弱スター位相(weak-star topology)とは、ノルム空間 $X$ の連続双対 $X^*$ 上で、各 $x\in X$ における評価 $\varphi\mapsto\varphi(x)$ をすべて連続にする最も弱い位相である。この位相での収束は点ごとの収束に等しく、双対ノルムによる収束より弱い。双対の閉単位球はこの位相でコンパクトになる一方、単位球面は閉とは限らない。例えば $(c_0)^*\cong\ell^1$ の標準基底 $u_n$ は弱スター位相で $0$ に収束するが、ノルムでも弱位相でも収束しない。
実または複素ノルム空間 $X$ の連続双対 $X^*$ は、$X$ 上の連続な線形汎関数を集めた空間である。双対ノルムでは、二つの汎関数が「単位球上のすべての点で一様に近い」かを測る。一方、個々の $x\in X$ で値が近いことだけを要求すると、より弱い収束の概念が得られる。これを位相としてまとめたものが弱スター位相である。以下では $\mathbb F=\mathbb R$ または $\mathbb C$ とする。
各 $x\in X$ に対し、評価写像 $e_x\colon X^*\to\mathbb F$ を $e_x(\varphi)=\varphi(x)$ とおく。$X^*$ 上の弱スター位相 $\sigma(X^*,X)$ は、すべての $e_x$ を連続にする最も弱い位相である。
$\varphi_0\in X^*$ の基本近傍は、有限個の $x_1,\dots,x_m\in X$ と正の数 $\varepsilon_1,\dots,\varepsilon_m$ を用いて
$$
U(\varphi_0;x_1,\ldots,x_m;\varepsilon_1,\ldots,\varepsilon_m)
=\{\varphi\in X^*: |\varphi(x_j)-\varphi_0(x_j)|<\varepsilon_j\ (1\le j\le m)\}
$$
と書ける集合、およびそれらを含む集合である。$m=0$ なら $U=X^*$ とする。
定義中の「最も弱い」とは、この評価写像の連続性を保つ位相の中で開集合が最も少ないことをいう。どの近傍も有限個の点しか検査しない。ただし、空間全体の位相はあらゆる $x\in X$ に対する評価を合わせて定まる。「ある固定した有限集合の上だけで収束すればよい」という意味ではない。Cla20 の “Weak Convergence” は、弱収束とこの点ごとの収束を扱う。
ネット $(\varphi_\alpha)$ と $\varphi\in X^*$ について、次は同値である。
(R1) $\varphi_\alpha\to\varphi$ が $\sigma(X^*,X)$ で成り立つ。
(R2) すべての $x\in X$ について、数列ではなくスカラーのネット $\varphi_\alpha(x)$ が $\varphi(x)$ に収束する。
特に、添字を自然数に限れば、弱スター収束する列とは、各 $x$ で値が収束する列である。
弱スター収束すれば各 $e_x$ が連続なので条件 (ii) が従う。逆に条件 (ii) を仮定し、上の基本近傍 $U$ を一つ固定する。各 $j$ に対して、ある添字以降では $|\varphi_\alpha(x_j)-\varphi(x_j)|<\varepsilon_j$ である。添字集合は有向なので、有限個の $j$ に共通する後の添字を選べる。よって最終的に $\varphi_\alpha\in U$ となり、条件 (i) が従う。
この位相は Hausdorff である。異なる $\varphi,\psi\in X^*$ は、ある $x\in X$ で値が異なる。$\mathbb F$ の互いに交わらない開近傍を $e_x$ で引き戻せば、$\varphi$ と $\psi$ を分離できる。また評価は線形なので、弱スター位相は加法とスカラー倍を連続にする局所凸な位相ベクトル空間の位相である。有限個の半ノルム $p_x(\varphi)=|\varphi(x)|$ を同時に制御する近傍が、そのことを直接表している。
$X^*$ の双対ノルムは $\|\varphi\|=\sup_{\|x\|\le1}|\varphi(x)|$ である。ノルム収束 $\varphi_\alpha\to\varphi$ なら $|\varphi_\alpha(x)-\varphi(x)|\le\|\varphi_\alpha-\varphi\|\,\|x\|$ だから、弱スター収束もする。逆は一般には成り立たない。
$X^*$ には弱位相 $\sigma(X^*,X^{**})$ もある。ここでは $X^{**}$ のすべての元を $X^*$ 上の評価として使う。各 $x\in X$ は $\widehat x(\varphi)=\varphi(x)$ により $X^{**}$ の元を与えるので、弱位相は弱スター位相より細かい。次の表は、どの値を同時に観測するかを示す。
| $X^*$ の位相 | 収束で要求する値 | 他との関係 |
|---|---|---|
| 双対ノルム位相 | 単位球上で $\varphi_\alpha(x)$ が一様に近づく | 最も細かい |
| 弱位相 $\sigma(X^*,X^{**})$ | すべての $F\in X^{**}$ で $F(\varphi_\alpha)\to F(\varphi)$ | 中間 |
| 弱スター位相 $\sigma(X^*,X)$ | すべての $x\in X$ で $\varphi_\alpha(x)\to\varphi(x)$ | 最も粗い |
「細かい位相ほど収束しにくい」という向きに注意する。$X$ が反射的、つまり標準写像 $x\mapsto\widehat x$ が $X^{**}$ への全射なら、弱位相と弱スター位相は一致する。逆に一般の非反射的空間では、この二つを同じ記号で呼ばない。
$X^*$ 上の弱スター連続な線形汎関数 $T$ は、ある $x\in X$ を用いて $T(\varphi)=\varphi(x)$ と書ける。したがって $(X^*,\sigma(X^*,X))$ の連続双対は、標準写像による $X$ の像である。$X$ がノルム空間なら Hahn–Banach の定理により標準写像は単射であり、この連続双対を $X$ と同一視できる。
$T$ の $0$ での連続性から、$|\varphi(x_j)|<\varepsilon_j$($1\le j\le m$)なら $|T(\varphi)|<1$ となる有限個の $x_j$ と正の $\varepsilon_j$ がある。すべての $\varphi(x_j)=0$ を満たす $\varphi$ については、任意のスカラー $t$ に対して $t\varphi$ もこの近傍に入るため、$T(\varphi)=0$ である。ゆえに $T$ は有限次元の写像 $\varphi\mapsto(\varphi(x_1),\dots,\varphi(x_m))$ を経由する。その像の上の線形汎関数を $\mathbb F^m$ に延長して係数 $a_1,\dots,a_m$ をとれば、$T(\varphi)=\sum_j a_j\varphi(x_j)=\varphi(\sum_j a_jx_j)$ となる。逆にどの $e_x$ も定義により弱スター連続である。最後に、$x\ne0$ なら Hahn–Banach の定理から $\varphi(x)\ne0$ となる $\varphi\in X^*$ が存在するので、標準写像は単射である。
この命題から、弱位相と弱スター位相が $X^*$ 上で一致するなら $X$ は反射的であることも分かる。実際、弱位相ではどの $F\in X^{**}$ も連続である。位相が一致すれば $F$ は上の命題により $\widehat x$ の形だから、標準写像 $X\to X^{**}$ は全射である。したがって、ノルム空間について「二つの位相が一致する」と「$X$ が反射的である」は同値である。ここで反射性は Banach 空間に限らず標準写像の全射性として読んでいる。有限次元ノルム空間は反射的なので、三つの位相は一致する。
$c_0$ を、$x=(x_n)$ が $0$ に収束するスカラー列全体に上限ノルムを入れた空間とする。$\ell^1$ は $\sum_n|a_n|<\infty$ を満たす列 $a=(a_n)$ の空間である。各 $a\in\ell^1$ は
$$
\varphi_a(x)=\sum_{n=1}^{\infty}a_nx_n\qquad(x\in c_0)
$$
により連続線形汎関数を与え、$\|\varphi_a\|=\|a\|_1$ である。逆に $c_0$ 上の任意の連続線形汎関数はこの形であり、$(c_0)^*$ と $\ell^1$ を同一視できる。
$\varphi\in(c_0)^*$ とし、標準基底を $u_n$ として $a_n=\varphi(u_n)$ とおく。有限集合 $F$ に対し、$|x_n|=1$ かつ $a_nx_n=|a_n|$ となる $x_n$ を $n\in F$ で選び、それ以外を $0$ とした $x\in c_0$ をとる。$\|x\|_\infty\le1$ なので $\sum_{n\in F}|a_n|=|\varphi(x)|\le\|\varphi\|$。したがって $a\in\ell^1$ である。有限台の列は $c_0$ に稠密であり、その上では $\varphi(x)=\sum_na_nx_n$ だから、連続性で全 $c_0$ に等式が広がる。逆向きは $|\sum_na_nx_n|\le\|a\|_1\|x\|_\infty$ による。有限集合で位相を合わせた $x$ を使えば $\|\varphi_a\|\ge\sum_{n\in F}|a_n|$ となり、$F$ を増やして等長性も従う。
上の同一視で $\{a\in\ell^1:\|a\|_1=1\}$ は全ての $u_n$ を含む。しかし $u_n\to0$ は弱スター収束であり、$0$ は単位球面に含まれない。ゆえにこの球面は $\sigma(\ell^1,c_0)$ で閉でない。「ノルムで閉じている集合は弱スター位相でも閉じている」という含意は成り立たない。
一方で双対の閉単位球 $B_{X^*}=\{\varphi:\|\varphi\|\le1\}$ は弱スター位相で閉じており、さらにコンパクトである。球面との違いを次節で示す。
ノルム空間 $X$ と $R\ge0$ に対し、双対の閉球 $B_R=\{\varphi\in X^*:\|\varphi\|\le R\}$ は弱スター位相でコンパクトである。
各 $x\in X$ に対し、複素数の場合は閉円板、実数の場合は閉区間 $D_x=\{z\in\mathbb F:|z|\le R\|x\|\}$ をとる。$D_x$ はコンパクトである。積空間 $P=\prod_{x\in X}D_x$ は Tychonoff の積定理によってコンパクトになる。写像 $J\colon B_R\to P$ を $J(\varphi)=(\varphi(x))_{x\in X}$ とすれば、弱スター位相は $J$ による部分空間位相に一致する。
$J(B_R)$ は $P$ の閉部分集合である。実際、$z=(z_x)_{x\in X}\in P$ が $J(B_R)$ に属する条件は、全ての $x,y\in X$ と $a\in\mathbb F$ について $z_{x+y}=z_x+z_y$、$z_{ax}=az_x$ が成り立つことである。各等式は積位相における連続な座標写像の等式だから閉条件であり、その共通部分も閉じている。逆にこれらの等式を満たす $z$ は線形汎関数 $x\mapsto z_x$ を定め、$|z_x|\le R\|x\|$ により連続でノルムは $R$ 以下である。ゆえに $J(B_R)$ はコンパクトで、同相な $B_R$ もコンパクトである。$R=0$ でも同じ議論が通る。
この証明で使う結果は Tychonoff の積定理であり、この記事では証明しない。Cla20 の “Weak Convergence” にも Banach–Alaoglu の定理が配置される。弱スター位相の定義から「点ごとの値を全部並べる直積」を作り、線形性とノルムの評価で切り出すのが証明の中心である。双対閉球のコンパクト性は、ノルム位相でのコンパクト性を主張しているわけではない。
双対ノルム $\varphi\mapsto\|\varphi\|$ は弱スター位相で下半連続である。特に、任意の $R\ge0$ に対し $B_R$ は弱スター閉集合である。
$\|\varphi\|=\sup_{\|x\|\le1}|\varphi(x)|$ で、各 $\varphi\mapsto|\varphi(x)|$ は弱スター連続である。ゆえに $\{\varphi:\|\varphi\|>c\}=\bigcup_{\|x\|\le1}\{\varphi:|\varphi(x)|>c\}$ は任意の実数 $c$ に対して開いている。これが下半連続性であり、$B_R=\{\|\varphi\|\le R\}$ は閉じている。
弱スター位相でのコンパクト性は、一般にはネットによる収束と組で理解する必要がある。任意のコンパクト空間では収束部分ネットを選べるが、収束部分列を必ず選べるとは限らない。双対球上に追加で距離化できる条件があれば、列で扱える。
$X$ が可分なノルム空間なら、各 $B_R$ 上の弱スター位相は距離化できる。したがって $B_R$ の任意の列は弱スター収束する部分列をもつ。
$X$ の単位球に稠密な列 $(x_n)$ を選ぶ。$B_R$ 上で
$$
d(\varphi,\psi)=\sum_{n=1}^{\infty}2^{-n}\min\{1,|\varphi(x_n)-\psi(x_n)|\}
$$
とおく。各項は三角不等式を満たし、$x_n$ の稠密性と $\|\varphi-\psi\|\le2R$ から、$d(\varphi,\psi)=0$ なら $\varphi=\psi$ である。級数の尾部は点に依らず小さくできるので、$d$ が定める位相は $x_n$ での評価写像を全て連続にする最も弱い位相である。さらに $x\in X$ を固定し、$x_n$ を適切にスカラー倍した点で近似すれば、$|\varphi(x)-\psi(x)|$ は近似点での差と $2R$ 倍の近似誤差で抑えられる。ゆえに各 $x$ での評価も $d$ について連続であり、$d$ の位相は $B_R$ 上の弱スター位相と一致する。上の定理から $B_R$ はコンパクトなので、コンパクト距離空間の列は収束部分列をもつ。
この命題は、$X^*$ 全体の弱スター位相が可分 $X$ だけで距離化できる、と言っているのではない。距離の議論では $\|\varphi-\psi\|\le2R$ という一様な上界を使った。閉球の外へ出ると、この推定をそのまま使えない。また「列の収束だけ見れば一般の弱スター位相の全てが分かる」とも言えない。
弱スター位相の近傍は有限個の値しか指定しない。それでも双対閉球を使うと、有限個ずつ実現できる条件を同時に実現する問題を解ける。次はコンパクト性の一般的な使い方である。
$R\ge0$ とし、$S\subset X$ の各 $x$ にスカラー $b_x$ を指定する。$S$ の任意の有限部分集合 $F$ に対し、$\|\varphi_F\|\le R$ かつ全 $x\in F$ で $\varphi_F(x)=b_x$ となる $\varphi_F\in X^*$ があると仮定する。このとき、$\|\varphi\|\le R$ かつ全 $x\in S$ で $\varphi(x)=b_x$ となる一つの $\varphi\in X^*$ がある。
各 $x\in S$ に対して $C_x=\{\varphi\in B_R:\varphi(x)=b_x\}$ とおく。評価 $e_x$ が弱スター連続なので、$C_x$ は $B_R$ の閉部分集合である。仮定は、これらの集合族が有限交叉性をもつことを述べている。上の定理で $B_R$ はコンパクトだから、有限交叉性により $\bigcap_{x\in S}C_x$ は空でない。その元が求める $\varphi$ である。
この命題の一定のノルム上界 $R$ は大切である。$F$ ごとに解のノルムをどれだけ大きくしてもよいなら、同じコンパクト閉球の中で有限交叉性を使えない。例えば $S=\{x_n:n\ge1\}$ として、$x_n\to0$ なのに $b_{x_n}=1$ と指定すれば、有限個の値だけを合わせる汎関数が存在する場合でも、全条件を満たす連続汎関数は存在しえない。具体的には $X=c_0$、$x_n=u_n/n$、$b_{x_n}=1$ とすればよい。有限条件は有限台の汎関数で実現できるが、もし全条件を満たす $\varphi$ があれば $\varphi(u_n)=n$ となり、$|\varphi(u_n)|\le\|\varphi\|$ に反する。
双対ノルムが弱スター位相で下半連続であることは、「弱スター収束すればノルムも収束する」という意味ではない。$c_0$ の例では $\|u_n\|_1=1$ のまま $u_n$ が弱スターで $0$ に収束した。ただし $X$ が Banach 空間なら、弱スター収束列 $(\varphi_n)$ はノルム有界である。
実際、各 $x\in X$ に対してスカラー列 $\varphi_n(x)$ は収束するので有界である。連続線形汎関数の族 $\{\varphi_n:n\ge1\}$ は点ごとに有界であり、一様有界性原理を適用して $\sup_n\|\varphi_n\|<\infty$ が従う。一様有界性原理は Banach 空間という完備性を使う外部定理である。Cla20 の “The Uniform Boundedness Principle” にある。
完備性を外すと、この結論も失われうる。$c_{00}$ を有限台のスカラー列に上限ノルムを入れた空間とする。これは完備でなく、その完備化は $c_0$ である。$\varphi_n(x)=n x_n$ とおけば、各 $\varphi_n$ は $c_{00}$ 上の連続線形汎関数で $\|\varphi_n\|=n$ である。一方、固定した $x\in c_{00}$ では $x_n$ は最終的に $0$ なので $\varphi_n(x)\to0$。ゆえに $\varphi_n$ は $\sigma(c_{00}^*,c_{00})$ で $0$ に収束するが、ノルムは発散する。これは一様有界性原理の完備性を省けないことを示す反例であり、$c_0$ を前双対とする前節の例とは別の空間上の話である。
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