Moiseの定理(Moise's theorem)とは、3 次元の位相多様体はいつも三角形分割でき、どの三角形分割も組合せ的で、コンパクトな 3 次元多様体の 2 つの三角形分割は細分すると同型になる(3 次元の基本予想)という定理である。Moise と Bing による。2 次元の Radó の定理とあわせて、3 次元以下では位相多様体と PL 多様体の区別がない。4 次元以上では三角形分割できない多様体や、同相だが PL 同相でない多様体がある。
前提知識: 位相多様体, 三角形分割可能な多様体, PL多様体, Radóの定理
Moise の定理は、3 次元の位相多様体はいつも三角形分割でき、しかも三角形分割は本質的に一通りしかない(同じ多様体の 2 つの三角形分割は、細分すると同型になる)という定理である。後半は 3 次元多様体についての基本予想(Hauptvermutung)の解決である。$2$ 次元の Radóの定理 とあわせて、$3$ 次元以下では位相多様体・三角形分割可能な多様体・PL 多様体の区別がない(多様体の構造の階層)。$4$ 次元以上ではこれが崩れ、三角形分割できない多様体や、同相だが PL 同相でない PL 多様体が現れる。
主定理の証明は長く、この記事では全体の骨格を示し、そのうち三角形分割の局所的な構造にかかわる段を完全に証明する。すなわち、$3$ 次元多様体のどの三角形分割も組合せ的であること(頂点のリンクが $2$ 次元球面になること)を示し、その帰結として閉 $3$ 次元多様体の Euler 標数が $0$ であること、および多様体の基本予想から「2 つの三角形分割は同型な細分をもつ」ことを導く。三角形分割の存在と、多様体の基本予想そのものは、文献の所在を挙げて「この記事では証明しない」とする。
$3$ 次元多様体は Hausdorff で第 2 可算公理を満たす境界のない $3$ 次元位相多様体とし(位相多様体)、単体複体・三角形分割・星状体・リンク・組合せ多様体の用語は 三角形分割可能な多様体 と PL多様体 の記事にしたがう(単体複体は $\mathbb{R}^N$ の中の局所有限なもの)。単体 $\sigma$ のリンク $\operatorname{Lk}(\sigma,K)$ は、$\sigma$ を含む単体の面のうち $\sigma$ と交わらないものの全体である。
(i) すべての $3$ 次元多様体は三角形分割できる。
(ii) $3$ 次元多様体のどの三角形分割も組合せ的である。
(iii) コンパクトな $3$ 次元多様体の 2 つの三角形分割 $(K,h)$、$(L,k)$ について、$K$ と $L$ は同型な細分をもつ。
(i) と (iii) は 3 次元の三角形分割の存在と一意性にあたり、この記事では引用する。(ii) は局所ホモロジーの計算から導かれ、この記事で証明する。(ii) が成り立つので、3 次元では三角形分割は自動的に組合せ多様体の構造を与える。
(i) と (iii) は Moise と Bing による(Bry02 §9。$3$ 次元以下の多様体の PL 三角形分割の存在と一意性。連結で有限 CW 複体のホモトピー型をもつ場合の PL 構造の存在と一意性は Rud01 Summary 1、p. 86)。この記事では、(ii) を証明し(thm-moise-combinatorial。閉曲面の分類と $2$ 次元の基本予想を引用する)、(iii) を多様体の基本予想から導く(cor-moise-hauptvermutung)。(i) と多様体の基本予想は証明しない。
| 段 | 内容 | この記事での扱い |
|---|---|---|
| 1 | 単体の内部の点での局所ホモロジーを、リンクの懸垂のホモロジーで表す | 証明(lem-moise-cone、lem-moise-suspension) |
| 2 | 三角形はちょうど 2 つの四面体の面で、辺のリンクは多角形 | 証明(prop-moise-local) |
| 3 | 頂点のリンクは $2$ 次元球面と同じホモロジーをもつ閉曲面で、PL $2$ 球面である。よって三角形分割は組合せ的 | 証明(閉曲面の分類と $2$ 次元の基本予想を引用。thm-moise-combinatorial) |
| 4 | 閉 $3$ 次元多様体の Euler 標数は $0$ | 証明(cor-moise-euler) |
| 5 | 存在:$3$ 次元多様体は三角形分割できる | 引用(Moise、Bing) |
| 6 | 多様体の基本予想:コンパクトな $3$ 次元 PL 多様体の間の同相写像は PL 同相写像にホモトピック | 引用(Ran96 §1、pp. 2–3) |
| 7 | 段 3 と段 6 から (iii) | 証明(cor-moise-hauptvermutung) |
段 5 について:Moise による最初の証明は "Affine structures in 3-manifolds" の連作(Ann. of Math.、1951–1954)で、Bing は別証明を与えた(Ann. of Math. 69 (1959))(RS82 参考文献 R.1・R.2、p. 118、Bry02 §9)。これらの証明がどのような段からなるかは、この記事では述べない。別の道筋として、高次元で Kirby と Siebenmann が使った「torus trick」を $3$ 次元に適用する方法があり、Hamilton がこの方法で $3$ 次元多様体の三角形分割を与え、Hatcher はその証明にあるとみられる隙間を埋める別の版を予告している(Hat13 p. 4。滑らかな Poincaré 予想を避けるという $2$ 次元にはない困難がある)。$3$ 次元多様体は滑らかな構造ももち、滑らかな構造から PL 構造、三角形分割が得られる(Man16 §2.2、p. 3)。
$3$ 次元が $2$ 次元より難しい理由の 1 つは、Schoenfliesの定理 が成り立たないことである。$\mathbb{R}^3$ の中の $S^2$ と同相な曲面は球体を囲むとは限らず、Alexander の角付き球面では外側の成分が単連結でない(Hat02 Example 2B.2、pp. 170–172)。Radóの定理 の証明では、座標近傍の中の閉曲線を Schoenflies の定理で折れ線にまっすぐにしたが、$3$ 次元ではこの方法をそのままでは使えない。
$K$ を単体複体、$\sigma\in K$ を $k$ 単体($k\ge1$)、$x$ を $\sigma$ の内部の点とする。$\sigma$ を含む単体の面のうち $\sigma$ を含まないものの和を $\Gamma_\sigma$ とする($\Gamma_\sigma$ は $\partial\sigma$ と $\operatorname{Lk}(\sigma,K)$ のジョインの多面体)。$\sigma$ を含む単体の和 $|\operatorname{St}(\sigma,K)|$ は $x$ を頂点とする $\Gamma_\sigma$ 上の錐であり、すべての $i$ について
$$
H_i(|K|,|K|\setminus\{x\})\cong\tilde H_{i-1}(\Gamma_\sigma)
$$
である。
要点:$\sigma$ を含む単体 $\tau$ の点 $y\ne x$ は、$x$ から $y$ への半直線が $\tau$ を出る点 $z$ を使って $y=(1-t)x+tz$ と一意に書け、$z$ は $\sigma$ を含まない面にある。あとは 三角形分割可能な多様体 の補題「錐の頂点での局所ホモロジー」と同じである。
$\sigma$ の頂点を $v_0,\dots,v_k$、$x=\sum_i\mu_iv_i$(すべての $\mu_i>0$)とする。$\sigma$ を含む単体 $\tau$ の点 $y\ne x$ の重心座標を $\lambda_w(y)$ とする。$\sum_i\lambda_{v_i}(y)\le1=\sum_i\mu_i$ で $y\ne x$ なので、$\lambda_{v_i}(y)< \mu_i$ となる $i$ がある。$t:=\max_i(1-\lambda_{v_i}(y)/\mu_i)\in(0,1]$ とおき、$z$ を重心座標 $(\lambda(y)-(1-t)\mu)/t$ の点とすると($\mu_w:=0$、$w\notin\sigma$)、座標はすべて $0$ 以上で和は $1$、$\sigma$ のある頂点で $0$ なので、$z$ は $\tau$ の $\sigma$ を含まない面にあり、$y=(1-t)x+tz$ である。$t$ をこれより大きくすると $\sigma$ の頂点の座標がすべて正になり、小さくすると負の座標が現れるので、$(t,z)$ は一意であり、重心座標は $|K|$ 全体で定まる(台で決まる)ので $\tau$ の選び方にもよらない。よって $|\operatorname{St}(\sigma,K)|$ は $x\notin\Gamma_\sigma$ を頂点とする $\Gamma_\sigma$ 上の錐であり、$K$ は局所有限なので $\Gamma_\sigma$ はコンパクトである。三角形分割可能な多様体 の補題「錐の頂点での局所ホモロジー」により $H_i(|\operatorname{St}|,|\operatorname{St}|\setminus\{x\})\cong\tilde H_{i-1}(\Gamma_\sigma)$ である。$\sigma$ の頂点の開星状近傍の共通部分 $\bigcap_i\operatorname{st}v_i$(台が $\sigma$ を含む点の全体)は $|K|$ の開集合で(単体近似定理 の補題「星状近傍の基本性質」(i))、$x$ を含み $|\operatorname{St}(\sigma,K)|$ に含まれる。局所ホモロジーは開近傍で計算できる(切除定理(特異ホモロジー) の定理「Euclid 空間の局所ホモロジーと次元の不変性」の後の注意)ので、左辺は $H_i(|K|,|K|\setminus\{x\})$ に等しい。$\square$
辺 $e=[a,b]$ では $\Gamma_e$ は、$a$ を頂点とする $|\operatorname{Lk}(e,K)|$ 上の錐と、$b$ を頂点とする錐を $|\operatorname{Lk}(e,K)|$ で貼り合わせたもの、すなわちリンクの懸垂である。
$L$ を空でない有限単体複体、$a,b$ を 2 点とし、$X=aL\cup bL$ を、$a$ と $b$ を頂点とする $|L|$ 上の 2 つの錐を $|L|$ で貼り合わせた多面体($aL\cap bL=|L|$)とする。すべての $j$ について $\tilde H_j(X)\cong\tilde H_{j-1}(|L|)$ である。
$A:=X\setminus\{b\}$、$B:=X\setminus\{a\}$ は $X$ の開集合で、$A\cup B=X$、$A\cap B=X\setminus\{a,b\}$ である。錐 $bL$ から頂点を除いた $bL\setminus\{b\}$ は $|L|\times(0,1]$ と同相で(三角形分割可能な多様体 の補題「錐の頂点での局所ホモロジー」の証明)、$|L|$ に強変位レトラクトする。これを $bL$ の側に施すと $A$ は錐 $aL$ に強変位レトラクトし、錐は可縮なので $A$ の被約ホモロジーは $0$ である。同様に $B$ も、また $A\cap B$ は両側で $|L|$ に強変位レトラクトするので $|L|$ とホモトピー同値である。被約ホモロジーの Mayer–Vietoris 完全列(Mayer–Vietoris完全列 の命題「被約ホモロジーの Mayer–Vietoris 完全列」)の部分
$$
0=\tilde H_j(A)\oplus\tilde H_j(B)\to\tilde H_j(X)\xrightarrow{\partial}\tilde H_{j-1}(A\cap B)\to\tilde H_{j-1}(A)\oplus\tilde H_{j-1}(B)=0
$$
から $\tilde H_j(X)\cong\tilde H_{j-1}(A\cap B)\cong\tilde H_{j-1}(|L|)$ である。$\square$
以下、$(K,h)$ を $3$ 次元多様体 $M$ の三角形分割とし、$|K|$ を $M$ と同一視する。$M$ の点 $x$ では $H_i(M,M\setminus\{x\})$ は $i=3$ で $\mathbb{Z}$、それ以外で $0$ である(切除定理(特異ホモロジー) の定理「Euclid 空間の局所ホモロジーと次元の不変性」と座標近傍)。単体 $\rho$ と頂点 $w\notin\rho$ について、$\rho\cup\{w\}$ が張る単体を $\rho w$ と書く。リンクの定義から、$\operatorname{Lk}(\sigma,K)$ の頂点 $w$ について
$$
\operatorname{Lk}\bigl(w,\operatorname{Lk}(\sigma,K)\bigr)=\operatorname{Lk}(\sigma w,K)
$$
である(どちらも、$\sigma$ とも $w$ とも交わらず $\sigma\cup\{w\}$ と合わせて $K$ の単体を張る単体の全体)。
(i) $K$ の各単体はある $3$ 単体の面であり、各三角形はちょうど 2 つの $3$ 単体の面である。
(ii) 各辺 $e$ のリンク $\operatorname{Lk}(e,K)$ は多角形($3$ 個以上の頂点が輪をなすグラフ)である。
(iii) 各頂点 $v$ のリンク $\operatorname{Lk}(v,K)$ は有限な $2$ 次元単体複体で、その各頂点のリンクは多角形であり、$\tilde H_*(|\operatorname{Lk}(v,K)|)\cong\tilde H_*(S^2)$ である。
(i) 前半は 三角形分割可能な多様体 の命題「次元がそろうこと」である。三角形 $\sigma=[v_0,v_1,v_2]$ を面にもつ $3$ 単体を $\sigma y_1,\dots,\sigma y_m$($m\ge1$)とする。$\Gamma_\sigma$ は、$\sigma$ の 3 辺とそれらの頂点、辺 $[v_i,y_j]$、三角形 $[v_i,v_{i'},y_j]$($i\ne i'$)からなる単体複体の多面体である。lem-moise-cone と局所ホモロジーの値から、$\tilde H_j(\Gamma_\sigma)$ は $j=2$ で $\mathbb{Z}$、それ以外で $0$ なので、Euler 標数は $\chi(\Gamma_\sigma)=1+1=2$ である(Euler標数 の系「2 つの Euler 標数は一致する」)。一方、単体の個数で数えると
$$
\chi(\Gamma_\sigma)=(3+m)-(3+3m)+3m=m
$$
なので $m=2$ である。
(ii) 辺 $e=[a,b]$ とし $L:=\operatorname{Lk}(e,K)$ とする。$L$ は有限で(局所有限性)、(i) により空でなく、単体の次元は $1$ 以下である。$\Gamma_e$ は $a$ と $b$ を頂点とする $|L|$ 上の 2 つの錐の和なので、lem-moise-cone と lem-moise-suspension により $\tilde H_{j-1}(|L|)\cong\tilde H_j(\Gamma_e)\cong H_{j+1}(M,M\setminus\{x\})$ であり、$\tilde H_0(|L|)=0$、$\tilde H_1(|L|)\cong\mathbb{Z}$ である。とくに $|L|$ は連結である。$L$ の頂点 $w$ について $\operatorname{Lk}(w,L)=\operatorname{Lk}(ew,K)$ は三角形 $ew$ のリンクで、(i) によりちょうど 2 点なので、$L$ の各頂点の次数は $2$ である。連結な有限グラフで各頂点の次数が $2$ のものは 1 つの輪であり(三角形分割可能な多様体 の定理「2 次元以下の三角形分割は組合せ的」の証明の段 2)、単体複体には多重辺がないので頂点は $3$ 個以上である。
(iii) $L:=\operatorname{Lk}(v,K)$ は有限で、単体の次元は $2$ 以下である。$L$ の頂点 $w$ について $\operatorname{Lk}(w,L)=\operatorname{Lk}(vw,K)$ は辺 $vw$ のリンクなので (ii) により多角形である。ホモロジーの主張は 三角形分割可能な多様体 の命題「頂点のリンクのホモロジー」の $n=3$ の場合である。$\square$
(i) の数え方は、三角形 $\sigma$ の内部の点のまわりが「$\sigma$ を境界にもつ $m$ 枚の円板を貼り合わせた形の錐」であることを使っている。$m=2$ なら 2 枚の円板は $2$ 次元球面をなし、その錐は $3$ 次元の球体になる。$m\ne2$ では局所ホモロジーが Euclid 空間と合わない。
$3$ 次元多様体のどの三角形分割も組合せ的である。すなわち各頂点のリンクは PL $2$ 球面である。さらに、各辺のリンクは PL $1$ 球面、各三角形のリンクは 2 点(PL $0$ 球面)である。
辺と三角形のリンクは prop-moise-local の (i)(ii) と PL多様体 の例「多角形とトーラス」による。頂点 $v$ のリンク $L$ について、prop-moise-local (iii) により $L$ は組合せ $2$ 次元多様体なので、$|L|$ は $2$ 次元の閉 PL 多様体、とくにコンパクトな曲面である(PL多様体 の定理「リンクの条件」)。$\tilde H_0(|L|)=0$ なので連結であり、$H_2(|L|)\cong\mathbb{Z}$、$H_1(|L|)=0$ だから $\chi(|L|)=2$ である。
ここで閉曲面についての次の結果を引用する(この記事では証明しない):三角形分割された連結な閉曲面について、$2$ 次のホモロジー群が $\mathbb{Z}$ であることと向き付け可能であることは同値である(GX12 Theorem 5.1、p. 72 と Proposition 5.8、p. 75)。また、三角形分割された 2 つのコンパクトな曲面は、向き付け可能性・境界の成分の個数・Euler 標数が一致すれば同相である(GX12 Theorem 6.1、p. 96)。よって $|L|$ は、向き付け可能で境界がなく Euler 標数が $2$ の $|\partial\Delta^3|$ と同相である。
さらに、$2$ 次元以下の多面体では、同相な多面体の三角形分割は同型な細分をもつ(Papakyriakopoulos による。Ran96 §1、p. 2。この記事では証明しない)。$L$ と $\partial\Delta^3$ の同型な細分の間の同型の線形拡張は PL 同相写像なので、$|L|$ は PL $2$ 球面である。$\square$
この定理は、$2$ 次元の 三角形分割可能な多様体 の定理「2 次元以下の三角形分割は組合せ的」の $3$ 次元版である。$5$ 次元以上では組合せ的でない三角形分割がある(同じ記事の系「5 次元球面の組合せ的でない三角形分割」)。そこでは頂点のリンクが、ホモロジーは球面と同じでも球面と同相でない(Poincaré ホモロジー球面の懸垂)。$3$ 次元で組合せ的になるのは、リンクが閉曲面になり、閉曲面は「ホモロジーが球面と同じなら球面」という $2$ 次元の事実が使えるからである。
コンパクトな $3$ 次元多様体 $M$ が三角形分割 $K$ をもつとき、$\chi(M)=0$ である。
$K$ は有限である。頂点・辺・三角形・$3$ 単体の個数を $V,E,F,T$ とする。頂点 $v$ のリンクの頂点・辺・三角形は、それぞれ $v$ を含む辺・三角形・$3$ 単体に対応するので、すべての頂点についての和をとると、リンクの頂点の総数は $2E$、辺の総数は $3F$、三角形の総数は $4T$ である。prop-moise-local (iii) によりリンクの Euler 標数はどれも $\chi(S^2)=2$ なので
$$
2V=2E-3F+4T
$$
である。prop-moise-local (i) により各三角形はちょうど 2 つの $3$ 単体の面で、各 $3$ 単体は 4 つの三角形をもつので $2F=4T$、すなわち $F=2T$ である。代入すると $2V=2E-2T$、すなわち $V-E+T=0$ であり、
$$
\chi(M)=V-E+F-T=(V-E+T)+(F-2T)=0
$$
である(Euler標数 の系「2 つの Euler 標数は一致する」により、これはホモロジーから決まる $M$ の Euler 標数である)。$\square$
Moise の定理 (i) により、コンパクトな $3$ 次元多様体はすべて三角形分割をもつので、Euler 標数はすべて $0$ である。証明で使ったのは「三角形はちょうど 2 つの $3$ 単体の面」と「頂点のリンクの Euler 標数は $2$」の 2 つの局所的な事実だけで、閉曲面の分類は使っていない。
次の多様体の基本予想の $3$ 次元の場合を認める:コンパクトな $3$ 次元 PL 多様体の多面体の間の同相写像は、PL 同相写像にホモトピックである(Ran96 §1、pp. 2–3。この記事では証明しない)。このとき、コンパクトな $3$ 次元多様体 $M$ の 2 つの三角形分割 $(K,h)$、$(L,k)$ について、$K$ と $L$ は同型な細分をもつ。
thm-moise-combinatorial により $K$ と $L$ はどちらも組合せ $3$ 次元多様体で、その多面体はコンパクトな PL $3$ 次元多様体である(PL多様体 の定理「リンクの条件」。thm-moise-combinatorial はすべての単体のリンクが PL 球面であることも示している)。$k^{-1}\circ h\colon|K|\to|L|$ は同相写像なので、仮定により PL 同相写像 $g\colon|K|\to|L|$ がある。PL 写像はある細分について単体写像になる:単体複体の細分 $K'$、$L'$ で $g\colon K'\to L'$ が単体写像となるものがある(RS82 Theorem 2.14、p. 17)。$g$ は全単射なので、各単体を同じ次元の単体へ写し、頂点の全単射が単体の全単射を誘導する。よって $g$ は単体複体の同型 $K'\cong L'$ を与える。$\square$
$4$ 単体の境界 $\partial\Delta^4$ は $S^3$ の三角形分割で、頂点 $5$・辺 $10$・三角形 $10$・$3$ 単体 $5$ をもつ。頂点のリンクは $\partial\Delta^3$(PL $2$ 球面)、辺のリンクは残りの 3 頂点が張る三角形の周(多角形)、三角形のリンクは残りの 2 頂点である。$F=10=2T$ であり、$\chi=5-10+10-5=0$ で cor-moise-euler と合う。
三角形 $\sigma=[v_0,v_1,v_2]$ と、$\sigma$ を共通の面にもつ 3 つの四面体 $\sigma y_1,\sigma y_2,\sigma y_3$($y_j$ は $\sigma$ の張る平面の外の相異なる点で、四面体どうしは $\sigma$ でしか交わらないもの。$\mathbb{R}^4$ の中にとれる)からなる単体複体を $K$ とする。prop-moise-local (i) の証明と同じ数え方で $\chi(\Gamma_\sigma)=m=3$ である。$|K|$ が $\sigma$ の内部の点 $x$ の近くで $3$ 次元多様体なら $\chi(\Gamma_\sigma)=2$ となるはずなので、$|K|$ は $x$ のまわりで $3$ 次元多様体でない。これは「各三角形はちょうど 2 つの $3$ 単体の面」という条件を破る単体複体で、lem-moise-cone の局所ホモロジーでそれが検出される。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 各点の近くで $\mathbb{R}^3$ と同相 | 三角形を共有する 3 つの四面体 | 三角形はちょうど 2 つの $3$ 単体の面 |
| 次元が奇数 | $S^2$($\chi=2$) | 閉多様体の Euler 標数は $0$ |
| 次元が $3$ 以下($5$ 次元) | $S^5$ の二重懸垂による三角形分割 | 三角形分割は組合せ的 |
| 次元が $3$ 以下($4$ 次元) | $E_8$ 多様体 | 三角形分割できる |
| 次元が $3$ 以下($5$ 次元以上) | $\mathbb{R}\mathrm{P}^n$($n\ge5$)と同相だが PL 同相でない閉 PL 多様体 | 2 つの三角形分割は同型な細分をもつ |
| 多様体である | Milnor の例(同相だが PL 同相でない多面体) | 2 つの三角形分割は同型な細分をもつ |
1 行目は ex-moise-book で示した。2 行目:$\chi(S^2)=2$(Euler標数 の例「基本的な空間の Euler 標数」)で、cor-moise-euler の証明で使った「$3$ 単体の数え方」は $3$ 次元に特有である。3 行目は 三角形分割可能な多様体 の系「5 次元球面の組合せ的でない三角形分割」(二重懸垂定理の引用を使う)。4 行目は Casson による(Rud01 Examples 21.6、p. 85。この記事では証明しない)。5 行目は Rud01 Example 21.1(p. 83)と Summary 3(p. 86)による(この記事では証明しない)。6 行目は Milnor による(Bry02 §9、Ran96 §1、p. 2。この記事では証明しない)。4 行目から 6 行目は、主定理の (i)(iii) が「$3$ 次元以下」「多様体」という仮定なしには成り立たないことを示す。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する