整閉整域(integrally closed domain)とは、自分の商体の中でモニック多項式を満たす元をすべて含む整域である。一意分解整域は整閉であり、整閉性は零元を含まない積閉集合での局所化で保たれ、すべての極大イデアルでの局所化が整閉であることと同値である。例えば尖点曲線の座標環 $k[t^2,t^3]$ は商体の元 $t$ が $T^2-t^2=0$ を満たすので整閉でなく、$\mathbb{Z}[\sqrt5]$ も $(1+\sqrt5)/2$ を含まないので整閉でない。整閉性は代数幾何の正規性の環論的な基礎である。
整域 $A$ の商体 $K=\operatorname{Frac}(A)$ には、$A$ の元の商として書ける分数がすべて入る。その分数の中に、係数を $A$ に持つモニック多項式の根でありながら $A$ には入っていないものが存在することがある。整閉整域(integrally closed domain)は、そのような「外にある整元」が存在しない整域である。例えば整数環 $\mathbb Z$ は整閉だが、尖点曲線の座標環 $k[t^2,t^3]$ は整閉でない。後者では分数 $t=t^3/t^2$ がモニック方程式 $T^2-t^2=0$ を満たすのに、元の環へ入らない。
整閉性は、代数幾何でいう正規性の環論的な基礎である。整域が整閉かどうかは素イデアルまたは極大イデアルで局所化して判定でき、整閉な環を局所化しても整閉性は保たれる。一方、整閉性は単に「環の元が体の中で閉じている」という曖昧な意味ではない。どの体の中で整元を探すかが重要で、整閉整域では自分自身の商体の中を調べる。本記事ではこの定義を具体例で確かめ、局所判定を証明し、正規化や正規スキームとの関係を整理する。
$A$ を整域、$K=\operatorname{Frac}(A)$ を商体とする。$x\in K$ が $A$ 上整であるとは、ある $n\ge1$ と $a_0,\ldots,a_{n-1}\in A$ を用いて
$$
x^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_1x+a_0=0
$$
と書けることをいう。最高次係数が $1$ である点が肝心である。任意の分数 $x=a/b$ は $bT-a=0$ という方程式を満たすが、その最高次係数 $b$ は一般に単元でないため、これだけでは $x$ が整とはいえない。
整域 $A$ が整閉整域であるとは、商体 $K=\operatorname{Frac}(A)$ の元で $A$ 上整なものがすべて $A$ に属することをいう。同じことを「$A$ は自分の商体の中で整閉である」ともいう。商体 $K$ の中で $A$ 上整な元全体がなす部分環を $A$ の整閉包と書くと、整閉性は整閉包が $A$ 自身に等しいという条件である。
Stacks Project はこの定義を「normal domain」の定義として採用している(StacksNormal Definition 10.37.1)。日本語では整閉整域と正規整域が同義に使われる。さらに一般の環に対しても「正規環」という語が使われるが、零因子を持つ環まで含む定義は各素イデアルでの局所環を用いる。したがって、非整域の環にそのまま「商体の中で整閉」というこのページの定義を当てはめることはできない。
「$A$ は $L$ の中で整閉」と言う場合、$L$ は $A$ を含む別の体であり得る。例えば $\mathbb Z$ は $\mathbb Q$ の中では整閉だが、$\mathbb C$ の中で $\mathbb Z$ 上整な元は整数だけではない。$\sqrt2$ は $T^2-2=0$ を満たすからである。整閉整域という語に含まれる標準の体は、明記しない限り自分の商体である。この約束を外して「どんな体の中でも整元を持たない」と読んではならない。
$\mathbb Z$ が整閉であることは初等的に示せる。有理数 $a/b$ を既約分数として、モニック方程式に代入して $b^n$ を払うと $b\mid a^n$ となる。$a,b$ が互いに素なら $b$ は単元、つまり $b=\pm1$ である。よって有理数で整数係数のモニック多項式を満たすものは整数に限る。この議論は一意分解整域へそのまま拡張できる。
体 $k$ は自分自身が商体だから整閉である。$k[T]$ は一変数多項式環で、Euclid 環したがって一意分解整域なので整閉である。多変数多項式環 $k[T_1,\ldots,T_n]$ も一意分解整域であり、整閉である。整閉性の証明で Noether 性が常に必要なわけではない。一意分解整域ならば、有限生成でない例でも同じ分母の議論が使える。
一方、$A=k[t^2,t^3]\subset k[t]$ は整閉でない。$t$ は $t^3/t^2$ として $\operatorname{Frac}(A)$ に入り、$t^2\in A$ なので $T^2-t^2=0$ を満たす。しかし $A$ の元を $t$ の多項式として書くと、現れる指数は $0,2,3,4,\ldots$ であり、$t$ の係数は常に $0$ である。ゆえに $t\notin A$。この一つの元だけで整閉性の失敗が証明される。$A\simeq k[x,y]/(y^2-x^3)$ は尖点曲線の座標環で、$k[t]$ へ広げる操作はその曲線の正規化を表す。
整数環に近い反例として $A=\mathbb Z[\sqrt5]$ を取る。その商体 $\mathbb Q(\sqrt5)$ の元 $u=(1+\sqrt5)/2$ は $u^2-u-1=0$ を満たすから $A$ 上整である。しかし $u=a+b\sqrt5$($a,b\in\mathbb Z$)と書けないので $u\notin A$。ここでモニック方程式の係数は整数、したがって $A$ の元でもある。この例は「整数を付け加えて作った環」であっても、その商体内の整元をすべて含むとは限らないことを示す。
$\mathbb Z$、任意の体、一意分解整域は整閉である。$k[t^2,t^3]$ と $\mathbb Z[\sqrt5]$ は整閉でない。後者二つの反例では、元の環にない商体の元を一つ示し、その元がモニック方程式を満たすことまで確認している。
一意分解整域(UFD)では、既約分数の分母がモニック方程式から消えてしまう。この証明は $\mathbb Z$ の場合と同じ骨格だが、「素数」を環の既約元に置き換える。
一意分解整域 $A$ は整閉整域である。特に主イデアル整域と体上の多項式環は整閉である。
$K=\operatorname{Frac}(A)$ の元 $x=a/b$ が $A$ 上整とする。$a,b\in A$、$b\ne0$ とし、共通の既約因子をすべて消しておく。あるモニック方程式 $x^n+c_{n-1}x^{n-1}+\cdots+c_0=0$ を $b^n$ 倍すると
$$
a^n=-c_{n-1}a^{n-1}b-\cdots-c_1ab^{n-1}-c_0b^n
$$
となる。右辺の各項は $b$ で割り切れるため、$b\mid a^n$ である。もし $b$ が単元でなければ、$b$ の既約因子 $p$ を一つ取れる。一意分解整域では既約元は素元なので $p\mid a^n$ から $p\mid a$ が従う。これは $a,b$ が共通の既約因子を持たないことに反する。したがって $b$ は単元で、$x=a/b\in A$ である。$\square$
逆は成り立たない。整閉整域は一意分解整域より広い概念である。例えば Dedekind 整域は整閉だが、非主イデアルを持つ場合には一意分解整域ではない。この違いは、素因子の元への分解とイデアルの分解を区別する数論・代数幾何で重要になる。ここでの証明は「UFD なら整閉」という十分条件を与えたのであり、整閉性から元の一意分解を導いたわけではない。
整閉性を局所的に調べるため、積閉集合 $S\subset A$ で局所化する。$0\notin S$ と仮定すれば $S^{-1}A$ は整域で、商体は $K$ と同一視できる。この $0\notin S$ は省けない。$0\in S$ なら局所化は零環になり、そもそも整域ではない。
$A$ を整閉整域、$S\subset A$ を $0\notin S$ を満たす積閉集合とする。このとき $S^{-1}A$ も整閉整域である。
$x\in K$ が $S^{-1}A$ 上整とする。ある $n\ge1$ と $c_i\in S^{-1}A$ について $x^n+c_{n-1}x^{n-1}+\cdots+c_0=0$ である。有限個の係数の分母を同時に払えるので、ある $s\in S$ を選んで $sc_i\in A$ とできる。$y=sx$ と置き、元の方程式を $s^n$ 倍すると
$$
y^n+(sc_{n-1})y^{n-1}+(s^2c_{n-2})y^{n-2}+\cdots+s^nc_0=0
$$
を得る。各係数 $s^{n-i}c_i$ は $A$ に入る。実際、$sc_i\in A$ で $n-i\ge1$ だからである。よって $y$ は $A$ 上整である。$A$ が整閉なので $y\in A$、したがって $x=y/s\in S^{-1}A$ となる。$\square$
この結果により、素イデアル $\mathfrak p$ に対する $A_{\mathfrak p}$ と、極大イデアル $\mathfrak m$ に対する $A_{\mathfrak m}$ は、$A$ が整閉ならいずれも整閉である。元 $f\ne0$ の冪を逆にする $A_f$ も同様である。ただし逆向きには「すべての局所化」ではなく、どの局所化を検査すればよいかを指定する必要がある。次の命題は極大イデアルで十分であることを示す。
環 $A$ の性質を点ごとの局所環で調べられることは、スキーム上で整閉性を使う理由の一つである。ここでは整域の商体 $K$ の中の等式
$$
A=\bigcap_{\mathfrak m\in\operatorname{Max}A} A_{\mathfrak m}
$$
を証明し、それを整閉性に適用する。右辺の共通部分はすべて同じ体 $K$ の中で取る。環が整域であることにより $A\to A_{\mathfrak m}\to K$ を単射として扱える。
整域 $A$ とその商体 $K$ について、$K$ の部分環として $A=\bigcap_{\mathfrak m\in\operatorname{Max}A} A_{\mathfrak m}$ が成り立つ。
左辺が右辺に含まれることは明らかである。逆に $x\in K$ がすべての $A_{\mathfrak m}$ に入るとする。$I=\{a\in A:ax\in A\}$ と置くと $I$ は $A$ のイデアルである。$x\in A_{\mathfrak m}$ だから、各極大イデアル $\mathfrak m$ に対し、ある $s\in A\setminus\mathfrak m$ で $sx\in A$ となる。よって $s\in I\setminus\mathfrak m$ であり、$I$ はどの極大イデアルにも含まれない。真のイデアルはある極大イデアルに含まれるので $I=A$。したがって $1\in I$、つまり $x\in A$ である。$\square$
整域 $A$ について、次の条件は同値である。
1 から 2 は局所化の定理を $S=A\setminus\mathfrak p$ に適用して従い、2 から 3 は極大イデアルも素イデアルであることから従う。3 を仮定し、$x\in K$ が $A$ 上整だとする。整方程式の係数は各 $A_{\mathfrak m}$ にも入るので、$x$ は各 $A_{\mathfrak m}$ 上整である。仮定から $x\in A_{\mathfrak m}$ がすべての極大イデアルについて成り立つ。直前の補題より $x\in A$。よって $A$ は整閉である。$\square$
この証明には Noether 性を仮定していない。整閉性の局所性は任意の整域で成立する。一方、「一点の局所環だけが整閉なら環全体が整閉」とは言えない。すべての極大イデアルを検査するという全称条件が不可欠である。
$A$ の商体 $K$ にある $A$ 上整な元をすべて加えた環を $\overline A$ と書く。これは $A$ の整閉包であり、常に整閉整域になる。理由は、$x\in K$ が $\overline A$ 上整なら、$\overline A$ の各元が $A$ 上整であることと整性の推移性から $x$ も $A$ 上整になるので、定義により $x\in\overline A$ だからである(StacksIntegral §10.36、StacksNormal Lemma 10.37.2)。また $\overline A$ は $K$ の中の $A$ 上整な元をすべて含む最小の部分環であり、$A=\overline A$ が整閉性の言い換えになる。
尖点の例 $A=k[t^2,t^3]$ では $\overline A=k[t]$ である。$t$ が $A$ 上整であるため $k[t]=A[t]\subset\overline A$。逆に $k[t]$ は一意分解整域ゆえ整閉で、$\operatorname{Frac}(A)=k(t)$ である。$A$ 上整な $k(t)$ の元は $k[t]$ 上も整だから $k[t]$ に入る。よって等号が成り立つ。この例では整閉包は有限 $A$ 加群でもある。実際 $t^2\in A$ だから $k[t]=A+At$ と書ける。
ただし一般の整域で整閉包が有限加群になるとは限らない。有限性を使う定理では、環の有限型性や優良性など追加の仮定が必要である。また「$A$ が整閉」と「任意の拡大体における $A$ の整閉包が $A$」は違う。後者は $\mathbb Z\subset\mathbb Q(\sqrt2)$ でも破れる。正規化を幾何学的に用いる際は、まず自分の商体の中の整閉包で構成しているのか、より大きな関数体の中で整閉包を取っているのかを明記する。
スキーム $X$ が正規であるとは、各点 $x$ の局所環 $\mathcal O_{X,x}$ が整閉整域であることをいう。整なアフィンスキーム $X=\operatorname{Spec}A$ については、上の局所判定により $X$ が正規であることと $A$ が整閉整域であることは同値になる。局所環の条件を採用するのは、スキームの開部分へ制限しても定義が保たれ、局所化と貼り合わせに対応するからである。整閉包から作る射については 正規化 に譲る。
整閉整域は整域であることを要求する。零因子を持つ環では商体が通常の意味では定義されず、全非零因子を逆にした全商環など別の環を考える必要がある。「正規環」は局所環で定義すれば非整域を含むが、整閉整域と無条件に同義ではない。例えば体二つの直積は Stacks Project の意味では正規環だが、整域ではないので整閉整域とは呼ばない。この区別は既約でないスキームを扱うときに効く。
また局所化で $0$ を逆にすると零環になる。したがって「整閉整域の任意の積閉集合による局所化も整閉整域」という言い方は、$0\notin S$ を忘れると偽である。スキーム上の標準開集合を考える場合、零環のスペクトルは空集合として扱えるが、整域の性質を零環へそのまま引き継いではいけない。分母の集合がどの元を含むかを確認することが先決である。
一意分解整域、主イデアル整域、離散付値環は整閉である。逆方向は成立しない。特に $1$ 次元 Noether 局所整域であれば、整閉性は離散付値環であることと同値になる(StacksDVR Lemma 10.119.7)。しかし Noether 性を外した $1$ 次元の正規局所整域に同じ結論をそのまま適用できない。整閉性だけから「すべてのイデアルが主イデアル」や「元が一意分解する」ことを引き出すこともできない。
判断の実務では、まず環が整域かを確認する。次に商体内の候補 $x$ がモニック方程式を満たすかを調べる。一つ見つかれば非整閉性は決まる。整閉性を示すには、一意分解性を使うか、極大局所環をすべて調べるか、既に整閉と分かる環の共通部分として表す方法がある。後者では共通部分を同じ体の中で取る必要がある。この流れを守ると、尖点、数体の整数環、正規スキームの例を同じ定義から比較できる。
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