プラス構成(plus construction)とは、連結な CW 複体 $X$ と基本群の完全部分群 $H$(正規でなくてよい)に対し、$X$ に胞体を貼って基本群を $H$ の正規閉包で割り、ホモロジーは変えない CW 複体 $X^+$ を作る構成である。包含 $X\to X^+$ は基本群に全射を誘導してその核は $H$ の正規閉包であり、任意のアーベル群を係数とするホモロジーとコホモロジー、および $\pi_1(X^+)$ 加群を係数とする局所係数のホモロジーとコホモロジーに同型を誘導し、$X^+$ はホモトピー同値を除いて一意である。$H$ が完全でないと一般には作れず、Quillen は環 $R$ の代数的 $K$ 群を $K_n(R)=\pi_nB\mathrm{GL}(R)^+$($n\ge1$)と定義するのに用いた。
前提知識: 基本群, CW複体, 被覆空間, Hurewiczの定理
プラス構成 は、連結な CW 複体 $X$ の基本群の部分群のうち、完全群であるもの $H$ を、ホモロジーを変えずに消す構成である。$X$ に胞体を貼って CW 複体 $X^+$ を作り、包含 $X\hookrightarrow X^+$ が基本群に全射を誘導してその核がちょうど $H$ の正規閉包になり、しかも任意のアーベル群を係数とするホモロジーとコホモロジーに同型を誘導するようにする。$H$ は正規部分群でなくてよい。そのときに消えるのは $H$ そのものではなく、$H$ を含む最小の正規部分群である。
基本群全体が完全群なら、$2$ 胞体を貼って基本群を消し、そのとき増えた $2$ 次のホモロジーを $3$ 胞体で消せばよい。一般の場合は、$H$ に対応する被覆空間の上でこの操作を行い、写像柱を使って $X$ に戻す。この記事ではこの構成を完全に証明し、さらに $\pi_1(X^+)$ 加群を係数とする局所係数のホモロジーとコホモロジーでも同型になることを示す。後者により $X\to X^+$ は Quillen の意味のプラス構成になり、ホモトピー同値を除く一意性と普遍性(引用)が使える。応用の中心は代数的 K 理論で、$n\ge1$ の $K_n(R)$ は $B\mathrm{GL}(R)^+$ のホモトピー群として定義される(代数的K理論)。
$H$ が完全群でないと、このような空間は一般には作れない(ex-plus-counterexamples)。また $X\to X^+$ はホモロジーの同型を誘導してもホモトピー同値とは限らず、$X^+$ の高次のホモトピー群は $X$ のものと大きく違いうる。
ホモロジーとコホモロジーは特異ホモロジーと特異コホモロジーとし、整数係数の $H_n(X;\mathbb Z)$ を $H_n(X)$ と書く。CW 複体の基点は $0$ 胞体にとる。
群 $G$ の部分群 $H$ が 完全部分群 であるとは、$H$ が群として完全群であること、すなわち $[H,H]=H$ であることをいう。$H$ を含む $G$ の正規部分群のうち最小のもの、すなわち共役 $gHg^{-1}$($g\in G$)全体で生成される部分群を $H$ の 正規閉包 といい、$\langle\!\langle H\rangle\!\rangle$ と書く。
連結な CW 複体 $Y$ と $0$ 胞体 $y_0$ について $\pi:=\pi_1(Y,y_0)$ とし、$\tilde Y$ を普遍被覆とする。被覆変換によって特異鎖複体 $C_*(\tilde Y)$ は左 $\mathbb Z[\pi]$ 加群の複体になり、$\sigma\gamma:=\gamma^{-1}\sigma$ により右 $\mathbb Z[\pi]$ 加群ともみなす。左 $\mathbb Z[\pi]$ 加群 $M$ に対し、局所係数のホモロジーとコホモロジー を
$$
H_n(Y;M):=H_n\bigl(C_*(\tilde Y)\otimes_{\mathbb Z[\pi]}M\bigr),\qquad H^n(Y;M):=H^n\bigl(\mathrm{Hom}_{\mathbb Z[\pi]}(C_*(\tilde Y),M)\bigr)
$$
で定める(Hat02 §3.H, p. 328)。$\pi$ が自明に作用する $M$ では、通常の係数 $M$ のホモロジーとコホモロジーに一致する(同 Example 3H.1, p. 329)。連続写像 $f\colon X\to Y$ があれば、$M$ は $f_*\colon\pi_1(X,x_0)\to\pi$ を通して $\pi_1(X,x_0)$ 加群になり、$f$ は $f_*\colon H_n(X;M)\to H_n(Y;M)$ と $f^*\colon H^n(Y;M)\to H^n(X;M)$ を誘導する。
$X$ を連結な CW 複体、$x_0$ をその $0$ 胞体、$H$ を $\pi_1(X,x_0)$ の完全部分群とする。連結な CW 複体 $Y$ と連続写像 $f\colon X\to Y$ の組が、$X$ の $H$ に関するプラス構成 であるとは、次の 2 条件が成り立つことをいう。
条件 2 で $M$ を自明な加群に限ると、定数係数のホモロジーの同型になる。代数的K理論 の定義「プラス構成と高次の $K$ 群」は、$X=B\mathrm{GL}(R)$、$H=E(R)$ の場合のこの定義である。定義の条件に現れるのは $\langle\!\langle H\rangle\!\rangle$ だけなので、$H$ に関するプラス構成と $\langle\!\langle H\rangle\!\rangle$ に関するプラス構成は同じものであり、次の補題により $\langle\!\langle H\rangle\!\rangle$ も完全部分群である。
群 $G$ の完全部分群 $H$ の正規閉包 $\langle\!\langle H\rangle\!\rangle$ は完全群である。
$N:=\langle\!\langle H\rangle\!\rangle$ とおく。$g\in G$ について、共役による同型 $H\to gHg^{-1}$ は交換子を交換子に移すので、$gHg^{-1}=[gHg^{-1},gHg^{-1}]\subset[N,N]$ である。$N$ はこれらの共役全体で生成されるので $N\subset[N,N]$ となり、逆の包含は明らかだから $N=[N,N]$ である。$\square$
連結な CW 複体 $X$ について、Hurewiczの定理 の定理「1 次元の Hurewicz の定理」により $\pi_1(X,x_0)^{\mathrm{ab}}\cong H_1(X)$ なので、$\pi_1(X,x_0)$ が完全群であることと $H_1(X)=0$ であることは同値である(完全群 の命題「完全群の同値な条件」)。
$X$ を連結な CW 複体で、$\pi_1(X,x_0)$ が完全群であるものとする。$X$ に $2$ 胞体と $3$ 胞体を貼って、単連結な CW 複体 $X^+$ で、包含 $X\hookrightarrow X^+$ がすべての $n$ で同型 $H_n(X)\to H_n(X^+)$ を誘導するものが作れる。
2 胞体を貼る。 $\pi_1(X,x_0)$ の生成系(無限でもよい)を代表するループを、胞体近似定理 により $x_0$ を保つ胞体写像 $\varphi_\alpha\colon S^1\to X^1$ にとる。$\varphi_\alpha$ を接着写像として $2$ 胞体 $e^2_\alpha$ を貼った CW 複体を $X'$ とすると、Hat02 Proposition 1.26 (a)(p. 50)により $\pi_1(X',x_0)$ は $\pi_1(X,x_0)$ を $[\varphi_\alpha]$ 全体の正規閉包で割った群、すなわち自明群である。
増えた $H_2$。 CW 対 $(X',X)$ は良い対で(Hat02 Proposition A.5, p. 523)、$X'/X$ は $2$ 次元球面のウェッジ和なので、$H_2(X',X)$ は $e^2_\alpha$ の特性写像が定める類 $\varepsilon_\alpha$ を基底とする自由アーベル群 $F$ であり、$n\ne2$ では $H_n(X',X)=0$ である(良い対 の定理「良い対の相対ホモロジー」「ウェッジ和の被約ホモロジー」)。対の長完全列と $H_1(X)=0$ から完全列
$$
0=H_3(X',X)\to H_2(X)\to H_2(X')\xrightarrow{\ j\ }F\to H_1(X)=0
$$
を得る。$F$ は自由なので、各 $\varepsilon_\alpha$ の $j$ による逆像を 1 つずつ選んで準同型 $s\colon F\to H_2(X')$ で $j\circ s=\mathrm{id}_F$ となるものがとれる。$H_2(X)$ が自由かどうか、$F$ の階数が有限かどうかは使わない。
3 胞体を貼る。 $X'$ は単連結なので、Hurewiczの定理 の定理「Hurewicz の定理」($n=2$)により Hurewicz 準同型 $h\colon\pi_2(X',x_0)\to H_2(X')$ は同型である。そこで $h[\psi_\alpha]=s(\varepsilon_\alpha)$ となる基点付き写像 $\psi_\alpha\colon S^2\to X'$ を選び、胞体近似定理 により $2$ 骨格に入る胞体写像にとり直す。$\psi_\alpha$ を接着写像として $3$ 胞体 $e^3_\alpha$ を貼った CW 複体を $X^+$ とする。$3$ 胞体を貼っても基本群は変わらない(Hat02 Proposition 1.26 (b)、p. 50)ので、$X^+$ は単連結である。
相対ホモロジーが消える。 上と同じく $H_3(X^+,X')$ は $e^3_\alpha$ の特性写像 $\Phi_\alpha\colon(D^3,S^2)\to(X^+,X')$ が定める類 $\eta_\alpha=\Phi_{\alpha*}[D^3]$ を基底とする自由アーベル群で、$n\ne3$ では $H_n(X^+,X')=0$ である。ここで $[D^3]\in H_3(D^3,S^2)$ は、境界写像で $h$ の定義に使う $[S^2]$ に移る生成元とする。境界写像の自然性から、対 $(X^+,X')$ の境界写像は $\eta_\alpha$ を $\psi_{\alpha*}[S^2]=h[\psi_\alpha]=s(\varepsilon_\alpha)$ に送る。したがって三対 $(X^+,X',X)$ の長完全列(相対ホモロジーと長完全列 の命題「三対の長完全列」)の境界写像
$$
\partial\colon H_3(X^+,X')\to H_2(X',X)
$$
は $\eta_\alpha\mapsto j(s(\varepsilon_\alpha))=\varepsilon_\alpha$ であり、基底を基底に送る同型である。三対の長完全列
$$
0=H_3(X',X)\to H_3(X^+,X)\to H_3(X^+,X')\xrightarrow{\ \partial\ }H_2(X',X)\to H_2(X^+,X)\to H_2(X^+,X')=0
$$
から $H_3(X^+,X)=0$、$H_2(X^+,X)=0$ を得る。$n\ne2,3$ では $H_n(X',X)$ と $H_n(X^+,X')$ がともに $0$ なので、同じ列から $H_n(X^+,X)=0$ である。よってすべての $n$ で $H_n(X^+,X)=0$ であり、相対ホモロジーと長完全列 の命題「相対ホモロジーの消滅と包含の同型」により包含はすべての $H_n$ の同型を誘導する。$\square$
この命題は Hat02 Proposition 4.40(p. 374)である。$\pi_1(X^+)=1$ なので局所係数は定数係数に限られ、thm-plus-existence の証明の最後の段と同じく普遍係数定理により、この $X^+$ は $X$ のプラス構成である。$X^+$ は $X$ に $2$ 胞体と $3$ 胞体だけを貼ったものだが、ループ $\varphi_\alpha$ と球面 $\psi_\alpha$ の選び方によるので、空間としては一意に決まらない。一意性はホモトピー同値を除いてのものである(thm-plus-universal)。
$X$ を連結な CW 複体、$x_0$ をその $0$ 胞体、$H$ を $G:=\pi_1(X,x_0)$ の完全部分群とする($H$ は正規でなくてよい)。このとき、$X$ を部分複体として含む CW 複体 $X^+$ で、包含 $\iota\colon X\hookrightarrow X^+$ が次をみたすものがある。
構成。 CW 複体は局所弧状連結かつ半局所単連結なので(CW複体 の系「局所弧状連結性と普遍被覆」)、$p_*\pi_1(X_H,\tilde x_0)=H$ となる連結な被覆 $p\colon(X_H,\tilde x_0)\to(X,x_0)$ がある(被覆空間の分類定理 の定理「部分群に対応する被覆の存在」)。$X$ の胞体の持ち上げを胞体とする CW 構造を $X_H$ に入れる(Eilenberg–MacLane空間 の補題「被覆空間の胞体構造」)と、$\tilde x_0$ は $0$ 胞体で、$p$ は胞体写像である。$p_*$ は単射なので $\pi_1(X_H,\tilde x_0)\cong H$ は完全群であり、prop-plus-perfect-pi1 により $X_H$ に $2$ 胞体と $3$ 胞体を貼った単連結な $X_H^+$ ができる。
$p$ の写像柱 $M_p=\bigl((X_H\times I)\sqcup X\bigr)/\bigl((y,1)\sim p(y)\bigr)$ は、$X_H$(定義域の端 $X_H\times\{0\}$)と $X$(値域の端)を部分複体として含む CW 複体であり(写像柱 の命題「胞体写像の写像柱は CW 複体」)、レトラクション $r\colon M_p\to X$ は $X$ の上で動かないホモトピーで恒等写像とつながるホモトピー同値で、$X_H$ への制限は $p$ である(Whiteheadの定理 の命題「写像柱の性質」)。$X_H^+$ の $2$ 胞体と $3$ 胞体は $X_H\subset M_p$ に沿って貼られているので、同じ接着写像で $M_p$ に貼り、
$$
X^+:=M_p\cup_{X_H}X_H^+
$$
とおく。$X^+$ は CW 複体で、$M_p$ と $X_H^+$ はその部分複体であり、$M_p\cap X_H^+=X_H$ である。$X\subset M_p\subset X^+$ を包含 $\iota$ とする。
基本群。 $X_H^+$ の $2$ 胞体の接着写像 $\varphi_\alpha$ は $\pi_1(X_H,\tilde x_0)\cong H$ の生成元を代表する $\tilde x_0$ を保つループだった。Hat02 Proposition 1.26 (a)・(b)(p. 50)により、包含 $M_p\hookrightarrow X^+$ は $\pi_1(-,\tilde x_0)$ に全射を誘導し、その核 $K$ は $[\varphi_\alpha]$ 全体の正規閉包である。$r$ はホモトピー同値で $r(\tilde x_0)=x_0$ なので $r_*\colon\pi_1(M_p,\tilde x_0)\to\pi_1(X,x_0)$ は同型であり、$r_*[\varphi_\alpha]=p_*[\varphi_\alpha]$ は $H$ を生成する。同型は正規閉包を正規閉包に移すので $r_*(K)=\langle\!\langle H\rangle\!\rangle$ である。
基点を $x_0$ に移す。柱の線分 $\gamma(t)=[(\tilde x_0,t)]$ は $\tilde x_0$ から $x_0$ への道で、$r\circ\gamma$ は $x_0$ の定値道である。$\gamma$ に沿った基点の取り替え $\beta_\gamma$ は包含 $M_p\hookrightarrow X^+$ と可換で、$r_*\circ\beta_\gamma=r_*$ をみたす。よって $\pi_1(M_p,x_0)\to\pi_1(X^+,x_0)$ は全射で、核 $\beta_\gamma(K)$ について $r_*(\beta_\gamma(K))=\langle\!\langle H\rangle\!\rangle$ である。$X\hookrightarrow M_p$ が誘導する $\pi_1(X,x_0)\to\pi_1(M_p,x_0)$ は $r_*$ の逆写像なので、合成 $\iota_*$ は全射で、その核は $r_*(\beta_\gamma(K))=\langle\!\langle H\rangle\!\rangle$ である。
整数係数のホモロジー。 $X^+$ は部分複体 $M_p$ と $X_H^+$ の和で、共通部分は $X_H$ なので、包含は同型
$$
H_n(X_H^+,X_H)\xrightarrow{\ \cong\ }H_n(X^+,M_p)
$$
を誘導する(Hat02 Corollary 2.24、p. 126)。左辺は prop-plus-perfect-pi1 により $0$ なので、$H_n(X^+,M_p)=0$ であり、包含 $M_p\hookrightarrow X^+$ はすべての $H_n$ の同型を誘導する(相対ホモロジーと長完全列 の命題「相対ホモロジーの消滅と包含の同型」)。$X\hookrightarrow M_p$ はホモトピー同値なので、$\iota_*\colon H_n(X)\to H_n(X^+)$ はすべての $n$ で同型である。
一般の係数。 アーベル群 $A$ について、普遍係数定理 の定理「特異コホモロジーの普遍係数定理」の自然な短完全列
$$
0\to H_n(X)\otimes A\to H_n(X;A)\to\operatorname{Tor}(H_{n-1}(X),A)\to0,
$$
$$
0\to\operatorname{Ext}(H_{n-1}(X),A)\to H^n(X;A)\to\operatorname{Hom}(H_n(X),A)\to0
$$
を $X$ と $X^+$ について並べ、$\iota$ で結ぶ。両端の項は整数係数のホモロジーの同型から同型になるので、五項補題 により真ん中の $\iota_*$ と $\iota^*$ も同型である。$\square$
$H$ が正規でないとき、$\iota_*$ の核は $H$ より大きい $\langle\!\langle H\rangle\!\rangle$ になる(ex-plus-nonnormal)。被覆 $X_H\to X$ は一般には埋め込みではないので、$X_H^+$ を $X$ に直接貼ることはできず、写像柱を間にはさむ必要がある。
thm-plus-existence の構成で作った $\iota\colon X\hookrightarrow X^+$ について、$Q:=\pi_1(X^+,x_0)$ とする。すべての左 $\mathbb Z[Q]$ 加群 $M$ とすべての $n$ について、$\iota_*\colon H_n(X;M)\to H_n(X^+;M)$ と $\iota^*\colon H^n(X^+;M)\to H^n(X;M)$ は同型である。とくに $\iota$ は $X$ の $H$ に関するプラス構成である。
要点:$X^+$ の普遍被覆の中で $X_H^+$ の逆像は $X_H^+$ のコピーの非交和になるので、$X$ の逆像から普遍被覆への包含は整数係数のホモロジーの同型を誘導する。これは $\mathbb Z[Q]$ 上の自由な鎖複体の間の擬同型なので、鎖ホモトピー同値であり、$M$ とのテンソル積や $\mathrm{Hom}$ をとっても同型のまま残る。
$q\colon\widetilde{X^+}\to X^+$ を普遍被覆とし、$\widetilde{X^+}$ に胞体の持ち上げによる CW 構造を入れる。$N:=\langle\!\langle H\rangle\!\rangle$、$\hat X:=q^{-1}(X)$、$\hat M:=q^{-1}(M_p)$、$V:=q^{-1}(X_H^+)$ とおくと、どれも部分複体である。
(a) $q|_{\hat X}\colon\hat X\to X$ は被覆である。$\iota_*$ が全射なので $\hat X$ は弧状連結であり、$X$ のループが $\hat X$ で閉じた持ち上げをもつのは、$X^+$ で零ホモトピックなとき、すなわちその類が $N$ に入るときである。よって $\hat X$ は $N$ に対応する $X$ の連結被覆で(被覆空間の分類定理)、被覆変換群 $Q\cong G/N$ が自由に作用する。$G$ が $Q$ を通して作用する加群 $M$ について、$C_*(\tilde X)\otimes_{\mathbb Z[G]}\mathbb Z[G/N]\cong C_*(\hat X)$(Hat02 Example 3H.2, p. 329)から $C_*(\tilde X)\otimes_{\mathbb Z[G]}M\cong C_*(\hat X)\otimes_{\mathbb Z[Q]}M$、$\mathrm{Hom}_{\mathbb Z[G]}(C_*(\tilde X),M)\cong\mathrm{Hom}_{\mathbb Z[Q]}(C_*(\hat X),M)$ であり、$\iota_*,\iota^*$ は包含 $c\colon C_*(\hat X)\to C_*(\widetilde{X^+})$ から誘導される。
(b) $\hat X$ は $\hat M$ の変形レトラクトである。$M_p$ を $X$ へつぶす変形レトラクション $D_t$ について、$D_t\circ q|_{\hat M}$ を包含から始まるホモトピーとして持ち上げる(被覆空間 の定理「ホモトピーの持ち上げ」)。持ち上げは $q^{-1}(M_p)=\hat M$ に入り、$\hat X$ の点では定値道の持ち上げなので動かず、時刻 $1$ で $q^{-1}(X)=\hat X$ に入る。
(c) $X_H^+$ は単連結で局所弧状連結なので、被覆 $q|_V\colon V\to X_H^+$ の各連結成分 $V_\lambda$ は $X_H^+$ に同相に写り、$V_\lambda\cap q^{-1}(X_H)$ は $X_H$ に写る。$\widetilde{X^+}=\hat M\cup V$、$\hat M\cap V=q^{-1}(X_H)$ なので、Hat02 Corollary 2.24(p. 126)により $H_n(\widetilde{X^+},\hat M)\cong\bigoplus_\lambda H_n(V_\lambda,V_\lambda\cap q^{-1}(X_H))\cong\bigoplus_\lambda H_n(X_H^+,X_H)=0$ である。(b) と合わせて、$c$ は整数係数のホモロジーの同型を誘導する。
(d) $Q$ は $\widetilde{X^+}$ の特異単体の集合に自由に作用するので、$C_*(\hat X)$ と $C_*(\widetilde{X^+})$ は自由 $\mathbb Z[Q]$ 加群の複体で、$c$ は $Q$ 同変である。写像錐 $D$ は負の次数で $0$ の自由 $\mathbb Z[Q]$ 加群の非輪状な複体になる。$Z_i:=\ker(d\colon D_i\to D_{i-1})$ について、$Z_0=D_0$ は射影的で、$Z_{i-1}$ が射影的なら完全列 $0\to Z_i\to D_i\to Z_{i-1}\to0$ が分裂して $Z_i$ も射影的になる。分裂 $\sigma_i\colon Z_{i-1}\to D_i$ を使って $D_i=Z_i\oplus\sigma_i(Z_{i-1})$ と分け、$k(z+\sigma_i(w)):=\sigma_{i+1}(z)$ と定めると $dk+kd=\mathrm{id}$ となり、$D$ は可縮である。可縮性は $-\otimes_{\mathbb Z[Q]}M$ と $\mathrm{Hom}_{\mathbb Z[Q]}(-,M)$ で保たれるので、$c\otimes M$ と $\mathrm{Hom}(c,M)$ の写像錐は非輪状であり、$\iota_*$ と $\iota^*$ は同型である。基本群の条件は thm-plus-existence の 1 である。$\square$
$X$ を連結な CW 複体、$H$ を $\pi_1(X,x_0)$ の完全部分群、$f\colon X\to Y$ を $X$ の $H$ に関するプラス構成とする。
この定理はこの記事では証明しない(Quillen。WeiKIV Theorem 1.5(p. 5)。証明には障害理論を使う)。そこでは $\pi_1(X)$ の完全な正規部分群 $P$ について、ホモトピーファイバーが非輪状になる写像として述べられ、同書 Lemma 1.6(p. 5)により、それは def-plus-main の条件 2 と同値である。$P=\langle\!\langle H\rangle\!\rangle$ は lem-plus-normal-closure により完全な正規部分群で、$g_*(H)=1$ と $g_*(P)=1$ は同値なので、上の形で当てはまる。とくにプラス構成はホモトピー同値を除いて一意であり、prop-plus-local によって、thm-plus-existence の構成はその代表になる。
$R$ を環とする。基本行列で生成される部分群 $E(R)$ は無限一般線形群 $\mathrm{GL}(R)$ の完全な正規部分群で、$\mathrm{GL}(R)/E(R)=K_1(R)$ である(代数的K理論 の定理「Whitehead の補題」の 3)。$B\mathrm{GL}(R)=K(\mathrm{GL}(R),1)$ を CW 複体にとる(Eilenberg–MacLane空間 の定理「Eilenberg–MacLane 空間の存在」)と、thm-plus-existence と prop-plus-local により $E(R)$ に関するプラス構成 $B\mathrm{GL}(R)\to B\mathrm{GL}(R)^+$ があり、$\pi_1B\mathrm{GL}(R)^+\cong K_1(R)$ である。$n\ge1$ の代数的 K 群 $K_n(R)=\pi_nB\mathrm{GL}(R)^+$ は、thm-plus-universal により構成の選び方によらない。
$P$ を Poincaréホモロジー球面 とする。$\pi_1(P)$ は位数 $120$ の完全群で、$P$ のプラス構成 $P^+$ は $S^3$ とホモトピー同値である。$P$ は $S^3$ とホモトピー同値でないので、$P\hookrightarrow P^+$ はすべてのホモロジーの同型を誘導するがホモトピー同値でない。
要点:$P^+$ は単連結で $S^3$ と同じホモロジーをもつので、Hurewicz の定理と Whitehead の定理で $S^3$ と比べる。
$P$ は滑らかな閉多様体なので三角形分割をもち(Whitehead三角形分割 の定理「Cairns–Whitehead の定理」)、CW 複体とみなせる。$\pi_1(P)$ が位数 $120$ の完全群で、$P$ がホモロジー $3$ 球面であり $S^3$ とホモトピー同値でないことは、Poincaréホモロジー球面 の定理「Poincaré ホモロジー球面の基本性質」である。prop-plus-perfect-pi1 の $P^+$ は単連結で $H_*(P^+)\cong H_*(S^3)$ である。$H_2(P^+)=0$ なので Hurewiczの定理 の定理「Hurewicz の定理」($n=2$)から $\pi_2(P^+)=0$、続いて($n=3$)$\pi_3(P^+)\cong H_3(P^+)\cong\mathbb Z$ である。生成元を表す $g\colon S^3\to P^+$ は $H_3$ の生成元を生成元に送り、ほかの次数では両辺が $H_0$ を除いて $0$ なので、すべての $H_n$ の同型を誘導する。Hurewiczの定理 の系「ホモロジーによる Whitehead の定理」により $g$ はホモトピー同値である。$\square$
基本群が完全群であることは 非輪状空間 の命題「基本群は完全群」である。prop-plus-perfect-pi1 の $X^+$ は単連結で、ホモロジーが $X$ と同じなので非輪状である。非輪状空間 の定理「非輪状な CW 複体の可縮性」により $X^+$ は可縮である。$\square$
有限個の点以外を固定する自然数の置換の群を $\Sigma_\infty$、その偶置換の部分群を $A_\infty$ とする。$[\Sigma_\infty,\Sigma_\infty]=A_\infty$ で、$A_\infty$ は完全群なので、$X=K(\Sigma_\infty,1)$ の $A_\infty$ に関するプラス構成では $\pi_1(X^+)\cong\mathbb Z/2$ である。$X^+$ の $i\ge1$ 次のホモトピー群は球面の安定ホモトピー群と同型になる(Barratt–Priddy–Quillen の定理。Hat02 p. 374 に主張がある。この記事では証明しない)。
要点:3 文字の巡回置換が交換子として書けることを使う。
符号 $\Sigma_\infty\to\{\pm1\}$ の核が $A_\infty$ で、交換子は偶置換なので $[\Sigma_\infty,\Sigma_\infty]\subset A_\infty$ である。$A_\infty$ の元はある $A_n$($n\ge3$)に入り、$A_n$ は 3 文字の巡回置換で生成される(交代群 の定理「3 サイクルによる生成」)。写像の合成を右から読むと $(a\,b)(b\,c)=(a\,b\,c)$ なので、$[(a\,b),(b\,c)]=(a\,b\,c)^2=(a\,c\,b)$ である。よって 3 文字の巡回置換はすべて $\Sigma_\infty$ の交換子で、$[\Sigma_\infty,\Sigma_\infty]=A_\infty$ である。さらに $a,b,c$ と異なる $d,e$ をとり $u=(a\,b)(d\,e)$、$v=(b\,c)(d\,e)$ とおくと、$u,v\in A_\infty$、$u^2=v^2=1$、$uv=(a\,b\,c)$ なので $[u,v]=(uv)^2=(a\,c\,b)$ である。よって $A_\infty=[A_\infty,A_\infty]$ である。$\square$
thm-plus-existence の仮定のうち「$H$ が完全部分群」を外すと、基本群の条件と定数係数のホモロジーの条件を同時にみたす写像は一般には存在しない。各行で $X$ は連結な CW 複体のままである。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $H$ が完全($H_1$ に現れる場合) | $X=S^1$、$H=\pi_1(S^1)\cong\mathbb Z$ | 核が $H$ で $H_1$ の同型を誘導する写像 $X\to Y$ はない |
| $H$ が完全($H_1$ には現れない場合) | $X=S^1\vee S^1$、$H=[F_2,F_2]$($F_2=\pi_1(X)$) | 基本群に全射を誘導して核が $H$ になり、$H_2$ の同型を誘導する連結な CW 複体への写像はない |
要点:1 行目は $H_1$ と基本群のアーベル化の比較、2 行目は 2 次元トーラスの $H_2$ との比較による。
1 行目:$\mathbb Z$ は完全群でない。そのような写像 $f\colon S^1\to Y$ があれば、$f_*$ は基本群の上で自明なので、Hurewicz 写像の自然性により $H_1(f)$ は $H_1(S^1)\cong\mathbb Z$ の生成元(基本ループの類)を $0$ に送り、同型でない(Hurewiczの定理 の定理「1 次元の Hurewicz の定理」)。
2 行目:$[F_2,F_2]$ は正規部分群で $F_2/[F_2,F_2]\cong\mathbb Z^2$ である。そのような連結な CW 複体 $Y$ と $f$ があれば、$f_*$ は全射なので $\pi_1(Y)\cong\mathbb Z^2$、$H_2(Y)\cong H_2(S^1\vee S^1)=0$ である。$Y$ に次元 $3$ 以上の胞体を貼って $2$ 次以上のホモトピー群を消すと $K(\mathbb Z^2,1)$ である CW 複体 $Y_1$ ができ(Hat02 Example 4.16, p. 354)、$Y_1$ は 2 次元トーラス $T^2$ とホモトピー同値である(Eilenberg–MacLane空間 の例「円周とトーラス」と定理「Eilenberg–MacLane 空間の一意性」)。$(Y_1,Y)$ の相対胞体は次元 $3$ 以上なので $H_2(Y_1,Y)=0$ で、$H_2(Y)\to H_2(Y_1)\cong H_2(T^2)\cong\mathbb Z$ は全射になり、$H_2(Y)=0$ に矛盾する。とくに thm-plus-existence から、$[F_2,F_2]$ は完全群でないこともわかる。
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