複素射影空間

同義語:complex projective space

概要

複素射影空間(complex projective space)とは、$\mathbb{C}^{n+1}$ の原点を通る複素直線の全体 $\mathbb{CP}^n$ で、単位球面 $S^{2n+1}$ を絶対値 $1$ の複素数の群で割った、複素 $n$ 次元のコンパクトな複素多様体である。次元 $0,2,\dots,2n$ に胞体を 1 つずつもち、$2n$ 次元の胞体は Hopf 写像で貼り付けられる。整数係数のコホモロジー環は、トートロジー直線束の双対の第 1 Chern 類 $h$ で生成される $\mathbb{Z}[h]/(h^{n+1})$ である。環の構造から、Hopf 写像 $S^3\to S^2$ が定値写像とホモトピックでないことや、座標を $d$ 乗する自己写像の写像度が $d^n$ であることがわかる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 射影空間, CW複体, Poincaré双対, 第1Chern類

$\mathbb{C}^{n+1}$ の原点を通る複素直線の全体を 複素射影空間(complex projective space)$\mathbb{CP}^n$ という。単位球面 $S^{2n+1}$ を絶対値 $1$ の複素数の掛け算で割った空間であり、複素 $n$ 次元のコンパクトな複素多様体になる。$\mathbb{CP}^1$ は $2$ 次元球面(Riemann 球面)である。一般の体の上の射影空間は 射影空間 で扱われている。この記事では位相と直線束の側から $\mathbb{CP}^n$ を調べる。
$\mathbb{CP}^n$ は次元 $0,2,\dots,2n$ に胞体を $1$ つずつもち、$2n$ 次元の胞体は Hopf 写像 $S^{2n-1}\to\mathbb{CP}^{n-1}$ で貼り付けられる。整数係数のコホモロジー環は、トートロジー直線束の双対 $\mathcal{O}(1)$ の 第1Chern類 $h$ で生成される切断多項式環 $\mathbb{Z}[h]/(h^{n+1})$ である。この記事では、胞体の構造とコホモロジー群を対の長完全列で求め、環の構造を Poincaré双対 で決める。応用として、Hopf 写像が定値写像とホモトピックでないこと、座標を $d$ 乗する写像の写像度が $d^n$ であることを示す。$n\to\infty$ の極限は 無限次元射影空間 で、実数・四元数の場合は 実射影空間・四元数射影空間 で扱われている。

定義

複素射影空間

$n\ge0$ とする。$\mathbb{C}^{n+1}\setminus\{0\}$ 上の同値関係を「$w=\lambda z$ となる $\lambda\in\mathbb{C}^\times$ がある」で定め、商位相を入れた商空間を $n$ 次元複素射影空間 $\mathbb{CP}^n$ という。$z$ の類を $[z]=[z_0:\dots:z_n]$ と書き、商写像を $q\colon\mathbb{C}^{n+1}\setminus\{0\}\to\mathbb{CP}^n$ とする。点 $[z]$ は複素直線 $\mathbb{C}z$ と一対一に対応する。$\mathbb{CP}^{n-1}\subset\mathbb{CP}^n$ を最後の成分が $0$ の点の全体とみる。

これは 射影空間 の定義「実射影空間と複素射影空間」で $K=\mathbb{C}$ としたものである。同記事の命題「球面の商としての射影空間」により、$\mathbb{CP}^n$ はコンパクト Hausdorff であり、$q$ は開写像で、$q$ の制限 $S^{2n+1}\to\mathbb{CP}^n$ は同相 $S^{2n+1}/S^1\cong\mathbb{CP}^n$ を誘導する($S^1$ は絶対値 $1$ の複素数の群)。同記事の命題「アフィン座標近傍と多様体構造」により、$U_i:=\{[z]\mid z_i\ne0\}$ と $[z]\mapsto(z_j/z_i)_{j\ne i}$ が座標近傍を与え、座標変換は正則である。

トートロジー直線束と超平面類

$\mathbb{CP}^n\times\mathbb{C}^{n+1}$ の部分集合
$$ \mathcal{O}(-1):=\{([z],v)\mid v\in\mathbb{C}z\} $$
を、第 1 成分への射影によって $\mathbb{CP}^n$ 上の直線束とみたものを トートロジー直線束(tautological line bundle)という。点 $[z]$ の上のファイバーは直線 $\mathbb{C}z$ そのものである。その双対を $\mathcal{O}(1)$、$\mathcal{O}(d):=\mathcal{O}(1)^{\otimes d}$($d<0$ では $\mathcal{O}(-1)^{\otimes(-d)}$)と書く。
$$ h:=c_1(\mathcal{O}(1))\in H^2(\mathbb{CP}^n;\mathbb{Z}) $$
を 超平面類(hyperplane class)という。

$U_i$ の上で $\sigma_i([z]):=([z],z/z_i)$ は $\mathcal{O}(-1)$ の至るところ $0$ でない切断で、$U_i\cap U_j$ の上で $\sigma_j=(z_i/z_j)\,\sigma_i$ となる。変換関数 $z_i/z_j$ は正則なので、$\mathcal{O}(-1)$ は正則直線束である。線形形式 $\ell\colon\mathbb{C}^{n+1}\to\mathbb{C}$ はファイバーへの制限によって $\mathcal{O}(1)$ の正則な切断 $([z],v)\mapsto\ell(v)$ を定める。座標 $z_0$ から得られる切断は超平面 $\{z_0=0\}$ の上でちょうど $1$ 位の零をもつので、$\mathcal{O}(1)$ を 超平面束 ともいう。

直感

$\mathbb{CP}^n$ の点は $\mathbb{C}^{n+1}$ の直線である。$z_n\ne0$ の点は $[w:1]$($w\in\mathbb{C}^n$)とただ一通りに書けるので、$\mathbb{CP}^n$ は $\mathbb{C}^n$ に、無限遠の点の全体 $\mathbb{CP}^{n-1}=\{z_n=0\}$ を付け加えた空間である。$\mathbb{C}^n$ は開いた $2n$ 次元の胞体なので、これを繰り返すと $\mathbb{CP}^n=\mathbb{C}^0\sqcup\mathbb{C}^1\sqcup\cdots\sqcup\mathbb{C}^n$ という偶数次元の胞体への分割が得られる。奇数次元の胞体がないので、胞体の境界写像はすべて $0$ になり、コホモロジーは偶数次でだけ $\mathbb{Z}$ になる。
環の構造は、部分空間の交わりとして見るとわかりやすい。$h$ は超平面 $\{z_0=0\}$ を表す類で、$h^k$ は $k$ 個の超平面の交わり、すなわち余次元 $k$ の線形部分空間 $\mathbb{CP}^{n-k}$ を表す。$n$ 個の一般の超平面はちょうど $1$ 点で交わるので $h^n$ は点の類であり、$n+1$ 個の一般の超平面は交わらないので $h^{n+1}=0$ である。この記事では、交わりの議論を使わず、Poincaré双対 で同じ結論を得る。

性質

胞体の構造とコホモロジー群

胞体の構造

$n\ge1$ とし、$p:=[0:\dots:0:1]$、$S^{2n-1}\subset\mathbb{C}^n$ を単位球面とする。

  1. $\mathbb{CP}^n$ は $\mathbb{CP}^{n-1}$ に、$q|_{S^{2n-1}}\colon S^{2n-1}\to\mathbb{CP}^{n-1}$ を貼り付け写像として $2n$ 次元の胞体を $1$ つ貼り付けた空間である。とくに $\mathbb{CP}^n$ は次元 $0,2,\dots,2n$ に胞体を $1$ つずつもつ有限 CW 複体であり、$\mathbb{CP}^n/\mathbb{CP}^{n-1}$ は $S^{2n}$ と同相である。
  2. $\mathbb{CP}^n\setminus\{p\}$ は $\mathbb{CP}^{n-1}$ を強変形レトラクトとしてもつ。

1.$w\in\mathbb{C}^n$、$|w|\le1$ について $\Phi(w):=[w_0:\dots:w_{n-1}:\sqrt{1-|w|^2}\,]$ とおく。$\Phi$ は閉球体 $D^{2n}$ から $\mathbb{CP}^n$ への連続写像で、境界 $|w|=1$ の上では $q(w)\in\mathbb{CP}^{n-1}$ に等しい。$z_n\ne0$ の点 $[z]$ については、$z$ を $|z|=1$ に正規化し、さらに絶対値 $1$ の複素数 $\bar z_n/|z_n|$ を掛けると第 $n$ 成分が正の実数になる。このような代表はただ $1$ つである(二つの代表が $\mu\in S^1$ で移り合い、どちらの第 $n$ 成分も正の実数なら $\mu=1$)。よって $\Phi$ は開球体を $\mathbb{CP}^n\setminus\mathbb{CP}^{n-1}$ の上へ全単射に写す。$\Phi$ と包含からなる写像 $D^{2n}\sqcup\mathbb{CP}^{n-1}\to\mathbb{CP}^n$ はコンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な全射なので商写像であり、同一視されるのはちょうど $w\in\partial D^{2n}$ と $q(w)$ である。これが前半であり、$\mathbb{CP}^0$ が $1$ 点であることから帰納法で CW 複体の構造が得られる。さらに $\mathbb{CP}^n/\mathbb{CP}^{n-1}$ は $D^{2n}/\partial D^{2n}\cong S^{2n}$ と同相である。
2.$[z]\ne p$ なら $(z_0,\dots,z_{n-1})\ne0$ である。$H([z],t):=[z_0:\dots:z_{n-1}:(1-t)z_n]$($0\le t\le1$)とおくと、右辺は代表の取り替えで変わらず、$q$ が開写像なので $q\times\mathrm{id}_{[0,1]}$ は商写像であり、$H$ は連続である。$H(\cdot,0)$ は恒等写像、$H(\cdot,1)$ の像は $\mathbb{CP}^{n-1}$ に入り、$\mathbb{CP}^{n-1}$ の点は $H(\cdot,t)$ で動かない。$\square$

貼り付け写像 $S^{2n-1}\to\mathbb{CP}^{n-1}$ は Hopf 束の射影である。$n=2$ では $S^3\to\mathbb{CP}^1\cong S^2$ となり、これが Hopfファイブレーション である。同じ構造は Hat02 Example 0.6(pp. 6–7)にあり、無限次元射影空間 の定理「位相と胞体の構造」は実数・複素数・四元数を一度に扱っている。

コホモロジー群と制限
  1. $H^k(\mathbb{CP}^n;\mathbb{Z})\cong H_k(\mathbb{CP}^n;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}$($k=0,2,\dots,2n$)であり、それ以外の次数では $0$ である。Euler 標数は $n+1$ である。
  2. $n\ge1$ のとき、包含 $i\colon\mathbb{CP}^{n-1}\hookrightarrow\mathbb{CP}^n$ の引き戻し $i^*\colon H^k(\mathbb{CP}^n;\mathbb{Z})\to H^k(\mathbb{CP}^{n-1};\mathbb{Z})$ は $k\le2n-2$ で同型である。
  3. $\mathbb{CP}^n$ は単連結で向き付け可能な $2n$ 次元閉多様体である。

係数 $\mathbb{Z}$ を省く。cps-prop-cw の 2 により $\mathbb{CP}^{n-1}$ は $\mathbb{CP}^n$ の開集合 $\mathbb{CP}^n\setminus\{p\}$ の変形レトラクトなので、$(\mathbb{CP}^n,\mathbb{CP}^{n-1})$ は良い対であり、商写像は同型 $\tilde H^k(\mathbb{CP}^n/\mathbb{CP}^{n-1})\cong H^k(\mathbb{CP}^n,\mathbb{CP}^{n-1})$ を与える(Hat02 Proposition 2.22(p. 124)のコホモロジー版)。cps-prop-cw の 1 により左辺は $\tilde H^k(S^{2n})$ で、$k=2n$ のとき $\mathbb{Z}$、それ以外で $0$ である。対の長完全列
$$ H^k(\mathbb{CP}^n,\mathbb{CP}^{n-1})\to H^k(\mathbb{CP}^n)\xrightarrow{\ i^*\ }H^k(\mathbb{CP}^{n-1})\to H^{k+1}(\mathbb{CP}^n,\mathbb{CP}^{n-1}) $$
の両端は $k\le2n-2$ で $0$ なので、$i^*$ は同型である。これが 2 である。1 は $n$ の帰納法で示す。$n=0$ は $1$ 点である。$n\ge1$ のとき、$k\le2n-2$ では 2 と帰納法の仮定による。$k=2n-1$ では左端が $0$、$H^{2n-1}(\mathbb{CP}^{n-1})=0$ なので $H^{2n-1}(\mathbb{CP}^n)=0$ である。$k=2n$ では $0=H^{2n-1}(\mathbb{CP}^{n-1})\to\mathbb{Z}\to H^{2n}(\mathbb{CP}^n)\to H^{2n}(\mathbb{CP}^{n-1})=0$ から $H^{2n}(\mathbb{CP}^n)\cong\mathbb{Z}$、$k>2n$ では $0$ である。ホモロジーも同じ議論で求まる。Euler 標数は $0$ でない偶数次の個数 $n+1$ である。
3.単連結であることは 射影空間 の定理「被覆写像と基本群」の 2 による。連結な閉多様体で $H_{2n}(\mathbb{CP}^n)\cong\mathbb{Z}\ne0$ なので、向き付け可能である(向き付け可能でない連結閉多様体の最上次の整係数ホモロジーは $0$。Hat02 Theorem 3.26(p. 236))。$\square$

超平面類

超平面類の性質
  1. $h=c_1(\mathcal{O}(1))$ は $H^2(\mathbb{CP}^n;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}$ の生成元である($n\ge1$)。
  2. $c_1\colon\operatorname{Pic}(\mathbb{CP}^n)\to H^2(\mathbb{CP}^n;\mathbb{Z})$ は同型で、$c_1(\mathcal{O}(d))=dh$、$c_1(\mathcal{O}(-1))=-h$ である。
  3. 包含 $i\colon\mathbb{CP}^{n-1}\hookrightarrow\mathbb{CP}^n$ について $i^*\mathcal{O}(1)$ は $\mathbb{CP}^{n-1}$ の $\mathcal{O}(1)$ であり、$i^*h$ は $\mathbb{CP}^{n-1}$ の超平面類である。
  4. 単位円周束 $\{([z],v)\in\mathcal{O}(-1)\mid|v|=1\}\to\mathbb{CP}^n$ は、$([z],v)\mapsto v$ により $q|_{S^{2n+1}}\colon S^{2n+1}\to\mathbb{CP}^n$(Hopf 束)と同一視される。

1 と 2 は 第1Chern類 の例「射影空間の超平面束」で証明されている($\langle h,[\ell]\rangle=1$ となる生成元が $c_1(\mathcal{O}(1))$ であり、$\operatorname{Pic}(\mathbb{CP}^n)$ は $\mathcal{O}(1)$ で生成される無限巡回群である)。$c_1(\mathcal{O}(-1))=-h$ は同記事の系「双対束と冪の第1Chern類」による。3:$i^*\mathcal{O}(-1)=\{([z],v)\mid z_n=0,\ v\in\mathbb{C}z\}$ は $\mathbb{CP}^{n-1}$ のトートロジー直線束そのものであり、双対をとっても同じである。第 1 Chern 類は引き戻しと可換なので(同記事の命題「引き戻しとの両立」)、$i^*h$ は $\mathbb{CP}^{n-1}$ の超平面類である。4:$|v|=1$、$v\in\mathbb{C}z$ なら $[z]=[v]$ なので、$([z],v)\mapsto v$ は単位円周束から $S^{2n+1}$ への同相で、逆は $v\mapsto([v],v)$ である。射影はこの同相で $q$ に対応する。$\square$

コホモロジー環

複素射影空間のコホモロジー環

$n\ge0$ とする。カップ積について
$$ H^*(\mathbb{CP}^n;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}[h]/(h^{n+1}),\qquad|h|=2 $$
である。すなわち $0\le k\le n$ について $h^k$ は $H^{2k}(\mathbb{CP}^n;\mathbb{Z})$ の生成元であり、$h^{n+1}=0$ である。

制限で下の次数を、Poincaré 双対で最上次を捉える

係数 $\mathbb{Z}$ を省く。$n$ の帰納法で「$0\le k\le n$ について $h^k$ は $H^{2k}(\mathbb{CP}^n)$ を生成する」を示す。$n=0$ は $h^0=1$ なので成り立ち、$n=1$ は cps-prop-hyperplane の 1 である。$n\ge2$ とする。
$k\le n-1$ の場合:$2k\le2n-2$ なので、cps-prop-groups の 2 により $i^*\colon H^{2k}(\mathbb{CP}^n)\to H^{2k}(\mathbb{CP}^{n-1})$ は同型である。$i^*$ はカップ積を保ち、cps-prop-hyperplane の 3 により $i^*h$ は $\mathbb{CP}^{n-1}$ の超平面類なので、$i^*(h^k)=(i^*h)^k$ は帰納法の仮定により $H^{2k}(\mathbb{CP}^{n-1})$ を生成する。よって $h^k$ は $H^{2k}(\mathbb{CP}^n)$ を生成する。
$k=n$ の場合:cps-prop-groups の 3 により $\mathbb{CP}^n$ は向き付け可能な連結閉多様体なので、基本類 $[\mathbb{CP}^n]\in H_{2n}(\mathbb{CP}^n)$ を一つ選ぶ。コホモロジーは捩れをもたないので、Poincaré双対 の命題「整係数のカップ積の対」により、$\langle a,b\rangle:=(a\smile b)([\mathbb{CP}^n])$ が定める対
$$ H^2(\mathbb{CP}^n)\times H^{2n-2}(\mathbb{CP}^n)\to\mathbb{Z} $$
はユニモジュラーである。両側は階数 $1$ の自由アーベル群で、それぞれ $h$ と $h^{n-1}$ で生成される(前段)。$1\times1$ のユニモジュラー行列は $\pm1$ なので、$h^n([\mathbb{CP}^n])=\langle h,h^{n-1}\rangle=\pm1$ である。$H_{2n}(\mathbb{CP}^n)=\mathbb{Z}[\mathbb{CP}^n]$ でホモロジーは自由なので、普遍係数定理により $\theta\mapsto\theta([\mathbb{CP}^n])$ は同型 $H^{2n}(\mathbb{CP}^n)\to\mathbb{Z}$ である。したがって $h^n$ は $H^{2n}(\mathbb{CP}^n)$ を生成する。
最後に $h^{n+1}\in H^{2n+2}(\mathbb{CP}^n)=0$ である。$h\mapsto h$ で定まる環準同型 $\mathbb{Z}[h]/(h^{n+1})\to H^*(\mathbb{CP}^n)$ は、各次数 $2k$($0\le k\le n$)で $\mathbb{Z}h^k$ を $H^{2k}$ の上へ同型に写し、その他の次数では両辺が $0$ なので、同型である。$\square$

複素構造の定める向きをとると $h^n([\mathbb{CP}^n])=+1$ である。微分形式では、Fubini–Study 形式 $\omega_{\mathrm{FS}}$ について $h$ の実係数の像は $[\omega_{\mathrm{FS}}/\pi]$ で、$\int_{\mathbb{CP}^n}(\omega_{\mathrm{FS}}/\pi)^n=1$ となる(積分の値は Fubini–Study計量 の命題「体積」による。$h$ との一致と向きの符号は $n=1$ の積分と直線への制限から従う。この段落の主張はこの記事では証明しない)。主定理は Hat02 Theorem 3.19(p. 220)にもある。同書はそこで、点の近傍を二つの座標部分空間の積とみて Künneth の公式の特別な場合に帰着して示し、Example 3.40(p. 250)で Poincaré 双対による証明を与えている。$n\to\infty$ の極限 $H^*(\mathbb{CP}^\infty;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}[h]$ は 無限次元射影空間 の定理「無限次元射影空間のコホモロジー環」で導かれている。

環の構造から分かること

Hopf 写像は定値写像とホモトピックでない

$\mathbb{CP}^2$ は $S^2\vee S^4$ とホモトピー同値でない。したがって Hopf 写像 $\eta\colon S^3\to S^2\cong\mathbb{CP}^1$、$\eta(z_0,z_1)=[z_0:z_1]$ は定値写像とホモトピックでない。

cps-thm-ring により、$H^2(\mathbb{CP}^2;\mathbb{Z})$ の生成元 $h$ の平方は $H^4(\mathbb{CP}^2;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}$ の生成元である。一方 $X=S^2\vee S^4$ では、カップ積 の命題「一点和のカップ積」により、$a\in H^2(X;\mathbb{Z})$ の平方は $S^2$ と $S^4$ への制限の平方の組に対応し、$H^4(S^2)=0$、$H^2(S^4)=0$ なので $0$ である。次数付き環の同型は $H^2$ の生成元を $H^2$ の生成元に写して平方を保つので、二つのコホモロジー環は同型でなく、空間はホモトピー同値でない。
cps-prop-cw により $\mathbb{CP}^2=\mathbb{CP}^1\cup_\eta e^4$ である。$\eta$ が定値写像とホモトピックなら、貼り付け写像をホモトピーで取り替えてもホモトピー型は変わらないので(Hat02 Proposition 0.18(p. 16))、$\mathbb{CP}^2$ は定値写像で $4$ 胞体を貼った $S^2\vee S^4$ とホモトピー同値になり、前半に反する。$\square$

$h^2$ が $H^4(\mathbb{CP}^2)$ を生成することは、$\eta$ の Hopf 不変量が $\pm1$ であることにほかならない(コホモロジー環 の定義「Hopf 不変量」)。

自己写像の写像度

$f\colon\mathbb{CP}^n\to\mathbb{CP}^n$ を連続写像とし、$f^*h=dh$($d\in\mathbb{Z}$)とする。

  1. $f^*(h^k)=d^kh^k$ であり、$f$ の写像度($H^{2n}$ への作用)は $d^n$ である。
  2. $d\ge1$ について $f_d([z_0:\dots:z_n]):=[z_0^d:\dots:z_n^d]$ とおくと、$f_d$ は正則写像で $f_d^*h=dh$ である。とくに $f_d$ の写像度は $d^n$ である。

1:$f^*$ はカップ積を保つので $f^*(h^k)=(f^*h)^k=d^kh^k$ である。$h^n$ は $H^{2n}$ の生成元なので(cps-thm-ring)、$f^*$ は $H^{2n}\cong\mathbb{Z}$ の上で $d^n$ 倍である。
2:$z\ne0$ なら $(z_0^d,\dots,z_n^d)\ne0$ で、$z$ を $\lambda z$ に替えると右辺は $\lambda^d$ 倍になるので、$f_d$ は矛盾なく定まり、アフィン座標では多項式の比で書けるので正則である。$\mathcal{O}(1)$ の切断 $z_0$ を引き戻すと $z_0^d$ になる。その零点の因子は超平面 $H=\{z_0=0\}$ の $d$ 倍なので、$f_d^*\mathcal{O}(1)\cong\mathcal{O}(dH)\cong\mathcal{O}(d)$ である(第1Chern類 の例「射影空間の超平面束」の最後の主張)。第 1 Chern 類は引き戻しと可換なので、$f_d^*h=c_1(f_d^*\mathcal{O}(1))=c_1(\mathcal{O}(d))=dh$ である(cps-prop-hyperplane の 2)。あとは 1 による。$\square$

この写像を例にした計算は Hat02 §3.2 演習 6(p. 229)にある。同じ論法で、$f^*$ が各 $H^{2k}$ に $d^k$ 倍で作用することから、$n$ が偶数なら $\mathbb{CP}^n$ のどの自己写像も不動点をもつことが Lefschetz の不動点定理から従う(不動点性 の定理「複素射影空間の不動点性」)。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
$n$ が有限であること$\mathbb{CP}^\infty$$h^{n+1}=0$、閉多様体であること
$4$ 胞体の貼り付け写像が Hopf 写像であること定値写像で貼った $S^2\vee S^4$$2$ 次の生成元の平方が $H^4$ を生成すること
係数を複素数にすること(実数に替える)$\mathbb{RP}^2$整数係数のコホモロジーが捩れをもたないこと
反例の確かめ
  1. 無限次元射影空間 の定理「無限次元射影空間のコホモロジー環」により $H^*(\mathbb{CP}^\infty;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}[h]$ であり、どの $h^{n+1}$ も $0$ でない。すべての偶数次に $0$ でないコホモロジーがあるので、有限次元の閉多様体ではない(閉 $m$ 次元多様体のコホモロジーは $m$ より上で $0$。Poincaré双対 の定理「閉多様体の Poincaré 双対」)。
  2. cps-prf-hopf の前半による。
  3. 実射影空間 の定理「実射影空間のホモロジー」により $H_1(\mathbb{RP}^2;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}/2$、$H_2(\mathbb{RP}^2;\mathbb{Z})=0$ なので、普遍係数定理により $H^2(\mathbb{RP}^2;\mathbb{Z})\cong\operatorname{Ext}(\mathbb{Z}/2,\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}/2$ は捩れ元をもつ。$\mathbb{RP}^2$ は向き付け可能でないので、整係数の Poincaré 双対も使えない。

補足

文献

胞体の構造は Hat02 Example 0.6(pp. 6–7)、コホモロジー環は Theorem 3.19(p. 220)と Example 3.40(p. 250)、Hopf 束は Example 4.44(p. 377)、写像度の計算は §3.2 演習 6(p. 229)にある。向き付けは Theorem 3.26(p. 236)、良い対の商は Proposition 2.22(p. 124)、貼り付け写像の取り替えは Proposition 0.18(p. 16)による。cps-prf-cw・cps-prf-groups・cps-prf-ring・cps-prf-degree は、この記事で組み立てた証明である。

関連項目

参考文献

[1]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, Example 0.6(pp. 6–7)、Proposition 0.18(p. 16)、Proposition 2.22(p. 124)、Theorem 3.19(p. 220)、§3.2 演習 6(p. 229)、Theorem 3.26(p. 236)、Example 3.40(p. 250)、Example 4.44(p. 377)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する