Hartman–Grobmanの定理(Hartman–Grobman theorem)とは、$C^1$ 級の自励系 $x'=F(x)$ の平衡点 $0$ で $A=DF(0)$ の固有値の実部がどれも $0$ でない(双曲型である)なら、$0$ の近くで流れが線形化 $e^{tA}$ と局所的に位相共役であるという定理である。写像の双曲型の不動点($Df(0)$ の固有値の絶対値がどれも $1$ でない)についても同じことが成り立つ。証明では、非線形の部分を原点の近くで切り落とし、共役写像を縮小写像の不動点として作る。双曲型でないと線形化は軌道の型を決めず、共役写像は一般に滑らかにとれない。
前提知識: 常微分方程式, 行列の指数関数, Banachの不動点定理
非線形の自励系 $x'=F(x)$ の平衡点 $0$ の近くでは、$F(x)$ をその 1 次の部分 $Ax$($A=DF(0)$)で置き換えた線形化 $x'=Ax$ が解の振る舞いをよく近似すると期待される。しかし近似が許されるのは短い時間だけで、長い時間の振る舞い、たとえば軌道が平衡点に近づくか離れるかまで線形化で決まるとは限らない。Hartman–Grobman の定理 は、$A$ の固有値の実部がどれも $0$ でない(平衡点が 双曲型 である)なら、平衡点の近くの軌道の全体は、線形化の軌道の全体を連続に変形したものになる、と述べる。つまり非線形の流れと線形の流れは、平衡点の近くで位相共役である。
この記事では、まず双曲型の行列の分解と、それに合わせたノルムを作る。次に、線形写像に小さな Lipschitz 摂動を加えた写像が線形写像と大域的に位相共役になることを、Banachの不動点定理 で共役写像を構成して証明する。そこから写像(離散力学系)の場合と流れの場合の Hartman–Grobman の定理を導き、双曲型でないと線形化が軌道の型を決めない例、共役写像が滑らかにとれない例を扱う。
$A$ を $n$ 次の実正方行列とする。
$e^A$ の固有値は $A$ の固有値 $\lambda$ について $e^\lambda$ であり(行列の指数関数 の定理「指数関数の固有値と行列式」)、$\lvert e^\lambda\rvert=e^{\operatorname{Re}\lambda}$ なので、$A$ が流れの意味で双曲型であることと $e^A$ が写像の意味で双曲型であることは同値である。双曲型の平衡点の定義は Tes12 §9.2(p. 255)による。
$\Phi$ は線形の系の軌道の弧を非線形の系の軌道の弧に、時刻をそろえて写す。大域的な位相共役($W=\mathbb{R}^n$)の定義は 力学系 の定義「位相共役」と同じである。
以下、写像の意味で双曲型の正則行列 $A$ を考える。
$A$ を写像の意味で双曲型の $n$ 次実正方行列とする。
要点:固有多項式を、根の絶対値が $1$ より小さい部分と大きい部分の積に分けて、Bézout の等式で $\mathbb{R}^n$ を分解する。ノルムは $\lvert v\rvert_*:=\sum_{k\ge0}\lvert B^kv\rvert_0$ の形で作る。
1:固有多項式を $\chi_A=p_sp_u$ と分ける。$p_s$ は絶対値が $1$ より小さい根の分の 1 次式の積、$p_u$ は残りの分の積である。実でない根は共役な根と同じ絶対値をもって組で現れるので、$p_s,p_u$ は実係数で、共通の根をもたない。よって実係数の多項式 $b_s,b_u$ で $b_sp_s+b_up_u=1$ となるものがある(Jordan標準形 の補題「広義固有空間への分解」の証明と同じ Bézout の等式)。$E_s:=\ker p_s(A)$、$E_u:=\ker p_u(A)$ とおく。Cayley–Hamiltonの定理 により $p_s(A)p_u(A)=0$ なので、$v=b_u(A)p_u(A)v+b_s(A)p_s(A)v$ の第 1 項は $E_s$、第 2 項は $E_u$ に属する。$v\in E_s\cap E_u$ なら同じ式から $v=0$ である。$A$ は $p_s(A)$、$p_u(A)$ と可換なので $E_s,E_u$ は不変である。$A_s$ の(複素化での)固有ベクトル $w$、固有値 $\lambda$ について $0=p_s(A)w=p_s(\lambda)w$ なので $p_s(\lambda)=0$、$\lvert\lambda\rvert<1$ である。$A_u$ も同様である。
2:有限次元の実ベクトル空間 $E$ 上の線形写像 $B$ の固有値の絶対値がすべて $1$ より小さいとする。$B$ の複素化に スペクトル半径 の定理「Gelfand のスペクトル半径公式」を使うと、行列のスペクトル半径は固有値の絶対値の最大値なので $\|B^k\|^{1/k}$ の極限は $1$ より小さく、$C:=\sum_{k\ge0}\|B^k\|$ は有限である($E$ の 1 つのノルム $\lvert\cdot\rvert_0$ で測る。有限次元ではノルムはどれも同値なので、実ベクトルでの作用素ノルムは複素化での作用素ノルムの定数倍以下)。$\lvert v\rvert_*:=\sum_{k\ge0}\lvert B^kv\rvert_0$ はノルムで、$\lvert v\rvert_0\le\lvert v\rvert_*\le C\lvert v\rvert_0$ であり、
$$\lvert Bv\rvert_*=\lvert v\rvert_*-\lvert v\rvert_0\le\Bigl(1-\frac1C\Bigr)\lvert v\rvert_*$$
となる。これを $E_s$ の $B=A_s$ と、$E_u$ の $B=A_u^{-1}$(固有値の絶対値は $1$ より小さい)に使い、$\lvert x\rvert:=\max\{\lvert x_s\rvert_*,\lvert x_u\rvert_*\}$ とおけばよい。$\square$
$E_s$ を 安定部分空間、$E_u$ を 不安定部分空間 という。$\|A_s^k\|\le a^k$、$\|A_u^{-k}\|\le a^k$ なので、$A^kx$ は $x\in E_s$ なら $k\to\infty$ で、$x\in E_u$ なら $k\to-\infty$ で $0$ に近づく。以下、このノルムを固定し、写像 $g$ の Lipschitz 定数 $\operatorname{Lip}(g):=\sup_{x\ne y}\frac{\lvert g(x)-g(y)\rvert}{\lvert x-y\rvert}$ もこのノルムで測る。$C_b$ を $\mathbb{R}^n$ から $\mathbb{R}^n$ への有界な連続写像の全体とし、上限ノルム $\|h\|:=\sup_x\lvert h(x)\rvert$ を入れる。$C_b$ は Banach 空間である。
$A$、$\lvert\cdot\rvert$、$a$ を lem-hg-splitting のものとし、$\varepsilon>0$ は $\varepsilon<1-a$ と $\varepsilon\|A^{-1}\|<1$ を満たすとする。$g\in C_b$ が $\operatorname{Lip}(g)\le\varepsilon$ を満たすとし、$f:=A+g$ とおく。
要点:$f\circ\Phi=\Phi\circ A$ は $h\circ A-Ah=g\circ(\mathrm{id}+h)$ と同値である。左辺の線形作用素は、安定な成分では過去へ、不安定な成分では未来へたどる級数で逆がとれ、その逆のノルムは $\frac1{1-a}$ 以下である。右辺の $h$ への依存は Lipschitz 定数 $\varepsilon$ なので、全体は縮小写像になる。逆写像は同じ形の線形の方程式で作り、単射性は 2 で示す。
段 0(線形の方程式).$u$ を $\mathbb{R}^n$ の同相写像とし、$m\circ u-Am=c$($c\in C_b$)を $m\in C_b$ について解く。成分に分けると $m_s\circ u=A_sm_s+c_s$、$m_u\circ u=A_um_u+c_u$ である。
$$m_s(x)=\sum_{j\ge0}A_s^jc_s\bigl(u^{-(j+1)}(x)\bigr),\qquad m_u(x)=-\sum_{j\ge0}A_u^{-(j+1)}c_u\bigl(u^j(x)\bigr)$$
は、各項のノルムが $a^j\|c\|$ 以下なので一様に収束して連続であり、代入すると方程式を満たす(たとえば $m_u(u(x))=-\sum_{j\ge1}A_u^{-j}c_u(u^j(x))=A_um_u(x)+c_u(x)$)。$\|m\|\le\frac{\|c\|}{1-a}$ である。$c=0$ の解は $m_s=A_s^jm_s\circ u^{-j}$、$m_u=A_u^{-j}m_u\circ u^j$ を満たすので、$\|m\|\le a^j\|m\|\to0$ となり $m=0$ である。よって解はただ 1 つで、これを $m=S_u(c)$ と書く。$S_u$ は線形で $\|S_u(c)\|\le\frac{\|c\|}{1-a}$ である。
段 1.$f(x)=y$ は $x=A^{-1}(y-g(x))$ と同値で、右辺は $x$ について Lipschitz 定数 $\varepsilon\|A^{-1}\|<1$ の縮小写像なので、Banachの不動点定理 によりただ 1 つの解をもつ。$\lvert x-x'\rvert\le\|A^{-1}\|(\lvert y-y'\rvert+\varepsilon\lvert x-x'\rvert)$ から $f^{-1}$ は Lipschitz 連続である。
段 2.$d_k:=f^k(x)-f^k(y)$、$\lvert d_k\rvert\le M$($k\in\mathbb{Z}$)とする。$d_{k+1}=Ad_k+\bigl(g(f^kx)-g(f^ky)\bigr)$ なので $\lvert d_{k+1,s}\rvert\le a\lvert d_{k,s}\rvert+\varepsilon\lvert d_k\rvert$、$\lvert d_{k+1,u}\rvert\ge a^{-1}\lvert d_{k,u}\rvert-\varepsilon\lvert d_k\rvert$ である。ある $k$ で $\lvert d_{k,u}\rvert\ge\lvert d_{k,s}\rvert$ なら、$\lvert d_{k+1,u}\rvert\ge(a^{-1}-\varepsilon)\lvert d_k\rvert$、$\lvert d_{k+1,s}\rvert\le(a+\varepsilon)\lvert d_k\rvert$ で、$a+\varepsilon< 1< a^{-1}-\varepsilon$($1-a\le a^{-1}-1$ による)だから同じ不等式が $k+1$ でも成り立ち、$\lvert d_{k+j}\rvert\ge(a^{-1}-\varepsilon)^j\lvert d_k\rvert$ となる。有界性から $d_k=0$ で、$f$ は単射なので $x=y$ である。すべての $k$ で $\lvert d_{k,u}\rvert<\lvert d_{k,s}\rvert$ なら $\lvert d_{k+1}\rvert\le(a+\varepsilon)\lvert d_k\rvert$ なので $\lvert d_0\rvert\le(a+\varepsilon)^jM\to0$ である。
段 3(存在と一意性).$\Phi=\mathrm{id}+h$ について $f\circ\Phi=\Phi\circ A$ は $h\circ A-Ah=g\circ(\mathrm{id}+h)$ と同値なので、段 0 により $h=T(h):=S_A\bigl(g\circ(\mathrm{id}+h)\bigr)$ と同値である。$\|T(h_1)-T(h_2)\|\le\frac{\varepsilon}{1-a}\|h_1-h_2\|$ なので $T$ は $C_b$ の縮小写像であり、Banachの不動点定理 によりただ 1 つの $h$ がある。
段 4(同相性).$\Psi:=\mathrm{id}+q$ について $\Psi\circ f=A\circ\Psi$ は $q\circ f-Aq=-g$ と同値なので、$q:=S_f(-g)$ がその解を与える($u=f$ は段 1 により同相写像)。$\Theta:=\Psi\circ\Phi=\mathrm{id}+m$($m=h+q\circ\Phi\in C_b$)は $\Theta\circ A=\Psi\circ f\circ\Phi=A\circ\Theta$ を満たし、これは $m\circ A-Am=0$ なので段 0 から $m=0$、つまり $\Psi\circ\Phi=\mathrm{id}$ である。$\Psi(x)=\Psi(y)$ なら、すべての $k\in\mathbb{Z}$ で $\Psi(f^kx)=A^k\Psi(x)=\Psi(f^ky)$ なので $\lvert f^kx-f^ky\rvert\le2\|q\|$ となり、2 から $x=y$ である。よって $\Psi$ は全単射で $\Phi=\Psi^{-1}$ であり、どちらも連続なので $\Phi$ は同相写像である。
段 5.$g(0)=0$ なら $f(0)=0$、$f(\Phi(0))=\Phi(0)$ で、$\lvert f^k(\Phi(0))-f^k(0)\rvert=\lvert\Phi(0)\rvert$ は一定なので、2 から $\Phi(0)=0$ である。$\square$
この補題と証明の骨組みは Tes12 Lemma 9.7・Corollary 9.8(pp. 262–264)による。単射性を 2 の性質(相異なる 2 点の軌道は、過去か未来のどちらかで必ず離れていく)で示した点は独自の書き方である。
局所的な定理は、非線形の部分を原点の近くだけ残して切り落とし、lem-hg-global に帰着させて示す。$\rho\colon[0,\infty)\to[0,1]$ を、$[0,1]$ で $1$、$[1,2]$ で $2-r$、$[2,\infty)$ で $0$ となる関数とする。$B(\delta):=\{\lvert x\rvert<\delta\}$、$\overline B(\delta):=\{\lvert x\rvert\le\delta\}$ と書く。
$V\subset\mathbb{R}^n$ を $0$ を含む開集合、$g\colon V\to\mathbb{R}^n$ を $C^1$ 級で $g(0)=0$、$Dg(0)=0$ とし、$\eta(r):=\sup_{\lvert y\rvert\le r}\|Dg(y)\|$ とおく。$\overline B(2\delta)\subset V$ のとき、$\lvert x\rvert\le2\delta$ で $g_\delta(x):=\rho(\lvert x\rvert/\delta)\,g(x)$、それ以外で $g_\delta(x):=0$ とおくと、$g_\delta\in C_b$、$\overline B(\delta)$ の上で $g_\delta=g$、$\operatorname{Lip}(g_\delta)\le3\eta(2\delta)$ である。$\delta\to0$ のとき $\eta(2\delta)\to0$ である。
$\eta:=\eta(2\delta)$ とする。凸集合 $\overline B(2\delta)$ の上で平均値の不等式から $\lvert g(x)-g(y)\rvert\le\eta\lvert x-y\rvert$、とくに $\lvert g(x)\rvert\le2\delta\eta$ である。$x\mapsto\rho(\lvert x\rvert/\delta)$ の Lipschitz 定数は $\frac1\delta$ 以下なので、$x,y\in\overline B(2\delta)$ なら
$$
\lvert g_\delta(x)-g_\delta(y)\rvert\le\frac{\lvert x-y\rvert}{\delta}\,2\delta\eta+\eta\lvert x-y\rvert=3\eta\lvert x-y\rvert
$$
である。$x$ が球の中、$y$ が外なら、線分 $[x,y]$ の上で $\lvert z\rvert=2\delta$ となる点 $z$ をとると $g_\delta(z)=0=g_\delta(y)$ なので、$\lvert g_\delta(x)-g_\delta(y)\rvert\le3\eta\lvert x-z\rvert\le3\eta\lvert x-y\rvert$ である。両方が外なら差は $0$ である。$Dg$ は $0$ で連続で $Dg(0)=0$ なので $\eta(2\delta)\to0$ である。$\square$
$V\subset\mathbb{R}^n$ を $0$ を含む開集合、$f\colon V\to\mathbb{R}^n$ を $C^1$ 級で $f(0)=0$ とし、$A:=Df(0)$ は写像の意味で双曲型とする。このとき $\delta>0$ と、$\Phi-\mathrm{id}$ が有界な同相写像 $\Phi\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n$ で $\Phi(0)=0$ となるものがあり、$W:=\Phi^{-1}(B(\delta))$ について
$$
x\in W\implies f(\Phi(x))=\Phi(Ax)
$$
が成り立つ。とくに $f$ は $0$ の近くで $A$ と局所的に位相共役である。
$\lvert\cdot\rvert$、$a$ を lem-hg-splitting のものとし、$\varepsilon$ を lem-hg-global の条件を満たすようにとる。$g:=f-A$ は $g(0)=0$、$Dg(0)=0$ を満たすので、lem-hg-cutoff で $3\eta(2\delta)\le\varepsilon$ となる $\delta$ をとり、$\tilde f:=A+g_\delta$ に lem-hg-global を使って $\Phi$ を得る。$x\in W$ なら $\Phi(x)\in B(\delta)$ で、そこでは $g_\delta=g$ なので $f(\Phi(x))=\tilde f(\Phi(x))=\Phi(Ax)$ である。$\Phi|_W$ は $W$ から開集合 $B(\delta)$ への同相写像である。$\square$
Tes12 Theorem 10.4(pp. 286–287)は $f$ が局所微分同相の場合に同じ主張を述べ、同じく切り落としで lem-hg-global に帰着させている。
$U\subset\mathbb{R}^n$ を $0$ を含む開集合、$F\colon U\to\mathbb{R}^n$ を $C^1$ 級で $F(0)=0$ とし、$A:=DF(0)$ は流れの意味で双曲型とする。$\varphi$ を $x'=F(x)$ の流れとする。このとき、$e^A$ に lem-hg-splitting を使って得たノルムについて、$\delta>0$ と、$\Phi-\mathrm{id}$ が有界な同相写像 $\Phi\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n$ で $\Phi(0)=0$ となるものがあり、$W:=\Phi^{-1}(B(\delta))$ について次が成り立つ:$s$ が $0$ と $t$ の間を動くとき $e^{sA}x\in W$ なら、$\varphi(t,\Phi(x))$ は定義されて $\Phi(e^{tA}x)$ に等しい。とくに $\varphi$ は $0$ の近くで $e^{tA}$ と局所的に位相共役である。
要点:$F$ の非線形の部分を切り落とした系の時刻 $1$ の写像は $e^A$ の小さな Lipschitz 摂動なので、lem-hg-global の共役 $\Phi$ がある。$\varphi_s\circ\Phi\circ e^{-sA}$ も同じ共役の方程式を満たすので、一意性から $\Phi$ に等しい。
段 1.$e^A$ は写像の意味で双曲型なので、lem-hg-splitting のノルム $\lvert\cdot\rvert$ と $a$ をとり、$\varepsilon$ を lem-hg-global の条件($e^A$ について)を満たすようにとる。$g:=F-A$ に lem-hg-cutoff を使い、$\eta':=3\eta(2\delta)$ とする。$\tilde F(x):=Ax+g_\delta(x)$ は $\mathbb{R}^n$ で Lipschitz 定数 $L:=\|A\|+\eta'$ をもつので、Picard–Lindelöfの定理 の定理「大域的な存在と一意性」により流れ $\tilde\varphi\colon\mathbb{R}\times\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n$ がある。線形微分方程式 の定理「定数変化法の公式(Duhamel の公式)」により
$$\tilde\varphi_t(x)=e^{tA}x+\int_0^te^{(t-s)A}g_\delta\bigl(\tilde\varphi_s(x)\bigr)\,ds$$
である。常微分方程式 の定理「初期値への連続依存性」と同じ議論(Grönwall の不等式はどのノルムでも使える)で $\lvert\tilde\varphi_s(x)-\tilde\varphi_s(y)\rvert\le e^{L\lvert s\rvert}\lvert x-y\rvert$ である。よって $G_t:=\tilde\varphi_t-e^{tA}$ は連続で $\|G_t\|\le\lvert t\rvert e^{\lvert t\rvert\|A\|}\|g_\delta\|$ を満たし、
$$\operatorname{Lip}(G_1)\le\eta'\int_0^1\|e^{(1-s)A}\|\,e^{Ls}\,ds\le\eta'e^{2\|A\|+\eta'}$$
である。$\delta$ を小さくとって右辺を $\varepsilon$ 以下にする。
段 2.$\tilde\varphi_1=e^A+G_1$、$G_1(0)=0$ に lem-hg-global を使い、$\tilde\varphi_1\circ\Phi=\Phi\circ e^A$ を満たす $\Phi=\mathrm{id}+h$($\Phi(0)=0$)を得る。
段 3.$s\in\mathbb{R}$ について $\Phi_s:=\tilde\varphi_s\circ\Phi\circ e^{-sA}$ とおく。$\Phi_s(x)-x=e^{sA}h(e^{-sA}x)+G_s\bigl(\Phi(e^{-sA}x)\bigr)$ は有界で連続である。流れの性質 $\tilde\varphi_1\circ\tilde\varphi_s=\tilde\varphi_s\circ\tilde\varphi_1$ と $e^Ae^{-sA}=e^{-sA}e^A$(行列の指数関数 の定理「可換な行列の指数法則」)から $\tilde\varphi_1\circ\Phi_s=\tilde\varphi_s\circ\Phi\circ e^A\circ e^{-sA}=\Phi_s\circ e^A$ である。lem-hg-global の一意性から $\Phi_s=\Phi$、つまりすべての $s$ で $\tilde\varphi_s\circ\Phi=\Phi\circ e^{sA}$ である。
段 4.$\overline B(\delta)\subset U$ の上で $\tilde F=F$ である。$s$ が $0$ と $t$ の間を動くとき $e^{sA}x\in W$ なら、$\tilde\varphi_s(\Phi(x))=\Phi(e^{sA}x)\in B(\delta)$ なので、$s\mapsto\tilde\varphi_s(\Phi(x))$ はこの区間で $x'=F(x)$ の解であり、解の一意性から $\varphi(s,\Phi(x))$ に等しい。$\square$
定理と証明の方針は Tes12 Theorem 9.9(pp. 264–266)による。Teschl は時刻 $1$ の写像の Lipschitz 定数を変分方程式と Grönwall の不等式で評価しているが、ここでは定数変化法の公式から直接評価した。共役 $\Phi$ は一般に $C^2$ 級にはとれない(ex-hg-not-smooth)。
さらに、流れの意味で双曲型の 2 つの行列 $A,B$ の流れ $e^{tA}$、$e^{tB}$ は、安定部分空間の次元が等しければ位相共役であり、逆も成り立つ(前者はこの記事では証明しない。Tes12 Theorem 9.10、pp. 266–267)。逆は次のようにわかる。共役 $h$ は平衡点を平衡点に写し、双曲型の行列は正則なのでどちらの流れも平衡点は $0$ だけだから、$h(0)=0$ である。$e^A$ に lem-hg-splitting を使い、$x=x_s+x_u$ で $x_u\ne0$ なら $\lvert e^{kA}x\rvert\ge a^{-k}\lvert x_u\rvert\to\infty$($k\to\infty$)であり、$x\in E_s$ なら $M:=\max_{0\le r\le1}\|e^{rA}\|$、$k:=\lfloor t\rfloor$ について $\lvert e^{tA}x\rvert=\lvert e^{(t-k)A}e^{kA}x\rvert\le Ma^k\lvert x\rvert\to0$($t\to\infty$)である。よって $t\to\infty$ で $0$ に近づく点の集合はちょうど安定部分空間である。$B$ についても $e^B$ に同じ議論を使えば同じことが成り立つ。$h(e^{tA}x)=e^{tB}h(x)$、$h$ の連続性と $h(0)=0$ から $h$ は $0$ に近づく点を $0$ に近づく点に写し、共役 $h^{-1}$ についても同じなので、$A$ の安定部分空間を $B$ の安定部分空間の上に同相に写し、領域不変性 の定理「次元の一意性」により両者の次元は等しい。thm-hg-flow と合わせると、双曲型の平衡点の近くの軌道の位相的な型は、実部が負の固有値の個数(重複を込めて)だけで決まる。たとえば平面では、安定な結節点と安定な渦状点(固有値が $-1,-2$ の場合と $-1\pm i$ の場合)は位相的には区別されず、区別されるのは吸い込み・鞍点・湧き出しの 3 つである。
$x'=-x$、$y'=y+x^2$ を考える。原点は平衡点で、$A=\operatorname{diag}(-1,1)$ は双曲型(鞍点)である。解は
$$
x(t)=x_0e^{-t},\qquad y(t)=\Bigl(y_0+\frac{x_0^2}3\Bigr)e^t-\frac{x_0^2}3e^{-2t}
$$
であり、$\Psi(x,y):=\bigl(x,\,y+\frac{x^2}3\bigr)$ とおくと $\Psi(\varphi(t,p))=e^{tA}\Psi(p)$($p\in\mathbb{R}^2$、$t\in\mathbb{R}$)となる。$\Psi$ は $\mathbb{R}^2$ の $C^\infty$ 級の微分同相なので、$\Phi:=\Psi^{-1}$ が共役を与える。$t\to\infty$ で原点に近づく点の集合は、線形の系では安定部分空間 $\{y=0\}$、非線形の系ではそれを $\Phi$ で写した放物線 $\{y=-\frac{x^2}3\}$ である。
$y'-y=x_0^2e^{-2t}$ の 1 つの解は $-\frac{x_0^2}3e^{-2t}$ である(微分すると $\frac23x_0^2e^{-2t}$、そこから $y$ を引くと $x_0^2e^{-2t}$)。斉次解 $Ce^t$ を加えて $t=0$ で $y_0$ になるように $C$ を決める。$\Psi$ の第 2 成分は $y(t)+\frac{x(t)^2}3=\bigl(y_0+\frac{x_0^2}3\bigr)e^t$ である。
この例の $\Phi$ は $\Phi-\mathrm{id}$ が有界でないが、thm-hg-flow の結論は原点の近くだけの主張なので食い違わない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| thm-hg-flow の「平衡点が双曲型」 | $x'=-y+\mu x(x^2+y^2)$、$y'=x+\mu y(x^2+y^2)$($\mu\ne0$。線形化は回転の中心) | $0$ の近くで線形化と局所的に位相共役 |
| thm-hg-map の「不動点が双曲型」 | $\mathbb{R}$ 上の $f(x)=x-x^3$($f'(0)=1$) | $0$ の近くで線形化と局所的に位相共役 |
1 行目:$A=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}$ で、固有値 $\pm i$ の実部は $0$ である。$e^{tA}$ は角 $t$ の回転なので、線形化ではすべての軌道が周期 $2\pi$ の周期軌道である。一方、非線形の系は極座標で $r'=\mu r^3$、$\theta'=1$ となり、$r>0$ では $r$ が狭義に単調なので、原点以外に周期点はない($\mu<0$ なら軌道は原点に近づき、$\mu>0$ なら離れる)。
$xx'+yy'=\mu r^4$ から $r'=\mu r^3$、$xy'-yx'=r^2$ から $\theta'=1$ である。局所的な位相共役 $\Phi\colon W\to\Phi(W)$ があったとする。$W$ は原点を中心とする小さい円周 $C$ を含み、$x\in C$ なら $e^{sA}x\in C\subset W$(すべての $s$)なので $\varphi(2\pi,\Phi(x))=\Phi(e^{2\pi A}x)=\Phi(x)$ である。$\Phi(x)$ は周期点か平衡点なので $\Phi(x)=0$ であり、$C$ の点がすべて $0$ に写ることになって $\Phi$ の単射性に反する。
1 行目の $\mu<0$ と $\mu>0$ では原点の安定性が逆になるが、線形化は同じである。$V=x^2+y^2$ とおくと $V$ の軌道微分は $2\mu(x^2+y^2)^2$ なので、$\mu<0$ なら Lyapunovの安定性定理 の定理「Lyapunov の安定性定理」の 2 により原点は漸近安定である(同じ記事の例「線形化が同じで安定性が逆になる系」は、よく似た系で、符号が正の場合の不安定性も確かめている)。双曲型でない平衡点では、線形化だけでは安定性も軌道の型も決まらない。
$x'=-x$、$y'=-2y+x^2$ を考える。$A=\operatorname{diag}(-1,-2)$ は双曲型なので thm-hg-flow により原点の近くで線形化と局所的に位相共役であるが、$0$ の近傍で定義された $C^2$ 級の微分同相 $\Psi$($\Psi(0)=0$)で、$\Psi(\varphi(t,p))=e^{tA}\Psi(p)$ が原点の近くで成り立つものはない。
解は $x=x_0e^{-t}$、$y=(y_0+x_0^2t)e^{-2t}$ である。$\Psi$ があったとし、$P:=D\Psi(0)$ とおく。$D\varphi_t(0)=e^{tA}$ なので、$\Psi\circ\varphi_t=e^{tA}\circ\Psi$ を原点で微分して $Pe^{tA}=e^{tA}P$ を得る。$e^{tA}$ の固有値 $e^{-t},e^{-2t}$ は相異なるので $P$ は対角行列で、正則だから第 2 成分 $p_2\ne0$ である。$\Psi$ の第 2 成分の 2 次の Taylor 展開を $\Psi_2(x,y)=p_2y+q_{11}x^2+q_{12}xy+q_{22}y^2+o(x^2+y^2)$ とし、点 $(s,0)$ と $t=1$ をとる。$\varphi_1(s,0)=(se^{-1},s^2e^{-2})$ なので
$$\Psi_2(\varphi_1(s,0))=p_2s^2e^{-2}+q_{11}s^2e^{-2}+o(s^2),\qquad e^{-2}\Psi_2(s,0)=e^{-2}q_{11}s^2+o(s^2)$$
であり、両者が等しいことから $p_2s^2e^{-2}=o(s^2)$、つまり $p_2=0$ となって矛盾する。
この例では固有値の間に $-2=2\cdot(-1)$ という関係(共鳴)があり、それが 2 次の項 $x^2$ を座標変換で消すことを妨げている。
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