剰余体

同義語:residue field

概要

剰余体(residue field)とは、局所環 $A$ をその唯一の極大イデアル $\mathfrak m$ で割った体 $A/\mathfrak m$ のことである。可換環 $A$ の素イデアル $\mathfrak p$ における剰余体は $\kappa(\mathfrak p)=A_{\mathfrak p}/\mathfrak pA_{\mathfrak p}$ で、整域 $A/\mathfrak p$ の商体と同型である。スキームの点 $x$ の剰余体 $\kappa(x)$ は茎の剰余体で、関数の $x$ での値が入る体である。例:$\mathbb{Z}_{(p)}$ の剰余体は $\mathbb{F}_p$、$k[x]_{(x)}$ の剰余体は $k$。体への環準同型は核での剰余体を経由する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 可換環, 局所環, 極大イデアル, 素イデアル, 局所化, 商体

定義

本記事では、環は単位元 $1$ をもつ可換環とし、環準同型は $1$ を $1$ に送るものとする。環 $A$ のイデアル $\mathfrak m$ が極大イデアルであることは、剰余環 $A/\mathfrak m$ が体であることと同値である(極大イデアル の記事の命題「剰余環が体であることとの同値」)。また素イデアル $\mathfrak p$ について、剰余環 $A/\mathfrak p$ は整域である。

局所環の剰余体

$(A,\mathfrak m)$ を局所環、すなわち極大イデアルをただ 1 つもつ環とし、$\mathfrak m$ をその極大イデアルとする。体
$$ \kappa:=A/\mathfrak m $$
を $A$ の剰余体(residue field)という。$k_A$、$\kappa_A$、$A/\mathfrak m_A$ などとも書き、局所環を剰余体まで込めて $(A,\mathfrak m,\kappa)$ と書くこともある。標準的な全射 $A\to\kappa$ による $a\in A$ の像を $\bar a$ と書く。

一般の環では、各素イデアルでの局所化をとることで剰余体が定まる。素イデアル $\mathfrak p$ に対し、補集合 $A\setminus\mathfrak p$ による局所化 $A_{\mathfrak p}$ は $\mathfrak pA_{\mathfrak p}=\{a/s\mid a\in\mathfrak p,\ s\notin\mathfrak p\}$ をただ 1 つの極大イデアルとする局所環である(局所化 の記事の系「素イデアルにおける局所化の局所性」)。

素イデアルにおける剰余体

$A$ を環、$\mathfrak p$ を $A$ の素イデアルとする。局所環 $A_{\mathfrak p}$ の剰余体
$$ \kappa(\mathfrak p):=A_{\mathfrak p}/\mathfrak pA_{\mathfrak p} $$
を $\mathfrak p$ における $A$ の剰余体という。$k(\mathfrak p)$ とも書く。合成 $A\to A_{\mathfrak p}\to\kappa(\mathfrak p)$、$a\mapsto a/1\bmod\mathfrak pA_{\mathfrak p}$ による $a$ の像を $a(\mathfrak p)$ と書き、$a$ の $\mathfrak p$ における値という。

$A$ 自身が局所環 $(A,\mathfrak m)$ で $\mathfrak p=\mathfrak m$ のときは、$A\setminus\mathfrak m$ の元はすべて単元なので $A_{\mathfrak m}=A$ であり、$\kappa(\mathfrak m)$ は def-residue-field の剰余体 $A/\mathfrak m$ に一致する。より一般に、極大イデアル $\mathfrak m$ については $\kappa(\mathfrak m)\cong A/\mathfrak m$ であり、素イデアル $\mathfrak p$ については $\kappa(\mathfrak p)$ は整域 $A/\mathfrak p$ の商体と同型である(prop-residue-field-fraction-field)。$A/\mathfrak p$ そのものは $\mathfrak p$ が極大でなければ体でないので、剰余体は $A/\mathfrak p$ ではなくその商体である。
剰余体は幾何学的な空間の各点にも定まる。局所環付き空間 $(X,\mathcal O_X)$ とは、位相空間 $X$ と環の層 $\mathcal O_X$ の組で、各点 $x$ での茎 $\mathcal O_{X,x}$ が局所環であるものをいう。

点における剰余体

$(X,\mathcal O_X)$ を局所環付き空間、$x\in X$ とし、$\mathfrak m_x$ を局所環 $\mathcal O_{X,x}$ の極大イデアルとする。体
$$ \kappa(x):=\mathcal O_{X,x}/\mathfrak m_x $$
を $x$ における剰余体という。$x$ を含む開集合 $U$ 上の切断 $s\in\mathcal O_X(U)$ に対し、その芽 $s_x$ の $\kappa(x)$ における像を $s(x)$ と書き、$s$ の $x$ における値という。

この定義は 局所環付き空間 の記事の定義「点における剰余体と接空間」と同じである。スキームは局所環付き空間なので、スキームの各点に剰余体が定まる。アフィンスキーム $X=\operatorname{Spec}A$ の点 $\mathfrak p$ では茎が $\mathcal O_{X,\mathfrak p}\cong A_{\mathfrak p}$ なので(アフィンスキーム の記事の命題「構造層の茎」)、点としての剰余体 $\kappa(\mathfrak p)$ は def-residue-field-prime の $\kappa(\mathfrak p)$ と一致し、$a\in A=\mathcal O_X(X)$ の値 $a(\mathfrak p)$ も同じものになる。

直感

関数の環を思い浮かべると、剰余体は「1 点での値がとる数の体」である。$\mathbb{C}$ 上の多項式 $f(x)$ の点 $c$ での値 $f(c)$ は、$f$ を極大イデアル $(x-c)$ で割った余りであり、値の集まる体は $\mathbb{C}[x]/(x-c)\cong\mathbb{C}$ である。局所環はある点のまわりだけを見た関数の環で、その極大イデアルは「その点で消える関数」、剰余体は「その点での値」の体である。可換環 $A$ の素イデアル $\mathfrak p$ を空間 $\operatorname{Spec}A$ の点とみると、元 $a\in A$ はこの空間上の「関数」であり、その点での値 $a(\mathfrak p)$ は剰余体 $\kappa(\mathfrak p)$ に入る。ただし値の入る体は点ごとに異なり、$\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ では素数 $p$ の点で $\mathbb{F}_p$、点 $(0)$ で $\mathbb{Q}$ になる。整数 $n$ の「$p$ での値」は $n$ を $p$ で割った余りであり、$n$ が点 $(p)$ で消えることは $p\mid n$ と同じである。

例と反例

素数での局所化 $\mathbb{Z}_{(p)}$ の剰余体

$p$ を素数とし、$\mathbb{Z}_{(p)}=\{a/b\in\mathbb{Q}\mid a,b\in\mathbb{Z},\ p\nmid b\}$ を整数環の素イデアル $(p)$ での局所化とする。極大イデアルは $p\mathbb{Z}_{(p)}=\{a/b\mid p\mid a,\ p\nmid b\}$ である。写像
$$ \mathbb{Z}_{(p)}\to\mathbb{F}_p,\qquad \frac ab\longmapsto\bar a\,\bar b^{-1} $$
($\bar a$ は $a$ の $p$ を法とする類)は、$a/b=a'/b'$ なら $ab'=a'b$ から $\bar a\bar b^{-1}=\bar a'\bar b'^{-1}$ となるので定まり、環準同型であり、全射($a/1\mapsto\bar a$)で、核は $\bar a=0$、すなわち $p\mid a$ となる $a/b$ の全体 $p\mathbb{Z}_{(p)}$ である。よって $\mathbb{Z}_{(p)}$ の剰余体は $\mathbb{F}_p$ である。
同じ計算で、$\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ の点 $(p)$ の剰余体は $\kappa((p))=\mathbb{F}_p$ であり、点 $(0)$ の剰余体は $\kappa((0))=\mathbb{Z}_{(0)}=\mathbb{Q}$ である。剰余体の標数は点ごとに異なり、$(p)$ で $p$、$(0)$ で $0$ である。

多項式環の原点での局所化 $k[x]_{(x)}$ の剰余体

$k$ を体、$A=k[x]_{(x)}=\{f/g\mid f,g\in k[x],\ g(0)\neq0\}$ を多項式環 $k[x]$ の素イデアル $(x)$ での局所化とする。原点での値をとる写像
$$ A\to k,\qquad \frac fg\longmapsto\frac{f(0)}{g(0)} $$
は、$f/g=f'/g'$ なら $fg'=f'g$ に $0$ を代入して値が一致するので定まり、全射な環準同型で、核は $f(0)=0$、すなわち $x\mid f$ となる $f/g$ の全体 $xA$ である。よって $A$ の剰余体は $k$ であり、$f/g$ の値は原点での値 $f(0)/g(0)$ である。同様に $c\in k$ について $k[x]_{(x-c)}$ の剰余体は $k$ で、値は $x=c$ での値である。

体上の多項式環のいろいろな点
  1. $\mathbb{R}[x]$ の極大イデアル $(x^2+1)$ における剰余体は $\mathbb{R}[x]/(x^2+1)\cong\mathbb{C}$ である。多項式 $f$ のこの点での値は、$f(i)$($i$ と $-i$ のどちらを選ぶかは同型の選び方による)である。
  2. $k[x,y]$ の素イデアル $(y)$ は極大でなく($(y)\subsetneq(x,y)$)、$k[x,y]/(y)\cong k[x]$ なので、剰余体は $\kappa((y))\cong\operatorname{Frac}(k[x])=k(x)$(有理関数体)である。点 $(y)$ は直線 $y=0$ 全体を表し、その上の「値」は $x$ の有理関数である。$k[x,y]$ の点 $(0)$ の剰余体は $k(x,y)$、点 $(x,y)$ の剰余体は $k$ である。
  3. $\mathbb{Z}[x]$ の素イデアル $(3,x^2+1)$ の剰余体は $\mathbb{F}_3[x]/(x^2+1)$ で、$x^2+1$ は $\mathbb{F}_3$ に根をもたない($0,1,2$ で値が $1,2,2$)$2$ 次式なので既約(既約多項式)であり、剰余体は 9 元の有限体 $\mathbb{F}_9$ である。$\mathbb{Z}[x]$ の素イデアル $(3)$ の剰余体は $\operatorname{Frac}(\mathbb{F}_3[x])=\mathbb{F}_3(x)$ である。
完備局所環と冪零元をもつ局所環

体 $k$ 上の形式的冪級数環 $k[\![t]\!]$ は $(t)$ を極大イデアルとする局所環で、定数項をとる写像により剰余体は $k$ である。p進数の整数環 $\mathbb{Z}_p$ は $p\mathbb{Z}_p$ を極大イデアルとする局所環で、剰余体は $\mathbb{Z}_p/p\mathbb{Z}_p\cong\mathbb{F}_p$ である。$k[\varepsilon]=k[x]/(x^2)$ は $(\varepsilon)$ を極大イデアルとする局所環で、剰余体は $k$ である。この最後の例では、冪零元 $\varepsilon\neq0$ の値は $0$ である。剰余体は冪零元を見ることができない。

反例:剰余体が同じでも局所環は同じとは限らない

$\mathbb{Z}_p$ と $\mathbb{F}_p[\![t]\!]$ は、どちらも剰余体 $\mathbb{F}_p$ をもつ局所環(しかも完備な離散付値環)だが、前者は標数 $0$、後者は標数 $p$ なので同型でない。同様に $k[\![t]\!]$、$k[x]/(x^2)$、$k$ はどれも剰余体 $k$ をもつが、互いに同型でない(冪零元の有無、体であるか否かで区別できる)。これらは「剰余体が同型」を満たすが「局所環が同型」を満たさず、含意「剰余体が同型な局所環は同型である」を破る。剰余体は局所環の「点での値」だけを記録し、点のまわりの様子は記録しない。

反例:局所準同型でない準同型は剰余体の写像を誘導しない

包含 $\iota\colon\mathbb{Z}_{(p)}\to\mathbb{Q}$ は局所環の間の環準同型であるが、$\mathbb{Z}_{(p)}$ の極大イデアルの元 $p$ を $\mathbb{Q}$ の単元に送る。剰余体の間に「$\bar a\mapsto\overline{\iota(a)}$」で写像を定めようとすると、$\bar p=\bar0$ と $\overline{\iota(p)}=p\neq0$ が矛盾する。実際、剰余体 $\mathbb{F}_p$ から $\mathbb{Q}$ への環準同型はそもそも存在しない($\mathbb{F}_p$ で $p\cdot1=0$ だが $\mathbb{Q}$ で $p\cdot1\neq0$)。この写像は「局所環の間の環準同型」を満たすが「局所準同型(極大イデアルを極大イデアルに送る)」を満たさず、含意「局所環の間の環準同型は剰余体の間の準同型を誘導する」を破る。局所準同型なら剰余体の準同型が誘導される(局所環 の記事の定義「局所準同型」)。

性質

商体としての記述

剰余体と剰余環の商体

$A$ を環、$\mathfrak p$ を素イデアルとし、$a\in A$ の $A/\mathfrak p$ における類を $\bar a$ と書く。写像
$$ \Psi\colon A_{\mathfrak p}\to\operatorname{Frac}(A/\mathfrak p),\qquad \frac as\longmapsto\frac{\bar a}{\bar s} $$
は定まり、全射な環準同型で、その核は $\mathfrak pA_{\mathfrak p}$ である。したがって $\Psi$ は体の同型
$$ \kappa(\mathfrak p)=A_{\mathfrak p}/\mathfrak pA_{\mathfrak p}\xrightarrow{\ \sim\ }\operatorname{Frac}(A/\mathfrak p) $$
を引き起こす。さらに

  1. 合成 $A\to\kappa(\mathfrak p)$、$a\mapsto a(\mathfrak p)$ の核は $\mathfrak p$ である。特に $a(\mathfrak p)=0$ であることと $a\in\mathfrak p$ であることは同値である。
  2. $\mathfrak m$ が極大イデアルなら $\kappa(\mathfrak m)\cong A/\mathfrak m$ である。

$\Psi$ が定まること:$s\notin\mathfrak p$ なら $\bar s\neq0$ なので $\bar a/\bar s$ は商体の元として意味をもつ。$A_{\mathfrak p}$ で $a/s=b/t$ とすると、局所化の定義により $u(ta-sb)=0$ となる $u\notin\mathfrak p$ がある。$A/\mathfrak p$ で $\bar u(\bar t\bar a-\bar s\bar b)=0$ であり、$\bar u\neq0$ で $A/\mathfrak p$ は整域なので $\bar t\bar a=\bar s\bar b$、すなわち商体で $\bar a/\bar s=\bar b/\bar t$ である。
環準同型であること:$\Psi(a/s+b/t)=\Psi((ta+sb)/(st))=(\bar t\bar a+\bar s\bar b)/(\bar s\bar t)=\bar a/\bar s+\bar b/\bar t$、$\Psi((a/s)(b/t))=\bar a\bar b/(\bar s\bar t)$、$\Psi(1/1)=1$ である。
全射であること:$\operatorname{Frac}(A/\mathfrak p)$ の元は $\bar a/\bar s$($\bar s\neq0$)と書け、$\bar s\neq0$ は $s\notin\mathfrak p$ を意味するので、$a/s\in A_{\mathfrak p}$ であり $\Psi(a/s)=\bar a/\bar s$ である。
核の決定:$\Psi(a/s)=0$ は $\bar a=0$、すなわち $a\in\mathfrak p$ と同値である。$a\in\mathfrak p$ なら $a/s\in\mathfrak pA_{\mathfrak p}$ である。逆に $a/s\in\mathfrak pA_{\mathfrak p}$ なら $a/s=q/r$($q\in\mathfrak p$、$r\notin\mathfrak p$)と書け、ある $u\notin\mathfrak p$ について $u(ra-sq)=0$、したがって $ura=usq\in\mathfrak p$ である。$u,r\notin\mathfrak p$ で $\mathfrak p$ は素イデアルなので $ur\notin\mathfrak p$ であり、$a\in\mathfrak p$ である。よって $\ker\Psi=\{a/s\mid a\in\mathfrak p\}=\mathfrak pA_{\mathfrak p}$ である。環の第 1 同型定理(環準同型 の記事の定理「環の第1同型定理」)により、$\Psi$ は同型 $A_{\mathfrak p}/\mathfrak pA_{\mathfrak p}\cong\operatorname{Frac}(A/\mathfrak p)$ を引き起こす。
1:同型を通すと $a(\mathfrak p)$ は $\Psi(a/1)=\bar a/1$ に対応する。$\bar a/1=0$ は $\bar a=0$、すなわち $a\in\mathfrak p$ と同値である。
2:$A/\mathfrak m$ は体なので、その元 $\bar a/\bar s$ は $\bar a\bar s^{-1}/1$ に等しく、標準写像 $A/\mathfrak m\to\operatorname{Frac}(A/\mathfrak m)$ は全射、したがって同型である(体からの環準同型は単射である)。$\square$

この同型は 局所化 の記事の系「素イデアルにおける局所化の局所性」でも、局所化の普遍性を用いて別の向きの写像から示されている。ここでは逆向きの写像を直接書き下した。1 により、アフィンスキーム $\operatorname{Spec}A$ の閉集合 $V(a)=\{\mathfrak p\mid a\in\mathfrak p\}$ は「$a$ の値が $0$ になる点の全体」$\{\mathfrak p\mid a(\mathfrak p)=0\}$ にほかならない(Zariski位相)。

体への準同型と剰余体

環から体への準同型は、必ずどこかの素イデアルでの剰余体を経由する。

体への準同型の剰余体による分解

$A$ を環、$K$ を体とする。

  1. 環準同型 $\varphi\colon A\to K$ の核 $\ker\varphi$ は $A$ の素イデアルである。
  2. 素イデアル $\mathfrak p$ を固定し、$\pi_{\mathfrak p}\colon A\to\kappa(\mathfrak p)$、$a\mapsto a(\mathfrak p)$ とおく。体の準同型 $\iota\colon\kappa(\mathfrak p)\to K$ に $\iota\circ\pi_{\mathfrak p}$ を対応させる写像は、体の準同型 $\kappa(\mathfrak p)\to K$ の全体から、$\ker\varphi=\mathfrak p$ を満たす環準同型 $\varphi\colon A\to K$ の全体への全単射である。

1:$\ker\varphi$ はイデアルである。$\varphi(1)=1\neq0$ なので $1\notin\ker\varphi$ である。$ab\in\ker\varphi$ なら $\varphi(a)\varphi(b)=0$ であり、体 $K$ は整域なので $\varphi(a)=0$ または $\varphi(b)=0$ である。よって $\ker\varphi$ は素イデアルである。
2:写像が行き先に入ること:体の準同型 $\iota$ は単射なので、$\ker(\iota\circ\pi_{\mathfrak p})=\ker\pi_{\mathfrak p}=\mathfrak p$ である(prop-residue-field-fraction-field の 1)。
単射であること:$\kappa(\mathfrak p)=A_{\mathfrak p}/\mathfrak pA_{\mathfrak p}$ の元は $a/s$($s\notin\mathfrak p$)の類であり、それは $\pi_{\mathfrak p}(a)\pi_{\mathfrak p}(s)^{-1}$ に等しい($\pi_{\mathfrak p}(s)\neq0$)。したがって $\iota$ は $\iota\circ\pi_{\mathfrak p}$ によって $\iota(\pi_{\mathfrak p}(a)\pi_{\mathfrak p}(s)^{-1})=(\iota\pi_{\mathfrak p})(a)\,(\iota\pi_{\mathfrak p})(s)^{-1}$ と決まる。
全射であること:$\varphi\colon A\to K$ を $\ker\varphi=\mathfrak p$ を満たす環準同型とする。$s\notin\mathfrak p$ なら $\varphi(s)\neq0$ は $K$ の単元なので、局所化の普遍性(局所化 の記事の命題「局所化の普遍性」)により、$\varphi$ は環準同型 $\tilde\varphi\colon A_{\mathfrak p}\to K$、$a/s\mapsto\varphi(a)\varphi(s)^{-1}$ に延びる。$a/s\in\mathfrak pA_{\mathfrak p}$ なら prop-residue-field-fraction-field の証明で見たように $a\in\mathfrak p$ と書き直せるので $\tilde\varphi(a/s)=0$ であり、$\tilde\varphi$ は $\kappa(\mathfrak p)$ からの環準同型 $\iota$ を引き起こす。$\iota\circ\pi_{\mathfrak p}(a)=\tilde\varphi(a/1)=\varphi(a)$ である。$\square$

1 と 2 を合わせると、体 $K$ への環準同型 $A\to K$ を与えることは、素イデアル $\mathfrak p$(その核)と体の準同型 $\kappa(\mathfrak p)\to K$ の組を与えることと同じである。これが「体に値をもつ点」の代数的な記述であり、スキームの言葉では、射 $\operatorname{Spec}K\to X$ が点 $x\in X$ と体の準同型 $\kappa(x)\to K$ の組に対応するという命題になる(スキーム の記事の命題「体からの射と点」、Har77 II 演習 2.7)。特に、体 $k$ 上のスキーム $X$ の点 $x$ で $k\to\kappa(x)$ が同型になるものを $k$ 有理点という。

準同型と剰余体の拡大

環準同型が誘導する剰余体の拡大

$f\colon A\to B$ を環準同型、$\mathfrak q$ を $B$ の素イデアル、$\mathfrak p:=f^{-1}(\mathfrak q)$ とする。このとき $\mathfrak p$ は $A$ の素イデアルであり、$f$ は体の準同型 $\bar f\colon\kappa(\mathfrak p)\to\kappa(\mathfrak q)$ で $\bar f(a(\mathfrak p))=f(a)(\mathfrak q)$($a\in A$)を満たすものをただ 1 つ引き起こす。これにより $\kappa(\mathfrak q)$ は $\kappa(\mathfrak p)$ の拡大体とみなせる。

合成 $\varphi\colon A\xrightarrow{f}B\xrightarrow{\pi_{\mathfrak q}}\kappa(\mathfrak q)$ は体への環準同型であり、その核は prop-residue-field-fraction-field の 1 により $f^{-1}(\ker\pi_{\mathfrak q})=f^{-1}(\mathfrak q)=\mathfrak p$ である。prop-residue-field-universal の 1 により $\mathfrak p$ は素イデアルであり、同じ命題の 2 により $\varphi=\bar f\circ\pi_{\mathfrak p}$ となる体の準同型 $\bar f\colon\kappa(\mathfrak p)\to\kappa(\mathfrak q)$ がただ 1 つある。$\bar f(a(\mathfrak p))=\varphi(a)=f(a)(\mathfrak q)$ である。$\square$

拡大 $\kappa(\mathfrak q)/\kappa(\mathfrak p)$ の拡大次数は、数論では剰余次数と呼ばれる。たとえば $f\colon\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}[i]$(Gauss整数環)について

  • $\mathfrak q=(3)\subset\mathbb{Z}[i]$ では $\mathfrak p=(3)$、$\kappa(\mathfrak q)=\mathbb{Z}[i]/(3)\cong\mathbb{F}_3[x]/(x^2+1)=\mathbb{F}_9$ なので $[\kappa(\mathfrak q):\kappa(\mathfrak p)]=2$、
  • $\mathfrak q=(2+i)$ では $\mathfrak p=(5)$、$\mathbb{Z}[i]/(2+i)$ は $|2+i|^2=5$ 個の元からなる体 $\mathbb{F}_5$ なので $[\kappa(\mathfrak q):\kappa(\mathfrak p)]=1$、
  • $\mathfrak q=(1+i)$ では $\mathfrak p=(2)$、$\kappa(\mathfrak q)=\mathbb{F}_2$ で次数 $1$
    である。Dedekind整域 $A$ の商体を $K=\operatorname{Frac}A$ とし、$L/K$ を有限次分離拡大、$B$ を $A$ の $L$ における整閉包とすると、$A$ の素イデアル $\mathfrak p$ について $\mathfrak pB=\prod_i\mathfrak q_i^{e_i}$ と分解し($\mathfrak q_i$ は $B$ の素イデアル、$e_i$ は分岐指数)、剰余次数 $f_i=[\kappa(\mathfrak q_i):\kappa(\mathfrak p)]$ について $\sum_ie_if_i=[L:K]$ が成り立つ(Ser79 Chapter I §4)。上の例では $3$ が $e=1,f=2$、$5=(2+i)(2-i)$ が $e_1=e_2=1,f_1=f_2=1$、$2=-i(1+i)^2$ が $e=2,f=1$ で、いずれも和は $2=[\mathbb{Q}(i):\mathbb{Q}]$ である。
    局所環の間の局所準同型 $f\colon(A,\mathfrak m)\to(B,\mathfrak n)$ では $f^{-1}(\mathfrak n)=\mathfrak m$ なので、cor-residue-field-extension の $\bar f$ は 局所環 の記事の定義「局所準同型」で与えた剰余体の準同型 $A/\mathfrak m\to B/\mathfrak n$ と一致する。

スキームの点の剰余体

スキームの点の剰余体の使われ方

スキーム $X$ の点 $x$ の剰余体 $\kappa(x)$ は、点の「種類」を記録する。以下は証明を引用する言明である。

  1. $x$ を含むアフィン開集合 $U\cong\operatorname{Spec}A$ をとり、$x$ に対応する素イデアルを $\mathfrak p$ とすると $\kappa(x)\cong\kappa(\mathfrak p)\cong\operatorname{Frac}(A/\mathfrak p)$ である(アフィンスキーム の記事の命題「構造層の茎」と prop-residue-field-fraction-field)。$A/\mathfrak p$ は既約(既約空間)な閉集合 $V(\mathfrak p)=\overline{\{\mathfrak p\}}$ の座標環にあたるので、$\kappa(\mathfrak p)$ は $V(\mathfrak p)$ の関数体とみなせる(アフィンスキーム の記事の命題「素スペクトルの点と閉集合」の直後の段落)。
  2. 体 $k$ 上局所有限型のスキームでは、点 $x$ が閉点であることと $\kappa(x)$ が $k$ の有限次拡大であることは同値である(閉点 の記事の定理「有限型スキームにおける閉点の稠密性」)。アフィンの場合の核心は Hilbertの零点定理(体 $k$ 上有限生成な代数が体なら、それは $k$ の有限次拡大である。AM69 Chapter 7)である。特に $k$ が代数閉体なら閉点の剰余体はすべて $k$ である。
  3. スキームの射 $g\colon X\to Y$ と $y\in Y$ に対し、$y$ 上のファイバー $X_y:=X\times_Y\operatorname{Spec}\kappa(y)$(ファイバー積)は $\kappa(y)$ 上のスキームであり、その下部位相空間は $g^{-1}(y)$ と同相(同相写像)である(Har77 II §3)。$g$ が $x\mapsto y$ を満たすとき、cor-residue-field-extension の局所版として体の拡大 $\kappa(x)/\kappa(y)$ が定まる。
  4. 恒等写像 $\kappa(x)\to\kappa(x)$ に対応して標準的な射 $\operatorname{Spec}\kappa(x)\to X$ があり、その像は $x$ である(prop-residue-field-universal の後で述べた対応による)。$K$ が代数閉体で $\kappa(x)\to K$ が体の準同型のとき、対応する射 $\operatorname{Spec}K\to X$ を $x$ の上にある幾何学的点という。

関連項目

参考文献

[1]
M. F. Atiyah and I. G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, Addison-Wesley, 1969, Chapter 3(局所化と $A_{\mathfrak p}$ の剰余体)、Chapter 7(体上有限生成な代数と零点定理)
[2]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics 52, Springer, 1977, Chapter II §2(スキームの点の剰余体、演習 2.7:体からの射)、§3(射のファイバー)
[3]
Jean-Pierre Serre, Local Fields, Graduate Texts in Mathematics 67, Springer, 1979, Chapter I §4(Dedekind 環の拡大、分岐指数と剰余次数)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する