sin x/xの極限(limit of $\sin x/x$)とは、角 $x$ を弧度法で測ったときに成り立つ $\lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1$ のことである。$0<x<\frac\pi2$ で単位円の三角形・扇形・大きい三角形の面積を比べると $\sin x<x<\tan x$ が得られ、これを $\cos x<\frac{\sin x}{x}<1$ と直してはさみうちを使うと極限 $1$ が出る。系として $\lim_{x\to0}\frac{1-\cos x}{x^2}=\frac12$ と、加法定理による $(\sin x)'=\cos x$、$(\cos x)'=-\sin x$ が導かれる。角を度で測ると極限は $\frac{\pi}{180}$ になる。扇形の面積を使う証明は、三角関数を冪級数などで定義すると循環せずに基礎づけられる。
数学 III の微分で $\sin x$ の導関数を求めるとき、必ず通るのが次の極限である。
$$
\lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1
$$
$x=0$ を代入すると分子も分母も $0$ になり、$\dfrac00$ の形になる。この形の極限は、代入では値が決まらない。この記事では、この極限がなぜ $1$ になるのかを、扇形の面積を使って一行ずつ示す。そして、この極限から $(\sin x)'=\cos x$ が出ること、角を度で測ると $1$ にならないことを見る。
$x$ は弧度法(ラジアン)で測る。関数電卓で $\dfrac{\sin x}{x}$ を計算すると次のようになる(小数第 9 位までで切り捨て)。
| $x$ | $\sin x$ | $\dfrac{\sin x}{x}$ | $1-\dfrac{\sin x}{x}$ |
|---|---|---|---|
| $0.5$ | $0.479425538$ | $0.958851077$ | $0.041148922$ |
| $0.1$ | $0.099833416$ | $0.998334166$ | $0.001665833$ |
| $0.01$ | $0.009999833$ | $0.999983333$ | $0.000016666$ |
| $0.001$ | $0.000999999$ | $0.999999833$ | $0.000000166$ |
$x$ を $\dfrac1{10}$ にするたびに、$1$ とのずれはおよそ $\dfrac1{100}$ になる。値は $1$ に近づいているように見える。ただし、表は有限個の値を並べただけで、極限が $1$ であることの証明にはならない。
$\dfrac00$ の形というだけでは、極限の値は決まらない。$x\ne0$ で次のように約分できる。
(1) $\dfrac{x^2}{x}=x$ なので、$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{x^2}{x}=0$ である。
(2) $\dfrac{3x}{x}=3$ なので、$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{3x}{x}=3$ である。
(3) $\dfrac{x}{x^3}=\dfrac1{x^2}$ なので、$x\to0$ で限りなく大きくなり、有限の極限はない。
どれも $x=0$ では $\dfrac00$ であるが、極限は $0$、$3$、なしと異なる。分子と分母が $0$ に近づく「速さ」の比べ方で決まる。$\dfrac{\sin x}{x}$ は約分できないので、別の方法で $\sin x$ と $x$ の大きさを比べる必要がある。
y = sin x / x のグラフ。x = 0 では定義されないが、x が 0 に近づくと値は 1 に近づく。x が大きいところでは y = ±1/|x| の間で振動しながら 0 に近づく
この記事で答える問いは次の 4 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 扇形と三角形の面積を比べる | $\sin x< x<\tan x$ | 面積の単調性(測度) |
| $\cos x<\dfrac{\sin x}x<1$ からはさみうち | 関数のはさみうち | 関数の極限の順序と極限 |
| $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin x}x=1$ | $\sin$ の原点での傾きは $1$ | $\sin'(0)=1$、$\dfrac{\sin x}x=1-\dfrac{x^2}6+\cdots$ |
| $(\sin x)'=\cos x$ | 加法定理と 2 つの極限 | 微分方程式 $y''=-y$ の解(三角関数はどう定義するか) |
| 度数法では $\dfrac\pi{180}$ | 角の単位を変えると傾きが変わる | 弧長で角を測る理由 |
証明には扇形の面積を使う。そのために、弧度法と扇形の面積の公式を確認しておく。弧度法の詳しい説明は 一般角と弧度法 で扱う。
半径 $1$ の円(単位円)で、中心角に対する弧の長さを、その角の大きさとする測り方を 弧度法 といい、単位を ラジアン という。$180^\circ$ は半円の弧の長さ $\pi$ にあたるので、$180^\circ=\pi$ ラジアン、$1^\circ=\dfrac{\pi}{180}$ ラジアンである。
半径 $r$、中心角 $x$ ラジアン($0< x\le2\pi$)の扇形の面積 $S$ は
$$
S=\pi r^2\cdot\frac{x}{2\pi}=\frac12r^2x
$$
である。円の面積 $\pi r^2$ に、全体の角 $2\pi$ に対する中心角 $x$ の割合 $\dfrac{x}{2\pi}$ を掛けたものである。
面積の公式が $\dfrac12r^2x$ と簡単になるのは、角を弧度法で測ったからである。度数法で中心角 $\theta^\circ$ なら、面積は $\pi r^2\cdot\dfrac{\theta}{360}=\dfrac12r^2\theta\cdot\dfrac{\pi}{180}$ で、$\dfrac12r^2x$ の形に比べて余分な $\dfrac{\pi}{180}$ が付く。この違いが、後で極限の値の違いになる(prop-sxx-degree)。
次の 2 つは、高校の教科書と同じく、この記事では証明せずに使う。
扇形の面積をはさむ 2 つの三角形を使う(図 2)。
$0< x<\dfrac\pi2$ のとき
$$
\sin x< x<\tan x
$$
である。
方針:単位円の中に、三角形、扇形、大きい三角形を内側から順に並べ、rem-sxx-area-facts の単調性で面積を比べる。これで等号つきの不等式が出る。等号がつかないことは、角を半分にした不等式と 2 倍角の公式から示す。
段 1(点をとる)。原点を $O$、点 $A(1,0)$ とし、単位円上に $\angle AOP=x$ となる点 $P(\cos x,\sin x)$ を第 1 象限にとる。点 $A$ で単位円に接する直線 $x=1$ と、直線 $OP$ の交点を $T$ とする。直線 $OP$ の傾きは $\dfrac{\sin x}{\cos x}=\tan x$ なので、$T(1,\tan x)$ である。$0< x<\dfrac\pi2$ なので $\sin x>0$、$\cos x>0$、$\tan x>0$ である。
段 2(3 つの面積)。
単位円の中の三角形 OAP(緑)、扇形 OAP(青の部分まで)、三角形 OAT(橙の部分まで)。内側の図形ほど面積が小さい
2 倍角の公式は 加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く で導いている。段 3 だけでも極限の計算には十分である(下の prf-sxx-main は等号つきでも同じように進む)。
小数第 4 位まで(切り捨て)で比べる。
| $x$ | $\sin x$ | $x$ | $\tan x$ |
|---|---|---|---|
| $0.1$ | $0.0998$ | $0.1$ | $0.1003$ |
| $0.5$ | $0.4794$ | $0.5$ | $0.5463$ |
| $1$ | $0.8414$ | $1$ | $1.5574$ |
| $1.5$ | $0.9974$ | $1.5$ | $14.1014$ |
どの行でも $\sin x< x<\tan x$ である。$x$ が $0$ に近いほど 3 つは近く、$x$ が $\dfrac\pi2\approx1.5708$ に近づくと $\tan x$ は急に大きくなる。
同じ不等式は、正多角形の周の長さで円周率をはさむときにも使う(正多角形で円周率を挟む)。
lem-sxx-ineq を $\dfrac{\sin x}x$ についての不等式に直し、はさみうちで極限を求める。数列のはさみうちは はさみうちと評価の技法 で示した。ここでは関数の場合を使うので、関数の極限の定義を思い出しておく。
関数 $f$ が点 $a$ の近く($a$ 自身は除いてよい)で定義されているとする。$\displaystyle\lim_{x\to a}f(x)=L$ とは、どんな正の数 $\varepsilon$ に対しても、ある正の数 $\delta$ があって、$0<|x-a|<\delta$ を満たすすべての $x$ で $|f(x)-L|<\varepsilon$ となることをいう。詳しくは 極限とε-δ の「関数の極限と連続性」の節にある。$x=a$ での値 $f(a)$ は、あってもなくても極限には関係しない。$\dfrac{\sin x}{x}$ は $x=0$ で定義されないが、極限は考えられる。
正の数 $r$ があって、$0<|x-a|< r$ を満たすすべての $x$ で
$$
g(x)\le f(x)\le h(x)
$$
が成り立つとする。$\displaystyle\lim_{x\to a}g(x)=\lim_{x\to a}h(x)=L$ なら、$\displaystyle\lim_{x\to a}f(x)=L$ である。
方針:rem-sxx-limit-def の定義を $g$ と $h$ に使い、2 つの $\delta$ の小さい方をとる。
段 1($g$ と $h$ の定義)。$\varepsilon>0$ を任意にとる。$\displaystyle\lim_{x\to a}g(x)=L$ なので、ある $\delta_1>0$ があって、$0<|x-a|<\delta_1$ なら $|g(x)-L|<\varepsilon$、つまり $L-\varepsilon< g(x)< L+\varepsilon$ である。同じく、ある $\delta_2>0$ があって、$0<|x-a|<\delta_2$ なら $L-\varepsilon< h(x)< L+\varepsilon$ である。
段 2(3 つの条件を同時に満たす範囲)。$\delta$ を $\delta_1,\delta_2,r$ のうち最小のものとする。$0<|x-a|<\delta$ なら、段 1 の 2 つの不等式と仮定 $g(x)\le f(x)\le h(x)$ がすべて成り立つ。
段 3(はさむ)。段 2 の $x$ について
$$
L-\varepsilon< g(x)\le f(x)\le h(x)< L+\varepsilon
$$
なので $|f(x)-L|<\varepsilon$ である。$\varepsilon$ は任意だったので、定義により $\displaystyle\lim_{x\to a}f(x)=L$ である。$\square$
注:$x\to\infty$ のときも、仮定の「$0<|x-a|< r$」を「$x>R$」に、定義の「$0<|x-a|<\delta$」を「$x>M$」に置き換えれば、同じ証明で lem-sxx-squeeze が成り立つ(段 2 では $M$ を $M_1,M_2,R$ のうち最大のものにとる)。
下からおさえる関数として $\cos x$ を使うので、$\cos x$ が $0$ の近くで $1$ に近づくことも示しておく。
すべての実数 $x$ について $|\sin x|\le|x|$ であり、
$$
0\le1-\cos x\le\frac{x^2}2
$$
である。したがって $\displaystyle\lim_{x\to0}\cos x=1$ である。
方針:$|\sin t|\le|t|$ を場合分けで示し、半角の公式 $1-\cos x=2\sin^2\dfrac x2$ に使う。
段 1($|\sin t|\le|t|$)。$t=0$ なら両辺とも $0$ である。$0< t<\dfrac\pi2$ なら lem-sxx-ineq により $0<\sin t< t$ である。$t\ge\dfrac\pi2$ なら $|\sin t|\le1<\dfrac\pi2\le t$ である($\dfrac\pi2>1.5>1$)。$t<0$ なら、$\sin(-t)=-\sin t$ なので $|\sin t|=|\sin(-t)|$ であり、$-t>0$ に今の結果を使うと $|\sin(-t)|\le-t=|t|$ である。
段 2($1-\cos x$ の評価)。2 倍角の公式 $\cos x=1-2\sin^2\dfrac x2$ より $1-\cos x=2\sin^2\dfrac x2$ である。これは $0$ 以上である。段 1 を $t=\dfrac x2$ に使うと $\sin^2\dfrac x2\le\left(\dfrac x2\right)^2=\dfrac{x^2}4$ なので
$$
0\le1-\cos x=2\sin^2\frac x2\le2\cdot\frac{x^2}4=\frac{x^2}2
$$
である。
段 3(極限)。段 2 を書き直すと $1-\dfrac{x^2}2\le\cos x\le1$ である。$x\to0$ で $1-\dfrac{x^2}2\to1$ なので、lem-sxx-squeeze により $\displaystyle\lim_{x\to0}\cos x=1$ である。$\square$
これで準備がそろった。
$0<|x|<\dfrac\pi2$ のとき
$$
\cos x<\frac{\sin x}{x}<1
$$
である。したがって
$$
\lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1
$$
である。
方針:$x>0$ の場合に lem-sxx-ineq を $x$ と $\sin x$ で割る。$x<0$ の場合は、$\dfrac{\sin x}{x}$ と $\cos x$ が $x$ を $-x$ に変えても変わらないことを使って $x>0$ の場合に戻す。最後に lem-sxx-squeeze を使う。
段 1($0< x<\dfrac\pi2$ の場合)。lem-sxx-ineq の左側 $\sin x< x$ の両辺を正の数 $x$ で割ると
$$
\frac{\sin x}{x}<1
$$
である。右側 $x<\tan x=\dfrac{\sin x}{\cos x}$ の両辺に正の数 $\dfrac{\cos x}{x}$ を掛けると
$$
\cos x<\frac{\sin x}{x}
$$
である。2 つを合わせて $\cos x<\dfrac{\sin x}{x}<1$ を得る。
段 2($-\dfrac\pi2< x<0$ の場合)。$t=-x$ とおくと $0< t<\dfrac\pi2$ なので、段 1 により $\cos t<\dfrac{\sin t}{t}<1$ である。ここで $\cos t=\cos(-x)=\cos x$ であり、
$$
\frac{\sin t}{t}=\frac{\sin(-x)}{-x}=\frac{-\sin x}{-x}=\frac{\sin x}{x}
$$
である。よって $x<0$ でも $\cos x<\dfrac{\sin x}{x}<1$ である。
段 3(はさみうち)。段 1 と段 2 から、$0<|x|<\dfrac\pi2$ のすべての $x$ で $\cos x\le\dfrac{\sin x}{x}\le1$ が成り立つ。lem-sxx-cos により $\displaystyle\lim_{x\to0}\cos x=1$ であり、定数関数 $1$ の極限は $1$ である。lem-sxx-squeeze を $g(x)=\cos x$、$h(x)=1$、$r=\dfrac\pi2$、$a=0$、$L=1$ で使うと、$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1$ である。$\square$
y = cos x(緑)、y = sin x / x(青)、y = 1(赤)。0 < |x| < π/2 で青のグラフは緑と赤の間にあり、x → 0 で両側とも 1 に近づくので、青も 1 に近づく
$\dfrac{\sin3x}{x}$ のように、正弦の中身が $x$ の定数倍になっている形がよく現れる。そのために、thm-sxx-main を少し言い換えておく。
$c$ を $0$ でない定数とする。このとき
$$
\lim_{x\to0}\frac{\sin cx}{cx}=1
$$
である。
方針:thm-sxx-main の極限の定義(rem-sxx-limit-def)に、$t=cx$ を代入する。
段 1。$\varepsilon>0$ を任意にとる。thm-sxx-main により、ある $\delta>0$ があって、$0<|t|<\delta$ を満たすすべての $t$ で $\left|\dfrac{\sin t}{t}-1\right|<\varepsilon$ である。
段 2。$\delta'=\dfrac{\delta}{|c|}$ とおく。$0<|x|<\delta'$ なら、$t=cx$ は $|t|=|c||x|$ を満たすので $0<|t|<|c|\delta'=\delta$ である($c\ne0$、$x\ne0$ から $t\ne0$)。段 1 により $\left|\dfrac{\sin cx}{cx}-1\right|<\varepsilon$ である。
段 3。$\varepsilon$ は任意だったので、定義により $\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin cx}{cx}=1$ である。$\square$
以下の計算では、関数の極限の和・差・積・商の性質(商は分母の極限が $0$ でないとき)を使う。これらは高校で習う性質であり、数列の極限の同じ性質と、極限とε-δ の命題「数列による特徴づけ」から示せる。
thm-sxx-main から、$\cos x$ が $1$ からどれだけずれるかが分かる。
$$
\lim_{x\to0}\frac{1-\cos x}{x^2}=\frac12,\qquad\lim_{x\to0}\frac{1-\cos x}{x}=0
$$
である。
方針:$1-\cos x=2\sin^2\dfrac x2$ で $\sin$ の式に直し、lem-sxx-scale を $c=\dfrac12$ で使う。
段 1(書き直し)。prf-sxx-cos の段 2 と同じく $1-\cos x=2\sin^2\dfrac x2$ である。$x\ne0$ で両辺を $x^2$ で割り、$x^2=4\left(\dfrac x2\right)^2$ を使うと
$$
\frac{1-\cos x}{x^2}=\frac{2\sin^2\dfrac x2}{4\left(\dfrac x2\right)^2}=\frac12\left(\frac{\sin\dfrac x2}{\dfrac x2}\right)^2
$$
である。
段 2(1 つ目の極限)。lem-sxx-scale を $c=\dfrac12$ で使うと $\dfrac{\sin(x/2)}{x/2}\to1$ である。積の極限の性質により、段 1 の右辺は $\dfrac12\cdot1^2=\dfrac12$ に近づく。
段 3(2 つ目の極限)。$\dfrac{1-\cos x}{x}=x\cdot\dfrac{1-\cos x}{x^2}$ である。$x\to0$ で $x\to0$、$\dfrac{1-\cos x}{x^2}\to\dfrac12$ なので、積は $0\cdot\dfrac12=0$ に近づく。$\square$
この 2 つの極限を使うと、$\sin x$ の導関数が求まる。導関数の定義は先に 微分係数と導関数の定義(高校数学) で扱った。ここでは
$$
f'(x)=\lim_{h\to0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}
$$
を使う。
すべての実数 $x$ で
$$
(\sin x)'=\cos x,\qquad(\cos x)'=-\sin x
$$
である($x$ は弧度法で測る)。
方針:加法定理で $\sin(x+h)$ を展開し、$h$ だけを含む 2 つの因子 $\dfrac{\sin h}{h}$ と $\dfrac{\cos h-1}{h}$ を取り出す。その極限は thm-sxx-main と cor-sxx-cos で分かっている。
段 1($\sin$ の差の変形)。加法定理 $\sin(x+h)=\sin x\cos h+\cos x\sin h$ より
$$
\frac{\sin(x+h)-\sin x}{h}=\sin x\cdot\frac{\cos h-1}{h}+\cos x\cdot\frac{\sin h}{h}
$$
である。
段 2($\sin$ の極限)。$x$ は固定されているので、$\sin x$ と $\cos x$ は定数である。cor-sxx-cos により $\dfrac{\cos h-1}{h}=-\dfrac{1-\cos h}{h}\to0$、thm-sxx-main により $\dfrac{\sin h}{h}\to1$ である。よって段 1 の右辺は $\sin x\cdot0+\cos x\cdot1=\cos x$ に近づく。これで $(\sin x)'=\cos x$ である。
段 3($\cos$ の差の変形)。加法定理 $\cos(x+h)=\cos x\cos h-\sin x\sin h$ より
$$
\frac{\cos(x+h)-\cos x}{h}=\cos x\cdot\frac{\cos h-1}{h}-\sin x\cdot\frac{\sin h}{h}
$$
である。
段 4($\cos$ の極限)。段 2 と同じ 2 つの極限により、右辺は $\cos x\cdot0-\sin x\cdot1=-\sin x$ に近づく。これで $(\cos x)'=-\sin x$ である。$\square$
証明で使った加法定理は、加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く で証明している。$(\cos x)'=-\sin x$ から、$\sin$ を 2 回微分すると $-\sin$ に戻る。この性質から三角関数を特徴づける話は 微分方程式としての指数関数・三角関数 で扱う。同じ「原点での傾きが $1$」という形の極限 $\displaystyle\lim_{h\to0}\frac{e^h-1}{h}=1$ は、指数関数の側で 指数関数の微分 が扱っている。
ここまで、$x$ はすべて弧度法で測ってきた。角を度で測ると、同じ計算で極限の値が変わる。区別のため、$x$ 度の正弦を $\sin(x^\circ)$ と書く。$x^\circ=\dfrac{\pi x}{180}$ ラジアンなので
$$
\sin(x^\circ)=\sin\frac{\pi x}{180}
$$
である。
$c=\dfrac{\pi}{180}$ とおく。
$$
\lim_{x\to0}\frac{\sin(x^\circ)}{x}=c=\frac{\pi}{180}
$$
であり、$x$ の関数 $\sin(x^\circ)$ の導関数は $c\cos(x^\circ)$ である。
方針:$\sin(x^\circ)=\sin cx$ と書き、lem-sxx-scale と prf-sxx-derivative と同じ変形を使う。
段 1(極限)。$\dfrac{\sin(x^\circ)}{x}=\dfrac{\sin cx}{x}=c\cdot\dfrac{\sin cx}{cx}$ である。lem-sxx-scale により $\dfrac{\sin cx}{cx}\to1$ なので、極限は $c$ である。
段 2(差の商の変形)。$s(x)=\sin cx$ とおく。加法定理により
$$
\frac{s(x+h)-s(x)}{h}=\sin cx\cdot\frac{\cos ch-1}{h}+\cos cx\cdot\frac{\sin ch}{h}
$$
である。
段 3(2 つの因子の極限)。$\dfrac{\sin ch}{h}=c\cdot\dfrac{\sin ch}{ch}\to c$ である(lem-sxx-scale)。また半角の公式により
$$
\frac{\cos ch-1}{h}=-\frac{2\sin^2\dfrac{ch}2}{h}=-c\cdot\sin\frac{ch}2\cdot\frac{\sin\dfrac{ch}2}{\dfrac{ch}2}
$$
である。lem-sxx-cos の $\left|\sin\dfrac{ch}2\right|\le\left|\dfrac{ch}2\right|$ と lem-sxx-squeeze から $\sin\dfrac{ch}2\to0$ であり、最後の因子は lem-sxx-scale により $1$ に近づく。よって $\dfrac{\cos ch-1}{h}\to-c\cdot0\cdot1=0$ である。
段 4(まとめ)。段 2 の右辺は $\sin cx\cdot0+\cos cx\cdot c=c\cos cx=c\cos(x^\circ)$ に近づく。$\square$
$c=\dfrac\pi{180}=0.0174532\ldots$ である。
(1) $x=1$:$\dfrac{\sin(1^\circ)}{1}=0.0174524\ldots$ で、$c$ とほぼ等しい。
(2) $x=10$:$\dfrac{\sin(10^\circ)}{10}=0.0173648\ldots$ である。
(3) $x=30$:$\dfrac{\sin(30^\circ)}{30}=\dfrac{1/2}{30}=\dfrac1{60}=0.016666\ldots$ である。
$x$ を $0$ に近づけると $c$ に近づき、$1$ には近づかない。導関数も $c\cos(x^\circ)$ になるので、$x=60$ での傾きは $c\cos60^\circ=\dfrac c2=0.0087266\ldots$ である。差の商を $h=0.01$ で計算すると $\dfrac{\sin(60.01^\circ)-\sin(60^\circ)}{0.01}=0.0087253\ldots$ で、よく合う。
左は弧度法の y = sin x と y = x、右は度数法の y = sin(x°) と y = (π/180)x。どちらも原点の近くで直線に重なるが、傾きは 1 と π/180 で異なる
度数法では、微分するたびに $c=\dfrac\pi{180}$ が 1 つずつ付く。2 回微分すると $-c^2\sin(x^\circ)$ である。弧度法は、この余分な定数が $1$ になるように角の単位を選んだものである。扇形の面積が $\dfrac12r^2x$ と簡単になったこと(def-sxx-radian)と、極限が $1$ になることは、同じ理由から来ている。
同じ $\dfrac{\sin x}{x}$ でも、$x$ を限りなく大きくすると様子が変わる(図 1 の右側)。
$\displaystyle\lim_{x\to\infty}\frac{\sin x}{x}=0$ である。
段 1(はさむ)。すべての実数 $x$ で $-1\le\sin x\le1$ である。$x>0$ のとき、各辺を正の数 $x$ で割ると
$$
-\frac1x\le\frac{\sin x}{x}\le\frac1x
$$
である。
段 2(両側の極限)。$x\to\infty$ で $\dfrac1x\to0$、$-\dfrac1x\to0$ である。はさみうちは $x\to\infty$ のときも同じ形で成り立つ(lem-sxx-squeeze の後の注)ので、$\dfrac{\sin x}{x}\to0$ である。
数で確かめると、$\dfrac{\sin100}{100}=-0.00506\ldots$ で、$\left|-0.00506\right|\le\dfrac1{100}$ である。$x\to0$ では分子と分母がどちらも $0$ に近づいて比が $1$ になったが、$x\to\infty$ では分子が $-1$ と $1$ の間にとどまり、分母だけが大きくなる。
半径 $1$ の円に内接する正 $n$ 角形の周の長さの半分は $n\sin\dfrac\pi n$ である。1 辺は中心角 $\dfrac{2\pi}n$ の二等辺三角形の底辺で、その長さは $2\sin\dfrac\pi n$ だからである。
$$
n\sin\frac\pi n=\pi\cdot\frac{\sin\dfrac\pi n}{\dfrac\pi n}
$$
と書き直す。$n\to\infty$ で $t=\dfrac\pi n\to0$ なので、thm-sxx-main により $n\sin\dfrac\pi n\to\pi\cdot1=\pi$ である。$n=6$ で $6\sin\dfrac\pi6=3$、$n=12$ で $3.10582\ldots$、$n=96$ で $3.14103\ldots$ である。これは円周率を正多角形で求める方法そのもので、詳しくは 正多角形で円周率を挟む で扱う。
thm-sxx-main とその証明で使った仮定を 1 つずつ外すと、何が崩れるかをまとめる。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 角を弧度法で測る | 極限の値が $1$ | prop-sxx-degree、ex-sxx-degree |
| $x\to0$ | 極限の値が $1$($x\to\pi$、$x\to\infty$ では $0$) | ex-sxx-other-points、ex-sxx-infinity |
| 分母が $x$ の 1 乗 | 有限の極限がある | ex-sxx-wrong-power |
| $0< x<\dfrac\pi2$ | $x<\tan x$ | ex-sxx-ineq-range |
| はさむ 2 つの関数の極限が等しい | はさまれた関数に極限がある | ex-sxx-squeeze-fail |
$\dfrac{\sin x}{x}$ は $x\ne0$ で連続なので、$0$ 以外の点 $a$ では代入で極限が求まる。たとえば $a=\pi$ では、分子 $\sin x\to\sin\pi=0$、分母 $x\to\pi$ なので $\displaystyle\lim_{x\to\pi}\frac{\sin x}{x}=\frac0\pi=0$ である。$\dfrac00$ の形になるのは $x\to0$ のときだけであり、極限が $1$ になるという主張も $x\to0$ に限る。
$x=2$ では $\dfrac\pi2<2<\pi$ であり、$\sin2=0.909\ldots$、$\tan2=-2.185\ldots$ である。$\sin x< x$ はまだ成り立つが、$x<\tan x$ は成り立たない(右辺が負)。prf-sxx-ineq の段 1 で、交点 $T$ を $x=1$ の直線の上側にとれたのは $\cos x>0$ だったからで、$x>\dfrac\pi2$ では直線 $OP$ は $x=1$ と第 1 象限で交わらない。なお $\sin x< x$ はすべての $x>0$ で成り立つ($x\ge\dfrac\pi2$ では $\sin x\le1< x$)。
$x\ne0$ で $f(x)=\sin\dfrac1x$ とする。$-1\le f(x)\le1$ であるが、下の関数の極限 $-1$ と上の関数の極限 $1$ が違うので、lem-sxx-squeeze は使えない。実際、$f$ は $x\to0$ で極限をもたない。$x=\dfrac1{\pi/2+2n\pi}$($n=0,1,2,\ldots$。$0.6366\ldots$、$0.1273\ldots$、$0.0707\ldots$ と $0$ に近づく)では $f(x)=1$ であり、$x=\dfrac1{2n\pi}$($n=1,2,3,\ldots$)では $f(x)=0$ である。$0$ のいくらでも近くに値 $1$ の点と値 $0$ の点があるので、1 つの値には近づかない(詳しい証明は 極限とε-δ の反例にある)。
これに対して $x\sin\dfrac1x$ は $-|x|\le x\sin\dfrac1x\le|x|$ で、両側の極限がどちらも $0$ なので、はさみうちにより $0$ に近づく。
この記事の証明は、扇形の面積が $\dfrac x2$ であることを使った。この事実がどこから来るかをたどると、困ったことが起きる。
段 1(循環の疑い)。高校では、円の面積 $\pi$ を $\displaystyle\int_{-1}^{1}2\sqrt{1-x^2}\,dx$ で計算するとき、置換 $x=\sin\theta$、$dx=\cos\theta\,d\theta$ を使う。この置換は $(\sin\theta)'=\cos\theta$ を使っている。ところが $(\sin\theta)'=\cos\theta$ は thm-sxx-derivative で、扇形の面積から出した極限を使って示した。これでは「示したいことを先に使う」循環になるおそれがある。
段 2(l'Hôpital の定理も使えない)。$\dfrac{\sin x}{x}$ に l'Hôpitalの定理(高校数学) を使うと、分子と分母を微分して $\dfrac{\cos x}{1}\to1$ となる。しかしこの計算は $(\sin x)'=\cos x$ を使っており、それは求めたい極限から出したものなので、やはり循環する。
段 3(解き方)。大学の解析学では、三角関数を図形を使わずに定義して循環を断つ。代表的な方法は、冪級数
$$
\sin x=x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\cdots,\qquad\cos x=1-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\cdots
$$
で定義するものである(Leb26 §11.4.2、Proposition 11.4.2 では複素指数関数から定義し、この級数を導く)。この定義からは、$\dfrac{\sin x}{x}=1-\dfrac{x^2}{3!}+\dfrac{x^4}{5!}-\cdots$ となり、極限 $1$ は面積を使わずに出る。そのあとで弧の長さや扇形の面積を積分で計算すれば、高校の図形による定義と一致することも示せる。この道筋は 三角関数はどう定義するか で、3 通りの定義とともに証明つきで扱う。
段 4(高校の証明の位置づけ)。したがって、この記事の面積による証明は、「扇形の面積が $\dfrac x2$」を図形の事実として認める立場では正しい推論である。rem-sxx-area-facts で認めた 2 つの事実を、循環しない形で基礎づけるのが大学の仕事である。面積そのものの定義は 区分求積と積分の定義 で扱い、さらに一般には 測度 の理論になる。
段 3 の級数から、$x$ が小さいとき $1-\dfrac{\sin x}{x}\approx\dfrac{x^2}6$ である。ex-sxx-table の最後の列を $x^2$ で割ると次のようになる。
| $x$ | $\dfrac{1}{x^2}\left(1-\dfrac{\sin x}{x}\right)$ |
|---|---|
| $0.5$ | $0.16459\ldots$ |
| $0.1$ | $0.16658\ldots$ |
| $0.01$ | $0.1666658\ldots$ |
どれも $\dfrac16=0.16666\ldots$ に近づいている。ex-sxx-table で「$x$ を $\dfrac1{10}$ にするとずれがおよそ $\dfrac1{100}$ になる」と見えたのは、ずれが $x^2$ に比例するからである。級数による近似の証明は 関数の近似とテイラー展開 で扱う。
$\sin$ と $\cos$ の冪級数は、指数関数の冪級数と Eulerの公式 $e^{ix}=\cos x+i\sin x$ で結ばれる(Leb26 Proposition 11.4.2)。この立場では、$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1$ も $\displaystyle\lim_{h\to0}\frac{e^h-1}{h}=1$ も、「冪級数の 1 次の係数が $1$」という同じ事実の現れになる。
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