Morleyの定理(Morley's trisector theorem)とは、どんな三角形 $ABC$ でも、3 つの角をそれぞれ 3 等分する直線を引き、各辺について、その辺の両端の頂点から出る三等分線のうち辺に近い 2 本の交点をとると、3 つの交点が正三角形をなすという定理である。正三角形の 1 辺の長さは、外接円の半径を $R$ として $8R\sin\frac A3\sin\frac B3\sin\frac C3$ である。3 倍角の公式を $\sin3\theta=4\sin\theta\sin(60^\circ-\theta)\sin(60^\circ+\theta)$ と積に分け、正弦定理と余弦定理で示せる。角を 4 等分したり、辺から遠い三等分線どうしの交点をとったりすると、一般に正三角形にならない。
前提知識: 加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く, 正弦定理(高校数学), 余弦定理(高校数学), 三角形の内角の和
三角形の 3 つの角の二等分線は、1 点(内心)で交わる。では、3 つの角をそれぞれ 3 等分する直線を引くとどうなるだろうか。各頂点から 2 本ずつ、合わせて 6 本の直線が引ける。
6 本は 1 点では交わらない。そこで、各辺について、その辺の両端の頂点から出る三等分線のうち その辺に近い方 の 2 本の交点をとる。辺が 3 つあるので交点も 3 つできる。図 1 は、ふつうの三角形でこの 3 点 $X$、$Y$、$Z$ をとったものである。3 点を結ぶと、正三角形のように見える。
三角形の 3 つの角をそれぞれ 3 等分し、各辺に近い 2 本の交点 X、Y、Z を結ぶと、青い三角形ができる
見た目だけでは確かでないので、座標で計算してみる。
$A(0,1)$、$B(-1,0)$、$C(1,0)$ とする。$\angle A=90^\circ$、$\angle B=\angle C=45^\circ$ なので、$A$ の三等分線は $30^\circ$ ずつ、$B$ と $C$ の三等分線は $15^\circ$ ずつに角を分ける。
(1) 辺 $BC$ に近い点 $X$。$B$ から出て辺 $BC$ と $15^\circ$ をなす直線と、$C$ から出て辺 $CB$ と $15^\circ$ をなす直線の交点である。図形は $y$ 軸について対称なので、$X$ は $y$ 軸の上にある。$B$ から $y$ 軸までの距離は $1$ なので、$X$ の $y$ 座標は $\tan15^\circ$ である。$\tan15^\circ=2-\sqrt3$(加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く の半角の公式で求まる)なので、$t=2-\sqrt3$ とおくと
$$
X=(0,\ t)
$$
である。
(2) 辺 $AB$ に近い点 $Z$。$B$ の三等分線のうち辺 $BA$ に近い方は、辺 $BC$ と $30^\circ$ をなすので、直線 $y=\dfrac{x+1}{\sqrt3}$ である。$A$ の三等分線のうち辺 $AB$ に近い方は、$x$ 軸と $75^\circ$ をなす(辺 $AB$ は $x$ 軸と $45^\circ$ をなし、そこから $30^\circ$ 回る)ので、傾きは $\tan75^\circ=2+\sqrt3$ で、直線 $y=1+(2+\sqrt3)x$ である。連立すると
$$
\frac{x+1}{\sqrt3}=1+(2+\sqrt3)x
$$
で、両辺に $\sqrt3$ を掛けて $x+1=\sqrt3+(2\sqrt3+3)x$、つまり $(-2-2\sqrt3)x=\sqrt3-1$ である。よって
$$
x=-\frac{\sqrt3-1}{2(\sqrt3+1)}=-\frac{(\sqrt3-1)^2}{2\cdot2}=-\frac{4-2\sqrt3}{4}=-\frac t2,\qquad y=\frac{-\frac t2+1}{\sqrt3}=\frac{\frac{\sqrt3}2}{\sqrt3}=\frac12
$$
となる($1-\dfrac t2=\dfrac{\sqrt3}2$ を使った)。$Z=\left(-\dfrac t2,\ \dfrac12\right)$ である。
(3) 辺 $CA$ に近い点 $Y$。対称性から $Y=\left(\dfrac t2,\ \dfrac12\right)$ である。
(4) 3 辺の長さ。$YZ=t$ である。$t=2-\sqrt3$ は $t^2-4t+1=0$ を満たす($t^2=7-4\sqrt3=4t-1$)ので、
$$
XZ^2=\left(\frac t2\right)^2+\left(\frac12-t\right)^2=\frac{t^2}4+\frac14-t+t^2=\frac{5t^2-4t+1}4=\frac{5(4t-1)-4t+1}4=\frac{16t-4}4=4t-1=t^2
$$
である。よって $XZ=t$、対称性から $XY=t$ で、
$$
\boxed{XY=YZ=ZX=2-\sqrt3}
$$
となる。三角形 $XYZ$ は正三角形である。
直角二等辺三角形では、Y と Z が直線 y=1/2 の上に並び、三角形 XYZ は 1 辺 2−√3 の正三角形になる
ex-mor-start では、3 点がちょうど正三角形をなした。この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学数学で見ると |
|---|---|---|
| 3 倍角の公式 $\sin3\theta=3\sin\theta-4\sin^3\theta$ | 積への分解 $4\sin\theta\sin(60^\circ-\theta)\sin(60^\circ+\theta)$(lem-mor-sin3) | 3 次式の因数分解 |
| 正弦定理・余弦定理 | 三等分線でできる小さい三角形の辺(thm-mor-main) | — |
| 角の和が $180^\circ$ の 3 つの角 | 角の和が $60^\circ$ になる $\alpha,\beta,\gamma$ | 回転の合成(rem-mor-connes) |
| 正三角形になることの確認 | Morley の三角形 | 1 の 3 乗根 $\omega$ による判定 |
以下、三角形 $ABC$ の角の大きさを $\angle A=3\alpha$、$\angle B=3\beta$、$\angle C=3\gamma$ と書く。内角の和は $180^\circ$ なので(三角形の内角の和)
$$
\alpha+\beta+\gamma=60^\circ,\qquad 0^\circ<\alpha,\ \beta,\ \gamma<60^\circ
$$
である。辺の長さを $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$、外接円の半径を $R$ とする。正弦定理(正弦定理(高校数学))により $a=2R\sin3\alpha$、$b=2R\sin3\beta$、$c=2R\sin3\gamma$ である。
頂点 $B$ から出て角 $\angle B$ の内部を通り、$\angle B$ を $3$ 等分する 2 本の半直線を、角 $B$ の 三等分線 という。そのうち辺 $BC$ と角 $\beta$ をなすものを「辺 $BC$ に近い三等分線」、辺 $BA$ と角 $\beta$ をなすものを「辺 $BA$ に近い三等分線」と呼ぶ。頂点 $A$、$C$ でも同じように定める。
次の 3 点をとる。
(R1) $X$:$B$ と $C$ から出る三等分線のうち、辺 $BC$ に近い 2 本の交点。
(R2) $Y$:$C$ と $A$ から出る三等分線のうち、辺 $CA$ に近い 2 本の交点。
(R3) $Z$:$A$ と $B$ から出る三等分線のうち、辺 $AB$ に近い 2 本の交点。
三角形 $XYZ$ を三角形 $ABC$ の Morley の三角形 という。
交点があることを確かめておく。$B$ と $C$ から、辺 $BC$ の同じ側($A$ の側)へ、辺 $BC$ と角 $\beta$、$\gamma$ をなす半直線を引く。$\beta+\gamma<60^\circ<180^\circ$ なので、2 本は $A$ の側で 1 点 $X$ で交わる(辺 $BC$ と 2 本の半直線で、角 $\beta$、$\gamma$ と $180^\circ-\beta-\gamma$ をもつ三角形 $XBC$ ができる)。$\angle XBC=\beta<3\beta$、$\angle XCB=\gamma<3\gamma$ なので、$X$ は三角形 $ABC$ の内部にある。$Y$、$Z$ も同じである。
三角形 $ABC$ が正三角形なら、$\alpha=\beta=\gamma=20^\circ$ である。三角形 $ABC$ の中心のまわりの $120^\circ$ の回転は、$A\to B\to C\to A$ と頂点を移し、三等分線を三等分線に、辺に近い三等分線を辺に近い三等分線に移す。したがってこの回転は $X\to Y\to Z\to X$ と移し、$XY=YZ=ZX$ である。正三角形の Morley の三角形は、対称性だけで正三角形になる。
ex-mor-start の直角二等辺三角形は、$y$ 軸についての折り返しの対称性しかもたない。対称性からは $XY=XZ$ しか出ず、$YZ$ も等しいことは計算で確かめた。
どんな三角形でも正三角形になることを示すには、対称性ではなく三角関数の計算がいる。道具を 2 つ用意する。
3 倍角の公式 $\sin3\theta=3\sin\theta-4\sin^3\theta$(加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く)を、3 つの正弦の積に書きかえる。
すべての角 $\theta$ について
$$
\sin3\theta=4\sin\theta\,\sin(60^\circ-\theta)\,\sin(60^\circ+\theta)
$$
である。
段 1(正弦の 2 乗の差)。加法定理から、任意の角 $x$、$y$ について
$$
\sin(x+y)\sin(x-y)=(\sin x\cos y+\cos x\sin y)(\sin x\cos y-\cos x\sin y)=\sin^2x\cos^2y-\cos^2x\sin^2y
$$
である。$\cos^2y=1-\sin^2y$、$\cos^2x=1-\sin^2x$ を代入すると
$$
\sin^2x(1-\sin^2y)-(1-\sin^2x)\sin^2y=\sin^2x-\sin^2y
$$
となる。つまり $\sin(x+y)\sin(x-y)=\sin^2x-\sin^2y$ である。
段 2(3 倍角の公式を変形する)。$\sin^260^\circ=\dfrac34$ なので
$$
\sin3\theta=3\sin\theta-4\sin^3\theta=4\sin\theta\left(\frac34-\sin^2\theta\right)=4\sin\theta\,\bigl(\sin^260^\circ-\sin^2\theta\bigr)
$$
である。
段 3(まとめる)。段 1 で $x=60^\circ$、$y=\theta$ とおくと $\sin^260^\circ-\sin^2\theta=\sin(60^\circ+\theta)\sin(60^\circ-\theta)$ である。段 2 に代入して結論を得る。$\square$
(2) $\theta=10^\circ$ のとき、$4\sin10^\circ\sin50^\circ\sin70^\circ\approx4\times0.17365\times0.76604\times0.93969\approx0.50000$ で、左辺 $\sin30^\circ=\dfrac12$ と一致する。
$x$、$y$、$z$ が正の角で $x+y+z=180^\circ$ を満たすとき
$$
\sin^2z=\sin^2x+\sin^2y-2\sin x\sin y\cos z
$$
である。
段 1(三角形を作る)。長さ $1$ の線分 $PQ$ を引き、その片側に、$P$ から $PQ$ と角 $x$ をなす半直線、$Q$ から $QP$ と角 $y$ をなす半直線を引く。$x+y=180^\circ-z<180^\circ$ なので、2 本は 1 点 $S$ で交わり、角が $x$($P$)、$y$($Q$)、$z$($S$)の三角形 $PQS$ ができる。これを拡大・縮小して、外接円の直径が $1$ の三角形にする(角は変わらない)。
段 2(辺を正弦で書く)。外接円の直径が $1$ なので、正弦定理により、角 $x$、$y$、$z$ の向かいの辺の長さはそれぞれ $\sin x$、$\sin y$、$\sin z$ である。
段 3(余弦定理)。角 $z$ の向かいの辺について余弦定理(余弦定理(高校数学))を書くと、$\sin^2z=\sin^2x+\sin^2y-2\sin x\sin y\cos z$ である。$\square$
どんな三角形 $ABC$ でも、Morley の三角形 $XYZ$(def-mor-triangle)は正三角形である。1 辺の長さは、外接円の半径を $R$ として
$$
XY=YZ=ZX=8R\sin\frac A3\sin\frac B3\sin\frac C3=8R\sin\alpha\sin\beta\sin\gamma
$$
である。
証明の方針:頂点 $B$ に集まる 2 点 $X$、$Z$ に注目する。$BX$ と $BZ$ を正弦定理で求め、角 $\angle XBZ$ をはさむ三角形 $XBZ$ に余弦定理を使って $XZ$ を出す。途中で lem-mor-sin3 が分母を消し、lem-mor-cos が余弦定理の右辺を 1 つの正弦にまとめる。
段 1($BX$ を求める)。三角形 $XBC$ で、$\angle XBC=\beta$、$\angle XCB=\gamma$ なので、$\angle BXC=180^\circ-\beta-\gamma$ である。正弦定理により
$$
\frac{BX}{\sin\gamma}=\frac{BC}{\sin(180^\circ-\beta-\gamma)}=\frac{a}{\sin(\beta+\gamma)}
$$
である。$\beta+\gamma=60^\circ-\alpha$、$a=2R\sin3\alpha$ と lem-mor-sin3 を代入すると
$$
BX=\frac{2R\sin3\alpha\,\sin\gamma}{\sin(60^\circ-\alpha)}=\frac{2R\cdot4\sin\alpha\,\cancel{\sin(60^\circ-\alpha)}\,\sin(60^\circ+\alpha)\,\sin\gamma}{\cancel{\sin(60^\circ-\alpha)}}=8R\sin\alpha\sin\gamma\sin(60^\circ+\alpha)
$$
となる($0^\circ<\alpha<60^\circ$ なので $\sin(60^\circ-\alpha)>0$ で、割ってよい)。
段 2($BZ$ を求める)。三角形 $ZAB$ で、$\angle ZAB=\alpha$、$\angle ZBA=\beta$ なので、$\angle AZB=180^\circ-\alpha-\beta$ である。正弦定理により
$$
\frac{BZ}{\sin\alpha}=\frac{AB}{\sin(\alpha+\beta)}=\frac{c}{\sin(60^\circ-\gamma)}
$$
である。$c=2R\sin3\gamma=8R\sin\gamma\sin(60^\circ-\gamma)\sin(60^\circ+\gamma)$(lem-mor-sin3)を代入すると
$$
BZ=8R\sin\alpha\sin\gamma\sin(60^\circ+\gamma)
$$
となる。
段 3(角 $\angle XBZ$)。半直線 $BX$ は辺 $BC$ と角 $\beta$ をなす三等分線、半直線 $BZ$ は辺 $BC$ と角 $2\beta$ をなす三等分線(辺 $BA$ と角 $\beta$ をなす方)である。どちらも角 $\angle B$ の内部にあるので、$\angle XBZ=2\beta-\beta=\beta$ である。
段 4($XZ$ を求める)。$k=8R\sin\alpha\sin\gamma$ とおくと、段 1・段 2 から $BX=k\sin(60^\circ+\alpha)$、$BZ=k\sin(60^\circ+\gamma)$ である。三角形 $XBZ$ で余弦定理を使い、段 3 の $\angle XBZ=\beta$ を入れると
$$
XZ^2=BX^2+BZ^2-2\,BX\cdot BZ\cos\beta=k^2\Bigl(\sin^2(60^\circ+\alpha)+\sin^2(60^\circ+\gamma)-2\sin(60^\circ+\alpha)\sin(60^\circ+\gamma)\cos\beta\Bigr)
$$
である。3 つの角 $60^\circ+\alpha$、$60^\circ+\gamma$、$\beta$ はどれも正で、和は $120^\circ+(\alpha+\beta+\gamma)=180^\circ$ である。そこで lem-mor-cos を $x=60^\circ+\alpha$、$y=60^\circ+\gamma$、$z=\beta$ として使うと、かっこの中は $\sin^2\beta$ に等しい。よって
$$
XZ^2=k^2\sin^2\beta,\qquad XZ=k\sin\beta=8R\sin\alpha\sin\beta\sin\gamma
$$
である($k>0$、$\sin\beta>0$)。
段 5(残りの 2 辺)。段 1〜4 は頂点 $B$ とそこに集まる 2 点 $X$、$Z$ について計算した。頂点の名前を $A\to B\to C\to A$ と回すと($\alpha\to\beta\to\gamma\to\alpha$、$X\to Y\to Z\to X$ と回る)、頂点 $C$ に集まる 2 点 $Y$、$X$ について $YX=8R\sin\beta\sin\gamma\sin\alpha$ が同じ計算で出る。もう一度回すと、頂点 $A$ に集まる 2 点 $Z$、$Y$ について $ZY=8R\sin\gamma\sin\alpha\sin\beta$ が出る。3 つの値は等しいので、三角形 $XYZ$ は正三角形である。$\square$
証明の鍵は段 4 である。三角形 $XBZ$ の 2 辺 $BX$、$BZ$ と間の角 $\beta$ が、角 $60^\circ+\alpha$、$60^\circ+\gamma$、$\beta$ の三角形の辺と同じ比になっている。そのため $XZ$ は、その三角形の $3$ 辺目にあたる「$k\sin\beta$」になる。$k\sin\beta$ は $\alpha$、$\beta$、$\gamma$ について対称な式なので、どの頂点で計算しても同じ値が出る。
段 1 の式は $BX=8\sin30^\circ\sin15^\circ\sin90^\circ=4\sin15^\circ\approx1.03528$ で、座標から $BX=\sqrt{1+t^2}\approx1.03528$($t=2-\sqrt3$)である。段 2 の式は $BZ=4\sin15^\circ\sin75^\circ=4\cdot\dfrac14=1$(ex-mor-sin3 の (1))で、座標から $BZ^2=\left(1-\dfrac t2\right)^2+\dfrac14=\dfrac34+\dfrac14=1$ である。
$X\approx(0.54664,\ 0.44037)$、$Y\approx(0.53394,\ 0.89860)$、$Z\approx(0.14345,\ 0.65848)$ である。
鈍角三角形 A(−1,2)、B(0,0)、C(4,0) でも、Morley の三角形 XYZ は正三角形になる
外角の三等分線のうち各辺に近い 2 本の交点 X′、Y′、Z′ も正三角形をなす
図 4 は、内角の代わりに 外角 を 3 等分した場合である。各頂点の外角($180^\circ$ から内角を引いた角)を 3 等分し、各辺について、その辺の両端から出て辺に近い 2 本の交点をとると、三角形の外側に 3 点 $X'$、$Y'$、$Z'$ ができる。この 3 点も正三角形をなす。この記事では証明しない(rem-mor-connes の方法で、内角の場合とまとめて示せる)。図 1 の三角形 $A(1,4)$、$B(0,0)$、$C(5,0)$ で数値で計算すると、3 辺はどれも約 $6.07198$ になる。
thm-mor-main の証明は、与えられた三角形から出発して計算した。逆に、正三角形から出発して三角形を組み立てる証明もある。J. H. Conway による証明で、Bog26 に図つきで紹介されている。図 5 は、図 1 の三角形を三等分線と Morley の三角形で 7 枚に切り分けたものである。
最初の図と同じ三角形を、Morley の三角形(青)、頂点 A、B、C の側の 3 枚(赤)、辺の側の 3 枚(緑)の 7 枚に切り分けて少し離した図
以下、角 $\theta$ に $60^\circ$ を足した角を $\theta^{+}$、$120^\circ$ を足した角を $\theta^{++}$ と書く。7 枚の三角形の角は次のとおりである($\alpha+\beta+\gamma=60^\circ$ なので、どれも角の和は $180^\circ$)。
| 三角形 | 角 |
|---|---|
| $XYZ$ | $60^\circ,\ 60^\circ,\ 60^\circ$ |
| $AYZ$、$BZX$、$CXY$ | $A$ で $\alpha$、$Y$ で $\gamma^{+}$、$Z$ で $\beta^{+}$/$B$ で $\beta$、$Z$ で $\alpha^{+}$、$X$ で $\gamma^{+}$/$C$ で $\gamma$、$X$ で $\beta^{+}$、$Y$ で $\alpha^{+}$ |
| $XBC$、$YCA$、$ZAB$ | $X$ で $\alpha^{++}$/$Y$ で $\beta^{++}$/$Z$ で $\gamma^{++}$、残りの 2 角は頂点の三等分の角 |
方針:$\alpha+\beta+\gamma=60^\circ$ を満たす正の角 $\alpha,\beta,\gamma$ を与える。上の表の 7 枚の三角形を、辺の長さが合うように大きさを決めて作り、貼り合わせる。貼り合わせた図形が角 $3\alpha,3\beta,3\gamma$ の三角形になり、その中の正三角形がちょうど Morley の三角形になることを確かめる。
段 1(大きさを決める)。1 辺 $1$ の正三角形 $XYZ$ を作る。三角形 $AYZ$ は、辺 $YZ=1$ で、$Y$ の角 $\gamma^{+}$、$Z$ の角 $\beta^{+}$ をもつように $YZ$ の外側に作る。$BZX$、$CXY$ も同じく、それぞれ辺 $ZX=1$、$XY=1$ の外側に作る。正弦定理により $AZ=\dfrac{\sin\gamma^{+}}{\sin\alpha}$、$BZ=\dfrac{\sin\gamma^{+}}{\sin\beta}$ である。
段 2(すき間の三角形の長さが合う)。$Z$ のまわりの角は、$XYZ$ の $60^\circ$、$AYZ$ の $\beta^{+}$、$BZX$ の $\alpha^{+}$ で、合計は $60^\circ+120^\circ+\alpha+\beta=180^\circ+(60^\circ-\gamma)$ である。残りの角は $360^\circ-240^\circ+\gamma=120^\circ+\gamma=\gamma^{++}$ で、ここに三角形 $ZAB$ が入る。角 $\alpha$($A$)、$\beta$($B$)、$\gamma^{++}$($Z$)の三角形では、正弦定理により $AZ:BZ=\sin\beta:\sin\alpha$ である。段 1 の値も $AZ:BZ=\dfrac1{\sin\alpha}:\dfrac1{\sin\beta}=\sin\beta:\sin\alpha$ なので、三角形 $ZAB$ を $AZ$ が段 1 の値になる大きさにとれば、$BZ$ も段 1 の値に一致し、すき間にぴったり入る。$X$、$Y$ のまわりでも同じである。
段 3(大きな三角形になる)。頂点 $A$ には、$ZAB$ の $\alpha$、$AYZ$ の $\alpha$、$YCA$ の $\alpha$ が集まり、合計 $3\alpha$ である。同じく $B$ には $3\beta$、$C$ には $3\gamma$ が集まる。外側の辺は $AB$、$BC$、$CA$ の 3 本だけなので、7 枚は角 $3\alpha,3\beta,3\gamma$ の三角形 $ABC$ になる。直線 $AZ$、$AY$ は角 $A$ を $3$ 等分し、$BZ$、$BX$、$CX$、$CY$ も同じである。$X$ は $B$、$C$ から出て辺 $BC$ に近い三等分線の交点なので、正三角形 $XYZ$ はこの三角形の Morley の三角形である。
段 4(すべての三角形に当てはまる)。角が同じ三角形は相似で、相似な拡大・縮小は三等分線と Morley の三角形をそのまま移し、正三角形を正三角形に移す。どんな三角形 $ABC$ も、角 $\dfrac A3,\dfrac B3,\dfrac C3$ で作った段 3 の三角形と相似なので、その Morley の三角形も正三角形である。$\square$
Conway の証明は、三角関数をほとんど使わない。そのかわりに「角が $60^\circ$ ずつずれた三角形がすき間なく並ぶ」ことを、角の和の計算で確かめている。thm-mor-main の証明で lem-mor-cos に出てきた角 $60^\circ+\alpha$、$60^\circ+\gamma$、$\beta$ は、ちょうど 7 枚のうちの三角形 $BZX$ の角である。
「どんな三角形からも正三角形が出てくる」定理には、Napoleonの定理 もある。3 辺の外側に正三角形を立てると、その 3 つの重心が正三角形をなす、という定理である。2 つを並べる。
| Napoleon の定理 | Morley の定理 | |
|---|---|---|
| 作り方 | 3 辺に正三角形を立て、その重心を結ぶ | 3 つの角を 3 等分し、辺に近い三等分線の交点を結ぶ |
| 出てくる正三角形の 1 辺 | 辺の長さと面積で書ける | $8R\sin\frac A3\sin\frac B3\sin\frac C3$ |
| 正三角形になる理由 | $60^\circ$ の回転($\omega$ を掛ける)の組み合わせ | 角の和 $\alpha+\beta+\gamma=60^\circ$ と 3 倍角の公式 |
| 証明の道具 | 複素数、1 の 3 乗根 $\omega$ | 正弦定理・余弦定理(または Conway の組み立て) |
| 正三角形の中心 | もとの三角形の重心と一致する | 一般には重心と一致しない(ex-mor-center) |
| 定規とコンパスでの作図 | できる | 一般にはできない(rem-mor-construct) |
ex-mor-start の直角二等辺三角形では、Morley の三角形の重心は
$$
\frac{X+Y+Z}3=\left(0,\ \frac{t+\frac12+\frac12}3\right)=\left(0,\ \frac{3-\sqrt3}3\right)\approx(0,\ 0.42265)
$$
である。もとの三角形の重心は $\left(0,\ \dfrac13\right)$、内心は $(0,\ \sqrt2-1)\approx(0,\ 0.41421)$、外心は $(0,0)$、垂心は $A(0,1)$ で、どれとも一致しない。
$60^\circ$ の角は、定規とコンパスでは 3 等分できない(3大作図問題の不可能性)。角 $B=60^\circ$ の三角形で Morley の三角形の頂点 $X$ が作図できたとすると、直線 $BX$ を引くことで $\angle B$ の三等分線、つまり $20^\circ$ の角が作図できてしまう。したがって、このような三角形の Morley の三角形は定規とコンパスでは作図できない。Napoleon の定理の正三角形は、正三角形の作図と重心の作図だけで作れる。
thm-mor-main の「3 等分」「辺に近い 2 本」という条件を変えると、どうなるかを調べる。すべて ex-mor-start の直角二等辺三角形 $A(0,1)$、$B(-1,0)$、$C(1,0)$ で計算する。
| 変える条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 3 等分を 2 等分にする | 3 点がすべて内心に重なる(ex-mor-cx-bisect) | 三角形ができない |
| 3 等分を 4 等分にする(辺に近い 2 本の交点) | 3 辺が約 $0.3801$、$0.3915$、$0.3915$(ex-mor-cx-quarter) | 正三角形になること |
| 辺に近い 2 本を、辺から遠い 2 本に替える | 3 辺が約 $0.3660$、$0.3182$、$0.3182$(ex-mor-cx-far) | 正三角形になること |
| 内角を外角に替える | 反例にならない(図 4) | 正三角形のまま |
「辺 $BC$ に近い二等分線」は、角 $B$ と角 $C$ の二等分線そのものである。2 本の交点は内心 $I$ である。辺 $CA$、$AB$ についても交点は内心 $I$ なので、3 点はすべて $I$ に重なる。直角二等辺三角形では $I=(0,\ \tan22.5^\circ)=(0,\ \sqrt2-1)$ である。3 点が重なるので、三角形はできない。
各角を 4 等分し、各辺について、その辺の両端から出て辺に最も近い 2 本の交点をとる。$B$、$C$ の角 $45^\circ$ の 4 等分は $11.25^\circ$ なので、辺 $BC$ に近い点は $P_1=(0,\ \tan11.25^\circ)\approx(0,\ 0.19891)$ である。辺 $CA$、$AB$ に近い点を座標で求めると $P_2\approx(0.19004,\ 0.54120)$、$P_3\approx(-0.19004,\ 0.54120)$ で、
$$
P_2P_3\approx0.38009,\qquad P_1P_2=P_1P_3\approx0.39150
$$
である。3 辺が等しくないので、正三角形ではない。
各辺について、その辺の両端から出る三等分線のうち、辺から 遠い 方の 2 本の交点をとる。辺 $BC$ については、$B$、$C$ から辺 $BC$ と $30^\circ$ をなす 2 本の交点で、$Q_1=(0,\ \tan30^\circ)=\left(0,\ \dfrac1{\sqrt3}\right)\approx(0,\ 0.57735)$ である。辺 $CA$、$AB$ についての交点は $Q_2,Q_3=\left(\pm\dfrac{\sqrt3-1}4,\ \dfrac{3-\sqrt3}4\right)\approx(\pm0.18301,\ 0.31699)$ で、
$$
Q_2Q_3=\frac{\sqrt3-1}2\approx0.36603,\qquad Q_1Q_2=Q_1Q_3\approx0.31825
$$
である。正三角形ではない。
$Q_1Q_2^2=\left(\dfrac{\sqrt3-1}4\right)^2+\left(\dfrac1{\sqrt3}-\dfrac{3-\sqrt3}4\right)^2$ である。$\dfrac1{\sqrt3}-\dfrac{3-\sqrt3}4=\dfrac{4-3\sqrt3+3}{4\sqrt3}=\dfrac{7-3\sqrt3}{4\sqrt3}$ なので、$Q_1Q_2^2=\dfrac{4-2\sqrt3}{16}+\dfrac{76-42\sqrt3}{48}=\dfrac{12-6\sqrt3+76-42\sqrt3}{48}=\dfrac{88-48\sqrt3}{48}=\dfrac{11-6\sqrt3}6\approx0.10128$ で、$Q_1Q_2\approx0.31825$ である。$Q_2Q_3^2=\dfrac{4-2\sqrt3}4\approx0.13397$ とは異なる。
角を 4 等分して辺に近い 2 本の交点を結ぶと、正三角形にならない
辺から遠い三等分線どうしの交点を結ぶと、正三角形にならない
thm-mor-main の証明を振り返ると、どこで「3 等分」と「辺に近い」が効いたかが分かる。「3 等分」は $\alpha+\beta+\gamma=60^\circ$ を与え、lem-mor-sin3 の $60^\circ$ と組み合わさった。「辺に近い」は、段 3 の $\angle XBZ=\beta$ と、段 4 の 3 つの角 $60^\circ+\alpha$、$60^\circ+\gamma$、$\beta$ の和がちょうど $180^\circ$ になることを与えた。4 等分では角の和が $45^\circ$ になり、lem-mor-sin3 のような分解が使えない。
thm-mor-main の証明は計算で正三角形になることを示したが、「なぜ $60^\circ$ が出てくるのか」は見えにくい。A. Connes は、平面の回転の合成として Morley の定理を見直した(Con98)。
頂点 $A$ を中心とする角 $2\alpha$ の回転を $g_1$、$B$ を中心とする角 $2\beta$ の回転を $g_2$、$C$ を中心とする角 $2\gamma$ の回転を $g_3$ とする(向きは適切にそろえる)。
(1) $g_1$ を 3 回続けると、$A$ を中心とする角 $6\alpha=2\angle A$ の回転になる。これは、辺 $AB$ を含む直線と辺 $AC$ を含む直線に関する 2 つの折り返しを続けたものに等しい(回転・鏡映と行列の群)。$g_2^3$、$g_3^3$ も同じなので、同じ直線の折り返しが 2 回続いて打ち消し合い、$g_1^3g_2^3g_3^3$ は恒等変換になる。
(2) 合成 $g_1g_2$ の動かない点(不動点)は、$A$ と $B$ から出て辺 $AB$ に近い三等分線の交点 $Z$ である。同じく $g_2g_3$、$g_3g_1$ の不動点は $X$、$Y$ である。
(3) 平面の点を複素数で表すと、回転は $z\mapsto az+b$($\lvert a\rvert=1$)の形の変換である。Connes は、この形の変換 $g_1,g_2,g_3$ について、「$g_1^3g_2^3g_3^3$ が恒等変換」であることと、「$j=a_1a_2a_3$ が $j^3=1$ を満たし、$g_1g_2$、$g_2g_3$、$g_3g_1$ の不動点 $z_{12}$、$z_{23}$、$z_{31}$ が $z_{12}+jz_{23}+j^2z_{31}=0$ を満たすこと」が同値であることを、係数の計算だけで示した($g_1g_2$ などが平行移動でないことなどを仮定する)。Morley の場合は $j=e^{i\cdot2(\alpha+\beta+\gamma)}=e^{i\cdot120^\circ}$ で、$j$ は 1 の虚数の 3 乗根 $\omega$ になる。
(4) 3 点 $z_1,z_2,z_3$ について $z_1+\omega z_2+\omega^2z_3=0$ は、3 点が正三角形の頂点であることの判定式である(Napoleonの定理 の判定の補題)。こうして「角の和 $\alpha+\beta+\gamma=60^\circ$」が「$j$ が 1 の 3 乗根」に置きかわり、正三角形が出てくる。
(5) この議論は、$z\mapsto az+b$ の形の変換(1 次元のアフィン変換)の群の性質だけを使うので、複素数に限らず一般の体の上で成り立つ。回転の角の選び方を変えると、外角の三等分線の正三角形(図 4)などもまとめて得られる。
三等分線を引くことは、3 倍角の公式 $\cos3\theta=4\cos^3\theta-3\cos\theta$ から、3 次方程式を解くことに当たる。Morley の定理の証明に 3 倍角の公式(lem-mor-sin3)が現れるのも、1 の 3 乗根(1の冪根)が現れるのも、この「3」から来ている。
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