sin x/xの極限

同義語:limit of sin x over x

概要

sin x/xの極限(limit of $\sin x/x$)とは、角 $x$ を弧度法で測ったときに成り立つ $\lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1$ のことである。$0<x<\frac\pi2$ で単位円の三角形・扇形・大きい三角形の面積を比べると $\sin x<x<\tan x$ が得られ、これを $\cos x<\frac{\sin x}{x}<1$ と直してはさみうちを使うと極限 $1$ が出る。系として $\lim_{x\to0}\frac{1-\cos x}{x^2}=\frac12$ と、加法定理による $(\sin x)'=\cos x$、$(\cos x)'=-\sin x$ が導かれる。角を度で測ると極限は $\frac{\pi}{180}$ になる。扇形の面積を使う証明は、三角関数を冪級数などで定義すると循環せずに基礎づけられる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 三角関数, 極限とε-δ

高校での出発点:$\frac{0}{0}$ の形の極限

数学 III の微分で $\sin x$ の導関数を求めるとき、必ず通るのが次の極限である。
$$ \lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1 $$
$x=0$ を代入すると分子も分母も $0$ になり、$\dfrac00$ の形になる。この形の極限は、代入では値が決まらない。この記事では、この極限がなぜ $1$ になるのかを、扇形の面積を使って一行ずつ示す。そして、この極限から $(\sin x)'=\cos x$ が出ること、角を度で測ると $1$ にならないことを見る。

小さな $x$ で値を計算する

$x$ は弧度法(ラジアン)で測る。関数電卓で $\dfrac{\sin x}{x}$ を計算すると次のようになる(小数第 9 位までで切り捨て)。

$x$$\sin x$$\dfrac{\sin x}{x}$$1-\dfrac{\sin x}{x}$
$0.5$$0.479425538$$0.958851077$$0.041148922$
$0.1$$0.099833416$$0.998334166$$0.001665833$
$0.01$$0.009999833$$0.999983333$$0.000016666$
$0.001$$0.000999999$$0.999999833$$0.000000166$

$x$ を $\dfrac1{10}$ にするたびに、$1$ とのずれはおよそ $\dfrac1{100}$ になる。値は $1$ に近づいているように見える。ただし、表は有限個の値を並べただけで、極限が $1$ であることの証明にはならない。

$\frac{0}{0}$ の形でも極限の値はいろいろ

$\dfrac00$ の形というだけでは、極限の値は決まらない。$x\ne0$ で次のように約分できる。
(1) $\dfrac{x^2}{x}=x$ なので、$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{x^2}{x}=0$ である。
(2) $\dfrac{3x}{x}=3$ なので、$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{3x}{x}=3$ である。
(3) $\dfrac{x}{x^3}=\dfrac1{x^2}$ なので、$x\to0$ で限りなく大きくなり、有限の極限はない。
どれも $x=0$ では $\dfrac00$ であるが、極限は $0$、$3$、なしと異なる。分子と分母が $0$ に近づく「速さ」の比べ方で決まる。$\dfrac{\sin x}{x}$ は約分できないので、別の方法で $\sin x$ と $x$ の大きさを比べる必要がある。

y = sin x / x のグラフ。x = 0 では定義されないが、x が 0 に近づくと値は 1 に近づく。x が大きいところでは y = ±1/|x| の間で振動しながら 0 に近づく y = sin x / x のグラフ。x = 0 では定義されないが、x が 0 に近づくと値は 1 に近づく。x が大きいところでは y = ±1/|x| の間で振動しながら 0 に近づく
この記事で答える問いは次の 4 つである。

  1. $0< x<\dfrac\pi2$ で $\sin x$、$x$、$\tan x$ の大小はどうなっているか。→ lem-sxx-ineq
  2. $\dfrac{\sin x}{x}$ の極限はなぜ $1$ か。→ thm-sxx-main
  3. この極限から何が分かるか。→ cor-sxx-cos、thm-sxx-derivative
  4. 角を度で測るとどうなるか。→ prop-sxx-degree
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    扇形と三角形の面積を比べる$\sin x< x<\tan x$面積の単調性(測度)
    $\cos x<\dfrac{\sin x}x<1$ からはさみうち関数のはさみうち関数の極限の順序と極限
    $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin x}x=1$$\sin$ の原点での傾きは $1$$\sin'(0)=1$、$\dfrac{\sin x}x=1-\dfrac{x^2}6+\cdots$
    $(\sin x)'=\cos x$加法定理と 2 つの極限微分方程式 $y''=-y$ の解(三角関数はどう定義するか)
    度数法では $\dfrac\pi{180}$角の単位を変えると傾きが変わる弧長で角を測る理由

弧度法と扇形の面積

証明には扇形の面積を使う。そのために、弧度法と扇形の面積の公式を確認しておく。弧度法の詳しい説明は 一般角と弧度法 で扱う。

弧度法と扇形の面積

半径 $1$ の円(単位円)で、中心角に対する弧の長さを、その角の大きさとする測り方を 弧度法 といい、単位を ラジアン という。$180^\circ$ は半円の弧の長さ $\pi$ にあたるので、$180^\circ=\pi$ ラジアン、$1^\circ=\dfrac{\pi}{180}$ ラジアンである。
半径 $r$、中心角 $x$ ラジアン($0< x\le2\pi$)の扇形の面積 $S$ は
$$ S=\pi r^2\cdot\frac{x}{2\pi}=\frac12r^2x $$
である。円の面積 $\pi r^2$ に、全体の角 $2\pi$ に対する中心角 $x$ の割合 $\dfrac{x}{2\pi}$ を掛けたものである。

扇形の面積の計算
  1. 半径 $1$、中心角 $60^\circ$ の扇形。$60^\circ=\dfrac\pi3$ なので、面積は $\dfrac12\cdot1^2\cdot\dfrac\pi3=\dfrac\pi6\approx0.5236$ である。
  2. 半径 $1$、中心角 $0.8$ ラジアンの扇形。面積は $\dfrac12\cdot1^2\cdot0.8=0.4$ である。$0.8$ ラジアンは $0.8\cdot\dfrac{180}\pi\approx45.8^\circ$ である。
  3. 半径 $2$、中心角 $\dfrac\pi4$ の扇形。面積は $\dfrac12\cdot2^2\cdot\dfrac\pi4=\dfrac\pi2$ である。

面積の公式が $\dfrac12r^2x$ と簡単になるのは、角を弧度法で測ったからである。度数法で中心角 $\theta^\circ$ なら、面積は $\pi r^2\cdot\dfrac{\theta}{360}=\dfrac12r^2\theta\cdot\dfrac{\pi}{180}$ で、$\dfrac12r^2x$ の形に比べて余分な $\dfrac{\pi}{180}$ が付く。この違いが、後で極限の値の違いになる(prop-sxx-degree)。

この記事で証明なしに使う面積の性質

次の 2 つは、高校の教科書と同じく、この記事では証明せずに使う。

  1. 図形 $F$ が図形 $G$ に含まれるなら、$F$ の面積は $G$ の面積以下である(面積の単調性)。
  2. 半径 $1$、中心角 $x$ の扇形の面積は $\dfrac x2$ である(def-sxx-radian)。
    2 は円の面積が $\pi r^2$ であることと、扇形の面積が中心角に比例することから来ている。曲線で囲まれた図形の「面積」とは何かをきちんと決めると、この 2 つが本当に正しいか、証明が循環していないかが問題になる。これは rem-sxx-circular で扱う。

主定理 1:$\sin x< x<\tan x$

扇形の面積をはさむ 2 つの三角形を使う(図 2)。

正弦・弧度・正接の大小

$0< x<\dfrac\pi2$ のとき
$$ \sin x< x<\tan x $$
である。

3 つの図形の面積を比べる

方針:単位円の中に、三角形、扇形、大きい三角形を内側から順に並べ、rem-sxx-area-facts の単調性で面積を比べる。これで等号つきの不等式が出る。等号がつかないことは、角を半分にした不等式と 2 倍角の公式から示す。
段 1(点をとる)。原点を $O$、点 $A(1,0)$ とし、単位円上に $\angle AOP=x$ となる点 $P(\cos x,\sin x)$ を第 1 象限にとる。点 $A$ で単位円に接する直線 $x=1$ と、直線 $OP$ の交点を $T$ とする。直線 $OP$ の傾きは $\dfrac{\sin x}{\cos x}=\tan x$ なので、$T(1,\tan x)$ である。$0< x<\dfrac\pi2$ なので $\sin x>0$、$\cos x>0$、$\tan x>0$ である。
段 2(3 つの面積)。

  • 三角形 $OAP$:底辺 $OA=1$、高さは $P$ の $y$ 座標 $\sin x$ なので、面積は $\dfrac12\cdot1\cdot\sin x=\dfrac12\sin x$ である。
  • 扇形 $OAP$:半径 $1$、中心角 $x$ なので、面積は $\dfrac x2$ である(def-sxx-radian)。
  • 三角形 $OAT$:底辺 $OA=1$、高さ $AT=\tan x$ なので、面積は $\dfrac12\tan x$ である。
    段 3(含まれる関係)。三角形 $OAP$ は、扇形 $OAP$ から弦 $AP$ と弧 $AP$ の間の部分を除いたものなので、扇形に含まれる。扇形 $OAP$ は、弧 $AP$ が接線 $x=1$ の左側にあり、線分 $OT$ と $OA$ の間にあるので、三角形 $OAT$ に含まれる。rem-sxx-area-facts の 1 により
    $$ \frac12\sin x\le\frac x2\le\frac12\tan x $$
    である。両辺に $2$ を掛けて、$0< x<\dfrac\pi2$ のすべての $x$ で
    $$ \sin x\le x\le\tan x $$
    を得る。
    段 4($\sin x< x$ の等号がつかないこと)。段 3 の結果を $\dfrac x2$ に使う。$0<\dfrac x2<\dfrac\pi4$ なので $\sin\dfrac x2\le\dfrac x2$ である。2 倍角の公式 $\sin x=2\sin\dfrac x2\cos\dfrac x2$ を使うと、$0<\cos\dfrac x2<1$ と $\sin\dfrac x2>0$ から
    $$ \sin x=2\sin\frac x2\cos\frac x2<2\sin\frac x2\le2\cdot\frac x2=x $$
    である。
    段 5($x<\tan x$ の等号がつかないこと)。$u=\tan\dfrac x2$ とおく。$0<\dfrac x2<\dfrac\pi4$ なので $0< u<1$ である。正接の 2 倍角の公式により
    $$ \tan x=\frac{2u}{1-u^2} $$
    である。$0<1-u^2<1$ なので $\dfrac{2u}{1-u^2}>2u$ である。段 3 を $\dfrac x2$ に使うと $\dfrac x2\le u$ なので
    $$ x=2\cdot\frac x2\le2u<\frac{2u}{1-u^2}=\tan x $$
    である。段 4 と段 5 で $\sin x< x<\tan x$ が示された。$\square$

単位円の中の三角形 OAP(緑)、扇形 OAP(青の部分まで)、三角形 OAT(橙の部分まで)。内側の図形ほど面積が小さい 単位円の中の三角形 OAP(緑)、扇形 OAP(青の部分まで)、三角形 OAT(橙の部分まで)。内側の図形ほど面積が小さい
2 倍角の公式は 加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く で導いている。段 3 だけでも極限の計算には十分である(下の prf-sxx-main は等号つきでも同じように進む)。

不等式を数値で確かめる

小数第 4 位まで(切り捨て)で比べる。

$x$$\sin x$$x$$\tan x$
$0.1$$0.0998$$0.1$$0.1003$
$0.5$$0.4794$$0.5$$0.5463$
$1$$0.8414$$1$$1.5574$
$1.5$$0.9974$$1.5$$14.1014$

どの行でも $\sin x< x<\tan x$ である。$x$ が $0$ に近いほど 3 つは近く、$x$ が $\dfrac\pi2\approx1.5708$ に近づくと $\tan x$ は急に大きくなる。

同じ不等式は、正多角形の周の長さで円周率をはさむときにも使う(正多角形で円周率を挟む)。

主定理 2:極限は 1

lem-sxx-ineq を $\dfrac{\sin x}x$ についての不等式に直し、はさみうちで極限を求める。数列のはさみうちは はさみうちと評価の技法 で示した。ここでは関数の場合を使うので、関数の極限の定義を思い出しておく。

関数の極限の定義

関数 $f$ が点 $a$ の近く($a$ 自身は除いてよい)で定義されているとする。$\displaystyle\lim_{x\to a}f(x)=L$ とは、どんな正の数 $\varepsilon$ に対しても、ある正の数 $\delta$ があって、$0<|x-a|<\delta$ を満たすすべての $x$ で $|f(x)-L|<\varepsilon$ となることをいう。詳しくは 極限とε-δ の「関数の極限と連続性」の節にある。$x=a$ での値 $f(a)$ は、あってもなくても極限には関係しない。$\dfrac{\sin x}{x}$ は $x=0$ で定義されないが、極限は考えられる。

関数のはさみうち

正の数 $r$ があって、$0<|x-a|< r$ を満たすすべての $x$ で
$$ g(x)\le f(x)\le h(x) $$
が成り立つとする。$\displaystyle\lim_{x\to a}g(x)=\lim_{x\to a}h(x)=L$ なら、$\displaystyle\lim_{x\to a}f(x)=L$ である。

両側の誤差を同時に小さくする

方針:rem-sxx-limit-def の定義を $g$ と $h$ に使い、2 つの $\delta$ の小さい方をとる。
段 1($g$ と $h$ の定義)。$\varepsilon>0$ を任意にとる。$\displaystyle\lim_{x\to a}g(x)=L$ なので、ある $\delta_1>0$ があって、$0<|x-a|<\delta_1$ なら $|g(x)-L|<\varepsilon$、つまり $L-\varepsilon< g(x)< L+\varepsilon$ である。同じく、ある $\delta_2>0$ があって、$0<|x-a|<\delta_2$ なら $L-\varepsilon< h(x)< L+\varepsilon$ である。
段 2(3 つの条件を同時に満たす範囲)。$\delta$ を $\delta_1,\delta_2,r$ のうち最小のものとする。$0<|x-a|<\delta$ なら、段 1 の 2 つの不等式と仮定 $g(x)\le f(x)\le h(x)$ がすべて成り立つ。
段 3(はさむ)。段 2 の $x$ について
$$ L-\varepsilon< g(x)\le f(x)\le h(x)< L+\varepsilon $$
なので $|f(x)-L|<\varepsilon$ である。$\varepsilon$ は任意だったので、定義により $\displaystyle\lim_{x\to a}f(x)=L$ である。$\square$

注:$x\to\infty$ のときも、仮定の「$0<|x-a|< r$」を「$x>R$」に、定義の「$0<|x-a|<\delta$」を「$x>M$」に置き換えれば、同じ証明で lem-sxx-squeeze が成り立つ(段 2 では $M$ を $M_1,M_2,R$ のうち最大のものにとる)。
下からおさえる関数として $\cos x$ を使うので、$\cos x$ が $0$ の近くで $1$ に近づくことも示しておく。

$\cos x$ は 1 に近づく

すべての実数 $x$ について $|\sin x|\le|x|$ であり、
$$ 0\le1-\cos x\le\frac{x^2}2 $$
である。したがって $\displaystyle\lim_{x\to0}\cos x=1$ である。

半角の公式とはさみうち

方針:$|\sin t|\le|t|$ を場合分けで示し、半角の公式 $1-\cos x=2\sin^2\dfrac x2$ に使う。
段 1($|\sin t|\le|t|$)。$t=0$ なら両辺とも $0$ である。$0< t<\dfrac\pi2$ なら lem-sxx-ineq により $0<\sin t< t$ である。$t\ge\dfrac\pi2$ なら $|\sin t|\le1<\dfrac\pi2\le t$ である($\dfrac\pi2>1.5>1$)。$t<0$ なら、$\sin(-t)=-\sin t$ なので $|\sin t|=|\sin(-t)|$ であり、$-t>0$ に今の結果を使うと $|\sin(-t)|\le-t=|t|$ である。
段 2($1-\cos x$ の評価)。2 倍角の公式 $\cos x=1-2\sin^2\dfrac x2$ より $1-\cos x=2\sin^2\dfrac x2$ である。これは $0$ 以上である。段 1 を $t=\dfrac x2$ に使うと $\sin^2\dfrac x2\le\left(\dfrac x2\right)^2=\dfrac{x^2}4$ なので
$$ 0\le1-\cos x=2\sin^2\frac x2\le2\cdot\frac{x^2}4=\frac{x^2}2 $$
である。
段 3(極限)。段 2 を書き直すと $1-\dfrac{x^2}2\le\cos x\le1$ である。$x\to0$ で $1-\dfrac{x^2}2\to1$ なので、lem-sxx-squeeze により $\displaystyle\lim_{x\to0}\cos x=1$ である。$\square$

評価を数値で確かめる
  1. $x=0.1$:$1-\cos0.1=0.0049958\ldots$、$\dfrac{x^2}2=0.005$ で、確かに $0\le0.0049958\le0.005$ である。
  2. $x=1$:$1-\cos1=0.4596\ldots$、$\dfrac{x^2}2=0.5$ である。
  3. $x=3$:$1-\cos3=1.9899\ldots$、$\dfrac{x^2}2=4.5$ である。$x$ が大きいと評価は粗いが、$0$ の近くでは $\dfrac{x^2}{2}$ とほとんど同じである。

これで準備がそろった。

$\frac{\sin x}{x}$ の極限の値

$0<|x|<\dfrac\pi2$ のとき
$$ \cos x<\frac{\sin x}{x}<1 $$
である。したがって
$$ \lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1 $$
である。

不等式を割り算で直し、はさみうちを使う

方針:$x>0$ の場合に lem-sxx-ineq を $x$ と $\sin x$ で割る。$x<0$ の場合は、$\dfrac{\sin x}{x}$ と $\cos x$ が $x$ を $-x$ に変えても変わらないことを使って $x>0$ の場合に戻す。最後に lem-sxx-squeeze を使う。
段 1($0< x<\dfrac\pi2$ の場合)。lem-sxx-ineq の左側 $\sin x< x$ の両辺を正の数 $x$ で割ると
$$ \frac{\sin x}{x}<1 $$
である。右側 $x<\tan x=\dfrac{\sin x}{\cos x}$ の両辺に正の数 $\dfrac{\cos x}{x}$ を掛けると
$$ \cos x<\frac{\sin x}{x} $$
である。2 つを合わせて $\cos x<\dfrac{\sin x}{x}<1$ を得る。
段 2($-\dfrac\pi2< x<0$ の場合)。$t=-x$ とおくと $0< t<\dfrac\pi2$ なので、段 1 により $\cos t<\dfrac{\sin t}{t}<1$ である。ここで $\cos t=\cos(-x)=\cos x$ であり、
$$ \frac{\sin t}{t}=\frac{\sin(-x)}{-x}=\frac{-\sin x}{-x}=\frac{\sin x}{x} $$
である。よって $x<0$ でも $\cos x<\dfrac{\sin x}{x}<1$ である。
段 3(はさみうち)。段 1 と段 2 から、$0<|x|<\dfrac\pi2$ のすべての $x$ で $\cos x\le\dfrac{\sin x}{x}\le1$ が成り立つ。lem-sxx-cos により $\displaystyle\lim_{x\to0}\cos x=1$ であり、定数関数 $1$ の極限は $1$ である。lem-sxx-squeeze を $g(x)=\cos x$、$h(x)=1$、$r=\dfrac\pi2$、$a=0$、$L=1$ で使うと、$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1$ である。$\square$

y = cos x(緑)、y = sin x / x(青)、y = 1(赤)。0 < |x| < π/2 で青のグラフは緑と赤の間にあり、x → 0 で両側とも 1 に近づくので、青も 1 に近づく y = cos x(緑)、y = sin x / x(青)、y = 1(赤)。0 < |x| < π/2 で青のグラフは緑と赤の間にあり、x → 0 で両側とも 1 に近づくので、青も 1 に近づく

はさみうちの不等式を数で確かめる
  1. $x=0.1$:$\cos0.1=0.99500\ldots$、$\dfrac{\sin0.1}{0.1}=0.99833\ldots$ で、$0.99500<0.99833<1$ である。
  2. $x=-0.5$:$\cos(-0.5)=\cos0.5=0.87758\ldots$、$\dfrac{\sin(-0.5)}{-0.5}=\dfrac{\sin0.5}{0.5}=0.95885\ldots$ で、$0.87758<0.95885<1$ である。
    $x$ を $0$ に近づけると、下の $\cos x$ も上の $1$ も $1$ に近づくので、間にある $\dfrac{\sin x}{x}$ は逃げ場がない。

極限の使い方:角が $cx$ のとき

$\dfrac{\sin3x}{x}$ のように、正弦の中身が $x$ の定数倍になっている形がよく現れる。そのために、thm-sxx-main を少し言い換えておく。

中身が cx のとき

$c$ を $0$ でない定数とする。このとき
$$ \lim_{x\to0}\frac{\sin cx}{cx}=1 $$
である。

$\delta$ を $\frac{1}{\lvert c\rvert}$ 倍する

方針:thm-sxx-main の極限の定義(rem-sxx-limit-def)に、$t=cx$ を代入する。
段 1。$\varepsilon>0$ を任意にとる。thm-sxx-main により、ある $\delta>0$ があって、$0<|t|<\delta$ を満たすすべての $t$ で $\left|\dfrac{\sin t}{t}-1\right|<\varepsilon$ である。
段 2。$\delta'=\dfrac{\delta}{|c|}$ とおく。$0<|x|<\delta'$ なら、$t=cx$ は $|t|=|c||x|$ を満たすので $0<|t|<|c|\delta'=\delta$ である($c\ne0$、$x\ne0$ から $t\ne0$)。段 1 により $\left|\dfrac{\sin cx}{cx}-1\right|<\varepsilon$ である。
段 3。$\varepsilon$ は任意だったので、定義により $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin cx}{cx}=1$ である。$\square$

以下の計算では、関数の極限の和・差・積・商の性質(商は分母の極限が $0$ でないとき)を使う。これらは高校で習う性質であり、数列の極限の同じ性質と、極限とε-δ の命題「数列による特徴づけ」から示せる。

定数倍の形の極限
  1. $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin3x}{x}$。$\dfrac{\sin3x}{x}=3\cdot\dfrac{\sin3x}{3x}$ と変形する。lem-sxx-scale を $c=3$ で使うと $\dfrac{\sin3x}{3x}\to1$ なので、極限は $3\cdot1=3$ である。数で確かめると、$x=0.1$ で $\dfrac{\sin0.3}{0.1}=2.9552\ldots$、$x=0.01$ で $2.99955\ldots$ である。
  2. $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\tan x}{x}$。$\dfrac{\tan x}{x}=\dfrac{\sin x}{x}\cdot\dfrac1{\cos x}$ である。$\dfrac{\sin x}{x}\to1$、$\cos x\to1$(lem-sxx-cos)なので、極限は $1\cdot\dfrac11=1$ である。$x=0.1$ で $\dfrac{\tan0.1}{0.1}=1.00334\ldots$ である。
  3. $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin5x}{\sin2x}$。分子と分母をそれぞれ「中身」で割った形にする。
    $$ \frac{\sin5x}{\sin2x}=\frac{\sin5x}{5x}\cdot\frac{2x}{\sin2x}\cdot\frac{5x}{2x}=\frac{\sin5x}{5x}\cdot\frac{1}{\;\dfrac{\sin2x}{2x}\;}\cdot\frac52 $$
    lem-sxx-scale を $c=5$ と $c=2$ で使うと、極限は $1\cdot\dfrac11\cdot\dfrac52=\dfrac52$ である。$x=0.01$ で $\dfrac{\sin0.05}{\sin0.02}=2.49912\ldots$ である。

系:$1-\cos x$ の大きさと $\sin x$ の導関数

thm-sxx-main から、$\cos x$ が $1$ からどれだけずれるかが分かる。

$1-\cos x$ の極限

$$ \lim_{x\to0}\frac{1-\cos x}{x^2}=\frac12,\qquad\lim_{x\to0}\frac{1-\cos x}{x}=0 $$
である。

半角の公式で $\sin$ に直す

方針:$1-\cos x=2\sin^2\dfrac x2$ で $\sin$ の式に直し、lem-sxx-scale を $c=\dfrac12$ で使う。
段 1(書き直し)。prf-sxx-cos の段 2 と同じく $1-\cos x=2\sin^2\dfrac x2$ である。$x\ne0$ で両辺を $x^2$ で割り、$x^2=4\left(\dfrac x2\right)^2$ を使うと
$$ \frac{1-\cos x}{x^2}=\frac{2\sin^2\dfrac x2}{4\left(\dfrac x2\right)^2}=\frac12\left(\frac{\sin\dfrac x2}{\dfrac x2}\right)^2 $$
である。
段 2(1 つ目の極限)。lem-sxx-scale を $c=\dfrac12$ で使うと $\dfrac{\sin(x/2)}{x/2}\to1$ である。積の極限の性質により、段 1 の右辺は $\dfrac12\cdot1^2=\dfrac12$ に近づく。
段 3(2 つ目の極限)。$\dfrac{1-\cos x}{x}=x\cdot\dfrac{1-\cos x}{x^2}$ である。$x\to0$ で $x\to0$、$\dfrac{1-\cos x}{x^2}\to\dfrac12$ なので、積は $0\cdot\dfrac12=0$ に近づく。$\square$

$1-\cos x$ を数で見る
  1. $x=0.1$:$\dfrac{1-\cos0.1}{0.01}=0.499583\ldots$ である。
  2. $x=0.01$:$\dfrac{1-\cos0.01}{0.0001}=0.49999583\ldots$ である。
    どちらも $\dfrac12$ に近い。つまり $x$ が小さいとき $\cos x\approx1-\dfrac{x^2}2$ である。たとえば $\cos0.1\approx1-0.005=0.995$ で、本当の値 $0.995004\ldots$ とよく合う。lem-sxx-cos の不等式 $1-\cos x\le\dfrac{x^2}2$ の右辺は、$0$ の近くでは「ちょうどよい大きさ」だったことになる。

この 2 つの極限を使うと、$\sin x$ の導関数が求まる。導関数の定義は先に 微分係数と導関数の定義(高校数学) で扱った。ここでは
$$ f'(x)=\lim_{h\to0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h} $$
を使う。

$\sin$ と $\cos$ の導関数

すべての実数 $x$ で
$$ (\sin x)'=\cos x,\qquad(\cos x)'=-\sin x $$
である($x$ は弧度法で測る)。

加法定理で $h$ だけの部分を取り出す

方針:加法定理で $\sin(x+h)$ を展開し、$h$ だけを含む 2 つの因子 $\dfrac{\sin h}{h}$ と $\dfrac{\cos h-1}{h}$ を取り出す。その極限は thm-sxx-main と cor-sxx-cos で分かっている。
段 1($\sin$ の差の変形)。加法定理 $\sin(x+h)=\sin x\cos h+\cos x\sin h$ より
$$ \frac{\sin(x+h)-\sin x}{h}=\sin x\cdot\frac{\cos h-1}{h}+\cos x\cdot\frac{\sin h}{h} $$
である。
段 2($\sin$ の極限)。$x$ は固定されているので、$\sin x$ と $\cos x$ は定数である。cor-sxx-cos により $\dfrac{\cos h-1}{h}=-\dfrac{1-\cos h}{h}\to0$、thm-sxx-main により $\dfrac{\sin h}{h}\to1$ である。よって段 1 の右辺は $\sin x\cdot0+\cos x\cdot1=\cos x$ に近づく。これで $(\sin x)'=\cos x$ である。
段 3($\cos$ の差の変形)。加法定理 $\cos(x+h)=\cos x\cos h-\sin x\sin h$ より
$$ \frac{\cos(x+h)-\cos x}{h}=\cos x\cdot\frac{\cos h-1}{h}-\sin x\cdot\frac{\sin h}{h} $$
である。
段 4($\cos$ の極限)。段 2 と同じ 2 つの極限により、右辺は $\cos x\cdot0-\sin x\cdot1=-\sin x$ に近づく。これで $(\cos x)'=-\sin x$ である。$\square$

差の商を数で確かめる
  1. $x=\dfrac\pi3$、$h=0.01$。$\dfrac{\sin(\pi/3+0.01)-\sin(\pi/3)}{0.01}=0.49566\ldots$ で、$\cos\dfrac\pi3=0.5$ に近い。段 1 の 2 つの項に分けると、$\sin\dfrac\pi3\cdot\dfrac{\cos0.01-1}{0.01}=-0.00433\ldots$、$\cos\dfrac\pi3\cdot\dfrac{\sin0.01}{0.01}=0.49999\ldots$ である。1 つ目の項は $h$ を小さくすると $0$ に近づく。
  2. $x=0$、$h=0.01$。$\dfrac{\sin0.01-\sin0}{0.01}=0.99998\ldots$ で、$\cos0=1$ に近い。$y=\sin x$ のグラフの原点での接線は $y=x$ である(図 4 の左)。
  3. $x=\dfrac\pi2$、$h=0.01$。$\dfrac{\sin(\pi/2+0.01)-1}{0.01}=-0.0049999\ldots$ で、$\cos\dfrac\pi2=0$ に近い。グラフの山の頂上では接線が水平になる。

証明で使った加法定理は、加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く で証明している。$(\cos x)'=-\sin x$ から、$\sin$ を 2 回微分すると $-\sin$ に戻る。この性質から三角関数を特徴づける話は 微分方程式としての指数関数・三角関数 で扱う。同じ「原点での傾きが $1$」という形の極限 $\displaystyle\lim_{h\to0}\frac{e^h-1}{h}=1$ は、指数関数の側で 指数関数の微分 が扱っている。

角を度で測ると 1 にならない

ここまで、$x$ はすべて弧度法で測ってきた。角を度で測ると、同じ計算で極限の値が変わる。区別のため、$x$ 度の正弦を $\sin(x^\circ)$ と書く。$x^\circ=\dfrac{\pi x}{180}$ ラジアンなので
$$ \sin(x^\circ)=\sin\frac{\pi x}{180} $$
である。

度数法での極限と導関数

$c=\dfrac{\pi}{180}$ とおく。
$$ \lim_{x\to0}\frac{\sin(x^\circ)}{x}=c=\frac{\pi}{180} $$
であり、$x$ の関数 $\sin(x^\circ)$ の導関数は $c\cos(x^\circ)$ である。

弧度法に直して、定数 $c$ を外に出す

方針:$\sin(x^\circ)=\sin cx$ と書き、lem-sxx-scale と prf-sxx-derivative と同じ変形を使う。
段 1(極限)。$\dfrac{\sin(x^\circ)}{x}=\dfrac{\sin cx}{x}=c\cdot\dfrac{\sin cx}{cx}$ である。lem-sxx-scale により $\dfrac{\sin cx}{cx}\to1$ なので、極限は $c$ である。
段 2(差の商の変形)。$s(x)=\sin cx$ とおく。加法定理により
$$ \frac{s(x+h)-s(x)}{h}=\sin cx\cdot\frac{\cos ch-1}{h}+\cos cx\cdot\frac{\sin ch}{h} $$
である。
段 3(2 つの因子の極限)。$\dfrac{\sin ch}{h}=c\cdot\dfrac{\sin ch}{ch}\to c$ である(lem-sxx-scale)。また半角の公式により
$$ \frac{\cos ch-1}{h}=-\frac{2\sin^2\dfrac{ch}2}{h}=-c\cdot\sin\frac{ch}2\cdot\frac{\sin\dfrac{ch}2}{\dfrac{ch}2} $$
である。lem-sxx-cos の $\left|\sin\dfrac{ch}2\right|\le\left|\dfrac{ch}2\right|$ と lem-sxx-squeeze から $\sin\dfrac{ch}2\to0$ であり、最後の因子は lem-sxx-scale により $1$ に近づく。よって $\dfrac{\cos ch-1}{h}\to-c\cdot0\cdot1=0$ である。
段 4(まとめ)。段 2 の右辺は $\sin cx\cdot0+\cos cx\cdot c=c\cos cx=c\cos(x^\circ)$ に近づく。$\square$

度数法で計算してみる

$c=\dfrac\pi{180}=0.0174532\ldots$ である。
(1) $x=1$:$\dfrac{\sin(1^\circ)}{1}=0.0174524\ldots$ で、$c$ とほぼ等しい。
(2) $x=10$:$\dfrac{\sin(10^\circ)}{10}=0.0173648\ldots$ である。
(3) $x=30$:$\dfrac{\sin(30^\circ)}{30}=\dfrac{1/2}{30}=\dfrac1{60}=0.016666\ldots$ である。
$x$ を $0$ に近づけると $c$ に近づき、$1$ には近づかない。導関数も $c\cos(x^\circ)$ になるので、$x=60$ での傾きは $c\cos60^\circ=\dfrac c2=0.0087266\ldots$ である。差の商を $h=0.01$ で計算すると $\dfrac{\sin(60.01^\circ)-\sin(60^\circ)}{0.01}=0.0087253\ldots$ で、よく合う。

左は弧度法の y = sin x と y = x、右は度数法の y = sin(x°) と y = (π/180)x。どちらも原点の近くで直線に重なるが、傾きは 1 と π/180 で異なる 左は弧度法の y = sin x と y = x、右は度数法の y = sin(x°) と y = (π/180)x。どちらも原点の近くで直線に重なるが、傾きは 1 と π/180 で異なる
度数法では、微分するたびに $c=\dfrac\pi{180}$ が 1 つずつ付く。2 回微分すると $-c^2\sin(x^\circ)$ である。弧度法は、この余分な定数が $1$ になるように角の単位を選んだものである。扇形の面積が $\dfrac12r^2x$ と簡単になったこと(def-sxx-radian)と、極限が $1$ になることは、同じ理由から来ている。

$x\to\infty$ での極限:はさみうちの別の使い方

同じ $\dfrac{\sin x}{x}$ でも、$x$ を限りなく大きくすると様子が変わる(図 1 の右側)。

$x$ を大きくすると 0 に近づく

$\displaystyle\lim_{x\to\infty}\frac{\sin x}{x}=0$ である。
段 1(はさむ)。すべての実数 $x$ で $-1\le\sin x\le1$ である。$x>0$ のとき、各辺を正の数 $x$ で割ると
$$ -\frac1x\le\frac{\sin x}{x}\le\frac1x $$
である。
段 2(両側の極限)。$x\to\infty$ で $\dfrac1x\to0$、$-\dfrac1x\to0$ である。はさみうちは $x\to\infty$ のときも同じ形で成り立つ(lem-sxx-squeeze の後の注)ので、$\dfrac{\sin x}{x}\to0$ である。
数で確かめると、$\dfrac{\sin100}{100}=-0.00506\ldots$ で、$\left|-0.00506\right|\le\dfrac1{100}$ である。$x\to0$ では分子と分母がどちらも $0$ に近づいて比が $1$ になったが、$x\to\infty$ では分子が $-1$ と $1$ の間にとどまり、分母だけが大きくなる。

正多角形の周の長さ

半径 $1$ の円に内接する正 $n$ 角形の周の長さの半分は $n\sin\dfrac\pi n$ である。1 辺は中心角 $\dfrac{2\pi}n$ の二等辺三角形の底辺で、その長さは $2\sin\dfrac\pi n$ だからである。
$$ n\sin\frac\pi n=\pi\cdot\frac{\sin\dfrac\pi n}{\dfrac\pi n} $$
と書き直す。$n\to\infty$ で $t=\dfrac\pi n\to0$ なので、thm-sxx-main により $n\sin\dfrac\pi n\to\pi\cdot1=\pi$ である。$n=6$ で $6\sin\dfrac\pi6=3$、$n=12$ で $3.10582\ldots$、$n=96$ で $3.14103\ldots$ である。これは円周率を正多角形で求める方法そのもので、詳しくは 正多角形で円周率を挟む で扱う。

例と反例

thm-sxx-main とその証明で使った仮定を 1 つずつ外すと、何が崩れるかをまとめる。

外した仮定崩れる主張ボックス
角を弧度法で測る極限の値が $1$prop-sxx-degree、ex-sxx-degree
$x\to0$極限の値が $1$($x\to\pi$、$x\to\infty$ では $0$)ex-sxx-other-points、ex-sxx-infinity
分母が $x$ の 1 乗有限の極限があるex-sxx-wrong-power
$0< x<\dfrac\pi2$$x<\tan x$ex-sxx-ineq-range
はさむ 2 つの関数の極限が等しいはさまれた関数に極限があるex-sxx-squeeze-fail
近づける点が 0 でないとき

$\dfrac{\sin x}{x}$ は $x\ne0$ で連続なので、$0$ 以外の点 $a$ では代入で極限が求まる。たとえば $a=\pi$ では、分子 $\sin x\to\sin\pi=0$、分母 $x\to\pi$ なので $\displaystyle\lim_{x\to\pi}\frac{\sin x}{x}=\frac0\pi=0$ である。$\dfrac00$ の形になるのは $x\to0$ のときだけであり、極限が $1$ になるという主張も $x\to0$ に限る。

分母の次数を変えると
  1. $\dfrac{\sin x}{x^2}$ は $x\to0$ で有限の極限をもたない。$0< x<\dfrac\pi2$ では thm-sxx-main の不等式により
    $$ \frac{\sin x}{x^2}=\frac{\sin x}{x}\cdot\frac1x>\frac{\cos x}{x} $$
    である。$0< x<1$ なら $\cos x>\cos1>0.54$ なので、右辺は $\dfrac{0.54}{x}$ より大きく、$x\to+0$ で限りなく大きくなる。$x=0.1$ で $9.98\ldots$、$x=0.01$ で $99.998\ldots$ である。$x<0$ の側では負の方向に限りなく大きくなる。
  2. 逆に $\dfrac{\sin(x^2)}{x}=x\cdot\dfrac{\sin(x^2)}{x^2}$ は、$x^2\to0$ と thm-sxx-main により $0\cdot1=0$ に近づく。$x=0.1$ で $0.0999983\ldots$ である。
    分子と分母が $0$ に近づく速さが等しい(どちらも $x$ の 1 乗の速さ)ときに限って、比が $0$ でも $\infty$ でもない値 $1$ になる。
不等式が成り立つ範囲

$x=2$ では $\dfrac\pi2<2<\pi$ であり、$\sin2=0.909\ldots$、$\tan2=-2.185\ldots$ である。$\sin x< x$ はまだ成り立つが、$x<\tan x$ は成り立たない(右辺が負)。prf-sxx-ineq の段 1 で、交点 $T$ を $x=1$ の直線の上側にとれたのは $\cos x>0$ だったからで、$x>\dfrac\pi2$ では直線 $OP$ は $x=1$ と第 1 象限で交わらない。なお $\sin x< x$ はすべての $x>0$ で成り立つ($x\ge\dfrac\pi2$ では $\sin x\le1< x$)。

はさむ関数の極限が違うとき

$x\ne0$ で $f(x)=\sin\dfrac1x$ とする。$-1\le f(x)\le1$ であるが、下の関数の極限 $-1$ と上の関数の極限 $1$ が違うので、lem-sxx-squeeze は使えない。実際、$f$ は $x\to0$ で極限をもたない。$x=\dfrac1{\pi/2+2n\pi}$($n=0,1,2,\ldots$。$0.6366\ldots$、$0.1273\ldots$、$0.0707\ldots$ と $0$ に近づく)では $f(x)=1$ であり、$x=\dfrac1{2n\pi}$($n=1,2,3,\ldots$)では $f(x)=0$ である。$0$ のいくらでも近くに値 $1$ の点と値 $0$ の点があるので、1 つの値には近づかない(詳しい証明は 極限とε-δ の反例にある)。
これに対して $x\sin\dfrac1x$ は $-|x|\le x\sin\dfrac1x\le|x|$ で、両側の極限がどちらも $0$ なので、はさみうちにより $0$ に近づく。

大学数学で見る:面積を使う証明は循環しないか

この記事の証明は、扇形の面積が $\dfrac x2$ であることを使った。この事実がどこから来るかをたどると、困ったことが起きる。

証明の循環と、その解き方

段 1(循環の疑い)。高校では、円の面積 $\pi$ を $\displaystyle\int_{-1}^{1}2\sqrt{1-x^2}\,dx$ で計算するとき、置換 $x=\sin\theta$、$dx=\cos\theta\,d\theta$ を使う。この置換は $(\sin\theta)'=\cos\theta$ を使っている。ところが $(\sin\theta)'=\cos\theta$ は thm-sxx-derivative で、扇形の面積から出した極限を使って示した。これでは「示したいことを先に使う」循環になるおそれがある。
段 2(l'Hôpital の定理も使えない)。$\dfrac{\sin x}{x}$ に l'Hôpitalの定理(高校数学) を使うと、分子と分母を微分して $\dfrac{\cos x}{1}\to1$ となる。しかしこの計算は $(\sin x)'=\cos x$ を使っており、それは求めたい極限から出したものなので、やはり循環する。
段 3(解き方)。大学の解析学では、三角関数を図形を使わずに定義して循環を断つ。代表的な方法は、冪級数
$$ \sin x=x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\cdots,\qquad\cos x=1-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\cdots $$
で定義するものである(Leb26 §11.4.2、Proposition 11.4.2 では複素指数関数から定義し、この級数を導く)。この定義からは、$\dfrac{\sin x}{x}=1-\dfrac{x^2}{3!}+\dfrac{x^4}{5!}-\cdots$ となり、極限 $1$ は面積を使わずに出る。そのあとで弧の長さや扇形の面積を積分で計算すれば、高校の図形による定義と一致することも示せる。この道筋は 三角関数はどう定義するか で、3 通りの定義とともに証明つきで扱う。
段 4(高校の証明の位置づけ)。したがって、この記事の面積による証明は、「扇形の面積が $\dfrac x2$」を図形の事実として認める立場では正しい推論である。rem-sxx-area-facts で認めた 2 つの事実を、循環しない形で基礎づけるのが大学の仕事である。面積そのものの定義は 区分求積と積分の定義 で扱い、さらに一般には 測度 の理論になる。

表のずれが $\frac{x^2}{6}$ に近い理由

段 3 の級数から、$x$ が小さいとき $1-\dfrac{\sin x}{x}\approx\dfrac{x^2}6$ である。ex-sxx-table の最後の列を $x^2$ で割ると次のようになる。

$x$$\dfrac{1}{x^2}\left(1-\dfrac{\sin x}{x}\right)$
$0.5$$0.16459\ldots$
$0.1$$0.16658\ldots$
$0.01$$0.1666658\ldots$

どれも $\dfrac16=0.16666\ldots$ に近づいている。ex-sxx-table で「$x$ を $\dfrac1{10}$ にするとずれがおよそ $\dfrac1{100}$ になる」と見えたのは、ずれが $x^2$ に比例するからである。級数による近似の証明は 関数の近似とテイラー展開 で扱う。

さらに先へ

$\sin$ と $\cos$ の冪級数は、指数関数の冪級数と Eulerの公式 $e^{ix}=\cos x+i\sin x$ で結ばれる(Leb26 Proposition 11.4.2)。この立場では、$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1$ も $\displaystyle\lim_{h\to0}\frac{e^h-1}{h}=1$ も、「冪級数の 1 次の係数が $1$」という同じ事実の現れになる。

関連項目

参考文献

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