Eulerの三角形の定理(Euler's triangle formula)とは、三角形の外心 $O$ と内心 $I$ の距離が、外接円の半径 $R$ と内接円の半径 $r$ だけで $OI^2=R^2-2Rr$ と表されるという定理である。$\angle A$ の二等分線が外接円ともう一度交わる点 $M$ について $MB=MC=MI$ が成り立ち、内心を通る弦 $AM$ に方べきの定理を使うと、方べき $OI^2-R^2$ が $-AI\cdot IM=-2Rr$ に等しいことから示せる。外心を原点にとって内心の位置ベクトルの長さを計算しても示せる。系として、どの三角形でも $R\ge2r$(Euler の不等式)が成り立ち、等号は正三角形のときに限る。傍心 $I_A$ と傍接円の半径 $r_a$ については $OI_A^2=R^2+2Rr_a$ となる。
前提知識: 三角形の内心と傍心, 方べきの定理(高校数学), 正弦定理(高校数学), 円に内接する四角形
三角形 $ABC$ には、外接円(中心は外心 $O$、半径 $R$)と内接円(中心は内心 $I$、半径 $r$)がある。2 つの円の中心の距離 $OI$ は、三角形の形によっていろいろに変わりそうに見える。まず 2 つの三角形で計算してみる。この記事では、辺の長さを $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$、$s=\frac{a+b+c}2$、面積を $S$ と書く。
$A(0,3)$、$B(4,0)$、$C(0,0)$ とする。$a=4$、$b=3$、$c=5$ で、$\angle C=90^\circ$ である。
$A(5,12)$、$B(0,0)$、$C(14,0)$ とする。$a=14$、$b=15$、$c=13$ である。
2 つの三角形はまったく違う形なのに、どちらも $OI^2=R^2-2Rr$ となった。$OI$ は、辺の長さや角の大きさを直接見なくても、2 つの半径 $R$、$r$ だけで決まるらしい。これが Euler の三角形の定理 である。
3 辺 13, 14, 15 の三角形の外接円(灰色)と内接円(青)。紫の短い線分が外心 $O$ と内心 $I$ の距離。$\angle A$ の二等分線(赤の一点鎖線)が外接円ともう一度交わる点を $M$ とすると、$M$ を中心とする円(緑の破線)が $B$、$C$、$I$、傍心 $I_A$ を通ることを見る図。
次の問いが出てくる。
| 高校の計算 | この記事での見方 | ボックス |
|---|---|---|
| 方べきの定理 $PA\cdot PB=PC\cdot PD$ | 内心の方べき $OI^2-R^2$ を、内心を通る弦で計算する | thm-etf-main |
| 円に内接する四角形の対角の和は $180^\circ$ | 弧の中点 $M$ から $B$、$C$、$I$ が等距離 | lem-etf-trillium |
| 正弦定理 $\frac a{\sin A}=2R$ | 弦 $MB$ の長さ $2R\sin\frac A2$ | lem-etf-lengths |
| 相加平均と相乗平均の不等式 | $R\ge2r$ を辺の長さで書き直して示す | prop-etf-amgm |
| 内心 $\frac{a\vec a+b\vec b+c\vec c}{a+b+c}$ | 重み付きの平均と外接円の半径 | prf-thm-etf-main-vector |
証明の鍵は、$\angle A$ の二等分線が外接円ともう一度交わる点 $M$ である。
三角形 $ABC$ の外接円を $\Gamma$ とする。直線 $AI$($\angle A$ の二等分線)が $\Gamma$ と交わる点のうち、$A$ でないほうを $M$ とする。
直線 $AI$ は $\Gamma$ の上の点 $A$ を通るので、$\Gamma$ とちょうど 2 点で交わるか、$A$ で接するかのどちらかである(方べきの定理(高校数学) の「直線と円の交点」)。次の補題の段 1 で、2 点で交わることがわかる。
$\angle A$ の二等分線が辺 $BC$ と交わる点を $L$ とする。直線 $AI$ の上で、4 点は $A$、$I$、$L$、$M$ の順に並び、$M$ は直線 $BC$ について $A$ と反対側にある。
方針:$I$ が線分 $AL$ の上にあることを位置ベクトルで確かめ、$L$ が円の内部にあることから $M$ の位置を決める。
段 1($L$ と $M$)。角の二等分線の定理 により $L$ は線分 $BC$ を $c:b$ に内分する点で、$\vec l=\frac{b\vec b+c\vec c}{b+c}$ である。$L$ は弦 $BC$ の $B$、$C$ 以外の点なので、円 $\Gamma$ の内部にある。$\Gamma$ の中心を $O$ とすると $\operatorname{pow}_\Gamma(L)=OL^2-R^2<0$ である。直線 $AL$ は内部の点 $L$ を通るので $\Gamma$ と 2 点で交わる(接線は円の内部の点を通らない)。その 2 点が $A$ と $M$ である。方べきの定理 $\overrightarrow{LA}\cdot\overrightarrow{LM}=\operatorname{pow}_\Gamma(L)<0$(方べきの定理(高校数学))により、$\overrightarrow{LA}$ と $\overrightarrow{LM}$ は逆向きで、$L$ は $A$ と $M$ の間にある。$L$ は直線 $BC$ の上にあり、$A$ は直線 $BC$ の上にないので、$M$ は直線 $BC$ について $A$ と反対側にある。
段 2($I$ の位置)。内心は $\vec i=\frac{a\vec a+b\vec b+c\vec c}{a+b+c}$ である(三角形の内心と傍心)。$b\vec b+c\vec c=(b+c)\vec l$ なので
$$
\vec i=\frac{a\vec a+(b+c)\vec l}{a+b+c}
$$
と書ける。係数 $\frac a{a+b+c}$ と $\frac{b+c}{a+b+c}$ はどちらも正で、和は $1$ なので、$I$ は線分 $AL$ の $A$、$L$ 以外の点である。段 1 と合わせて、並び順は $A$、$I$、$L$、$M$ である。$\square$
def-etf-arc-midpoint の点 $M$ について
$$
MB=MC=MI
$$
である。
要点:$\angle A=A$、$\angle B=B$ と書く。$MB=MC$ は、弦 $MB$、$MC$ がどちらも大きさ $\frac A2$ の円周角に対する弦なので、正弦定理から出る(段 1)。$MB=MI$ は、三角形 $MBI$ の $B$ と $I$ における角がどちらも $\frac A2+\frac B2$ になり、二等辺三角形になることから出る(段 2〜段 5)。
段 1($MB=MC$)。三角形 $ABM$ の外接円は $\Gamma$ なので、正弦定理(正弦定理(高校数学))により $MB=2R\sin\angle BAM$ である。$\angle BAM=\angle BAI=\frac A2$ である(lem-etf-position により $M$ は半直線 $AI$ の上にある)。同じく三角形 $ACM$ で $MC=2R\sin\angle CAM=2R\sin\frac A2$ である。よって $MB=MC$ である。
段 2($\angle MBC$)。lem-etf-position により $A$ と $M$ は直線 $BC$ について反対側にあるので、四角形 $ABMC$ は円 $\Gamma$ に内接する四角形で、$A$ と $M$ は向かい合う頂点である。対角の和は $180^\circ$ なので(円に内接する四角形)、$\angle BMC=180^\circ-A$ である。段 1 から三角形 $MBC$ は $MB=MC$ の二等辺三角形なので、底角は$$\angle MBC=\frac{180^\circ-(180^\circ-A)}2=\frac A2$$である。
段 3($\angle MBI$)。$I$ と $M$ は直線 $BC$ について反対側にあり($I$ は $A$ と同じ側)、線分 $IM$ は直線 $BC$ と点 $L$ で交わる。$L$ は線分 $BC$ の上にあるので、半直線 $BC$ は $\angle IBM$ の内側を通る。したがって$$\angle MBI=\angle MBC+\angle CBI=\frac A2+\frac B2$$である($BI$ は $\angle B$ の二等分線)。
段 4($\angle MIB$)。$M$ は半直線 $AI$ を $I$ の先に延ばした部分にあるので、$\angle MIB$ は三角形 $ABI$ の $I$ における外角である。外角はとなりにない 2 つの内角の和なので$$\angle MIB=\angle IAB+\angle IBA=\frac A2+\frac B2$$である。
段 5(結論)。段 3・段 4 から、三角形 $MBI$ は $\angle MBI=\angle MIB$ の二等辺三角形で、$MB=MI$ である。段 1 と合わせて $MB=MC=MI$ である。$\square$
この補題は、$M$ を中心とする円が $B$、$C$、$I$ を通ることを言っている(図 1 の緑の破線)。$M$ は、$A$ を含まない弧 $BC$ の中点である(段 1 で $MB=MC$)。
この円は傍心 $I_A$ も通る。つまり $MI_A=MI$ である。理由を順に述べる。傍心 $I_A$ は $\angle B$ の外角の二等分線の上にあり(三角形の内心と傍心)、$BI$ は $\angle B$ の内角の二等分線である。内角 $B$ とその外角 $180^\circ-B$ は合わせて $180^\circ$ なので、2 本の二等分線のなす角は $\frac B2+\frac{180^\circ-B}2=90^\circ$ で、$\angle IBI_A=90^\circ$ である。同じ理由で $\angle ICI_A=90^\circ$ である。線分 $II_A$ の中点を $K$ とする。直角三角形の斜辺の中点は 3 つの頂点から等距離なので(斜辺を直径とする円が直角の頂点を通る)、直角三角形 $IBI_A$ から $KB=KI=KI_A$、直角三角形 $ICI_A$ から $KC=KI$ である。よって $K$ は $B$、$C$、$I$ から等距離にある。$I$ は三角形の内部にあり、直線 $BC$ の上にないので、$B$、$C$、$I$ は一直線上になく、この 3 点から等距離の点は三角形 $BCI$ の外心ただ 1 つである。lem-etf-trillium により $M$ もこの 3 点から等距離なので、$K=M$ である。したがって $MI_A=KI_A=KI=MI$ である。ex-etf-trillium で 2 つの三角形について座標でも確かめる。
最後に、証明で使う 2 つの長さを正弦で書いておく。
$$
AI=\frac r{\sin\frac A2},\qquad IM=2R\sin\frac A2,\qquad AI\cdot IM=2Rr
$$
である。
方針:$AI$ は、内接円の接点を使った直角三角形で求める。$IM$ は lem-etf-trillium で $MB$ に置き換える。
段 1($AI$)。内接円が辺 $AB$ に接する点を $Z$ とする。$IZ\perp AB$、$IZ=r$ で、$Z$ は線分 $AB$ の上にある(三角形の内心と傍心)。直角三角形 $AZI$ の $A$ における角は $\angle IAB=\frac A2$ なので、$\sin\frac A2=\frac{IZ}{AI}=\frac r{AI}$、すなわち $AI=\frac r{\sin\frac A2}$ である。
段 2($IM$)。lem-etf-trillium と prf-lem-etf-trillium の段 1 により $IM=MB=2R\sin\frac A2$ である。
段 3(積)。$AI\cdot IM=\frac r{\sin\frac A2}\cdot2R\sin\frac A2=2Rr$ である($0^\circ<\frac A2<90^\circ$ なので $\sin\frac A2\ne0$)。$\square$
積 $AI\cdot IM$ から角 $A$ が消えて、$R$ と $r$ だけが残った。これが thm-etf-main で方べきの定理と結びつく。
三角形 $ABC$ の外心を $O$、外接円の半径を $R$、内心を $I$、内接円の半径を $r$ とすると
$$
OI^2=R^2-2Rr
$$
である。
1 つ目の証明は、方べきの定理を内心 $I$ に使う。$I$ を通る弦 $AM$ の 2 つの部分の積が、lem-etf-lengths で $2Rr$ と計算してある。
方針:内心 $I$ の外接円 $\Gamma$ に関する方べき $OI^2-R^2$ を、$I$ を通る直線 $AI$ で計算する。
段 1($I$ は円の内部)。lem-etf-position により、直線 $AI$ と $\Gamma$ の交点は $A$ と $M$ で、$I$ は $A$ と $M$ の間にある。
段 2(方べき)。方べきの定理(高校数学) の符号つきの形により
$$
\overrightarrow{IA}\cdot\overrightarrow{IM}=OI^2-R^2
$$
である。段 1 から $\overrightarrow{IA}$ と $\overrightarrow{IM}$ は逆向きなので、左辺は $-IA\cdot IM$ である。
段 3(結論)。lem-etf-lengths により $IA\cdot IM=2Rr$ なので、段 2 は $-2Rr=OI^2-R^2$ となり、$OI^2=R^2-2Rr$ である。$\square$
2 つ目の証明は、外心を原点にとって内心の位置ベクトルの長さを直接計算する。角や補助の点を使わない。
要点:外心 $O$ を原点にとると、内心は $\vec i=\frac{a\vec a+b\vec b+c\vec c}{a+b+c}$(三角形の内心と傍心)である。$\lvert\vec a\rvert=\lvert\vec b\rvert=\lvert\vec c\rvert=R$ と $\vec a\cdot\vec b=R^2-\frac{c^2}2$ などを使って $\lvert\vec i\rvert^2$ を展開すると $OI^2=R^2-\frac{abc}{2s}$ となり、面積の 2 つの式 $S=\frac{abc}{4R}=rs$ から $\frac{abc}{2s}=2Rr$ である。
段 1(内積を辺の長さで書く)。$\lvert\vec a\rvert=\lvert\vec b\rvert=\lvert\vec c\rvert=R$ である。$c^2=\lvert\vec a-\vec b\rvert^2=\lvert\vec a\rvert^2-2\vec a\cdot\vec b+\lvert\vec b\rvert^2=2R^2-2\vec a\cdot\vec b$ なので$$\vec a\cdot\vec b=R^2-\frac{c^2}2,\qquad\vec b\cdot\vec c=R^2-\frac{a^2}2,\qquad\vec c\cdot\vec a=R^2-\frac{b^2}2$$である(後の 2 つも同じ計算)。
段 2(展開)。内積の分配法則で展開し、段 1 を入れる。$$\begin{aligned} \lvert a\vec a+b\vec b+c\vec c\rvert^2 &=a^2R^2+b^2R^2+c^2R^2+2ab\,\vec a\cdot\vec b+2bc\,\vec b\cdot\vec c+2ca\,\vec c\cdot\vec a\\ &=R^2(a^2+b^2+c^2)+2ab\Bigl(R^2-\frac{c^2}2\Bigr)+2bc\Bigl(R^2-\frac{a^2}2\Bigr)+2ca\Bigl(R^2-\frac{b^2}2\Bigr)\\ &=R^2(a^2+b^2+c^2+2ab+2bc+2ca)-(abc^2+a^2bc+ab^2c)\\ &=R^2(a+b+c)^2-abc(a+b+c) \end{aligned}$$である。
段 3($OI^2$)。段 2 を $(a+b+c)^2$ で割って$$OI^2=\lvert\vec i\rvert^2=R^2-\frac{abc}{a+b+c}=R^2-\frac{abc}{2s}$$である。
段 4($abc$ を $R$、$r$ で書く)。面積について $S=\frac{abc}{4R}$(三角形の面積の公式。正弦定理から出る)と $S=rs$(三角形の内心と傍心)が成り立つ。よって $abc=4RS=4Rrs$ で、$\frac{abc}{2s}=2Rr$ である。段 3 に入れて $OI^2=R^2-2Rr$ を得る。$\square$
$OI^2$ は 0 以上なので、thm-etf-main からすぐに不等式が出る。
どの三角形でも
$$
R\ge2r
$$
である。等号が成り立つのは、正三角形のときに限る。
方針:thm-etf-main の左辺が $0$ 以上であることを使い、等号は $O=I$ と言いかえる。
段 1(不等式)。$0\le OI^2=R^2-2Rr=R(R-2r)$ で、$R>0$ なので $R-2r\ge0$ である。
段 2(等号)。$R=2r$ は $OI^2=0$、つまり $O=I$ と同じである。三角形の五心 の「2 つの心が一致すれば正三角形」により、$O=I$ となるのは正三角形のときに限り、正三角形ではたしかに $O=I$ である。$\square$
$R\ge2r$ は、辺の長さの不等式に直して、相加平均と相乗平均の不等式で示すこともできる。このやり方は thm-etf-main を使わない。
$x=s-a$、$y=s-b$、$z=s-c$ とおくと、$x,y,z>0$、$a=y+z$、$b=z+x$、$c=x+y$ で
$$
\frac R{2r}=\frac{(y+z)(z+x)(x+y)}{8xyz}\ge1
$$
である。等号は $x=y=z$、つまり $a=b=c$ のときに限る。
要点:$R=\frac{abc}{4S}$、$r=\frac Ss$ と Heron の公式 $S^2=sxyz$ から $\frac R{2r}=\frac{(y+z)(z+x)(x+y)}{8xyz}$ となる。$y+z\ge2\sqrt{yz}$ などの 3 つの不等式(相加平均と相乗平均の不等式)を辺々掛けると、この比は $1$ 以上である。等号は 3 つの不等式がすべて等号のとき、つまり $x=y=z$ のときに限る。
段 1($x,y,z$)。三角形の成立条件 $b+c>a$ から $x=\frac{b+c-a}2>0$ である。$y,z$ も同じである。$y+z=(s-b)+(s-c)=2s-b-c=a$ で、$b$、$c$ も同じである。
段 2(比を辺で書く)。$R=\frac{abc}{4S}$、$r=\frac Ss$ なので(三角形の面積の公式、三角形の内心と傍心)$$\frac R{2r}=\frac{abc}{4S}\cdot\frac s{2S}=\frac{abc\,s}{8S^2}$$である。Heron の公式 $S^2=s(s-a)(s-b)(s-c)=sxyz$(三角形の面積の公式、Heronの公式)を入れると $\frac R{2r}=\frac{abc}{8xyz}=\frac{(y+z)(z+x)(x+y)}{8xyz}$ である。
段 3(不等式)。正の数 $y,z$ について $y+z\ge2\sqrt{yz}$ で、等号は $y=z$ のときに限る(相加平均と相乗平均)。同じく $z+x\ge2\sqrt{zx}$、$x+y\ge2\sqrt{xy}$ である。3 つとも両辺が正なので、辺々掛けて$$(y+z)(z+x)(x+y)\ge8\sqrt{yz\cdot zx\cdot xy}=8xyz$$である。
段 4(等号)。段 3 の積で等号が成り立つのは、3 つの不等式がすべて等号のとき、つまり $x=y=z$ のときに限る(どれか 1 つが真の不等号なら、正の数を掛けた積も真の不等号になる)。$x=y=z$ は $a=y+z=b=z+x=c=x+y$ と同じである。$\square$
$a=14$、$b=15$、$c=13$、$s=21$ では $x=7$、$y=6$、$z=8$ である。$(y+z)(z+x)(x+y)=14\cdot15\cdot13=2730$、$8xyz=8\cdot336=2688$ で、比は $\frac{2730}{2688}=\frac{65}{64}$ である。一方、$\frac R{2r}=\frac{65/8}8=\frac{65}{64}$ で一致する。3 辺 3, 4, 5($x=2$、$y=3$、$z=1$)では $\frac{4\cdot3\cdot5}{8\cdot6}=\frac{60}{48}=\frac54=\frac{5/2}2$ である。
$a=y+z$、$b=z+x$、$c=x+y$ という置き換えは、「三角形の 3 辺」という条件のついた 3 つの数を、条件のない 3 つの正の数 $x,y,z$ に取り替える。$x,y,z$ は内接円の接点までの長さである(三角形の内心と傍心 の「接点までの長さ」)。辺の長さの不等式を示すときによく使う(不等式の証明の技法)。
内接円の代わりに傍接円をとると、符号だけが変わる。
三角形 $ABC$ の傍心 $I_A$($\angle A$ の内角の二等分線の上にある傍心)と、その傍接円の半径 $r_a$ について
$$
OI_A^2=R^2+2Rr_a
$$
である。$I_B$、$I_C$ についても同じである。
方針:傍心は $\vec i_A=\frac{-a\vec a+b\vec b+c\vec c}{-a+b+c}$ と書ける(三角形の内心と傍心)。prf-thm-etf-main-vector の $a$ を $-a$ に替えて同じ計算をする。外心 $O$ を原点にとる。
段 1(展開)。prf-thm-etf-main-vector の段 1 の内積を使うと
$$
\begin{aligned}
\lvert -a\vec a+b\vec b+c\vec c\rvert^2
&=R^2(a^2+b^2+c^2)-2ab\,\vec a\cdot\vec b+2bc\,\vec b\cdot\vec c-2ca\,\vec c\cdot\vec a\\
&=R^2(a^2+b^2+c^2)-2ab\Bigl(R^2-\frac{c^2}2\Bigr)+2bc\Bigl(R^2-\frac{a^2}2\Bigr)-2ca\Bigl(R^2-\frac{b^2}2\Bigr)\\
&=R^2(a^2+b^2+c^2-2ab+2bc-2ca)+abc^2-a^2bc+ab^2c\\
&=R^2(-a+b+c)^2+abc(-a+b+c)
\end{aligned}
$$
である。最後の行は $abc^2-a^2bc+ab^2c=abc(c-a+b)$ による。
段 2($OI_A^2$)。$-a+b+c=2(s-a)>0$ で割って
$$
OI_A^2=R^2+\frac{abc}{-a+b+c}=R^2+\frac{abc}{2(s-a)}
$$
である。
段 3($abc$ を書き直す)。$S=r_a(s-a)$(三角形の内心と傍心)と $S=\frac{abc}{4R}$ から $abc=4RS=4Rr_a(s-a)$ なので、$\frac{abc}{2(s-a)}=2Rr_a$ である。$\square$
ex-etf-first の三角形($O\bigl(2,\frac32\bigr)$、$R=\frac52$)の傍心は $I_A(3,-3)$、$I_B(-2,2)$、$I_C(6,6)$、半径は $r_a=3$、$r_b=2$、$r_c=6$ である(三角形の内心と傍心)。
| 傍心 | $O$ からの距離の 2 乗 | $R^2+2R\rho$($\rho$ は傍接円の半径) |
|---|---|---|
| $I_A(3,-3)$ | $1+\frac{81}4=\frac{85}4$ | $\frac{25}4+15=\frac{85}4$ |
| $I_B(-2,2)$ | $16+\frac14=\frac{65}4$ | $\frac{25}4+10=\frac{65}4$ |
| $I_C(6,6)$ | $16+\frac{81}4=\frac{145}4$ | $\frac{25}4+30=\frac{145}4$ |
方べきの定理でも確かめられる。$I_A$ は外接円の外にあり、直線 $AI_A$ は外接円と $A(0,3)$、$M(2,-1)$ で交わる(ex-etf-trillium)。$I_AA^2=9+36=45$、$I_AM^2=1+4=5$ なので $I_AA\cdot I_AM=\sqrt{45}\cdot\sqrt5=15$ で、方べき $OI_A^2-R^2=\frac{85}4-\frac{25}4=15$ に等しい。
内心では方べきが $-2Rr$($I$ は外接円の内部)、傍心では $+2Rr_a$($I_A$ は外接円の外部)である。傍心がいつも外接円の外にあることも、この式からわかる。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 点が内心である(重心に替える) | 外心からの距離の 2 乗が $R^2-2Rr$ | ex-etf-centroid |
| 円が内接円である(傍接円に替える) | 中心と外心の距離の 2 乗が「$R^2-2R\times$(その円の半径)」 | ex-etf-excenter |
| 三角形が正三角形である | $R=2r$(等号) | ex-etf-ratio |
| 2 つの円が 1 つの三角形の外接円と内接円である | 中心間の距離 $d$ について $d^2=R^2-2Rr$ | ex-etf-concentric |
ex-etf-first の三角形の重心は $G=\frac{(0,3)+(4,0)+(0,0)}3=\bigl(\frac43,1\bigr)$ である。$OG^2=\bigl(2-\frac43\bigr)^2+\bigl(\frac32-1\bigr)^2=\frac49+\frac14=\frac{25}{36}$ で、$R^2-2Rr=\frac54$ と一致しない。重心については、Euler線 で示した $OG^2=R^2-\frac{a^2+b^2+c^2}9=\frac{25}4-\frac{50}9=\frac{25}{36}$ が正しい式である。外した仮定:点が内心であること。崩れる主張:$OP^2=R^2-2Rr$。
中心が同じ($d=0$)で、半径が $R=3$ と $r=1$ の 2 つの円を考える。$R^2-2Rr=9-6=3\ne0=d^2$ である。したがって thm-etf-main により、この 2 円を外接円と内接円にもつ三角形はない。直接にも確かめられる。そのような三角形があれば $O=I$ なので正三角形であり(三角形の五心)、cor-etf-inequality の等号の場合として $R=2r$ でなければならないが、$3\ne2$ である。外した仮定:2 つの円が同じ三角形の外接円と内接円であること。崩れる主張:$d^2=R^2-2Rr$。
逆に $d^2=R^2-2Rr$ を満たす 2 円には、いつも三角形がはさまる。これは次の節の Poncelet の閉形定理の三角形の場合である。
prf-thm-etf-main-vector と prf-prop-etf-excenter は、重みが $(a,b,c)$ か $(-a,b,c)$ かの違いしかない。重みを一般にしても同じ計算ができる。
三角形 $ABC$ の外心を $O$、外接円を $\Gamma$ とする。実数 $w_1,w_2,w_3$ が $W=w_1+w_2+w_3\ne0$ を満たすとき、点 $P$ を $\vec p=\frac{w_1\vec a+w_2\vec b+w_3\vec c}W$ で定めると
$$
\operatorname{pow}_\Gamma(P)=OP^2-R^2=-\frac{w_2w_3a^2+w_3w_1b^2+w_1w_2c^2}{W^2}
$$
である。
方針:prf-thm-etf-main-vector の段 1・段 2 を、重み $w_1,w_2,w_3$ で行う。外心を原点にとる。
段 1。prf-thm-etf-main-vector の段 1 の内積を使うと
$$
\begin{aligned}
\lvert w_1\vec a+w_2\vec b+w_3\vec c\rvert^2
&=R^2(w_1^2+w_2^2+w_3^2)+2w_1w_2\Bigl(R^2-\frac{c^2}2\Bigr)+2w_2w_3\Bigl(R^2-\frac{a^2}2\Bigr)+2w_3w_1\Bigl(R^2-\frac{b^2}2\Bigr)\\
&=R^2W^2-(w_2w_3a^2+w_3w_1b^2+w_1w_2c^2)
\end{aligned}
$$
である($w_1^2+w_2^2+w_3^2+2w_1w_2+2w_2w_3+2w_3w_1=W^2$)。
段 2。両辺を $W^2$ で割ると $OP^2=R^2-\frac{w_2w_3a^2+w_3w_1b^2+w_1w_2c^2}{W^2}$ で、$R^2$ を移項すれば主張を得る。$\square$
| 重み $(w_1,w_2,w_3)$ | 点 $P$ | $OP^2$ |
|---|---|---|
| $(a,b,c)$ | 内心 $I$ | $R^2-\frac{abc(a+b+c)}{(a+b+c)^2}=R^2-2Rr$ |
| $(-a,b,c)$ | 傍心 $I_A$ | $R^2+\frac{abc(-a+b+c)}{(-a+b+c)^2}=R^2+2Rr_a$ |
| $(1,1,1)$ | 重心 $G$ | $R^2-\frac{a^2+b^2+c^2}9$(Euler線) |
| $(1,1,0)$ | 辺 $AB$ の中点 | $R^2-\frac{c^2}4$(三平方の定理と同じ) |
最後の行は、弦 $AB$ の中点から中心までの距離の 2 乗が $R^2-\bigl(\frac c2\bigr)^2$ であることと一致する。ex-etf-first の三角形で重心の行を確かめると $\frac{25}4-\frac{16+9+25}9=\frac{25}{36}$ で、ex-etf-centroid と一致する。
prop-etf-weighted により、点 $P$ が外接円の上にあることは
$$
w_2w_3a^2+w_3w_1b^2+w_1w_2c^2=0
$$
と同じである。$(w_1:w_2:w_3)$ を点 $P$ の 重心座標 といい(三角形の五心、重心座標)、この式は重心座標で書いた外接円の方程式である。方べきは重心座標の 2 次式になっている。Euler の定理は、この 2 次式に内心の重心座標 $(a:b:c)$ を入れた値にすぎない、と見ることができる。
thm-etf-main は、「外接円と内接円の中心の距離 $d$ は $d^2=R^2-2Rr$ を満たす」という必要条件である。じつは逆も成り立ち、しかも三角形は 1 つではない。
半径 $R$ の円 $\Gamma$ の内部に半径 $r$ の円 $\gamma$ があり、中心間の距離 $d$ が $d^2=R^2-2Rr$ を満たすとする。このとき $\Gamma$ の上の どの点 $P$ から始めても、次の手順で三角形が閉じる:$P$ から $\gamma$ に 2 本の接線を引き、それが $\Gamma$ ともう一度交わる点を $Q$、$Q'$ とすると、線分 $QQ'$ も $\gamma$ に接する。つまり三角形 $PQQ'$ は $\Gamma$ に内接し、$\gamma$ に外接する。
これは Poncelet の閉形定理(Poncelet の porism)の三角形の場合で、thm-etf-main はそのもっとも簡単な場合の条件にあたる(Wei26a、Wei26b)。本記事では証明しない。一般には、$\gamma$ と $\Gamma$ が 2 次曲線(円や楕円)で、$n$ 角形の場合にも「1 つの点から始めて閉じれば、どの点から始めても閉じる」という形で成り立つ(Ponceletの閉形定理)。$n$ 角形が閉じる条件は、楕円関数を使って表される(Wei26b)。
外側の円(半径 $\frac52$、中心 $O$)と内側の円(半径 $1$、中心 $I$)は、中心間の距離の 2 乗が $\frac54=R^2-2Rr$ を満たす(3 辺 3, 4, 5 の三角形の外接円と内接円)。外側の円の 4 つの点(色の点)から始めて接線を引くと、どれも三角形として閉じることを見る図(数値計算で 3 本目の辺が内側の円に接することを確かめた)。
$R=3$、$r=1$ とすると $d^2=R^2-2Rr=3$ である(ex-etf-concentric の同心の 2 円とは違い、中心をずらす)。中心 $O(0,0)$・半径 $3$ の円 $\Gamma$ と、中心 $J(0,-\sqrt3)$・半径 $1$ の円 $\gamma$ を考える。$OJ=\sqrt3$ である。
$A(0,3)$ を頂点とし、直線 $y=-1-\sqrt3$ の上に底辺をもつ二等辺三角形をとる。$9-(1+\sqrt3)^2=9-4-2\sqrt3=5-2\sqrt3>0$ なので、底辺の両端 $B\bigl(-\sqrt{5-2\sqrt3},\ -1-\sqrt3\bigr)$、$C\bigl(\sqrt{5-2\sqrt3},\ -1-\sqrt3\bigr)$ は $\Gamma$ の上にある。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する