モデル理論

概要

モデル理論(model theory)とは、一階述語論理における構造と、その構造上での論理式の充足関係を研究する数理論理学の一分野である。証明の記号操作そのものではなく、ある理論(公理の集合)を満たす構造全体、すなわちそのモデルのクラスに注目し、コンパクト性定理やLöwenheim–Skolemの定理を基本道具とする。稠密線形順序・代数的閉体・実閉体のような代数学・順序論の対象や、算術の非標準モデルを統一的に扱えることが特色である。型と初等埋め込みは、モデルの局所的な性質と構造間の一階的同一性を記述する基本言語である。

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前提知識: 一階言語, 構造(モデル), 充足関係, コンパクト性定理(一階論理)

定義

一階述語論理は、言語 $L$(関数記号・関係記号・定数記号の集合)と、それによって組み立てられる論理式、および構造の上でその論理式が真になるかどうかを定める充足関係からなる(一階言語・構造(モデル)・充足関係参照)。この枠組みの中で、証明できる文の集合(統語論)ではなく、ある文の集合を満たす構造の側(意味論)に注目するのがモデル理論である(Hod97 Ch.1)。

モデル理論

言語 $L$ を固定する。$L$-理論($L$-theory)とは $L$-文の集合 $T$ をいい、$L$-構造 $M$ が $T$ のモデルであるとは $M$ が $T$ のすべての文を満たすこと($M\models T$)をいう。
モデル理論(model theory)とは、$L$-理論 $T$ とそのモデルのクラス $\mathrm{Mod}(T):=\{M : M\models T\}$ の間の関係——ある文が $T$ のもとで証明可能であるかではなく、$\mathrm{Mod}(T)$ に属する構造がどのような性質・分類・構成を許すか——を研究する数理論理学の一分野をいう。

モデル理論の基本的な問いは次の形を取る。「$T$ のモデルはどのくらい存在するか(充足可能性)」「$T$ の異なるモデルはどの程度似ているか(初等同値・同型)」「$T$ のモデルの中で、ある論理式を満たす元はどのように振る舞うか(定義可能集合・型)」。これらの問いに答える中心的な道具がコンパクト性定理であり、その完全な証明と基本的な帰結はコンパクト性定理(一階論理)の担当である。

流儀の注意:本記事が扱う範囲

「モデル理論」という語は文献によっては連続論理(continuous logic)、無限論理 $L_{\omega_1\omega}$、有限モデル理論など、古典的な一階述語論理を超えた枠組みまで含めて指すことがある。本記事は最も標準的な意味、すなわち等号付き一階述語論理を対象とするモデル理論に限定して述べる。無限論理や有限モデル理論では、後述するコンパクト性定理をはじめとする基本定理の成否が一階論理の場合と異なる(詳しくはコンパクト性定理(一階論理)の記事にある、二階論理・無限論理でのコンパクト性の成否に関する注意を参照)。

直感

モデル理論は、ある公理系を「証明の対象」としてではなく「それを満たす構造の集まりを指定する仕様書」として読み替える視点である。同じ公理系でも、複数の非同型な構造がそれを満たしうる。モデル理論は、そのモデルたちの間の一階論理から見た同一性(初等同値:$M\equiv N\iff\mathrm{Th}(M)=\mathrm{Th}(N)$、すなわち同じ $L$-文をすべて満たすことをいう、初等同値)や、モデルどうしの埋め込み方(初等部分構造・初等拡大)、モデルの大きさ・個数・分類可能性を、統語論的な証明可能性の言葉ではなく意味論的な言葉で調べる。

例

DLO:稠密な線形順序

言語 $\{<\}$ における、端点を持たない稠密な線形順序(すなわち稠密線形順序)の理論(DLO, dense linear order without endpoints)を考える。$(\mathbb Q,<)$ や $(\mathbb R,<)$ はいずれもそのモデルである。DLOは量化記号消去を持ち、完全な理論の代表例であり、可算モデルに限れば同型を除いて唯一つしかない(カテゴリー性におけるDLOの $\aleph_0$-カテゴリー性の例、Cantorによる可算稠密順序の一意性)。モデル理論の教科書で最初に扱われる例であり、量化記号消去・完全性・カテゴリー性という中心概念がすべて具体的に確認できる。

代数的閉体と実閉体

環の言語 $\{+,-,\cdot,0,1\}$ における標数ごとの代数的閉体の理論 $\mathrm{ACF}_0,\mathrm{ACF}_p$、および順序体の言語 $\{+,-,\cdot,0,1,<\}$ における実閉体の理論はいずれも量化記号消去の代表例であり、標数を固定すれば完全な理論である。この事実からLefschetz原理(標数 $0$ の任意の体で成り立つ文は十分大きい標数の体でも成り立つという、コンパクト性定理(一階論理)における移行原理)が従い、実閉体の量化記号消去はTarski–Seidenbergの定理として実代数幾何に直結する。モデル理論が代数学の具体的な定理を生む代表例である。

算術の非標準モデル

標準的な自然数の構造 $\mathbb N=(\mathbb N;0,S,+,\times,<)$ に対し、コンパクト性定理を用いると、$\mathbb N$ とまったく同じ一階の文を満たしながら $\mathbb N$ には存在しない「無限に大きい数」を持つ構造(非標準モデルが扱う対象)が存在することが分かる。一階論理という観測手段では、標準的な自然数とこの非標準モデルを文の真偽だけから区別できない。存在定理の完全な証明は非標準モデルが担当する(真の初等拡大の存在を示す一般的な定理自体は、非同型性=無限大の元を持つことまでは直接保証しない点に注意し、算術の場合への具体化は同記事に委ねる)。

反例:有限性・整列性は一階のモデル理論の対象にならない

「構造が有限である」という性質や「順序が整列順序である」という性質は、一階の言語のどんな理論によっても公理化できない。実際、ある理論 $T$ のモデルがちょうど有限構造全体であったとすると、$T$ は任意に大きい有限モデルを持つことになり、コンパクト性定理(一階論理)における「任意に大きい有限モデルを持つ理論は無限モデルも持つ」という帰結により $T$ は無限モデルも持ってしまい矛盾する(整列性についても同様の議論がコンパクト性定理(一階論理)の枠組みで成り立つ)。上のACF・RCF・DLOのように「量化記号消去を持つ」「完全である」といった強い性質を持つクラスがある一方で、有限性のような一見単純な性質でさえ一階論理の理論としては表現できない。これが、一階述語論理を対象とする(本記事の意味での)モデル理論が扱える範囲の外側にある典型例である。

性質

一階のモデル理論を支える中心定理——コンパクト性定理、Löwenheim–Skolemの定理、Łośの定理——の完全な証明はMar02 §2.1–2.3、§3.1、§4.3を参照されたい(各担当記事は準備中、後述の比較表を参照)。本節では、それらとは別に、この分野の基礎語彙である「型」の実現と「初等埋め込み」の合成という、既存記事のいずれも所有していない二つの性質を証明する。

型の実現

$L$ を言語、$M$ を $L$-構造、$A\subset M$ とする。$A$ の各元 $a$ に新しい定数記号 $c_a$ を対応させ、$L_A:=L\cup\{c_a\mid a\in A\}$ とし、$M_A$ を $c_a^{M_A}:=a$ と解釈した $L_A$-構造とする。$\mathrm{Th}(M_A)$ を $M_A$ で真な $L_A$-文全体とする。

型(局所的な定義)

自由変数 $\bar x=(x_1,\ldots,x_n)$ を持つ $L_A$-論理式の集合 $p(\bar x)$ が、$M$ における $A$ 上の(部分)型(partial type over $A$)であるとは、$p$ が $M$ において有限充足可能であること、すなわち任意の有限部分集合 $p_0(\bar x)\subset p(\bar x)$ に対して、ある $\bar b\in M^n$ が存在して $M\models\bigwedge p_0(\bar b)$ が成り立つことをいう。$L$-構造 $N$($M\prec N$)が $\bar b\in N^n$ をもち、任意の $\varphi(\bar x)\in p(\bar x)$ について $N\models\varphi(\bar b)$ となるとき、$p$ は $N$ で $\bar b$ により実現されるという。
型・実現・省略のより立ち入った理論(完全型・飽和モデル・省略型定理など)は、型(モデル理論)の担当とする。本記事はその出発点となる最も基本的な存在定理のみを扱う。

型の実現定理

$M$ を $L$-構造、$A\subset M$、$p(\bar x)$ を $A$ 上の型とする。このとき、$M$ の初等拡大 $N$($M\prec N$)と $\bar b\in N^n$ が存在して、$N$ において $p$ は $\bar b$ により実現される。

型の実現定理の証明

各 $a\in M$($A$ の元に限らずすべて)に新しい定数記号 $c_a$ を対応させ $L_M:=L\cup\{c_a\mid a\in M\}$ とし、$M^+$ を $c_a^{M^+}:=a$ で解釈した $L_M$-構造とする。非標準モデルにおける初等拡大の存在定理の証明にならい、$M$ の初等図式 $\mathrm{ElDiag}(M):=\{\sigma \mid \sigma\text{ は }L_M\text{-文},\ M^+\models\sigma\}$ を用いる。
さらに $\bar x=(x_1,\ldots,x_n)$ に対応する新しい定数記号 $\bar d=(d_1,\ldots,d_n)$ を用意し、$L^+:=L_M\cup\{\bar d\}$ とする。$p(\bar x)$ は $A\subset M$ 上の $L_A$-論理式の集合であり $L_A\subset L_M$ なので、$p(\bar d):=\{\varphi(\bar d)\mid\varphi(\bar x)\in p(\bar x)\}$(各 $x_i$ を $d_i$ に、各パラメータ $a\in A$ を $c_a$ に置き換えたもの)は $L^+$-文の集合になる。
$$ \Gamma:=\mathrm{ElDiag}(M)\cup p(\bar d) $$
とおく。
有限充足可能性。 $\Gamma$ の任意の有限部分集合 $\Gamma_0$ は、$\mathrm{ElDiag}(M)$ からの有限個の文 $T_0$ と、$p(\bar d)$ からの有限個の文 $p_0(\bar d)$($p_0(\bar x)\subset p(\bar x)$ は有限)からなる。$p$ は $M$ における $A$ 上の型なので、$p_0$ の有限充足可能性の定義により、ある $\bar b\in M^n$ が存在して $M\models\bigwedge p_0(\bar b)$ となる。$M^+$ をさらに $d_i^{M^+}:=b_i$($i=1,\ldots,n$)と解釈して $L^+$-構造に拡張すれば、$T_0\subset\mathrm{ElDiag}(M)$ の文はすべて $M^+$ で真であり($\mathrm{ElDiag}(M)$ の定義そのもの)、$p_0(\bar d)$ の各文も $\bar d$ を $\bar b$ と解釈した下で $M\models\bigwedge p_0(\bar b)$ から真になる。よって $\Gamma_0$ はこの拡張された $M^+$ によりモデルを持つ。
$\Gamma$ の任意の有限部分集合がモデルを持つので、コンパクト性定理により $\Gamma$ 自身がある $L^+$-構造 $N^+$ のモデルを持つ。$N$ を $N^+$ の $L$-簡約とし、$h:M\to N$ を $h(a):=c_a^{N^+}$ で定める。$h$ が初等埋め込みであることを示す。$\bar a\in M^n$、$L$-論理式 $\varphi(\bar x)$ とする。$M\models\varphi(\bar a)$ なら $\varphi(\bar c_{\bar a})\in\mathrm{ElDiag}(M)\subset\Gamma$ であり $N^+\models\Gamma$ だから $N^+\models\varphi(\bar c_{\bar a})$、すなわち $N\models\varphi(h(\bar a))$ である。逆に $M\not\models\varphi(\bar a)$ なら $M\models\lnot\varphi(\bar a)$ だから $\lnot\varphi(\bar c_{\bar a})\in\mathrm{ElDiag}(M)\subset\Gamma$ となり、同様に $N\models\lnot\varphi(h(\bar a))$、すなわち $N\not\models\varphi(h(\bar a))$ である。よって $M\models\varphi(\bar a)\iff N\models\varphi(h(\bar a))$ が成り立つ。$h$ の単射性は、$a\neq a'$($a,a'\in M$)なら $\mathrm{ElDiag}(M)$ に文 $c_a\neq c_{a'}$ が含まれるので $N^+\models c_a\neq c_{a'}$、すなわち $h(a)\neq h(a')$ となることによる。以上より $h$ は初等埋め込みである。$h$ を通じて $M$ を $h(M)\subset N$ と同一視すれば $M\prec N$ である。
最後に $\bar b:=(d_1^{N^+},\ldots,d_n^{N^+})\in N^n$ とおく。$p(\bar d)\subset\Gamma$ かつ $N^+\models\Gamma$ なので、$p(\bar x)$ の各論理式 $\varphi(\bar x)$ について $N^+\models\varphi(\bar d)$、すなわち $\bar d$ を $\bar b$ と、$L_A$ の定数 $c_a$($a\in A$)を $h(a)$ と対応づければ $N\models\varphi(\bar b)$(パラメータを $A\subset M$ から $h(A)\subset N$ へ、$M\prec N$ の同一視のもとで読み替えたもの)が成り立つ。ゆえに $N$ において $p$ は $\bar b$ により実現される。

初等埋め込みの基本性質

初等埋め込みの定義(単射 $h:M\to N$ であって、任意の論理式 $\varphi(\bar x)$ と $\bar a\in M^n$ について $M\models\varphi(\bar a)\iff N\models\varphi(h(\bar a))$ となるもの)とその基本的な位置づけは初等部分構造の記事が与えている。初等部分構造は主に包含写像の場合(初等部分構造関係 $\prec$ の推移性・下降性)を扱うが、一般の初等埋め込みの合成については論じていない。

初等埋め込みの合成則

$L$-構造 $M,N,P$ と初等埋め込み $f:M\to N$、$g:N\to P$ が与えられたとき、合成写像 $g\circ f:M\to P$ もまた初等埋め込みである。

初等埋め込みの合成則の証明

$g\circ f$ は単射どうしの合成なので単射である。任意の $L$-論理式 $\varphi(\bar x)$ と $\bar a\in M^n$ を取る。$f$ が初等埋め込みであることから
$$ M\models\varphi(\bar a)\iff N\models\varphi(f(\bar a)) $$
が成り立つ。$f(\bar a)\in N^n$ であり、$g$ が初等埋め込みであることから
$$ N\models\varphi(f(\bar a))\iff P\models\varphi(g(f(\bar a))) $$
が成り立つ。二つの同値をつなげると
$$ M\models\varphi(\bar a)\iff P\models\varphi\bigl((g\circ f)(\bar a)\bigr) $$
を得る。$\varphi,\bar a$ は任意だったから、$g\circ f$ は初等埋め込みである。

初等部分構造関係の推移性は合成則からも従う

$M\subset N\subset P$ が $M\prec N$ かつ $N\prec P$ を満たすとき、包含写像 $M\hookrightarrow N$ と $N\hookrightarrow P$ はいずれも初等埋め込みであり(初等部分構造の記事を参照)、合成則によりその合成である包含写像 $M\hookrightarrow P$ も初等埋め込みになる。これは $M\prec P$ を意味し、初等部分構造の記事にある初等部分構造関係の推移性と同じ結論が、埋め込みの合成という一般的な事実からも従うことを示している。

比較表:モデル理論の基本定理と担当記事

一階のモデル理論を組み立てる基本定理・技法を一覧にする。

名称主張の一言代表的な用途担当記事
コンパクト性定理有限部分がすべてモデルを持てば全体もモデルを持つ非標準モデルの構成、型の実現(本記事)、移行原理コンパクト性定理(一階論理)
下方Löwenheim–Skolemの定理可算言語の無限モデルは可算な初等部分構造を持つ小さいモデルの取り出し、SkolemのパラドックスLöwenheim-Skolemの定理
上方Löwenheim–Skolemの定理無限モデルを持つ理論は $|L|+\aleph_0$ 以上の任意の濃度のモデルを持つ大きいモデルの構成、カテゴリー性の議論の前提Löwenheim-Skolemの定理
量化記号消去論理式が量記号なし論理式と(理論のもとで)同値になるACF・RCF・DLOの完全性、決定可能性、実代数幾何量化記号消去
Łośの定理超積での論理式の真偽が各成分での真偽の「ほとんど全部」に一致超積の構成、コンパクト性の別証明、超準解析超積・Łośの定理
カテゴリー性判定(Łoś–Vaughtテスト等)可算カテゴリカルかつ有限モデルを持たなければ完全DLO・ACFの完全性の別証明カテゴリー性
完全性定理(Gödel)$T\models\varphi\iff T\vdash\varphi$(意味論的帰結と統語論的証明可能性の一致)証明論と意味論の橋渡し、コンパクト性定理の証明Gödelの完全性定理(Mar02/CK90)
型の実現定理有限充足可能な型は初等拡大で実現される飽和モデル・省略型定理の出発点本記事(prop-model-theory-type-realization)

分野ごとの使われ方

モデル理論は一つの理論(言語と公理の組)を軸に多くの分野を横断する。分野ごとに主役となる技法が異なる。

関連項目

参考文献

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