連鎖律(chain rule)とは、合成関数の微分の公式である。$g$ が $x=a$ で微分可能で、$f$ が $g(a)$ で微分可能なら、$f\circ g$ も $x=a$ で微分可能で、$(f\circ g)'(a)=f'(g(a))\,g'(a)$ となる。$\frac{dy}{du}\cdot\frac{du}{dx}$ の約分による説明は、$a$ のいくらでも近くで $\Delta u=0$ となる中身(定数関数や $x^2\sin\frac1x$)では使えないので、差分商を $u=g(a)$ で $f'(g(a))$ に補った関数を使い、割り算を掛け算に直すと証明できる。系として、$x>0$ での $(x^r)'=rx^{r-1}$($r$ は実数)、逆関数が微分可能なときの逆関数の微分の式、置換積分が得られる。
前提知識: 微分係数と導関数の定義(高校数学), 合成関数, 連続関数
数学 III では、$(2x+1)^5$ や $\sin x^2$ のように、関数の中に別の関数が入った形を微分する。そのための公式が
$$
\{f(g(x))\}'=f'(g(x))\,g'(x)
$$
である。これを連鎖律(合成関数の微分法)という。「外側の関数を、中身をそのままにして微分し、中身の導関数を掛ける」と覚える。まず、展開できる例で公式が正しいことを確かめる。
$(2x+1)^3$ を 2 通りに微分する。
展開してから微分する:$(2x+1)^3=8x^3+12x^2+6x+1$ なので
$$
\{(2x+1)^3\}'=24x^2+24x+6=6(4x^2+4x+1)=6(2x+1)^2
$$
である。
公式を使う:外側を $f(u)=u^3$、中身を $g(x)=2x+1$ とする。$f'(u)=3u^2$、$g'(x)=2$ なので
$$
\{(2x+1)^3\}'=3(2x+1)^2\cdot2=6(2x+1)^2
$$
である。2 つの結果は一致する。中身の導関数 $2$ を掛け忘れると $3(2x+1)^2$ になり、正しい答えの半分になる。
同じ公式で、展開すると大変な $(2x+1)^5$ も $\{(2x+1)^5\}'=5(2x+1)^4\cdot2=10(2x+1)^4$ とすぐに計算できる。
池に落ちた石から円い波が広がり、$t$ 秒後の半径が $r=2t$(メートル)だとする。円の面積は $S=\pi r^2$ である。
例 2 の見方では、連鎖律は「変化率の掛け算」である。$u$ が $x$ の $g'(x)$ 倍の速さで変わり、$y$ が $u$ の $f'(u)$ 倍の速さで変わるなら、$y$ は $x$ の $f'(u)\,g'(x)$ 倍の速さで変わる。記号で書けば
$$
\frac{dy}{dx}=\frac{dy}{du}\cdot\frac{du}{dx}
$$
で、分数の約分のように見える。
ここから、次の問いが出てくる。
| 高校の計算 | この記事での見方 | ボックス |
|---|---|---|
| 「中身ごと微分して中身の導関数を掛ける」 | 連鎖律 $(f\circ g)'(a)=f'(g(a))\,g'(a)$ | thm-crh-chain-rule |
| $\frac{dy}{dx}=\frac{dy}{du}\cdot\frac{du}{dx}$ | 1 次近似の拡大率の掛け算 | ex-crh-magnification、rem-crh-jacobian |
| 約分による説明 | $\Delta u=0$ となる点で割れない | rem-crh-division-proof |
| 差分商を補った関数 | 割り算を掛け算に直す道具 | lem-crh-filled-quotient |
| $(x^r)'=rx^{r-1}$、置換積分 | 連鎖律の系 | cor-crh-real-power、ex-crh-substitution |
関数 $g$ の値がすべて関数 $f$ の定義域に入っているとき、$x$ に $f(g(x))$ を対応させる関数を、$g$ と $f$ の合成関数といい、$f\circ g$ と書く。
$$
(f\circ g)(x)=f(g(x))
$$
である。先に $g$ を施し、その値に $f$ を施す。$g$ を内側の関数(中身)、$f$ を外側の関数と呼ぶ。
$y=f(u)$、$u=g(x)$ とする。$x$ が $a$ から $a+h$ に変わるときの $u$ の変化を $\Delta u=g(a+h)-g(a)$、$y$ の変化を $\Delta y=f(g(a+h))-f(g(a))$ と書く。
$\Delta u\ne0$ なら、
$$
\frac{\Delta y}{h}=\frac{\Delta y}{\Delta u}\cdot\frac{\Delta u}{h}
$$
と書ける。$h\to0$ とすると $\Delta u\to0$ なので($g$ は $a$ で微分可能だから連続である)、右辺の 1 つ目の分数は $f'(g(a))$ に、2 つ目の分数は $g'(a)$ に近づく。よって左辺は $f'(g(a))\,g'(a)$ に近づく。
この説明は、$0$ の近くのすべての $h\ne0$ で $\Delta u\ne0$ のときには正しい。たとえば $g'(a)\ne0$ のときは、$\frac{\Delta u}{h}$ が $0$ でない数 $g'(a)$ に近づくので、$h$ が十分 $0$ に近いと $\frac{\Delta u}{h}\ne0$、つまり $\Delta u\ne0$ となり、説明はそのまま証明になる。
しかし、$0$ のいくらでも近くに $\Delta u=0$ となる $h$ があると、その $h$ では $\frac{\Delta y}{\Delta u}$ が $\frac00$ になって意味をもたない。次の例のように、そういう $g$ は実際にある。
$y=x^2\sin\frac1x$ のグラフ。原点のいくらでも近くに $g(x)=0$ となる点 $x=\pm\frac1{n\pi}$(赤い点)があり、そこでは $\Delta u=0$ なので約分の説明が使えないことを見る図。グラフは $y=\pm x^2$(点線)の間にある。
約分の穴をふさぐには、割り算 $\frac{\Delta y}{\Delta u}$ を使わず、掛け算の形で書けばよい。そのための道具が次の関数である。
$f$ は $b$ を含む開区間で定義され、$u=b$ で微分可能とする。関数 $\varphi$ を
$$
\varphi(u)=\begin{cases}\dfrac{f(u)-f(b)}{u-b}&(u\ne b)\\ f'(b)&(u=b)\end{cases}
$$
で定める。このとき次の 2 つが成り立つ。
方針:$\varphi$ の定義が $u\ne b$ と $u=b$ で分かれているので、1 もそれぞれで確かめる。2 は微分係数の定義そのものである。
段 1(1 の $u\ne b$ の場合)。$\varphi(u)=\dfrac{f(u)-f(b)}{u-b}$ の両辺に $u-b\ne0$ を掛けると $\varphi(u)(u-b)=f(u)-f(b)$ である。
段 2(1 の $u=b$ の場合)。左辺は $f(b)-f(b)=0$、右辺は $\varphi(b)\cdot(b-b)=f'(b)\cdot0=0$ で、等しい。
段 3(2)。$u\to b$ の極限は $u=b$ での値を見ないので、$u\ne b$ の式だけで決まる。$u=b+k$ とおくと、$\displaystyle\lim_{u\to b}\frac{f(u)-f(b)}{u-b}=\lim_{k\to0}\frac{f(b+k)-f(b)}{k}=f'(b)$ である(微分係数の定義)。これは $\varphi(b)$ に等しいので、$\varphi$ は $u=b$ で連続である。$\square$
多項式では、$\varphi$ は $f(u)-f(b)$ を $u-b$ で割った商である。実際、因数定理(剰余の定理と因数定理)により $f(u)-f(b)$ は $u-b$ で割り切れ、$f(u)-f(b)=q(u)(u-b)$ となる多項式 $q$ がある。$u\ne b$ では $\varphi(u)=q(u)$ である。$q$ は多項式なので連続で、補題の 2 から $\varphi(b)=\lim_{u\to b}\varphi(u)=\lim_{u\to b}q(u)=q(b)$ となり、$u=b$ でも $\varphi(b)=q(b)$、つまり $q(b)=f'(b)$ である。上の 2 つの例で $u=3$ での $u+3$ の値が $6$、$u=1$ での $u^2+u+1$ の値が $3$ になったのは、このためである。一般の $f$ では、$\varphi$ は「割れるところは割り、割れない $u=b$ では極限の値で補った」関数である。
$g$ は $a$ を含む開区間で定義されて $x=a$ で微分可能、$f$ は $b=g(a)$ を含む開区間で定義されて $u=b$ で微分可能とし、$a$ の近くの $x$ では $g(x)$ が $f$ の定義域に入っているとする。このとき合成関数 $f\circ g$ は $x=a$ で微分可能で、
$$
(f\circ g)'(a)=f'(g(a))\,g'(a)
$$
である。
方針:lem-crh-filled-quotient の $\varphi$ を使い、$\Delta y$ を「$\varphi\times\Delta u$」と書く。掛け算なので、$\Delta u=0$ でも式が成り立つ。大学の教科書でも同じ方針で証明される(Leb26 Proposition 4.1.10)。
段 1($\Delta y$ を掛け算で書く)。$b=g(a)$ とし、$f$ と $b$ について lem-crh-filled-quotient の $\varphi$ をとる。補題の $\varphi$ は $b$ を含む開区間($f$ が定義されている区間)の上でしか定義されていないので、$u=g(a+h)$ がその区間に入るように $h$ を選ぶ必要がある。$g$ は $x=a$ で微分可能なので連続であり(微分係数と導関数の定義(高校数学) の定理「微分可能な点では連続」)、$h\to0$ で $g(a+h)\to g(a)=b$ となる。したがって、$h$ を $0$ に十分近くとれば $g(a+h)$ はその開区間に入る。そのような $h\ne0$ について、補題の 1 を $u=g(a+h)$ で使うと
$$
f(g(a+h))-f(g(a))=\varphi(g(a+h))\,\bigl(g(a+h)-g(a)\bigr)
$$
である。$g(a+h)=g(a)$ のときも、補題の 1 は $u=b$ を含むので、この式は成り立つ(両辺とも $0$)。
段 2($h$ で割る)。段 1 の両辺を $h$ で割ると
$$
\frac{f(g(a+h))-f(g(a))}{h}=\varphi(g(a+h))\cdot\frac{g(a+h)-g(a)}{h}
$$
である。割ったのは $h\ne0$ で、$\Delta u$ では割っていない。
段 3(右辺の 1 つ目の因数)。$g$ は $x=a$ で微分可能なので、微分係数と導関数の定義(高校数学) の定理「微分可能な点では連続」により $h\to0$ で $g(a+h)\to g(a)=b$ である。$\varphi$ は $u=b$ で連続なので(補題の 2)、$\varphi(g(a+h))\to\varphi(b)=f'(b)$ である(連続関数の合成は連続。Leb26 Proposition 3.2.7)。
段 4(右辺の 2 つ目の因数)。微分係数の定義から、$h\to0$ で $\dfrac{g(a+h)-g(a)}{h}\to g'(a)$ である。
段 5(まとめ)。積の極限は極限の積なので(Leb26 Corollary 3.1.12)、段 2 の右辺は $f'(b)\,g'(a)$ に近づく。よって左辺の極限も存在し、$(f\circ g)'(a)=f'(g(a))\,g'(a)$ である。$\square$
区間のすべての点で $g$ が微分可能で、$g$ の値のすべての点で $f$ が微分可能なら、定理を各点で使って、導関数の等式 $\{f(g(x))\}'=f'(g(x))\,g'(x)$ が得られる。
$F(x)=(x^2+1)^3$ の $x=1$ での微分係数を求める。
公式:外側 $f(u)=u^3$、中身 $g(x)=x^2+1$ とする。$g(1)=2$、$g'(x)=2x$ なので $g'(1)=2$、$f'(u)=3u^2$ なので $f'(2)=12$ である。よって $F'(1)=12\cdot2=24$ である。
展開:$F(x)=x^6+3x^4+3x^2+1$ なので $F'(x)=6x^5+12x^3+6x$、$F'(1)=6+12+6=24$ で一致する。
差分商:$h=0.001$ では $\dfrac{F(1.001)-F(1)}{0.001}=24.0360\ldots$、$h=0.0001$ では $24.0036\ldots$ で、$24$ に近づく。
ex-crh-division-gap の 2 の $g$($g(0)=0$、$g'(0)=0$)と、$f(u)=u^2$ を合成する。$F(x)=f(g(x))=x^4\sin^2\dfrac1x$($x\ne0$)、$F(0)=0$ である。
定理から:$F'(0)=f'(g(0))\,g'(0)=f'(0)\cdot0=0\cdot0=0$ である。
直接:$h\ne0$ で $\left|\dfrac{F(h)-F(0)}{h}\right|=\left|h^3\sin^2\dfrac1h\right|\le|h|^3$ で、$h\to0$ で $0$ に近づく。よって $F'(0)=0$ で、一致する。
この例では $h=\frac1{n\pi}$ で $\Delta u=0$ となるので、rem-crh-division-proof の説明は使えない。thm-crh-chain-rule の証明は $\Delta u$ で割らないので、この場合も含んでいる。
連鎖律を使うには、外側の関数の導関数を知っている必要がある。この記事では次の事実を前提にする。
微分係数と導関数の定義(高校数学) では、$(x^n)'=nx^{n-1}$ を正の整数 $n$ について示した。連鎖律を使うと、指数を実数に広げられる。
$r$ を実数とする。$x>0$ で
$$
(x^r)'=rx^{r-1}
$$
である。
方針:$x^r=e^{r\log x}$ と書き、外側 $e^u$、中身 $u=r\log x$ の合成として連鎖律を使う。
段 1。rem-crh-premises の 3 により、$x>0$ で $x^r=e^{r\log x}$ である。
段 2。中身 $u=r\log x$ の導関数は、定数倍の微分と $(\log x)'=\frac1x$ から $\dfrac rx$ である。外側 $e^u$ の導関数は $e^u$ である。
段 3。thm-crh-chain-rule により
$$
(x^r)'=e^{r\log x}\cdot\frac rx=x^r\cdot\frac rx=rx^{r-1}
$$
である。最後の等号では、$x^r\cdot x^{-1}=x^{r-1}$(指数法則)を使った。$\square$
$f$ の逆関数 $f^{-1}$ が微分可能だと分かっているとき、恒等式 $f(f^{-1}(y))=y$ の両辺を $y$ で微分すると、連鎖律により $f'(f^{-1}(y))\cdot(f^{-1})'(y)=1$ となる。$f'(f^{-1}(y))\ne0$ なら
$$
(f^{-1})'(y)=\frac1{f'(f^{-1}(y))}
$$
である。ここで使ったのは「逆関数が微分可能である」という仮定で、逆関数が微分可能であること自体は、本記事では証明しない。その証明と、$f'=0$ となる点で何が起きるかは、逆関数の微分 で扱う。
$y=x^3$ の逆関数は $x=\sqrt[3]{y}$ である。$y\ne0$ で $\sqrt[3]{y}$ が微分可能だと認めると、$(\sqrt[3]{y})^3=y$ の両辺を $y$ で微分して、連鎖律から
$$
3(\sqrt[3]{y})^2\cdot(\sqrt[3]{y})'=1,\qquad (\sqrt[3]{y})'=\frac1{3(\sqrt[3]{y})^2}
$$
である。$y=8$ では $\sqrt[3]8=2$ なので $\frac1{12}=0.08333\ldots$ で、$h=0.001$ の差分商 $\dfrac{\sqrt[3]{8.001}-2}{0.001}=0.083329\ldots$ と近い。
$y=0$ では分母が $0$ になり、式は使えない。実際、$\sqrt[3]{y}$ は $y=0$ で微分可能でない(微分係数と導関数の定義(高校数学) の反例)。$y=x^3$ のグラフの原点での接線が水平(傾き $0$)なので、$x$ と $y$ を入れ替えた逆関数のグラフでは接線が垂直になる。
連鎖律を積分の言葉に読みかえると、置換積分の公式になる。$F$ を $f$ の原始関数($F'=f$)とすると、連鎖律から $\{F(g(x))\}'=f(g(x))\,g'(x)$ なので
$$
\int f(g(x))\,g'(x)\,dx=F(g(x))+C
$$
である。$u=g(x)$ とおき、$\dfrac{du}{dx}=g'(x)$ を「$du=g'(x)\,dx$」と書くと、左辺は $\int f(u)\,du$ と読める。定積分の形と使い方は 置換積分の使い方 で扱う。
$\displaystyle\int2x(x^2+1)^3\,dx$ を求める。中身 $u=x^2+1$ の導関数 $2x$ が掛かっているので、$f(u)=u^3$、$F(u)=\dfrac{u^4}4$ として
$$
\int2x(x^2+1)^3\,dx=\frac{(x^2+1)^4}{4}+C
$$
である。確かめ:連鎖律により $\left\{\dfrac{(x^2+1)^4}4\right\}'=\dfrac14\cdot4(x^2+1)^3\cdot2x=2x(x^2+1)^3$ である。
定積分では $\displaystyle\int_0^1 2x(x^2+1)^3\,dx=\frac{2^4}{4}-\frac{1^4}{4}=\frac{15}{4}$ である。$u$ で書くと $\displaystyle\int_1^2u^3\,du=\frac{16-1}4=\frac{15}4$ で、同じ値になる。
thm-crh-chain-rule の仮定と使い方について、外すと何が崩れるかをまとめる。
| 外した仮定・手順 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 外側 $f$ が $g(a)$ で微分可能 | 合成関数が微分可能 | ex-crh-outer の 1 |
| 中身 $g$ が $a$ で微分可能 | 合成関数が微分可能 | ex-crh-inner の 1 |
| 中身の導関数 $g'(x)$ を掛ける | 導関数の値(掛け忘れると誤り) | ex-crh-forget |
| $0$ の近くで $\Delta u\ne0$ | 約分による説明 | ex-crh-division-gap |
ただし、定理の仮定は「成り立てば必ず微分可能」という十分条件であり、必要条件ではない。仮定が崩れても、合成関数がたまたま微分可能なことはある(ex-crh-outer の 2、ex-crh-inner の 2)。
外側を $f(u)=|u|$ とする。$f$ は $u=0$ で微分可能でない。
中身を $g(x)=|x|$、$a=0$ とする。$g$ は $x=0$ で微分可能でない。
$y=\sin2x$ を「$\cos2x$」と微分するのは誤りである。正しくは $(\sin2x)'=\cos2x\cdot2=2\cos2x$ である。
$x=0$ で確かめる。差分商 $\dfrac{\sin2h-\sin0}{h}$ は、$h=0.01$ で $1.99986\ldots$、$h=0.001$ で $1.999998\ldots$ で、$2$ に近づく。$2\cos0=2$ と一致し、$\cos0=1$ とは一致しない。中身 $2x$ が $x$ の 2 倍の速さで変わるので、変化率も 2 倍になる。
微分係数と導関数の定義(高校数学) で見たように、$f$ が $x=a$ で微分可能であることは、$f(a+h)\approx f(a)+f'(a)h$(誤差を $h$ で割ると $0$ に近づく)と同じである。この見方では、微分係数 $f'(a)$ は「$a$ の近くの小さな区間を何倍に伸ばすか」という拡大率である。
$g(x)=x^2$、$f(u)=u^3$、$a=1$ とする。$g(1)=1$、$g'(1)=2$、$f'(1)=3$ で、合成関数 $f(g(x))=x^6$ の $x=1$ での微分係数は $6$ である。区間 $[1,1+h]$ の長さが、$g$ と $f$ でどれだけ伸びるかを計算する。
| $h$ | $g$ による伸び $\frac{(1+h)^2-1}{h}$ | $f$ による伸び $\frac{(1+h)^6-1}{(1+h)^2-1}$ | 合わせた伸び $\frac{(1+h)^6-1}{h}$ |
|---|---|---|---|
| $0.1$ | $2.1$ | $3.6741$ | $7.7156\ldots$ |
| $0.01$ | $2.01$ | $3.0607\ldots$ | $6.1520\ldots$ |
| $0.001$ | $2.001$ | $3.0060\ldots$ | $6.0150\ldots$ |
合わせた伸びは、2 つの伸びの積である(表の 2 列目 × 3 列目 = 4 列目。$(1+h)^2-1$ が約分で消える)。$h\to0$ で、それぞれの伸びは $2$、$3$、$6$ に近づく(図2)。
区間 $[1,\,1.1]$(長さ $0.1$)が、$g(x)=x^2$ で長さ $0.21$ の区間に、さらに $f(u)=u^3$ で長さ $0.771561$ の区間に移る様子。$h=0.1$ では伸びは $2.1$ 倍と約 $3.67$ 倍だが、$h$ を小さくすると $g'(1)=2$ 倍と $f'(1)=3$ 倍に近づき、合わせて $6$ 倍になることを見る図。
変数が 2 つ以上になっても、同じ考え方が使える。2 変数の関数 $f(x,y)$ で、$y$ を定数とみて $x$ で微分したものを $f_x$、$x$ を定数とみて $y$ で微分したものを $f_y$ と書き、偏導関数という(偏微分)。
$f(x,y)=xy$ とし、点が $x=t^2$、$y=t^3$ と動くとする。$F(t)=f(t^2,t^3)=t^5$ なので、$F'(t)=5t^4$ である。
一方、$f_x=y$、$f_y=x$、$\dfrac{dx}{dt}=2t$、$\dfrac{dy}{dt}=3t^2$ で、公式
$$
F'(t)=f_x\cdot\frac{dx}{dt}+f_y\cdot\frac{dy}{dt}=t^3\cdot2t+t^2\cdot3t^2=2t^4+3t^4=5t^4
$$
も同じ結果になる。この公式は、$f$ が(全)微分可能なとき(たとえば $f_x$、$f_y$ が連続なとき)に成り立ち、偏導関数があるだけでは成り立たないことがある。本記事では証明しない(Leb26b Theorem 8.3.7)。ここでの $f(x,y)=xy$ は $f_x=y$、$f_y=x$ が連続なので、公式を使ってよい。$t=1$ ではどちらも $5$ である。$x$ を通る道と $y$ を通る道の 2 つの「変化率の掛け算」を足し合わせている。
大学の解析学では、$n$ 変数から $m$ 変数への関数 $f$ の点 $a$ での微分を、1 次近似を与える線形写像 $Df(a)$ として定める。$Df(a)$ は $m\times n$ 行列で表され、その成分は偏微分係数である。この行列を Jacobi行列 という。
多変数の連鎖律は
$$
D(f\circ g)(a)=Df(g(a))\,Dg(a)
$$
で、右辺は行列の積である(Leb26b Theorem 8.3.7)。1 変数では行列が $1\times1$、つまり数 1 つなので、行列の積はただの数の積 $f'(g(a))\,g'(a)$ になる。これが高校の連鎖律である。ex-crh-two-variables は、$1\times2$ 行列 $(f_x\ f_y)$ と $2\times1$ 行列 $\begin{pmatrix}dx/dt\\ dy/dt\end{pmatrix}$ の積として読める。
行列を正方行列にすると、行列式は面積(体積)の拡大率で、積の行列式は行列式の積である(1次変換と行列式:面積の拡大率)。多変数の置換積分で Jacobi 行列の行列式が現れるのは、このためである。証明を含む大学向けの説明は 連鎖律 の記事にある。
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