Möbiusの帯(Möbius strip)とは、長方形 $[0,1]\times[-1,1]$ の左右の辺を $(0,t)\sim(1,-t)$ と裏返して貼り合わせた商空間であり、$\mathbb{R}^3$ の中には半回転ひねった帯として埋め込まれる。中心線の円周に変位レトラクトするので基本群は $\mathbb{Z}$ で円柱とホモトピー同値だが、縁は 1 本の円周で中心線を 2 周するため縁はレトラクトにならず、円柱とは同相でない。向き付け可能でない曲面、円周の上の自明でないファイバー束の最も簡単な例であり、縁に円板を貼ると実射影平面、2 枚を縁で貼ると Klein の壺になる。
Möbius の帯(Möbius strip、Möbius band)とは、長方形の向かい合う 2 辺を、片方を裏返してから貼り合わせて得られる曲面である。細長い紙の帯の両端を半回転ひねってから貼ると作れる。
ひねらずに貼れば円柱(円環)ができる。円柱と Möbius の帯は、どちらも中心線の円周に縮めることができるので、基本群 などのホモトピー不変量では区別できない。それでも 2 つは同相でなく、違いは次のような形で現れる。縁(境界)は円柱では 2 本の円周だが、Möbius の帯では 1 本の円周で、その円周は中心線を 2 周する。このため縁の円周は帯のレトラクトにならない。帯を中心線に沿って一周すると横方向が反転するので、Möbius の帯は向き付け可能でなく、円周の上の自明でないファイバー束の最も簡単な例になる。円板を縁に貼ると実射影空間 $\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ になる。
この記事では、Möbius の帯を商空間として定義し、ほかの作り方と $\mathbb{R}^3$ への埋め込みを確かめたあと、上の性質を順に証明する。
以下 $I=[0,1]$ とし、$S^1=\mathbb{R}/\mathbb{Z}$ とみなすこともある。
長方形 $R=[0,1]\times[-1,1]$ の上の同値関係を、各 $t\in[-1,1]$ について $(0,t)\sim(1,-t)$ とし、それ以外の点は自分自身とだけ同値とすることで定める。商空間(位相)
$$
M:=R/\sim
$$
を Möbius の帯 という。商写像を $Q\colon R\to M$、点 $(s,t)$ の像を $[s,t]$ と書く。さらに
縁 $\partial M$ が 境界付き多様体 の意味の境界と一致することは、同記事の例「Möbius の帯」で確かめられている($M$ は 2 次元の境界付き多様体で、$\partial M$ が境界、$M^\circ$ が内部である)。
$R$ はコンパクト空間なので、その連続像である $M$ もコンパクトである。$M$ が Hausdorff空間 であることは、下の prop-mobius-models の 2 で $\mathbb{R}^3$ への単射連続写像を作ることで分かる。
要点:1 は、$R$ の 2 点が同じ軌道に入るのが $(0,t)$ と $(1,-t)$ の組だけであることから連続な全単射 $M\to E$ を得て、各帯 $[n,n+1]\times[-1,1]$ の上で $(x,y)\mapsto[x-n,(-1)^ny]$ と定めた写像を貼り合わせて逆写像を作る。2 は、像の点から $(\cos2\pi s,\sin2\pi s)$ と $t(\cos\pi s,\sin\pi s)$ を読み取れることから $\Phi$ が単射であることを示し、コンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な単射が埋め込みであることを使う。
1. 合成 $R\hookrightarrow\mathbb{R}\times[-1,1]\to E$ を $j$ とする。$j$ は連続である。$x\in\mathbb{R}$ について $n=\lfloor x\rfloor$ とおくと $(-n)\cdot(x,y)=(x-n,(-1)^ny)\in R$ なので、どの軌道も $R$ と交わり、$j$ は全射である。$R$ の 2 点 $(s,t),(s',t')$ が同じ軌道にあるとすると、ある $n$ で $s'=s+n$、$t'=(-1)^nt$ である。$s,s'\in[0,1]$ なので $n\in\{-1,0,1\}$ であり、$n=0$ なら 2 点は等しく、$n=\pm1$ なら $\{s,s'\}=\{0,1\}$、$t'=-t$ である。したがって $j(s,t)=j(s',t')$ は $(s,t)\sim(s',t')$ と同値であり、$j$ は連続な全単射 $\bar j\colon M\to E$ を誘導する。
逆写像を作る。$g\colon\mathbb{R}\times[-1,1]\to M$ を、各 $n\in\mathbb{Z}$ について閉集合 $[n,n+1]\times[-1,1]$ の上で $g(x,y):=[x-n,(-1)^ny]$ と定める。$x=n+1$ では 2 つの式 $[1,(-1)^ny]$ と $[0,(-1)^{n+1}y]$ が $M$ の同じ点を表すので、$g$ は矛盾なく定まる。閉集合の局所有限な被覆の上で連続な写像は貼り合わせても連続なので(貼り合わせの補題)、$g$ は連続である。$g(x+1,-y)=g(x,y)$ なので $g$ は軌道の上で一定であり、連続写像 $\bar g\colon E\to M$ を誘導する。定義から $\bar g\circ\bar j=\operatorname{id}_M$、$\bar j\circ\bar g=\operatorname{id}_E$ であり、$\bar j$ は同相写像である。$\bar j$ は $M^\circ$ を $(\mathbb{R}\times(-1,1))/\mathbb{Z}$ の上へ写し、逆写像は $\bar g$ の制限なので、後半も従う。
2. $\varphi$ は連続である。$s=0$ と $s=1$ で値を比べると $\varphi(0,t)=(2+t,0,0),\qquad\varphi(1,-t)=\bigl((2+(-t)\cos\pi)\cos2\pi,\ 0,\ -t\sin\pi\bigr)=(2+t,0,0)$ なので、$\varphi$ は同値な点を同じ点に写し、連続写像 $\Phi\colon M\to\mathbb{R}^3$ を誘導する。
$\Phi$ が単射であることを示す。点 $P=\varphi(s,t)=(X,Y,Z)$ をとり、$\rho:=\sqrt{X^2+Y^2}$ とおく。$|t\cos\pi s|\le1$ なので $2+t\cos\pi s\ge1>0$ であり、 $\rho=2+t\cos\pi s,\qquad\frac{(X,Y)}{\rho}=(\cos2\pi s,\sin2\pi s),\qquad(\rho-2,\ Z)=t\,(\cos\pi s,\sin\pi s)$ が成り立つ。第 2 式から $2\pi s$ は $2\pi$ を法として $P$ で決まるので、$s\in(0,1)$ なら $s$ が、$s\in\{0,1\}$ なら集合 $\{0,1\}$ が決まる。$s$ が決まれば $(\cos\pi s,\sin\pi s)$ は単位ベクトルなので、第 3 式から $t$ が決まる。$s\in\{0,1\}$ のときは、$s=0$ なら $(\rho-2,Z)=(t,0)$、$s=1$ なら $(\rho-2,Z)=(-t,0)$ なので、$P$ の逆像は $\{(0,t_0),(1,-t_0)\}$ の形の 1 つの同値類である。したがって $\Phi$ は単射である。
$M$ はコンパクトで $\mathbb{R}^3$ は Hausdorff なので、$\Phi\colon M\to\Phi(M)$ は連続な全単射としてコンパクト空間から Hausdorff 空間への写像であり、同相写像である(同相写像 の定理「コンパクト空間からHausdorff空間への連続全単射は同相」)。とくに $M$ は Hausdorff 空間 $\Phi(M)$ と同相なので Hausdorff である。$\square$
$\varphi$ の像は、半径 $2$ の円 $\{(2\cos\theta,2\sin\theta,0)\}$ を中心線とし、中心線を一周する間に幅の方向の線分がちょうど半回転する曲面である。中心線の点 $\theta=2\pi s$ での線分の向きは $(\cos\pi s\cos2\pi s,\cos\pi s\sin2\pi s,\sin\pi s)$ で、角度 $\pi s$ だけ起き上がる。
1 の見方では、Möbius の帯は円柱 $\mathbb{R}\times[-1,1]$ を「1 つずらして上下を反転する」写像 $\tau$ で割ったものである。$\tau$ の代わりに平行移動 $(x,y)\mapsto(x+1,y)$ で割ると、円柱 $S^1\times[-1,1]$ が得られる。Lee13 Example 10.3(pp. 251–252)は $\mathbb{R}^2$ を同じ作用で割った空間を Möbius 束の全空間とし、その中の $[0,1]\times[-r,r]$ の像を Möbius の帯と呼んでいる。
$H\colon M\times I\to M$ を $H([s,t],u):=[s,(1-u)t]$ で定めると、$H$ は矛盾なく定まる連続写像であり、芯の円周 $C$ を $M$ の強変位レトラクトにする(変位レトラクト)。$c\colon[0,1]\to C$、$c(s)=[s,0]$ は $C$ と円周の同相写像 $C\cong\mathbb{R}/\mathbb{Z}$ を与えるループであり、
$$
\pi_1(M,[0,0])\cong\pi_1(C,[0,0])\cong\mathbb{Z}
$$
で、ループ $c$ の類が生成元である。
$(0,t)\sim(1,-t)$ ならば $(0,(1-u)t)\sim(1,-(1-u)t)$ なので、$\tilde H(s,t,u):=[s,(1-u)t]$ は $R\times I$ 上の連続写像で、$Q\times\operatorname{id}_I$ の各ファイバーの上で一定である。$Q\times\operatorname{id}_I\colon R\times I\to M\times I$ は連続な全射で、$R\times I$ はコンパクト、$M\times I$ は Hausdorff(prop-mobius-models の 2)なので閉写像であり、したがって商写像である。よって $H$ は連続である。$H(\cdot,0)=\operatorname{id}_M$、$H([s,t],1)=[s,0]\in C$ であり、$C$ の点 $[s,0]$ はすべての $u$ で動かない。したがって $C$ は $M$ の強変位レトラクトである。
$s\mapsto[s,0]$ は $[0,1]$ から $C$ への連続な全射で、$0$ と $1$ だけを同じ点に写す。$[0,1]$ はコンパクト、$C$ は Hausdorff なので、これは $[0,1]/\{0\sim1\}\cong\mathbb{R}/\mathbb{Z}$ から $C$ への同相写像を誘導する。変位レトラクトの包含はホモトピー同値なので(変位レトラクト の命題「変位レトラクトはホモトピー同値」)、基本群 の命題「ホモトピー不変性」の 2 により包含 $C\hookrightarrow M$ は基本群の同型を誘導し、同記事の定理「円周の基本群」により $\pi_1(C,[0,0])\cong\mathbb{Z}$ で、一周するループ $c$ の類が生成元である。$\square$
円柱 $A=S^1\times[-1,1]$ では状況が違う。縁は $S^1\times\{1\}$ と $S^1\times\{-1\}$ の 2 つの円周で、どちらも芯 $S^1\times\{0\}$ を 1 周する。Möbius の帯では、縁をたどると帯の表と裏(上の辺と下の辺)を 1 回ずつ通って、芯の 2 周分の長さで元に戻る。
Möbius の帯 $M$ からその縁 $\partial M$ へのレトラクション(レトラクト)は存在しない。
レトラクション $\rho\colon M\to\partial M$(連続で、$\partial M$ の上で恒等写像)があったとする。包含を $i\colon\partial M\hookrightarrow M$ とすると $\rho\circ i=\operatorname{id}_{\partial M}$ なので、基点 $e(0)$ での基本群について $\rho_*\circ i_*=\operatorname{id}$ である(基本群 の命題「誘導準同型の関手性」)。
prop-mobius-core と prop-mobius-boundary により、$\pi_1(\partial M,e(0))$ と $\pi_1(M,e(0))$ はどちらも $\mathbb{Z}$ と同型で、生成元をそれぞれ $\beta$、$\gamma$ とすると $i_*(\beta)=\gamma^2$ である。$\rho_*(\gamma)=\beta^k$ とおくと
$$
\beta=\rho_*(i_*(\beta))=\rho_*(\gamma)^2=\beta^{2k}
$$
となり、無限巡回群 $\langle\beta\rangle$ で $1=2k$ を意味するが、そのような整数 $k$ はない。よってレトラクションは存在しない。$\square$
この定理は Hat02 Exercise 16(f)(§1.1、p. 39)の主張であり、Hat02 p. 148 は次数 $2$ の写像 $z\mapsto z^2$ の写像柱が定義域の円周にレトラクトしないことの特別な場合として、ホモロジーによる証明を述べている。円柱 $A$ では、射影 $(z,y)\mapsto(z,1)$ が縁の成分 $S^1\times\{1\}$ へのレトラクションである。
$M$ と円柱 $A=S^1\times[-1,1]$ はホモトピー同値だが、同相でない。開いた帯についても、$M^\circ$ と開いた円柱 $S^1\times(-1,1)$ は同相でない。
$M$ は芯の円周に、$A$ は $S^1\times\{0\}$ に変位レトラクトするので(後者は $((z,y),u)\mapsto(z,(1-u)y)$ による)、どちらも円周とホモトピー同値であり、互いにホモトピー同値である。
同相写像 $h\colon M\to A$ があったとする。境界付き多様体の間の同相写像は境界を境界に写す(境界付き多様体 の定理「内部の点と境界の点は交わらない」)。$M$ の境界 $\partial M$ は prop-mobius-boundary の 1 により連結だが、$A$ の境界 $S^1\times\{-1,1\}$ は交わらない 2 つの閉集合の和なので連結でない。これは $h(\partial M)=\partial A$ に反する。
開いた帯について:$M^\circ$ は向き付け可能でなく(下の rem-mobius-orientation)、$S^1\times(-1,1)$ は向き付け可能な多様体の直積として向き付け可能である。向き付け可能性は微分同相で保たれる性質なので、微分同相でないことはこれで分かる。同相でないことは次のように分かる。位相多様体の向き(向き付け可能多様体 の定義「位相多様体の向き」)は局所ホモロジー群 $H_2(X,X\setminus\{x\})$ の生成元で定まるので、同相写像で向きは向きに移る。一方、同記事の命題「滑らかな向きと位相的な向きの一致」の 2 により、滑らかな多様体では滑らかな意味と位相的な意味の向き付け可能性は同値である。よって $M^\circ$ は位相的にも向き付け可能でなく、$S^1\times(-1,1)$ は位相的に向き付け可能なので、両者は同相でない。$\square$
開いた Möbius の帯 $M^\circ$ は、prop-mobius-models の 1 により $(\mathbb{R}\times(-1,1))/\mathbb{Z}$ と同相であり、この表示で 2 次元の滑らかな多様体になる。生成元 $\tau(x,y)=(x+1,-y)$ は $\tau^*(dx\wedge dy)=-dx\wedge dy$ をみたし、向きを反転するので、$M^\circ$ は向き付け可能でない。これは 向き付け可能多様体 の例「商として得られる多様体」の 3 で、同記事の命題「商の向き付け可能性」の 1 から導かれている(Lee13 Example 15.38、p. 393 も同じ議論で Möbius 束の全空間と Möbius の帯が向き付け可能でないことを示す)。
直感的には、帯の上の小さな円盤で「左回り」を決め、それを中心線に沿って一周運ぶと、戻ってきたときには「右回り」になっている。prop-mobius-models の 2 の埋め込みでいえば、中心線に沿って単位法線ベクトルを連続に運ぶと、一周したとき逆向きになる。このため $\mathbb{R}^3$ の中の Möbius の帯には表と裏の区別がなく、紙の帯の片面に沿って線を引き続けると両面に線が引かれる。
各点の近くでは帯は平面の開集合と同じなので、向きは局所的には必ず選べる。向き付け可能性は「局所的な向きを全体で矛盾なく選べるか」という大域的な性質であり、Möbius の帯はその選び方が存在しない最も簡単な例である。
射影 $p\colon M\to\mathbb{R}/\mathbb{Z}$、$p([s,t])=s+\mathbb{Z}$ は、ファイバー $[-1,1]$ のファイバー束である。詳しくは、各 $x_0\in\mathbb{R}$ について $U:=\{x+\mathbb{Z}\mid x_0-\tfrac12< x< x_0+\tfrac12\}$ とおくと、prop-mobius-models の 1 の同一視 $M\cong E$ のもとで
$$
\psi_U\colon p^{-1}(U)\to U\times[-1,1],\qquad \psi_U([x,y]):=(x+\mathbb{Z},\ y)\qquad(x_0-\tfrac12< x< x_0+\tfrac12)
$$
が局所自明化を与える。$U\cap U'$ の上の座標変換は、各連結成分の上で $y\mapsto y$ または $y\mapsto-y$ である。この束は自明でない。すなわち $M$ は $S^1\times[-1,1]$ とファイバーを保って同相にならない。
要点:第 1 成分が長さ 1 の開区間 $J$ に入る代表元はちょうど 1 つなので $\psi_U$ は全単射であり、逆写像は明らかに連続である。$\psi_U$ の連続性は、商写像の飽和した開集合への制限が商写像であることから、各帯 $(J+n)\times[-1,1]$ の上で $(x,y)\mapsto(x+\mathbb{Z},(-1)^ny)$ が連続であることに帰着する。自明でないことは cor-mobius-not-annulus から従う。
$E=(\mathbb{R}\times[-1,1])/\mathbb{Z}$ の点は、第 1 成分が開区間 $J:=(x_0-\tfrac12,x_0+\tfrac12)$ に入る代表元を高々 1 つもつ(作用は第 1 成分を整数だけずらすので)。$p^{-1}(U)$ の点はちょうど 1 つもつので、$\psi_U$ は矛盾なく定まる全単射である。
逆写像は $(x+\mathbb{Z},y)\mapsto[x,y]$($x\in J$)であり、$J\to U$、$x\mapsto x+\mathbb{Z}$ の逆写像が連続なので連続である。$\psi_U$ の連続性を見る。商写像 $q\colon\mathbb{R}\times[-1,1]\to E$ による $p^{-1}(U)$ の逆像は開集合 $\bigsqcup_{n\in\mathbb{Z}}(J+n)\times[-1,1]$ で、$q$ について飽和している。商写像の飽和した開集合への制限は商写像なので、$\psi_U\circ q$ が連続であることを見ればよい。$(J+n)\times[-1,1]$ の上では $(x,y)=n\cdot(x-n,(-1)^ny)$ なので $\psi_U(q(x,y))=(x+\mathbb{Z},(-1)^ny)$ であり、これは連続である。よって $\psi_U$ は同相写像で、第 1 成分は $p$ と一致する。
座標変換:$U$ と $U'$(中心 $x_0'$、区間 $J'$)が交わるとき、点 $[x,y]$($x\in J$)の $J'$ での代表元は $x+n\in J'$ となる整数 $n$ について $(x+n,(-1)^ny)$ である。$n$ は $U\cap U'$ の各連結成分の上で一定なので、座標変換は $y\mapsto(-1)^ny$ である。
自明でないこと:ファイバーを保つ同相写像 $M\cong S^1\times[-1,1]$ があれば、とくに $M$ は円柱と同相になり、cor-mobius-not-annulus に反する。$\square$
$[-1,1]$ を $\mathbb{R}$ に替えた $(\mathbb{R}\times\mathbb{R})/\mathbb{Z}$ は円周の上の実直線束であり、Möbius 束 とよばれる(ベクトル束 の例「Möbius 束」、Lee13 Example 10.3、pp. 251–252)。その全空間は開いた Möbius の帯と同相である。Möbius 束が自明でないことは、どの切断もどこかで $0$ になることから示せる(ベクトル束 の命題「Möbius 束は自明でない」)。切断を区間 $[0,1]$ 上の連続関数 $f$ と見ると、貼り合わせの条件 $f(1)=-f(0)$ と中間値の定理から零点が出る。Möbius 束は実射影直線 $\mathbb{R}\mathrm{P}^1\cong S^1$ の上のトートロジー直線束と同型である(ベクトル束 の例「射影空間上のトートロジー束」)。
ファイバー束 の例「Möbius の帯と円周ファイバー」が述べるように、Möbius の帯はすべてのファイバーが同じ区間でありながら、全体が直積でない束の例である。ファイバーを区間のまま縁だけ取り出すと、$p|_{\partial M}\colon\partial M\to S^1$ はファイバー 2 点の束、すなわち連結な 2 重被覆 $z\mapsto z^2$ になる(prop-mobius-boundary の 2)。円柱の縁の 2 重被覆 $S^1\times\{\pm1\}\to S^1$ は連結でないので、ここでも 2 つの束の違いが見える。
$q\colon S^2\to\mathbb{R}\mathrm{P}^2=S^2/\{\pm1\}$ を商写像とし、$S^2$ の帯 $B:=\{x\in S^2\mid |x_3|\le\tfrac12\}$ と北の極冠 $D_+:=\{x\in S^2\mid x_3\ge\tfrac12\}$ をとる。このとき
要点:$f(s,t)=(\sqrt{1-t^2/4}\cos\pi s,\sqrt{1-t^2/4}\sin\pi s,t/2)$ は $f(1,-t)=-f(0,t)$ をみたすので、$q\circ f$ は $M$ から $q(B)$ への連続な全単射を誘導し、コンパクトから Hausdorff への写像として同相写像になる。極冠は対蹠点の組を含まないので $q$ はその上で単射である。
$\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ は Hausdorff であり、$S^2$ の対蹠点 $x,-x$ を同一視した空間と同相である(射影空間 の命題「球面の商としての射影空間」の 2・3)。
1. $f\colon R\to B$ を $f(s,t):=\Bigl(\sqrt{1-t^2/4}\,\cos\pi s,\ \sqrt{1-t^2/4}\,\sin\pi s,\ \tfrac t2\Bigr)$ で定める。$q\circ f$ は連続である。$f(1,-t)=-f(0,t)$ なので、$q\circ f$ は $(0,t)\sim(1,-t)$ を保ち、連続写像 $\bar f\colon M\to q(B)$ を誘導する。
全射であること:$x\in B$ の方位角を $\theta\in[0,2\pi)$ とすると、$\theta\in[0,\pi]$ なら $x=f(\theta/\pi,2x_3)$、$\theta\in(\pi,2\pi)$ なら $-x$ の方位角は $\theta-\pi\in(0,\pi)$ で $-x=f((\theta-\pi)/\pi,-2x_3)$ である($B$ の点は $|x_3|\le1/2< 1$ なので方位角が定まる)。
単射であること:$q(f(s,t))=q(f(s',t'))$ とすると $f(s',t')=\pm f(s,t)$ である。第 3 成分から $t'=\pm t$ である。符号が $+$ なら、方位角 $\pi s,\pi s'\in[0,\pi]$ が $2\pi$ を法として等しいので $s=s'$ である。符号が $-$ なら、$\pi s'\equiv\pi s+\pi\pmod{2\pi}$ と $s,s'\in[0,1]$ から $\{s,s'\}=\{0,1\}$、$t'=-t$ となり、$(s,t)\sim(s',t')$ である。
$M$ はコンパクト、$q(B)$ は Hausdorff なので、$\bar f$ は同相写像である。
2. $D_+$ は $(x_1,x_2)\mapsto(x_1,x_2,\sqrt{1-x_1^2-x_2^2})$ により半径 $\sqrt3/2$ の閉円板と同相である。$D_+$ は対蹠点の組を含まないので $q|_{D_+}$ は単射であり、コンパクトから Hausdorff への連続な単射として $D_+$ と $q(D_+)$ の同相写像を与える。
3. $S^2=B\cup D_+\cup(-D_+)$ で $q(-D_+)=q(D_+)$ なので $\mathbb{R}\mathrm{P}^2=q(B)\cup q(D_+)$ である。$q(B)\cap q(D_+)$ の点 $q(x)$ は、$x\in B$ でかつ $x$ または $-x$ が $D_+$ に入る点なので、$x_3=\pm\frac12$ であり、$q(\{x_3=\frac12\})$ に入る。$\bar f$ のもとで $q(\{x_3=\pm\frac12\})$ は $t=\pm1$ の辺の像、すなわち $\partial M$ に対応し、2 の同相写像のもとで $\{x_3=\frac12\}$ は円板の境界の円周に対応する。最後に、$M$ と閉円板 $q(D_+)$ を、円周 $q(\{x_3=\frac12\})$ の各点とそれに $\bar f$ で対応する $\partial M$ の点とを同一視して貼り合わせた空間を $Y$ とする。$M$ の上で $\bar f$、円板の上で包含 $q(D_+)\hookrightarrow\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ と定めた写像 $Y\to\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ は矛盾なく定まる連続な全単射であり(全射は 3 の前半、単射は $q(B)\cap q(D_+)$ の計算による)、$Y$ はコンパクト、$\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ は Hausdorff なので同相写像である。$\square$
この命題から、Möbius の帯は $\mathbb{R}^3$ に埋め込めるのに(prop-mobius-models の 2)、その縁に円板を貼った閉曲面 $\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ は $\mathbb{R}^3$ に埋め込めない(射影空間 の例「実射影平面」、Hat02 Corollary 3.46 の後の注意、p. 256)。$\mathbb{R}^3$ の中の Möbius の帯の縁は 1 本の閉曲線だが、それに $\mathbb{R}^3$ の中で帯と交わらない円板を張ることはできない、ということである。
2 つの Möbius の帯をそれぞれの縁の円周どうしで貼り合わせると Klein の壺が得られる(Hat02 Example 4.43、p. 377。同書 Example 2.47、pp. 150–151 はこの分解に Mayer–Vietoris 完全列を当て、縁が芯を 2 周すること(prop-mobius-boundary の 2)から $H_1(K)\cong\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2$、$H_2(K)=0$ を導く)。同書 Example 4.43 は、こうして得られる Klein の壺が円周の上の円周束であることも述べている(各ファイバー $[-1,1]$ が、2 枚の帯の対応するファイバーと端点で貼り合わさって円周になる)。
$M$ から芯の円周 $C$ を除いた $M\setminus C$ は連結で、半開の円柱 $S^1\times(0,1]$ と同相である。実際、$S^1=\{z\in\mathbb{C}\mid|z|=1\}$ として
$$
k([s,t]):=\begin{cases}(e^{\pi is},\ t)&(t>0),\\ (e^{\pi i(s+1)},\ -t)&(t< 0)\end{cases}
$$
とおくと、$k$ は矛盾なく定まる同相写像 $M\setminus C\to S^1\times(0,1]$ である。
要点:$k$ が貼り合わせの線の両側で同じ値をとることを確かめ、上半円と下半円の側で逆写像を書き下す。
$t>0$ の点 $(0,t)$ と $(1,-t)$ は同値で、$k$ の値はそれぞれ $(1,t)$ と $(e^{2\pi i},t)=(1,t)$ である。$(1,t)$ と $(0,-t)$ についても値はともに $(e^{\pi i},t)$ である。したがって $k$ は矛盾なく定まり、$R\setminus([0,1]\times\{0\})$ の 2 つの成分の上で連続なので連続である($Q$ の $R\setminus([0,1]\times\{0\})$ への制限は、飽和した開集合への制限なので商写像である)。
逆写像は、$\theta\in[0,\pi]$ について $(e^{i\theta},t)\mapsto[\theta/\pi,t]$、$\theta\in[\pi,2\pi]$ について $(e^{i\theta},t)\mapsto[\theta/\pi-1,-t]$ で与えられる。$\theta=\pi$ では $[1,t]=[0,-t]$、$\theta=0$ と $\theta=2\pi$ では $[0,t]$ と $[1,-t]$ が等しいので矛盾なく定まり、$S^1\times(0,1]$ を覆う 2 つの閉集合(上半円と下半円の側)の上で連続なので連続である。2 つの写像が互いに逆であることは定義から直接確かめられる。$S^1\times(0,1]$ は連結なので $M\setminus C$ も連結である。$\square$
円柱 $A$ から芯 $S^1\times\{0\}$ を除くと、$S^1\times[-1,0)$ と $S^1\times(0,1]$ の 2 つに分かれる。Möbius の帯では、芯で切っても帯は 2 つに分かれず、長さが 2 倍で 1 本の帯になる。prop-mobius-boundary の 2 で見た「縁が芯を 2 周する」ことの言い換えで、$k$ の式で $s$ が $[0,1]$ を動く間に角度 $\pi s$ が半周しか進まないことがそれを表している。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 束が自明であること(局所自明性だけは残す) | Möbius 束($\mathbb{R}$ をファイバーとする Möbius の帯) | 至るところ $0$ でない切断が存在すること(自明束 $S^1\times\mathbb{R}$ では定数 $1$ がそうである) |
| 貼り合わせの写像が向きを保つこと(円柱は $(x,y)\mapsto(x+1,y)$ で割った商) | 開いた Möbius の帯 $(\mathbb{R}\times(-1,1))/\langle\tau\rangle$ | 向き付け可能であること |
| 同相であること(ホモトピー同値に弱める) | 円柱 $A$ と Möbius の帯 $M$(ともに円周とホモトピー同値) | 境界の連結成分の個数が等しいこと |
| 縁の円周が芯をちょうど 1 周すること | Möbius の帯(縁は芯を 2 周する) | 縁の円周がレトラクトであること(円柱では射影がレトラクション) |
1 行目:自明束では定数切断 $x\mapsto(x,1)$ が $0$ にならない。Möbius 束では ベクトル束 の命題「Möbius 束は自明でない」により、どの切断もどこかで $0$ になる。Möbius 束は局所自明である(prop-mobius-bundle と同じ局所自明化)。
2 行目:円柱 $S^1\times(-1,1)$ は向き付け可能な多様体の直積で向き付け可能である。開いた Möbius の帯は rem-mobius-orientation により向き付け可能でない。破れているのは「作用の生成元が向きを保つ」という仮定である。
3 行目:cor-mobius-not-annulus。境界の連結成分の個数は同相写像で保たれるが、ホモトピー同値では保たれない。
4 行目:prop-mobius-boundary の 2 と thm-mobius-no-retraction。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する