半局所環

同義語:semilocal ringsemi-local ring

概要

半局所環(semilocal ring)とは、極大イデアルを有限個しかもたない零環でない可換環のことであり、極大イデアルがちょうど 1 つの局所環を一般化したものである。半局所環 $A$ の極大イデアルを $\mathfrak{m}_1,\dots,\mathfrak{m}_r$ とすると、中国剰余定理により Jacobson根基による剰余環 $A/\operatorname{Jac}(A)$ は体の直積 $\prod_iA/\mathfrak{m}_i$ になり、逆にこの性質で半局所環は特徴づけられる。Artin環、有限個の局所環の直積、有限個の素イデアルの外での局所化、局所環上有限な環は半局所環であり、$\mathbb{Z}$ や $k[x]$ は半局所環でない。半局所環は Artin環とも局所環の直積とも限らない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 可換環, 極大イデアル, 局所環, Jacobson根基
半局所環は、極大イデアルを有限個しかもたない可換環である。極大イデアルがちょうど 1 つの局所環を一般化したもので、素スペクトルの閉点が有限個しかない環、幾何学的には「有限個の点の近くだけを見た環」にあたる。半局所環 $A$ の Jacobson根基 $J$ による剰余環 $A/J$ は有限個の体の直積環になる。有限個の素イデアルの外で局所化した環や、局所環上有限な環は半局所環であり、Artin環も半局所環である。一方、$\mathbb{Z}$ や体上の多項式環 $k[x]$ は極大イデアルを無限個もつので半局所環でない。本記事では、環は乗法の単位元 $1$ をもつ可換環とする(可換環 の記事の流儀)。

定義

半局所環

零環でない可換環 $A$ が 半局所環(semilocal ring, semi-local ring)であるとは、$A$ の極大イデアルが有限個しかないことをいう。

零環でない可換環は少なくとも 1 つの極大イデアルをもつ(極大イデアル の記事の定理「真イデアルを含む極大イデアルの存在」)。したがって半局所環の極大イデアルの個数 $r$ は $1\le r<\infty$ を満たし、$r=1$ の場合がちょうど局所環である(局所環 の記事の定義「局所環」)。零環は極大イデアルを 1 つももたず、本記事の定義では半局所環に含めない。これは零環を局所環に含めないことと揃えるためである。
$A$ の相異なる極大イデアルの全体を $\mathfrak{m}_1,\dots,\mathfrak{m}_r$ とすると、Jacobson根基は $\operatorname{Jac}(A)=\mathfrak{m}_1\cap\cdots\cap\mathfrak{m}_r$ であり(Jacobson根基 の記事の定義「Jacobson根基」)、元 $a\in A$ が単元であることは、$a$ がどの $\mathfrak{m}_i$ にも属さないことと同値である(極大イデアル の記事の系「単元と極大イデアル」)。

半局所環の特徴づけ

$A$ を零環でない可換環とし、$J:=\operatorname{Jac}(A)$ とする。

  1. $A$ が半局所環で、$\mathfrak{m}_1,\dots,\mathfrak{m}_r$ が相異なる極大イデアルのすべてなら、$J=\mathfrak{m}_1\cap\cdots\cap\mathfrak{m}_r=\mathfrak{m}_1\mathfrak{m}_2\cdots\mathfrak{m}_r$ であり、$a\mapsto(a+\mathfrak{m}_1,\dots,a+\mathfrak{m}_r)$ は環の同型
    $$ A/J\cong A/\mathfrak{m}_1\times\cdots\times A/\mathfrak{m}_r $$
    を引き起こす。右辺の各因子は体である。
  2. 逆に、$A/J$ が有限個の体 $K_1,\dots,K_s$ の直積環と同型なら、$A$ は半局所環であり、その極大イデアルはちょうど $s$ 個である。
    したがって、$A$ が半局所環であることと、$A/J$ が有限個の体の直積環と同型であることは同値である。
中国剰余定理と対応定理
  1. $i\neq j$ なら $\mathfrak{m}_i+\mathfrak{m}_j$ は $\mathfrak{m}_i$ を含むイデアルであり、$\mathfrak{m}_i\neq\mathfrak{m}_j$ なので $\mathfrak{m}_j\not\subset\mathfrak{m}_i$(包含があれば極大性から等号になる)、したがって $\mathfrak{m}_i$ を真に含む。$\mathfrak{m}_i$ は極大なので $\mathfrak{m}_i+\mathfrak{m}_j=A$ であり、$\mathfrak{m}_1,\dots,\mathfrak{m}_r$ は対ごとに互いに素である。互いに素 の記事の定理「剰余環の直積への分解」の 3 により、$\mathfrak{m}_1\cap\cdots\cap\mathfrak{m}_r=\mathfrak{m}_1\cdots\mathfrak{m}_r$ であり、$a\mapsto(a+\mathfrak{m}_i)_i$ は同型 $A/(\mathfrak{m}_1\cap\cdots\cap\mathfrak{m}_r)\cong\prod_iA/\mathfrak{m}_i$ を引き起こす。$J=\mathfrak{m}_1\cap\cdots\cap\mathfrak{m}_r$ であり、各 $A/\mathfrak{m}_i$ は体である(極大イデアル の記事の命題「剰余環が体であることとの同値」)。
  2. $A$ のすべての極大イデアルは $J$ を含む。剰余環 の記事の定理「イデアルの対応定理」により、$J$ を含む $A$ のイデアル $I$ と $A/J$ のイデアル $I/J$ は包含を保って一対一に対応するので、$A$ の極大イデアルと $A/J$ の極大イデアルは $\mathfrak{m}\mapsto\mathfrak{m}/J$ で一対一に対応する。一方、体 $K_1,\dots,K_s$ の直積環 $K_1\times\cdots\times K_s$ の極大イデアルは、直積環 の記事の命題「有限個の環の直積の素イデアル」により、第 $i$ 成分が $0$ である元の全体($i=1,\dots,s$)のちょうど $s$ 個である(体の極大イデアルは $\{0\}$ だけである)。環の同型は極大イデアルを極大イデアルに対応させるので、$A$ の極大イデアルはちょうど $s$ 個であり、有限個である。$A$ は零環でないので半局所環である。

1 で $r=1$ とすれば、局所環 $(A,\mathfrak{m})$ について $J=\mathfrak{m}$、$A/J$ が体となり、Jacobson根基 の記事の例「体と局所環」と一致する。1 は同記事の命題「剰余環と直積の Jacobson根基」の後の段落で述べられている事実でもある。

直感

極大イデアルは素スペクトル $\operatorname{Spec}A$ の閉点にあたる(Zariski位相 の記事の命題「点の閉包と閉点」)。$\mathbb{Z}$ や $k[x]$ の閉点は無限個あり、$\operatorname{Spec}$ は「無限個の点をもつ曲線」のような空間である。局所環は閉点がただ 1 つの環で、ある 1 点の近くだけを見た環であった。たとえば $\mathbb{Z}_{(p)}$ は素数 $p$ 以外の素数をすべて分母に許すことで、$p$ 以外の閉点を消した環である。
半局所環は閉点が有限個の環であり、有限個の点の近くを同時に見た環である。$\mathbb{Z}$ で $2$ と $3$ 以外の素数をすべて分母に許した環(ex-semilocal-ring-z-s)では、閉点は $2$ と $3$ に対応する 2 つだけが残る。対応する極大イデアル $2\mathbb{Z}_S$ と $3\mathbb{Z}_S$ が互いに素なので、$A/J$ の段階では体 $\mathbb{F}_2\times\mathbb{F}_3$ に分かれる(prop-semilocal-ring-characterization)が、環そのものは整域のままで、2 つの局所環の直積には分かれない。

例と反例

局所環・Artin環・有限環

局所環は極大イデアルがちょうど 1 つの半局所環である。零環でない Artin環は極大イデアルを有限個しかもたない(Artin環 の記事の命題「極大イデアルは有限個」)ので、半局所環である。とくに、零環でない有限な可換環や、体 $k$ 上有限次元の零環でない可換 $k$ 代数は半局所環である(Artin環 の記事の例「体と有限環」「体上有限次元の代数」)。
具体的に、$n\ge2$ について $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の極大イデアルは、$n$ を割り切る素数 $p$ に対する $p\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ である。実際、剰余環 の記事の定理「イデアルの対応定理」により $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の極大イデアルは $n\mathbb{Z}$ を含む $\mathbb{Z}$ の極大イデアル $p\mathbb{Z}$、すなわち $p\mid n$ となる素数 $p$ に対応する。たとえば $\mathbb{Z}/12\mathbb{Z}$ の極大イデアルは $(\bar2)$ と $(\bar3)$ の 2 つであり、$\operatorname{Jac}(\mathbb{Z}/12\mathbb{Z})=(\bar2)\cap(\bar3)=(\bar6)$、$(\mathbb{Z}/12\mathbb{Z})/(\bar6)\cong\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}\cong\mathbb{F}_2\times\mathbb{F}_3$ である。

半局所環の有限個の直積

$A_1,\dots,A_n$($n\ge1$)を半局所環とし、$A_i$ の極大イデアルの個数を $r_i$ とする。直積環 $A_1\times\cdots\times A_n$ の極大イデアルは、直積環 の記事の命題「有限個の環の直積の素イデアル」により、ある $i$ と $A_i$ の極大イデアル $\mathfrak{m}$ についての $A_1\times\cdots\times\mathfrak{m}\times\cdots\times A_n$ の形のものに限り、$i$ と $\mathfrak{m}$ はただ 1 通りに定まる。よって極大イデアルはちょうど $r_1+\cdots+r_n$ 個であり、直積環は半局所環である。たとえば $\mathbb{Z}_{(2)}\times\mathbb{Z}_{(3)}$ は極大イデアルを 2 つもつ半局所環である。

反例:局所環の直積にならない半局所環

$S:=\mathbb{Z}\setminus(2\mathbb{Z}\cup3\mathbb{Z})$、すなわち $6$ と互いに素な整数の全体とし、局所化
$$ \mathbb{Z}_S=\Bigl\{\frac{a}{b}\in\mathbb{Q}\ \Big|\ a,b\in\mathbb{Z},\ \gcd(b,6)=1\Bigr\} $$
を考える。後の prop-semilocal-ring-localization により、$\mathbb{Z}_S$ の極大イデアルはちょうど $2\mathbb{Z}_S$ と $3\mathbb{Z}_S$ の 2 つであり、$\mathbb{Z}_S$ は半局所環である。$\mathbb{Z}_S$ は $\mathbb{Q}$ の部分環なので整域であり、冪等元は $0$ と $1$ だけである。したがって $\mathbb{Z}_S$ は零環でない 2 つの環の直積と同型でない(冪等元 の記事の定理「冪等元と直積分解の対応」)。極大イデアルが 2 つあるので局所環でもない。
Artin環は局所 Artin環の有限個の直積に同型であった(Artin環 の記事の定理「Artin環の構造定理」)。この例は、Artin性を外すと含意「半局所環は局所環の有限個の直積に同型である」が破れることを示す。満たす性質は「半局所環」、満たさない性質は「局所環の直積に分解する」「Artin環」である。一方 $\mathbb{Z}_S/\operatorname{Jac}(\mathbb{Z}_S)\cong\mathbb{F}_2\times\mathbb{F}_3$ は prop-semilocal-ring-characterization のとおり体の直積に分かれる。

反例:整数環と 1 変数多項式環

$\mathbb{Z}$ の極大イデアルは素数 $p$ に対する $p\mathbb{Z}$ であり、素数は無限にあるので、$\mathbb{Z}$ は半局所環でない(局所環 の記事の例「反例:整数環」)。体 $k$ 上の多項式環 $k[x]$ の極大イデアルは、モニックな既約多項式 $p$ に対する $(p)$ である(既約多項式 の記事の命題「体上の多項式環における既約性の言い換え」)。モニックな既約多項式は無限個ある。実際、有限個 $p_1,\dots,p_m$ しかないとすると、次数 $1$ 以上の $p_1p_2\cdots p_m+1$ の既約因子はどの $p_i$ とも異なる($p_i$ で割ると余りが $1$ になる)ので矛盾する。よって $k[x]$ は半局所環でない。$\mathbb{Z}$ と $k[x]$ は単項イデアル整域であり Noether環であるので、この例は含意「単項イデアル整域は半局所環である」「Noether環は半局所環である」を破る。

反例:半局所環だが Artin環でない環

$\mathbb{Z}_{(p)}$ は局所環なので半局所環であるが、Artin環でない(Artin環 の記事の例「反例:整数環のような 1 次元の環」)。体上の形式的冪級数環 $k[\![x]\!]$ も局所環なので半局所環であるが、$(x)\supsetneq(x^2)\supsetneq\cdots$ という減少列をもつので Artin環でない。ex-semilocal-ring-z-s の $\mathbb{Z}_S$ も、$(2)\supsetneq(4)\supsetneq(8)\supsetneq\cdots$ という減少列をもつ($2$ は $\mathbb{Z}_S$ の単元でなく $\mathbb{Z}_S$ は整域なので、$2^{n+1}\mathbb{Z}_S\neq2^n\mathbb{Z}_S$ である)ので Artin環でない。これらは含意「半局所環は Artin環である」を破る。満たす性質は「半局所環」「Noether環」、満たさない性質は「降鎖条件」である。逆の含意「零環でない Artin環は半局所環である」は成り立つ(ex-semilocal-ring-local-artin)。

反例:部分環と無限個の直積

有理数体 $\mathbb{Q}$ は極大イデアルが $\{0\}$ だけの局所環であるが、その部分環 $\mathbb{Z}$ は半局所環でない(ex-semilocal-ring-integers)。この例は含意「半局所環の部分環は半局所環である」を破る。
また、体 $k$ の可算無限個の直積 $\prod_{n\in\mathbb{N}}k$ は、各 $n$ について第 $n$ 成分が $0$ の元の全体という極大イデアルをもつ(第 $n$ 成分への射影は体 $k$ への全射で、その核である)。これらは相異なるので、極大イデアルは無限個あり、半局所環でない。各因子 $k$ は半局所環なので、この例は含意「半局所環の直積は半局所環である」を、因子が無限個ある場合に破る。因子が有限個なら成り立つ(ex-semilocal-ring-product)。

性質

剰余環

半局所環の剰余環

$A$ を半局所環、$I\neq A$ をイデアルとする。$A/I$ は半局所環であり、その極大イデアルは、$I$ を含む $A$ の極大イデアル $\mathfrak{m}$ に対する $\mathfrak{m}/I$ である。とくに $A/I$ の極大イデアルの個数は $A$ の極大イデアルの個数以下である。

対応定理による

$I\neq A$ なので $A/I$ は零環でない。剰余環 の記事の定理「イデアルの対応定理」により、$A/I$ のイデアルは $I$ を含む $A$ のイデアル $K$ に対する $K/I$ と包含を保って一対一に対応し、$A/I$ 自身は $A$ に対応する。包含を保つ全単射は極大な真のイデアルどうしを対応させるので、$A/I$ の極大イデアルは $I$ を含む $A$ の極大イデアル $\mathfrak{m}$ に対する $\mathfrak{m}/I$ であり、その個数は $A$ の極大イデアルの個数以下で、有限である。

素イデアル回避と局所化

素イデアル回避の補題

$A$ を可換環、$\mathfrak{p}_1,\dots,\mathfrak{p}_r$($r\ge1$)を素イデアル、$I$ をイデアルとする。$I\subset\mathfrak{p}_1\cup\cdots\cup\mathfrak{p}_r$ なら、ある $i$ について $I\subset\mathfrak{p}_i$ である。

1 つずつ外れる元の組み合わせ

$r$ についての帰納法で示す。$r=1$ なら明らかである。$r\ge2$ とし、$r-1$ 個の素イデアルについては主張が正しいとする。結論を否定して、すべての $i$ で $I\not\subset\mathfrak{p}_i$ と仮定する。各 $i$ について、$\mathfrak{p}_i$ を除いた $r-1$ 個の素イデアルに帰納法の仮定を使うと、$I\not\subset\bigcup_{j\neq i}\mathfrak{p}_j$ である。そこで $x_i\in I$ で、$j\neq i$ となるどの $\mathfrak{p}_j$ にも属さないものをとる。$I\subset\bigcup_j\mathfrak{p}_j$ なので $x_i\in\mathfrak{p}_i$ である。
$$ y:=x_1+x_2x_3\cdots x_r $$
とおくと $y\in I$ である。$j\ge2$ なら $x_j\notin\mathfrak{p}_1$ であり、$\mathfrak{p}_1$ は素イデアルなので $x_2\cdots x_r\notin\mathfrak{p}_1$ である。$x_1\in\mathfrak{p}_1$ なので $y\notin\mathfrak{p}_1$ である。$j\ge2$ なら $x_j\in\mathfrak{p}_j$ から $x_2\cdots x_r\in\mathfrak{p}_j$ であり、$x_1\notin\mathfrak{p}_j$ なので $y\notin\mathfrak{p}_j$ である。よって $y\notin\mathfrak{p}_1\cup\cdots\cup\mathfrak{p}_r$ となり、$I\subset\bigcup_j\mathfrak{p}_j$ に反する。

有限個の素イデアルの外での局所化

$A$ を可換環、$\mathfrak{p}_1,\dots,\mathfrak{p}_r$($r\ge1$)を素イデアルとし、$S:=A\setminus(\mathfrak{p}_1\cup\cdots\cup\mathfrak{p}_r)$ とする。$S$ は積閉集合であり、局所化 $S^{-1}A$ は半局所環である。$S^{-1}A$ の極大イデアルは、$\{\mathfrak{p}_1,\dots,\mathfrak{p}_r\}$ の中で包含について極大な $\mathfrak{p}_i$ に対する $S^{-1}\mathfrak{p}_i$ のちょうど全体である。とくに、$\mathfrak{p}_i$ たちの間に包含関係がなければ、$S^{-1}A$ の極大イデアルはちょうど $r$ 個である。

素イデアルの対応と回避の補題

$1$ はどの $\mathfrak{p}_i$ にも属さないので $1\in S$ である。$s,t\in S$ なら、各 $\mathfrak{p}_i$ は素イデアルなので $st\notin\mathfrak{p}_i$ であり、$st\in S$ である。$0$ はすべての $\mathfrak{p}_i$ に属するので $0\notin S$ であり、$S^{-1}A$ は零環でない($1/1=0$ なら $u\cdot1=0$ となる $u\in S$ があるが、$0\notin S$ である)。
局所化 の記事の定理「素イデアルの対応」により、$\mathfrak{q}\mapsto S^{-1}\mathfrak{q}$ は、$S$ と交わらない $A$ の素イデアル全体から $S^{-1}A$ の素イデアル全体への、包含を保つ全単射で、逆写像も包含を保つ。素イデアル $\mathfrak{q}$ が $S$ と交わらないことは $\mathfrak{q}\subset\mathfrak{p}_1\cup\cdots\cup\mathfrak{p}_r$ と同値であり、lem-semilocal-ring-prime-avoidance によりこれは「ある $i$ で $\mathfrak{q}\subset\mathfrak{p}_i$」と同値である。
$S^{-1}A$ の極大イデアルは、素イデアルの中で包含について極大なものにほかならない。実際、極大イデアルは素イデアルであり、極大イデアルより真に大きい真のイデアルはない。逆に、素イデアルの中で極大な $\mathfrak{P}$ は、それを含む極大イデアル(極大イデアル の記事の定理「真イデアルを含む極大イデアルの存在」)が素イデアルなので、それに等しい。
したがって $S^{-1}A$ の極大イデアルは、集合 $\Sigma:=\{\mathfrak{q}\in\operatorname{Spec}A\mid\text{ある }i\text{ で }\mathfrak{q}\subset\mathfrak{p}_i\}$ の包含についての極大元 $\mathfrak{q}$ に対する $S^{-1}\mathfrak{q}$ である。各 $\mathfrak{p}_i$ は $\Sigma$ に属し、$\Sigma$ の元はどれかの $\mathfrak{p}_i$ に含まれるので、$\Sigma$ の極大元は $\mathfrak{p}_1,\dots,\mathfrak{p}_r$ のうちで包含について極大なものにちょうど一致する。その個数は $1$ 以上 $r$ 以下なので、$S^{-1}A$ は半局所環である。

$r=1$ の場合は、素イデアル $\mathfrak{p}$ での局所化 $A_{\mathfrak{p}}$ が局所環であるという事実(局所化 の記事の系「素イデアルにおける局所化の局所性」)である。ex-semilocal-ring-z-s は $A=\mathbb{Z}$、$\mathfrak{p}_1=2\mathbb{Z}$、$\mathfrak{p}_2=3\mathbb{Z}$ の場合で、極大イデアルは $2\mathbb{Z}_S$ と $3\mathbb{Z}_S$ である。

局所環上有限な環

局所環上有限な環は半局所環

$(A,\mathfrak{m})$ を局所環、$B$ を $A$ を部分環として含む可換環とし、$B$ は $A$ 加群として有限生成加群であるとする。このとき $B$ は半局所環であり、$B$ の極大イデアルは、剰余環 $B/\mathfrak{m}B$ の極大イデアルと $\mathfrak{n}\mapsto\mathfrak{n}/\mathfrak{m}B$ で一対一に対応する。

整拡大での極大イデアルの縮約

$B$ は $A$ 上有限生成な加群なので $A$ 上整拡大であり、整拡大 $A\subset B$ では、$B$ の素イデアル $\mathfrak{n}$ が極大であることと $\mathfrak{n}\cap A$ が $A$ の極大イデアルであることは同値である(AM69 Chapter 5)。$A$ の極大イデアルは $\mathfrak{m}$ だけなので、$B$ の極大イデアル $\mathfrak{n}$ はすべて $\mathfrak{n}\cap A=\mathfrak{m}$ を満たし、したがって $\mathfrak{m}B\subset\mathfrak{n}$ である。$B\neq0$($1\neq0$ が $A\subset B$ で成り立つ)なので $B$ は極大イデアルをもち、$\mathfrak{m}B\neq B$ である。
剰余環 の記事の定理「イデアルの対応定理」により、$\mathfrak{m}B$ を含む $B$ の極大イデアルと $B/\mathfrak{m}B$ の極大イデアルは $\mathfrak{n}\mapsto\mathfrak{n}/\mathfrak{m}B$ で一対一に対応し、上で見たように $B$ のすべての極大イデアルは $\mathfrak{m}B$ を含む。$B/\mathfrak{m}B$ は体 $k:=A/\mathfrak{m}$ 上の加群とみなせ($\mathfrak{m}$ は $B/\mathfrak{m}B$ に $0$ として作用する)、$B$ の $A$ 上の生成元の像が $k$ 上これを生成するので、$B/\mathfrak{m}B$ は $k$ 上有限次元の零環でない可換 $k$ 代数である。これは Artin環であり(Artin環 の記事の例「体上有限次元の代数」)、極大イデアルは有限個である(同記事の命題「極大イデアルは有限個」)。よって $B$ の極大イデアルも有限個であり、$B$ は半局所環である。

Gauss整数を含む環の局所化

素数 $p$ について $A=\mathbb{Z}_{(p)}$ とし、$B=\mathbb{Z}_{(p)}[i]=\{a+bi\mid a,b\in\mathbb{Z}_{(p)}\}\subset\mathbb{C}$ とする($i^2=-1$)。$B$ は $A$ 加群として $1,i$ で生成されるので、thm-semilocal-ring-finite-over-local により半局所環であり、極大イデアルは $B/pB\cong\mathbb{F}_p[x]/(x^2+1)$ の極大イデアルと対応する。

  • $p=5$:$x^2+1=(x-2)(x+2)$($2^2=4\equiv-1$)であり、$\mathbb{F}_5[x]/(x^2+1)\cong\mathbb{F}_5\times\mathbb{F}_5$ は極大イデアルを 2 つもつ(互いに素 の記事の定理「剰余環の直積への分解」)。したがって $B$ は極大イデアルをちょうど 2 つもち、それは $5$ と $i-2$、$5$ と $i+2$ でそれぞれ生成される。$5=(2+i)(2-i)$ なので、これらは $(2-i)B$ と $(2+i)B$ である。
  • $p=3$:$x^2+1$ は $\mathbb{F}_3$ に根をもたない 2 次式なので既約であり、$\mathbb{F}_3[x]/(x^2+1)$ は位数 $9$ の体である。したがって $B$ は極大イデアルを 1 つだけもつ局所環である。
  • $p=2$:$x^2+1=(x+1)^2$ なので $\mathbb{F}_2[x]/(x^2+1)$ は極大イデアルを 1 つだけもつ(被約でない)局所環であり、$B$ も局所環である。
    この例は、局所環上有限な環の極大イデアルの個数が、Gauss整数環における素数 $p$ の分解の仕方を反映することを示している。

Artin環との関係

Artin環の半局所環による特徴づけ

$A$ を零環でない可換環とする。$A$ が Artin環であることと、$A$ が Noether環であり、半局所環であり、$\operatorname{Jac}(A)$ が冪零イデアルである(ある $k\ge1$ で $\operatorname{Jac}(A)^k=0$)ことは同値である。

極大イデアルの積が 0 になること

Artin環が Noether環であることは Artin環 の記事の定理「Noether性と次元による特徴づけ」、極大イデアルが有限個であることは同記事の命題「極大イデアルは有限個」、Jacobson根基が冪零であることは同記事の命題「Jacobson根基は冪零」による。
逆に、$A$ が Noether環かつ半局所環で、$\operatorname{Jac}(A)^k=0$ とする。極大イデアルを $\mathfrak{m}_1,\dots,\mathfrak{m}_r$ とすると、prop-semilocal-ring-characterization の 1 により $\mathfrak{m}_1\cdots\mathfrak{m}_r=\operatorname{Jac}(A)$ なので、
$$ (\mathfrak{m}_1\cdots\mathfrak{m}_r)^k=\operatorname{Jac}(A)^k=0 $$
である。すなわち零イデアルは(重複を許した)有限個の極大イデアルの積である。このような環では、Noether環であることと Artin環であることは同値である(AM69 Chapter 6。零イデアルに至る列 $A\supset\mathfrak{m}_1\supset\mathfrak{m}_1\mathfrak{m}_2\supset\cdots\supset0$ の隣り合う商は剰余体上のベクトル空間で、Noether性から有限次元になり、したがって降鎖条件も満たす)。よって $A$ は Artin環である。

3 つの条件はどれも外せない。$\mathbb{Z}_{(p)}$ は Noether環で半局所環だが、$\operatorname{Jac}=p\mathbb{Z}_{(p)}$ は $p^k\neq0$ なので冪零でなく、Artin環でない(ex-semilocal-ring-not-artinian)。$\mathbb{Z}$ は Noether環で $\operatorname{Jac}(\mathbb{Z})=0$ は冪零だが、半局所環でなく Artin環でない。体 $k$ 上 $A=k[x_1,x_2,\dots]/(x_ix_j\mid i,j\ge1)$ は極大イデアル $\mathfrak{m}=(\bar x_1,\bar x_2,\dots)$ だけをもつ局所環($\mathfrak{m}$ の元は $\mathfrak{m}^2=0$ により冪零で、$\mathfrak{m}$ の外の元は $0$ でない定数と冪零元の和なので単元)で $\operatorname{Jac}(A)^2=\mathfrak{m}^2=0$ だが、増大列 $(\bar x_1)\subsetneq(\bar x_1,\bar x_2)\subsetneq\cdots$ をもつので Noether環でなく、Artin環でない。

補足

非可換環の半局所環と文献

可換とは限らない環 $R$ については、Jacobson根基 $J(R)$(極大左イデアル全体の共通部分)による剰余環 $R/J(R)$ が左 Artin環であること($J(R/J(R))=0$ なので、これは $R/J(R)$ が半単純環であることと同値である)を、$R$ が半局所環であることの定義とする(Lam01 Chapter 7)。$R$ が可換なら、可換な半単純環は有限個の体の直積であるので(同書)、prop-semilocal-ring-characterization によりこの定義は本記事の定義と一致する。
素イデアル回避の補題は AM69 Chapter 1 に、局所化と素イデアルの対応は同 Chapter 3 に、整拡大での極大イデアルの縮約は同 Chapter 5 に、零イデアルが極大イデアルの積である環での Noether性と Artin性の一致は同 Chapter 6 にある。

関連項目

参考文献

[1]
Michael F. Atiyah and Ian G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, Addison-Wesley, 1969, Chapter 1(素イデアル回避)、Chapter 3(局所化)、Chapter 5(整拡大)、Chapter 6(極大イデアルの積と Artin性)

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