複素対数関数

同義語:複素対数complex logarithm

概要

複素対数関数(complex logarithm)とは、$0$ でない複素数 $z$ に $e^w=z$ を満たす $w$ を対応させる関数で、値は $2\pi i$ の整数倍の違いを除いてしか決まらない。開集合 $D$ 上で値を連続に選んだものを対数の分枝といい、分枝は自動的に正則で導関数は $1/z$、連結な $D$ では $2\pi i$ の整数倍の差を除いて一意である。領域 $D$ に分枝があることは、$1/z$ が原始関数をもつこと、$D$ 内のどの閉曲線も原点のまわりの回転数が $0$ であることと同値である。分枝から冪 $z^a=e^{aL(z)}$ が定まり、その値は $a$ が整数なら 1 個、既約分数 $p/q$ なら $q$ 個、無理数か実数でないなら無限個ある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 指数関数, 対数関数, 正則関数, 回転数

複素対数関数(complex logarithm)は、$0$ でない複素数 $z$ に対して $e^w=z$ を満たす複素数 $w$ を対応させる関数である。複素数の指数関数は周期 $2\pi i$ をもつので、このような $w$ は $2\pi i$ の整数倍の違いを除いてしか決まらず、$\log z$ は無限個の値をもつ。そこで、領域 $D$ の上で値を連続に 1 つずつ選んだもの、すなわち対数の分枝を考える。
分枝がとれるかどうかは $D$ の形で決まる。$D$ が原点のまわりを回る閉曲線を含めば分枝はなく、どの閉曲線も原点のまわりを回らなければ分枝がある。分枝は自動的に正則で、導関数は $1/z$ である。この記事では、分枝の存在の判定、分枝の基本性質、冪 $z^a$ の多価性、$\operatorname{Log}(1+z)$ の冪級数を述べる。実数の対数と主値 $\operatorname{Log}$ の定義は 対数関数 の記事にある。

定義

複素数の指数関数 $e^w=\sum_{n\ge0}w^n/n!$ は $\mathbb{C}$ から $\mathbb{C}^\times:=\mathbb{C}\setminus\{0\}$ への全射で、$e^{w+2\pi i}=e^w$ を満たす(指数関数 の定義「複素数の指数関数」とその後の注意)。さらに $e^w=1$ となるのは $w\in2\pi i\mathbb{Z}$ のときに限る。実際、$w=x+iy$ について $e^w=e^x(\cos y+i\sin y)=1$ なら、絶対値から $e^x=1$、すなわち $x=0$ で、$\cos y=1$ から $y\in2\pi\mathbb{Z}$ である。

複素数の対数

$z\in\mathbb{C}^\times$ に対し、$e^w=z$ を満たす $w\in\mathbb{C}$ を $z$ の対数といい、その全体を $\log z$ と書く。$z=\lvert z\rvert e^{i\theta}$($\theta$ は $z$ の偏角の 1 つ)とすると
$$ \log z=\{\log\lvert z\rvert+i(\theta+2\pi k)\mid k\in\mathbb{Z}\} $$
である。右辺の $\log\lvert z\rvert$ は正の実数の自然対数である。

$e^w=z$ なら絶対値から $e^{\operatorname{Re}w}=\lvert z\rvert$、偏角から $\operatorname{Im}w\in\theta+2\pi\mathbb{Z}$ なので、上の等式が成り立つ。2 つの対数の差は $2\pi i\mathbb{Z}$ に入る。

対数の分枝

$D\subset\mathbb{C}^\times$ を開集合とする。連続関数 $L\colon D\to\mathbb{C}$ で、すべての $z\in D$ について $e^{L(z)}=z$ を満たすものを、$D$ 上の対数の分枝(branch of the logarithm)という。連続関数 $\theta\colon D\to\mathbb{R}$ で $z=\lvert z\rvert e^{i\theta(z)}$ を満たすものを、$D$ 上の偏角の分枝という。

$L$ が対数の分枝なら $\operatorname{Im}L$ は偏角の分枝であり、逆に $\theta$ が偏角の分枝なら $\log\lvert z\rvert+i\theta(z)$ は対数の分枝である。$\mathbb{C}\setminus(-\infty,0]$ 上の主値 $\operatorname{Log}z=\log\lvert z\rvert+i\operatorname{Arg}z$($-\pi< \operatorname{Arg}z< \pi$)は対数の分枝である(対数関数 の定義「対数の主値」、Cauchyの積分定理 の命題「対数の主値の正則性」)。

値の計算

$\log(-1)=\{(2k+1)\pi i\mid k\in\mathbb{Z}\}$、$\log i=\{(\tfrac12+2k)\pi i\mid k\in\mathbb{Z}\}$、$\log(1+i)=\{\tfrac12\log2+(\tfrac14+2k)\pi i\mid k\in\mathbb{Z}\}$ である。主値は $\operatorname{Log}i=\pi i/2$、$\operatorname{Log}(1+i)=\frac12\log2+\frac{\pi i}4$ である。$-1$ は主値の定義域 $\mathbb{C}\setminus(-\infty,0]$ に入らない(対数関数 の主値は偏角を $(-\pi,\pi]$ でとり $\operatorname{Log}(-1)=\pi i$ とするが、負の実軸で連続でない)。

分枝の基本性質

連続な分枝は正則

$D\subset\mathbb{C}^\times$ を開集合、$L$ を $D$ 上の対数の分枝とする。$L$ は $D$ 上で正則で、$L'(z)=1/z$ である。

$z_0\in D$ とし、$w_0:=L(z_0)$ とおく。$z\in D\setminus\{z_0\}$ について $w:=L(z)$ とすると、$e^w=z\neq z_0=e^{w_0}$ なので $w\neq w_0$ であり、
$$ \frac{L(z)-L(z_0)}{z-z_0}=\frac{w-w_0}{e^w-e^{w_0}} $$
と書ける。$z\to z_0$ のとき、$L$ の連続性から $w\to w_0$ である。指数関数は正則で導関数は自身なので、$w\to w_0$ のとき $(e^w-e^{w_0})/(w-w_0)\to e^{w_0}=z_0\neq0$ である。よって右辺は $1/z_0$ に収束し、$L'(z_0)=1/z_0$ である。$\square$

連続性は外せない。$\mathbb{C}^\times$ の各点で $\log z$ から勝手に 1 つ値を選んだ関数は、$e^{L(z)}=z$ を満たしても一般には連続でも正則でもない(ex-clog-counterexamples の 3 行目)。

分枝の一意性

$D\subset\mathbb{C}^\times$ を連結な開集合、$L_1$ を $D$ 上の対数の分枝とする。$D$ 上の対数の分枝は、ちょうど $L_1+2\pi ik$($k\in\mathbb{Z}$)の形の関数である。とくに、1 点での値を決めれば分枝はただ 1 つに決まる。

$L_1+2\pi ik$ は連続で $e^{L_1+2\pi ik}=e^{L_1}=z$ を満たすので、分枝である。逆に $L_2$ を分枝とすると、$e^{L_2-L_1}=z/z=1$ なので、$(L_2-L_1)/(2\pi i)$ は $D$ 上の整数値の連続関数である。$D$ は連結なので、整数値の連続関数は定数 $k$ であり(値 $k$ をとる点の集合は開かつ閉)、$L_2=L_1+2\pi ik$ である。$\square$

分枝が存在する領域

以下、閉曲線 $\gamma\colon[\alpha,\beta]\to\mathbb{C}$ と $a\notin\gamma([\alpha,\beta])$ について、$n(\gamma,a)$ は回転数である(回転数 の定義「回転数」。偏角の連続な選び方の変化を $2\pi$ で割ったもの)。

対数の分枝の存在条件

$D\subset\mathbb{C}^\times$ を領域(連結な開集合)とする。次は同値である。

  1. $D$ 上に対数の分枝が存在する。
  2. $1/z$ が $D$ 上に原始関数をもつ。
  3. $D$ 内のすべての閉曲線 $\gamma$ について $n(\gamma,0)=0$ である。
  4. $D$ 内のすべての区分的に滑らかな閉曲線 $\gamma$ について $\displaystyle\oint_\gamma\frac{dz}z=0$ である。

1 ⇒ 2. thm-clog-holomorphic により分枝 $L$ は $L'=1/z$ を満たす。
2 ⇒ 1. $F'=1/z$ とし、$h(z):=ze^{-F(z)}$ とおくと $h'=e^{-F}-z\cdot\frac1z\,e^{-F}=0$ なので、$h$ は連結な $D$ 上で $0$ でない定数 $c$ である(正則関数 の記事の命題「導関数が消える正則関数」)。$e^b=c$ となる $b$ をとり $L:=F+b$ とおくと、$e^L=e^Fc=z$ である。
1 ⇒ 3. $L$ を分枝、$\gamma\colon[\alpha,\beta]\to D$ を閉曲線とする。$\theta(t):=\operatorname{Im}L(\gamma(t))$ は連続で、$\gamma(t)=e^{L(\gamma(t))}=\lvert\gamma(t)\rvert e^{i\theta(t)}$ なので、$\gamma$ の $0$ から見た偏角の連続な選び方である。$\gamma(\beta)=\gamma(\alpha)$ から $\theta(\beta)=\theta(\alpha)$ なので、$n(\gamma,0)=0$ である。
3 ⇒ 1. 点 $z_0\in D$ と $e^{w_0}=z_0$ となる $w_0$ を固定する。$z\in D$ に対し、$D$ 内の $z_0$ から $z$ への曲線 $\gamma\colon[\alpha,\beta]\to D$ をとり(領域は弧状連結)、$\gamma$ の $0$ から見た偏角の連続な選び方 $\theta_\gamma$ で $\theta_\gamma(\alpha)=\operatorname{Im}w_0$ となるものをとる(回転数 の補題「偏角の連続な選び方」)。
$$ L(z):=\log\lvert z\rvert+i\theta_\gamma(\beta) $$
と定めると $e^{L(z)}=z$ である。
$L(z)$ が $\gamma$ によらないこと:$\gamma_1,\gamma_2$ を $z_0$ から $z$ への 2 つの曲線とし、$\gamma_1$ の後に $\gamma_2$ を逆向きにたどる閉曲線を $\gamma$ とする。$\gamma_1$ の上では $\theta_{\gamma_1}$、$\gamma_2$ の逆向きの上では $\theta_{\gamma_2}$ を逆にたどった関数に $\theta_{\gamma_1}(\beta_1)-\theta_{\gamma_2}(\beta_2)$ を足したものをつなぐと、$\gamma$ の偏角の連続な選び方になる。その終点の値は $\theta_{\gamma_2}(\alpha_2)+\theta_{\gamma_1}(\beta_1)-\theta_{\gamma_2}(\beta_2)$ で、始点の値は $\theta_{\gamma_1}(\alpha_1)=\theta_{\gamma_2}(\alpha_2)=\operatorname{Im}w_0$ である。$n(\gamma,0)=0$ なので両者は等しく、$\theta_{\gamma_1}(\beta_1)=\theta_{\gamma_2}(\beta_2)$ である。
$L$ が連続であること:$z_1\in D$ と、$D$ に含まれる円板 $B:=\{\lvert z-z_1\rvert< r\}$($r\le\lvert z_1\rvert$)をとる。$B$ は開半平面 $\{\operatorname{Re}(z\bar z_1)>0\}$ に含まれるので、$L_B(z):=\operatorname{Log}(z/z_1)+L(z_1)$ は $B$ 上の対数の分枝で $L_B(z_1)=L(z_1)$ である。$z\in B$ について、$z_0$ から $z_1$ への曲線の後に線分 $[z_1,z]$ をつないだ曲線で $L(z)$ を計算する。線分の上では $\operatorname{Im}L_B$ が偏角の連続な選び方を与え、つなぎ目の値が一致するので、$L(z)=L_B(z)$ となる。よって $L$ は $B$ 上で連続である。
3 ⇔ 4. 区分的に滑らかな閉曲線では $n(\gamma,0)=\frac1{2\pi i}\oint_\gamma\frac{dz}z$ である(回転数 の命題「積分による表示」)。4 から 2 は、$z_0$ から折れ線に沿って $1/z$ を積分して原始関数を作る、Cauchyの積分定理 の系「単連結領域上の原始関数と対数の分枝」の 1 の証明と同じ議論による。2 から 4 は、原始関数をもつ関数の閉曲線に沿う積分が $0$ であることによる。3 から 4 は積分による表示から直ちに従う。$\square$

条件 3 は $D$ の位相だけで決まる。次の系は、分枝があるかないかを見分ける典型的な場合である。

分枝がある領域とない領域

$D\subset\mathbb{C}^\times$ を領域とする。

  1. ある $r>0$ について円周 $\{\lvert z\rvert=r\}$ が $D$ に含まれるなら、$D$ 上に対数の分枝はない。とくに $\mathbb{C}^\times$、穴あき円板 $\{0< \lvert z\rvert< R\}$、円環 $\{r_1< \lvert z\rvert< r_2\}$ には分枝がない。
  2. $\mathbb{C}\setminus D$ の連結成分のうち $0$ を含むものが有界でないなら、$D$ 上に対数の分枝がある。とくに、$0$ から出る半直線 $\{tc\mid t\ge0\}$($c\neq0$)を除いた $\mathbb{C}\setminus\{tc\mid t\ge0\}$ には分枝がある。
  3. $D$ が単連結なら、$D$ 上に対数の分枝がある。

1:$\gamma(t)=re^{it}$($0\le t\le2\pi$)について $\theta(t)=t$ が偏角の連続な選び方なので $n(\gamma,0)=1\neq0$ であり、thm-clog-existence の 3 が成り立たない。
2:$A$ を $\mathbb{C}\setminus D$ の $0$ を含む連結成分とし、$\gamma$ を $D$ 内の閉曲線とする。$A$ は $\gamma$ の像と交わらない連結集合なので、$\mathbb{C}$ から $\gamma$ の像を除いた集合の 1 つの連結成分に含まれる。$A$ は有界でないので、その連結成分は有界でない。回転数 の命題「回転数は補集合の連結成分ごとに一定」の 2 により $n(\gamma,0)=0$ であり、thm-clog-existence により分枝がある。半直線は $0$ を含む有界でない連結集合である。
3:$D$ 内の閉曲線は $D$ の中で定数の曲線にホモトピックなので、回転数 の定理「回転数のホモトピー不変性」により $n(\gamma,0)=0$ である(Cauchyの積分定理 の系「単連結領域上の原始関数と対数の分枝」は同じ結論を原始関数から導いている)。$\square$

2 の半直線の場合、分枝は具体的に書ける。$c=\lvert c\rvert e^{i\varphi}$($\varphi\in\mathbb{R}$)について $L(z):=\operatorname{Log}(-z/c)+\log\lvert c\rvert+i(\varphi+\pi)$ が分枝であり、$c=-1$ で $\varphi=-\pi$ ととると主値 $\operatorname{Log}$ になる。2 の仮定は外せない:円環では $\mathbb{C}\setminus D$ の $0$ を含む成分 $\{\lvert z\rvert\le r_1\}$ が有界で、分枝はない。

正則関数の対数

同じ議論は、$z$ を $0$ にならない正則関数に替えても働く。

正則関数の対数

$D\subset\mathbb{C}$ を領域、$g$ を $D$ 上の $0$ にならない正則関数とする。$D$ 上の正則関数 $L$ で $e^{L}=g$ を満たすものが存在することは、$D$ 内のすべての閉曲線 $\gamma$ について $n(g\circ\gamma,0)=0$ であることと同値であり、$g'/g$ が $D$ 上に原始関数をもつこととも同値である。このとき $L'=g'/g$ である。

要点:thm-clog-existence の証明で、$\gamma$ の偏角の代わりに $g\circ\gamma$ の偏角を追えばよい。

証明を開く

$L$ があれば、$L'e^L=g'$ から $L'=g'/g$ で、$\operatorname{Im}L(\gamma(t))$ は $g\circ\gamma$ の偏角の連続な選び方なので $n(g\circ\gamma,0)=0$ である。$g'/g$ が原始関数 $F$ をもてば、$(ge^{-F})'=0$ から $g=ce^F$ で、$c=e^b$ として $L=F+b$ とおけばよい。回転数の条件から $L$ を作るには、$z_0\in D$ と $e^{w_0}=g(z_0)$ を固定し、$z_0$ から $z$ への曲線 $\gamma$ について $g\circ\gamma$ の偏角の連続な選び方 $\theta$ を $\theta(\alpha)=\operatorname{Im}w_0$ でとり、$L(z):=\log\lvert g(z)\rvert+i\theta(\beta)$ とおく。曲線によらないことは $n(g\circ\gamma,0)=0$ から、連続性は、$z_1$ の近くで $g(z)/g(z_1)$ が右半平面に入ることから prf-clog-existence と同じに従う。正則性は、$z_1$ の近くで $L(z)=\operatorname{Log}(g(z)/g(z_1))+L(z_1)$ と書けることによる。$\square$

冪関数

複素数の冪

$D\subset\mathbb{C}^\times$ 上の対数の分枝 $L$ と $a\in\mathbb{C}$ について、$z^a:=e^{aL(z)}$ を、分枝 $L$ による $z$ の $a$ 乗という。$L=\operatorname{Log}$ のものを主値という。分枝を決めないときは、$z$ の $a$ 乗の値の全体 $\{e^{aw}\mid w\in\log z\}$ を考える。

冪の基本性質

$D\subset\mathbb{C}^\times$ を開集合、$L$ を $D$ 上の対数の分枝とし、$z^a$ は $L$ による冪とする。

  1. $z^a$ は $D$ 上で正則で、$\dfrac{d}{dz}z^a=a\,\dfrac{z^a}{z}$ である。
  2. $z^az^b=z^{a+b}$ である。
  3. $n\in\mathbb{Z}$ なら、$z^n$ は分枝によらず、通常の $n$ 乗($n<0$ なら $1/z^{-n}$)に一致する。
  4. $n\ge1$ なら $(z^{1/n})^n=z$ である。

1:連鎖律と thm-clog-holomorphic により $\frac{d}{dz}e^{aL(z)}=aL'(z)e^{aL(z)}=a z^a/z$ である。2:指数法則による。3:$e^{nL}=(e^L)^n=z^n$($n\ge0$ は指数法則の繰り返し、$n<0$ は $e^{-L}=1/z$ による)。4:$(e^{L/n})^n=e^L=z$ である。$\square$

冪の値の個数

$z\in\mathbb{C}^\times$、$a\in\mathbb{C}$ とする。$z$ の $a$ 乗の値の全体 $\{e^{aw}\mid w\in\log z\}$ は、$a\in\mathbb{Z}$ なら 1 個、$a=p/q$($p,q$ は互いに素な整数、$q\ge2$)なら $q$ 個、$a\notin\mathbb{Q}$ なら無限個の元からなる。

$w_0\in\log z$ を 1 つとると、値は $e^{aw_0}e^{2\pi iak}$($k\in\mathbb{Z}$)である。$e^{2\pi iak}=e^{2\pi iak'}$ は $a(k-k')\in\mathbb{Z}$ と同値である($e^w=1\iff w\in2\pi i\mathbb{Z}$)。$a\notin\mathbb{Q}$ なら、$0$ でない整数 $m$ で $am\in\mathbb{Z}$ となるものはないので(あれば $a=(am)/m\in\mathbb{Q}$)、値はすべて異なり無限個である。$a=p/q$ なら、$am=pm/q\in\mathbb{Z}$ は $q\mid m$ と同値なので、値は $k$ を $q$ で割った余りだけで決まり、ちょうど $q$ 個である。$a\in\mathbb{Z}$ は $q=1$ の場合である。$\square$

冪の値
  1. $i^i=\{e^{i\cdot i(\pi/2+2\pi k)}\}=\{e^{-\pi/2-2\pi k}\mid k\in\mathbb{Z}\}$ は無限個の正の実数で、主値は $e^{-\pi/2}=0.2078\ldots$ である。
  2. $(-1)^{1/2}=\{i,-i\}$、$1^{1/3}=\{1,e^{2\pi i/3},e^{4\pi i/3}\}$ である。
  3. $2^{\sqrt2}$ の値は $e^{\sqrt2\log2}e^{2\pi i\sqrt2k}$($k\in\mathbb{Z}$)で、$\sqrt2\notin\mathbb{Q}$ なので無限個ある。実数の範囲の値は $k=0$ の $e^{\sqrt2\log2}$ だけである。

冪級数と主値

$\operatorname{Log}(1+z)$ の冪級数

$\lvert z\rvert<1$ について
$$ \operatorname{Log}(1+z)=\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^{n-1}}nz^n=z-\frac{z^2}2+\frac{z^3}3-\cdots $$
である。

右辺の冪級数の収束半径は $1$ で、和を $S(z)$ とおくと、正則関数 の定理「冪級数の正則性」により $S$ は $\lvert z\rvert<1$ で正則で、$S'(z)=\sum_{n\ge1}(-z)^{n-1}=1/(1+z)$ である。一方 $\lvert z\rvert<1$ なら $\operatorname{Re}(1+z)>0$ なので $1+z\in\mathbb{C}\setminus(-\infty,0]$ であり、$\operatorname{Log}(1+z)$ は正則で導関数は $1/(1+z)$ である(thm-clog-holomorphic)。差の導関数は $0$ なので、連結な円板の上で差は定数であり(正則関数 の命題「導関数が消える正則関数」)、$z=0$ でともに $0$ なので一致する。$\square$

実数 $x\in(-1,1]$ に制限すると 対数関数 の定理「$\log(1+x)$ の級数」に戻る。主値は指数関数の逆写像として振る舞うが、それは虚部が $(-\pi,\pi)$ にある範囲に限られる。

主値と指数関数の合成

$w\in\mathbb{C}$ について $e^w\in\mathbb{C}\setminus(-\infty,0]$ とする。$\operatorname{Log}(e^w)=w$ であることと、$-\pi< \operatorname{Im}w< \pi$ であることは同値である。一般には $\operatorname{Log}(e^w)=w-2\pi ik$ で、$k$ は $\operatorname{Im}w-2\pi k\in(-\pi,\pi)$ となる整数である。

$e^w=e^{\operatorname{Re}w}e^{i\operatorname{Im}w}$ なので、$\operatorname{Log}(e^w)=\operatorname{Re}w+i\operatorname{Arg}(e^{i\operatorname{Im}w})$ である。$\operatorname{Arg}(e^{iy})$ は $y+2\pi\mathbb{Z}$ の元のうち $(-\pi,\pi)$ に入るただ 1 つのものなので、$y-2\pi k$ に等しい。$k=0$ となるのは $y\in(-\pi,\pi)$ のときに限る。$\square$

指数関数の被覆としての見方

指数関数は普遍被覆

$\exp\colon\mathbb{C}\to\mathbb{C}^\times$ は普遍被覆である(普遍被覆)。開集合 $D\subset\mathbb{C}^\times$ 上の対数の分枝は、$\exp$ の $D$ の上の連続な切断、すなわち包含写像 $D\to\mathbb{C}^\times$ の $\exp$ による持ち上げにほかならない。

要点:半直線を除いた平面の上で、$\exp$ の逆像は分枝 $L+2\pi ik$ の像の交わらない和になる。

証明を開く

$c\neq0$ とし、$U_c:=\mathbb{C}\setminus\{tc\mid t\ge0\}$ 上の分枝 $L_c$ を 1 つとる(cor-clog-domains の 2)。$\exp^{-1}(U_c)$ は $V_k:=L_c(U_c)+2\pi ik$($k\in\mathbb{Z}$)の和である:$e^w\in U_c$ なら $w$ と $L_c(e^w)$ はともに $e^w$ の対数なので差は $2\pi i\mathbb{Z}$ に入る。$L_c$ は $\exp\circ L_c=\mathrm{id}$ なので単射で、thm-clog-holomorphic により導関数 $1/z$ が $0$ にならない正則関数なので、開写像定理(開写像定理(複素解析))により $L_c(U_c)$ は開集合である。$L_c(u)+2\pi ik=L_c(u')+2\pi ik'$ なら $\exp$ をとって $u=u'$、よって $k=k'$ なので、$V_k$ は互いに交わらない。$\exp|_{V_k}\colon V_k\to U_c$ は連続な逆写像 $L_c+2\pi ik$ をもつ同相写像である。$\mathbb{C}^\times$ は $U_1$ と $U_{-1}$ で覆われるので $\exp$ は被覆写像で、$\mathbb{C}$ は単連結なので普遍被覆である。後半は定義の言い換えである。

この見方では、$\log$ の値全体を 1 つの面の上の関数にまとめた「対数関数の Riemann 面」は、$\{(z,w)\in\mathbb{C}^\times\times\mathbb{C}\mid e^w=z\}$ であり、$w$ への射影でちょうど $\mathbb{C}$ と同相になる。thm-clog-existence の条件 3 は、被覆変換群 の補題「持ち上げの判定法」の条件($D$ の基本群の像が自明)を、回転数による同型 $\pi_1(\mathbb{C}^\times)\cong\mathbb{Z}$(回転数 の命題「基本群との関係」)で読み替えたものである。原点のまわりを 1 周すると対数の値が $2\pi i$ だけ増えること(解析接続 の例「対数を原点のまわりに 1 周接続する」)は、この被覆の上で隣のシートへ移ることにあたる。

反例:条件を外したとき

条件を外したときの反例
外す条件反例成り立たなくなること
すべての閉曲線で $n(\gamma,0)=0$(thm-clog-existence)$D=\mathbb{C}^\times$対数の分枝が存在しない
$D$ が連結(prop-clog-uniqueness)$D=\{\lvert z-2\rvert<1\}\cup\{\lvert z+2\rvert<1\}$ 上の 2 つの分枝差 $L_2-L_1$ が定数でない
$L$ が連続(thm-clog-holomorphic)$\mathbb{C}^\times$ 上で $\operatorname{Im}z\ge0$ なら $\operatorname{Log}z$ と同じ $\log\lvert z\rvert+i\operatorname{Arg}z$、$\operatorname{Im}z<0$ なら $\log\lvert z\rvert+i(\operatorname{Arg}z+2\pi)$ とする関数$e^{L(z)}=z$ だが正の実軸で正則でない
底の積の対数が対数の和 $L(zw)=L(z)+L(w)$ になる(prop-clog-power-basic の 2 は底を固定して指数を足す式で、底の積の式は含まない)主値で $z=w=e^{2\pi i/3}$、$a=\frac12$$(zw)^{1/2}=z^{1/2}w^{1/2}$ が成り立たない
反例の確かめ

1 行目:cor-clog-domains の 1 による。

2 行目:両方の円板は半直線 $\{ti\mid t\ge0\}$ と交わらないので、$\mathbb{C}\setminus\{ti\mid t\ge0\}$ 上の分枝 $L$ を制限した $L_1:=L$ と、右の円板で $L$、左の円板で $L+2\pi i$ とした $L_2$ はどちらも分枝で、$L_2-L_1$ は右で $0$、左で $2\pi i$ である。

3 行目:$\operatorname{Arg}$ の値は $(-\pi,\pi]$ にとる。$x>0$ に上から近づくと虚部は $0$ に、下から近づくと $2\pi$ に近づくので、$L$ は正の実軸で連続でない。$e^{L(z)}=\lvert z\rvert e^{i\operatorname{Arg}z}=z$ は成り立つ。

4 行目:$z=w=e^{2\pi i/3}$ では $\operatorname{Log}z=2\pi i/3$ で $z^{1/2}=w^{1/2}=e^{\pi i/3}$、$z^{1/2}w^{1/2}=e^{2\pi i/3}$ である。$zw=e^{4\pi i/3}=e^{-2\pi i/3}$ なので $\operatorname{Log}(zw)=-2\pi i/3$、$(zw)^{1/2}=e^{-\pi i/3}$ であり、$e^{2\pi i/3}$ と違う(比は $-1$)。$z$・$w$・$zw$ はどれも主値の定義域 $\mathbb{C}\setminus(-\infty,0]$ に入る。

補足

出典

分枝の定義と主値は BMPS25 Definition 3.5.1・3.5.2(p. 51)、連続な分枝が正則で導関数が $1/z$ であることは同 Proposition 3.5.4(p. 52)、主値による冪は同 Definition 3.5.5(p. 52)にある。単連結な領域での対数と冪根の分枝の存在は Leb26c Corollary 4.3.4・4.3.5(pp. 100–101)、分枝を曲線に沿って追って回転数が整数であることを示す議論は同 Proposition 4.1.2(pp. 94–95)にある。thm-clog-existence の 3 ⇒ 1 の構成は、この追い方を曲線ごとの偏角の連続な選び方で書いたものである。

使い所

  • 回転数と偏角の原理. 閉曲線に沿って $\log$ を追ったときの虚部の変化が $2\pi n(\gamma,0)$ であり、$g'/g$ の積分が $g\circ\gamma$ の回転数を数える(回転数、偏角の原理)。
  • 冪根と平方根. 分枝があれば $z^{1/n}$ の分枝も $e^{L/n}$ としてとれる。逆に円周の上には連続な平方根がない(平方根 の定理「円の上の連続な平方根の非存在」)。
  • 被覆と解析接続. $\exp\colon\mathbb{C}\to\mathbb{C}^\times$ は最も簡単な無限次の被覆で、多価関数を被覆空間の上の 1 価関数とみる考え方の出発点になる(被覆空間、解析接続、Riemann面)。

関連項目

参考文献

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