独立性(確率論)

同義語:independence (probability)stochastic independence

概要

独立性(確率論)(independence)とは、事象 $A,B$ について $P(A\cap B)=P(A)P(B)$ が成り立つこと、すなわち一方が起こったと知っても他方の確率が変わらないことである。事象の族が互いに独立であるとは、有限個を選んだどの部分族でも共通部分の確率が確率の積になることをいい、どの 2 つも独立(対ごとに独立)であることより強い。互いに独立な事象は補事象に取り替えても互いに独立なので、「どれも起こらない確率」を確率の積で計算できる。独立な試行は確率空間の積で表され、その各成分は互いに独立な確率変数になる。確率が正の排反な 2 事象は独立でなく、独立性は確率についての等式であって因果関係の有無とは別のものである。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 確率空間, 条件付き確率, 直積集合

定義

区別のつくさいころ 2 個(赤と青)を振る。「赤の目が偶数」という事象を $A$、「目の和が 7」という事象を $B$ とする。36 通りの目の組が同じ確率で出るとすると、$P(A)=\frac{18}{36}=\frac12$、$P(B)=\frac6{36}=\frac16$ で、両方が起こるのは $(2,5),(4,3),(6,1)$ の 3 通りなので
$$ P(A\cap B)=\frac3{36}=\frac1{12}=\frac12\cdot\frac16=P(A)\,P(B) $$
である。赤が偶数だと知っても、和が 7 になる確率は $\frac16$ のまま変わらない。このように、両方が起こる確率がそれぞれの確率の積になるとき、2 つの事象は独立であるという。一方、「少なくとも一方が 4」という事象 $C$ では $P(C)=\frac{11}{36}$、$P(C\cap B)=\frac2{36}$ で、$\frac2{36}\ne\frac{11}{36}\cdot\frac16$ なので $C$ と $B$ は独立でない。
3 つ以上の事象では注意が要る。公平な硬貨を 2 回投げ、「1 回目が表」を $A_1$、「2 回目が表」を $A_2$、「2 回の結果が同じ」を $A_3$ とする。4 通りの結果が同じ確率なら、どの事象も確率 $\frac12$、どの 2 つの共通部分も 1 通りで確率 $\frac14$ なので、どの 2 つも独立である。しかし 3 つすべてが起こるのは(表, 表)の 1 通りで、その確率 $\frac14$ は $\frac12\cdot\frac12\cdot\frac12=\frac18$ と異なる。1 回目と 2 回目がともに表なら、結果が同じになることは確定しているからである。「どの 2 つも独立」は「全体として独立」より弱い。
本記事の「独立性」は確率論の概念である。線形独立(ベクトルの 1 次独立)や、数理論理学で連続体仮説などの命題が公理系から独立であること(連続体仮説)とは別の概念である。
以下、確率空間 $(\Omega,\mathcal{F},P)$ を 1 つ固定し、事象はすべて $\mathcal{F}$ の元とする(有限または可算の標本空間で、すべての部分集合を事象とする離散確率空間の場合を念頭に置いてよい)。

2 つの事象の独立性

事象 $A,B$ が
$$ P(A\cap B)=P(A)\,P(B) $$
を満たすとき、$A$ と $B$ は独立(independent)であるという。独立でないとき、従属であるという。

この定義は 条件付き確率 の記事の定義「事象の独立性」と同じものである。同記事の命題「独立性と条件付き確率」により、$P(B)>0$ なら、$A$ と $B$ が独立であることと $P(A\mid B)=P(A)$ は同値である。定義の式は $A$ と $B$ について対称であり、$P(B)=0$ の場合も含めて使える点で、条件付き確率による言い換えより扱いやすい。

事象の族の独立性

$I$ を空でない添字の集合とし、$\{A_i\}_{i\in I}$ を事象の族とする。

  1. 空でない有限部分集合 $J\subset I$ のすべてについて
    $$ P\Bigl(\bigcap_{j\in J}A_j\Bigr)=\prod_{j\in J}P(A_j) $$
    が成り立つとき、$\{A_i\}_{i\in I}$ は互いに独立(mutually independent)である、または単に独立であるという。
  2. $i\ne j$ となるすべての $i,j\in I$ について $A_i$ と $A_j$ が独立であるとき、$\{A_i\}_{i\in I}$ は対ごとに独立(pairwise independent)であるという。

互いに独立なら、$J$ として 2 元集合をとれば対ごとに独立である。逆は成り立たない(冒頭の硬貨 2 回の例、ex-indep-pairwise-not-mutual)。$I=\{1,\dots,n\}$ のとき、互いに独立であるための条件は、$|J|\geq2$ となる $2^n-n-1$ 個の等式である($|J|=1$ の等式は自明に成り立つ)。$I$ が無限集合のときは、すべての有限部分族が互いに独立であることを互いに独立の定義とする。この定義は Sho08 §8.2(pp. 217–218)にあり、同書は有限族について述べている。
事象の独立性は、確率変数の独立性に拡がる。確率変数は、離散確率空間では $\Omega$ 上の実数値関数である(期待値 の記事の定義「確率変数と期待値」)。

確率変数の独立性

$(\Omega,p)$ を離散確率空間とし、$X_1,\dots,X_n$ を $\Omega$ 上の確率変数とする。$X_i$ のとる値の集合を $V_i:=X_i(\Omega)$ とする。すべての $x_1\in V_1,\dots,x_n\in V_n$ について、事象の族 $\{X_1=x_1\},\dots,\{X_n=x_n\}$ が互いに独立であるとき、$X_1,\dots,X_n$ は互いに独立であるという。どの 2 つ $X_i,X_j$($i\ne j$)についてもこの条件が成り立つとき、対ごとに独立であるという。

$n=2$ の場合は 期待値 の記事の定義「確率変数の独立性」と同じである(値をとらない $x$ では両辺が $0$ になるので、すべての実数 $x,y$ について述べても同じことである)。一般の確率空間では、値 $x_i$ の代わりにBorel集合 $B_i$ を使い、事象 $\{X_i\in B_i\}$ の族が互いに独立であることで定める。確率変数の族の独立性は Sho08 §8.3 の式 (8.13)(p. 225)にある。

直感

$A$ と $B$ が独立であるとは、$B$ が起こったかどうかを知っても $A$ の起こりやすさの見積もりが変わらない、ということである。互いに影響しない 2 つの試行(別々のさいころ、別々の硬貨投げ)に関する事象は、ふつう独立になるように確率空間を作る(thm-indep-product)。ただし独立性は確率 $P$ についての等式であり、因果関係の有無そのものではない。同じ試行に関する事象でも、冒頭の「赤が偶数」と「和が 7」のように、確率がたまたま積になれば独立である。
独立性は、確率を「掛け算で求めてよい」ことの保証である。互いに独立な事象なら、すべてが起こる確率は確率の積であり、補事象に取り替えても積の形が保たれる(thm-indep-complement)ので、「どれも起こらない確率」「少なくとも 1 つ起こる確率」も積で計算できる(cor-indep-at-least-one)。

例と反例

確率 0 と確率 1 の事象

$P(A)=0$ ならば、すべての事象 $B$ について $A\cap B\subset A$ から $0\leq P(A\cap B)\leq P(A)=0$ なので、$P(A\cap B)=0=P(A)P(B)$ となり、$A$ と $B$ は独立である。$P(A)=1$ ならば、補集合 $\Omega\setminus A$ の確率が $0$ なので、$P(B)=P(A\cap B)+P(B\setminus A)$ と $0\leq P(B\setminus A)\leq P(\Omega\setminus A)=0$ から $P(A\cap B)=P(B)=P(A)P(B)$ となり、やはり独立である。特に $\emptyset$ と $\Omega$ はすべての事象と独立である。

反例:対ごとに独立だが互いに独立でない事象

冒頭の硬貨 2 回の例を確かめる。$\Omega=\{\mathrm{HH},\mathrm{HT},\mathrm{TH},\mathrm{TT}\}$(H が表、T が裏、1 文字目が 1 回目)に一様な確率を入れ、$A_1=\{\mathrm{HH},\mathrm{HT}\}$、$A_2=\{\mathrm{HH},\mathrm{TH}\}$、$A_3=\{\mathrm{HH},\mathrm{TT}\}$ とする。各事象は 2 元なので確率 $\frac12$ であり、
$$ A_1\cap A_2=A_1\cap A_3=A_2\cap A_3=A_1\cap A_2\cap A_3=\{\mathrm{HH}\} $$
なので、どの共通部分も確率 $\frac14$ である。したがって 3 つの 2 元部分集合 $J$ については $\frac14=\frac12\cdot\frac12$ が成り立ち、族 $\{A_1,A_2,A_3\}$ は対ごとに独立である。しかし $J=\{1,2,3\}$ では $P(A_1\cap A_2\cap A_3)=\frac14\ne\frac18$ なので、互いに独立ではない。この族は「対ごとに独立」という性質を満たすが「互いに独立」という性質を満たさず、「対ごとに独立 $\Rightarrow$ 互いに独立」という含意を破る。硬貨を 3 回投げて「$i$ 回目と $j$ 回目が一致する」という 3 つの事象をとる同種の例が 条件付き確率 の記事と Sho08 Example 8.15(p. 218)にある。

反例:3 つの積の等式だけでは独立にならない

$\Omega=\{1,2,\dots,8\}$ に一様な確率を入れ、$A=B=\{1,2,3,4\}$、$C=\{1,5,6,7\}$ とする。$A\cap B\cap C=\{1\}$ なので
$$ P(A\cap B\cap C)=\frac18=\frac12\cdot\frac12\cdot\frac12=P(A)\,P(B)\,P(C) $$
が成り立つ。しかし $P(A\cap B)=P(A)=\frac12\ne\frac14$ であり、$A$ と $B$ は独立でない($P(A\cap C)=\frac18\ne\frac14$ なので $A$ と $C$ も独立でない)。この族は 3 つ全体の共通部分についての積の等式を満たすが、2 つずつの共通部分についての等式を満たさない。したがって互いに独立であることを確かめるには、全体の等式だけでは足りず、すべての部分族の等式が要る。def-indep-family で「すべての $J$」を課しているのはこのためである。事象ではなく確率変数の場合は、全体の等式だけで十分になる(prop-indep-rv-criterion)。

反例:排反な事象

prop-indep-disjoint により、確率が正の 2 つの事象が排反($A\cap B=\emptyset$)ならば独立でない。たとえばさいころ 1 個で「1 の目」と「2 の目」はどちらも確率 $\frac16$ で排反であり、$P(A\cap B)=0\ne\frac1{36}$ である。この 2 事象は「互いに交わらない」という性質を満たすが「独立」という性質を満たさない。日常語の「無関係」から「排反」と「独立」を混同しやすいが、排反な事象の一方が起これば他方は起こらないと確定するので、むしろ強く依存している。

素因数で割り切れる事象と Euler の $\varphi$ 関数

$n\geq2$ を整数とし、$n$ を割り切る相異なる素数を $p_1,\dots,p_r$ とする。$\Omega=\{0,1,\dots,n-1\}$ に一様な確率を入れ、$A_i$ を「$p_i$ で割り切れる」という事象とする。空でない $J\subset\{1,\dots,r\}$ について $d_J:=\prod_{j\in J}p_j$ とおくと、$\bigcap_{j\in J}A_j$ は $d_J$ の倍数の集合である(相異なる素数の積で割り切れることと、それぞれの素数で割り切れることは同値)。$d_J$ は $n$ を割り切るので、$\Omega$ の中の $d_J$ の倍数はちょうど $n/d_J$ 個あり、
$$ P\Bigl(\bigcap_{j\in J}A_j\Bigr)=\frac1{d_J}=\prod_{j\in J}\frac1{p_j}=\prod_{j\in J}P(A_j) $$
である。よって $A_1,\dots,A_r$ は互いに独立である。$a\in\Omega$ が $n$ と互いに素であることは、どの $A_i$ も起こらないことと同値なので、cor-indep-at-least-one により
$$ \frac{\varphi(n)}n=P\bigl((\Omega\setminus A_1)\cap\cdots\cap(\Omega\setminus A_r)\bigr)=\prod_{i=1}^r\Bigl(1-\frac1{p_i}\Bigr) $$
を得る。ここで $\varphi$ は Eulerのφ関数 である。たとえば $n=12$ なら $12\cdot\frac12\cdot\frac23=4$ で、$12$ と互いに素な $1,5,7,11$ の 4 個と一致する。この論法は Sho08 Exercise 8.11(p. 220)にある。

性質

独立と排反

排反で独立な事象

事象 $A,B$ が互いに交わらず($A\cap B=\emptyset$)、かつ独立ならば、$P(A)=0$ または $P(B)=0$ である。

積が 0 になることから

独立性と $A\cap B=\emptyset$ から $P(A)P(B)=P(A\cap B)=P(\emptyset)=0$ である。実数の積が $0$ なので、どちらかの因子が $0$ である。

補事象への取り替え

補事象に取り替えても独立

事象の族 $\{A_i\}_{i\in I}$ が互いに独立であるとする。各 $i\in I$ について $B_i$ を $A_i$ または $\Omega\setminus A_i$ のどちらかとすると、$\{B_i\}_{i\in I}$ も互いに独立である。特に $A$ と $B$ が独立ならば、$A$ と $\Omega\setminus B$、$\Omega\setminus A$ と $B$、$\Omega\setminus A$ と $\Omega\setminus B$ もそれぞれ独立である。

1 つずつ取り替える

事象 $E$ の補集合を $E^c:=\Omega\setminus E$ と書き、有限集合 $K\subset I$ について $A_K:=\bigcap_{k\in K}A_k$($K=\emptyset$ なら $A_\emptyset:=\Omega$)とおく。
(1 つだけ取り替える場合)$d\in I$ を 1 つ固定し、$A_d$ だけを $A_d^c$ に替えた族 $\{A'_i\}$($A'_d=A_d^c$、$i\ne d$ では $A'_i=A_i$)が互いに独立であることを示す。空でない有限集合 $J\subset I$ をとる。$d\notin J$ なら示すべき等式は元の族の等式そのものである。$d\in J$ なら $K:=J\setminus\{d\}$ とおく。$A_K$ は互いに交わらない $A_d\cap A_K$ と $A_d^c\cap A_K$ の和集合なので、元の族の独立性($K=\emptyset$ のときは $P(\Omega)=1$)を使って
$$ P(A_d^c\cap A_K)=P(A_K)-P(A_d\cap A_K)=\prod_{k\in K}P(A_k)-P(A_d)\prod_{k\in K}P(A_k)=P(A_d^c)\prod_{k\in K}P(A_k) $$
となる。これが $J$ についての等式である。
(一般の場合)空でない有限集合 $J\subset I$ について $P\bigl(\bigcap_{j\in J}B_j\bigr)=\prod_{j\in J}P(B_j)$ を示せばよい。有限族 $\{A_j\}_{j\in J}$ は互いに独立であり、$B_j\ne A_j$ となる $j\in J$ は有限個なので、その各 $j$ について上の「1 つだけ取り替える場合」を順に使えば(各段階で得られる族はまた互いに独立である)、有限族 $\{B_j\}_{j\in J}$ が互いに独立であることが分かる。特に $J$ 全体についての等式が成り立つ。2 つの事象の場合は $I=\{1,2\}$ としたものである。

2 つの事象の場合は 条件付き確率 の記事の命題「独立性と条件付き確率」の後半と同じである。族の場合は Sho08 Theorem 8.2・8.3(pp. 218–219)にある。ここで「互いに独立」を仮定していることは重要で、証明の中で $A_d\cap A_K$ の確率を積に分けるのに、$K\cup\{d\}$ というさまざまな大きさの部分族の等式を使っている。

どれも起こらない確率と少なくとも 1 つ起こる確率

事象 $A_1,\dots,A_n$ が互いに独立ならば
$$ P\Bigl(\bigcap_{i=1}^n(\Omega\setminus A_i)\Bigr)=\prod_{i=1}^n\bigl(1-P(A_i)\bigr),\qquad P\Bigl(\bigcup_{i=1}^nA_i\Bigr)=1-\prod_{i=1}^n\bigl(1-P(A_i)\bigr) $$
である。

補事象の族に積の等式を使う

thm-indep-complement により $\Omega\setminus A_1,\dots,\Omega\setminus A_n$ は互いに独立なので、$J=\{1,\dots,n\}$ の等式と $P(\Omega\setminus A_i)=1-P(A_i)$ から前半を得る。$\bigcup_iA_i$ の補集合は $\bigcap_i(\Omega\setminus A_i)$(De Morganの法則)なので、後半は前半から従う。

たとえば、さいころを 4 回振る試行を $\{1,\dots,6\}^4$ 上の一様な確率で表すと、「$i$ 回目に 6 が出る」という 4 つの事象は互いに独立である(thm-indep-product)。よって少なくとも 1 回 6 が出る確率は $1-(5/6)^4=\frac{671}{1296}=0.5177\ldots$ で、$\frac12$ を少し超える。事象が互いに独立でないとき、この計算は使えない。

確率変数の独立性の判定

以下、$(\Omega,p)$ を離散確率空間とし、確率変数 $X_i$ のとる値の集合を $V_i:=X_i(\Omega)$ とする(有限集合または可算集合である)。

同時分布による判定

確率変数 $X_1,\dots,X_n$ が互いに独立であるための必要十分条件は、すべての $x_1\in V_1,\dots,x_n\in V_n$ について
$$ P(X_1=x_1,\ \dots,\ X_n=x_n)=\prod_{i=1}^nP(X_i=x_i) $$
が成り立つことである。ここで左辺は事象 $\{X_1=x_1\}\cap\cdots\cap\{X_n=x_n\}$ の確率である。

1 つの変数について足し上げる

必要性は、def-indep-random-variables で $J=\{1,\dots,n\}$ とした等式である。十分性を示す。空でない $J\subset\{1,\dots,n\}$ と $x_j\in V_j$($j\in J$)について $P\bigl(\bigcap_{j\in J}\{X_j=x_j\}\bigr)=\prod_{j\in J}P(X_j=x_j)$ を示せばよい。$J$ より 1 つ多い添字の集合 $J\cup\{d\}$ でこの形の等式が(その添字のすべての値について)成り立つとき、$J$ でも成り立つことを示せば、$\{1,\dots,n\}$ から添字を 1 つずつ除いてすべての $J$ に達する。事象 $\bigcap_{j\in J}\{X_j=x_j\}$ は、互いに交わらない有限個または可算個の事象 $\bigcap_{j\in J}\{X_j=x_j\}\cap\{X_d=y\}$($y\in V_d$)の和集合なので、可算加法性(確率空間)と $J\cup\{d\}$ での等式により
$$ P\Bigl(\bigcap_{j\in J}\{X_j=x_j\}\Bigr)=\sum_{y\in V_d}P(X_d=y)\prod_{j\in J}P(X_j=x_j)=\prod_{j\in J}P(X_j=x_j) $$
となる。最後の等号は $\sum_{y\in V_d}P(X_d=y)=P(\Omega)=1$ による。

この判定法は Sho08 Theorem 8.7・8.8(pp. 226–227)にある。事象の族では「全体の等式」だけでは独立にならなかった(ex-indep-triple-only)が、確率変数では、とりうる値のすべての組について全体の等式を課すので、足し上げによって部分族の等式が自動的に従う。

指示確率変数の独立性

事象 $A_1,\dots,A_n$ が互いに独立であることと、それらの指示確率変数 $\mathbf{1}_{A_1},\dots,\mathbf{1}_{A_n}$($A_i$ 上で $1$、その外で $0$ をとる確率変数。指示関数)が互いに独立であることは同値である。

値の事象は事象かその補事象

$\{\mathbf{1}_{A_i}=1\}=A_i$、$\{\mathbf{1}_{A_i}=0\}=\Omega\setminus A_i$ である。事象が互いに独立なら、thm-indep-complement により、各 $i$ で $A_i$ か $\Omega\setminus A_i$ を選んだ族はどれも互いに独立であり、これが指示確率変数の独立性である。逆に指示確率変数が互いに独立であるとし、空でない $J$ をとる。ある $j\in J$ で $A_j=\emptyset$ なら、$P\bigl(\bigcap_{j\in J}A_j\bigr)$ と $\prod_{j\in J}P(A_j)$ はどちらも $0$ である。そうでなければ、すべての $j\in J$ で $1\in V_j$ なので、$j\in J$ では値 $1$、それ以外の $i$ では $V_i$ の任意の値を選んだ事象の族が互いに独立であり、その $J$ の部分族の等式が $P\bigl(\bigcap_{j\in J}A_j\bigr)=\prod_{j\in J}P(A_j)$ である。

独立な確率変数の関数

確率変数 $X_1,\dots,X_n$ が互いに独立で、$f_1,\dots,f_n$ が実数値関数($f_i$ は $V_i$ 上で定義されていればよい)ならば、$Y_i:=f_i(X_i)$ とおいた $Y_1,\dots,Y_n$ も互いに独立である。特に、$S_i\subset\mathbb{R}$ について事象 $\{X_1\in S_1\},\dots,\{X_n\in S_n\}$ は互いに独立である。

逆像ごとに足し上げる

$y_i\in Y_i(\Omega)$ をとり、$S'_i:=\{x\in V_i\mid f_i(x)=y_i\}$ とおく。事象 $\{Y_1=y_1,\dots,Y_n=y_n\}$ は、互いに交わらない事象 $\{X_1=x_1,\dots,X_n=x_n\}$($x_i\in S'_i$)の和集合である。prop-indep-rv-criterion により各事象の確率は $\prod_iP(X_i=x_i)$ なので
$$ P(Y_1=y_1,\dots,Y_n=y_n)=\sum_{x_1\in S'_1}\cdots\sum_{x_n\in S'_n}\prod_{i=1}^nP(X_i=x_i)=\prod_{i=1}^n\sum_{x_i\in S'_i}P(X_i=x_i)=\prod_{i=1}^nP(Y_i=y_i) $$
である。2 番目の等号は項が $0$ 以上の多重級数を各変数の和の積に分けたもので、和の順序やまとめ方によらない(Sho08 付録 A7、p. 564)。prop-indep-rv-criterion により $Y_1,\dots,Y_n$ は互いに独立である。後半は $f_i$ を $S_i$ の指示関数にとり、prop-indep-indicator を使えばよい。

この命題は Sho08 Theorem 8.12(pp. 228–229)にある。たとえば $X_1,X_2$ が互いに独立なら $X_1^2$ と $e^{X_2}$ も互いに独立である。一方、2 つ以上の変数をまとめた関数($X_1+X_2$ など)と残りの変数の独立性は、この命題の範囲外である。互いに独立な有限個の確率変数について $E[X_1\cdots X_n]=E[X_1]\cdots E[X_n]$ が成り立つことは、Sho08 の式 (8.22)(p. 235)にある。同書は、2 つの場合(Theorem 8.15、期待値 の記事の命題「独立な確率変数の積の期待値」と同じ主張)から「簡単な帰納法を使って」("using a simple induction argument")導けるとだけ述べており、帰納法の中身は書いていない。この帰納法には、変数をいくつかずつまとめても独立性が保たれること(同書 Theorem 8.9、p. 227)が要ると考えられるが、これは本記事による補足であり、本記事ではこの「まとめ」は証明していない。

積の確率空間による構成

互いに影響しない $n$ 個の試行は、確率空間の積で表す。2 つの場合は 確率空間 の記事の命題「離散確率空間の積」にある。

積の確率空間の座標は互いに独立

$(\Omega_1,p_1),\dots,(\Omega_n,p_n)$ を離散確率空間とし、$\Omega:=\Omega_1\times\cdots\times\Omega_n$ 上に
$$ p(\omega_1,\dots,\omega_n):=p_1(\omega_1)\cdots p_n(\omega_n) $$
と定める。このとき $(\Omega,p)$ は離散確率空間であり、第 $i$ 成分を取り出す写像 $\pi_i\colon\Omega\to\Omega_i$ について次が成り立つ($P_i$ は $(\Omega_i,p_i)$ の確率)。

  1. すべての $E_i\subset\Omega_i$ について $P(\pi_i\in E_i)=P_i(E_i)$ である。
  2. $E_1\subset\Omega_1,\dots,E_n\subset\Omega_n$ を任意にとると、事象 $\{\pi_1\in E_1\},\dots,\{\pi_n\in E_n\}$ は互いに独立である。
  3. $\Omega_i\subset\mathbb{R}$ のとき、確率変数 $\pi_1,\dots,\pi_n$ は互いに独立である。
同時分布が積になることを確かめる

$\Omega$ は有限集合または可算集合である(有限個の可算集合の直積は可算)。項が $0$ 以上の多重級数は各変数ごとの和の積に分けられる(Sho08 付録 A7、p. 564)ので、$F_1\subset\Omega_1,\dots,F_n\subset\Omega_n$ について
$$ P(F_1\times\cdots\times F_n)=\sum_{\omega_1\in F_1}\cdots\sum_{\omega_n\in F_n}p_1(\omega_1)\cdots p_n(\omega_n)=P_1(F_1)\cdots P_n(F_n) $$
である。$F_i=\Omega_i$(すべての $i$)とおけば $\sum_{\omega\in\Omega}p(\omega)=1$ なので、$(\Omega,p)$ は離散確率空間である。
1:$\{\pi_i\in E_i\}=\Omega_1\times\cdots\times E_i\times\cdots\times\Omega_n$ なので、上の式で $F_i=E_i$、それ以外を $\Omega_k$ とすれば $P(\pi_i\in E_i)=P_i(E_i)$ である。
2:空でない $J\subset\{1,\dots,n\}$ について、$\bigcap_{j\in J}\{\pi_j\in E_j\}$ は、$j\in J$ では $F_j=E_j$、$k\notin J$ では $F_k=\Omega_k$ とした $F_1\times\cdots\times F_n$ に等しい。上の式と 1 により、その確率は $\prod_{j\in J}P_j(E_j)=\prod_{j\in J}P(\pi_j\in E_j)$ である。
3:各 $\Omega_k$ は空でないので $\pi_i$ は全射であり、$\pi_i$ のとる値の集合は $\Omega_i$ である。2 で $E_i$ を 1 点集合 $\{x_i\}$($x_i\in\Omega_i$)にとれば、$J=\{1,\dots,n\}$ の等式は prop-indep-rv-criterion の条件そのものである。

この定理は Sho08 Theorem 8.11(p. 228)と、積の分布を定める同書 §8.1(pp. 211–212)にある。1 は「1 つ目の試行だけに関する事象の確率は、積の確率空間で考えても変わらない」こと、2 は「別々の試行に関する事象は互いに独立になる」ことを表す。したがって、有限個の確率分布(有限または可算の値の集合 $\Omega_i\subset\mathbb{R}$ と確率 $p_i$)を任意に与えると、それぞれがその分布に従う互いに独立な確率変数 $\pi_1,\dots,\pi_n$ が存在する。冒頭のさいころ 2 個は一様な $\{1,\dots,6\}$ の 2 個の積であり、「赤が偶数」と「青が 3」は 2 により独立である(「和が 7」は両方のさいころに関する事象なので、冒頭の独立性は 2 からではなく計算で確かめた)。

独立な試行の繰り返し

表の出る確率が $q$($0\leq q\leq1$)の硬貨を $n$ 回投げる試行を、$\Omega_i=\{0,1\}$、$p_i(1)=q$、$p_i(0)=1-q$ の $n$ 個の積で表す($1$ が表)。thm-indep-product により「$i$ 回目が表」という $n$ 個の事象は互いに独立で、それぞれの確率は $q$ である。表がちょうど $k$ 回の結果 $\omega$ の確率は $q^k(1-q)^{n-k}$ で、そのような $\omega$ は $\binom nk$ 個あるから、表がちょうど $k$ 回出る確率は
$$ \binom nkq^k(1-q)^{n-k} $$
である(二項係数)。$k$ についての和は二項定理により $(q+(1-q))^n=1$ になる。このように同じ試行を独立に繰り返すことを Bernoulli 試行といい、表の回数の分布を二項分布という(KT17 §10.3、pp. 217–218、Sho08 Example 8.8・8.18、p. 212・240–241)。公平な硬貨($q=\frac12$)を 10 回投げて表がちょうど 5 回出る確率は $\binom{10}5/2^{10}=\frac{252}{1024}=0.246\ldots$ である。

無限個の独立な事象

離散確率空間には無限個の独立な公平な事象がない

離散確率空間 $(\Omega,p)$ には、互いに独立で、どれも確率 $\frac12$ である事象の無限列 $A_1,A_2,\ldots$ は存在しない。

1 点の確率が 0 になることを示す

そのような列があったとする。$\omega\in\Omega$ を任意にとり、$\omega\in A_i$ なら $B_i:=A_i$、そうでなければ $B_i:=\Omega\setminus A_i$ とおく。thm-indep-complement により $B_1,B_2,\ldots$ は互いに独立で、どれも確率 $\frac12$ である。$\omega\in B_1\cap\cdots\cap B_m$ なので、すべての $m$ について
$$ p(\omega)\leq P(B_1\cap\cdots\cap B_m)=2^{-m} $$
であり、$p(\omega)=0$ である。$\omega$ は任意なので $\sum_{\omega\in\Omega}p(\omega)=0$ となり、これが $1$ であることに反する。

したがって「公平な硬貨を限りなく投げ続ける」試行は、有限または可算の標本空間では表せない。確率空間 の記事の区間 $[0,1]$ 上の一様な確率のように、非可算な標本空間をもつ確率空間が必要になる(上の命題はこの必要性だけを示している)。大数の法則 のうち、回数を限りなく増やした極限の振る舞いを述べる強い形は、このような確率空間の上で述べられる。

補足

独立性は確率に依存する

同じ標本空間の同じ事象 $A,B$ でも、確率を替えれば独立性は変わりうる。さいころ 1 個で $\Omega=\{1,\dots,6\}$、「奇数の目」を $A=\{1,3,5\}$、「3 以上の目」を $B=\{3,4,5,6\}$ とする。公平なさいころなら $P(A)=\frac12$、$P(B)=\frac23$、$P(A\cap B)=P(\{3,5\})=\frac13=\frac12\cdot\frac23$ で独立である(Sho08 Example 8.10、p. 214)。ところが 1 の目が確率 $\frac12$、ほかの目が確率 $\frac1{10}$ で出る偏ったさいころでは、$P(A)=\frac7{10}$、$P(B)=\frac25$、$P(A\cap B)=\frac15$ で、$\frac15\ne\frac7{10}\cdot\frac25=\frac7{25}$ なので独立でない。独立性は事象の意味だけでは決まらず、確率 $P$ についての等式で決まる。

分散と大数の法則への接続

確率変数が対ごとに独立なら、和の分散は分散の和になる。これは独立性が「互いに独立」でなく「対ごとに独立」で足りる代表的な場面であり、この性質と Chebyshev の不等式から 大数の法則 の弱い形が導かれる(Sho08 Theorem 8.20、p. 236、式 (8.25)、p. 242)。

関連項目

参考文献

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