Radon–Riesz性

同義語:Radon-Riesz性Radon–Rieszの性質Kadec–Klee性Kadec–Kleeの性質Radon–Riesz propertyKadec–Klee property

概要

Radon–Riesz性(Radon–Riesz property)とは、ノルム空間で弱収束する点列のノルムが極限のノルムに収束すれば、その点列はノルムでも収束するという性質で、Kadec–Klee 性とも呼ばれる。Hilbert 空間は内積の展開から、一様凸な空間は単位球面上で弱位相とノルムの位相が一致することからこの性質をもち、$1<p<\infty$ の $L^p$ も含まれる。$c_0$・$\ell^\infty$・$L^1(0,1)$ はもたず、同値なノルムに替えると失われることもあり、反射性とは互いに他を導かないが、反射的な空間と組み合わせると、閉凸集合の上でノルムを最小化する点列は最小ノルムの点へ強収束する部分列をもつ。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 弱収束(Banach空間), 弱位相(関数解析), 一様凸Banach空間

無限次元のノルム空間では、弱収束する点列が強収束(ノルムで収束)するとは限らない。$\ell^2$ の標準基底 $e_n$ は $0$ に弱収束するが、$\|e_n\|_2=1$ は $\|0\|=0$ に近づかない。ノルムは弱位相で下半連続なので、弱極限で一般に失われるのは「ノルムの一部」である。それなら、ノルムが失われないこと、すなわち $\|x_n\|\to\|x\|$ を足せば強収束が回復するだろうか。
これが成り立つ空間を、Radon–Riesz 性(Radon–Riesz property)をもつという。Kadec–Klee 性、性質 (H) とも呼ばれる。Hilbert 空間や $1< p<\infty$ の $L^p$ 空間はこの性質をもち、$c_0$、$\ell^\infty$、$L^1(0,1)$ はもたない。これはノルムの形の性質で、同じ位相をもつ同値なノルムに替えると失われることがある。変分法では、弱収束する最小化列がノルムの値も保つことから強収束を導く場面で使われる。
以下 $X$ は実または複素のノルム空間、$X^*$ はその連続双対とし、弱位相 $\sigma(X,X^*)$ での収束を $x_n\rightharpoonup x$ と書く。$S_X=\{x\in X:\|x\|=1\}$ を単位球面とする。

定義

Radon–Riesz性

ノルム空間 $X$ が Radon–Riesz 性 をもつとは、$X$ の点列 $(x_n)$ と $x\in X$ について
$$ x_n\rightharpoonup x\quad\text{かつ}\quad\|x_n\|\to\|x\|\quad\Longrightarrow\quad\|x_n-x\|\to0 $$
が成り立つことをいう。

強収束すれば弱収束し、$\bigl|\|x_n\|-\|x\|\bigr|\le\|x_n-x\|$ からノルムも収束する。したがって Radon–Riesz 性は「弱収束とノルムの収束を合わせると強収束と同値になる」ことを述べる。有限次元のノルム空間では弱位相とノルムの位相が一致するので(弱位相(関数解析) の命題「有限次元の場合」)、どのノルムでもこの性質が成り立つ。問題になるのは無限次元の場合である。

上極限による言い換え

$X$ が Radon–Riesz 性をもつことは、次と同値である:$x_n\rightharpoonup x$ かつ $\limsup_n\|x_n\|\le\|x\|$ なら $\|x_n-x\|\to0$。

$\|x_n\|\to\|x\|$ なら $\limsup_n\|x_n\|\le\|x\|$ なので、言い換えの条件から Radon–Riesz 性が従う。逆に、$x_n\rightharpoonup x$ ならノルムの弱下半連続性により $\|x\|\le\liminf_n\|x_n\|$ である(弱位相(関数解析) の命題「弱収束列の基本性質」の 2)。これと $\limsup_n\|x_n\|\le\|x\|$ を合わせると $\|x_n\|\to\|x\|$ となり、Radon–Riesz 性から強収束する。

Hilbert 空間

Hilbert空間のRadon–Riesz性

内積空間(とくに Hilbert 空間)は Radon–Riesz 性をもつ。

内積を $\langle\cdot,\cdot\rangle$ とし、$x_n\rightharpoonup x$、$\|x_n\|\to\|x\|$ とする。$y\mapsto\langle y,x\rangle$ は連続線形汎関数なので $\langle x_n,x\rangle\to\langle x,x\rangle=\|x\|^2$ である。したがって
$$ \|x_n-x\|^2=\|x_n\|^2-2\operatorname{Re}\langle x_n,x\rangle+\|x\|^2\to\|x\|^2-2\|x\|^2+\|x\|^2=0 $$
である。

この計算は Bre11 Exercise 5.19(p. 151)の形で、そこでは後で述べる一様凸空間の命題を使わずに示すことが求められている。Hilbert 空間の場合は 弱収束(Banach空間) の命題「Hilbert 空間での強収束の回復」でもある。

一様凸空間:単位球面上で二つの位相が一致する

一様凸空間では、点列だけでなく位相の言葉で、より強いことが言える。一様凸性の定義と記号は 一様凸Banach空間 の定義「一様凸Banach空間」に従う。

一様凸空間の単位球面

$X$ を一様凸なノルム空間とする。単位球面 $S_X$ の上では、弱位相から誘導される位相とノルムの位相から誘導される位相が一致する。

弱位相はノルムの位相より粗いので、$S_X$ の弱位相での開集合はノルムでも開である。逆を示すため、$x\in S_X$ と $\varepsilon>0$ をとり、$x$ の弱開近傍 $W$ で
$$ W\cap S_X\subset\{y\in S_X:\|y-x\|\le\varepsilon\} $$
となるものを見つける。一様凸性の $\delta=\delta(\varepsilon)>0$ をとる。Hahn–Banach の定理により $\|f\|=1$、$f(x)=\|x\|=1$ となる $f\in X^*$ がある(Hahn–Banachの定理 の系「閉部分空間の外の点を検出する汎関数」を部分空間 $\{0\}$ に使う)。$W=\{y\in X:\operatorname{Re}f(y)>1-2\delta\}$ は弱開集合で $x$ を含む。$y\in W\cap S_X$ なら
$$ \Bigl\|\frac{x+y}2\Bigr\|\ge\operatorname{Re}f\Bigl(\frac{x+y}2\Bigr)>\frac{1+(1-2\delta)}2=1-\delta $$
である。$\|x\|=\|y\|=1$ なので、一様凸性の対偶から $\|x-y\|\le\varepsilon$ となる。

証明の弱近傍 $W\cap S_X$ は、単位球面を超平面 $\operatorname{Re}f=1-2\delta$ で切り取った「薄い帽子」である。一様凸性は、この帽子の直径が $\delta\to0$ で $0$ に縮むことを保証する。ex-rr-c0 の $c_0$ では、$f(y)=y_1$ で切った帽子 $\{y\in S_{c_0}:y_1>1-2\delta\}$ は、どれだけ薄くしても $e_1$ から距離 $1$ の点 $e_1+e_n$ を含む。

一様凸空間のRadon–Riesz性

一様凸なノルム空間は Radon–Riesz 性をもつ。

$x_n\rightharpoonup x$、$\|x_n\|\to\|x\|$ とする。$x=0$ なら $\|x_n-x\|=\|x_n\|\to0$ である。$x\ne0$ なら十分大きい $n$ で $x_n\ne0$ であり、$u_n=x_n/\|x_n\|$、$u=x/\|x\|$ とおく。各 $f\in X^*$ について $f(u_n)=f(x_n)/\|x_n\|\to f(x)/\|x\|=f(u)$ なので、$S_X$ の中で $u_n\rightharpoonup u$ である。thm-rr-sphere により $S_X$ 上では弱位相とノルムの位相が同じなので $\|u_n-u\|\to0$ であり、$x_n=\|x_n\|u_n\to\|x\|u=x$ となる。

上極限の形の主張は Bre11 Proposition 3.32(p. 78)にあり、一様凸Banach空間 の定理「弱収束とノルムからの強収束」はそれを点列の議論で示している。thm-rr-sphere はネットについても同じ結論を与えるので、点列版より強い。

$L^p$ 空間

$\Omega\subset\mathbb R^N$ を可測集合、$1< p<\infty$ とすると、$L^p(\Omega)$ は Radon–Riesz 性をもつ。

$L^p(\Omega)$ は一様凸である($p\ge2$ は 一様凸Banach空間 の命題「$p\ge2$ の $L^p$ 空間」、$1< p<2$ は Clarksonの不等式 の系「$L^p$ の一様凸性」)。cor-rr-uc を使えばよい。

$L^p$ では、弱収束の代わりにほとんど至る所の収束を仮定しても、ノルムの収束を足せば強収束が従う(Brezis–Liebの補題 の系「ノルムの収束による判定」、Bre11 Exercise 4.17(p. 123))。こちらは $p=1$ でも成り立つ。仮定の形が違う別の判定法であり、$p=1$ では次の節のとおり弱収束の形の判定法は成り立たない。

部分空間と $\ell^1$

部分空間への遺伝

$X$ が Radon–Riesz 性をもてば、その線形部分空間 $Y$($X$ のノルムを制限する)も Radon–Riesz 性をもつ。

$Y$ の中で $y_n\rightharpoonup y$、$\|y_n\|\to\|y\|$ とする。$f\in X^*$ の $Y$ への制限は $Y^*$ の元なので $f(y_n)\to f(y)$ であり、$X$ の中でも $y_n\rightharpoonup y$ である。$X$ の Radon–Riesz 性から $\|y_n-y\|\to0$ となる。

弱収束する点列がすべて強収束する空間(Schur性 をもつ空間)は、ノルムの収束を仮定するまでもなく Radon–Riesz 性をもつ。$\ell^1$ はその例である(ℓp空間 の定理「Schurの定理」)。$\ell^1$ は反射的でなく(ℓp空間 の系「反射性」)、一様凸でもないので、Radon–Riesz 性は反射性も一様凸性も導かない。

例:Radon–Riesz 性をもたない空間

$c_0$ と $\ell^\infty$

$c_0$($0$ に収束する実数列、上限ノルム)で $x_n=e_1+e_n$($n\ge2$)とおく。$c_0$ では $e_n\rightharpoonup0$ なので(弱位相(関数解析) の例「$\ell^p$ と $c_0$ の標準基底」)$x_n\rightharpoonup e_1$ であり、$\|x_n\|_\infty=1=\|e_1\|_\infty$ である。しかし $\|x_n-e_1\|_\infty=\|e_n\|_\infty=1$ なので強収束しない。$c_0$ は $\ell^\infty$ の部分空間なので、prop-rr-subspace により $\ell^\infty$ も Radon–Riesz 性をもたない。

$L^1(0,1)$

実数値関数の $L^1(0,1)$ で $f_n(t)=1+\sin(2\pi nt)$ とおく。$f_n\ge0$ なので $\|f_n\|_1=\int_0^1(1+\sin2\pi nt)\,dt=1=\|1\|_1$ である。
$f_n\rightharpoonup1$ を示す。$L^1(0,1)$ の連続線形汎関数は $g\in L^\infty(0,1)$ による $u\mapsto\int_0^1gu\,dt$ で表される(Bre11 Theorem 4.14、p. 99)。$g\in L^\infty(0,1)\subset L^2(0,1)$ であり、$\sqrt2\sin(2\pi nt)$($n\ge1$)は $L^2(0,1)$ の正規直交系なので、Besselの不等式 の定理「Besselの不等式」により $\sum_n\bigl|\int_0^1g(t)\sqrt2\sin(2\pi nt)\,dt\bigr|^2\le\|g\|_2^2<\infty$ である。よって $\int_0^1g(f_n-1)\,dt\to0$ となる。
一方 $\|f_n-1\|_1=\int_0^1|\sin2\pi nt|\,dt=2/\pi$ なので、$f_n$ は $1$ に強収束しない。$L^1(0,1)$ は弱収束とノルムの収束では強収束を判定できない空間である。
同じ列を $L^2(0,1)$ で見ると、上の議論から $f_n\rightharpoonup1$ であり、$\|f_n\|_2^2=\int_0^1(1+2\sin2\pi nt+\sin^22\pi nt)\,dt=\frac32$ は $\|1\|_2^2=1$ に近づかない。$L^1$ ノルムは非負の関数の振動を平均で打ち消して見落とすが、$L^2$ ノルムは振動の大きさを 2 乗で拾うので、cor-rr-lp と矛盾しない。

ノルムに依存すること

Radon–Riesz 性は位相だけでは決まらない。同値なノルムは同じ連続双対、したがって同じ弱位相と同じ強収束をもつが、ノルムの値の収束 $\|x_n\|\to\|x\|$ という仮定が変わるからである。

同値なノルムで失われる例

$\ell^2$ に
$$ N(x)=\max\Bigl(|x_1|,\ \Bigl(\sum_{n\ge2}|x_n|^2\Bigr)^{1/2}\Bigr) $$
を入れる。$N(x)\le\|x\|_2\le\sqrt2\,N(x)$ なので、$N$ は $\|\cdot\|_2$ と同値なノルムであり、$(\ell^2,N)$ は反射的な Banach 空間で、弱収束も強収束も $\|\cdot\|_2$ のときと同じである。$x_n=e_1+e_n$($n\ge2$)は $x_n\rightharpoonup e_1$、$N(x_n)=1=N(e_1)$ を満たすが、$N(x_n-e_1)=N(e_n)=1$ である。したがって $(\ell^2,N)$ は Radon–Riesz 性をもたない。$\|\cdot\|_2$ では $\|x_n\|_2=\sqrt2\ne1=\|e_1\|_2$ なので、thm-rr-hilbert と矛盾しない。

この例と $\ell^1$ を合わせると、Radon–Riesz 性と反射性はどちらも他方を導かない。

応用:最小ノルムの点への強収束

最小化列の強収束

$X$ を Radon–Riesz 性をもつ反射的な実 Banach 空間、$C\subset X$ を空でない閉凸集合とし、$d=\inf_{y\in C}\|y\|$ とおく。$C$ の点列 $(x_n)$ が $\|x_n\|\to d$ を満たせば、部分列 $(x_{n_k})$ と $x\in C$ で、$\|x\|=d$ かつ $\|x_{n_k}-x\|\to0$ となるものがある。さらに $\|x\|=d$ となる $x\in C$ がただ一つなら、$(x_n)$ 全体がその点に強収束する。

$(\|x_n\|)$ は収束するので有界である。反射的な Banach 空間の有界列は弱収束する部分列をもつので(反射的Banach空間 の定理「有界列の弱収束部分列」)、$x_{n_k}\rightharpoonup x$ となる。閉凸集合は弱閉なので(Mazurの補題 の定理「凸集合の強閉と弱閉」)$x\in C$ であり、$d\le\|x\|$ である。ノルムの弱下半連続性から $\|x\|\le\liminf_k\|x_{n_k}\|=d$ なので $\|x\|=d$ である。よって $\|x_{n_k}\|\to\|x\|$ となり、Radon–Riesz 性から $\|x_{n_k}-x\|\to0$ である。
最小点がただ一つの場合、$(x_n)$ が $x$ に強収束しないとすると、$\varepsilon>0$ と部分列で $\|x_{m_j}-x\|\ge\varepsilon$ となるものがある。この部分列にも前半を使うと、さらに部分列が最小点、すなわち $x$ に強収束し、矛盾する。

一様凸空間では最小点はただ一つであり(一様凸Banach空間 の命題「閉凸集合への最近点の一意存在」を $x_0=0$ に使う)、cor-rr-uc と合わせて、最小化列そのものが強収束する。変分問題で、弱収束しか得られない最小化列から強収束を引き出す典型的な使い方である。

反例の表

外す条件反例成り立たなくなること
定義の仮定 $\|x_n\|\to\|x\|$$\ell^2$ の標準基底 $e_n\rightharpoonup0$強収束($\|e_n\|_2=1$)
cor-rr-uc の一様凸性ex-rr-c0 の $c_0$弱収束とノルムの収束からの強収束
cor-rr-lp の $p>1$ex-rr-l1 の $L^1(0,1)$弱収束とノルムの収束からの強収束
prop-rr-minimizing の Radon–Riesz 性ex-rr-renorm の $(\ell^2,N)$、$C=\{x:x_1=1\}$最小化列 $e_1+e_n$ の部分列の強収束
prop-rr-minimizing の反射性$\ell^1$、$C=\{x:\sum_{n\ge1}(1-\frac1n)x_n=1\}$最小ノルムの点の存在

4 行目:$C$ は閉凸集合で、$x\in C$ なら $N(x)\ge|x_1|=1$ だから $d=1$ であり、$N(e_1+e_n)=1$ なので $x_n=e_1+e_n$ は最小化列である。$N(x_n-x_m)=\sqrt2$($n\ne m$)なので、どの部分列も強収束しない。5 行目:$\varphi(x)=\sum_n(1-\frac1n)x_n$ は $|\varphi(x)|\le\|x\|_1$ を満たす連続線形汎関数なので $C=\varphi^{-1}(1)$ は閉凸集合で、$\ell^1$ は Schur 性により Radon–Riesz 性をもつ。$x\in C$ なら $1=\varphi(x)\le\sum_n(1-\frac1n)|x_n|<\|x\|_1$($x\ne0$ による)なので最小点はない。一方 $e_n/(1-\frac1n)\in C$($n\ge2$)のノルムは $1$ に近づくので $d=1$ である。

関連項目

参考文献

[1]
Haim Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations, Universitext, Springer, 2011, §3.7:Proposition 3.32(p. 78)、Theorem 4.14((L^1)^*=L^∞、p. 99)、Exercise 4.17(p. 123)、Exercise 5.19(p. 151)

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