通過領域と包絡線(swept regions and envelopes)とは、$t$ とともに動く直線などの図形の族 $F(x,y,t)=0$($t\in I$)が少なくとも 1 回は通る点の全体と、族のすべての直線に接する曲線である。点 $(X,Y)$ が通過領域に入ることは、$t$ の方程式 $F(X,Y,t)=0$ が $I$ の中に解をもつことと同値である。族が $t^2+B(x,y)t+C(x,y)=0$($B$、$C$ は 1 次以下の式)の形で $t$ がすべての実数を動くとき、通過領域は判別式 $D=B^2-4C\ge0$ の部分で、各直線は(その上で $B$ が一定でなければ)曲線 $D=0$ とただ 1 点で重解をもって出会う。$t$ の範囲が限られると端の直線が境界に現れ、$y=x^3$ の接線の族のように包絡線が境界にならない族もある。
前提知識: 軌跡の求め方, 解の配置, 判別式(高校数学), 2次関数の最大・最小, 接線・法線と曲線の凹凸
実数 $t$ を 1 つ決めるごとに直線
$$
\ell_t:\ y=2tx-t^2
$$
が 1 本決まる。$t$ をすべての実数にわたって動かすと、直線 $\ell_t$ は平面の中を動く。直線が少なくとも 1 回は通る点の全体を、直線 $\ell_t$ の 通過領域 という。これを 2 通りの方法で求めてみる。
段 1(見方を変える)。点 $(X,Y)$ が通過領域に入るのは、「$(X,Y)$ を通る $\ell_t$ がある」とき、つまり
$$
Y=2tX-t^2
$$
を満たす実数 $t$ があるときである。ここでは $X$、$Y$ を定数とみて、この式を $t$ の方程式として読む。
段 2($t$ の 2 次方程式)。移項すると $t^2-2Xt+Y=0$ である。実数解をもつ条件は、判別式について
$$
\frac D4=X^2-Y\ge0,\qquad\text{つまり}\qquad Y\le X^2
$$
である。
段 3(答え)。通過領域は $y\le x^2$、つまり放物線 $y=x^2$ とその下側である(図 1)。
段 4(2 点で確かめる)。点 $(1,0)$ では $t^2-2t=0$ で $t=0,2$ があり、たとえば $\ell_0$:$y=0$ が $(1,0)$ を通る。点 $(0,1)$ では $t^2+1=0$ で実数解がなく、どの $\ell_t$ も $(0,1)$ を通らない。実際 $1>0^2$ である。
同じ直線 $\ell_t$ の通過領域を、別の見方で求める。
段 1(縦の直線で切る)。$x=X$ を固定する。直線 $\ell_t$ と縦の直線 $x=X$ の交点の $y$ 座標は $2tX-t^2$ である。$t$ を動かしたときにこの値がとる範囲が、通過領域を縦の直線 $x=X$ で切った部分である。
段 2($t$ の 2 次関数の値の範囲)。平方完成すると
$$
2tX-t^2=-(t-X)^2+X^2
$$
で、$t$ がすべての実数を動くとき、最大値は $t=X$ でとる $X^2$、最小値はない(いくらでも小さくなる)。値の範囲は $y\le X^2$ である(2次関数の最大・最小)。
段 3(答え)。$X$ を動かすと、通過領域は $y\le x^2$ である。ex-swp-hs-t と同じ答えになる。
直線 y = 2tx − t² を t = −2, −1.5, …, 2 について描いたもの。直線はすべて放物線 y = x² の下側にあり、それぞれ放物線に接している。通過領域は y ≤ x²(色の付いた部分)
図 1 を見ると、通過領域の境界の放物線 $y=x^2$ に、直線 $\ell_t$ がそれぞれ接しているように見える。微分で確かめる(接線の式は 接線・法線と曲線の凹凸)。
$y=x^2$ を微分すると $y'=2x$ なので、点 $(t,t^2)$ での接線の傾きは $2t$ である。接線の式は
$$
y=2t(x-t)+t^2=2tx-t^2
$$
で、ちょうど $\ell_t$ である。
このように、図形の族のすべてに接する曲線を 包絡線 という。この記事では次の問いに答える。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| $t$ の方程式が実数解をもつ条件 | 通過領域(thm-swp-region の 1) | 和集合 $\bigcup_t C_t$、射影の像 |
| $x$ を固定して $y$ の値の範囲 | 縦の直線での切り口(thm-swp-region の 2) | 関数の値域 |
| $t$ に範囲があるとき(解の配置) | 区間の中に解がある条件 | |
| 判別式 $=0$ の曲線 | 包絡線(thm-swp-envelope) | $F=0$、$\partial F/\partial t=0$ の解(rem-swp-general) |
| 接線の族から曲線を取り戻す | 凸関数は接線の最大値 | Legendre 変換(rem-swp-legendre) |
$x$、$y$、$t$ の式 $F(x,y,t)$ と、実数の集合 $I$(区間など)をとる。$t\in I$ ごとに図形
$$
C_t=\{(x,y): F(x,y,t)=0\}
$$
が決まるとき、$C_t$($t\in I$)を 図形の族 という。$C_t$ のどれか 1 つには属する点の全体
$$
\bigcup_{t\in I}C_t=\{(x,y):\ F(x,y,t)=0\ \text{となる}\ t\in I\ \text{がある}\}
$$
を、この族の 通過領域 という。
「軌跡」は、1 つの点が $t$ とともに動いてできる図形だった(軌跡の求め方)。通過領域は、図形全体が $t$ とともに動いてできる図形である。点ではなく直線や円が動くので、通過領域は面積をもつことが多い。
def-swp-region の族について、点 $(X,Y)$ に対し次が成り立つ。
方針:どちらも通過領域の定義を、$X$、$Y$ を固定して $t$ についての条件として読みかえるだけである。軌跡のときと同じく、2 つの向きを確かめる。
段 1(1 の「ならば」)。$(X,Y)$ が通過領域に入るとする。定義から、ある $t_0\in I$ で $(X,Y)\in C_{t_0}$、つまり $F(X,Y,t_0)=0$ である。よって $t_0$ は方程式 $F(X,Y,t)=0$ の $I$ の中の解である。
段 2(1 の逆)。方程式 $F(X,Y,t)=0$ が $I$ の中に解 $t_0$ をもつとする。$F(X,Y,t_0)=0$ なので $(X,Y)\in C_{t_0}$ で、$(X,Y)$ は通過領域に入る。
段 3(2)。$F(X,Y,t)=Y-g(X,t)$ なので、方程式 $F(X,Y,t)=0$ は $Y=g(X,t)$ である。これが $I$ の中に解 $t$ をもつことは、「$Y$ が $I$ の上での $g(X,t)$ の値のどれかに等しい」、つまり値の範囲に入ることと同じである。1 と合わせて 2 が示された。$\square$
証明は短いが、大事なのはこの証明で使った読みかえである。「$t$ を固定して動く図形を見る」代わりに「点 $(X,Y)$ を固定して、それを通る $t$ があるかを見る」。この読みかえで、通過領域の問題は $t$ の方程式の問題(1)か、$t$ の関数の値の範囲の問題(2)になる。1 は 解の配置 の、2 は 2次関数の最大・最小 の道具で解ける。
$t$ をすべての実数にわたって動かすとき、直線 $\ell_t$:$x\cos t+y\sin t=1$ の通過領域を求める。$\ell_t$ は単位円 $x^2+y^2=1$ の点 $(\cos t,\sin t)$ での接線である(円と直線の位置関係)。
段 1($t$ の方程式)。点 $(X,Y)$ を固定する。$(X,Y)=(0,0)$ なら左辺は $0$ で、方程式は成り立たない。$(X,Y)\ne(0,0)$ なら、$\rho=\sqrt{X^2+Y^2}>0$ とおき、$X=\rho\cos\alpha$、$Y=\rho\sin\alpha$ となる $\alpha$ をとると、三角関数の合成により
$$
X\cos t+Y\sin t=\rho(\cos\alpha\cos t+\sin\alpha\sin t)=\rho\cos(t-\alpha)
$$
である(加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く)。
段 2(解をもつ条件)。方程式は $\cos(t-\alpha)=\dfrac1\rho$ で、$\cos$ の値の範囲は $-1$ 以上 $1$ 以下なので、実数解 $t$ があることは $\dfrac1\rho\le1$、つまり $\rho\ge1$ と同値である。
段 3(答え)。通過領域は $x^2+y^2\ge1$、つまり単位円とその外側である。たとえば $(2,0)$ は $\cos t=\dfrac12$、$t=\dfrac\pi3$ の接線 $\dfrac12x+\dfrac{\sqrt3}2y=1$ の上にある($1+0=1$)。境界の単位円には、族のすべての直線が接している。
段 4(通る直線の本数)。$\rho>1$ なら $\cos(t-\alpha)=\dfrac1\rho$ は $0\le t-\alpha<2\pi$ の範囲に解を 2 つもつので、円の外の点を通る接線は 2 本である。その 2 つの接点を結ぶ直線は $X x+Y y=1$ で、点 $(X,Y)$ の極線である(円の接線と極線)。
$t$ が区間 $I$ の中だけを動くときは、thm-swp-region の 1 の「$I$ の中に解をもつ」を調べる必要がある。判別式だけでは足りない。
ex-swp-hs-t の直線 $\ell_t$:$y=2tx-t^2$ で、$t$ を $0\le t\le1$ に限ったときの通過領域を、thm-swp-region の 2($x$ を固定する方法)で求める。
段 1(関数)。$x=X$ を固定し、$h(t)=2tX-t^2=-(t-X)^2+X^2$($0\le t\le1$)の値の範囲を求める。$h$ は上に凸の 2 次関数で、軸は $t=X$ である。区間の両端の値は $h(0)=0$、$h(1)=2X-1$ である。
段 2(最大値)。軸が区間の中にある($0\le X\le1$)なら、最大値は頂点の値 $X^2$ である。軸が区間の左($X<0$)なら、区間で $h$ は減少するので最大値は $h(0)=0$、軸が区間の右($X>1$)なら、区間で $h$ は増加するので最大値は $h(1)=2X-1$ である。
段 3(最小値)。上に凸の 2 次関数の閉区間での最小値は、軸から遠いほうの端でとる(2次関数の最大・最小)。つまり $h(0)=0$ と $h(1)=2X-1$ の小さいほうで、$X\le\dfrac12$ なら $2X-1$、$X\ge\dfrac12$ なら $0$ である。
段 4(値の範囲)。$h$ は連続なので、値の範囲は最小値から最大値までのすべての数である。まとめると、通過領域は次のとおりである(図 2)。
| $X$ の範囲 | $Y$ の範囲 |
|---|---|
| $X<0$ | $2X-1\le Y\le0$ |
| $0\le X\le\dfrac12$ | $2X-1\le Y\le X^2$ |
| $\dfrac12\le X\le1$ | $0\le Y\le X^2$ |
| $X>1$ | $0\le Y\le 2X-1$ |
段 5(境界)。境界は、直線 $y=0$($\ell_0$)、直線 $y=2x-1$($\ell_1$)、放物線の弧 $y=x^2$($0\le x\le1$)でできている。$t$ がすべての実数を動くときの境界(放物線全体)とは違い、区間の端の $t=0$、$t=1$ の直線そのものが境界に現れる。
段 6(1 点を $t$ の方程式で確かめる)。点 $\left(-1,-2\right)$ は表の 1 行目から通過領域に入る($-3\le-2\le0$)。$t$ の方程式は $t^2-2Xt+Y=t^2+2t-2=0$ で、解は $t=-1\pm\sqrt3$ である。そのうち $-1+\sqrt3\approx0.73$ は $0\le t\le1$ に入る。点 $\left(-1,\dfrac12\right)$ は通過領域に入らない($\dfrac12>0$)。$t^2+2t+\dfrac12=0$ の解は $t=-1\pm\dfrac1{\sqrt2}$ で、どちらも負である。
t を 0 ≦ t ≦ 1 に限ったときの直線 y = 2tx − t² の通過領域。境界は 2 本の直線 y = 0(t = 0)、y = 2x − 1(t = 1)と、放物線の弧 y = x²(0 ≦ x ≦ 1)からなる
次の例では、thm-swp-region の 1 の方法を使い、区間の中に解があるかを 解の配置 で調べる。
$0< t<1$ に対して、$x$ 切片が $t$、$y$ 切片が $1-t$ の直線
$$
\ell_t:\ \frac xt+\frac y{1-t}=1
$$
の通過領域を求める。
段 1($t$ の方程式)。両辺に $t(1-t)$($0< t<1$ なので正)を掛けると $(1-t)x+ty=t(1-t)$ で、展開して $t$ について整理すると
$$
h(t)=t^2+(y-x-1)t+x=0
$$
となる。点 $(X,Y)$ が通過領域に入るのは、$h(t)=t^2+(Y-X-1)t+X=0$ が $0< t<1$ に解をもつときである(thm-swp-region の 1)。区間の端の値は $h(0)=X$、$h(1)=1+Y-X-1+X=Y$ である。
段 2($X$、$Y$ の符号が逆のとき)。$XY<0$ なら $h(0)$ と $h(1)$ の符号が逆で、$h$ は連続なので $0< t<1$ に解がある(中間値の定理。解の配置)。第 2 象限と第 4 象限の点はすべて通過領域に入る。
段 3($X<0$ かつ $Y<0$ のとき)。$h(0)<0$、$h(1)<0$ である。$h$ は下に凸の 2 次関数なので、$0\le t\le1$ で $h(t)$ は両端の値の大きいほう以下、つまり負で、解はない(下に凸の関数の区間での値は、両端の値を結ぶ線分より下にある)。第 3 象限の点は通過領域に入らない。
段 4($X>0$ かつ $Y>0$ のとき)。$h(0)>0$、$h(1)>0$ なので、$0< t<1$ に解があるのは、2 つの解がともにこの区間の中にあるときで、その条件は「判別式 $\ge0$」かつ「軸が区間の中」である(解の配置 の、2 つの解がともに区間の中にある条件)。軸は $t=\dfrac{X+1-Y}2$ なので、軸の条件は $0< X+1-Y<2$、つまり $|X-Y|<1$ である。判別式の条件は $(X+1-Y)^2\ge4X$ で、軸の条件から $X+1-Y>0$ なので、両辺の正の平方根をとって
$$
X+1-Y\ge2\sqrt X,\qquad\text{つまり}\qquad Y\le(1-\sqrt X)^2
$$
である。$\sqrt X\le1$ なら、これは $\sqrt Y\le1-\sqrt X$、つまり $\sqrt X+\sqrt Y\le1$ である。$\sqrt X>1$ なら、これは $\sqrt Y\le\sqrt X-1$ となるが、そのとき $X-Y=(\sqrt X-\sqrt Y)(\sqrt X+\sqrt Y)\ge1\cdot(\sqrt X+\sqrt Y)>1$ となって軸の条件に反する。逆に $\sqrt X+\sqrt Y\le1$ なら $|X-Y|=|\sqrt X-\sqrt Y|(\sqrt X+\sqrt Y)\le|\sqrt X-\sqrt Y|<1$ で軸の条件も満たす($\sqrt X$、$\sqrt Y$ はどちらも正で $1$ 未満なので、その差の絶対値は $1$ 未満)。よって第 1 象限では、通過領域は $\sqrt x+\sqrt y\le1$ の部分である。
段 5(座標軸の上)。$X=0$ なら $h(t)=t(t+Y-1)$ で、解は $0$ と $1-Y$ である。$0<1-Y<1$、つまり $0< Y<1$ のときだけ区間に解がある。$Y=0$ なら $h(t)=t^2-(X+1)t+X=(t-1)(t-X)$ で、$0< X<1$ のときだけ区間に解がある。
段 6(答え)。通過領域は、第 2 象限と第 4 象限の全体、第 1 象限の $\sqrt x+\sqrt y\le1$ の部分、座標軸の上の $0< y<1$($x=0$)と $0< x<1$($y=0$)の部分を合わせたものである(図 3)。
段 7(数で確かめる)。点 $\left(\dfrac19,\dfrac19\right)$($\dfrac13+\dfrac13<1$)では $h(t)=t^2-t+\dfrac19$ で、解は $t=\dfrac12\pm\dfrac{\sqrt5}6\approx0.127,\ 0.873$ とどちらも区間の中にある。点 $\left(\dfrac14,\dfrac14\right)$($\dfrac12+\dfrac12=1$)では $h(t)=t^2-t+\dfrac14=\left(t-\dfrac12\right)^2$ で、重解 $t=\dfrac12$ である。第 2 象限の点 $(-1,1)$ では $h(t)=t^2+t-1$ で、解 $t=\dfrac{-1+\sqrt5}2\approx0.618$ が区間の中にある。
x 切片 t、y 切片 1 − t の直線(t = 0.1, …, 0.9)と、その通過領域(色の付いた部分)。第 1 象限での境界は曲線 √x + √y = 1 で、各直線はこの曲線に接している
ex-swp-ladder の段 7 で、境界の上の点 $\left(\dfrac14,\dfrac14\right)$ では $t$ の方程式が重解をもった。第 1 象限の境界の内側($\sqrt x+\sqrt y<1$)の点では $0< t<1$ に異なる 2 つの解、つまり 2 本の直線が通り、境界の上では 2 本が重なって 1 本になる(第 2・4 象限の点では $0< t<1$ の解は 1 つだけである)。この「重解」が包絡線の正体である。
直線の族 $\ell_t$($t\in I$)と、微分できる関数 $\varphi$ のグラフ $E$:$y=\varphi(x)$($x\in J$、$J$ は区間)を考える。次の 2 つが成り立つとき、$E$ を族 $\ell_t$ の 包絡線 という。
包絡線は「族のすべての直線に接し、すべての点で族のどれかに接する曲線」である。ex-swp-hs-t の放物線 $y=x^2$、ex-swp-circle の単位円(こちらは関数のグラフではないが、上半分と下半分に分ければ同じ意味で接している)がその例である。
直線の族が「$t$ の 2 次式 $=0$」の形をしているとき、包絡線の候補は判別式から読み取れる。
$x$、$y$ の 1 次以下の式 $B(x,y)$、$C(x,y)$ をとり、実数 $t$ ごとに
$$
\ell_t:\ t^2+B(x,y)\,t+C(x,y)=0
$$
が直線を表すとする。$D(x,y)=B(x,y)^2-4C(x,y)$ とおく。
方針:1 は thm-swp-region の 1 と 2 次方程式の判別式である。2 は、$\ell_s$ の上では $C=-s^2-Bs$ と書けることを $D$ に代入する。3 は、2 の式で 1 次式 $B+2s$ が $0$ になる点を数える。
段 1(1)。点 $(X,Y)$ を固定すると、$t^2+B(X,Y)t+C(X,Y)=0$ は $t$ の 2 次方程式で、係数は実数である。実数解をもつことは、判別式 $B(X,Y)^2-4C(X,Y)=D(X,Y)\ge0$ と同値である。thm-swp-region の 1 により、これが通過領域の条件である。
段 2(2)。点 $(x,y)$ が $\ell_s$ の上にあるとすると、$s^2+Bs+C=0$ なので $C=-s^2-Bs$ である($B$、$C$ はこの点での値)。$D$ に代入すると
$$
D=B^2-4(-s^2-Bs)=B^2+4Bs+4s^2=(B+2s)^2
$$
である。実数の 2 乗なので $D\ge0$ である。
段 3(3)。$\ell_s$ の上の点を、1 点 $P_0$ と方向ベクトル $v$ を使って $P_0+uv$($u$ は実数)と表す。$B$ は 1 次以下の式なので、$B(P_0+uv)=B(P_0)+cu$ の形の $u$ の 1 次以下の式になる($c$ は定数)。$B$ が $\ell_s$ の上で一定でないことは $c\ne0$ と同じである。このとき段 2 から
$$
D(P_0+uv)=\bigl(B(P_0)+2s+cu\bigr)^2=c^2\left(u+\frac{B(P_0)+2s}c\right)^2
$$
で、$D=0$ となるのは $u=-\dfrac{B(P_0)+2s}c$ のただ 1 つ、つまり $B=-2s$ となる点ただ 1 つであり、そこで重解をもつ。$\square$
2 と 3 は、「直線 $\ell_s$ は領域 $D\ge0$ の中にあり、境界の曲線 $D=0$ とちょうど 1 点で、重解をもって出会う」ことを言っている。$B$、$C$ が 1 次式なので $D=B^2-4C$ の 2 次の部分は $B$ の 1 次の部分の 2 乗で、曲線 $D=0$ は放物線(または退化したもの)になる。放物線と、軸に平行でない直線では、連立して重解をもつことと接することが同じになる。この記事ではそれを一般には示さず、次の 2 つの例で、接することを微分で確かめる(曲線の接線は 接線・法線と曲線の凹凸 で扱う)。
ex-swp-hs-t の $\ell_t$:$t^2-2xt+y=0$ では $B=-2x$、$C=y$ で
$$
D=4x^2-4y=4(x^2-y)
$$
である。
(1) thm-swp-envelope の 1 から通過領域は $x^2-y\ge0$、つまり $y\le x^2$ で、ex-swp-hs-t と一致する。
(2) $\ell_s$ の上で $D=0$ となる点は $B=-2s$、つまり $-2x=-2s$、$x=s$ の点で、$\ell_s$ の式から $y=2s\cdot s-s^2=s^2$、点は $(s,s^2)$ である。$\ell_s$ の上では $y=2sx-s^2$ なので $D=4(x^2-2sx+s^2)=4(x-s)^2$ で、たしかに $x=s$ で重解をもつ。
(3) 曲線 $D=0$ は $y=x^2$ で、点 $(s,s^2)$ での接線の傾きは $2s$、接線は $y=2s(x-s)+s^2=2sx-s^2$、つまり $\ell_s$ である。$s$ はすべての実数を動くので、$y=x^2$ のすべての点が接点になる。$y=x^2$ は族 $\ell_t$ の包絡線である。
ex-swp-ladder の $\ell_t$:$t^2+(y-x-1)t+x=0$($0< t<1$)では $B=y-x-1$、$C=x$ で
$$
D=(y-x-1)^2-4x
$$
である。
段 1(接点)。$\ell_s$ の上で $D=0$ となる点は $B=-2s$ の点である。点 $(s^2,(1-s)^2)$ を確かめると、$B=(1-s)^2-s^2-1=1-2s+s^2-s^2-1=-2s$ で、$\ell_s$ の式 $(1-s)x+sy=s(1-s)$ の左辺は $(1-s)s^2+s(1-s)^2=s(1-s)\{s+(1-s)\}=s(1-s)$ で成り立つ。$\ell_s$ の上で $B$ は一定でない($\ell_s$ の方向ベクトル $(s,-(1-s))$ の向きに進むと、$B=y-x-1$ は $-(1-s)-s=-1$ ずつ変わる)ので、thm-swp-envelope の 3 により、接点はこの 1 点だけである。
段 2(曲線)。$x=s^2$、$y=(1-s)^2$($0< s<1$)から $\sqrt x=s$、$\sqrt y=1-s$ なので、接点は曲線 $\sqrt x+\sqrt y=1$、つまり $y=(1-\sqrt x)^2$($0< x<1$)の上を動く。
段 3(接することを微分で確かめる)。$\varphi(x)=(1-\sqrt x)^2$ とすると $\varphi'(x)=2(1-\sqrt x)\cdot\left(-\dfrac1{2\sqrt x}\right)=-\dfrac{1-\sqrt x}{\sqrt x}$ で、$x=s^2$ では $-\dfrac{1-s}s$ である。直線 $\ell_s$ は $y=(1-s)\left(1-\dfrac xs\right)$ なので傾きは $-\dfrac{1-s}s$ で、一致する。$\ell_s$ は点 $(s^2,(1-s)^2)$ を通り、そこでの接線と傾きが等しいので、その点での接線である。曲線 $\sqrt x+\sqrt y=1$($0< x<1$)は族の包絡線である(図 3)。
段 4(曲線の正体)。$D=0$ を展開すると $x^2-2xy+y^2-2x-2y+1=0$ で、2 次の部分は $(x-y)^2$ である。曲線 $D=0$ は、直線 $y=x$ を軸とする放物線で、$\sqrt x+\sqrt y=1$ はその一部(両方の座標軸に接する弧)である。
通過領域の境界と包絡線の関係は、仮定を外すと崩れる。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| $t$ はすべての実数を動く | 通過領域の境界は包絡線だけでできている | ex-swp-interval |
| $t$ の方程式が 2 次で、重解が起こる | 通過領域に境界(包絡線)がある | ex-swp-parallel |
| 族の直線が共通の点をもたない | 通過領域の境界は包絡線である | ex-swp-pencil |
| $t$ の方程式が 2 次(判別式が負の点がある) | 包絡線は通過領域の境界になる | ex-swp-cubic |
直線 $\ell_t$:$y=x+t$($t$ はすべての実数)。点 $(X,Y)$ を固定すると、$t$ の方程式は $t=Y-X$ で、いつもただ 1 つの解をもつ。通過領域は平面全体で、境界はない。$t$ の方程式が 1 次式なので重解が起こらず、包絡線に向かって直線が集まることもない。
直線 $\ell_t$:$y-1=t(x-2)$($t$ はすべての実数)。点 $(X,Y)$ を固定すると、$t$ の方程式は $(X-2)t=Y-1$ である。
曲線 $y=x^3$ の点 $(t,t^3)$ での接線は、傾きが $3t^2$ なので
$$
\ell_t:\ y=3t^2(x-t)+t^3=3t^2x-2t^3
$$
である。$y=x^3$ は、定義により族 $\ell_t$($t$ はすべての実数)の包絡線である。
通過領域を求める。点 $(X,Y)$ を固定すると、$t$ の方程式は $2t^3-3Xt^2+Y=0$ で、3 次方程式である。$p(t)=2t^3-3Xt^2+Y$ は $t$ を大きくすると限りなく大きく、$t$ を小さくすると限りなく小さくなる(最高次の項 $2t^3$ が他の項より速く大きくなる)ので、正の値と負の値の両方をとり、中間値の定理により実数解をもつ(解の配置)。したがって通過領域は平面全体で、包絡線 $y=x^3$ は通過領域の境界ではない(図 4)。
曲線 $y=x^3$ の上側でも下側でも、点を通る接線がある。たとえば $(0,1)$ を通る接線は $2t^3+1=0$ から $t=-\dfrac1{\sqrt[3]2}$ のもの、$(0,-1)$ を通る接線は $t=\dfrac1{\sqrt[3]2}$ のものである。放物線の場合(ex-swp-envelope-parabola)と違うのは、$y=x^3$ が $x=0$ の前後で凹凸が変わり、接線が曲線の両側に出ることである(3次関数のグラフ)。
曲線 y = x³ と、その上の点での接線 y = 3t²x − 2t³。接線は曲線の両側を通り、通過領域は平面全体になる
図形の族 $F(x,y,t)=0$ の包絡線の点は、一般に
$$
F(x,y,t)=0,\qquad \frac{\partial F}{\partial t}(x,y,t)=0
$$
の 2 つの式から $t$ を消去して得られる曲線(判別曲線)の上にある。$\dfrac{\partial F}{\partial t}$ は、$x$、$y$ を定数とみて $F$ を $t$ で微分したもの(偏微分)である。ただし、判別曲線には包絡線でない部分(族の図形の特異点の軌跡など)が混ざることがあり、正確な条件の述べ方と証明は特異点の理論による(BG92。ここでは証明しない)。
thm-swp-envelope の族では、この 2 つの式が判別式の条件と一致することを確かめられる。$F=t^2+Bt+C$ なので $\dfrac{\partial F}{\partial t}=2t+B=0$ から $t=-\dfrac B2$ で、これを $F$ に代入すると
$$
\frac{B^2}4-\frac{B^2}2+C=-\frac{B^2-4C}4=-\frac D4
$$
となる。よって $t$ を消去した式は $D=0$ である。「$t$ の 2 次方程式が重解をもつ」ことは、「$F$ と $\dfrac{\partial F}{\partial t}$ が同時に $0$ になる」ことにほかならない。
ex-swp-circle の族 $F=x\cos t+y\sin t-1$ でも、$\dfrac{\partial F}{\partial t}=-x\sin t+y\cos t=0$ と $F=0$ を $x$、$y$ について解くと(1 つ目に $\cos t$、2 つ目に $-\sin t$ を掛けて足すと $x=\cos t$、同じように $y=\sin t$)、$(x,y)=(\cos t,\sin t)$ となり、包絡線の単位円が得られる。
ex-swp-hs-slice では、$x$ を固定して $\max_t(2tx-t^2)=x^2$ を計算した。これは「放物線 $y=x^2$ は、その接線の族の上側の包絡線であり、接線たちの最大値として取り戻せる」ことを意味している。
一般に、$f$ が 2 回微分できて $f''\ge0$ なら(このとき $f$ は 凸関数 である)、接線は曲線の下にある。つまりすべての $t$、$x$ について $f(x)\ge f(t)+f'(t)(x-t)$ で、等号は $t=x$ のとき成り立つ(接線・法線と曲線の凹凸)。よって
$$
f(x)=\max_t\bigl(f(t)+f'(t)(x-t)\bigr)
$$
である。接線を傾き $p=f'(t)$ で表すと $y=px-f^*(p)$ の形になり、切片を決める関数 $f^*(p)=\sup_x\bigl(px-f(x)\bigr)$ を $f$ の Legendre 変換(共役関数)という。凸関数 $f$ は(適当な条件のもとで)$f^*$ の Legendre 変換として元に戻る(BV04 §3.3.2。ここでは証明しない)。$f(x)=x^2$ なら $f^*(p)=\sup_x(px-x^2)=\dfrac{p^2}4$ で、傾き $p=2t$ の接線は $y=px-\dfrac{p^2}4=2tx-t^2$、つまり $\ell_t$ である。「接線の族から曲線を取り戻す」ことは、力学や熱力学、最適化で基本的な道具になっている。
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