Tuckerの補題(Tucker's lemma)とは、$n$ 次元の球体 $\Diamond^n$ の境界で対称な三角形分割の頂点に $\pm1,\dots,\pm n$ のラベルを、境界の正反対の頂点の符号が逆になるように付けると、両端のラベルが $+i$ と $-i$ である相補辺が必ずあるという、Borsuk–Ulam の定理の組合せ的な対応物である。中心対称な球面の三角形分割と反対称なラベル付けについても同じことが成り立つ。正八面体型の分割を細分する場合は、次数 2 以下のグラフの道をたどる Freund–Todd の方法で組合せ的に証明でき、そこから Borsuk–Ulam の定理が導かれる。逆に Borsuk–Ulam の定理から一般の三角形分割の場合が従う。
前提知識: 単体複体, Borsuk–Ulamの定理, 重心細分
Tucker の補題(Tucker's lemma)は、Borsuk–Ulamの定理 の組合せ的な対応物である。$n$ 次元の球体を三角形分割し、頂点に $\pm1,\dots,\pm n$ のラベルを、境界の正反対の 2 頂点には符号が逆のラベルが付くように与えると、両端のラベルが $+i$ と $-i$ になる辺(相補辺)が必ずある。Brouwerの不動点定理 の記事の補題「Spernerの補題」が Brouwer の不動点定理の組合せ的な対応物であるのと同じ関係で(dLZ05 p. 2)、連続写像の議論を有限個の頂点のラベルの議論に置き換える。三角形の幾何の Tuckerの円 とは別の主題である。
この記事では、補題を球体の形と球面の形で述べ、正八面体型の分割を細分した三角形分割の場合を、Freund と Todd の方法で組合せ的に証明する。ある単体から出発して隣の単体へ 1 つずつ進む道をたどると、相補辺をもつ単体で道が止まる、という証明である。さらに、この場合の補題から Borsuk–Ulam の定理が導けること、逆に Borsuk–Ulam の定理から一般の三角形分割の補題が導けることを示し、両者が同値であることを見る。
$n\ge1$ とし、$\Lambda_n:=\{\pm1,\pm2,\dots,\pm n\}$ をラベルの集合とする。$e_1,\dots,e_n$ を $\mathbb{R}^n$ の標準基底とし、$s=\pm j\in\Lambda_n$ について $e_s:=\pm e_j$ と書く。$\| x\|_1:=\sum_j\lvert x_j\rvert$ とし、
$$
\Diamond^n:=\{x\in\mathbb{R}^n\mid\| x\|_1\le1\},\qquad\partial\Diamond^n:=\{x\in\mathbb{R}^n\mid\| x\|_1=1\}
$$
とおく。$\Diamond^n$ は $e_{\pm1},\dots,e_{\pm n}$ の凸包($n=2$ では正方形、$n=3$ では正八面体)であり、閉球体と同相な $n$ 次元の凸多面体である。単体・幾何的単体複体・頂点・面の用語は 単体複体 の記事のものとする。
$\mathbb{R}^n$ の有限な幾何的単体複体 $T$ で $\lvert T\rvert=\Diamond^n$ となるものを $\Diamond^n$ の三角形分割という。
$n\ge1$ とし、$T$ を境界で対称な $\Diamond^n$ の三角形分割、$\lambda\colon V(T)\to\Lambda_n$ を境界で反対称なラベル付けとする。このとき $T$ は相補辺をもつ。
節「組合せ的な証明」の prf-tl-special で、$T$ が次の def-tl-special の意味で正八面体型の分割を細分している場合を、位相を使わずに証明する。一般の $T$ は、節「Borsuk–Ulam の定理との同値」の prf-tl-from-bu で Borsuk–Ulam の定理から導く。
ラベルは $2n$ 種類で、反対称性は境界だけに課す。内部の頂点のラベルは自由である。補題は球面の上でも同じ形で成り立つ。
$n\ge1$ とし、$K$ を $\mathbb{R}^{n+1}$ の有限な幾何的単体複体で、$0\notin\lvert K\rvert$、$\rho(x):=x/\lvert x\rvert$ が $\lvert K\rvert$ から $S^n$ への全単射であり、$\sigma\in K$ ならば $-\sigma\in K$ となるもの(中心対称な三角形分割)とする。$\lambda\colon V(K)\to\Lambda_n$ がすべての頂点で $\lambda(-v)=-\lambda(v)$ をみたすなら、$K$ は相補辺をもつ。
証明は prf-tl-from-bu で与える。たとえば $\partial\Diamond^{n+1}$ の正八面体型の分割(下の $O_{n+1}$ の単体のうち $\partial\Diamond^{n+1}$ に含まれるもの)は $S^n$ の中心対称な三角形分割である。
$n=1$ では $\Diamond^1=[-1,1]$ で、三角形分割は分点 $-1=u_0< u_1< \cdots< u_m=1$ で区間を分けたもの、ラベルは $\pm1$ である。境界の反対称性は $\lambda(u_m)=-\lambda(u_0)$ だけである。$u_0$ から $u_m$ へ順にたどると、ラベルは $\lambda(u_0)$ で始まり $-\lambda(u_0)$ で終わるので、どこかで $+1$ と $-1$ が隣り合い、そこが相補辺である。これは 中間値の定理 の離散版であり、Borsuk–Ulamの定理 の記事の命題「円周の場合」に対応する。
$n\ge2$ では一般の三角形分割の上でこのように 1 列にたどることはできないが、次の節で、単体を 1 つずつたどる道を作る。そのために、分割に次の条件を課す。
$\Lambda_n$ の部分集合 $S$ が、どの $j$ についても $+j$ と $-j$ を同時には含まないとき、$S$ を符号集合といい、
$$
D_S:=\Bigl\{\sum_{s\in S}a_se_s\ \Bigm|\ a_s\ge0,\ \sum_{s\in S}a_s\le1\Bigr\}
$$
とおく。$D_S$ は $0$ と $e_s$($s\in S$)を頂点とする $\lvert S\rvert$ 次元の単体で、$D_\emptyset=\{0\}$ である。$D_S$ とその面の全体 $O_n$ は $\Diamond^n$ の中心対称な三角形分割であり、正八面体型の分割という。$\Diamond^n$ の三角形分割 $T$ が $O_n$ を細分するとは、各 $D_S$ が $T$ の有限個の単体の和集合であることをいう。
$O_n$ を 重心細分 で $r$ 回細分した $\operatorname{sd}^rO_n$ は、$O_n$ を細分する中心対称な三角形分割である(重心細分 の記事の定理「重心細分は単体複体の細分である」。$x\mapsto-x$ は単体の重心を重心に移すので、対称性も保たれる)。同じ記事の系「反復した重心細分の網目」により、単体の直径の最大値は $r\to\infty$ で $0$ に近づく。
$n=2$、$T=O_2$ とする。頂点は $0,\pm e_1,\pm e_2$ で、三角形は 4 つの $D_S$($\lvert S\rvert=2$)である。ラベルを $\lambda(\pm e_1)=\pm1$、$\lambda(\pm e_2)=\pm2$、$\lambda(0)=+1$ とすると、相補辺は $\{0,-e_1\}$(ラベル $+1,-1$)だけである。下の prf-tl-special の道は
$$
\{0\}\to\{0,e_1\}\to\{e_1\}\to\{-e_1\}\to\{0,-e_1\}
$$
とたどり、相補辺で止まる(ex-tl-path で確かめる)。
この節では、$T$ は $O_n$ を細分する境界で対称な $\Diamond^n$ の三角形分割、$\lambda$ は境界で反対称なラベル付けとする。単体 $\sigma\in T$ の頂点のラベルの集合を $\Lambda(\sigma)$ と書く。
$x\in\Diamond^n$ について $S(x):=\{\,\operatorname{sgn}(x_j)\,j\mid x_j\neq0\,\}$ とおくと、$x=\sum_{s\in S(x)}\lvert x_{\lvert s\rvert}\rvert e_s$ なので、符号集合 $S$ について $x\in D_S\iff S(x)\subset S$ である。とくに $D_S\cap D_{S'}=D_{S\cap S'}$ であり、$D_S\cap\partial\Diamond^n$ は $e_s$($s\in S$)の凸包($D_S$ の外側の面)である。
各 $\sigma\in T$ について、$S(\sigma):=\bigcup_{v}S(v)$($v$ は $\sigma$ の頂点を動く)は符号集合であり、$\sigma\subset D_S\iff S(\sigma)\subset S$ である。とくに $\dim\sigma\le\lvert S(\sigma)\rvert$ であり、$\rho$ が $\sigma$ の面なら $S(\rho)\subset S(\sigma)$ である。
$\sigma$ の相対内部の点 $x$ をとる。$x$ はある $D_S$($\lvert S\rvert=n$)に属し、$D_S$ は $T$ の単体の和集合なので、$x\in\tau\subset D_S$ となる $\tau\in T$ がある。$\sigma\cap\tau$ は $\sigma$ と $\tau$ の共通の面で、$\sigma$ の相対内部の点 $x$ を含むので $\sigma$ 自身であり、$\sigma\subset\tau\subset D_S$ である。$D_S$ は凸なので、$\sigma\subset D_{S'}$ は $\sigma$ の頂点がすべて $D_{S'}$ に属すること、すなわち $S(\sigma)\subset S'$ と同値である。$S(\sigma)\subset S$ なので $S(\sigma)$ は符号集合で、$\sigma\subset D_{S(\sigma)}$ から $\dim\sigma\le\lvert S(\sigma)\rvert$ を得る。最後の主張は定義から明らかである。$\square$
$S$ を符号集合とすると、$T_S:=\{\sigma\in T\mid\sigma\subset D_S\}$ は $D_S$ の三角形分割である。次の性質は、Brouwerの不動点定理 の記事で Sperner の補題の証明に使う「内部の面は 2 つの単体に、周の面は 1 つの単体に属する」の一般形である。
$P$ を $k$ 次元の凸多面体($k\ge1$)、$K$ を $\lvert K\rvert=P$ となる有限な幾何的単体複体とする。$K$ の $(k-1)$ 単体 $\sigma$ を面にもつ $k$ 単体の個数は、$\sigma$ が $P$ の境界に含まれれば $1$、そうでなければ $2$ である。
要点:$\sigma$ の相対内部の点 $p$ の近くでは、$P$ は $\sigma$ を面にもつ $k$ 単体で覆われ、そのような $k$ 単体は $\sigma$ の張る超平面の両側に高々 1 つずつしかない。
$P$ の張るアフィン部分空間の中で考え、$H$ を $\sigma$ の張る超平面、$p$ を $\sigma$ の相対内部の点とする。$p$ を含む $K$ の単体は $\sigma$ を面にもつので(単体複体 の記事の補題「各点の台」)、$\sigma$ 自身か、$\sigma$ と $H$ の外の 1 頂点 $w$ が張る $k$ 単体 $\tau=\operatorname{conv}(\sigma\cup\{w\})$ である。$p$ を含まない単体は $p$ から正の距離にあるので、小さな $r>0$ について、$P$ の $p$ からの距離が $r$ 未満の点は、$\sigma$ か、そのような $\tau$ に属する。
$\tau$ は、$w$ の側の閉じた半空間と $p$ の小さな近傍の共通部分を含む。実際、その側の点 $q$ は $q=(1-t)y+tw$($y\in H$、$t\ge0$ は $q$ と $H$ の距離に比例する)と書け、$q\to p$ のとき $t\to0$、$y\to p$ なので、$y\in\sigma$、$q\in\tau$ となる。よって同じ側に 2 つの $k$ 単体があれば、両者は内点を共有し、共通部分が共通の面であることに反する。各側に $k$ 単体は高々 1 つである。
$\sigma$ が $P$ の境界に含まれないとき、$p$ は $P$ の内点である。そうでなければ $p$ は $P$ のある面 $F$ に属し、$F$ の支持超平面の片側に $\sigma$ があって相対内部の点 $p$ がその上にあるので、$\sigma\subset F$ となる。$p$ の近傍は $P$ に含まれ、$H$ の両側の点は $\sigma$ に属さないので、両側に $k$ 単体があり、個数は $2$ である。$\sigma$ が境界に含まれるとき、同じ議論で $\sigma$ は $P$ の真の面 $F$ に含まれ、$\dim\sigma=k-1$ から $F$ は $(k-1)$ 次元で $H$ はその支持超平面なので、$P$ は $H$ の片側にあり、個数は $1$ 以下である。$P$ の内点 $q_0$ について $p+t(q_0-p)$($t>0$ は小さい)は $H$ の外の $P$ の点なので、ちょうど $1$ である。$\square$
$\sigma\in T$ がよい単体であるとは、$S(\sigma)\subset\Lambda(\sigma)$ となることをいう。よい単体を頂点とし、次のどちらかをみたす $\sigma,\tau$ を辺で結んだグラフを $\mathcal G$ とする。
(i) $\sigma$ が $\tau$ の余次元 1 の面で、$S(\tau)\subset\Lambda(\sigma)$ である。
(ii) $\sigma\subset\partial\Diamond^n$ かつ $\tau=-\sigma$ である。
(i) の $\sigma,\tau$ は、$S(\sigma)\subset S(\tau)\subset\Lambda(\sigma)\subset\Lambda(\tau)$ なので自動的によい単体である。(ii) では、$T$ が境界で対称なので $-\sigma\in T$、ラベルが境界で反対称なので $\Lambda(-\sigma)=-\Lambda(\sigma)$ であり、$S(-\sigma)=-S(\sigma)$ だから $-\sigma$ もよい。また $\sigma\subset\partial\Diamond^n$ なら $S(\sigma)\neq\emptyset$ なので $-\sigma\neq\sigma$ である。$D_\emptyset=\{0\}$ が $T$ の単体の和集合なので、$\{0\}\in T$ で、これはよい単体である。
$\mathcal G$ の各頂点の次数は $1$ か $2$ であり、次数 $1$ の頂点は $\{0\}$ と、相補辺をもつよい単体である。とくに、相補辺をもつよい単体は奇数個あり、thm-tl-main はこの場合に成り立つ。
よい単体 $\sigma$ をとり、$S:=S(\sigma)$、$k:=\lvert S\rvert$ とおく。$\sigma$ は $\lvert S\rvert=k$ 個以上の相異なるラベルをもつので頂点は $k$ 個以上、lem-tl-sign により $\dim\sigma\le k$ なので、$\dim\sigma$ は $k-1$ か $k$ である。$\sigma$ の (i) の上向きの隣($\sigma$ を面にもつ $\tau$)、(i) の下向きの隣($\sigma$ の面 $\rho$)、(ii) の隣を数える。
場合 A:$\dim\sigma=k-1$。 頂点は $k$ 個なので $\Lambda(\sigma)=S$ で、ラベルは相異なり、相補辺はない。下向きの隣 $\rho$ は $S\subset\Lambda(\rho)$ をみたせない($\lvert\Lambda(\rho)\rvert\le k-1$)。上向きの隣 $\tau$ は $S\subset S(\tau)\subset\Lambda(\sigma)=S$ をみたすので $S(\tau)=S$、つまり $\tau$ は $T_S$ の $k$ 単体で $\sigma$ を面にもつものであり、逆にそのような $\tau$ はすべて隣である。lem-tl-pseudomanifold により、その個数は $\sigma$ が $D_S$ の境界に含まれれば $1$、そうでなければ $2$ である。$D_S$ の境界は $D_{S\setminus\{s\}}$($s\in S$)と外側の面からなり、$S(\sigma)=S$ なので $\sigma$ は $D_{S\setminus\{s\}}$ に含まれない。よって $\sigma$ が $D_S$ の境界に含まれることは、$\sigma$ が外側の面に含まれること、すなわち $\sigma\subset\partial\Diamond^n$ と同値であり、そのときに限り (ii) の隣 $-\sigma$ がある。どちらの場合も次数は $2$ である。
場合 B:$\dim\sigma=k$。 $\sigma$ は $D_S\cap\partial\Diamond^n$(次元 $k-1$、$k=0$ なら空)に含まれないので、(ii) の隣はない。頂点は $k+1$ 個で $\Lambda(\sigma)\supset S$ である。
証明のグラフは各頂点の次数が $2$ 以下なので、$\{0\}$ から出発して隣へ進み続けると、同じ単体に戻ることなく、相補辺をもつよい単体で止まる。こうして相補辺を、すべての辺を調べることなく見つけられる。これが Freund と Todd による構成的な証明の考え方である(dLZ05 p. 2、PS05 p. 258)。
ex-tl-octahedral の $O_2$ とラベルで道をたどる。$\{0\}$ は $S=\emptyset$、$\Lambda=\{+1\}$ で B2a($k=0$)なので、隣は $T_{\{+1\}}$ の辺 $\{0,e_1\}$ だけである。$\{0,e_1\}$ は $S=\{+1\}$、$\Lambda=\{+1\}$ の B1 で、隣は $\{0\}$ と $\{e_1\}$ である。$\{e_1\}$ は $S=\{+1\}$ で次元 $0=k-1$ の場合 A、外側の面にあるので、隣は $\{0,e_1\}$ と $\{-e_1\}$ である。$\{-e_1\}$ も同様に隣は $\{e_1\}$ と $\{0,-e_1\}$ である。$\{0,-e_1\}$ は $S=\{-1\}$、$\Lambda=\{+1,-1\}$ で $\ell=+1$、$-\ell\in S$ の B2b であり、相補辺そのものである。
Borsuk–Ulamの定理 の記事の命題「同値な言い換え」の (2) の形、すなわち「連続な奇写像 $S^n\to\mathbb{R}^n$($g(-y)=-g(y)$)は零点をもつ」を使う。ラベルの集合 $\Lambda_n$ の元 $s$ に $\mathbb{R}^n$ のベクトル $e_s$ を対応させるのが、2 つの方向に共通の考え方である。
Borsuk–Ulam の定理を仮定すると、一般の三角形分割について thm-tl-main と thm-tl-sphere が成り立つ。
区分線形写像を作る。 $T$ を thm-tl-main の三角形分割とし、頂点 $v$ を $e_{\lambda(v)}$ に送り、各単体の上でアフィンに延ばした写像を $f\colon\Diamond^n\to\mathbb{R}^n$ とする。$f$ は有限個の閉単体の上で連続で、共通の面の上で一致するので連続である。点 $x$ の台を $\sigma$ とし(単体複体 の記事の補題「各点の台」)、$x=\sum_it_iv_i$($v_i$ は $\sigma$ の頂点、$t_i>0$、$\sum t_i=1$)と書く。
相補辺がなければ零点はない。 $\sigma$ の頂点のラベルに相補な組がないとすると、各 $j$ について $\lvert\lambda(v_i)\rvert=j$ となる $v_i$ のラベルの符号はすべて同じなので、$f(x)=\sum_it_ie_{\lambda(v_i)}$ の第 $j$ 成分の絶対値は $\sum_{\lvert\lambda(v_i)\rvert=j}t_i$ である。これらの和は $1$ なので $f(x)\neq0$ である。よって $T$ が相補辺をもたなければ $f$ は零点をもたない。
境界で奇写像である。 $x\in\partial\Diamond^n$ なら、$x$ は $\Diamond^n$ のある真の面に属し、prf-tl-pseudomanifold と同じ理由で台 $\sigma$ も $\partial\Diamond^n$ に含まれる。$-\sigma\in T$ で $-x=\sum_it_i(-v_i)$ なので、$f(-x)=\sum_it_ie_{\lambda(-v_i)}=-\sum_it_ie_{\lambda(v_i)}=-f(x)$ である。
要点:$f$ から北半球と南半球で奇写像 $g\colon S^n\to\mathbb{R}^n$ を作ると、相補辺がなければ $g$ は零点をもたず、Borsuk–Ulam の定理に反する。
球面へ移す。$y=(y',y_{n+1})\in S^n$($y'\in\mathbb{R}^n$)に対し、$\psi(y):=\frac{\lvert y'\rvert}{\| y'\|_1}y'$($y'=0$ なら $0$)とおく。$\|\psi(y)\|_1=\lvert y'\rvert\le1$、$\lvert\psi(y)\rvert\le\lvert y'\rvert$ なので $\psi\colon S^n\to\Diamond^n$ は連続で、$\psi(-y)=-\psi(y)$、赤道 $y_{n+1}=0$ の上では $\psi(y)\in\partial\Diamond^n$ である。 $$ g(y):=\begin{cases}f(\psi(y))&(y_{n+1}\ge0)\\-f(-\psi(y))&(y_{n+1}\le0)\end{cases} $$ は、赤道の上で $f$ が奇写像であることから 2 つの式が一致し、連続である(連続写像 の記事の命題「有限閉被覆の貼り合わせ補題」)。$y_{n+1}>0$ なら $g(-y)=-f(-\psi(-y))=-f(\psi(y))=-g(y)$、赤道でも同様なので、$g$ は奇写像 $S^n\to\mathbb{R}^n$ である。相補辺がなければ $g$ は零点をもたず、Borsuk–Ulam の定理に反する。
球面の場合。$K$ を thm-tl-sphere の三角形分割とし、同じように $f\colon\lvert K\rvert\to\mathbb{R}^n$ を作る。$K$ は中心対称なので $f(-x)=-f(x)$ がすべての $x$ で成り立つ。$\rho$ はコンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な全単射なので同相写像で、$\rho(-x)=-\rho(x)$ である。$f\circ\rho^{-1}$ は奇写像 $S^n\to\mathbb{R}^n$ なので零点をもち、その点の台の頂点に相補な組がある。$\square$
$n\ge1$ とする。$O_n$ を細分する中心対称な三角形分割について thm-tl-main が成り立てば、連続な奇写像 $g\colon S^n\to\mathbb{R}^n$ は零点をもつ。
零点をもたない連続な奇写像 $g$ があるとする。$x\in\Diamond^n$ に対し $\chi(x):=\bigl(\frac{\| x\|_1}{\lvert x\rvert}x,\ \sqrt{1-\| x\|_1^2}\bigr)\in S^n$($x=0$ なら $(0,\dots,0,1)$)とおくと $\chi$ は連続で、$x\in\partial\Diamond^n$ なら $\chi(-x)=-\chi(x)$ である。$f:=g\circ\chi\colon\Diamond^n\to\mathbb{R}^n$ は零点をもたず、$\partial\Diamond^n$ の上で奇写像である。$\| z\|_\infty:=\max_j\lvert z_j\rvert$ とおき、コンパクト性から $\varepsilon:=\min\| f\|_\infty>0$、一様連続性から、$\lvert x-x'\rvert< \delta$ なら $\| f(x)-f(x')\|_\infty< \varepsilon$ となる $\delta>0$ をとる(一様連続)。単体の直径が $\delta$ 未満の $T:=\operatorname{sd}^rO_n$ をとり、頂点 $v$ に、$\lvert f_j(v)\rvert=\| f(v)\|_\infty$ となる最小の $j$ と $f_j(v)$ の符号を合わせたラベル $\lambda(v):=\operatorname{sgn}(f_j(v))\,j$ を与える。境界の頂点では $f(-v)=-f(v)$ なので $\lambda(-v)=-\lambda(v)$ である。仮定により相補辺 $\{u,v\}$、$\lambda(u)=+i$、$\lambda(v)=-i$ があり、$f_i(u)\ge\varepsilon$、$f_i(v)\le-\varepsilon$ である。ところが $\lvert u-v\rvert< \delta$ なので $\| f(u)-f(v)\|_\infty< \varepsilon$ となり、矛盾する。$\square$
prf-tl-special は位相を使わないので、prop-tl-to-bu と合わせると、ホモロジーを使わない Borsuk–Ulam の定理の証明になる。その結果に prop-tl-from-bu を当てると、一般の三角形分割の Tucker の補題が得られる。PS05 p. 258 は、補題が Borsuk–Ulam の定理と同値であり、この同値性から三角形分割は対称でありさえすればよいことを述べている。知られている構成的な証明は、どれも分割に何らかの条件(Freund–Todd では正八面体型の分割の細分)を課している(PS05 p. 258)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| ラベルが境界で反対称であること | $[-1,1]$ の頂点 $-1,0,1$ にすべて $+1$ | 相補辺の存在 |
| ラベルの値が $\pm1,\dots,\pm n$ であること | $[-1,1]$ の頂点 $-1,0,1$ に $-2,+1,+2$ | 相補辺の存在 |
| 複体が球面で対合が対蹠写像であること(thm-tl-sphere) | 自由な対合 $(a,b)\mapsto(a+2,b)$ をもつトーラスの三角形分割 | 相補辺の存在 |
1 行目:$n=1$ で辺は $\{-1,0\}$ と $\{0,1\}$ だけで、ラベルはすべて $+1$ なので相補辺はない。ラベルの値は $\Lambda_1$ に入り、分割は境界で対称だが、$\lambda(-1)=\lambda(1)$ で反対称性が破れている。
2 行目:$n=1$ で、ラベル $\pm2$ を許すと $\lambda(-1)=-\lambda(1)$ は成り立つが、辺のラベルは $\{-2,+1\}$ と $\{+1,+2\}$ で相補辺はない。ラベルの種類を増やすと相補辺は避けられる。球面の正八面体型の分割の対称な重心細分では、$\pm1,\dots,\pm m$ のラベルを反対称に相補辺なしで付けられるなら $m\ge n+1$ であり、さらにラベルを絶対値の小さい順に並べると $k_0,-k_1,k_2,\dots,(-1)^nk_n$($1\le k_0< k_1< \cdots< k_n\le m$)の形になる $n$ 単体が奇数個ある(Fan の補題、PS05 p. 258)。
3 行目:$a\in\mathbb{Z}/4$、$b\in\mathbb{Z}/3$ の 12 点を頂点とし、$\{(a,b),(a+1,b),(a+1,b+1)\}$ と $\{(a,b),(a,b+1),(a+1,b+1)\}$ を三角形とする抽象単体複体は、正方形の格子を対角線で切ったトーラスの三角形分割である。$\tau(a,b):=(a+2,b)$ は三角形を三角形に移す固定点のない対合で、$S^2$ の対蹠写像の役をする。$\mu(0)=+1$、$\mu(1)=+2$、$\mu(2)=-1$、$\mu(3)=-2$ とし、$\lambda(a,b):=\mu(a)$ とおくと、$\mu(a+2)=-\mu(a)$ なので $\lambda(\tau(v))=-\lambda(v)$ である。辺の両端の $a$ は等しいか $1$ だけ違い、$\mu(a)$ の相補なラベルは $\mu(a+2)$ だけなので、相補辺はない。定理は対蹠写像をもつ球面に固有である(Borsuk–Ulamの定理 の記事の反例の表の 3 行目と同じ現象)。
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