ジェネリック拡大(generic extension)とは、推移的な ZFC モデル $M$ と、$M$ に属する強制概念について $M$ 上ジェネリックなフィルター $G$ に対し、$M$ 内の名前を $G$ で評価した値をすべて集めたモデル $M[G]$ である。標準名により $M\subseteq M[G]$、名前 $\dot G$ により $G\in M[G]$ となり、$M[G]$ は推移的で、$M$ と $G$ を含む最小の推移的な ZFC モデルであり、順序数を増やさない。$G\in M$ なら $M[G]=M$ だが、原子を持たない強制概念では $G\notin M$ で、Cohen 強制では新しい実数が加わる。強制定理により拡大での真偽は $G$ 内の条件で判定でき、順序数は保たれても基数は保たれないことがある。
前提知識: 強制法, ジェネリックフィルター, 集合論
集合論では、あるモデルでまだ決まっていない集合を付け加え、もとのモデルの集合を保ちながら新しいモデルを得たいことがある。ジェネリック拡大(generic extension)$M[G]$ は、この操作を強制法で正確に実行したモデルである。$M$ は出発点となるモデル、$G$ は $M$ に属する強制概念 $\mathbb P$ に関してジェネリックなフィルターを表す。$M[G]$ は $M$ の集合だけでなく、$G$ から生じる新しい集合も含む。
「$M$ に $G$ を加える」という言い方だけでは、どの集合を拡大に入れるかが決まらない。強制法は、$M$ の中であらかじめ用意した名前を $G$ で評価し、その値をすべて集める。こうして得られる $M[G]$ は、$M$ と $G$ を含む最小の推移的な ZFC モデルになる。この構成は新しい実数を加えるだけに限らない。新しい実数の集合、関数、順序など、拡大に現れるものはすべて名前の値として表される(Jec03 Chapter 14)。
拡大に入る集合を一つずつ名前で追えるため、何が元のモデルから残り、何が新しく加わったかも区別できる。
この記事では、名前を評価する仕組みと $M[G]$ の特徴を扱う。条件の順序と両立性は強制概念、稠密集合とジェネリック性はジェネリックフィルター、独立性証明までの全体像は強制法を参照してほしい。
以下、$M$ は推移的な ZFC のモデル、$\mathbb P=(P,\le,\mathbf 1)\in M$ は集合サイズの強制概念とする。$p\le q$ は $p$ の方が強いこと、$\mathbf 1$ は最も弱い条件を意味する。$G\subseteq P$ は $M$ 上 $\mathbb P$-ジェネリックなフィルターとする。すなわち $G$ は弱い条件へ閉じ、任意の二条件に対して $G$ 内に共通の強化を持ち、$M$ に属する $P$ のあらゆる稠密集合と交わる。
推移性とは、$x\in y\in M$ なら $x\in M$ であることをいう。これにより、$M$ の集合の要素を外側から見ても、所属関係が変わらない。$\mathbb P\in M$ なら $P$ の各条件も $M$ の要素である。ただし、外側で選んだ $G\subseteq P$ 自身が $M$ に属するとは限らない。Cohen 強制では、実際に $G\notin M$ となる。
具体的な $G$ の存在を外側で示すときは、$M$ が外側から可算であると仮定することが多い。その場合、$M$ に属する稠密集合を列挙し、一つずつ横切る条件を選べる。これは $M$ が自分自身を可算と認めるという意味ではない。また、ZFC が可算推移的な ZFC モデルの存在を証明する、という意味でもない。以下の名前の評価や拡大の性質を述べる段階では、すでに $M$ 上ジェネリックな $G$ が与えられているとする(Jec03 Chapter 14, Lemma 14.4 と Generic Model Theorem)。
この前提の区別は重要である。「任意のモデルに対して、その内部で $G$ を選べる」という主張はしていない。特に新しい集合を加える例では、$G$ は基礎モデルの外にある。拡大を作る議論は外側の宇宙で行い、拡大での真偽を調べる議論を基礎モデルの中で記述する。
ここで「外側」とは、$M$ を一つの対象として眺め、$M$ の全要素を列挙したり $M$ にない $G$ を持ったりできる議論の場である。ある集合が「新しい」というときも、外側の宇宙に初めて出現したという意味ではない。その集合が $M$ に属さず、$M[G]$ に属するという、二つのモデルを比較した主張である。この相対性を忘れると、外側では既に存在する Cohen 実数を「無から作る」と誤解しやすい。
また、$G$ が $M$ 上ジェネリックであることは、$G$ が外側のあらゆる稠密集合と交わることではない。外側で見える稠密集合には、$G$ を見てから作ったものまである。基礎モデル内の稠密集合だけを横切るという限定が、拡大を可能にし、後の強制定理を支える。
名前は、どの条件が採用されたときにどの集合を要素にするかを記した、$M$ 内の集合である。最初は空集合の名前から始め、名前と条件の対を要素に持つ集合を順に作る。この生成を順序数に沿って繰り返す。名前 $\tau$ に入る $(\sigma,p)$ は、条件 $p$ が $G$ に入れば、$\sigma$ の評価値を $\tau$ の評価値に入れる、という指定を表す。
$M$ に属する $\mathbb P$-名前全体を $M^{\mathbb P}$ と書く。$G$ による名前 $\tau$ の評価値を、名前の階数に関する再帰で
$$
\tau^G
=
\{\sigma^G\mid (\exists p\in G)\,(\sigma,p)\in\tau\}
$$
と定める。$M$ の $G$ によるジェネリック拡大は
$$
M[G]:=\{\tau^G\mid\tau\in M^{\mathbb P}\}
$$
である。
定義に現れる存在記号は、$G$ に属する条件を一つでも持つ対を採用する、という意味である。同じ名前 $\sigma$ に異なる条件が付いていても、評価値には集合の要素として一度だけ現れる。逆に、$\tau$ に $(\sigma,p)$ があっても、$p\notin G$ なら、その対だけを理由に $\sigma^G$ は採用されない。名前は「拡大後に実在する集合」ではなく、その集合を条件から組み立てる設計図である。
再帰が循環しないのは、名前の対 $(\sigma,p)$ の内側にある $\sigma$ が $\tau$ より低い階数に置かれるからである。空の名前の値は空集合であり、次の段階の名前の値はすでに評価した名前の値から作れる。この順序数に沿う構成により、$M$ 内の各名前には一意の評価値が定まる。
$a,b\in M$ と $p,q\in P$ を取り、$\tau=\{(\check a,p),(\check b,q)\}$ という名前を考える。$\check a,\check b$ は後で定義する標準名である。$p\in G$ かつ $q\notin G$ なら $\tau^G=\{a\}$、両方が $G$ に入れば $\tau^G=\{a,b\}$ となる。$a=b$ なら後者も一元集合である。$p,q$ が両立しないときはフィルターが両方を含めないので、後者のケースは起こらない。
この例は名前の値が $G$ に依存することを示す。一方、もともと $M$ にある集合は、採用条件によって値が変わらない名前でも表せる。
名前の値が同じでも、名前自体は同じとは限らない。例えば $\mathbf 1\in G$ なので、$\{(\check a,\mathbf 1)\}$ は常に $\{a\}$ を表す。一方、与えられた $G$ に属する別の条件 $p$ を使った $\{(\check a,p)\}$ も、その $G$ では同じ集合を表す。しかし別のジェネリックフィルターが $p$ を含まなければ、後者の値は空集合になる。したがって、名前を見ただけで一意の「意味」が固定されるのではなく、名前と評価に使う $G$ の組から値が決まる。
これは普通の変数への代入と似ているが、名前の要素にさらに名前が現れる点が異なる。集合の要素もまた評価を必要とするため、名前の階数に沿う再帰が不可欠である。評価後の集合には対 $(\sigma,p)$ がそのまま残るわけではなく、条件による指定を解釈した結果の $\sigma^G$ だけが要素となる。
各 $x\in M$ に対し、その元に同じ操作を施して得る標準名を
$$
\check x
:=
\{(\check y,\mathbf 1)\mid y\in x\}
$$
と再帰で定める。$\mathbf 1$ は最も弱い条件なので、空でないフィルター $G$ に必ず入る。したがって標準名の評価は選んだ $G$ に依存しない。
任意の $x\in M$ について $\check x^G=x$。特に $M\subseteq M[G]$ である。
$x$ の階数に関する帰納法を用いる。$\check x$ の要素は、ちょうど $y\in x$ に対応する $(\check y,\mathbf 1)$ である。$\mathbf 1\in G$ だから、評価の定義と帰納法の仮定より
$$
\check x^G
=
\{\check y^G\mid y\in x\}
=
\{y\mid y\in x\}
=x.
$$
$\check x\in M^{\mathbb P}$ なので $x\in M[G]$ でもある。$\square$
次に、$G$ そのものも名前の値となる。各条件 $p\in P$ は $M$ にあり、標準名 $\check p$ を持つ。そこで
$$
\dot G
:=
\{(\check p,p)\mid p\in P\}
$$
と置く。$\dot G$ は $M$ の中で作られる名前である。「$p$ が選ばれたら、$p$ をフィルターの要素にする」という指示を、すべての条件について並べたものになっている。
$\dot G^G=G$。従って $G\in M[G]$ である。
評価の定義を $\dot G$ に適用すると
$$
\dot G^G
=
\{\check p^G\mid p\in P,\ p\in G\}.
$$
前の命題より $\check p^G=p$ であるから、右辺は $\{p\in P\mid p\in G\}=G$ に等しい。$\square$
ここまでの二命題は、$M[G]$ が $M$ と $G$ をともに含むことを定義から直接示したものである。ただし、ZFC の公理をすべて満たすという結論には、名前の評価だけでなくジェネリック性を用いたジェネリックモデル定理が必要になる。たとえば置換公理や冪集合公理が拡大で成り立つことを、上の二つの短い計算だけで済ませることはできない。
$M[G]$ は単なる「名前の値の一覧」ではなく、要素をたどっても拡大の外に出ない推移的なクラスである。ここではこの性質と、最小性を直接証明する。
$y\in x\in M[G]$ なら $y\in M[G]$ である。
$x\in M[G]$ なので $x=\tau^G$ となる $M$ 内の名前 $\tau$ がある。$y\in\tau^G$ なら、評価の定義より、ある $(\sigma,p)\in\tau$ が $p\in G$ かつ $y=\sigma^G$ を満たす。$M$ が推移的で $\tau\in M$ だから $\sigma\in M$ であり、$\sigma$ も $M$ 内の名前である。従って $y=\sigma^G\in M[G]$。$\square$
最小性を述べるには、比較対象も外側の宇宙で考える。$N$ を推移的な ZFC モデルとし、$M\subseteq N$ かつ $G\in N$ とする。このとき $N$ は、$M$ 内の名前と $G$ を使って、同じ再帰を自分の中で実行できる。
$N$ が推移的な ZFC モデルで、$M\subseteq N$ および $G\in N$ を満たすなら、$M[G]\subseteq N$ である。特にジェネリックモデル定理を併用すると、$M[G]$ は $M$ と $G$ を含む最小の推移的な ZFC モデルである。
$M$ 内の名前 $\tau$ に関して帰納する。$\tau\in M\subseteq N$ であり、$G\in N$ だから、$N$ は $\tau$ の中から $p\in G$ を満たす対を選べる。それらの第一成分 $\sigma$ について帰納法の仮定から $\sigma^G\in N$ である。$N$ の置換公理と分出公理を用いると、その値を集めた集合 $\tau^G$ も $N$ に属する。任意の $\tau\in M^{\mathbb P}$ について成り立つので $M[G]\subseteq N$。$M[G]$ 自身が推移的な ZFC モデルであるという部分は、前の命題とジェネリックモデル定理による(Jec03 Chapter 14)。$\square$
最小性は「$M$ と $G$ だけを材料にしてよい」と言うだけより強い。$M$ と $G$ を含む推移的な ZFC モデルをどのような別手順で作っても、そこにはすべての名前の値が入る。従って名前の評価は、特定の記法上の便宜ではなく、拡大に欠かせない集合を一つずつ記述する方法になっている。
ジェネリック拡大は新しい集合を持てるが、もとのモデルに存在しなかった順序数を新たに作るわけではない。順序数が同じということと、基数が同じということは区別する。強制概念によっては、ある基数が拡大で可算になり、基数としての性質を失うことがある。それでも、その基数を表していた順序数自体は消えない。
$M$ と $M[G]$ の順序数は同じである。
$M\subseteq M[G]$ なので、$M$ の各順序数は $M[G]$ に属する。逆に、$\alpha\in M[G]$ を順序数とし、$\alpha=\tau^G$ となる名前 $\tau\in M$ を選ぶ。名前の階数に関する帰納法から、評価で採られる各要素の階数は対応する下位の名前の階数以下であり、$\operatorname{rank}(\tau^G)\leq\operatorname{rank}(\tau)$ となる。順序数 $\alpha$ の階数は $\alpha$ 自身なので、$\alpha\leq\operatorname{rank}(\tau)$ である。$\operatorname{rank}(\tau)$ は $M$ の順序数であり、$M$ は推移的である。従って $\alpha$ も $M$ に属する。$\square$
この証明は、名前 $\tau$ の階数が拡大で評価値の階数を上から押さえることを使う。順序数は増えないが、$M$ にない実数や順序数の新しい部分集合は現れうる。この違いが、強制法で無限集合の大きさや組合せ的性質を変えられる理由の一つである。
順序数が同じとは、$M$ の順序数がすべて拡大に残り、拡大の順序数がすべて $M$ に既にあるということである。それらの順序数の集合を、二つのモデルが同じように部分集合へ分けることまで意味しない。例えば $\omega$ 自体は変わらなくても、Cohen 強制では $\omega$ の新しい部分集合、すなわち新しい二値列が加わる。新たな部分集合が増えれば、どの集合とどの順序数の間に全単射があるかという判断も変わりうる。
この点は「階数が増えない」という主張とも違う。$M[G]$ には、基礎モデルにない集合が、もともと存在する低い階数に現れうる。Cohen 実数の階数は順序数で上から抑えられるが、その実数そのものは $M$ にない。階数という目盛りが保存されることと、各目盛りに載る集合が不変であることは別である。
$G$ が $M$ の外にあれば、$G\in M[G]$ なので $M\subsetneq M[G]$ である。反対に、$G\in M$ なら評価はすべて $M$ の内部で済み、新しい集合は現れない。この対称性を確認しておくと、ジェネリック拡大という名前だけで必ず真の拡大を得るとは限らないことが分かる。
$G\in M$ なら $M[G]=M$ である。
任意の $M$ 内の名前 $\tau$ について、$\tau^G\in M$ を階数に関する帰納法で示す。$\tau,G\in M$ なので、$M$ の分出公理により $\tau$ の中から第二成分が $G$ に属する対を選べる。帰納法で各第一成分 $\sigma$ の値 $\sigma^G$ が $M$ に属すると分かり、$M$ の置換公理でそれらの値を集められる。得られる集合が $\tau^G$ である。従って $M[G]\subseteq M$。逆向きの包含は標準名の命題から従う。$\square$
原子を持たない強制概念では、$M$ 上ジェネリックな $G$ は $M$ に属しえない。ここで「原子を持たない」とは、各条件の下に互いに両立しない二つの強化があることをいう。任意の $q\in P$ の下でそのような二条件を取ると、フィルターは二つを同時に含められないので、少なくとも一つは $P\setminus G$ にある。従って $P\setminus G$ は稠密である。もし $G\in M$ なら $P\setminus G\in M$ でもあり、ジェネリック性は $G$ がこの稠密集合と交わることを要求するが、それは不可能である。この議論は、新しさが「条件が枝分かれし続ける」ことと結び付く一方、原子を持つ自明な場合には同じ結論が出ない理由を示す。
$P=\operatorname{Fn}(\omega,2,{<}\omega)^M$ を、自然数から $2=\{0,1\}$ への有限部分関数で、$M$ に属するもの全体とする。関数を延長するほど条件が強くなる順序を入れる。$G$ が $M$ 上ジェネリックなら、$c=\bigcup G$ は $\omega$ 上の全域二値列で、$c\notin M$ である。この新しさは強制法の記事で稠密集合を使って証明している。
ここでは、拡大 $M[G]$ を $c$ から見直す。まず $G\in M[G]$ と $M[G]\models\mathrm{ZFC}$ により $c=\bigcup G\in M[G]$ である。反対に、$G$ は $c$ と $M$ の条件集合 $P$ から復元できる。
上の Cohen 強制について
$$
G=\{p\in P\mid p\subseteq c\}.
$$
従って、$M$ と $c$ を含む推移的な ZFC モデルは $G$ も含み、$M[G]$ を含む。
$p\in G$ なら、和集合の定義から $p\subseteq c$ である。逆に $p\in P$ かつ $p\subseteq c$ とする。$\operatorname{dom}p$ は有限なので、各座標 $n\in\operatorname{dom}p$ の値 $c(n)$ を与える条件を $G$ から選べる。フィルターの有向性を有限回用いると、それらをすべて強める $r\in G$ が得られる。$r$ は $p$ を延長するから $r\le p$ であり、弱い条件への閉性により $p\in G$ となる。最後の主張は、$P\in M$ と分出公理から $G$ を $c$ で定義でき、最小性の定理を適用できることによる。$\square$
この意味で、この例の拡大は「Cohen 実数 $c$ を加えた拡大」と呼べる。ただし一般の強制概念では、$G$ が一つの実数で表せるとは限らない。「新しい実数を加える」はジェネリック拡大の重要な例であって、その定義そのものではない。
名前の評価で拡大の集合を得ても、そこで任意の言明が成り立つかを名前ごとに直接調べるのは難しい。強制関係 $p\Vdash_{\mathbb P}\varphi(\vec\tau)$ は、条件 $p$ が名前 $\vec\tau$ についての式 $\varphi$ を確定することを表す。真理補題と強制定理により、拡大で真であることを $G$ 内の条件で判定できる。
$\varphi$ を集合論の式、$\vec\tau$ を $M$ 内の $\mathbb P$-名前の列とする。集合強制では、適切に再帰定義した強制関係について
$$
M[G]\models\varphi(\vec\tau^G)
\quad\Longleftrightarrow\quad
(\exists p\in G)\ p\Vdash_{\mathbb P}\varphi(\vec\tau)
$$
が成り立つ。左から右への含意を真理補題という(Jec03 Chapter 14, Forcing Theorem)。
この定理の完全な証明には、名前の所属・相等性から始め、否定と量化記号について強制関係を再帰的に定義する必要がある。ここではその証明を引用する。上で示した標準名や $G$ の名前の評価だけから、任意の式に関する真理補題が自動的に従うわけではない。強制関係の全体像と単調性は強制法の記事にある。
真理補題の実用上の意味は、拡大での真実に必ず基礎モデル側の「証人となる条件」があることだ。たとえば $M[G]$ が「ある名前の値は全域関数である」とみなすとき、その真偽は $G$ に入る条件と稠密集合を調べて支えられる。他方、条件が一つの文を強制することは、その条件を含む適切なジェネリックフィルターから作った拡大すべてで文が真になることと対応する。これにより、拡大を作る前から、どの性質を実現するかを基礎モデルで計画できる。
式の各パラメータを名前として固定している点にも注意がいる。同じ記号 $\tau$ を使っても、別の $G$ では $\tau^G$ が別の集合になることがある。したがって「$p$ が $\varphi(\tau)$ を強制する」とは、各拡大に存在する何らかの集合について漠然と真である、という主張ではない。与えた名前の値を各拡大で評価し、その値について $\varphi$ が成り立つという主張である。条件と名前を同時に追うことで、基礎モデルから拡大モデルの具体的な集合について語れるようになる。
真理補題は、$G$ 内のどの条件も事前にすべての言明を決定している、と言っているわけでもない。ある式が $M[G]$ で真なら、その式を強制する条件が $G$ の中に少なくとも一つあるという存在主張である。別の式には別の条件が必要かもしれない。ジェネリックフィルターが条件を整合的に集めるから、多くの式についての局所的な判断を一つの拡大モデルの真理としてまとめられる。この区別は、単一の有限条件から無限の対象が生まれるように見える Cohen 強制で特に大切である。
「拡大が真に大きくなる条件」の節で示した「原子を持たない強制概念ではジェネリックな $G$ は $M$ に属さない」と、thm-generic-extension-ordinals の限界を、仮定を外した例で確かめる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 強制概念が原子を持たないこと | $P=\{\mathbf 1,a\}$、$a<\mathbf 1$ | $G\notin M$、$M\subsetneq M[G]$ |
| $G$ がジェネリックであること | Cohen 強制の $G=\{\mathbf 1\}=\{\emptyset\}$ | $G\notin M$、$\bigcup G$ が全域の二値列であること |
| 「順序数が同じ」を「基数が同じ」に強める | $\operatorname{Fn}(\omega,\omega_1^M,{<}\omega)^M$ | $\omega_1^M$ が $M[G]$ でも非可算であること |
$a\in M$ を $\mathbf 1$ と異なる集合とし、$P=\{\mathbf 1,a\}$ に $a<\mathbf 1$ という順序を入れる。$a$ の下には $a$ 自身しかないので、互いに両立しない二つの強化は取れず、$a$ は原子である。稠密集合は $a$ を含まなければならない($a$ より強い条件は $a$ だけだから)ので、$M$ 上ジェネリックなフィルターは $a$ を含み、上方閉性から $G=\{a,\mathbf 1\}$ である。逆にこの $G$ はフィルターで、すべての稠密集合と交わる。$G=P\in M$ なので prop-generic-extension-internal-filter により $M[G]=M$ である。破るのは「原子を持たない」という仮定であり、その議論で使った「$P\setminus G$ が稠密」が成り立たない($P\setminus G=\emptyset$)。
Cohen 強制 $P=\operatorname{Fn}(\omega,2,{<}\omega)^M$ は原子を持たない。各条件 $p$ に対し、$\operatorname{dom}p$ の外の $n$ に $0$ と $1$ を付けた二つの延長は両立しないからである。それでも $G=\{\emptyset\}$ は(最大元 $\mathbf 1=\emptyset$ だけからなる)フィルターで、$G\in M$ である。$G$ は稠密集合 $D_0=\{p\mid 0\in\operatorname{dom}p\}\in M$ と交わらないので、ジェネリックでない。実際 $\bigcup G=\emptyset$ は全域の二値列にならず、$M$ の外の実数も与えない。破るのはジェネリック性であり、原子を持たないことだけでは $G\notin M$ は出ない。
$\kappa=\omega_1^M$($M$ が非可算とみなす最小の順序数)とし、$P=\operatorname{Fn}(\omega,\kappa,{<}\omega)^M$ を $\omega$ から $\kappa$ への有限部分関数全体に延長の順序を入れた強制概念とする。$n<\omega$ と $\alpha<\kappa$ について
$$
D_n=\{p\in P\mid n\in\operatorname{dom}p\},\qquad
E_\alpha=\{p\in P\mid \alpha\in\operatorname{ran}p\}
$$
はどちらも $M$ に属し稠密である。$p$ に対し、未使用の座標 $m\notin\operatorname{dom}p$ に値を付け加えれば、$n$ を定義域に入れることも $\alpha$ を値域に入れることもできるからである。$G$ が $M$ 上ジェネリックなら、強制法 の定理「ジェネリックな和は新しい実数」と同じ議論で $f=\bigcup G$ は $\omega$ 上の関数であり、各 $D_n$ と交わるので全域、各 $E_\alpha$ と交わるので $\kappa$ への全射である。$f\in M[G]$($G\in M[G]$ と $M[G]$ が ZFC を満たすことによる)なので、$M[G]$ では $\kappa$ は可算である。thm-generic-extension-ordinals により順序数 $\kappa$ 自体は $M[G]$ に残るが、基数としての役割(非可算であること)を失う。
まず、ジェネリック拡大は「基礎モデルのすべての部分集合を追加したもの」ではない。$M[G]$ に入るのは、$M$ 内の名前を $G$ で評価した値である。外側に存在する任意の集合が入るわけではなく、どの集合が入るかは $\mathbb P$ と $G$ に依存する。
次に、$G$ はいつでも新しい集合とは限らない。条件が一つだけの自明な強制概念では $G=\{\mathbf 1\}\in M$ であり、名前の評価で新しい集合は生じず $M[G]=M$ である。これに対し、Cohen 強制では $G$ の和が $M$ にない実数なので $G\notin M$、従って $M[G]$ は $M$ より大きい。
さらに、順序数保存は基数保存を意味しない。基数は「それより小さい順序数との間に全単射がない」というモデル内の性質である。拡大で新しい全単射が現れれば、同じ順序数の基数としての役割は変わりうる。どの基数を保つかは、可算鎖条件や閉性など、選んだ強制概念の性質を別途調べる。
最後に、可算推移モデルの仮定は教育的な構成に便利だが、その存在を無条件の前提にした独立性証明は、形式的な無矛盾性の主張と同一ではない。強制法による相対無矛盾性には、モデル構成と公理系についての証明を結ぶ段階がある。この論理的な区別も強制法の記事で扱う。
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