平均値の定理の使い方(techniques of the mean value theorem)とは、$a<b$ で $[a,b]$ 上連続かつ $(a,b)$ で微分可能な実数値関数 $f$ について $f(b)-f(a)=f'(c)(b-a)$ となる $c\in(a,b)$ がある、という平均値の定理を、$c$ の値を求めずに $c$ の範囲だけを使って応用する技を、3 本の記事に分けて案内する記事である。差を導関数で書いて不等式や近似値を評価する技、有界な閉区間 $I$ を $I$ に写す $f$ が $I$ 上で $|f'|\le k<1$ のとき漸化式 $a_{n+1}=f(a_n)$ の収束を示す技、$\frac00$ の形の極限を導関数の比で求める l'Hôpital の定理を扱う記事への読む順番を示し、Taylor の定理は既存の記事につなぐ。
前提知識: 微分係数と導関数の定義(高校数学), 連続関数, 最大値・最小値の定理, 中間値の定理, 指数関数, 対数関数, 三角関数
高校の数学 III で習う平均値の定理は、「グラフ上の 2 点を結ぶ弦の傾きは、その間のどこかの点での接線の傾きに等しい」という主張である。車の走行でいえば、「1 時間に 60 km 進んだなら、途中のどこかで速度計がちょうど 60 km/h を指した瞬間がある」ということになる。本記事は、この定理から生まれる技を扱う記事への案内である。定理と例をここで述べ、証明はそれぞれの記事に任せる。
$a< b$ とし、実数値関数 $f$ は閉区間 $[a,b]$ で連続、開区間 $(a,b)$ で微分可能とする。このとき
$$
f(b)-f(a)=f'(c)(b-a)
$$
となる $c\in(a,b)$ が存在する。
証明は 平均値の定理による差の評価の記事にある。「内部の最大点では接線が水平」という補題と最大値・最小値の定理から Rolle の定理($f(a)=f(b)$ なら $f'(c)=0$ となる $c\in(a,b)$ がある)を示し、$f$ から弦の傾きの 1 次関数を引いて Rolle の定理に帰着する。
2 つ目の例のように、$c$ の値を求めずに、$c$ が $a$ と $b$ の間にあることだけを使うのが、平均値の定理を「技」として使うときの原理である。等式 $f(b)-f(a)=f'(c)(b-a)$ の $f'(c)$ を、$c$ の動く範囲で上下から押さえると、等式が不等式に変わる。
平均値の定理から生まれる技は、次の 3 つに整理できる。
| 技 | 形 | 何に使うか | 記事 |
|---|---|---|---|
| 差を導関数で書く | $f(b)-f(a)=f'(c)(b-a)$ | 不等式、近似値の見積もり | 平均値の定理による差の評価 |
| 差の縮みを導関数で書く | $a_{n+1}-\alpha=f'(c)(a_n-\alpha)$ | 漸化式の収束 | 縮小写像と漸化式 |
| 比を導関数の比で書く | $\frac{f(x)-f(a)}{g(x)-g(a)}=\frac{f'(c)}{g'(c)}$ | $\frac00$ の形の極限 | l'Hôpitalの定理(高校数学) |
| 誤差を高階導関数で書く(既存の記事) | 誤差 $=\frac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}(x-a)^{n+1}$ | 近似の誤差の保証 | 関数の近似とテイラー展開 |
4 行目の Taylor の定理は、既存の記事で扱っている。
| 高校の計算 | 大学の概念 | 記事 |
|---|---|---|
| $f'>0$ なら増加、$f'=0$ なら定数 | 平均値の定理の帰結(区間であることが必要) | 平均値の定理による差の評価 |
| $\log$、$\sqrt{\ }$、$\sin$ の値の見積もり | 導関数の範囲による差の評価(Lipschitz 評価) | 平均値の定理による差の評価 |
| 漸化式の極限を $\alpha=f(\alpha)$ で求める | 縮小写像の不動点 | 縮小写像と漸化式 |
| 分母・分子を微分して極限を求める | Cauchy の平均値の定理と l'Hôpital の定理 | l'Hôpitalの定理(高校数学) |
| 近似式 $\sin x\approx x-\frac{x^3}6$ | Lagrange の剰余項 | 関数の近似とテイラー展開 |
図1:3 つの技の記事を読む順番
最初に ① を読む。② と ③ は ① だけを前提にしているので、どちらを先に読んでもよい。
① 平均値の定理による差の評価:Rolle の定理と平均値の定理を証明し、「$f'=0$ なら定数」「$|f'|\le M$ なら $|f(x)-f(y)|\le M|x-y|$」を導く。$\log$ の差、調和数 $1+\frac12+\cdots+\frac1n$ と $\log n$、$\sqrt{101}$、$\cos x\ge1-\frac{x^2}2$ などを評価し、仮定を外した 4 つの反例を見る。
② 縮小写像と漸化式:$f$ が有界な閉区間 $I$ を $I$ に写し、$I$ 上で $|f'|\le k<1$ なら、$a_{n+1}=f(a_n)$($a_0\in I$)は $f(\alpha)=\alpha$ の $I$ の中のただ 1 つの解 $\alpha$ に近づき、差は $k^n$ で押さえられることを示す。$\alpha$ を知らなくても使える誤差の評価も導く。
③ l'Hôpitalの定理(高校数学):Cauchy の平均値の定理から l'Hôpital の定理を証明し、「分母・分子を微分してよい」条件をはっきりさせる。条件を外すと答えが変わる例、逆向きに使う誤り、循環論法の注意を見る。
| 疑問 | 答える記事 |
|---|---|
| 平均値の定理はなぜ成り立つのか | ① |
| $f'>0$ なのに増加しない関数はあるか | ①(定義域が区間でない例) |
| $\log2$ や $\sqrt{101}$ を、電卓なしで挟めるか | ① |
| 漸化式の極限の候補を求めたが、本当に近づくのか | ② |
| 何回くり返せば、誤差が $0.001$ 未満になるか | ② |
| 分母・分子を微分してよいのはいつか | ③ |
| $\lim\frac{\sin x}x$ に l'Hôpital の定理を使ってよいか | ③(循環論法になる) |
$f(x)=|x|$ を $[-1,2]$ で考えると、弦の傾きは $\frac{2-1}{2-(-1)}=\frac13$ だが、$x\ne0$ での $f'$ の値は $1$ か $-1$ だけで、$\frac13$ になる点はない。$x=0$ で微分できないので「$(a,b)$ で微分可能」という仮定を満たしていない。ほかの仮定(端点での連続性、定義域が区間であること、値が実数であること)を外した反例は 平均値の定理による差の評価で見る。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する