Riemannゼータ関数(Riemann zeta function)とは、$\operatorname{Re}s>1$ で級数 $\zeta(s)=\sum_{n\ge1}n^{-s}$ により定まる正則関数と、その $\mathbb{C}\setminus\{1\}$ 上への解析接続のことである。$\operatorname{Re}s>1$ では素数にわたる Euler 積 $\prod_p(1-p^{-s})^{-1}$ に等しく、素因数分解の一意性を解析的に表す。$s=1$ に留数 $1$ の 1 位の極をもち、$s$ と $1-s$ を結ぶ関数等式を満たす。$\zeta(-1)=-1/12$ は級数の和ではなく解析接続の値である。非自明な零点がすべて $\operatorname{Re}s=1/2$ 上にあるという Riemann 予想は未解決である。
自然数の冪の逆数の和 $1+\frac1{2^s}+\frac1{3^s}+\cdots$ は、$s=1$ では発散し(調和級数)、$s=2$ では $\frac{\pi^2}{6}$ になる(Basel問題)。Euler は、この和が素数 $p$ についての積 $\prod_p(1-p^{-s})^{-1}$ に等しいことに気づいた。整数を素因数に分解する仕方がただ 1 通りであること(素因数分解の一意性)が、和と積の等式として表れているのである。Riemann はこの和を複素数 $s$ の関数として扱い、級数が収束しない範囲にまで正則関数として延ばし、その零点の位置が素数の分布を支配することを示した。これが Riemann ゼータ関数である。
Riemann ゼータ関数は、$\operatorname{Re}s>1$ では級数と Euler 積で与えられ、$s=1$ に 1 位の極(留数 $1$)をもつ有理型関数として $\mathbb{C}$ 全体に延び、$s$ と $1-s$ を結ぶ関数等式を満たす。零点は負の偶数(自明な零点)と、帯 $0\leq\operatorname{Re}s\leq1$ の中の零点(非自明な零点)に分かれ、非自明な零点がすべて直線 $\operatorname{Re}s=\frac12$ の上にあるという予想が Riemann 予想である。この記事では、級数と Euler 積、$\operatorname{Re}s>0$ への延長、Möbius 関数との関係を証明し、全平面への延長と関数等式は出典を示して述べる。
以下、複素数 $s$ を $s=\sigma+it$($\sigma,t\in\mathbb{R}$)と書き、正の実数 $x$ に対して $x^{-s}:=e^{-s\log x}$($\log x$ は実数の自然対数)と定める。$\lvert x^{-s}\rvert=e^{-\sigma\log x}=x^{-\sigma}$ である。
$\sigma_0>1$ とする。級数 $\sum_{n=1}^\infty n^{-s}$ は半平面 $\{s\mid\operatorname{Re}s\geq\sigma_0\}$ で絶対かつ一様に収束し、そこで
$$
\left\lvert\sum_{n=1}^\infty n^{-s}\right\rvert\leq\sum_{n=1}^\infty n^{-\sigma_0}\leq\frac{\sigma_0}{\sigma_0-1}
$$
である。級数の和は半平面 $\operatorname{Re}s>1$ 上の正則関数である。
$n\geq2$ なら、$x\mapsto x^{-\sigma_0}$ は減少関数なので $n^{-\sigma_0}\leq\int_{n-1}^nx^{-\sigma_0}\,dx$ であり、
$$
\sum_{n=1}^\infty n^{-\sigma_0}\leq1+\int_1^\infty x^{-\sigma_0}\,dx=1+\frac{1}{\sigma_0-1}=\frac{\sigma_0}{\sigma_0-1}
$$
を得る。$\operatorname{Re}s\geq\sigma_0$ なら $\lvert n^{-s}\rvert=n^{-\operatorname{Re}s}\leq n^{-\sigma_0}$ だから、Weierstrass の優級数判定法(Bec25 Proposition 7.3.7)により級数は $\operatorname{Re}s\geq\sigma_0$ で絶対かつ一様に収束する。各項 $n^{-s}=e^{-s\log n}$ は $\mathbb{C}$ 上の正則関数だから、部分和も正則である。$\operatorname{Re}s>1$ のどの点も、ある $\sigma_0>1$ について半平面 $\operatorname{Re}s>\sigma_0$ に含まれ、そこで正則関数の列が一様収束するので、下の lem-zeta-weierstrass により和は正則である。
$G\subset\mathbb{C}$ を開集合、$f_N$ を $G$ 上の正則関数の列とし、$G$ の各点のある近傍で $f_N$ が関数 $f$ に一様収束するとする。このとき $f$ は $G$ 上正則である。
正則性は局所的な性質なので、$a\in G$ のまわりの開円板 $D$ で、$\bar D\subset G$ かつ $D$ 上で $f_N\to f$ が一様収束するものについて、$f$ が $D$ 上正則であることを示せばよい。一様極限だから $f$ は $D$ 上連続である(Bec25 Proposition 7.3.4)。$D$ 内の区分的に滑らかな閉曲線 $\gamma$ について、Cauchyの積分定理 の記事の定理「円板に対する Cauchy の積分定理」により $\int_\gamma f_N=0$ であり、一様収束だから積分と極限が交換できて(Bec25 Proposition 7.3.6)$\int_\gamma f=\lim_N\int_\gamma f_N=0$ である。Morera の定理(Bec25 Corollary 5.2.1)により $f$ は $D$ 上正則である。
$\operatorname{Re}s>1$ で
$$
\zeta(s):=\sum_{n=1}^\infty\frac1{n^s}=1+\frac1{2^s}+\frac1{3^s}+\cdots
$$
と定める正則関数を、その $\mathbb{C}\setminus\{1\}$ 上への解析接続(thm-zeta-functional-equation)と合わせて Riemann ゼータ関数(Riemann zeta function)という。
解析接続とは、$\operatorname{Re}s>1$ で級数と一致する、より広い連結な開集合の上の正則関数のことである。そのような関数があればただ 1 つに決まる。実際、同じ連結な開集合の上の 2 つの正則関数が空でない開集合 $\{\operatorname{Re}s>1\}$ で一致すれば、一致の定理 により全体で一致する。したがって、級数が収束しない点 $s$(たとえば $s=-1$)での $\zeta(s)$ の値は、級数の和ではなく、この一意な延長の値である。この記事では、延長を $\operatorname{Re}s>0$ まで具体的に構成し(thm-zeta-continuation)、$\mathbb{C}\setminus\{1\}$ への延長と関数等式は Riemann の論文を出典として述べる(thm-zeta-functional-equation)。$\zeta(s)$ は Dirichlet 級数 $\sum_nf(n)n^{-s}$ の最も基本的な例($f(n)=1$ の場合)でもある(Cri24 Definition 24.3.1)。
$\operatorname{Re}s>1$ のとき、$p$ が素数全体を小さい順に動くとして
$$
\zeta(s)=\prod_p\frac1{1-p^{-s}}:=\lim_{P\to\infty}\prod_{p\leq P}\frac1{1-p^{-s}}
$$
が成り立つ。さらに $\operatorname{Re}s>1$ で $\zeta(s)\neq0$ である。
$\sigma=\operatorname{Re}s>1$ とし、$P\geq2$ を固定する。各素数 $p$ について $\lvert p^{-s}\rvert=p^{-\sigma}<1$ だから、等比級数 $\sum_{k\geq0}p^{-ks}$ は絶対収束して $(1-p^{-s})^{-1}$ に等しい。$P$ 以下の有限個の素数についてこれらの級数を掛けると、絶対収束する級数の積は項をどう並べて足しても同じ値になるので(絶対収束 の記事の定理「絶対収束する級数の積」)、
$$
\prod_{p\leq P}\frac1{1-p^{-s}}=\sum_{(k_p)_{p\leq P}}\prod_{p\leq P}p^{-k_ps}=\sum_{n\in A_P}n^{-s}
$$
となる。ここで $A_P$ は、素因数がすべて $P$ 以下である正の整数($1$ を含む)全体で、最後の等号は、$(k_p)_{p\leq P}\mapsto\prod_pp^{k_p}$ が $A_P$ への全単射であること(素因数分解の一意性)による。$n\notin A_P$ なら $n$ は $P$ より大きい素因数をもつので $n>P$ である。よって
$$
\left\lvert\zeta(s)-\prod_{p\leq P}\frac1{1-p^{-s}}\right\rvert=\left\lvert\sum_{n\notin A_P}n^{-s}\right\rvert\leq\sum_{n>P}n^{-\sigma}
$$
で、右辺は収束する級数の尾部だから $P\to\infty$ で $0$ に近づく。これで等式が示された。
$\zeta(s)\neq0$ を示す。同じく $A_P$ を使うと、$\zeta(s)\prod_{p\leq P}(1-p^{-s})$ は $\zeta(s)$ の級数から $P$ 以下のいずれかの素数で割り切れる $n$ の項を取り除くことに当たり、$\zeta(s)\prod_{p\leq P}(1-p^{-s})=\sum_{n\in B_P}n^{-s}$($B_P$ は $P$ 以下の素因数をもたない正の整数全体で、$1\in B_P$)となる。したがって
$$
\left\lvert\zeta(s)\prod_{p\leq P}(1-p^{-s})-1\right\rvert\leq\sum_{n>P}n^{-\sigma}
$$
であり、$P$ を大きくとれば右辺は $1$ より小さいから、左辺の積は $0$ でなく、$\zeta(s)\neq0$ である。
$\zeta(s)\prod_{p\leq P}(1-p^{-s})=\sum_{n\in B_P}n^{-s}$ の確認:$\prod_{p\leq P}(1-p^{-s})=\sum_{d}\mu(d)d^{-s}$($d$ は $P$ 以下の相異なる素数の積全体を動き、$\mu(d)=(-1)^{(\text{素因数の個数})}$)は有限和である。これと絶対収束する $\zeta(s)=\sum_mm^{-s}$ を掛けて $n=dm$ ごとにまとめると、$n$ の係数は $\sum_{d}\mu(d)$($d$ は $n$ の約数で $P$ 以下の相異なる素数の積)である。$n$ の $P$ 以下の素因数が $r$ 個なら、この和は $\sum_{j=0}^r\binom rj(-1)^j$ で、$r=0$ なら $1$、$r\geq1$ なら $(1-1)^r=0$ である。$r=0$ は $n\in B_P$ ということである。
Euler 積は、Riemann が 1859 年の論文の出発点に置いた等式である(Rie59 p. 1)。証明の要点は、$P$ 以下の素数だけの積が「素因数が $P$ 以下の $n$ だけの和」になり、$P$ を大きくすると取りこぼしが級数の尾部で押さえられることにある。この議論は Cri24 Fact 24.5.5 の Möbius 関数の Dirichlet 級数についての証明と同じ形である。
実数 $s>1$ を考える。任意の $N$ について $\zeta(s)\geq\sum_{n\leq N}n^{-s}$ で、$s\to1+0$ とすると右辺は $\sum_{n\leq N}\frac1n$ に近づく。調和級数は発散するので、$s\to1+0$ のとき $\zeta(s)\to+\infty$ である。
(i):素数が有限個なら、thm-zeta-euler-product の積は有限積で、$s\to1+0$ のとき有限の値 $\prod_p(1-p^{-1})^{-1}$ に近づくので、$\zeta(s)\to+\infty$ に反する。
(ii):$s>1$ で各因子は正だから、Euler 積の対数をとって $\log\zeta(s)=\sum_p-\log(1-p^{-s})$ である。$0< x\leq\frac12$ なら $-\log(1-x)=\sum_{k\geq1}\frac{x^k}{k}\leq x+x^2\sum_{k\geq0}x^k\cdot\frac12\leq x+x^2$ だから、
$$
\log\zeta(s)\leq\sum_pp^{-s}+\sum_pp^{-2s}\leq\sum_p\frac1p+\zeta(2)
$$
である。もし $\sum_p\frac1p$ が収束すれば、右辺は $s$ によらない有限の値で、$s\to1+0$ のとき $\log\zeta(s)\to+\infty$ に反する。
同じ主張は 素数の無限性 の記事の定理「素数の逆数の和の発散」でも、Euler 積の下からの評価を使って証明されている。ここでの証明は、$\zeta(s)$ が $s=1$ で無限大になることが、素数が十分たくさんあることを強制する、という形をしている。
級数 $\sum n^{-s}$ は $\operatorname{Re}s\leq1$ の範囲では使えない。たとえば $\operatorname{Re}s\leq0$ なら $\lvert n^{-s}\rvert=n^{-\sigma}\geq1$ で項が $0$ に近づかず、実数 $0< s\leq1$ なら各項が $\frac1n$ 以上で、調和級数と比べて発散する。そこで、和を積分で近似した誤差を考える。$\operatorname{Re}s>1$ なら $\int_1^\infty x^{-s}\,dx=\frac{1}{s-1}$ なので、和と積分の差
$$
\zeta(s)-\frac1{s-1}=\sum_{n=1}^\infty\int_n^{n+1}\bigl(n^{-s}-x^{-s}\bigr)\,dx
$$
を考えると、右辺は各項が小さく、$\operatorname{Re}s>0$ まで収束する。
$n\geq1$ について $f_n(s):=\int_n^{n+1}\bigl(n^{-s}-x^{-s}\bigr)\,dx$ とおく。級数 $Z(s):=\sum_{n=1}^\infty f_n(s)$ は $\operatorname{Re}s>0$ の各コンパクト集合上で一様に収束し、$Z$ は $\operatorname{Re}s>0$ 上の正則関数である。$\operatorname{Re}s>1$ では
$$
\zeta(s)=\frac1{s-1}+Z(s)
$$
が成り立つ。したがって $\zeta$ は $\{\operatorname{Re}s>0\}\setminus\{1\}$ 上の正則関数に延び、$s=1$ は 1 位の極で、留数は $1$ である。
。$\operatorname{Re}s>1$ では $\lvert x^{1-s}\rvert=x^{1-\sigma}\to0$($x\to\infty$)だから $\int_1^\infty x^{-s}\,dx=\Bigl[\frac{x^{1-s}}{1-s}\Bigr]_1^\infty=\frac1{s-1}$ であり、これを区間 $[n,n+1]$ に分けて $\zeta(s)=\sum_n\int_n^{n+1}n^{-s}\,dx$ から引けば等式を得る(どちらの級数も収束する)。
各項の評価。$x\in[n,n+1]$ なら、$u\mapsto u^{-s}$ の導関数が $-su^{-s-1}$ であることから
$$
\lvert n^{-s}-x^{-s}\rvert=\left\lvert s\int_n^xu^{-s-1}\,du\right\rvert\leq\lvert s\rvert\int_n^xu^{-\sigma-1}\,du\leq\lvert s\rvert\,n^{-\sigma-1}
$$
であり、$\lvert f_n(s)\rvert\leq\lvert s\rvert\,n^{-\sigma-1}$ である。$K$ を $\operatorname{Re}s>0$ のコンパクト集合とすると、$K$ 上で $\lvert s\rvert\leq M$、$\operatorname{Re}s\geq\sigma_0>0$ となる定数 $M,\sigma_0$ があり、$\lvert f_n(s)\rvert\leq Mn^{-1-\sigma_0}$ である。$\sum_nn^{-1-\sigma_0}$ は収束するから(thm-zeta-convergence)、優級数判定法により $Z$ は $K$ 上で一様に収束する。
正則性。各 $f_n$ は $\mathbb{C}$ 上の正則関数である。実際、$n^{-s}$ は正則で、$\int_n^{n+1}x^{-s}\,dx$ は $x=e^u$ と置換すると $1-s$ の冪級数としてすべての $s$ で収束する形に書ける(下の「詳細」)。よって lem-zeta-weierstrass により $Z$ は $\operatorname{Re}s>0$ で正則である。$\frac1{s-1}+Z(s)$ は $\{\operatorname{Re}s>0\}\setminus\{1\}$ 上の正則関数で、$\operatorname{Re}s>1$ で $\zeta$ と一致するから、$\zeta$ の延長である。$Z$ は $s=1$ で正則なので $(s-1)\zeta(s)=1+(s-1)Z(s)\to1$($s\to1$)であり、$s=1$ は留数 $1$ の 1 位の極である。
$f_n$ の正則性:$n^{-s}$ は $\mathbb{C}$ 上正則である。$g_n(s):=\int_n^{n+1}x^{-s}\,dx$ については、$x=e^u$ と置換し、$w:=1-s$ とおくと $g_n(s)=\int_{\log n}^{\log(n+1)}e^{wu}\,du$ である。$e^{wu}=\sum_{k\geq0}\frac{w^ku^k}{k!}$ は $u$ について有界区間上で一様に収束するので項ごとに積分でき、
$$g_n(s)=\sum_{k=0}^\infty\frac{(\log(n+1))^{k+1}-(\log n)^{k+1}}{(k+1)!}\,w^k$$
となる。係数の絶対値は $\frac{(\log(n+1))^{k+1}}{(k+1)!}$ 以下だから、この冪級数はすべての $w$ で収束し、$g_n$ は $\mathbb{C}$ 上正則である。よって $f_n=n^{-s}-g_n$ も $\mathbb{C}$ 上正則である。
$Z(1)=\gamma:=\lim_{N\to\infty}\Bigl(\sum_{n=1}^N\frac1n-\log N\Bigr)$ であり(この極限は存在する)、$s\to1$ のとき
$$
\zeta(s)=\frac1{s-1}+\gamma+o(1)
$$
である。$\gamma=0.5772\ldots$ を Euler の定数という。
$f_n(1)=\frac1n-\int_n^{n+1}\frac{dx}{x}=\frac1n-\log(n+1)+\log n$ だから、$\sum_{n=1}^Nf_n(1)=\sum_{n=1}^N\frac1n-\log(N+1)$ である。左辺は $N\to\infty$ で $Z(1)$ に収束し、$\log(N+1)-\log N=\log(1+\frac1N)\to0$ だから、$\gamma$ を定める極限は存在して $Z(1)$ に等しい。$Z$ は $s=1$ で連続なので、$\zeta(s)-\frac1{s-1}=Z(s)\to Z(1)=\gamma$ である。
実数 $s>0$、$s\neq1$ について
$$
\frac1{s-1}\leq\zeta(s)\leq\frac{s}{s-1}
$$
が成り立つ。とくに $1< s$ なら $\zeta(s)>1$、$0< s<1$ なら $\zeta(s)<0$ であり、$\zeta$ は正の実軸上に零点をもたない。
実数 $s>0$ と $x\in[n,n+1]$ について $(n+1)^{-s}\leq x^{-s}\leq n^{-s}$ だから $0\leq f_n(s)\leq n^{-s}-(n+1)^{-s}$ である。右辺の和は望遠鏡和で、$n^{-s}\to0$ より $\sum_{n=1}^\infty\bigl(n^{-s}-(n+1)^{-s}\bigr)=1$ となる。よって $0\leq Z(s)\leq1$ で、thm-zeta-continuation の等式から $\frac1{s-1}\leq\zeta(s)\leq\frac1{s-1}+1=\frac{s}{s-1}$ である。$s>1$ なら下からの評価と $\zeta(s)=1+\sum_{n\geq2}n^{-s}>1$、$0< s<1$ なら $\frac{s}{s-1}<0$ である。
左:実軸上の ζ(x)。s=1 に極があり、0 と 1 の間では負、ζ(0)=−1/2、ζ(2)=π²/6。右:負の側を拡大したもの。負の偶数で 0 になる
図の左は $-1.5\leq x\leq4$ での $\zeta(x)$ で、$x=1$ の極の右では $\zeta(x)>1$、左の $0< x<1$ では $\zeta(x)<0$ になっていること(prop-zeta-real-bounds)が見える。たとえば $\zeta(\frac12)=-1.4603\ldots$ は $-2\leq\zeta(\frac12)\leq-1$ を満たす。負の側の値($\zeta(0)=-\frac12$ や、右の図の負の偶数での零点)は、次の節の関数等式から分かる。図の数値は数値計算による。
以下、$\Gamma$ は Γ関数 を表す。$\Gamma$ は $\mathbb{C}$ 上の有理型関数で、極は $0,-1,-2,\ldots$ だけでどれも 1 位であり(Γ関数 の記事の定理「解析接続と極・留数」)、零点をもたない(同じ記事の系「$\Gamma$ 関数の零点」)。また $\Gamma(z+1)=z\Gamma(z)$、$\Gamma(1)=1$、$\Gamma(\frac12)=\sqrt\pi$ である(同じ記事の命題「関数等式と階乗」と例「半整数での値」)。
$\zeta$ は $\mathbb{C}\setminus\{1\}$ 上の正則関数に(ただ 1 通りに)延び、$\mathbb{C}$ 上の有理型関数として次の関数等式を満たす。
$$
\pi^{-s/2}\,\Gamma\Bigl(\frac s2\Bigr)\zeta(s)=\pi^{-(1-s)/2}\,\Gamma\Bigl(\frac{1-s}2\Bigr)\zeta(1-s)
$$
この定理は Riemann の 1859 年の論文にある(Rie59 pp. 1–3)。Riemann は $\Pi(s-1)$(現在の $\Gamma(s)$)を使い、$\zeta(s)$ を複素積分で表して「$s=1$ を除くすべての有限な $s$ で 1 価で有限であり、$s$ が負の偶数なら $0$ になる」ことを示し、続けて $\Pi\bigl(\frac s2-1\bigr)\pi^{-s/2}\zeta(s)$ が $s$ を $1-s$ に替えても変わらないことを導いている。これは上の等式である。$\zeta$ が $\mathbb{C}\setminus\{1\}$ 上の正則関数に延びることは Ste17 §1.2(p. 16)にも述べられている。証明には複素積分の評価か、テータ関数の変換公式が必要で、この記事の範囲を超えるので割愛する。一意性は def-zeta-main の後で述べたとおり 一致の定理 による。
関数等式を認めると、Euler 積とあわせて零点の位置がかなり絞り込める。
(i) は thm-zeta-euler-product である。残りの要点:$\operatorname{Re}s<0$ なら関数等式の右辺は $0$ でない有限の値なので、$\zeta(s)=0$ となるのは左辺の $\Gamma(\frac s2)$ が極をもつ $s=-2n$ に限られ、そこでは極を打ち消すために $\zeta$ が 1 位の零点をもつ。帯の中の対称性も、関数等式の $\Gamma$ と $\pi$ の冪がそこで $0$ でも無限大でもないことから従う。
(ii):$\operatorname{Re}s<0$ とすると $\operatorname{Re}(1-s)>1$ だから $\zeta(1-s)\neq0$ で、$\frac{1-s}2$ は $\Gamma$ の極でなく $\Gamma$ は零点をもたないので、関数等式の右辺は $0$ でない有限の値である。$s$ が負の偶数でなければ $\frac s2$ は $\Gamma$ の極でないので、左辺の $\pi^{-s/2}\Gamma(\frac s2)$ は $0$ でない有限の値で、$\zeta(s)\neq0$ である。$s=-2n$($n\geq1$)では $\Gamma(\frac s2)$ が 1 位の極をもつので、左辺が有限で $0$ でない値に近づくためには $\zeta$ が $s=-2n$ でちょうど 1 位の零点をもたなければならない。
(iii):(i) と (ii) から、負の偶数以外の零点は $0\leq\operatorname{Re}s\leq1$ にある。実軸上では、$0< s<1$ で $\zeta(s)<0$(prop-zeta-real-bounds)、$s=1$ は極、$\zeta(0)=-\frac12$(ex-zeta-special-negative)だから零点はない。
(iv):$h(s):=\overline{\zeta(\bar s)}$ は $\mathbb{C}\setminus\{1\}$ 上の正則関数で(各点のまわりの冪級数展開の係数を複素共役にしたもので表される)、実数 $s>1$ では $\zeta(s)$ が実数なので $h(s)=\zeta(s)$ である。一致の定理 により $h=\zeta$、すなわち $\zeta(\bar s)=\overline{\zeta(s)}$ で、零点の全体は実軸に関して対称である。$0<\operatorname{Re}\rho<1$ なら $\frac\rho2$ と $\frac{1-\rho}2$ はどちらも実部が正で $\Gamma$ の極でないから、関数等式の両辺の $\pi$ の冪と $\Gamma$ の値は $0$ でない有限の値であり、$\zeta(\rho)=0$ と $\zeta(1-\rho)=0$ は同値である。
負の偶数での零点を自明な零点、帯 $0\leq\operatorname{Re}s\leq1$ の中の零点を非自明な零点という。帯 $0\leq\operatorname{Re}s\leq1$ を臨界帯、直線 $\operatorname{Re}s=\frac12$ を臨界線と呼ぶ。
関数等式から、$\zeta(0)=-\frac12$、$\zeta(-1)=-\frac1{12}$ が分かる。
$s\to0$ のとき、$\Gamma(\frac s2)=\frac2s\Gamma(1+\frac s2)$ より $s\,\Gamma(\frac s2)\to2$ である。右辺では $\pi^{-(1-s)/2}\Gamma(\frac{1-s}2)\to\pi^{-1/2}\Gamma(\frac12)=1$ で、thm-zeta-continuation により $s\,\zeta(1-s)=-(1-s-1)\zeta(1-s)\to-1$ である。関数等式の両辺に $s$ を掛けて $s\to0$ とすると $2\zeta(0)=-1$、すなわち $\zeta(0)=-\frac12$ である。
$s=-1$ を代入すると、$\Gamma(-\frac12)=\Gamma(\frac12)/(-\frac12)=-2\sqrt\pi$ だから左辺は $\pi^{1/2}\cdot(-2\sqrt\pi)\,\zeta(-1)=-2\pi\,\zeta(-1)$、右辺は $\pi^{-1}\Gamma(1)\zeta(2)=\frac1\pi\cdot\frac{\pi^2}6=\frac\pi6$ である($\zeta(2)=\frac{\pi^2}6$ は Basel問題)。よって $\zeta(-1)=-\frac1{12}$ である。
$\zeta(-1)=-\frac1{12}$ は Cri24 §25.3.1(p. 445)にも数値として挙げられている。これが「$1+2+3+\cdots=-\frac1{12}$」と書かれることがあるが、左辺の級数は発散しており、$-\frac1{12}$ は級数の和ではなく解析接続の値である(ex-zeta-not-sum)。
$\zeta$ の非自明な零点は、すべて臨界線 $\operatorname{Re}s=\frac12$ の上にある。
Riemann は、$s=\frac12+ti$ とおいた関数 $\xi(t)$ の零点がすべて実数である(すなわち非自明な零点が臨界線上にある)ことは「非常にありそうだ」と述べ、証明は後回しにした(Rie59 p. 4)。この予想は未解決で、Clay 数学研究所のミレニアム懸賞問題の 1 つである(Cri24 Conjecture 25.3.7、Ste17 §1.2 p. 18)。虚部が正の非自明な零点を小さい順に並べると、虚部は $14.1347\ldots$、$21.0220\ldots$(Cri24 §25.6.1 の計算、p. 452)、$25.0108\ldots$ と続く。
臨界線上の |ζ(1/2+it)| のグラフ(0 ≤ t ≤ 50)。赤い点が零点で、最初の零点は t=14.1347… にある
図は $0\leq t\leq50$ での $\lvert\zeta(\frac12+it)\rvert$ で、この範囲の臨界線上には 10 個の零点がある。零点と素数の関係は Riemann の明示公式で表され、素数の個数 $\pi(x)$ を $\zeta$ の非自明な零点 $\rho$ についての和で書き表す(Cri24 Fact 25.7.1)。素数定理 の最初の証明は $\zeta$ を本質的に使っており(Cri24 §25.2、p. 443)、Riemann 予想は「$x\geq2.01$ で $\lvert\pi(x)-\operatorname{Li}(x)\rvert\leq\sqrt x\log x$」($\operatorname{Li}(x)=\int_2^x\frac{dt}{\log t}$)と同値であることが知られている(Ste17 Conjecture 1.2.11 とその前の説明)。
Möbius関数 $\mu$ は、$\mu(1)=1$、相異なる $k$ 個の素数の積 $n$ について $\mu(n)=(-1)^k$、$1$ より大きい平方数で割り切れる $n$ について $\mu(n)=0$ で定まる関数で、$\sum_{d\mid n}\mu(d)$ は $n=1$ なら $1$、$n\geq2$ なら $0$ である(Möbius関数 の記事の定理「約数にわたる和」)。
$\operatorname{Re}s>1$ のとき、$\sum_{n=1}^\infty\mu(n)n^{-s}$ は絶対収束し、
$$
\sum_{n=1}^\infty\frac{\mu(n)}{n^s}=\frac1{\zeta(s)}
$$
である。また $\operatorname{Re}s>2$ のとき、Eulerのφ関数 $\varphi$ について $\sum_{n=1}^\infty\varphi(n)n^{-s}=\zeta(s-1)/\zeta(s)$ である。
$\lvert\mu(n)n^{-s}\rvert\leq n^{-\sigma}$ だから絶対収束する。絶対収束する 2 つの級数の積は、すべての項の積 $\mu(d)d^{-s}\cdot m^{-s}$ をどんな順序で足しても同じ値になる(絶対収束 の記事の定理「絶対収束する級数の積」)。$n=dm$ の小さい順に並べ、同じ $n$ の項(有限個)をまとめると
$$
\Bigl(\sum_{d=1}^\infty\frac{\mu(d)}{d^s}\Bigr)\zeta(s)=\sum_{n=1}^\infty\Bigl(\sum_{d\mid n}\mu(d)\Bigr)\frac1{n^s}=1
$$
である。$\zeta(s)\neq0$(thm-zeta-euler-product)で割れば最初の等式を得る。$\varphi$ については、$0<\varphi(n)\leq n$ より $\operatorname{Re}s>2$ で $\sum\varphi(n)n^{-s}$ は絶対収束し、$\sum_{d\mid n}\varphi(d)=n$(Eulerのφ関数 の記事の定理「Gaussの約数和公式」)を使って同じようにまとめると $\zeta(s)\sum_n\varphi(n)n^{-s}=\sum_nn\cdot n^{-s}=\zeta(s-1)$ となる。
この 2 つの等式は Cri24 Theorem 24.4.3、Fact 24.5.3 と同じ形で、数論的関数の Dirichlet 積が Dirichlet 級数の積に対応することの例である。$s=2$ とすると $\sum_n\mu(n)/n^2=1/\zeta(2)=6/\pi^2$ である。この値は、次のように「2 つの整数が互いに素である確率」として現れる。
$C(N)$ を、$1\leq a,b\leq N$ かつ $\gcd(a,b)=1$ を満たす整数の組 $(a,b)$ の個数とする。このとき
$$
\lim_{N\to\infty}\frac{C(N)}{N^2}=\frac1{\zeta(2)}=\frac6{\pi^2}=0.6079\ldots
$$
である。
$\sum_{d\mid g}\mu(d)$ は $g=1$ のとき $1$、$g\geq2$ のとき $0$ だから、
$$
C(N)=\sum_{a,b\leq N}\ \sum_{d\mid\gcd(a,b)}\mu(d)=\sum_{d\leq N}\mu(d)\Bigl\lfloor\frac Nd\Bigr\rfloor^2
$$
である($d$ で割り切れる $a\leq N$ は $\lfloor N/d\rfloor$ 個)。$\lfloor N/d\rfloor^2$ を $N^2/d^2$ で置き換えた誤差は $N\log N$ 程度、和を $d\leq N$ で打ち切った誤差は $1/N$ 程度なので、$C(N)/N^2$ は $\sum_d\mu(d)/d^2=1/\zeta(2)$(thm-zeta-mobius)に近づく。$\zeta(2)=\frac{\pi^2}6$ は Basel問題 による。
$\lfloor N/d\rfloor=\frac Nd-\theta$($0\leq\theta<1$)と書くと $0\leq\frac{N^2}{d^2}-\lfloor\frac Nd\rfloor^2=\theta\bigl(\frac{2N}d-\theta\bigr)\leq\frac{2N}d$ だから、
$$\Bigl\lvert C(N)-N^2\sum_{d\leq N}\frac{\mu(d)}{d^2}\Bigr\rvert\leq\sum_{d\leq N}\frac{2N}d\leq2N(1+\log N)$$
である($\sum_{d\leq N}\frac1d\leq1+\int_1^N\frac{dx}x$)。さらに $\bigl\lvert\sum_{d\leq N}\frac{\mu(d)}{d^2}-\frac1{\zeta(2)}\bigr\rvert\leq\sum_{d>N}\frac1{d^2}\leq\int_N^\infty\frac{dx}{x^2}=\frac1N$ だから、
$$\Bigl\lvert\frac{C(N)}{N^2}-\frac1{\zeta(2)}\Bigr\rvert\leq\frac{2(1+\log N)}N+\frac1N\to0$$
である。
左:1 ≤ a, b ≤ 20 の格子点のうち gcd(a,b)=1 のもの(赤)。右:割合 C(N)/N² が 6/π² に近づくようす
図の左では $400$ 個の組のうち $C(20)=255$ 個(割合 $0.6375$)が互いに素で、右のグラフでは $C(400)/400^2=0.6084\ldots$ である。互いに素な $(a,b)$ は、原点から格子点 $(a,b)$ を見たとき途中に他の格子点がない点にあたる(Cri24 Proposition 24.6.2 は、この割合を確率の言葉で扱っている)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $\operatorname{Re}s>1$ | $s=1$(調和級数) | 「実数 $s>0$ なら $\sum n^{-s}$ は収束する」 |
| 級数の収束域 | $s=-1$ | 「$\zeta(s)$ は $\sum n^{-s}$ の和である」 |
| 級数の収束域 | $0< s<1$ | 「$\zeta(s)$ は正の項の和なので正である」 |
| $\operatorname{Re}s>1$ | 実数 $0< s\leq1$ | 「Euler 積 $\prod_p(1-p^{-s})^{-1}$ は収束する」 |
$1+2+3+\cdots$ は項が $0$ に近づかないので発散する級数であり、どの意味の収束でも $-\frac1{12}$ にはならない。$\zeta(-1)=-\frac1{12}$ は、$\operatorname{Re}s>1$ の級数で定まる関数を一意に延ばした関数の値である(def-zeta-main の後の説明)。同様に、実数 $0< s<1$ では $\sum_{n\leq N}n^{-s}$ はどれも正で $N\to\infty$ で $+\infty$ に発散するが、延長された $\zeta(s)$ は負である(prop-zeta-real-bounds。たとえば $\zeta(\frac12)=-1.4603\ldots$)。「$\operatorname{Re}s>1$ で級数に等しい」という性質は、級数の収束域の外に持ち出すと成り立たない。
実数 $0< s\leq1$ でも $p^{-s}<1$ なので thm-zeta-euler-product の証明の計算はそのまま使え、$\prod_{p\leq P}(1-p^{-s})^{-1}=\sum_{n\in A_P}n^{-s}\geq\sum_{n\leq P}n^{-s}\geq\sum_{n\leq P}\frac1n$ である($1,\ldots,P$ はどれも $A_P$ に属する)。右辺は $P\to\infty$ で $+\infty$ に発散するから、Euler 積も $+\infty$ に発散する。延長された $\zeta(s)$ は $0< s<1$ で有限の負の値をとるので、Euler 積は $\operatorname{Re}s>1$ の外では $\zeta$ を表さない。
$s=1$ での発散は 調和級数 の記事にある。級数の収束は、実部が $1$ より大きいことに依っている。
| Riemann ゼータ関数 | 合同ゼータ関数 | 多重ゼータ値 | |
|---|---|---|---|
| 何の関数・値か | 複素変数 $s$ の関数 | 有限体上の多様体ごとの冪級数 | 正整数の組ごとの実数 |
| 基本の式 | $\sum_{n\geq1}n^{-s}$ | $\exp\bigl(\sum_{m\geq1}N_mt^m/m\bigr)$ | $\sum_{0< n_1<\cdots< n_r}n_1^{-k_1}\cdots n_r^{-k_r}$ |
| Euler 積 | 素数にわたる | 閉点にわたる | ― |
| Riemann 予想の類似 | 未解決 | Weil 予想の一部として証明済み | ― |
合同ゼータ関数は $\zeta$ の有限体上の類似で、そこでの Riemann 予想の類似は Weil予想 の一部として証明されている。多重ゼータ値は $\zeta$ の正整数での値 $\zeta(k)$ を多重級数に広げたものである。単に「ゼータ関数」というと、これらや Dirichlet の $L$ 関数などを広く指すことがある。
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