双心四角形(bicentric quadrilateral)とは、4 つの頂点を通る外接円と、4 辺すべてに接する内接円を両方もつ凸四角形である。凸四角形が双心四角形であるのは、向かい合う角の和が $180^\circ$ で、かつ向かい合う辺の和が等しいときに限る。外接円の半径 $R$、内接円の半径 $r$、中心間の距離 $d$ の間には Fuss の関係 $\frac1{(R-d)^2}+\frac1{(R+d)^2}=\frac1{r^2}$、すなわち $(R^2-d^2)^2=2r^2(R^2+d^2)$ が成り立つ。証明では、向かい合う 2 頂点からの角の二等分線が外接円と再び交わる 2 点が直径の両端になることを使い、方べきの定理と中線定理を組み合わせる。系として、面積は 4 辺の積の平方根に等しく、$R\ge\sqrt2\,r$ で、等号は正方形のときに限る。
前提知識: Pitotの定理, 円に内接する四角形, 方べきの定理(高校数学), 中線定理(高校数学)
三角形はいつも外接円と内接円をもつ。2 つの円の半径 $R$、$r$ と中心間の距離 $d$ の間には、$d^2=R^2-2Rr$ という関係がある(Eulerの三角形の定理)。
四角形では事情が違う。外接円をもつのは向かい合う角の和が $180^\circ$ の四角形(円に内接する四角形)、内接円をもつのは向かい合う辺の和が等しい凸四角形(Pitotの定理)で、両方をもつ四角形は限られる。両方をもつ四角形で、$R$、$r$、$d$ の間にどんな関係があるかを調べる。
1 辺が $2$ の正方形では、外接円と内接円の中心はどちらも正方形の中心で、$d=0$ である。外接円の半径は対角線の半分で $R=\sqrt2$、内接円の半径は辺の半分で $r=1$ である。
$$
\frac1{R^2}+\frac1{R^2}=\frac12+\frac12=1=\frac1{r^2}
$$
が成り立つ。
$A(0,0)$、$B\left(\dfrac95,\dfrac{12}5\right)$、$C(5,0)$、$D\left(\dfrac95,-\dfrac{12}5\right)$ を頂点とする四角形 $ABCD$ を考える。
(1) 辺の長さ。$AB^2=\dfrac{81}{25}+\dfrac{144}{25}=9$、$CB^2=\dfrac{256}{25}+\dfrac{144}{25}=16$ で、$AB=AD=3$、$CB=CD=4$ の凧形である。
(2) 外接円。$AB^2+BC^2=9+16=25=AC^2$ なので、三平方の定理の逆から $\angle B=90^\circ$ である。同じく $\angle D=90^\circ$ で、$\angle B+\angle D=180^\circ$ なので円に内接する。外接円は $AC$ を直径とする円で、中心 $O\left(\dfrac52,0\right)$、半径 $R=\dfrac52$ である。
(3) 内接円。$AB+CD=3+4=BC+DA$ なので、Pitotの定理 により内接円がある。中心 $I$ は対称軸($x$ 軸)の上にあり、直線 $AB$($4x-3y=0$)までの距離と直線 $BC$($3x+4y-15=0$)までの距離が等しい点を $0< x<5$ で探すと、$\dfrac{4x}5=\dfrac{15-3x}5$ より $x=\dfrac{15}7$ である。$I\left(\dfrac{15}7,0\right)$、$r=\dfrac45\cdot\dfrac{15}7=\dfrac{12}7$ である。
(4) 中心間の距離は $d=\dfrac52-\dfrac{15}7=\dfrac5{14}$ で、
$$
R-d=\frac{35-5}{14}=\frac{15}7,\qquad R+d=\frac{35+5}{14}=\frac{20}7
$$
である。
$$
\frac1{(R-d)^2}+\frac1{(R+d)^2}=\frac{49}{225}+\frac{49}{400}=49\cdot\frac{16+9}{3600}=\frac{49}{144}=\frac1{r^2}
$$
が成り立つ。
AB=AD=3、CB=CD=4 の凧形。赤い外接円(中心 O)と青い内接円(中心 I)を両方もつ
2 つの例で、同じ式 $\dfrac1{(R-d)^2}+\dfrac1{(R+d)^2}=\dfrac1{r^2}$ が成り立った。この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 向かい合う角の和・辺の和 | 双心四角形の判定 | — |
| 角の二等分線が外接円と交わる点 | 直径の両端 $K$、$L$ | 弧の中点 |
| 方べき、中線定理 | Fuss の関係 | 閉形定理の $n=4$ の条件 |
| Brahmagupta の公式 | 面積は 4 辺の積の平方根 | — |
以下、四角形 $ABCD$ は頂点をこの順に結んだ凸四角形とし、頂点の角の大きさを $A$、$B$、$C$、$D$ で表す。文字 $d$ は 2 つの円の中心間の距離に使う。
凸四角形が、4 つの頂点を通る円(外接円)と、4 辺すべてに接する円(内接円)を両方もつとき、双心四角形 という。外接円の中心を $O$、半径を $R$、内接円の中心を $I$、半径を $r$、中心間の距離を $d=OI$ と書く。
2 つの判定をあわせると、双心四角形は角と辺で見分けられる。
凸四角形 $ABCD$ が双心四角形であるのは、次の 2 つがともに成り立つときであり、そのときに限る。
(R1) 向かい合う角の和が $180^\circ$:$A+C=180^\circ$。
(R1) 向かい合う辺の和が等しい:$AB+CD=BC+DA$。
$A(-4,0)$、$B(4,0)$、$C(1,4)$、$D(-1,4)$ を頂点とする等脚台形を考える。辺の長さは $AB=8$、$BC=\sqrt{9+16}=5$、$CD=2$、$DA=5$ である。
(1) 外接円。等脚台形は $y$ 軸について対称なので、外接円の中心は $y$ 軸の上の点 $(0,k)$ である。$A$ と $D$ から等距離という条件は $16+k^2=1+(4-k)^2$ で、展開すると $16+k^2=17-8k+k^2$、$k=\dfrac18$ である。$O\left(0,\dfrac18\right)$、$R^2=16+\dfrac1{64}=\dfrac{1025}{64}$ で、対称性から $B$、$C$ もこの円の上にある。
(2) 内接円。$AB+CD=8+2=10=BC+DA$ なので、Pitotの定理 により内接円がある。上底と下底の間隔 $4$ が直径なので $r=2$、中心は $I(0,2)$ である。直線 $BC$($4x+3y-16=0$)までの距離も $\dfrac{\lvert 0+6-16\rvert}5=2$ で、確かに接する。
(3) 中心間の距離は $d=2-\dfrac18=\dfrac{15}8$ で、
$$
R^2-d^2=\frac{1025-225}{64}=\frac{25}2,\qquad R^2+d^2=\frac{1025+225}{64}=\frac{625}{32}
$$
である。$(R^2-d^2)^2=\dfrac{625}4$、$2r^2(R^2+d^2)=8\cdot\dfrac{625}{32}=\dfrac{625}4$ で等しい。
等脚台形 ABCD は赤い外接円(中心 O)と青い内接円(中心 I)を両方もつ。2 つの中心は対称軸の上にある
ex-bic-trapezoid の (3) で確かめた式 $(R^2-d^2)^2=2r^2(R^2+d^2)$ は、ex-bic-square・ex-bic-kite の式 $\dfrac1{(R-d)^2}+\dfrac1{(R+d)^2}=\dfrac1{r^2}$ と同じ式の別の形である(thm-bic-fuss の証明の段 5)。
証明の鍵は、2 本の角の二等分線が外接円と再び交わる 2 点が、直径の両端になることである。
双心四角形 $ABCD$ で、直線 $AI$ が外接円と $A$ 以外に交わる点を $K$、直線 $CI$ が外接円と $C$ 以外に交わる点を $L$ とする。このとき線分 $KL$ は外接円の直径である。
要点:$KB=KD$、$LB=LD$ なので、$K$ と $L$ は弦 $BD$ の垂直二等分線の上にある。この直線は中心 $O$ を通り、外接円と直径の両端の 2 点で交わる。$K$ と $L$ は直線 $BD$ について反対側にあるので異なる点で、この 2 点が直径の両端である。
段 1($KB=KD$)。内接円の中心 $I$ は $\angle A$ の内側にあり、2 直線 $AB$、$AD$ から等しい距離にあるので、$\angle A$ の二等分線の上にある(三角形の内心と傍心 の「2 直線から等距離の点の集まり」)。よって $\angle BAK=\angle KAD=\dfrac A2$ である。三角形 $ABK$ は外接円に内接するので、正弦定理から $KB=2R\sin\angle BAK=2R\sin\dfrac A2$ である。三角形 $ADK$ でも $KD=2R\sin\dfrac A2$ で、$KB=KD$ である。同じく $LB=LD=2R\sin\dfrac C2$ である。
段 2($K\ne L$)。$\angle A$ の二等分線の半直線は $\angle BAD$ の内側を通るので、線分 $BD$ と、$B$、$D$ 以外の点 $X$ で交わる。$X$ は弦 $BD$ の途中の点なので円の内部にある。直線 $AK$ の点で円の内部にあるのは $A$ と $K$ の間の点だけなので、$X$ は $A$ と $K$ の間にあり、$A$ と $K$ は直線 $BD$ について反対側にある。同じく $C$ と $L$ も直線 $BD$ について反対側にある。凸四角形では対角線 $BD$ について $A$ と $C$ は反対側にあるので、$K$ は $C$ の側、$L$ は $A$ の側にあり、$K\ne L$ である。
段 3(直径)。段 1 より $K$、$L$ はどちらも $B$、$D$ から等距離で、弦 $BD$ の垂直二等分線の上にある。この直線は中心 $O$ を通るので、外接円とちょうど 2 点で交わり、その 2 点は直径の両端である。段 2 より $K$、$L$ は異なるので、この 2 点そのものである。$\square$
図 3 で、$K$ と $L$ を結ぶ橙色の破線は $O$ を通り、灰色の点線 $BD$ に垂直である。
双心四角形で、A と I を通る直線が外接円と再び交わる点 K、C と I を通る直線が再び交わる点 L は、外接円の直径の両端になる
双心四角形の外接円の半径を $R$、内接円の半径を $r$、中心間の距離を $d$ とすると
$$
\frac1{(R-d)^2}+\frac1{(R+d)^2}=\frac1{r^2}
$$
が成り立つ。同じことだが、$(R^2-d^2)^2=2r^2(R^2+d^2)$ である。
方針:頂点 $A$、$C$ から $I$ までの距離を 2 通りに調べる。内接円からは $\dfrac1{IA^2}+\dfrac1{IC^2}=\dfrac1{r^2}$ が、外接円からは方べきの定理と中線定理で $IA$、$IC$ と $R$、$d$ の関係が出る。$K$、$L$ は lem-bic-diameter の点とする。
段 1(内接円から)。内接円が辺 $AB$ に接する点を $T$ とする。$IT\perp AB$、$IT=r$ で、$I$ は $\angle A$ の内側にあって 2 直線 $AB$、$AD$ から等しい距離にあるので $\angle A$ の二等分線の上にあり(三角形の内心と傍心)、$\angle IAT=\dfrac A2$ なので、直角三角形 $ATI$ で $IA=\dfrac r{\sin\frac A2}$ である。同じく $IC=\dfrac r{\sin\frac C2}$ である。四角形は円に内接するので $A+C=180^\circ$、つまり $\dfrac C2=90^\circ-\dfrac A2$ で、$\sin\dfrac C2=\cos\dfrac A2$ である。よって
$$
\frac1{IA^2}+\frac1{IC^2}=\frac{\sin^2\frac A2}{r^2}+\frac{\cos^2\frac A2}{r^2}=\frac1{r^2}
$$
である。
段 2(方べき)。$I$ は四角形の内部にあり、四角形は外接円の内部にあるので、$I$ は外接円の内部の点で、$d< R$ である。$I$ を通る弦 $AK$、$CL$ について、方べきの定理(方べきの定理(高校数学))により
$$
IA\cdot IK=IC\cdot IL=R^2-d^2
$$
である。よって $IK=\dfrac{R^2-d^2}{IA}$、$IL=\dfrac{R^2-d^2}{IC}$ である。
段 3(中線定理)。lem-bic-diameter より $O$ は線分 $KL$ の中点で、$OK=OL=R$ である。三角形 $IKL$ に中線定理(中線定理(高校数学))を使うと
$$
IK^2+IL^2=2(IO^2+OK^2)=2(d^2+R^2)
$$
である。$I$ が直線 $KL$ の上にある場合も、ベクトルで $\overrightarrow{OK}=\vec v$、$\overrightarrow{OL}=-\vec v$、$\overrightarrow{OI}=\vec w$ とおけば $\lvert\vec v-\vec w\rvert^2+\lvert-\vec v-\vec w\rvert^2=2\lvert\vec w\rvert^2+2\lvert\vec v\rvert^2$ なので、同じ式が成り立つ。
段 4(組み合わせる)。段 2 の $IK$、$IL$ を段 3 に代入すると
$$
(R^2-d^2)^2\left(\frac1{IA^2}+\frac1{IC^2}\right)=2(R^2+d^2)
$$
で、段 1 から左辺のかっこは $\dfrac1{r^2}$ なので
$$
(R^2-d^2)^2=2r^2(R^2+d^2)
$$
である。
段 5(もう 1 つの形)。$R^2-d^2>0$ なので、両辺を $r^2(R^2-d^2)^2$ で割ると
$$
\frac1{r^2}=\frac{2(R^2+d^2)}{(R^2-d^2)^2}=\frac{(R+d)^2+(R-d)^2}{(R-d)^2(R+d)^2}=\frac1{(R-d)^2}+\frac1{(R+d)^2}
$$
である。途中で $(R+d)^2+(R-d)^2=2(R^2+d^2)$ と $(R^2-d^2)^2=(R-d)^2(R+d)^2$ を使った。$\square$
ex-bic-trapezoid の等脚台形で、$A(-4,0)$、$C(1,4)$、$I(0,2)$、$O\left(0,\dfrac18\right)$ とする。
(1) 段 1。$IA^2=16+4=20$、$IC^2=1+4=5$ で、$\dfrac1{20}+\dfrac15=\dfrac14=\dfrac1{r^2}$ である。
(2) lem-bic-diameter。直線 $AI$ は $y=\dfrac x2+2$ で、外接円 $x^2+\left(y-\dfrac18\right)^2=\dfrac{1025}{64}$ と $A$ 以外に $K\left(\dfrac52,\dfrac{13}4\right)$ で交わる。直線 $CI$ は $y=2x+2$ で、$C$ 以外に $L\left(-\dfrac52,-3\right)$ で交わる。$K$ と $L$ の中点は $\left(0,\dfrac{\frac{13}4-3}2\right)=\left(0,\dfrac18\right)=O$ で、$KL$ は直径である。
(3) 段 2。$IK^2=\dfrac{25}4+\dfrac{25}{16}=\dfrac{125}{16}$、$IL^2=\dfrac{25}4+25=\dfrac{125}4$ で、$IA\cdot IK=\sqrt{20\cdot\dfrac{125}{16}}=\dfrac{50}4=\dfrac{25}2$、$IC\cdot IL=\sqrt{5\cdot\dfrac{125}4}=\dfrac{25}2$ で、どちらも $R^2-d^2=\dfrac{25}2$ に等しい。
(4) 段 3。$IK^2+IL^2=\dfrac{125}{16}+\dfrac{500}{16}=\dfrac{625}{16}$、$2(R^2+d^2)=2\cdot\dfrac{625}{32}=\dfrac{625}{16}$ である。
三角形の場合と比べる。Eulerの三角形の定理 では、1 本の角の二等分線が外接円と再び交わる点 $M$ について $IA\cdot IM=2Rr$ を示し、方べき $R^2-d^2$ と等しいとおいて $d^2=R^2-2Rr$ を得た。四角形では、向かい合う 2 つの頂点からの 2 本の二等分線を使い、その先の 2 点が直径の両端になることで中線定理が使える。
| 三角形(Euler) | 双心四角形(Fuss) | |
|---|---|---|
| 関係式 | $\dfrac1{R-d}+\dfrac1{R+d}=\dfrac1r$ | $\dfrac1{(R-d)^2}+\dfrac1{(R+d)^2}=\dfrac1{r^2}$ |
| 展開した形 | $d^2=R^2-2Rr$ | $(R^2-d^2)^2=2r^2(R^2+d^2)$ |
| 使う二等分線 | 1 本(頂点 $A$) | 2 本(向かい合う頂点 $A$、$C$) |
| 道具 | 方べき、弧の中点から等距離の点 | 方べき、直径の両端、中線定理 |
| 半径の不等式 | $R\ge2r$ | $R\ge\sqrt2\,r$ |
| 等号 | 正三角形($d=0$) | 正方形($d=0$) |
三角形の関係式の 1 行目は、$\dfrac1{R-d}+\dfrac1{R+d}=\dfrac{2R}{R^2-d^2}$ なので、$d^2=R^2-2Rr$ と同じ式である。
Fuss の関係と、次の面積の式は Wei26a にも載っている。
双心四角形 $ABCD$ の面積 $S$ は
$$
S=\sqrt{AB\cdot BC\cdot CD\cdot DA}
$$
である。
辺の長さを $a=AB$、$b=BC$、$c=CD$、$e=DA$、周の長さの半分を $s=\dfrac{a+b+c+e}2$ とする。円に内接する四角形の面積は $S=\sqrt{(s-a)(s-b)(s-c)(s-e)}$ である(Brahmaguptaの公式)。Pitotの定理 により $a+c=b+e$ なので、$s=a+c=b+e$ である。よって $s-a=c$、$s-b=e$、$s-c=a$、$s-e=b$ で、$S=\sqrt{c\cdot e\cdot a\cdot b}=\sqrt{abce}$ である。$\square$
双心四角形では $R\ge\sqrt2\,r$ が成り立つ。等号が成り立つのは $d=0$ のときで、そのとき四角形は正方形である。
段 1(左辺の最小値)。$0\le d< R$ で $f(d)=\dfrac1{(R-d)^2}+\dfrac1{(R+d)^2}$ を考える。thm-bic-fuss の証明の段 5 の変形から
$$
f(d)=\frac{2(R^2+d^2)}{(R^2-d^2)^2}
$$
で、$d$ が大きくなると分子は大きくなり、分母は小さくなる(正のまま)。よって $f(d)\ge f(0)=\dfrac2{R^2}$ で、等号は $d=0$ のときに限る。
段 2(不等式)。thm-bic-fuss より $\dfrac1{r^2}=f(d)\ge\dfrac2{R^2}$ なので、$R^2\ge2r^2$、つまり $R\ge\sqrt2\,r$ で、等号は $d=0$ のときに限る。
段 3($d=0$ なら正方形)。$d=0$ なら 2 つの円は同心で、4 辺はどれも外接円の弦で、中心からの距離が $r$ である。中心からの距離が同じ弦は長さが同じなので(三平方の定理で弦の長さは $2\sqrt{R^2-r^2}$)、4 辺の長さは等しく、四角形はひし形である。円に内接するひし形は、向かい合う角が等しく(ひし形は平行四辺形)、和が $180^\circ$ なので、どの角も $90^\circ$ で、正方形である。逆に正方形では $d=0$ である。$\square$
ex-bic-kite の凧形では $R=\dfrac52=2.5$、$\sqrt2\,r=\dfrac{12\sqrt2}7\approx2.424$ で、$R>\sqrt2\,r$ である。ex-bic-square の正方形では $R=\sqrt2=\sqrt2\,r$ で等号になる。三角形の $R\ge2r$(Eulerの三角形の定理)と比べて、四角形では係数が $2$ から $\sqrt2$ に下がる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 内接円をもつ | 縦 $2$、横 $4$ の長方形 | 双心四角形である(外接円はあるが内接円がない) |
| 外接円をもつ | 正方形でないひし形 | 双心四角形である(内接円はあるが外接円がない) |
| $R$、$r$、$d$ が Fuss の関係を満たす | 同心の 2 円、$R=3$、$r=2$ | 2 円を外接円・内接円とする四角形がある |
縦 2、横 4 の長方形。赤い外接円はあるが、青い破線の円のように 3 辺に接する円は 4 辺目に届かない
正方形でないひし形。青い内接円はあるが、赤い破線の円は 4 頂点のうち 2 つしか通らない
同心の 2 円で、外側の半径が $R=3$、内側の半径が $r=2$ とする($d=0$)。
$$
\frac1{(R-d)^2}+\frac1{(R+d)^2}=\frac19+\frac19=\frac29,\qquad\frac1{r^2}=\frac14
$$
で、$\dfrac29\ne\dfrac14$ である。thm-bic-fuss の対偶により、この 2 円を外接円・内接円とする四角形はない。実際、外側の円の弦で内側の円に接するものは中心から $2$ の距離にあり、長さ $2\sqrt{9-4}=2\sqrt5$、中心角 $\theta$ は $\cos\dfrac\theta2=\dfrac23$ を満たして $\theta\approx96.4^\circ$ である。4 本つなぐと約 $385.5^\circ$ になって $360^\circ$ にならず、四角形として閉じない。cor-bic-ineq で見たとおり、$d=0$ の双心四角形は正方形で、内側の半径は $r=\dfrac R{\sqrt2}=\dfrac3{\sqrt2}\approx2.12$ でなければならない。
thm-bic-fuss は「双心四角形があれば、$R$、$r$、$d$ は Fuss の関係を満たす」という必要条件である。逆向きも成り立つ。
半径 $R$ の円 $\Gamma$ の内部に半径 $r$ の円 $\gamma$ があり、中心間の距離 $d$ が Fuss の関係を満たすとする。$\Gamma$ の どの点 $P$ から始めても、$P$ から $\gamma$ に接線を引いて $\Gamma$ ともう一度交わる点へ進むことを 4 回くり返すと $P$ にもどり、$\Gamma$ に内接し $\gamma$ に外接する四角形ができる。これは Poncelet の閉形定理 の四角形の場合で、証明は Ponceletの閉形定理 で扱う(thm-bic-fuss の証明の段 1〜段 4 を逆にたどる)。
つまり、双心四角形は 1 つあれば、同じ 2 つの円に対して無数にある。ex-bic-kite の凧形と同じ外接円・内接円($R=\dfrac52$、$r=\dfrac{12}7$、$d=\dfrac5{14}$)で、始点を変えて数値で作ると、辺の長さがおよそ $2.876$、$3.172$、$4.123$、$3.828$ の、凧形でない双心四角形もできる(向かい合う辺の和はどちらも約 $7.00$)。
三角形の場合の条件は $\dfrac1{R-d}+\dfrac1{R+d}=\dfrac1r$(Eulerの三角形の定理)、四角形の場合は $\dfrac1{(R-d)^2}+\dfrac1{(R+d)^2}=\dfrac1{r^2}$ で、どちらも Wei26b に Poncelet の閉形定理の $n=3$、$n=4$ の場合の条件として載っている。同じページには $n=5$ 以上のいくつかの $n$ の条件の式と、一般の $n$ の条件を楕円関数で書いた式もある。この記事では $n\ge5$ の場合は扱わない。四角形の関係式を求める問題は「Fuss の問題」とも呼ばれる(Wei26a)。
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