 $V\to V/V_1$ を $\ker S$ に制限すると、核が $\ker S\cap V_1=0$ なので単射であり、$\dim V/V_1=d$ から $\dim\ker S\le d$ である。$V_1\oplus\ker S$ は $V$ の部分空間で、$V/V_1$ は $d$ 次元だから、$\dim Z=d-\dim\ker S$ の部分空間 $Z$ があって
$$
V=V_1\oplus\ker S\oplus Z
$$
となる。$S$ は $V_1\oplus Z$ の上で単射である($S(v+z)=0$ なら $v+z\in\ker S$、直和性から $v+z=0$)。
数える.$S(V)=S(V_1)\oplus S(Z)$ で、$\dim S(Z)=\dim Z$ である。$W=S(V_1)\oplus W_0$ で $S(V)\supset S(V_1)$ だから、$S(V)$ の余次元は $e$ から $\dim S(V)/S(V_1)=\dim S(Z)$ を引いたもので、
$$
\dim\operatorname{coker}S=e-\dim Z\le e
$$
である。余次元が有限なので、prop-fred-closed-auto により $S(V)$ は閉じている。よって $S$ は Fredholm 作用素で、
$$
\operatorname{ind}S=\dim\ker S-(e-\dim Z)=\dim\ker S+(d-\dim\ker S)-e=d-e=\operatorname{ind}T .\ \square
$$
核と余核の次元は、作用素を動かすと小さくなることはあっても(半連続性)、同時に同じだけしか変わらない。ex-fred-derivative の $D-\lambda$ では、$\lambda=ij$ で核と余核が同時に $1$ 次元増え、指数は $0$ のままである。
$[0,1]\ni t\mapsto T_t\in\operatorname{Fred}(V,W)$ が作用素ノルムについて連続なら、$\operatorname{ind}T_0=\operatorname{ind}T_1$ である。より一般に、指数は $\operatorname{Fred}(V,W)$ の各連結成分の上で一定である。
thm-fred-stability により $t\mapsto\operatorname{ind}T_t$ は局所定数な整数値関数である。局所定数な関数の値ごとの逆像は開集合なので、連結な $[0,1]$ の上では一定である。連結成分についても同じ議論による。$\square$
$\ell^2$ の右シフト $S$(ex-fred-shift)について、$t\ge0$ に対し $T_t:=I+tS$ とおく。
コンパクト作用素は「有限階作用素のようなもの」で、Fredholm 作用素にコンパクト作用素を足しても Fredholm 性と指数は変わらない。以下は Hilbert 空間で完全に証明し、Banach 空間の場合は引用にとどめる。
$V,W,Y$ を Banach 空間、$A\in B(V,W)$、$K\in B(V,Y)$ をコンパクト作用素とし、定数 $C$ があって
$$
\|x\|\le C\bigl(\|Ax\|+\|Kx\|\bigr)\qquad(x\in V)
$$
が成り立つとする。このとき $\dim\ker A<\infty$ で、$\operatorname{ran}A$ は閉じている。
核.$x\in\ker A$ なら $\|x\|\le C\|Kx\|$ である。$\ker A$ の有界列 $(x_j)$ について、部分列をとって $(Kx_j)$ が収束するとすれば、$\|x_i-x_j\|\le C\|Kx_i-Kx_j\|$ から $(x_j)$ は Cauchy 列で、閉部分空間 $\ker A$ の中で収束する。lem-fred-riesz の 2 により $\ker A$ は有限次元である。
像.lem-fred-complement の 1 により $V=V_1\oplus\ker A$($V_1$ は閉)とする。ある $c>0$ で $\|Ax\|\ge c\|x\|$($x\in V_1$)となることを示せば、$V_1$ は Banach 空間で $A|_{V_1}$ は単射なので、開写像定理 の記事の命題「下からの評価と閉な像」により $\operatorname{ran}A=A(V_1)$ は閉じている。そのような $c$ がないとすると、$x_j\in V_1$、$\|x_j\|=1$、$Ax_j\to0$ となる列がある。部分列をとって $(Kx_j)$ が収束するとすれば、仮定の評価を $x_i-x_j$ に当てて $(x_j)$ は Cauchy 列になり、$x_j\to x\in V_1$、$\|x\|=1$、$Ax=0$ となる。$x\in V_1\cap\ker A=0$ なので矛盾である。$\square$
$H_1,H_2$ を Hilbert 空間、$T\in\operatorname{Fred}(H_1,H_2)$ とする。このとき $\operatorname{ran}T^*=(\ker T)^\perp$、$\operatorname{coker}T\cong\ker T^*$ であり、$T^*\in\operatorname{Fred}(H_2,H_1)$、$\operatorname{ind}T^*=-\operatorname{ind}T$ である。
要点:$(\ker T)^\perp$ の元 $y$ に対し、$Tx\mapsto\langle x,y\rangle$ が $\operatorname{ran}T$ 上の有界線形汎関数になることを下からの評価で示し、Riesz の表現定理で $T^*z=y$ となる $z$ を作る。
$\operatorname{ran}T$ は閉なので $H_2=\operatorname{ran}T\oplus(\operatorname{ran}T)^\perp$ で、$(\operatorname{ran}T)^\perp=\ker T^*$($\langle Tx,z\rangle=\langle x,T^*z\rangle$ がすべての $x$ で $0$ となることと $T^*z=0$ は同値)だから、$\operatorname{coker}T\cong\ker T^*$ は有限次元である。
$\operatorname{ran}T^*\subset(\ker T)^\perp$ は、$x\in\ker T$ について $\langle x,T^*z\rangle=\langle Tx,z\rangle=0$ からわかる。逆に $y\in(\ker T)^\perp$ とする。$T$ を $(\ker T)^\perp$ に制限すると単射で像は $\operatorname{ran}T$(閉)なので、開写像定理 の記事の命題「下からの評価と閉な像」により $\|Tx\|\ge c\|x\|$($x\perp\ker T$)となる $c>0$ がある。$\operatorname{ran}T$ 上の汎関数 $\ell(Tx):=\langle x,y\rangle$($x\perp\ker T$ にとる)は well-defined で $|\ell(Tx)|\le\|y\|\,\|Tx\|/c$ と有界だから、Rieszの表現定理 により $\ell(w)=\langle w,z\rangle$ となる $z\in\operatorname{ran}T$ がある。すると $x\perp\ker T$ について $\langle x,T^*z\rangle=\langle Tx,z\rangle=\langle x,y\rangle$、$x\in\ker T$ については両辺 $0$ なので、$T^*z=y$ である。
よって $\operatorname{ran}T^*=(\ker T)^\perp$ は閉で、余次元は $\dim\ker T<\infty$、核 $\ker T^*$ は有限次元なので $T^*$ は Fredholm 作用素で、$\operatorname{ind}T^*=\dim\ker T^*-\dim\ker T=-\operatorname{ind}T$ である。$\square$
$H_1,H_2$ を Hilbert 空間、$T\in\operatorname{Fred}(H_1,H_2)$、$K\in B(H_1,H_2)$ をコンパクト作用素とする。このとき $T+K$ は Fredholm 作用素で、
$$
\operatorname{ind}(T+K)=\operatorname{ind}T .
$$
核と像.$P$ を有限次元の閉部分空間 $\ker T$ への直交射影とする(有限階なのでコンパクト)。$x=x_1+Px$($x_1\perp\ker T$)と分けると、prf-fred-adjoint と同じく $\|Tx_1\|\ge c\|x_1\|$ なので
$$
\|x\|\le\|x_1\|+\|Px\|\le c^{-1}\|Tx\|+\|Px\|\le c^{-1}\|(T+K)x\|+c^{-1}\|Kx\|+\|Px\| .
$$
$K'x:=(Kx,Px)$ は $H_1$ から $H_2\oplus\ker T$ へのコンパクト作用素なので、lem-fred-estimate により $\ker(T+K)$ は有限次元、$\operatorname{ran}(T+K)$ は閉じている。
余核.lem-fred-adjoint により $T^*$ は Fredholm 作用素で、lem-fred-adjoint-compact により $K^*$ はコンパクトである。上の議論を $T^*+K^*=(T+K)^*$ に当てれば $\ker(T+K)^*$ は有限次元である。$\operatorname{ran}(T+K)$ は閉なので、その余核は $\ker(T+K)^*$ と同一視でき、有限次元である。よって $T+K$ は Fredholm 作用素である。
指数.$t\in[0,1]$ について $tK$ もコンパクトなので、同じ議論で $T+tK$ は Fredholm 作用素であり、$t\mapsto T+tK$ はノルム連続である。cor-fred-homotopy により $\operatorname{ind}(T+K)=\operatorname{ind}T$ である。$\square$
Banach 空間の場合も同じ結論が成り立つ(Tay18b 付録 A の系 7.2(p. 45)と系 7.5(p. 47))。Banach 空間では余核の有限次元性を随伴で示す代わりに、コンパクト作用素の Riesz–Schauder の理論を使う(同書 §6 の命題 6.7・6.8(pp. 35–36))。この記事では Banach 空間の場合を証明しない。
$H$ を Hilbert 空間、$K\in B(H)$ をコンパクト作用素、$\lambda\ne0$ とする。$\lambda I-K$ は指数 $0$ の Fredholm 作用素である。特に
$\lambda I$ は指数 $0$ の Fredholm 作用素(全単射)で、$-K$ はコンパクトなので、thm-fred-compact-perturbation により $\operatorname{ind}(\lambda I-K)=0$ である。単射なら核が $0$ なので余核も $0$、すなわち全射であり、逆も同様である。2 は $\operatorname{ind}=0$ を lem-fred-adjoint の $\operatorname{coker}\cong\ker(\lambda I-K)^*=\ker(\bar\lambda I-K^*)$ で書き直したものである。$\square$
1 は、積分方程式 $u-Ku=f$ が「任意の $f$ について解ける」ことと「$f=0$ のとき $u=0$ しか解がない」ことが同値だという、Fredholm が積分方程式について見いだした形である(Axl20 10.85(p. 319)、2 は同書 10.91(p. 321))。
$H_1,H_2$ を Hilbert 空間、$T\in B(H_1,H_2)$ とする。次は同値である。
1 ⇒ 2.$T$ を $(\ker T)^\perp$ から $\operatorname{ran}T$ への写像とみると有界な全単射なので、有界逆写像定理 により逆 $T_0^{-1}$ は有界である。$S:=T_0^{-1}Q$($Q$ は $\operatorname{ran}T$ への直交射影)とおくと
$$
ST=I-P_{\ker T},\qquad TS=I-P_{\ker T^*}
$$
であり($P_E$ は $E$ への直交射影)、$\ker T$ と $\ker T^*$ は有限次元なので右辺の $P$ は有限階、したがってコンパクトである。
2 ⇒ 1.$ST=I+K_1$、$TS=I+K_2$($K_1,K_2$ はコンパクト)とする。$\|x\|\le\|STx\|+\|K_1x\|\le\|S\|\,\|Tx\|+\|K_1x\|$ なので、lem-fred-estimate により $\ker T$ は有限次元、$\operatorname{ran}T$ は閉じている。また $\operatorname{ran}T\supset\operatorname{ran}(TS)=\operatorname{ran}(I+K_2)$ で、cor-fred-alternative により $I+K_2$ は Fredholm 作用素なので、$\operatorname{ran}T$ の余次元は有限である。
指数.$S$ についても $TS-I$、$ST-I$ がコンパクトなので、同じ議論で $S$ は Fredholm 作用素である。$ST=I+K_1$ の指数は thm-fred-compact-perturbation により $0$ で、下の prop-fred-composition により $\operatorname{ind}S+\operatorname{ind}T=0$ である。$\square$
偏微分方程式では、楕円型作用素 $P$ に対して「$P$ の逆を、滑らかにする作用素(Sobolev 空間の間でコンパクト)の誤差を除いて」作ることがパラメトリックスの構成であり、この定理により $P$ の Fredholm 性が従う。
$T\in\operatorname{Fred}(V,W)$、$S\in\operatorname{Fred}(W,X)$ なら $ST\in\operatorname{Fred}(V,X)$ で、$\operatorname{ind}(ST)=\operatorname{ind}S+\operatorname{ind}T$ である。
要点:まず $ST$ が Fredholm であることを次元の数え上げで確かめ、次に $V\oplus W$ から $W\oplus X$ への作用素の族を回転で結び、cor-fred-homotopy で両端の指数を比べる(Tay18b 付録 A の命題 7.6(p. 47)の証明)。
Fredholm 性:$\ker(ST)=T^{-1}(\ker S)$ で、$T$ はこれを $\ker S\cap\operatorname{ran}T$ に写し核は $\ker T$ なので、$\dim\ker(ST)\le\dim\ker T+\dim\ker S$。また $\operatorname{ran}(ST)=S(\operatorname{ran}T)$ で、$W/\operatorname{ran}T$ が有限次元なので $S(W)/S(\operatorname{ran}T)$ も有限次元、$X/S(W)$ も有限次元だから $X/\operatorname{ran}(ST)$ は有限次元である。prop-fred-closed-auto により像は閉じている。
回転:$t\in\mathbb R$ について $L_t\colon V\oplus W\to W\oplus X$ を $$L_t:=\begin{pmatrix}I&0\\0&S\end{pmatrix}\begin{pmatrix}\cos t&\sin t\\-\sin t&\cos t\end{pmatrix}\begin{pmatrix}T&0\\0&I\end{pmatrix}$$ とおく(中央は $W\oplus W$ の可逆作用素)。Fredholm 作用素の合成なので上の段により $L_t$ は Fredholm で、$t$ について連続である。$t=0$ では $L_0=\begin{pmatrix}T&0\\0&S\end{pmatrix}$ で、核・余核は成分ごとの直和なので指数は $\operatorname{ind}T+\operatorname{ind}S$。$t=-\pi/2$ では $L_{-\pi/2}=\begin{pmatrix}0&-I\\ST&0\end{pmatrix}$、すなわち $(v,w)\mapsto(-w,STv)$ で、核は $\ker(ST)\oplus0$、像は $W\oplus\operatorname{ran}(ST)$ なので指数は $\operatorname{ind}(ST)$。cor-fred-homotopy により両者は等しい。$\square$
トーラス $\mathbb T^n$ 上の強楕円型作用素 $P$(階数 $2m$)は、$H^m(\mathbb T^n)$ から $H^{-m}(\mathbb T^n)$ への指数 $0$ の Fredholm 作用素である。これは次の 3 つを組み合わせて示される(Gårdingの不等式 の記事の系「強楕円型作用素のFredholm性」):Gårding の不等式と Lax–Milgram の定理から $P+\lambda$ が十分大きい $\lambda$ で同型になること、Rellichの定理 により包含 $H^m\hookrightarrow H^{-m}$ がコンパクトであること、そして thm-fred-compact-perturbation。
コンパクト多様体 $M$ 上のベクトル束の間の楕円型微分作用素 $P$(階数 $d$)についても、$P\colon W^{k+d}\to W^k$ の核は有限次元で滑らかな切断からなり、像は閉じていて、$L^2$ で $\ker P^*$($P^*$ は形式的随伴)と直交分解を与える(Dem12 第 VI 章 (2.4)(pp. 289–290)。この記事では証明しない)。したがって $P$ は Fredholm 作用素で
$$
\operatorname{ind}P=\dim\ker P-\dim\ker P^*
$$
である。thm-fred-stability により、この指数は $P$ を楕円型のまま連続に変形しても変わらない。Atiyah–Singer の指数定理は、この指数を $M$ と主表象の位相的な量で表す(指数理論)。Hodge 理論では $P$ を Hodge Laplace 作用素 $\Delta=dd^*+d^*d$ にとり、$\ker\Delta$(調和形式)が有限次元で、$\operatorname{ran}\Delta$ が閉じていることから、コホモロジーの有限次元性と調和形式による表示が従う(Hodgeの定理)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 像が閉じていること | $\ell^2$ の対角作用素 $e_j\mapsto e_j/j$ | 余核の有限次元性(Fredholm 性) |
| 核が有限次元 | $\ell^2\oplus\ell^2$ から $\ell^2$ への射影 $(x,y)\mapsto x$ | Fredholm 性(像は全体で閉だが核が無限次元) |
| 摂動が小さい、またはコンパクト | $I+tS$($S$ は右シフト、$0\le t\le2$) | 指数の一定性($t<1$ で $0$、$t>1$ で $-1$) |
$T\colon\ell^2\to\ell^2$、$T(x_j)_j:=(x_j/j)_j$ は単射で、コンパクト作用素(有限階作用素 $x\mapsto(x_1,x_2/2,\dots,x_N/N,0,\dots)$ との距離が $1/(N+1)$ 以下で、コンパクト作用素のノルム極限はコンパクトである。Axl20 10.72(p. 315)はちょうどこの型の対角作用素の例)である。像は有限個を除いて $0$ の列をすべて含むので $\ell^2$ で稠密だが、$(1/j)_j$ は像に入らない($x_j=1$ となり $\ell^2$ に属さない)から像は全体でない。稠密で全体でない部分空間は閉じていないので、prop-fred-closed-auto の対偶により余次元は無限である。満たす性質は「有界・単射」、満たさない性質は「像が閉じていること」と「余核が有限次元であること」である。無限次元の Hilbert 空間の上のコンパクト作用素は、決して Fredholm 作用素にならない(Banach 空間でも同じ。Fredholm なら $0=T+(-T)$ も thm-fred-compact-perturbation により Fredholm になり、核が全体なので矛盾する。Banach 空間では Tay18b 付録 A の系 7.5(p. 47)を使えば同じ議論になる)。
$T\colon\ell^2\oplus\ell^2\to\ell^2$、$T(x,y):=x$ は全射で像は閉じているが、核 $0\oplus\ell^2$ は無限次元なので Fredholm 作用素でない。満たす性質は「像が閉じていて余核が $0$」、満たさない性質は「核が有限次元」である。条件 1 と条件 3 は互いに独立で、片方だけでは指数が定義できない。
ex-fred-leave は、摂動が小さくもコンパクトでもないと指数が変わりうることを示している($tS$ は $t\ge1$ で小さくなく、$S$ はコンパクトでない)。
Fredholm 作用素の定義、指数、パラメトリックス(Fredholm 逆)による特徴づけ、開集合であること、指数の局所一定性、コンパクトな摂動、合成の指数は Tay18b 付録 A §7(pp. 44–47、定義 (7.1)–(7.3)、命題 7.1、系 7.2、命題 7.3・7.4、系 7.5、命題 7.6)にあり、Banach 空間で述べられている。本記事の thm-fred-stability の証明は同書の命題 7.4 の証明を、prop-fred-composition の証明は命題 7.6 の証明を書き直したものである。コンパクト作用素の随伴、$\lambda I-K$ の択一定理と核の次元の等式は Axl20 10C 節(10.66(p. 312)、10.85(p. 319)、10.91(p. 321))にある。lem-fred-riesz の 1 は Tay18b 付録 A の補題 1.3(p. 6)、2 は同命題 1.4(p. 6)に当たる。本記事の Hilbert 空間の場合の証明(lem-fred-adjoint、thm-fred-compact-perturbation、thm-fred-parametrix)は、これらを Hilbert 空間の直交分解で書き直したもので、本文で完全に示した。
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