Noether加群

概要

環 $R$ について、左 $R$-加群 $M$ が左Noether加群 (Noetherian module) であるとは、$M$ の任意の部分左 $R$-加群が有限生成であることをいう。これは $M$ の部分左 $R$-加群の真の無限上昇列が存在しないことと同値であり、また $M$ の部分左 $R$-加群からなる集合が必ず包含関係に関する極大元をもつこととも同値である。

$$\newcommand{AA}[0]{\mathscr{A}} \newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{Arg}[0]{\operatorname{Arg}} \newcommand{BB}[0]{\mathscr{B}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{CC}[0]{\mathscr{C}} \newcommand{floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor} \newcommand{ind}[0]{\mathrm{ind}} \newcommand{mmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{Mod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rank}[0]{\mathrm{rank}} \newcommand{SS}[0]{\mathscr{S}} \newcommand{TT}[0]{\mathscr{T}} \newcommand{UU}[0]{\mathscr{U}} \newcommand{wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

定義

$R$ について、左 $R$-加群 $M$ が左Noether加群 (Noetherian module) であるとは、$M$ の任意の部分左 $R$-加群が有限生成であることをいう。とくに左正則 $R$-加群 $R$ が左Noetherのとき、環 $R$ は左Noether環と呼ばれる。

次の各条件は同値である。
(i) $M$ の任意の任意の部分左 $R$-加群が有限生成である。
(ii) $M$ の部分左 $R$-加群の上昇列
$$M_1\subset M_2\subset \cdots$$
をとると、$i, j$ が十分大きいとき、必ず $M_i=M_j$ となる。
(iii) $S\neq\emptyset$$M$ の部分左 $R$-加群からなる集合とすると、$S$ は必ず包含関係に関する極大元をもつ。つまり、$N\in S$ だが、$N\subset L\in S$ のとき $L=N$ となる $M$ の部分左 $R$-加群 $N$ が存在する。

(i)$\Longrightarrow$(ii). まず $$N=\bigcup_{i=1}^\infty M_i$$
とおくと、$N$$M$ の部分左 $R$-加群となる。実際、$a, b\in N$ ならば $a\in M_i, b\in M_j$ となる $i, j$ をとって
$k=\max\{i, j\}$ とおくと $a+b\in M_k\in N$ となるし、$a\in N, r\in R$ のとき、$a\in M_i$ となる $i$ をとると、$ra\in M_i\in N$ となる。
したがって、$N$ は有限生成であるから、$N$ の生成元 $a_1, a_2, \ldots, a_r$ がとれる。
$j=1, \ldots, r$ について$a_j\in M_i$ となる最小の $i$$f(j)$ とし、$i_0=\max f(j)$ とおくと、$i\geq i_0$ のとき、
$a_1, a_2, \ldots, a_r\in M_i$ なので、$M_i=N$ となる。つまり $i, j\geq i_0$ のとき $M_i=M_j=N$ となる。

(ii)$\Longrightarrow$(iii). (iii) に反し $S\neq\emptyset$$M$ の部分左 $R$-加群からなる集合だが包含関係に関する極大元をもたないと仮定し、$M_1\in S$ をひとつとる。
$M_1$ は極大元ではないから、$$M_1\subset M_2\in S, M_2\neq M_1$$ となる $M_2$ がとれる。
一般に $$M_1\subset M_2\subset \cdots \subset M_n\in S, M_1\neq M_2\neq \cdots \neq M_n$$
となる $M_1, \ldots, M_n$ がとれたとすると、
$M_n$ は極大元ではないから、
$$M_n\subset M_{n+1}\in S, M_{n+1}\neq M_n$$ となる $M_{n+1}$ がとれる。
このようにして、$M$ の部分左 $R$-加群の無限上昇列
$$M_1\subset M_2\subset \cdots, ~ M_1\neq M_2\neq \cdots$$
がとれるが、これは (ii) に反する。

(iii)$\Longrightarrow$(i). (i) に反し $M$ の部分左 $R$-加群 $N$ が有限生成でないとし、$a_1\in N$ をひとつとる。$N$$a_1$ で生成されないから、$M_1=(a_1)$ に属さない $a_2\in N$ がとれる。同様にして $M_n=(a_1, a_2, \ldots, a_n)$$N$ の部分左 $R$-加群ならば、$M_n$ に属さない $a_{n+1}\in N$ がとれる。
このようにして $N$ の(したがって、$M$ の)部分左 $R$-加群の無限列 $M_n\ (n=1, 2, \ldots)$ がとれる。
$S=\{M_n: n=1, 2, \ldots\}$ とおく。$M_n\subset M_{n+1}$ だが $M_n\neq M_{n+1}$ なので $S$ は極大元をもたない。これは (iii) に反する。

したがって (i), (ii) あるいは (iii) のいずれを左Noether加群の定義としてもよい。