サイクロイド

同義語:cycloid

概要

サイクロイド(cycloid)とは、半径 $a$ の円が直線の上を滑らずに転がるとき、円周の上の 1 点がえがく曲線 $\bigl(a(t-\sin t),\,a(1-\cos t)\bigr)$ である。複素数では中心の平行移動と回転の合成 $a(t+i)-ai\,e^{-it}$ と書ける。$0<t<2\pi$ の点での接線は転がる円の最上点を通り、法線は円と直線の接点を通る。上下に反転したサイクロイドの滑り台では、摩擦がなく力学的エネルギーが保存されると仮定すると、どこから静かに離した玉も最下点まで同じ時間 $\pi\sqrt{a/g}$ で着く(等時性)。同じ深さの放物線ではこの性質は成り立たない。曲率半径は $4a\sin\frac t2$ で、曲率の中心の軌跡は合同なサイクロイドになる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 媒介変数表示と曲線の長さ, 速度と加速度, ベクトルの内積, 複素数の掛け算は回転と拡大, 置換積分の使い方

高校での出発点:転がる車輪の上の点

自転車の車輪の縁に印を付けて、まっすぐな道の上を転がす。印は地面に触れたあと、弧をえがいて持ち上がり、また地面に下りてくる。この弧を サイクロイド という。
半径 $a$ の円が $x$ 軸の上を滑らずに右へ転がり、はじめ原点にあった円周の上の点を $P$ とする。円が角 $t$ だけ回ったとき、$P$ の位置は
$$ x=a(t-\sin t),\qquad y=a(1-\cos t) $$
である。この式の導き方($a=1$ の場合)は 媒介変数表示と曲線の長さ の例「サイクロイドの長さ」にある。この記事では、下の def-cyc で複素数を使ってもう一度導く。

転がる円の上の点の位置

$a=1$ として、$t$ のいくつかの値で点 $P$ の位置を計算する。$\sin$ と $\cos$ の値を代入するだけである。

$t$$0$$\dfrac\pi2$$\pi$$\dfrac{3\pi}2$$2\pi$
$x=t-\sin t$$0$$\dfrac\pi2-1$$\pi$$\dfrac{3\pi}2+1$$2\pi$
$y=1-\cos t$$0$$1$$2$$1$$0$

$t=\pi$ で $P=(\pi,2)$ となり、点は円のいちばん上にくる。このとき円の中心は $(\pi,1)$ である。$t=2\pi$ で円は 1 回転し、点は $(2\pi,0)$ で再び地面に触れる。$0\le t\le2\pi$ の部分を 1 つのアーチという。

サイクロイドの基本的な量は、次の記事で計算してある。

  • 1 つのアーチの長さは $8a$(媒介変数表示と曲線の長さ の例「サイクロイドの長さ」。$a=1$ で $8$)。
  • 1 つのアーチと $x$ 軸で囲まれた部分の面積は $3\pi a^2$、転がる円の面積のちょうど $3$ 倍(媒介変数表示の曲線が囲む面積 の例「サイクロイドの下の面積」)。
  • $P$ の速度と加速度、点が地面に触れる瞬間に速さが $0$ になること(速度と加速度 の例「転がる車輪の上の点(サイクロイド)」)。
    この記事では長さや面積を繰り返さず、サイクロイドの 向き と 滑り台としての性質 を調べる。問いは次の 3 つである。
  1. サイクロイドの接線は、転がる円のどこを通るか。→ thm-cyc-tangent
  2. サイクロイドを上下にひっくり返した滑り台で玉を離すと、最下点まで何秒かかるか。→ thm-cyc-tautochrone
  3. サイクロイドはどのくらい曲がっているか。→ rem-cyc-evolute
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    媒介変数表示 $x=a(t-\sin t)$、$y=a(1-\cos t)$平行移動と回転の合成 $z(t)$転がり曲線(ルーレット)
    速度ベクトル、内積が $0$法線は接点 $C$ を通る瞬間回転中心
    置換積分 $u=\sin\theta$最下点までの時間が一定等時性、単振動
    曲率半径曲率の中心の軌跡縮閉線

サイクロイドを平行移動と回転で書く

点の位置は「円の中心の位置」と「中心から見た点の位置」の和である。前者は平行移動、後者は回転で書ける。複素数平面で書くと、回転は $e^{i\theta}$ を掛けることになる(複素数の掛け算は回転と拡大)。ここで $e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$ であり、$e^{i\theta}$ を掛けると点は原点のまわりに角 $\theta$ だけ回る($\theta<0$ なら時計回り)。

サイクロイド

$a>0$ とする。半径 $a$ の円が、$x$ 軸の上側で $x$ 軸に接しながら、滑らずに右へ転がる。はじめ原点にあった円周の上の点 $P$ の、円が角 $t$ だけ回ったときの位置を $P(t)$ とする。複素数で書くと
$$ z(t)=\underbrace{a(t+i)}_{\text{中心}}\ \underbrace{-\,ai\,e^{-it}}_{\text{中心から見た }P} $$
であり、実部と虚部に分けると
$$ P(t)=\bigl(a(t-\sin t),\ a(1-\cos t)\bigr) $$
である。$t$ がすべての実数を動くときに $P(t)$ がえがく曲線を サイクロイド(cycloid)という。$P(t)$ が $x$ 軸に触れる点 $t=2k\pi$($k$ は整数)を 尖点 という。

式の導き方を 2 段に分けて説明する。
段 1(中心の位置)。滑らずに転がるので、円が $x$ 軸に接している点(接点)が原点から進んだ距離は、円周の上で接点から $P$ までの弧の長さに等しい。この弧は半径 $a$、中心角 $t$ なので長さは $at$ である。よって接点は $(at,0)$、中心は $(at,a)$ で、複素数では $a(t+i)=at+ai$ である。
段 2(中心から見た $P$)。はじめ $P$ は中心の真下にあり、中心から見た位置は $-ai$ である。右へ転がる円は時計回りに回るので、角 $t$ だけ回ったあとの位置は、$-ai$ を時計回りに角 $t$ だけ回したもの、つまり $e^{-it}$ を掛けた $-ai\,e^{-it}$ である。
2 つを足すと def-cyc の $z(t)$ になる。実部と虚部は、$e^{-it}=\cos t-i\sin t$ と $i^2=-1$ から
$$ -ai\,e^{-it}=-ai(\cos t-i\sin t)=-ai\cos t+ai^2\sin t=-a\sin t-ai\cos t $$
なので、$z(t)=(at-a\sin t)+i(a-a\cos t)$ である。

複素数の式で点を計算する

$a=1$ とする。
(1) $t=\dfrac\pi2$。$e^{-i\pi/2}=\cos\dfrac\pi2-i\sin\dfrac\pi2=-i$ なので、中心から見た $P$ は $-i\cdot(-i)=i^2=-1$ である。中心は $\dfrac\pi2+i$ なので
$$ z\left(\frac\pi2\right)=\frac\pi2+i-1=\left(\frac\pi2-1\right)+i $$
で、ex-cyc-start の $\left(\dfrac\pi2-1,\,1\right)$ と一致する。中心から見て $P$ は真左にある。
(2) $t=\dfrac{2\pi}3$ では $z\left(\dfrac{2\pi}3\right)=\left(\dfrac{2\pi}3-\dfrac{\sqrt3}2\right)+\dfrac32i$ である。

(2) の計算を開く

$e^{-2\pi i/3}=-\dfrac12-\dfrac{\sqrt3}2i$ なので、中心から見た $P$ は

$$-i\left(-\frac12-\frac{\sqrt3}2i\right)=\frac12i+\frac{\sqrt3}2i^2=-\frac{\sqrt3}2+\frac12i$$

である。中心 $\dfrac{2\pi}3+i$ に足すと $\left(\dfrac{2\pi}3-\dfrac{\sqrt3}2\right)+\dfrac32i$ で、実数の式 $\left(\dfrac{2\pi}3-\sin\dfrac{2\pi}3,\ 1-\cos\dfrac{2\pi}3\right)$ と一致する。

「滑らずに転がる」ことは、円の中で地面に触れている点が一瞬止まっていることとしても言える。中心は右へ速さ $a$ で進み(段 1 より中心の $x$ 座標は $at$)、円は角の速さ $1$ で時計回りに回るので、円のいちばん下の点は回転によって左へ速さ $a\cdot1=a$ で動く。2 つを合わせると速度は $0$ になる。この見方は rem-cyc-instant で使う。

主定理 1:接線は最上点を、法線は接点を通る

円が角 $t$ だけ回ったとき、転がる円の接点を $C(t)=(at,0)$、円のいちばん上の点(最上点)を $T(t)=(at,2a)$ とする。線分 $CT$ は転がる円の直径である。
曲線の接線と法線は、速度ベクトルで決める(速度と加速度)。$P(t)$ の速度ベクトル $\vec v(t)=\left(\dfrac{dx}{dt},\dfrac{dy}{dt}\right)$ が $\vec0$ でないとき、$P(t)$ を通り $\vec v(t)$ の向きの直線を 接線、$P(t)$ を通り $\vec v(t)$ に垂直な直線を 法線 という。

サイクロイドの接線と法線

$0< t<2\pi$ とする。サイクロイドの点 $P(t)$ での接線は最上点 $T(t)$ を通り、法線は接点 $C(t)$ を通る。

速度ベクトルと内積で調べる

方針:速度ベクトルを計算し、$\overrightarrow{PC}$ との内積が $0$ であること、$\overrightarrow{PT}$ と平行であることを確かめる。$P(t)$、$C(t)$、$T(t)$ を $P$、$C$、$T$ と書く。
段 1(速度ベクトル)。$x=a(t-\sin t)$、$y=a(1-\cos t)$ を $t$ で微分すると
$$ \vec v=\bigl(a(1-\cos t),\ a\sin t\bigr) $$
である。その大きさは $\lvert\vec v\rvert^2=a^2(1-2\cos t+\cos^2t+\sin^2t)=2a^2(1-\cos t)=4a^2\sin^2\dfrac t2$(半角の公式 $1-\cos t=2\sin^2\dfrac t2$)で、$0< t<2\pi$ では $0<\dfrac t2<\pi$ なので $\sin\dfrac t2>0$、つまり $\vec v\ne\vec0$ である。したがって接線と法線が決まる。
段 2(法線は $C$ を通る)。$\overrightarrow{PC}=C-P=\bigl(at-a(t-\sin t),\ 0-a(1-\cos t)\bigr)=\bigl(a\sin t,\ -a(1-\cos t)\bigr)$ である。内積は
$$ \vec v\cdot\overrightarrow{PC}=a(1-\cos t)\cdot a\sin t+a\sin t\cdot\bigl(-a(1-\cos t)\bigr)=0 $$
である。また $\lvert\overrightarrow{PC}\rvert^2=a^2\sin^2t+a^2(1-\cos t)^2=2a^2(1-\cos t)>0$ なので $\overrightarrow{PC}\ne\vec0$ である。よって直線 $PC$ は $P$ を通り $\vec v$ に垂直な直線、つまり法線である(ベクトルの内積)。
段 3(接線は $T$ を通る)。$\overrightarrow{PT}=T-P=\bigl(a\sin t,\ 2a-a(1-\cos t)\bigr)=\bigl(a\sin t,\ a(1+\cos t)\bigr)$ である。$\vec v=(p,q)$、$\overrightarrow{PT}=(r,s)$ とおいて $ps-qr$ を計算すると
$$ ps-qr=a(1-\cos t)\cdot a(1+\cos t)-a\sin t\cdot a\sin t=a^2(1-\cos^2t-\sin^2t)=0 $$
である。
段 4($ps-qr=0$ なら平行)。$(p,q)\ne(0,0)$ で $ps-qr=0$ なら、$(r,s)=k(p,q)$ となる実数 $k$ がある。実際、$p\ne0$ なら $k=\dfrac rp$ とおくと $s=\dfrac{qr}p=kq$ である。$p=0$ なら $q\ne0$ で、$ps-qr=-qr=0$ から $r=0$ となり、$k=\dfrac sq$ とおけば $(r,s)=(0,s)=k(0,q)$ である。段 1 より $\vec v\ne\vec0$ なので、$\overrightarrow{PT}=k\vec v$ となる $k$ がある。よって $T=P+k\vec v$ は、$P$ を通り $\vec v$ の向きの直線、つまり接線の上にある。$\square$

$t=\pi$ では $P=T$ で、$\overrightarrow{PT}=\vec0$ である(段 4 の $k=0$)。このときも「接線は $T$ を通る」は正しい。接線は水平で、法線は $P$ から真下の $C$ へ向かう。

主定理 1 を数で確かめる

$a=1$ とする。
(1) $t=\dfrac\pi2$。$P=\left(\dfrac\pi2-1,\,1\right)$、$T=\left(\dfrac\pi2,\,2\right)$、$C=\left(\dfrac\pi2,\,0\right)$ で、$\vec v=(1-0,\ 1)=(1,1)$ である。
$$ \overrightarrow{PT}=(1,1)=\vec v,\qquad \overrightarrow{PC}=(1,-1),\qquad \vec v\cdot\overrightarrow{PC}=1-1=0 $$
接線は傾き $1$ の直線 $y=x-\dfrac\pi2+2$ で、$x=\dfrac\pi2$ を代入すると $y=2$、たしかに $T$ を通る。
(2) $t=\dfrac{2\pi}3$ でも $\vec v=\sqrt3\,\overrightarrow{PT}$、$\vec v\cdot\overrightarrow{PC}=0$ となる(図 1 はこの場合)。

(2) の計算を開く

ex-cyc-complex (2) の $P=\left(\dfrac{2\pi}3-\dfrac{\sqrt3}2,\ \dfrac32\right)$ で、$\vec v=\left(1+\dfrac12,\ \dfrac{\sqrt3}2\right)=\left(\dfrac32,\ \dfrac{\sqrt3}2\right)$ である。$\overrightarrow{PT}=\left(\dfrac{\sqrt3}2,\ \dfrac12\right)$ なので $\vec v=\sqrt3\,\overrightarrow{PT}$、$\overrightarrow{PC}=\left(\dfrac{\sqrt3}2,\ -\dfrac32\right)$ なので $\vec v\cdot\overrightarrow{PC}=\dfrac{3\sqrt3}4-\dfrac{3\sqrt3}4=0$ である。


(3) $t=\pi$。$P=T=(\pi,2)$、$\vec v=(2,0)$ で、接線は水平な直線 $y=2$、法線は $P$ から $C=(\pi,0)$ へ下りる直線 $x=\pi$ である。

半径 1 の円(緑の破線)が角 2π/3 だけ転がったときの点 P。P での接線(青)は円の最上点 T を、法線(赤)は接点 C を通り、2 本は P で直角に交わる 半径 1 の円(緑の破線)が角 2π/3 だけ転がったときの点 P。P での接線(青)は円の最上点 T を、法線(赤)は接点 C を通り、2 本は P で直角に交わる
図 1 で、$T$ と $C$ は転がる円の直径の両端で、$P$ はその円の上にある。直径に対する円周角は直角なので $\angle TPC=90^\circ$ である(円周角の定理(高校数学))。このため、段 2 で法線が $C$ を通ると分かれば、それに垂直な接線は $P$ と $T$ を結ぶ直線になる。段 3 はこのことを計算で確かめたものである。

接線の傾き

主定理 1 から、接線の傾きは直線 $PT$ の傾きである。$t\ne\pi$($0< t<2\pi$)では
$$ \frac{2a-a(1-\cos t)}{at-a(t-\sin t)}=\frac{1+\cos t}{\sin t}=\frac{2\cos^2\frac t2}{2\sin\frac t2\cos\frac t2}=\frac{\cos\frac t2}{\sin\frac t2} $$
である(分子は半角の公式 $1+\cos t=2\cos^2\dfrac t2$、分母は 2 倍角の公式)。これは 媒介変数表示と曲線の長さ の例「媒介変数で表した曲線の接線の傾き」で $\dfrac{dy/dt}{dx/dt}$ から求めた値と一致する。たとえば $t=\dfrac\pi2$ で傾き $1$(ex-cyc-check (1))、$t=\dfrac{2\pi}3$ で傾き $\dfrac{1/2}{\sqrt3/2}=\dfrac1{\sqrt3}$ である。

接点のまわりの一瞬の回転

複素数で書くと、主定理 1 の法線の部分はもっと短く言える。接点を $C=at$ とすると
$$ \frac{dz}{dt}=-i\,(z-C) $$
である。$-i$ を掛けることは時計回りに $90^\circ$ 回すことなので、速度は $\overrightarrow{CP}$ を時計回りに $90^\circ$ 回したベクトルで、長さは $CP$ と同じである。これは「その瞬間、$P$ は接点 $C$ を中心に角の速さ $1$ で時計回りに回っている」ことを表す。$C$ を 瞬間回転中心 という。

微分の計算を開く

$e^{-it}=\cos t-i\sin t$ を微分すると $-\sin t-i\cos t=-i\,e^{-it}$ なので、$-ai\,e^{-it}$ の微分は $-ai\cdot(-i)e^{-it}=-a\,e^{-it}$ で、$\dfrac{dz}{dt}=a-a\,e^{-it}$ である。一方 $z-C=ai-ai\,e^{-it}=ai\,(1-e^{-it})$ なので、$-i\,(z-C)=a(1-e^{-it})=\dfrac{dz}{dt}$ である。


この議論は、$P$ が円周の上にあることを使っていない。転がる円に固定されたどの点でも、速度は接点から見た向きに垂直で、法線は接点を通る。一方、接線が最上点を通るのは、$P$ が円周の上にあって $\angle TPC=90^\circ$ となるときだけである(ex-cyc-cx-trochoid)。

主定理 2:どこから離しても同じ時間で着く

サイクロイドを上下にひっくり返して、滑り台を作る。
$$ Q(t)=\bigl(a(t-\sin t),\ -a(1-\cos t)\bigr)\qquad(0\le t\le2\pi) $$
とすると、$t=0$、$2\pi$ で高さ $0$、$t=\pi$ で最も低い点 $Q(\pi)=(\pi a,\,-2a)$ になる。この最下点を $B$ とする。滑り台の上の点 $Q(t_0)$($0\le t_0<\pi$)に小さな玉を置き、静かに離す。玉が $B$ に着くまでの時間を求める。
ここから先は物理の話を含む。この記事では、物理の部分を次の 2 つの仮定として認め、そこから先の数学(積分の計算)を証明する。$g$ は重力加速度である。
(R1) 玉は滑り台から離れず、摩擦や空気の抵抗はない。そのため力学的エネルギーが保存され、出発点から高さ $h$ だけ下がった位置での玉の速さは $\sqrt{2gh}$ である。
(R2) 玉は $t$ が増える向きに動き、$B$ に着くまで止まらない。
まず、仮定から時間を積分で書く。

最下点までの時間の式

仮定 (i)(ii) のもとで、玉が $Q(t_0)$ から $B$ に着くまでの時間は
$$ \int_{t_0}^{\pi}\frac{2a\sin\frac t2}{\sqrt{2ga(\cos t_0-\cos t)}}\,dt $$
である。ただし $t=t_0$ で分母が $0$ になるので、この積分は $\varepsilon>0$ として $\displaystyle\int_{t_0+\varepsilon}^{\pi}$ を計算し、$\varepsilon\to+0$ とした極限の意味である(広義積分)。

時間を曲線の長さと速さで書く

要点:出発点から下がった高さは $a(\cos t_0-\cos t)$ なので、仮定 (i) から $Q(t)$ での速さは $V(t)=\sqrt{2ga(\cos t_0-\cos t)}$ である。滑り台に沿って測った長さ $s$ の増え方は $\dfrac{ds}{dt}=2a\sin\dfrac t2$ である。時刻を $\tau$ とすると、速さ $=\dfrac{ds}{dt}\cdot\dfrac{dt}{d\tau}$ から $\dfrac{d\tau}{dt}=\dfrac{ds/dt}{V(t)}$ となり、これを $t_0$ から $\pi$ まで積分すると時間になる。

詳しい証明を開く

段 1(高さと速さ)。$Q(t)$ の高さは $-a(1-\cos t)$ なので、出発点から下がった高さは

$$h(t)=-a(1-\cos t_0)-\bigl(-a(1-\cos t)\bigr)=a(\cos t_0-\cos t)$$

である。仮定 (i) により、$Q(t)$ での玉の速さは $V(t)=\sqrt{2ga(\cos t_0-\cos t)}$ である。

段 2(曲線の上での速さ)。$Q(t)$ の $t$ についての速度は $\bigl(a(1-\cos t),\,-a\sin t\bigr)$ で、その大きさは prf-cyc-tangent の段 1 と同じ計算で $2a\sin\dfrac t2$ である($0\le t\le\pi$ では $\sin\dfrac t2\ge0$)。これを $\dfrac{ds}{dt}$ と書く。$s$ は滑り台に沿って測った長さである(媒介変数表示と曲線の長さ)。

段 3(時間)。時刻 $\tau$ に玉が $Q(t)$ にあるとし、$t$ を $\tau$ の関数とみる。玉の速度は、合成関数の微分により $Q$ の $t$ についての速度に $\dfrac{dt}{d\tau}$ を掛けたもので、仮定 (ii) より $\dfrac{dt}{d\tau}>0$ だから、玉の速さは $\dfrac{ds}{dt}\cdot\dfrac{dt}{d\tau}$ である。これが段 1 の $V(t)$ に等しいので

$$\frac{d\tau}{dt}=\frac{1}{dt/d\tau}=\frac{ds/dt}{V(t)}=\frac{2a\sin\frac t2}{\sqrt{2ga(\cos t_0-\cos t)}}$$

である(逆関数の微分)。これを $t$ について $t_0$ から $\pi$ まで積分したものが、かかった時間である。$\square$

サイクロイドの等時性

$0\le t_0<\pi$ のとき
$$ \int_{t_0}^{\pi}\frac{2a\sin\frac t2}{\sqrt{2ga(\cos t_0-\cos t)}}\,dt=\pi\sqrt{\frac ag} $$
である。したがって、仮定 (i)(ii) のもとで、反転したサイクロイドの滑り台のどこから玉を静かに離しても、最下点 $B$ まで同じ時間 $\pi\sqrt{\dfrac ag}$ で着く。

2 回の置換で $\int\frac{du}{\sqrt{1-u^2}}$ にする

方針:半角の公式で分母を $\cos\dfrac t2$ で書き、$u=\cos\dfrac t2\Big/\cos\dfrac{t_0}2$ と置換すると $\displaystyle\int\frac{du}{\sqrt{1-u^2}}$ の形になる。これを $u=\sin\theta$ で計算する(置換積分の使い方)。
段 1(半角で書き直す)。$c_0=\cos\dfrac{t_0}2$ とおく。$0\le t_0<\pi$ なので $0\le\dfrac{t_0}2<\dfrac\pi2$ で、$0< c_0\le1$ である。半角の公式 $\cos t=2\cos^2\dfrac t2-1$ を $t$ と $t_0$ に使うと
$$ \cos t_0-\cos t=\left(2c_0^2-1\right)-\left(2\cos^2\frac t2-1\right)=2\left(c_0^2-\cos^2\frac t2\right) $$
である。$t_0< t\le\pi$ では $\dfrac{t_0}2<\dfrac t2\le\dfrac\pi2$ で、$\cos$ はこの範囲で減少するので $0\le\cos\dfrac t2< c_0$、つまり括弧の中は正である。よって被積分関数は
$$ \frac{2a\sin\frac t2}{\sqrt{4ga\left(c_0^2-\cos^2\frac t2\right)}}=\frac{2a\sin\frac t2}{2\sqrt{ga}\sqrt{c_0^2-\cos^2\frac t2}}=\sqrt{\frac ag}\cdot\frac{\sin\frac t2}{\sqrt{c_0^2-\cos^2\frac t2}} $$
である($\dfrac{a}{\sqrt{ga}}=\sqrt{\dfrac ag}$)。
段 2($u=\cos\frac t2\big/c_0$ と置換する)。$\varepsilon>0$ を小さくとり、$t_0+\varepsilon\le t\le\pi$ で考える。$u=\dfrac1{c_0}\cos\dfrac t2$ とおくと
$$ \frac{du}{dt}=-\frac1{2c_0}\sin\frac t2,\qquad\text{つまり}\qquad \sin\frac t2\,dt=-2c_0\,du $$
である。$t=t_0+\varepsilon$ のとき $u=b_\varepsilon=\dfrac1{c_0}\cos\dfrac{t_0+\varepsilon}2$($0< b_\varepsilon<1$)、$t=\pi$ のとき $u=0$ である。また $\sqrt{c_0^2-\cos^2\dfrac t2}=\sqrt{c_0^2-c_0^2u^2}=c_0\sqrt{1-u^2}$ である。よって
$$ \int_{t_0+\varepsilon}^{\pi}\sqrt{\frac ag}\cdot\frac{\sin\frac t2}{\sqrt{c_0^2-\cos^2\frac t2}}\,dt=\sqrt{\frac ag}\int_{b_\varepsilon}^{0}\frac{-2c_0}{c_0\sqrt{1-u^2}}\,du=2\sqrt{\frac ag}\int_0^{b_\varepsilon}\frac{du}{\sqrt{1-u^2}} $$
である(最後は積分の上端と下端を入れかえて符号を変えた)。
段 3($u=\sin\theta$ と置換する)。$\sin\beta_\varepsilon=b_\varepsilon$ となる $\beta_\varepsilon$ を $0<\beta_\varepsilon<\dfrac\pi2$ の範囲にとる。$u=\sin\theta$($0\le\theta\le\beta_\varepsilon$)とおくと $du=\cos\theta\,d\theta$ で、この範囲では $\cos\theta>0$ なので $\sqrt{1-\sin^2\theta}=\cos\theta$ である。よって
$$ \int_0^{b_\varepsilon}\frac{du}{\sqrt{1-u^2}}=\int_0^{\beta_\varepsilon}\frac{\cos\theta}{\cos\theta}\,d\theta=\beta_\varepsilon $$
である。
段 4($\varepsilon\to+0$)。$\cos$ は連続なので、$\varepsilon\to+0$ のとき $b_\varepsilon\to\dfrac{c_0}{c_0}=1$ である。$\sin$ は $0\le\theta\le\dfrac\pi2$ で連続かつ増加し、$\sin\dfrac\pi2=1$ なので、$\sin\beta_\varepsilon=b_\varepsilon\to1$ から $\beta_\varepsilon\to\dfrac\pi2$ である(逆三角関数(高校数学))。以上から
$$ \int_{t_0}^{\pi}\frac{2a\sin\frac t2}{\sqrt{2ga(\cos t_0-\cos t)}}\,dt=\lim_{\varepsilon\to+0}2\sqrt{\frac ag}\,\beta_\varepsilon=2\sqrt{\frac ag}\cdot\frac\pi2=\pi\sqrt{\frac ag} $$
である。右辺に $t_0$ は現れない。lem-cyc-time と合わせて、時間は出発点によらない。$\square$

証明の段 2 で、出発点 $t_0$ の違いは $c_0$ に集まり、$c_0$ は分子と分母で約分されて消えた。高いところから離した玉は長い道のりを進むが、そのぶん速く走る。この 2 つの効果がちょうど打ち消し合う。

出発点を変えて数値積分で確かめる

$a=1$、$g=9.8$ とすると、thm-cyc-tautochrone の時間は $\pi\sqrt{\dfrac1{9.8}}=1.003545\ldots$ である。lem-cyc-time の積分を、出発点 $t_0$ を変えて数値積分で計算すると、次のようになる。「高さ」は最下点から測った出発点の高さ $a(1+\cos t_0)$、「道のり」は出発点から最下点までの滑り台の長さ $4a\cos\dfrac{t_0}2$(rem-cyc-harmonic)、「速さ」は最下点での速さ $\sqrt{2g\cdot(\text{高さ})}$ である。

$t_0$高さ道のり最下点での速さ時間
$0$(尖点)$2.0000$$4.0000$$6.261$$1.003545$
$0.6$$1.8253$$3.8213$$5.981$$1.003545$
$1.5$$1.0707$$2.9268$$4.581$$1.003545$
$2.4$$0.2626$$1.4494$$2.269$$1.003545$
$3.0$$0.0100$$0.2829$$0.443$$1.003545$

尖点から離した玉は道のり $4$ を最下点で速さ約 $6.3$ まで加速し、最下点のすぐ近くから離した玉は道のり約 $0.28$ をゆっくり進む。どちらも同じ時間で着く。

反転したサイクロイドの滑り台(a=1)の 3 か所から同時に離した玉。濃い点が出発点、薄い点は出発から 1/4、2/4、3/4 の時刻の位置で、3 つの玉は同時に最下点に着く 反転したサイクロイドの滑り台(a=1)の 3 か所から同時に離した玉。濃い点が出発点、薄い点は出発から 1/4、2/4、3/4 の時刻の位置で、3 つの玉は同時に最下点に着く
図 2 の玉の位置は、rem-cyc-harmonic で求める運動の式から計算した。高いところから離した玉ほど(赤がいちばん高い)、同じ時間の間に長い距離を進んでいる。

例と反例

主定理 1・2 の条件を外すと何が崩れるかを並べる。

外す条件反例成り立たなくなること
点が転がる円の周の上にある中心から $\dfrac a2$ の点がえがく曲線接線が最上点 $T$ を通る(法線が接点 $C$ を通ることは残る)
滑り台がサイクロイド同じ深さ $2a$・同じ幅 $2\pi a$ の放物線最下点までの時間が出発点によらない
反例:円の内側の点

半径 $a$ の円に固定された、中心から距離 $d$ の点を考える($0< d< a$)。def-cyc と同じ考え方で、位置は $X(t)=\bigl(at-d\sin t,\ a-d\cos t\bigr)$、速度は $\vec v=\bigl(a-d\cos t,\ d\sin t\bigr)$ である。
$\overrightarrow{XC}=\bigl(d\sin t,\ -(a-d\cos t)\bigr)$ なので $\vec v\cdot\overrightarrow{XC}=(a-d\cos t)d\sin t-d\sin t(a-d\cos t)=0$ で、法線は接点 $C$ を通る(rem-cyc-instant のとおり)。一方 $\overrightarrow{XT}=\bigl(d\sin t,\ a+d\cos t\bigr)$ で、prf-cyc-tangent の段 3 と同じ式を計算すると
$$ (a-d\cos t)(a+d\cos t)-d\sin t\cdot d\sin t=a^2-d^2\cos^2t-d^2\sin^2t=a^2-d^2 $$
である。$d< a$ なのでこれは $0$ でなく、$\overrightarrow{XT}$ は $\vec v$ と平行でない。接線は $T$ を通らない。

$a=1$、$d=\dfrac12$、$t=\dfrac\pi2$ の数値を開く

$X=\left(\dfrac\pi2-\dfrac12,\ 1\right)$、$\vec v=\left(1,\ \dfrac12\right)$、$\overrightarrow{XT}=\left(\dfrac12,\ 1\right)$ で、$1\cdot1-\dfrac12\cdot\dfrac12=\dfrac34\ne0$ である。$\overrightarrow{XC}=\left(\dfrac12,\ -1\right)$ との内積は $\dfrac12-\dfrac12=0$ である。

反例:放物線の滑り台

$a=1$、$g=9.8$ とする。1 つのアーチを反転した滑り台は、深さ $2$、幅 $2\pi$ である。最下点を原点にとり、同じ深さと幅をもつ放物線 $y=\dfrac2{\pi^2}x^2$($-\pi\le x\le\pi$)の滑り台を作る。最下点から高さ $h$ の点から玉を離したときの時間を、仮定 (i)(ii) のもとで lem-cyc-time と同じ考え方の積分にして、数値積分で計算すると次のようになる。

放物線の時間の積分を開く

$x$ を媒介変数にすると、滑り台に沿った長さの増え方は $\dfrac{ds}{dx}=\sqrt{1+\left(\dfrac{4x}{\pi^2}\right)^2}$、速さは $\sqrt{2g\left(h-\dfrac2{\pi^2}x^2\right)}$ なので、時間は

$$\int_0^{\sqrt{\pi^2h/2}}\frac{\sqrt{1+\left(\frac{4x}{\pi^2}\right)^2}}{\sqrt{2g\left(h-\frac{2}{\pi^2}x^2\right)}}\,dx$$

である(出発点の $x$ 座標は $\dfrac2{\pi^2}x^2=h$ から $\sqrt{\pi^2h/2}$)。

出発点の高さ $h$$0.1$$0.5$$1.0$$2.0$
放物線$0.8039$$0.8628$$0.9294$$1.0466$
サイクロイド$1.0035$$1.0035$$1.0035$$1.0035$

放物線では、高いところから離すほど時間が長くなる。等時性は放物線では成り立たない。

同じ深さ 2 と幅 2π をもつ、反転したサイクロイド(黒)と放物線(橙の破線)の滑り台 同じ深さ 2 と幅 2π をもつ、反転したサイクロイド(黒)と放物線(橙の破線)の滑り台
a=1、g=9.8 で、出発点の高さを変えたときの最下点までの時間。サイクロイド(黒)は一定、放物線(橙の破線)は高さとともに増える a=1、g=9.8 で、出発点の高さを変えたときの最下点までの時間。サイクロイド(黒)は一定、放物線(橙の破線)は高さとともに増える

図 3 のとおり、底の近くでは放物線のほうが急で、縁の近くではサイクロイドのほうが急である(サイクロイドは尖点で垂直に立つ)。図 4 の放物線の時間は、$h$ を $0$ に近づけると約 $0.79$ に近づき、$h=2$ では約 $1.05$ になる。

転がる円がえがく曲線の仲間

円を直線の上ではなく円の上で転がすと、別の曲線ができる。どれも「中心の動き(平行移動または回転)」と「中心のまわりの回転」の合成で、回転の角は「滑らない」ことから決まる。

転がる場所曲線複素数の式尖点の数
直線の上(半径 $a$ の円)サイクロイド$a(t+i)-ai\,e^{-it}$無数($t=2k\pi$)
半径 $\dfrac a2$ の円の外(半径 $\dfrac a2$ の円)カージオイド$\dfrac a2+a\,e^{i\theta}+\dfrac a2e^{2i\theta}$$1$
半径 $1$ の円の内(半径 $\dfrac14$ の円)アステロイド$\dfrac34e^{it}+\dfrac14e^{-3it}$$4$

直線の上、円の外、円の内を転がる円(緑の破線)と、その周の上の点(赤)がえがく曲線。左からサイクロイド、カージオイド、アステロイド 直線の上、円の外、円の内を転がる円(緑の破線)と、その周の上の点(赤)がえがく曲線。左からサイクロイド、カージオイド、アステロイド
カージオイドは カージオイド、アステロイドは アステロイド で、この記事と同じ複素数の計算で導く。円の内側を転がる円の半径を $\dfrac13$ にすると、尖点が 3 つのデルトイドになる。デルトイドは 掛谷の問題 で、長さ $1$ の針を回せる図形として現れる。

大学数学で見る:曲率と縮閉線、最速降下線

曲率半径と縮閉線

曲線がどのくらい曲がっているかは、その点で曲線に最もよく沿う円(曲率円)の半径、曲率半径 で測る(接線・法線と曲線の凹凸 の節「曲がり具合:曲率(紹介)」)。媒介変数表示の曲線 $\bigl(x(t),y(t)\bigr)$ では、曲率は
$$ \kappa=\frac{\lvert x'y''-y'x''\rvert}{\left(x'^2+y'^2\right)^{3/2}} $$
で、曲率半径は $\dfrac1\kappa$ である(この式が 接線・法線と曲線の凹凸 のグラフの場合の式を含むことは、この記事では証明しない)。サイクロイドでは、$0< t<2\pi$ で
$$ \text{曲率半径}=4a\sin\frac t2=2\,PC $$
となり、曲率の中心 $K$ は $P$ を接点 $C$ に関して点対称に移した点 $K=2C-P$ である。$K$ は、もとのサイクロイドを右へ $\pi a$、下へ $2a$ だけ平行移動した曲線の上を動く。曲率の中心の軌跡を 縮閉線 といい、サイクロイドの縮閉線は合同なサイクロイドである(Wei26a)。

曲率半径と縮閉線の計算を開く

$x'=a(1-\cos t)$、$y'=a\sin t$、$x''=a\sin t$、$y''=a\cos t$ で

$$x'y''-y'x''=a^2\bigl((1-\cos t)\cos t-\sin^2t\bigr)=a^2(\cos t-1)=-2a^2\sin^2\frac t2,\qquad x'^2+y'^2=4a^2\sin^2\frac t2$$

なので $\kappa=\dfrac{2a^2\sin^2\frac t2}{8a^3\sin^3\frac t2}=\dfrac1{4a\sin\frac t2}$、曲率半径は $4a\sin\dfrac t2$ である。prf-cyc-tangent の段 2 の計算から $PC=\sqrt{2a^2(1-\cos t)}=2a\sin\dfrac t2$ なので、曲率半径は $PC$ のちょうど $2$ 倍である。曲率の中心は、法線の上で曲線のへこんだ側(接点 $C$ の側)に曲率半径だけ進んだ点なので $K=P+2\overrightarrow{PC}=2C-P=\bigl(a(t+\sin t),\ -a(1-\cos t)\bigr)$ である。$t=s+\pi$ とおくと $\sin t=-\sin s$、$\cos t=-\cos s$ なので $K=\bigl(a(s-\sin s)+\pi a,\ a(1-\cos s)-2a\bigr)$ となる。

$a=1$、$t=1.3$ では曲率半径は $4\sin0.65=2.4207\ldots$、$K=(1.3+\sin1.3,\ \cos1.3-1)=(2.2636\ldots,\ -0.7325\ldots)$ で、$PK=2.4207\ldots$ と一致する(図 6)。

a=1 のサイクロイド(黒)の t=1.3 の点 P での曲率円(青)。中心 K は P を接点 C に関して点対称に移した点で、K の軌跡(紫の破線)は平行移動した合同なサイクロイドになる a=1 のサイクロイド(黒)の t=1.3 の点 P での曲率円(青)。中心 K は P を接点 C に関して点対称に移した点で、K の軌跡(紫の破線)は平行移動した合同なサイクロイドになる

置換の意味:単振動

prf-cyc-tautochrone の置換 $u=\cos\dfrac t2\Big/\cos\dfrac{t_0}2$ には、運動としての意味がある。

滑り台に沿った道のりと単振動を開く

最下点 $B$ から滑り台に沿って測った道のりを $s$ とすると、lem-cyc-time の証明の段 2 から

$$s=\int_t^\pi2a\sin\frac w2\,dw=\Bigl[-4a\cos\frac w2\Bigr]_t^\pi=4a\cos\frac t2$$

である。最下点から測った高さは $a(1+\cos t)=2a\cos^2\dfrac t2=\dfrac{s^2}{8a}$ で、高さは道のりの 2 乗に比例する。出発点の道のりを $s_0=4a\cos\dfrac{t_0}2$ とすると、仮定 (i) から $\left(\dfrac{ds}{d\tau}\right)^2=2g\cdot\dfrac{s_0^2-s^2}{8a}=\omega^2\left(s_0^2-s^2\right)$($\omega=\sqrt{\dfrac g{4a}}$)である。$s=s_0\cos\omega\tau$ はこの式を満たす($\dfrac{ds}{d\tau}=-s_0\omega\sin\omega\tau$ の 2 乗は $\omega^2\left(s_0^2-s_0^2\cos^2\omega\tau\right)$)。このとき $u=\dfrac s{s_0}=\cos\omega\tau$ で、置換の変数 $u$ は時刻を表していた。玉が最下点に着くのは $\omega\tau=\dfrac\pi2$、つまり $\tau=\dfrac\pi{2\omega}=\pi\sqrt{\dfrac ag}$ のときで、$s_0$ によらない。これはばねの振動と同じ 単振動 である(微分方程式としての指数関数・三角関数)。仮定から運動が $s=s_0\cos\omega\tau$ にただ 1 通りに決まることは、この記事では証明しない。図 2 はこの式で描いた。

最速降下線

高さの違う 2 点を結ぶ滑り台のうち、玉が最も短い時間で下りきるものの形を求める問題を 最速降下線 の問題という。答えはサイクロイドの弧である。1696 年に Johann Bernoulli がこの問題を他の数学者に出した(Wei26a)。すべての曲線の中で時間を最小にする曲線を探すので、関数を変数とする最大・最小の問題になり、曲線の変分論 で扱われる。この記事では証明しない。
また、等時性は Huygens が 1673 年の著書 Horologium oscillatorium で発表した。Huygens は、振り子がサイクロイドの弧に沿って揺れるように作り、振れ幅によらず周期が一定になる振子時計を作った(Wei26b)。

さらに先へ

  • 円に固定された点が円周の外や内にある場合の曲線(ex-cyc-cx-trochoid)も、同じ複素数の式で書ける。法線はいつも接点を通る(rem-cyc-instant)。
  • 円の外・内を転がる円の曲線は カージオイド、アステロイド で扱う。尖点の数は、固定した円と転がる円の半径の比で決まる。
  • 曲率と縮閉線は、平面曲線の 微分幾何学 の最初の話題である。

関連項目

参考文献

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