三角形(triangle)とは、平面の上で一直線上にない 3 点 $A$、$B$、$C$ と、それらを結ぶ 3 本の線分を合わせた図形である。座標では、$\overrightarrow{AB}=(p,q)$、$\overrightarrow{AC}=(r,s)$ について $ps-qr\ne0$ のときに三角形ができ、その面積は $\frac12\lvert ps-qr\rvert$ である。どの頂点も通らない直線が 1 辺と交わるなら残りの 2 辺のちょうど一方と交わり(Pasch の定理)、どの三角形にも鋭角が少なくとも 2 つあるので、三角形は鋭角三角形・直角三角形・鈍角三角形のちょうど 1 つに分類される。
前提知識: 直線の方程式と点と直線の距離, 平行線公準(高校数学), 余弦定理(高校数学)
平面に 3 つの点をとり、線分で結ぶと、ふつうは三角形ができる。しかし 3 点が 1 本の直線の上に並んでいると、線分は重なってしまい、三角形にならない。どちらになるかは、座標で計算すれば分かる。
この記事で答える問いは次の 4 つである。
| 中学・高校の言葉 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 3 点を結んだ図形 | 一直線上にない 3 点と 3 本の線分(def-trh-triangle) | 2 次元の単体 |
| 3 点が一直線上にある | 成分の式 $D=0$(prop-trh-collinear) | ベクトルの 1 次従属 |
| 直線が三角形を横切る | Pasch の定理(thm-trh-pasch) | Hilbert の公理系の Pasch の公理 |
| 鋭角・直角・鈍角三角形 | 最大の角による分類(def-trh-kinds) | 余弦の符号、内積の符号 |
(P1) 座標平面:点は実数の組 $(x,y)$ で、2 点 $(x_1,y_1)$、$(x_2,y_2)$ の距離は $\sqrt{(x_1-x_2)^2+(y_1-y_2)^2}$ である。直線は、$(a,b)\ne(0,0)$ のときの方程式 $ax+by+c=0$ を満たす点の全体である(直線の方程式と点と直線の距離 の定義「直線の一般形」)。
(P2) 2 点 $P$、$Q$ を結ぶ線分 $PQ$ は、点 $(1-t)P+tQ$($0\le t\le1$)の全体である。$0< t<1$ の点を、$P$ と $Q$ の 間にある 点という。
(P3) 相異なる 3 点 $O$、$X$、$Y$ について、角 $\angle XOY$ は、$\cos\angle XOY=\dfrac{\overrightarrow{OX}\cdot\overrightarrow{OY}}{\lvert\overrightarrow{OX}\rvert\,\lvert\overrightarrow{OY}\rvert}$ を満たす $0^\circ$ 以上 $180^\circ$ 以下の角である。
(P4) 角についての中立幾何の事実(平行線公準(高校数学) の注意「中立幾何で使う事実」)。座標平面はこれを満たす。
平面の 3 点 $A$、$B$、$C$ が 1 本の直線の上にないとき、3 本の線分 $AB$、$BC$、$CA$ を合わせた図形を 三角形 $ABC$ といい、$\triangle ABC$ と書く。
3 点が一直線上にないので、3 点は相異なり、どの内角も $0^\circ$ と $180^\circ$ の間にある($0^\circ$ や $180^\circ$ になるのは、3 点が一直線上にあるときだけである)。3 本の辺で囲まれた部分を三角形の 内部 といい、三角形を内部も含めた図形として扱うこともある。内部を係数の条件で表すことは 点の存在範囲と凸結合 で扱う。
3 点 $A$、$B$、$C$ について、$\overrightarrow{AB}=(p,q)$、$\overrightarrow{AC}=(r,s)$ とおき、$D:=ps-qr$ とする。このとき
$$
A,\ B,\ C\ \text{が 1 本の直線の上にある}\iff D=0
$$
である。したがって、三角形 $ABC$ ができるのは $D\ne0$ のときで、そのとき面積は $\dfrac12\lvert D\rvert$ である。
方針:$A\ne B$ なら直線 $AB$ の方程式を書き、$C$ を代入した値が $-D$ になることを見る。
段 1($A=B$ の場合)。$p=q=0$ なので $D=0$ である。一方、$A=B$ と $C$ を通る直線($A=C$ ならどの直線でもよい)が 3 点を含むので、3 点は一直線上にある。両辺とも成り立つ。
段 2($A\ne B$ の場合の直線 $AB$)。$A=(x_1,y_1)$ とする。直線
$$
\ell\colon\ q(x-x_1)-p(y-y_1)=0
$$
は、$(q,-p)\ne(0,0)$ なので直線であり、$A$ を通り、$B=(x_1+p,\ y_1+q)$ も通る($qp-pq=0$)。2 点を通る直線はただ 1 本なので、$\ell$ が直線 $AB$ である。
段 3($C$ を代入する)。$C=(x_1+r,\ y_1+s)$ を $\ell$ の左辺に入れると $qr-ps=-D$ である。$A\ne B$ のとき、3 点を含む直線は直線 $AB$ しかないので、3 点が一直線上にあることは $C$ が $\ell$ の上にあること、つまり $D=0$ と同値である。
段 4(面積)。$D\ne0$ のとき、三角形 $ABC$ を $A$ が原点にくるように平行移動すると、$B$、$C$ は $(p,q)$、$(r,s)$ に移り、面積は $\dfrac12\lvert ps-rq\rvert=\dfrac12\lvert D\rvert$ である(三角形の面積の公式 の命題「座標による面積の公式」)。$\square$
3 辺がすべて等しい三角形を 正三角形、2 辺が等しい三角形を 二等辺三角形 という。日本の中学校では、正三角形も二等辺三角形の特別な場合に数える。Euclid『原論』第 I 巻の定義 20 は、二等辺三角形を「2 辺だけが等しいもの」とし、3 辺がすべて違う 不等辺三角形 と並べて分類している(Hea56 p. 154)。言葉の決め方が違うだけで、どちらの流儀でも数学の中身は変わらない。二等辺三角形の性質は 二等辺三角形の底角定理 で扱う。
三角形を 1 本の直線で切ると、直線は三角形の中に入り、別の辺から出ていく。このことを正確に述べたのが次の定理である。
三角形 $ABC$ と、どの頂点も通らない直線 $\ell$ がある。$\ell$ が辺 $AB$ と交わるならば、$\ell$ は辺 $BC$ と辺 $CA$ のうちちょうど一方と交わる。
したがって、どの頂点も通らない直線が三角形の辺と交わるとき、交わる辺はちょうど 2 本である。
方針:$\ell$ の方程式の左辺を $f$ とし、3 つの頂点での $f$ の値の符号を比べる。線分が $\ell$ と交わるかどうかは、両端での $f$ の符号で決まる。
段 1(使う事実)。$\ell\colon ax+by+c=0$ とし、$f(x,y)=ax+by+c$ とおく。$\ell$ の上にない 2 点 $P$、$Q$ について、線分 $PQ$ が $\ell$ と交わることは、$f(P)$ と $f(Q)$ が異符号であることと同値である(直線の方程式と点と直線の距離 の命題「直線の両側と 1 次式の符号」の 2)。理由をくり返すと、線分の点 $(1-t)P+tQ$ での値は $(1-t)f(P)+tf(Q)$ で、$t$ の 1 次関数だから、$t=0$ と $t=1$ での値が異符号のときに限って、途中で $0$ になる。
段 2(3 つの符号)。$\ell$ はどの頂点も通らないので、$f(A)$、$f(B)$、$f(C)$ はどれも $0$ でない。$\ell$ が辺 $AB$ と交わるので、段 1 により $f(A)$ と $f(B)$ は異符号である。
段 3($f(C)$ の符号)。$f(C)$ は正か負なので、$f(A)$ と $f(B)$ のちょうど一方と同符号で、他方と異符号である。
三角形 A(0,0)、B(4,0)、C(1,3) を、直線 y = 1(左)と直線 x + y = 2(右)で切る。どちらの直線も、ちょうど 2 本の辺と交わる
ex-trh-start の三角形 $A(0,0)$、$B(4,0)$、$C(1,3)$ で確かめる(図 1)。
(1) $\ell\colon y=1$、$f=y-1$ とすると、$f(A)=-1$、$f(B)=-1$、$f(C)=2$ である。$f(A)$ と $f(B)$ は同符号なので辺 $AB$ とは交わらず、$f(C)$ はどちらとも異符号なので辺 $BC$ と辺 $CA$ の両方と交わる。交点は、辺 $CA$ の点 $(t,3t)$ で $t=\dfrac13$ の $\left(\dfrac13,1\right)$、辺 $BC$ の点 $(4-3t,\ 3t)$ で $t=\dfrac13$ の $(3,1)$ である。
(2) $\ell\colon x+y=2$、$f=x+y-2$ とすると、$f(A)=-2$、$f(B)=2$、$f(C)=2$ である。辺 $AB$ とは $(2,0)$ で、辺 $CA$ とは $\left(\dfrac12,\dfrac32\right)$ で交わり、$f(B)$ と $f(C)$ が同符号なので辺 $BC$ とは交わらない。
この記事では座標平面から出発したので、thm-trh-pasch は 1 次式の計算で証明できる定理になった。座標を使わずに平面幾何を公理から組み立てる Hilbertの公理系 では、この主張(の「どちらか一方と交わる」の部分)は証明せずに認める公理として置かれ、Pasch の公理とよばれる。直線が平面を 2 つの側に分けることは、その公理系ではこの公理から導かれる。
ex-trh-start-kinds では、$90^\circ$ 以上の角はどの三角形でも多くて 1 つだった。
どの三角形にも、$90^\circ$ より小さい内角(鋭角)が少なくとも 2 つある。したがって、$90^\circ$ 以上の内角は多くて 1 つである。
方針:「三角形のどの 2 つの内角の和も $180^\circ$ より小さい」ことを使う。これは平行線公準を使わずに示せる(平行線公準(高校数学) の系「三角形の 2 つの角の和」)。
段 1(背理法の仮定)。三角形 $ABC$ に $90^\circ$ 以上の内角が 2 つあったとする。名前を付け替えて $A\ge90^\circ$、$B\ge90^\circ$ としてよい。
段 2(矛盾)。$A+B\ge90^\circ+90^\circ=180^\circ$ となり、2 つの内角の和が $180^\circ$ より小さいことに反する。
段 3(結論)。よって $90^\circ$ 以上の内角は多くて 1 つで、残りの少なくとも 2 つは $90^\circ$ より小さい。$\square$
内角の和が $180^\circ$ であること(三角形の内角の和)を使えば、段 2 はすぐ分かる。上の証明は、それより弱い「2 つの角の和は $180^\circ$ より小さい」だけを使っているので、平行線公準を使わない。
thm-trh-acute により、次の分類では、どの三角形もちょうど 1 つの種類に入る。
3 つの内角がすべて $90^\circ$ より小さい三角形を 鋭角三角形、内角の 1 つが $90^\circ$ の三角形を 直角三角形、内角の 1 つが $90^\circ$ より大きい三角形を 鈍角三角形 という。直角三角形の直角の向かいの辺を 斜辺 という。
どの種類かは、最も大きい角で決まる。最も大きい角は最も長い辺の向かいにある(三角形の辺と角の大小 の系「最も長い辺と最も大きい角」)。そこで、最も長い辺を $a$ とすると、$b^2+c^2$ と $a^2$ の大小で種類が分かる。$b^2+c^2>a^2$ なら鋭角三角形、$b^2+c^2=a^2$ なら直角三角形、$b^2+c^2< a^2$ なら鈍角三角形である(余弦定理(高校数学) の系「鋭角・直角・鈍角の判定」)。
| 3 辺 | 最も長い辺 $a$ | $b^2+c^2$ | $a^2$ | 種類 |
|---|---|---|---|---|
| $4,5,6$ | $6$ | $16+25=41$ | $36$ | 鋭角三角形 |
| $5,12,13$ | $13$ | $25+144=169$ | $169$ | 直角三角形 |
| $3,5,7$ | $7$ | $9+25=34$ | $49$ | 鈍角三角形 |
$3,5,7$ の三角形では、最も大きい角の余弦は $\dfrac{34-49}{2\cdot3\cdot5}=-\dfrac12$ で、角は $120^\circ$ である。$4,5,6$ の三角形では最も大きい角の余弦が $\dfrac{41-36}{2\cdot4\cdot5}=\dfrac18$ で、約 $82.82^\circ$ である。最も長い辺でない辺で比べると、たとえば $3,5,7$ で $a=5$ とすると $9+49=58>25$ となり、鈍角三角形を鋭角と見誤る。
三角形については、高校までに多くの定理を学ぶ。それぞれの定理を主題にした記事は次のとおりである。
| 何についての定理か | 主な定理 | 記事 |
|---|---|---|
| 角の和 | 内角の和は $180^\circ$、外角の定理 | 三角形の内角の和 |
| 形が決まる条件 | 合同条件(3 辺、2 辺とその間の角、1 辺とその両端の角) | 三角形の合同条件 |
| 形が同じになる条件 | 相似条件 | 三角形の相似条件 |
| 3 辺の長さ | 成立条件 $\lvert b-c\rvert< a< b+c$ | 三角形の成立条件 |
| 辺と角の大小 | 大きい辺の向かいに大きい角がある | 三角形の辺と角の大小 |
| 二等辺三角形 | 底角は等しい | 二等辺三角形の底角定理 |
| 辺と角の計算 | 正弦定理、余弦定理 | 正弦定理(高校数学)、余弦定理(高校数学) |
| 面積 | 2 辺と間の角、Heron の公式、座標の公式 | 三角形の面積の公式 |
| 特別な点 | 重心・外心・内心・垂心 | 三角形の重心(高校数学)、三角形の外心、三角形の内心と傍心、三角形の垂心 |
このうち、内角の和・外心の存在・三平方の定理などは平行線公準を使う。3 辺、2 辺とその間の角、1 辺とその両端の角による合同条件と、辺と角の大小、thm-trh-acute は平行線公準を使わない(平行線公準(高校数学)、三角形の合同条件)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 3 点が一直線上にない | ex-trh-cx-collinear | どの 2 辺の和も残りの 1 辺より長い |
| 直線がどの頂点も通らない | ex-trh-cx-vertex | 辺 $BC$ と辺 $CA$ のちょうど一方と交わる(thm-trh-pasch) |
| 図形が三角形である(四角形にする) | ex-trh-cx-dart | 1 辺と交わる直線は、残りのちょうど 1 辺と交わる |
| 平面の上にある(球面にする) | ex-trh-cx-sphere | 鋭角が少なくとも 2 つある(thm-trh-acute) |
$A(0,0)$、$B(1,0)$、$C(3,0)$ は $x$ 軸の上に並び、prop-trh-collinear の $D$ は $1\cdot0-0\cdot3=0$ である。3 本の線分の長さは $AB=1$、$BC=2$、$CA=3$ で、$AB+BC=CA$ となり、「2 辺の和は残りの 1 辺より長い」が等号になって成り立たない(三角形の成立条件 の例「反例:等号を許すとつぶれる」)。3 本の線分は重なり、囲まれる部分がない。
ex-trh-start の三角形 $A(0,0)$、$B(4,0)$、$C(1,3)$ と、$C$ と辺 $AB$ の点 $(2,0)$ を通る直線 $\ell\colon 3x+y=6$ を考える。$\ell$ は辺 $AB$ と $(2,0)$ で交わるが、頂点 $C$ は辺 $BC$ と辺 $CA$ の両方の端なので、$\ell$ は辺 $BC$ とも辺 $CA$ とも $C$ で交わる。「ちょうど一方」が成り立たない。prf-trh-pasch では $f(C)=0$ となり、段 3 の符号の議論が使えない。
4 点 $A(0,0)$、$B(2,1)$、$C(4,0)$、$D(2,3)$ を順に結ぶ四角形 $ABCD$ を考える(矢じりの形で、$B$ の内側の角が $180^\circ$ より大きい。図 2)。どの 3 点も一直線上になく、向かい合う辺は交わらない。直線 $y=\dfrac12$ はどの頂点も通らず、4 本の辺すべてと交わる。
矢じりの形の四角形 ABCD と直線 y = 1/2。直線は 4 本の辺すべてと交わる
半径 $1$ の球面の 3 点 $X(1,0,0)$、$Y(0,1,0)$、$Z(0,0,1)$ を大円の弧で結んだ三角形は、3 つの角がすべて $90^\circ$ である(三角形の内角の和 の例「反例:球面の上の直角が 3 つある三角形」)。鋭角は 1 つもない。球面では 2 つの角の和が $180^\circ$ 以上になりうるので、prf-trh-acute が使えない。
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