正則値定理(regular value theorem)とは、可微分多様体の間の滑らかな写像 $F\colon M\to N$ と点 $q\in N$ について、$F(p)=q$ となるすべての点 $p$ で微分 $dF_p$ が全射($q$ が正則値)ならば、ファイバー $F^{-1}(q)$ は空集合であるか $\dim M-\dim N$ 次元の閉部分多様体であり、その接空間は $\ker dF_p$ である、という定理である。その根拠は、微分が全射な点の近くで $F$ が座標により射影と表されること(沈め込みの局所標準形)で、これは逆関数定理から従う。球面・双曲面・特殊線形群が例で、臨界値の逆像は十字や円錐のように部分多様体にならないことがある。
前提知識: 可微分多様体, 接空間, 逆関数定理, はめ込みと埋め込み(可微分多様体)
球面 $S^n$ は方程式 $x_1^2+\dots+x_{n+1}^2=1$ の解の集合であり、特殊線形群 $SL(n,\mathbb{R})$ は方程式 $\det A=1$ の解の集合である。方程式の解の集合がいつ滑らかな図形(部分多様体)になるかに答えるのが正則値定理である。滑らかな写像 $F\colon M\to N$ と点 $q\in N$ について、$F(p)=q$ となるすべての点 $p$ で微分 $dF_p$ が全射ならば、解の集合 $F^{-1}(q)$ は次元 $\dim M-\dim N$ の閉部分多様体になる。証明の鍵は、微分が全射な点の近くでは $F$ が座標で射影 $(x^1,\dots,x^m)\mapsto(x^1,\dots,x^n)$ と表されること(沈め込みの局所標準形)であり、これは逆関数定理から導かれる。
多様体・写像・階数の約束は はめ込みと埋め込み(可微分多様体) の記事と同じとする。すなわち多様体は Hausdorff かつ第 2 可算な $C^\infty$ 級多様体、$M$ は $m$ 次元、$N$ は $n$ 次元、$F\colon M\to N$ は $C^\infty$ 級写像であり、$\operatorname{rank}_pF$ は局所表示の Jacobi 行列の階数、すなわち微分 $dF_p\colon T_pM\to T_{F(p)}N$(接空間)の階数である。
$F\colon M\to N$ を $C^\infty$ 級写像とする。
$F$ の像に属さない点 $q$ は、$F^{-1}(q)=\emptyset$ なので定義により正則値である。$dF_p$ が全射なら $m\ge n$ なので、$m< n$ のときは臨界点しかなく、正則値は像に属さない点だけである。「正則値」は値の性質であって点の性質ではない:臨界値 $q$ のファイバー $F^{-1}(q)$ にも正則点が含まれうる。
Nic26 は Definition 2.1.14(b)(p. 31)でこの記事と同じ定義を与える一方、Definition 2.1.16(p. 32)では $\operatorname{rank}dF_p<\min(m,n)$ となる点を臨界点と呼ぶ。$m\ge n$ ならこの記事の定義と一致するが、$m< n$ のときはこの記事では全点が臨界点であるのに対し、そこでははめ込みとなる点は臨界点でない。以下の定理はすべて $m\ge n$ の場合が本質であり、どちらの流儀でも同じ主張になる(補足の Sard の定理は、流儀の差が効かない $m\ge n$ の場合に限って述べる)。同書の Exercise 2.1.17(p. 32)は、$\dim N\le\dim M$ のとき正則値のファイバーが空または余次元 $\dim N$ の部分多様体であることを演習としている。
$F\colon M\to N$ が点 $p$ で沈め込みであるとする。このとき $p$ のまわりの座標近傍 $(U,\varphi)$ と $F(p)$ のまわりの座標近傍 $(V,\psi)$ で、$\varphi(p)=0$、$\psi(F(p))=0$、$F(U)\subset V$ であり、
$$
\psi\circ F\circ\varphi^{-1}(x^1,\dots,x^m)=(x^1,\dots,x^n)\qquad((x^1,\dots,x^m)\in\varphi(U))
$$
となるものが存在する。とくに $F$ の正則点の全体は $M$ の開集合である。
$F(p)$ のまわりの座標近傍 $(V,\psi)$ と $p$ のまわりの座標近傍 $(U_0,\varphi_0)$ を、$\psi(F(p))=0$、$\varphi_0(p)=0$、$F(U_0)\subset V$ となるようにとる。局所表示 $\hat F:=\psi\circ F\circ\varphi_0^{-1}\colon\varphi_0(U_0)\to\mathbb{R}^n$ の Jacobi 行列 $D\hat F(0)$ は $n\times m$ 行列で階数 $n$ なので、$n$ 本の列を選ぶと正則な $n\times n$ 小行列ができる。$\varphi_0$ の成分を並べ替えても座標近傍であることは変わらないので、最初の $n$ 列からなる小行列 $A$ が正則であるとしてよい。
$C^\infty$ 級写像 $G\colon\varphi_0(U_0)\to\mathbb{R}^m$ を
$$
G(x):=\bigl(\hat F(x),\ x^{n+1},\dots,x^m\bigr)
$$
で定める。$G(0)=0$ であり、Jacobi 行列はブロック表示で
$$
DG(0)=\begin{pmatrix}A&\ast\\0&I_{m-n}\end{pmatrix}
$$
なので $\det DG(0)=\det A\neq0$ である。逆関数定理 の記事の定理(逆関数定理)により、$0$ を含む開集合 $W\subset\varphi_0(U_0)$ で、$G|_W$ が $W$ から開集合 $G(W)$ への微分同相写像となるものがある。
$U:=\varphi_0^{-1}(W)$、$\varphi:=G\circ\varphi_0|_U$ とおく。$\varphi$ は $U$ から開集合 $G(W)$ への微分同相写像なので、$(U,\varphi)$ は $M$ の座標近傍であり、$\varphi(p)=G(0)=0$ である。$z\in\varphi(U)$ に対し $x:=(G|_W)^{-1}(z)$ とおくと $G(x)=z$ なので、$\hat F(x)$ は $z$ の最初の $n$ 成分 $(z^1,\dots,z^n)$ に等しい。したがって
$$
\psi\circ F\circ\varphi^{-1}(z)=\hat F\bigl((G|_W)^{-1}(z)\bigr)=(z^1,\dots,z^n)
$$
である。$U\subset U_0$ なので $F(U)\subset V$ である。
最後の主張:$U$ の各点 $u$ で局所表示は射影なので $\operatorname{rank}_uF=n$ であり、$U$ は $p$ を含む正則点からなる開集合である。$\square$
この定理は 階数定理 の、階数が終域の次元に等しい場合にあたる。Euclid 空間の開集合の間の写像についての同じ主張は、階数定理 の記事の系(局所沈め込み定理)である。はめ込みの場合の対応する主張は はめ込みと埋め込み(可微分多様体) の記事の定理(はめ込みの局所標準形)である。
$F\colon M\to N$ を $C^\infty$ 級写像、$q\in N$ を $F$ の正則値とし、$S:=F^{-1}(q)$ とおく。このとき次が成り立つ。
1 を示す。$N$ は Hausdorff 空間なので一点集合 $\{q\}$ は閉集合であり、$F$ は連続なので $S=F^{-1}(q)$ は閉集合である。$S\neq\emptyset$ とし、$p\in S$ をとる。$p$ は正則点なので $m\ge n$ であり、thm-rvt-local-form の座標近傍 $(U,\varphi)$、$(V,\psi)$ がとれる。$\psi(q)=\psi(F(p))=0$ であり、$\psi$ は単射なので、$u\in U$ について
$$
u\in S\iff F(u)=q\iff\psi(F(u))=0\iff\varphi(u)\text{ の最初の }n\text{ 成分がすべて }0
$$
である。最後の同値は局所表示が射影 $(x^1,\dots,x^m)\mapsto(x^1,\dots,x^n)$ であることによる。$\varphi$ の成分を $(x^{n+1},\dots,x^m,x^1,\dots,x^n)$ の順に並べ替えた座標近傍を $\varphi'$ とすると
$$
\varphi'(U\cap S)=\varphi'(U)\cap(\mathbb{R}^{m-n}\times\{0\})
$$
となり、$(U,\varphi')$ は $p$ のまわりの $m-n$ スライス座標である(はめ込みと埋め込み(可微分多様体) の記事の定義(部分多様体))。$p\in S$ は任意なので、$S$ は $m-n$ 次元の部分多様体である。
2 を示す。$F\circ\iota\colon S\to N$ は値 $q$ の定値写像である。定値写像の微分は $0$ である($v\in T_pS$ と $g\in C^\infty(N)$ に対し $g\circ F\circ\iota$ は定数関数であり、導分は定数関数を $0$ に写す)。接空間 の記事の定理(連鎖律)により $dF_p\circ d\iota_p=d(F\circ\iota)_p=0$、すなわち $d\iota_p(T_pS)\subset\ker dF_p$ である。包含写像 $\iota$ は埋め込み(はめ込みと埋め込み(可微分多様体) の記事の命題(部分多様体の微分構造))なので $d\iota_p$ は単射であり、$\dim d\iota_p(T_pS)=m-n$ である。一方 $dF_p\colon T_pM\to T_qN$ は全射なので、次元定理により $\dim\ker dF_p=m-n$ である。次元が等しいので両者は一致する。$\square$
$N=\mathbb{R}^k$ の場合は、局所座標 の記事の定理(等位集合を平らにする局所座標)と命題(等位集合の多様体構造)が同じ結論を、局所座標の補完によって示している。上の証明は終域 $N$ が一般の多様体でもそのまま通る。接空間の等式は、$M$ が Euclid 空間の開集合で $N=\mathbb{R}^k$ の場合が 接空間 の記事の定理(等位集合の接空間)である。
正則値定理は、ファイバーが部分多様体になるための十分条件であって必要条件ではない(ex-rvt-critical-but-submanifold)。また $q$ が臨界値のとき、$F^{-1}(q)$ は一般に部分多様体でない(ex-rvt-cross)。
$F\colon M\to N$ を沈め込みとする。
1 は、沈め込みではすべての点が正則値なので thm-rvt-main から従う。
2 を示す。部分多様体であることは各点のまわりのスライス座標の存在で決まる局所的な性質なので、$p\in F^{-1}(Z)$ の近くで示せばよい。$F(p)$ のまわりの $Z$ の $k$ スライス座標 $(V,\psi)$、$\psi=(y^1,\dots,y^n)$ をとり、$g:=(y^{k+1},\dots,y^n)\colon V\to\mathbb{R}^{n-k}$ とおく。スライス座標の定義により $V\cap Z=g^{-1}(0)$ である。$g$ は局所表示が射影なので沈め込みであり、開集合 $M':=F^{-1}(V)$ 上の写像 $g\circ F\colon M'\to\mathbb{R}^{n-k}$ は、連鎖律により $d(g\circ F)_u=dg_{F(u)}\circ dF_u$ が全射の合成なので沈め込みである。thm-rvt-main により $M'\cap F^{-1}(Z)=(g\circ F)^{-1}(0)$ は $M'$ の $m-(n-k)$ 次元の部分多様体であり、そのスライス座標は $M$ のスライス座標でもある。$\square$
$F\colon M\to N$ を沈め込みとする。
1:thm-rvt-local-form の座標近傍 $(U,\varphi)$、$(V,\psi)$ をとる。$W:=\{y\in V\mid(\psi(y),0)\in\varphi(U)\}$ は、連続写像 $y\mapsto(\psi(y),0)$ による開集合 $\varphi(U)$ の逆像なので開集合であり、$\psi(F(p))=0$、$\varphi(p)=0$ より $F(p)\in W$ である。$\sigma(y):=\varphi^{-1}(\psi(y),0)$ と定めると $\sigma$ は $C^\infty$ 級で $\sigma(F(p))=\varphi^{-1}(0)=p$ であり、局所表示が射影であることから $\psi(F(\sigma(y)))=\psi(y)$、すなわち $F(\sigma(y))=y$ である。
2:$O\subset M$ を開集合、$p\in O$ とする。$F|_O$ は開部分多様体 $O$ からの沈め込みなので、1 により $F(p)$ の開近傍 $W$ と $F\circ\sigma=\mathrm{id}_W$ を満たす $\sigma\colon W\to O$ がある。$y\in W$ なら $y=F(\sigma(y))\in F(O)$ なので $W\subset F(O)$ である。よって $F(O)$ は開集合である。
3:$y\in N$ とし、全射性により $F(p)=y$ となる $p$ をとる。1 の局所切断 $\sigma\colon W\to M$ について、$W$ 上で $G=G\circ F\circ\sigma$ であり、右辺は $C^\infty$ 級写像の合成なので $C^\infty$ 級である。$C^\infty$ 級であることは各点の近くで確かめればよいので、$G$ は $C^\infty$ 級である。$\square$
3 により、全射な沈め込み $F\colon M\to N$ は、$N$ 上の $C^\infty$ 級関数を「$F$ のファイバー上で一定な $M$ 上の $C^\infty$ 級関数」と同一視させる。2 と全射性から $F$ は商写像でもある(連続な開全射は商写像)。
$F\colon\mathbb{R}^{n+1}\to\mathbb{R}$、$F(x):=x_1^2+\dots+x_{n+1}^2$ の Jacobi 行列は $2x^{\mathsf T}$ で、$x\neq0$ なら階数 $1$ である。$F(0)=0$ なので $0$ でない値はすべて正則値であり、$c>0$ に対し $F^{-1}(c)$(半径 $\sqrt c$ の球面)は $n$ 次元の閉部分多様体である。$T_pS^n=\ker DF(p)=p^\perp$ である。
$\mathbb{R}^3$ 上の $H(x,y,z):=x^2+y^2-z^2$ では $DH=2(x,\,y,\,-z)$ が $0$ になるのは原点だけで、$H(0)=0$ である。よって $c\neq0$ は正則値であり、$c>0$ なら一葉双曲面、$c<0$ なら二葉双曲面 $H^{-1}(c)$ は 2 次元の閉部分多様体である。$c=0$ は臨界値で、円錐 $H^{-1}(0)$ は原点の近くで部分多様体でない(接空間 の記事の例(反例:円錐の頂点))。
$n$ 次正方行列の全体 $M_n(\mathbb{R})\cong\mathbb{R}^{n^2}$ 上の行列式 $\det\colon M_n(\mathbb{R})\to\mathbb{R}$ を考える。可逆な $A$ と $H\in M_n(\mathbb{R})$ に対し
$$
D\det(A)\,H=\frac{d}{dt}\Big|_{t=0}\det(A+tH)=\det A\cdot\operatorname{tr}(A^{-1}H)
$$
である。$\det A=1$ のとき $H:=A/n$ とおくと $D\det(A)H=\operatorname{tr}(I)/n=1$ なので、$D\det(A)$ は $\mathbb{R}$ への全射である。よって $1$ は正則値であり、thm-rvt-main により特殊線形群 $SL(n,\mathbb{R})=\det^{-1}(1)$ は $M_n(\mathbb{R})$ の $n^2-1$ 次元の閉部分多様体で、単位行列での接空間は $\ker D\det(I)=\{H\mid\operatorname{tr}H=0\}$ である。
$\det(A+tH)=\det A\cdot\det(I+tX)$、$X:=A^{-1}H$ である。Leibniz の公式 $\det(I+tX)=\sum_{\sigma}\operatorname{sgn}\sigma\prod_i(\delta_{i\sigma(i)}+tx_{i\sigma(i)})$ で、恒等置換の項は $\prod_i(1+tx_{ii})=1+t\operatorname{tr}X+(t^2\text{ 以上の項})$ であり、恒等置換でない $\sigma$ は少なくとも 2 つの添字を動かすので、その項は $t x_{i\sigma(i)}$($i\neq\sigma(i)$)を 2 個以上含み、$t^2$ で割り切れる。よって $\frac{d}{dt}\big|_{t=0}\det(I+tX)=\operatorname{tr}X$ である。
同じ方法で、直交群 $O(n)$ が $A\mapsto A^{\mathsf T}A$(値を対称行列の空間 $\mathrm{Sym}_n$ にとる)の正則値 $I$ の逆像として $n(n-1)/2$ 次元の閉部分多様体になることは、接空間 の記事の例(直交群と特殊直交群)が示している。
$S^n\subset\mathbb{R}^{n+1}$ 上の関数 $h(x):=x_{n+1}$ を考える。$h$ は線形関数 $\ell(v)=v_{n+1}$ の $S^n$ への制限なので、$T_pS^n=p^\perp$ と同一視すると $dh_p(v)=v_{n+1}=\langle v,e_{n+1}\rangle$ である。これが $p^\perp$ 上で恒等的に $0$ になるのは $e_{n+1}\in(p^\perp)^\perp=\mathbb{R}p$、すなわち $p=\pm e_{n+1}$ のときに限る。よって $h$ の臨界点は北極と南極、臨界値は $\pm1$ であり、$-1< c<1$ なら $h^{-1}(c)=\{x\in S^n\mid x_{n+1}=c\}$ は $S^n$ の $n-1$ 次元の閉部分多様体(半径 $\sqrt{1-c^2}$ の $(n-1)$ 次元球面)である。臨界値 $c=\pm1$ のファイバーは 1 点であり、$n\ge2$ なら次元 $n-1$ の部分多様体ではない。この例では $M=S^n$ 自身が $\mathbb{R}^{n+1}$ の部分多様体であり、正則値定理を Euclid 空間以外の多様体に当てている。
$F\colon\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$、$F(x,y):=xy$ とする。$DF=(y,\,x)$ は原点でだけ $0$ なので、$0$ は臨界値である。$F^{-1}(0)=\{xy=0\}$ は 2 本の座標軸の和集合であり、原点の近くでどの次元の部分多様体でもない。満たす性質は「$C^\infty$ 級関数の逆像で、原点以外では 1 次元の部分多様体」、満たさない性質は「原点の近くで部分多様体」であり、破る含意は「$C^\infty$ 級写像の任意の値の逆像は部分多様体である」である。
$X:=\{xy=0\}$ が原点のまわりで $d$ 次元の部分多様体であったとし、スライス座標 $(V,\psi)$ をとる。$d=0$ なら $V\cap X=\{0\}$ だが、$(t,0)\in V\cap X$($t\neq0$ は小さい)なので矛盾する。$d\ge1$ なら、曲線 $t\mapsto(t,0)$ と $t\mapsto(0,t)$ は $\lvert t\rvert$ が小さいとき $V\cap X$ に含まれるので、接空間 の記事の補題(部分多様体の接空間は速度ベクトルの全体)により $T_0(V\cap X)$ は $(1,0)$ と $(0,1)$ を含み、$d=2$ である。すると $k=n=2$ のスライス座標の定義から $V\cap X=V$ となり、$X$ は原点の開近傍を含む。しかし $(\varepsilon,\varepsilon)$($\varepsilon\neq0$)は $X$ に属さず、いくらでも原点に近い。これは矛盾である。$\square$
$F\colon\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$、$F(x,y):=y^2$ とすると $DF=(0,\,2y)$ であり、$F^{-1}(0)=\{y=0\}$ のすべての点で $DF=0$ となる。よって $0$ は臨界値だが、$F^{-1}(0)$ は $x$ 軸で、1 次元の閉部分多様体である。満たす性質は「$F^{-1}(0)$ は部分多様体」、満たさない性質は「$0$ は正則値」であり、破る含意は正則値定理の逆「逆像が部分多様体なら、その値は正則値である」である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $q$ が正則値 | $xy$ の値 $0$ | $F^{-1}(q)$ が部分多様体であること |
| $q$ が正則値 | $x^2+y^2-z^2$ の値 $0$ | $F^{-1}(q)$ が部分多様体であること |
| $q$ が正則値 | 球面 $S^n$($n\ge2$)の高さ関数の値 $\pm1$ | $F^{-1}(q)$ の次元が $\dim S^n-1=n-1$ であること |
| (逆向き) | $y^2$ の値 $0$ | 「逆像が部分多様体なら正則値」は成り立たない |
Sard の定理:$m\ge n$ のとき、正則値は「ほとんどすべて」の値である。多様体の間の $C^\infty$ 級写像の臨界値の集合は測度 $0$ であり(Sardの定理)、とくに正則値の全体は $N$ で稠密である。この記事では証明しない(Nic26 Theorem 2.1.18(p. 32)が Euclid 空間の開集合から次元が高くない Euclid 空間への写像の場合、Corollary 2.1.19(p. 34)が連結な多様体の場合を述べる。一般の場合は高々可算個の連結成分ごとに当てればよい)。したがって、$m\ge n$ の $C^\infty$ 級写像について、ほとんどすべての $q$ でファイバー $F^{-1}(q)$ は空集合か $m-n$ 次元の閉部分多様体である。この事実は、Whitney の埋め込み定理(Whitneyの埋め込み定理)の証明で射影により次元を下げる一歩に使われる。
横断性:部分多様体 $Z\subset N$ に対し、$F^{-1}(Z)$ の各点 $p$ で $dF_p(T_pM)+T_{F(p)}Z=T_{F(p)}N$ が成り立つとき $F$ は $Z$ に横断的であるといい、このとき $F^{-1}(Z)$ は $Z$ と同じ余次元の部分多様体になる。この記事では証明しない(Nic26 Exercise 2.1.21(p. 35)が演習として述べている)。$Z$ が 1 点のときが正則値定理、$F$ が沈め込みのときが cor-rvt-preimage の 2 である。
階数一定の場合:$F$ の階数が $F^{-1}(q)$ の近くで一定値 $r$ なら、$F^{-1}(q)$ は $m-r$ 次元の部分多様体である。これは 階数定理 の記事の系(定階数写像の等位集合と像)を座標近傍で読み替えると従い(この記事では証明しない)、$r=n$ の場合が正則値定理である。
固有な沈め込み:沈め込み $F$ がさらに固有(固有写像)なら、$F$ は局所自明なファイバー束であり、$N$ が連結ならファイバーはすべて互いに微分同相である(この記事では証明しない。Ehresmannの補題 の記事の定理(Ehresmann の補題)と系(ファイバーの微分同相型の一定性))。
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