積分計算の技法

同義語:積分の計算法techniques of integration

概要

積分計算の技法(techniques of integration)とは、原始関数や定積分を求める計算の技法であり、効く理由で 4 つに分けられる。置換積分・部分積分・$f'/f$ 型は、合成関数・積・対数の微分公式を微分積分学の基本定理で逆に読んだものである。部分分数分解と $t=\tan\frac x2$ などの置換は被積分関数を有理関数に直すもので、有理関数の原始関数は有理関数・$\log$・$\arctan$ で必ず書ける。$x\mapsto a+b-x$ などの対称性は、元の積分と足して簡単になれば原始関数なしに値を決め、漸化式・不等式・区分求積は値を求めずに評価する。$e^{-x^2}$ のように原始関数が初等関数で書けない関数もあるが、評価の方法で定積分の値が求まることがある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 微分係数と導関数の定義(高校数学), 連鎖律(高校数学), Riemann積分, 微分積分学の基本定理, 三角関数, 指数関数, 対数関数

動機

積分計算の技法とは、関数の原始関数を求めて定積分の値を出すため、あるいは原始関数なしに定積分の値や大きさを知るための手法の総称である。高校で習う置換積分・部分積分・部分分数分解・$\tan\frac x2$ の置換・区分求積などは別々の技に見えるが、なぜ効くかで分けると 4 つにまとまる。

分類代表的な技法なぜ効くか使える条件の要点
1. 微分の公式を逆に使う置換積分、部分積分、$f'/f$ 型合成関数・積・対数の微分公式を、微分積分学の基本定理で積分の等式に移す現れる関数が区間全体で連続(または $C^1$ 級)
2. 有理関数に直す部分分数分解、$\tan\frac x2$ の置換、根号の置換有理関数の原始関数は有理関数・$\log$・$\arctan$ で必ず書ける被積分関数が有理関数か、置換で有理関数になる
3. 対称性を使う偶関数・奇関数、$x\mapsto a+b-x$、周期$x=c\pm t$ の形の置換は $dx$ を符号を除いて変えないので、区間を移すとき被積分関数 $f(x)$ を $f(c\pm t)$ に取り替えるだけでよい($x\mapsto a+b-x$ なら $[a,b]$ の上で $f(x)$ を $f(a+b-x)$ に、偶関数・奇関数なら $[-a,0]$ の積分が $[0,a]$ の積分の $\pm1$ 倍に、周期 $T$ なら区間を $T$ ずらしてよい)積分そのものが存在する
4. 求めずに評価する積分の漸化式、不等式、区分求積積分の単調性と、和・極限との関係原始関数が書けなくても使える

以下では、多くの技法の土台となる置換積分と部分積分の 2 つの公式を述べて証明し、4 つの分類それぞれの要点を小さな計算例とともに示す。個々の技法でどの手を試し、どこで詰まり、どう直すかは、置換積分の使い方、部分積分の使い方、有理関数の積分、三角関数の有理式の積分などで詳しく扱う。

定理と証明

以下では、閉区間上の連続関数は積分でき、積分は線形で、$f\le g$ なら $\int_a^bf\le\int_a^bg$(積分の単調性)であることを前提とする。$\log$ は自然対数、微分可能で導関数が連続な関数を $C^1$ 級という。微分積分学の基本定理は次の 2 つの形で使う。

  • (基本定理 I) $f$ が区間 $I$ で連続、$c\in I$ なら、$F(x):=\int_c^xf(s)\,ds$ は $I$ で微分可能で $F'=f$ である。
  • (基本定理 II) $G$ が $[a,b]$ で $C^1$ 級なら、$\int_a^bG'(x)\,dx=G(b)-G(a)$ である。

置換積分

置換積分

$\varphi\colon[\alpha,\beta]\to\mathbb{R}$ を $C^1$ 級、$f$ を区間 $I$ で連続な関数とし、$\varphi([\alpha,\beta])\subset I$ とする。このとき
$$ \int_\alpha^\beta f(\varphi(t))\,\varphi'(t)\,dt=\int_{\varphi(\alpha)}^{\varphi(\beta)}f(x)\,dx $$
が成り立つ。

合成関数の微分を積分する

$c\in I$ をとり $F(x):=\int_c^xf(s)\,ds$ とおくと、基本定理 I により $F'=f$ である。連鎖律(高校数学)により $(F\circ\varphi)'(t)=f(\varphi(t))\,\varphi'(t)$ であり、これは連続である。基本定理 II により、左辺は $F(\varphi(\beta))-F(\varphi(\alpha))=\int_{\varphi(\alpha)}^{\varphi(\beta)}f(x)\,dx$ に等しい($p>q$ のとき $\int_p^q:=-\int_q^p$ と約束する)。$\square$

左から右へは、被積分関数に「関数 $g$」と「その導関数 $g'$」の組を見つけて $t=g(x)$ とおく(例:$\int_0^1\frac{x\,dx}{\sqrt{1+x^2}}$ は $t=1+x^2$ で $\int_1^2\frac{dt}{2\sqrt t}=\sqrt2-1$)。右から左へは、$x=\varphi(t)$ とおいて式を簡単にする(例:$\int_0^1\sqrt{1-x^2}\,dx$ は $x=\sin t$、$0\le t\le\frac\pi2$ で $\cos t\ge0$ なので $\int_0^{\pi/2}\cos^2t\,dt=\frac\pi4$)。$\varphi$ は単調でなくてよいが、区間全体で $C^1$ 級でなければならない(同じ形の定理と証明は Leb26 Theorem 5.3.5 にある)。
$f$ が $[a,b]$ で $C^1$ 級で $0$ にならなければ、$\log|f|$ も $[a,b]$ で $C^1$ 級で $(\log|f|)'=\frac{f'}f$ なので、$\int_a^b\frac{f'(x)}{f(x)}\,dx=\log|f(b)|-\log|f(a)|$ である(例:$\int_0^{\pi/3}\tan x\,dx=\bigl[-\log\cos x\bigr]_0^{\pi/3}=\log2$)。これも置換積分の特別な場合である。

部分積分

部分積分

$F,G$ が $[a,b]$ で $C^1$ 級ならば $\displaystyle\int_a^bF\,G'\,dx=\bigl[FG\bigr]_a^b-\int_a^bF'\,G\,dx$ である。

積の微分を積分する

$(FG)'=F'G+FG'$ は連続なので、基本定理 II により $\int_a^b(F'G+FG')\,dx=\bigl[FG\bigr]_a^b$ である。移項すればよい。$\square$

部分積分が効くのは、$F$ が微分で簡単になり(多項式は次数が下がり、$\log x$ は $\frac1x$ になる)、$G'$ の原始関数が分かっているときである(例:$\int_1^e\log x\,dx=[x\log x]_1^e-\int_1^e1\,dx=1$)。

技法の 4 分類

1. 微分の公式を逆に使う

置換積分の選び方。 前向きに使うときは、書き直した後に $x$ が残ってはいけない。定数倍のずれは調整できるが、$x$ の因子のずれは調整できない。$e^x$ の有理式は $t=e^x$、1 次式の根号は根号ごと $t$ と置けば、必ず有理関数になる。同じかたまりの冪($\sin x$、$\sin^2x$、$\sin^4x$ など)のどれを $t$ にするか迷ったときは、置いて根号が出たら $t$ が大きすぎ、同じ形が残ったら小さすぎる。→ 置換積分の使い方
部分積分の選び方。 確かめることは「積分する側 $G'$ の原始関数が分かるか」「$F'G$ が $FG'$ より簡単か」の 2 つである。多項式 × $e^x$ なら多項式を、多項式 × $\log x$ なら $\log x$ を微分する側に置く。$\int e^x\sin x\,dx$ のように同じ形が戻る積分は、役割を固定して 2 回使い、方程式として解く。その理由は、$e^{(1+i)x}$ が微分で $(1+i)$ 倍になるだけの関数だからである。→ 部分積分の使い方

2. 有理関数に直す

多項式の商を有理関数という。実数係数の有理関数は、多項式と、$\frac{A}{(x-a)^k}$、$\frac{Bx+C}{(x^2+bx+c)^k}$($b^2-4c<0$)の形の項の和に分解でき(部分分数分解)、各項の原始関数は有理関数・$\log$・$\arctan$ で書ける(ここでは証明しない。有理関数の積分で代数学の基本定理を引用して証明する)。たとえば
$$ \frac1{x^3+1}=\frac{1}{3(x+1)}-\frac16\cdot\frac{2x-1}{x^2-x+1}+\frac12\cdot\frac{1}{x^2-x+1},\qquad\int_0^1\frac{dx}{x^3+1}=\frac{\log2}3+\frac{\pi}{3\sqrt3} $$
であり、$\log$ と $\arctan$ の両方が現れる。この保証があるので、被積分関数を有理関数に直す置換を見つければ、あとは機械的に終わる。
$\sin x,\cos x$ の有理式は $t=\tan\frac x2$ で有理関数になる。$\cos x=\frac{1-t^2}{1+t^2}$、$\sin x=\frac{2t}{1+t^2}$、$dx=\frac{2\,dt}{1+t^2}$ であり、これは単位円を点 $(-1,0)$ を通る直線の傾き $t$ で媒介変数表示したものにほかならない(例:$\int_0^{\pi/2}\frac{dx}{1+\sin x+\cos x}=\int_0^1\frac{dt}{1+t}=\log2$)。ただし $x$ が $\pi$ の奇数倍のとき $\tan\frac x2$ は定義されないので、区間が $\pi$ の奇数倍をまたぐと誤る。多くの場合はもっと短い置換(奇数乗の因子を 1 つ取り出す、$t=\tan x$ など)があり、選び方は三角関数の有理式の積分で扱う。
2 次式の根号 $\sqrt{ax^2+bx+c}$ を含む式も、三角関数・双曲線関数による置換や Euler の置換で有理関数(または三角関数の有理式)に直せる。一方、根号の中が重根のない 3 次以上の多項式 $P(x)$ になると、たとえば $\int\frac{dx}{\sqrt{P(x)}}$ は初等関数で書けなくなる($P$ が 3 次・4 次なら楕円積分、5 次以上なら超楕円積分と呼ばれる。ここでは証明しない。Con05 Example 4.3)。→ 根号を含む関数の積分

3. 対称性を使う

$f$ が $[a,b]$ で連続なら、$x=a+b-t$ の置換(thm-intt-substitution)により
$$ \int_a^bf(x)\,dx=\int_a^bf(a+b-x)\,dx=\frac12\int_a^b\bigl(f(x)+f(a+b-x)\bigr)\,dx $$
である。和 $f(x)+f(a+b-x)$ が簡単になれば、原始関数を求めずに値が決まる。たとえば正の整数 $m$ について $f(x)=\frac{\sin^mx}{\sin^mx+\cos^mx}$ は $f(x)+f(\frac\pi2-x)=1$ を満たすので、$\int_0^{\pi/2}f(x)\,dx=\frac\pi4$ であり、$m$ によらない。偶関数・奇関数、周期、$x\mapsto\frac1x$ も同じ考え方である。→ 対称性を用いた積分

4. 求めずに評価する

漸化式。 $I_m:=\int_0^{\pi/2}\cos^m\theta\,d\theta$ は、部分積分で $mI_m=(m-1)I_{m-2}$($m\ge2$)を満たし、$I_0=\frac\pi2$、$I_1=1$ から全部決まる。個々の値を計算しなくても、$mI_mI_{m-1}=\frac\pi2$ が一定であることや $\sqrt m\,I_m\to\sqrt{\pi/2}$ のような極限が分かる。→ 積分の漸化式
漸化式による積分の代表例である Wallis 積分は Wallis積分(高校数学) で扱う。
不等式と区分求積。 原始関数が分からなくても、被積分関数を上下から挟めば積分の範囲が決まる。$h(s):=e^s-1-s$ は $h'(s)=e^s-1$ より $s=0$ で最小値 $0$ をとり、$s\ne0$ では $h(s)>0$、すなわち $e^s>1+s$ である。$s=\mp x^2$ を代入すると $0< x\le1$ で $1-x^2< e^{-x^2}<\frac1{1+x^2}$ となり、$\frac23<\int_0^1e^{-x^2}\,dx<\frac\pi4$ を得る(中央の値は $0.7468\ldots$)。等号がつかないのは、両側の差 $e^{-x^2}-(1-x^2)$、$\frac1{1+x^2}-e^{-x^2}$ はどちらも $[0,1]$ で連続かつ $0$ 以上で、$[\frac12,1]$ ではそれぞれ正の最小値 $\mu$ をもつので、差の積分は $[0,\frac12]$ の部分で $0$ 以上、$[\frac12,1]$ の部分で $\frac\mu2$ 以上、合わせて正になるからである。逆に、和の極限を積分に直すこともできる:$f$ が $[0,1]$ で連続なら $\frac1n\sum_{k=1}^nf\bigl(\frac kn\bigr)\to\int_0^1f(x)\,dx$ である(区分求積。ここでは証明しない)。→ 積分の評価

初等関数で書けない原始関数

連続関数には基本定理 I により原始関数が必ず存在する。問題は、それが初等関数で書けるかどうかである。ここで初等関数とは、複素数係数の有理関数から出発し、すでに得た関数 $u$ について指数関数 $e^u$、対数関数 $\log u$、すでに得た関数を係数とする多項式方程式の解を付け加えて四則演算を行う、という操作を有限回繰り返して得られる関数をいう(Con05 Definition 3.3)。複素数値を許すので、$\cos x=\frac{e^{ix}+e^{-ix}}2$ のように三角関数・逆三角関数もこれに含まれる。$e^{-x^2}$、$\frac{\sin x}x$、$\frac{e^x}x$、$\frac1{\log x}$ の原始関数は初等関数で書けないことが、Liouville の理論から導かれる判定法で示されている(ここでは証明しない。判定法は Ros72 §6(p. 971)、$e^{-x^2}$ への適用は初等関数で表せない原始関数で扱う)。1〜3 の技法がどうしても効かないのは技法が足りないからではなく、答えが初等関数の中にないからである。それでも 4 の方法で定積分の値が決まることがあり、Wallis 積分 $I_m$ で上下から挟むと $\int_0^\infty e^{-x^2}\,dx=\frac{\sqrt\pi}2$ が得られる(ここでは証明しない。初等関数で表せない原始関数)。→ 初等関数で表せない原始関数

反例・注意

反例:置換で区間の対応を誤る

$\int_{-1}^1x^2\,dx$ で $t=x^2$、$x=\sqrt t$ として $x^2\,dx=\frac{\sqrt t}2\,dt$ と書き直すと、$x=\pm1$ でともに $t=1$ なので $\int_1^1\frac{\sqrt t}2\,dt=0$ となる。しかし正しい値は $\frac23$ である。$[-1,0]$ では $x=-\sqrt t$ であり、被積分関数を $[-1,1]$ 全体で 1 つの連続関数 $f$ により $f(x^2)\cdot2x$ と書くことはできないので、thm-intt-substitution は使えない。区間を $[-1,0]$ と $[0,1]$ に分ければ $\frac13+\frac13$ が出る。この反例は「置換の前後で端点の値だけ対応させればよい」という含意を破る。

反例:不連続点をまたいで原始関数の差をとる

$\bigl(-\frac1x\bigr)'=\frac1{x^2}$ から $\int_{-1}^1\frac{dx}{x^2}=\bigl[-\frac1x\bigr]_{-1}^1=-2$ とするのは誤りである。被積分関数は正なので負の値になるはずがない。$\frac1{x^2}$ は $0$ の近くで有界でなく、$[-1,1]$ での積分は存在しない(広義積分としても $\int_\varepsilon^1\frac{dx}{x^2}=\frac1\varepsilon-1\to\infty$ で発散する)。$-\frac1x$ は $x=0$ で定義されず、基本定理 II の「区間全体で $C^1$ 級」という仮定を満たさない。この反例は「原始関数が両端で値をもてば、定積分はその差で求まる」という含意を破る。置換積分・部分積分もすべて基本定理 II を通っているので、同じ注意がそのまま当てはまる。

対称性についても、「奇関数だから $0$」は積分が存在するときに限る。$\frac{x}{1+x^2}$ は奇関数だが、$\int_0^R\frac{x\,dx}{1+x^2}=\frac12\log(1+R^2)\to\infty$ なので $\int_{-\infty}^\infty$ は存在しない。

補足:形と最初に試す手

被積分関数の形を見て最初に試す手と、それを詳しく扱う記事を表にまとめる。どの行も「最初に試す手」であり、効かない場合があることは、リンク先で例とともに示す。

見える形最初に試す手詳しくは
合成関数 $f(g(x))$ と、中身の導関数 $g'(x)$ の積$t=g(x)$ と置換置換積分の使い方
$e^x$ の有理式、1 次式の根号 $\sqrt[n]{ax+b}$ を含む式$t=e^x$、$t=\sqrt[n]{ax+b}$ で有理関数へ置換積分の使い方
多項式 × $e^x$・$\sin x$・$\cos x$、多項式 × $\log x$、$\log x$・$\arctan x$ 単独部分積分部分積分の使い方
$e^{ax}\sin bx$ のように同じ形が戻る部分積分を 2 回して方程式を解く、複素指数関数部分積分の使い方
多項式の商(有理関数)割り算 → 分母の因数分解 → 部分分数分解有理関数の積分
$\sin x,\cos x$ の式奇数乗なら 1 つ取り出して置換、積和公式、$t=\tan x$、$t=\tan\frac x2$三角関数の有理式の積分
$\sqrt{a^2-x^2}$、$\sqrt{x^2+a^2}$、$\sqrt{x^2-a^2}$$x=a\sin\theta$、$x=a\sinh u$ など根号を含む関数の積分
区間が対称、被積分関数が $x\mapsto a+b-x$ や $x\mapsto\frac1x$ でよく似た形になる置換して元の積分と足す対称性を用いた積分
$\sin^nx$、$x^ne^x$、$(\log x)^n$ のように自然数 $n$ を含む部分積分で $n$ を下げる漸化式積分の漸化式
値ではなく大小・範囲・極限を問われる被積分関数の不等式、区分求積積分の評価
どの手を試しても原始関数が求まらない($e^{-x^2}$、$\frac{\sin x}x$ など)原始関数が初等関数で書けない可能性を疑う初等関数で表せない原始関数

関連項目

参考文献

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